インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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今回評価をつけて下さった「檜/HINOKI」さん。ありがとうございます!


海上の激戦 Fifth Episode

「ギンギラ!」

 

「白式!」

 

「紅椿!」

 

砂浜に、一人の少年と二人の少女が立つ。三人の体は光に包まれ、やがてISを身にまとった。

 

〈三人共聞こえるか。作戦の最終確認だ〉

 

三人の耳に響いたのは、千冬の声だった。千冬は冷静な声で、三人に作戦を伝えた。

 

〈篠ノ之は織斑と白式をポイントまで運び、ターナーは簡易ブースターでポイントまで移動。敵機と遭遇した場合、そのままお前達の判断で戦闘を開始しろ〉

 

千冬は一拍置き、静かに続けた。

 

〈お前達子供に戦いを強いてすまない。だが、ここでお前達が負ければ多くの命を危険に晒し、最悪の場合死者が出る!それだけはなんとしても避けなければならない。だから、頼んだぞ〉

 

「了解!」

 

「おう!」

 

「はい!」

 

千冬の声に、三人は一気に気合いを入れた。

 

「ステラ・ターナー!」『ギンギラ!』

「『出ます!』」

 

「織斑 一夏!白式!行きます!」

 

「篠ノ之 箒!紅椿!参る!」

 

三人の雄叫びと共に、ISは飛びたった。

 

「別に今のいらなかったんじゃ」

 

その姿を見ながら、鈴は呟いた。それに後ろで弾と簪が飽きれた様な声で言った。

 

「あのな、あーいうのは気持ちの問題なんだよ」

 

「そう。あれがあるのと無いのじゃ、登場の時の迫力に差がある」

 

「あっそ」

 

鈴は尚も三人が飛びたった方を見る。だがそこにはもうただ二つの光の線が見えるだけだった。

 

「私達も準備するわよ!」

 

「おう」

 

「うん」

 

別働隊である三人は、砂浜に仮設されたマスドライバーに設置された青いコンテナの様な物の整備を始めた。

 

 

…………………………

 

 

「一夏、箒。そろそろ遭遇予測ポイントだよ」

 

「あぁ、分かった」

 

「絶対に守るぞ。俺達の後ろの命」

 

「当然」

 

三人は高速で飛行しながら、互いに士気を高め合った。

 

『っ!マスター、超高速でこちらに向かうISの反応が一つ!銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)です!』

 

「分かった!箒、止まって!」

 

「了解!」

 

ステラの声を聞き、箒は空中で急停止した。

 

「あれが福音か」

 

「みたいだね。一夏、準備はいい?」

 

「いつでもいいぞ!箒!」

 

「行けっ!一夏!」

 

「おう!」

 

紅椿に捕まるようにしていた一夏が、真っ直ぐ福音(ゴスペル)の元へ飛んで行く。福音(ゴスペル)も接近する一夏に気付いたのか、真っ直ぐ一夏の方へ向かって行く。

 

「っ!喰らえ!」

 

一夏が零落白夜を発動させた雪片弐型を振るう。しかし、その渾身の一撃は福音(ゴスペル)にいとも簡単に躱されてしまう。

 

「外した!くっ!」

 

「……………!」

 

一夏の剣を躱した福音(ゴスペル)は、そのまま回転し、無数の光弾を放った。

 

「うおっとっと!」

 

一夏は自分に直撃するであろう光弾を、雪片弐型で打ち払うと、後退し、箒とステラの傍に寄った。

 

「ステラ!頼む!」

 

「分かってるって!ギンギラ!」

 

『はい!フリーダムカノン!』

 

ギンギラの声と共に、ギンギラの背部と腰部に砲台が現れた。

 

「行っけぇー!」

 

ステラの叫びで、四つの砲門からビームが放たれる。

 

「…………っ!」

 

福音(ゴスペル)は自身の光の翼で体を覆うとそのままステラの攻撃を受け、爆煙があがった。

 

「やったか!」

 

箒は勝利を確信し、拳を握った。だが、爆煙を切り裂いてゴスペルは襲いかかってきた。

 

「クッ!一夏と箒は下がって!コイツは私が食い止める!」

 

「でも!」

 

「いいから!それと千冬さんに連絡して応援を呼んで。私一人じゃ、長くはもたないから!」

 

ステラはそう言いながら高速で迫る福音ゴスペルに向かって飛んだ。

 

「ギンギラ!チェンジ!」

 

『はい!ディスティニーソード!』

 

ギンギラが叫ぶと四つの砲台は消えて、手元に水色のブレードの様な物が現れた。そしてブレードは展開して、空白部分にビームが走る。

 

「ハアァ!」

 

ステラはそれを振り、福音(ゴスペル)に斬り掛かる。

 

「クッソ!」

 

ギュンッ!ギュンッ!

 

しかしそれも躱され、ステラは苛立たしげに腕部のビーム砲で福音(ゴスペル)を狙い撃つ。

 

ガキンッ!

 

『マスター。シフトの使用を提案します』

 

「うん。確かにこのままじゃ、ジリ貧だし、ね!」

 

ステラは一度距離をとると、ディスティニーソードを構え直した。

 

「シフト、スピード、パワー!」

 

ギンッ!

 

その瞬間、ギンギラは福音(ゴスペル)の視界から消えた。

 

「ハアァ!」

 

ステラはゴスペルの後ろに回り込み、ディスティニーソードを振るった。

 

「………!」

 

だがその瞬間、今度は福音(ゴスペル)がステラの視界から消えた。紫の稲妻を残して。

 

「え?ど、どこに!」

 

ギンッ!

 

「なっ?!」

 

ガンッ!

 

「キャア!」

 

突如ステラの目の前に現れた福音(ゴスペル)は、ステラを殴り飛ばした。

 

「な、なに?!」

 

突然変わった福音(ゴスペル)の動きに、ステラは困惑した。

 

『マスター、エイクリッドの反応です!』

 

「え?!どこから?!」

 

『反応は、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)からです!』

 

「…………え?」

 

ギンギラの言葉に、ステラは間の抜けた声を出した。当然福音(ゴスペル)がその隙を見逃す訳もなく、その拳を振るう。

 

『マスター!』

 

「っ!」

 

すんでのところでギンギラが躱し、福音(ゴスペル)の姿をその目で捉えた。その姿は、本来の福音(ゴスペル)とは異なっていた。

翼の色は紫へと変色し、装甲の所々に黒い鱗の様な物が付いていた。

 

「……なに、あれ」

 

『マスター。照合が完了しました。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にはエイクリッドXの細胞が埋め込まれている様です』

 

「まさか、集大成って………っ!ギンギラ!」

 

『はい!リミットブレイク!』

 

ステラの声に応え、ギンギラはリミットブレイクを発動させた。その瞬間、ギンギラと福音(ゴスペル)の姿は消え、空間に青と紫の稲妻が走った。

 

ガンッ!ガキンッ!ギュンッ!

 

ただ、その場には音と光だけが漂っていた。

 

「ギンギラ!一か八か、この一撃に賭けるよ!」

 

『分かりました!』

 

突然空に、福音(ゴスペル)を押さえ込んだギンギラが現れ、フリーダムカノンを展開した。

 

「『フルバースト!』」

 

ギンギラは、全ての砲門からエネルギーを全力で放った。それと同時に、そこを中心に爆煙が広がった。

 

「これなら!」

 

『マスター!回避を!』

 

「え?」

 

これで決まった。そう確信したステラは、戦いから意識を逸らしてしまった。

 

ドゴッ!

 

「ガッ?!」

 

ステラの胴体に、福音(ゴスペル)の膝蹴りが決まった。

 

「……………!!」

 

そこからは、福音(ゴスペル)のワンサイドゲームだった。ダメージで怯むステラに、連続で攻撃を叩き込み、着実にステラの命を刈り取りにかかっている。

だが、その時。

 

「ステラを離せぇ!」

 

白式を纏った一夏が福音(ゴスペル)に斬りかかった。

 

「…ッ!」

 

福音(ゴスペル)はそれをギリギリで躱し、距離をとった。

 

「おい、ステラ!おい!無事か!」

 

「い、一夏?」

 

「あぁ、俺だ!しっかりしろ!」

 

一夏はステラを受け止めて必死に声をかける。

 

「一夏!」

 

一夏の後ろから、フィリップを纏った数馬が現れた。

 

「数馬!ステラを頼む!」

 

「お前はどうする!」

 

「アイツを、倒す!」

 

一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、一瞬で福音(ゴスペル)へと近付いた。

 

「お前一人で勝てるわけないだろ!」

 

「加勢する!」

 

「おい!箒!」

 

一夏も箒も、数馬の制止を聞かずに福音(ゴスペル)へと向かっていく。

 

「数、馬………」

 

「どうした。どこか痛むのか?」

 

「いや、もう、大丈夫だよ」

 

ステラは数馬の腕を抜けると、ディスティニーソードを展開して構えた。

 

「やめろ!無茶をするな!」

 

「無茶でもしなきゃ勝てないでしょ!」

 

ドカアァァァァァァン!

 

「一夏ーーーー!」

 

その瞬間、ステラと数馬の耳に、爆発音と箒の悲鳴が響いた。

 

「ギンギラ!」

 

『シフト、スピード!リミットブレイク!』

 

ギンギラは、自身に残るエネルギーを使って一夏を受け止めた。

 

「数馬!一夏をお願い!私が福音(ゴスペル)を食い止めてる間に逃げて!」

 

「何言ってんだ!お前を置いて行ける訳ないだろ!」

 

「お願い!私が、まだ私でいられる間に……っ!」

 

ステラは笑いながらも、その表情は苦悶に歪み、目も赤黒く染まりつつあった。

 

「っ?!お前!」

 

「いいから!」

 

「くっ!すぐに戻る!それまで持ち堪えろ!」

 

数馬は一夏を抱えたままサイクロンを使い最高速度で戦場から離れる。その後ろには、俯いたまま箒が付いて来ていた。

 

「………さぁ、始めようか………叩き潰す!」

 

ステラの目は、既に赤黒く染まりきっていた。


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