インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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海上の激戦 Sixth Episode

「それで、帰ってきたわけ?ステラを置いて?」

 

砂浜のマスドライバーの脇で、鈴が箒の胸ぐらを掴んで壁に押し付けていた。

 

「あぁ、そうだ……」

 

「ふざけんじゃないわよ!アンタ、何したか分かってんの?!」

 

「やめろ鈴!箒は悪くない!」

 

激昴する鈴を数馬が宥めようと腕を掴んだが、鈴はそれを乱暴に振りほどいた。

 

「悪いわよ!一夏に怪我させて、ステラを置いて来て!コイツのどこが悪くないって言うの?!」

 

鈴の感情は、ブレーキを無くしたかの様に溢れ出す。鈴はそれを自覚しながらも、止めなかった。

 

「コイツがあの場面で調子に乗らなきゃ、こんな事にはならなかったでしょ!」

 

それは、ステラが数馬と話していた時に起こった事。

 

 

…………………………

 

 

「加勢する!」

 

「箒は援護頼む!」

 

「任せろ!」

 

二人は息の合った攻撃で、福音(ゴスペル)を追い込んでいた。だが、それもつかの間だった。

 

「箒!そっちに行った!」

 

「あぁ!」

 

一夏の言葉に反応して、箒は紅椿のメイン武装の雨月(あまづき)空裂(からわれ)展開し、斬り掛かる。だが、それはいとも簡単に躱された。

 

「クッ!ならばこれで!」

 

「箒、待て!」

 

箒は空裂の能力で斬撃を飛ばそうとした。だが、そこで一夏がそれを止めた。

 

「なんだ!何故止める!」

 

「海に船がいるんだ!もし当たらなかったら当たっちまう!」

 

一夏が指をさした方向には、漁船サイズの船が一隻だけ漂っていた。

 

「今ここは封鎖されている!どうせ密漁船だ!放っておけ!」

 

「何言ってんだ!人が乗ってんだぞ!」

 

「あんな不逞の輩に構う暇は無い!」

 

「そんな事、っ!箒!避けろ!」

 

「ハッ?!」

 

福音(ゴスペル)が二人の言い争いを待っている筈もなく、近くにいた箒へと銀の鐘(シルバー・ベル)と呼ばれるエネルギー弾を撃ち込んだ。

 

「箒!間に合えぇ!」

 

一夏は瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使い、箒と福音(ゴスペル)の間に割り込んだ。

 

ドカアァァァァァァン!

 

「一夏ーーーー!」

 

 

…………………………

 

 

「……それでも、俺達は箒を責められない」

 

先の戦いの事を思い出して、少し黙った後に、静かに言った。

 

「なんで!」

 

冷静な数馬に痺れを切らして、鈴は箒を突き放して数馬の胸ぐらを掴もうとしたが、数馬がその腕を掴んで止めた。

 

「俺達は戦ってすらいないんだぞ!その俺達が、戦いに身を投じた者を責めるのは、筋違いだ」

 

「そんなの…………」

 

鈴は、砂浜に崩れ落ちた。

 

「じゃあ、この怒りは、誰に向ければいいの?」

 

「…………二人とも来い」

 

「数馬?」

 

数馬は一度驚いた様な表情をして、二人に聞こえるくらいの声で言った。

 

「千冬さんが呼んでる」

 

数馬は振り返らずに歩く。それを見て、鈴も立ち上がって歩き出したが、ふと振り返って箒を見下ろした。

 

「来るかどうかはあんた次第よ。もし、心に悔しさや後悔が残っているなら、来る事を勧めるわ」

 

鈴はその言葉を残して、旅館へと向かって行った。

 

「…………………私は、戦っていいのか?私に、後悔する権利なんて、あるのか?」

 

 

…………………………

 

 

「………全員集まったか」

 

「はい」

 

千冬の問いに、数馬が答える。

 

「篠ノ之はどうした」

 

「あいつはまだ来ません」

 

「まだ、か」

 

数馬の言葉に、千冬は少し考える様な表情をした後に、いつもの表情に戻った。

 

「今回お前達を招集したのは他でもない、ギンギラからの連絡があったからだ」

 

「っ!一体どんな!」

 

「落ち着けよ」

 

千冬に詰め寄ろうとした鈴を、弾が制止する。

 

「敵の詳細な情報と、作戦だ」

 

「作戦、ですの?」

 

千冬の言葉に、セシリアが疑問の声をあげた。

 

「……ステラが暴走状態に入る前に、辛うじて考えていた作戦だ」

 

「教官!聞かせて下さい!」

 

「その為に集めたんだ」

 

千冬は大きなモニターに、二つの資料を映し出した。

 

「右側が、福音(ゴスペル)の詳細な情報だ」

 

「え?しかし、作戦開始前はここまで詳しい物は国防的に見せられないと」

 

「生徒がここまでやられて、私が黙っていると思うか?」

 

千冬の声に、全員が怯えた。その声に、明らかな怒りと殺意が見えたからだ。

 

「とにかく、それは後回しだ。今はこっちだ」

 

千冬はそう言うと、もう一つの資料を拡大して映した。

 

「ステラが考えたのは、ギンギラのエネルギーの全てを費やして作ったエネルギーのフィールドに福音(ゴスペル)を閉じ込める。それは長くて一時間、短くて三十分程閉じ込めておける様だ。だがギンギラの備考によると、今の福音(ゴスペル)であれば二十分が限度らしい」

 

「たったの二十分、ですか?」

 

「それだけで、必要な戦力を揃えて出撃なんて、無理じゃない!」

 

千冬を通して伝えられたステラの作戦に、全員が絶望に染まった。

 

「…………GNアームズだ」

 

その時、弾が顔を上げながら言った。

 

「GNアームズ?なんだそれは」

 

「エクシアのサポートユニットだよ。束さんが作ってくれたんだ。あれなら一番早く着けて、時間稼ぎも出来る」

 

弾の言葉に、全員が驚愕した。

 

「本当か?!」

 

「本当だよ。さっき最終調整が終わった。強襲用コンテナも取り付けた。行くならもう行けるよ」

 

突然部屋に入って来た束に、全員が驚いた。だが次の瞬間、束を含めた全員が更に驚愕に染まることとなる。

 

「織斑先生!ギンギラさんの反応が消えました!」

 

真耶の言葉に、誰もが耳を疑った。

 

「なに?!今すぐ通信を繋げ!」

 

「もう何度も試みてます!ですが!繋がりません!」

 

「貸せ!私がやる!」

 

千冬は真耶からインカムを奪い取り、自分の耳に当てた。

 

「おいギンギラ!ターナー!応答しろ!おい!ステラ!」

 

千冬はだんだんと焦り始め、呼び方も普段通りに戻っていた。

 

「頼む、応答してくれ!ステラ!」

 

ザザッ、ザーーッ

 

その時、インカムから小さくノイズ音が鳴った。

 

〈千冬、さん?〉

 

「っ?!ステラか!無事なのか!」

 

〈千冬さん、ごめんね?〉

 

「何故だ!何故謝る!」

 

〈私………………勝てなかった〉

 

ブツッ

 

ステラの言葉を最後に、通信は途絶えた。

 

「……………」

 

千冬は、腕をダラっと下げて、インカムを落とした。

 

「………山田君、この場は任せた」

 

「何処へ行くんですか?!」

 

「決まっているだろ」

 

千冬は、スーツのポケットからトリガーを取り出して、握りしめた。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を破壊する」

 

「あれには人が乗ってるんだぞ?!」

 

数馬は、千冬を制止しようと今回の作戦の難易度を上げた最大のポイントを突いた。

 

「だからどうした。アイツは、ステラを殺したかもしれないんだぞ?」

 

だが、千冬の心はその程度の正論で揺らぐ程穏やかではなかった。

 

「だとしても!アンタは知っているだろ。親父がいつも言っていた言葉を」

 

「人を殺すという行為は、どんな理由があろうと皆等しく悪である、か」

 

「そうだ。アンタは今その悪になろうとしてるんだぞ!」

 

数馬はありったけの言葉で千冬を止めようとする。だが、千冬の心が変わることは無かった。それどころか

 

「安心しろ、その必要はない。何故なら」

 

千冬は酷く冷酷な表情で

 

「既に私は人を殺しているからな」

 

ひたすらに冷たく、人一人殺せそうな眼光で数馬を睨んだ。

 

「……………させねぇよ。んな事」

 

数馬は小さく零した。だが、その声は静寂に包まれた室内に、木霊した。

 

「させてたまるか。俺は約束したんだよ、誰にも殺しなんかさせないってな!」

 

数馬はそう言いながら拳を振りかぶった。だがその時。

 

ビーーッ!ビーーッ!ビーーッ!

 

「っ!こちらに接近するISの反応あり!」

 

「話は後だ。今はこっちの対応を急ごう」

 

千冬は瞬時に切り替えて、教師としての織斑千冬に戻った。

 

「ちーちゃん!これ私の作ったコアじゃない!」

 

「ならばデストロの無人機か?」

 

「いえ、生体反応は感知できます」

 

千冬の疑問に、真耶がデータを見ながら答えた。

 

「この状況で未確認機か。偶然にしては出来すぎている。これも奴の計画の内か」

 

「俺が出る。他はステラの救出と福音(ゴスペル)の撃破にまわしてくれ」

 

「勝手に決めるな……と言いたいが、今回作戦の要となる五反田とそのサポートが抜けるのは困るからな。デュノア、お前が御手洗のサポートにつけ」

 

「はい!」

 

数馬の提案に千冬は乗り、シャルロットに声をかけると、シャルロットは待っていたかのように返事をした。

 

「今一度作戦を説明する。五反田、凰、オルコット、ボーデヴィッヒ、更識の五人は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の討伐とターナー、並びにギンギラの救出だ。そして御手洗とデュノアは先程出現した未確認のISへの対応だ」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

「束。いざと言う時は私も出る。それは変わらんぞ」

 

「うん。分かってるよ」

 

千冬は握りしめていたトリガーを仕舞った。

 

「作戦は一刻を争う!動ける者はすぐに動け!」

 

そこからは全員が全力を尽くした。友達や家族同然の者を傷つけられたという事が、彼女らの心に火をつけたのだった。

 

「御手洗、デュノア、お前達は先に出ろ。敵は動きを止めているが、いつ動き出すか分からん」

 

「はい」

 

「分かりました!」

 

数馬とシャルロットは自身のISを身に纏い、マスドライバーとは逆方向の砂浜に飛んだ。

 

「そろそろ遭遇する筈だよ」

 

「分かった」

 

数馬は砂浜に降り立ち、ISのハイパーセンサーで敵を探した。

 

「そんなに探さなくても、俺はここに居るぞ」

 

「っ?!誰?!」

 

振り返ると、そこにはISを纏った一人の人間が立っていた。

 

「今の声、まさか男性操縦者?!」

 

「ご名答。俺は男だ」

 

世界に四人しか居ない筈の男性操縦者の、五人目が目の前にいる。その事実だけでシャルロットの心に焦りが生じた。

 

「…………何でだ。何でアンタがそこにいる」

 

「数馬?」

 

そんなシャルロットを他所に、数馬は敵を睨んだ。

 

「久しぶりだな、数馬。大きくなったな」

 

「知り合い、なの?」

 

シャルロットの声は、今の数馬に届かない。

 

「何でアンタがそこにいるんだよ!」

 

数馬は尚も叫ぶ。そして、数馬が次の叫びをあげると共に、敵は顔を覆っていた装甲を解除した。

 

「なんでだ!親父!」

 

男の名前は、御手洗 荘吉。数馬の父親だった。


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