インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
海上の激戦 First Episode
「もー!一夏遅い!皆待ってたんだよ?!」
IS学園の校門で、ステラは頬を膨らましながらそう言う。その後ろには、一夏を除く全員が集まっていた。
「悪い悪い!途中でなんか千冬姉がこれ持っていけって」
一夏はそう言いながら小さな端末を取り出してステラに渡した。
「なにこれ?」
「束さんからステラにって。なんか、ISのデータらしいけど」
「あー!あれね!流石、束さんは仕事が早いなぁ」
「どんなデータなんですの?」
ステラが端末を起動させてデータを見ていると、セシリアが覗き込みながら質問する。
「私達の戦闘データとギンギラの改修案。私が送ったデータで束さんに作って貰ったの」
「改修案?」
「うん。ギンギラのセカンドシフトを待つより、その方が良いかなって」
『しかしマスター。私とマスターの相性は必然的に高くなります。私の感覚的にも、もうすぐだと思うので、その必要は無いのでは?』
ギンギラの言葉に、ステラは少し考えて少し儚げな目の笑顔で答えた。
「私には、倒さなきゃ行けない人がいるから」
「………デストロ・デマイド、か」
「うん」
ステラの言葉に、ラウラは恐る恐る聞く。その声を聞いて、ステラは穏やかな表情で答えた。
「っと、こんな暗い話は置いといて、早く行こ?」
いつもの笑顔に戻ったステラは九人の前に立って先導する。
「そうだな。早く行かないと混むかもしれない」
「あぁ、行こうぜ」
ステラ達はIS学園のモノレール乗り場からモノレールに乗り込み、市内最大のショッピングモール、レゾナンスに向かった。
…………………………
「いやー、ここに来るのも久しぶりだな」
「そうだな。IS学園にいる間は出かけれなかったしな。トラブル続きで」
「「「うっ……」」」
なんとなく心当たりがあるのか、セシリアとシャルロットとラウラは少し狼狽えた。
「あまり言ってやるな、弾。別に望んでトラブルを起こしてた訳じゃ……………いや、待てよ?」
「そ、それにしてもここは広いですわね!」
「そ、そうだな!ドイツでもこの手の場所はあったが、ここは頭一つ抜けているな!」
尚更に心当たりがあったのか、セシリアとラウラだけが変に話題を変えた。
「(今すっごい誤魔化した…)ほらほら、あんまり虐めないの。早くしないと水着売り場混んじゃうよ?」
「そうだな」
十人の目的は、来週から始まる臨海学校への遠征に備えて水着を購入する事だ。
「あれ?売り場が男性用と女性用で分かれてる。前までこんなのあったっけ?」
「どうせ女尊男卑の影響が出たんだろ」
「だろーな」
数馬が呆れたように言うと、弾もそれに同意する。
「とりあえず、買い終わったらここに集合ね」
「オッケー。じゃあ解散」
十人は、男子組と女子組で分かれてそれぞれのコーナーへと進んだ。
…………………………
「って言っても、水着とか大して拘りねぇし」
「すぐに終わるよな」
「二人はどんなのにしたんだ?」
そんな雑談をしながら、一夏達は水着売り場から出てきた。
「俺のは、ただ黒いだけだ」
「俺のはエメラルドグリーンと白の柄つきだよ。なんとなくカラーリングエクシアに似てるし」
「そう言う一夏はどうなんだ」
「俺のは普通に白だよ。青いライン入った」
一夏の質問に数馬はそのまま返す。そして一夏もそれに答えて少し袋を持ち上げた。
「んじゃあアイツら待つか。どうせ時間かかるだろ」
「おう」
「だな」
弾の言葉に一夏と数馬が同意した所で、一人の女性が近付いてきた。
「ちょっとそこの男。これそこに戻しといて」
「は?なんでだよ」
「なんでって、あんたらが男だからでしょ」
「はぁ……そんな事も出来ねぇ様じゃダメ人間になるぞ?」
「やめろ、弾。もう遅い」
弾と数馬の二人がかりの毒舌。それを受けて女性はあからさまに機嫌を悪くしていた。
「な、何よ!あなた達、女である私に逆らうわけ?ISにも乗れない男の癖に?」
(セシリアだ)
(またこれか)
(セシリアの再来だな)
その頃女性用コーナー。
「へっくしゅんっ!だ、誰か私の噂をしていますの?」
「ただの風邪じゃないの?」
「え?風邪?セシリア大丈夫?」
「ふふっ、大丈夫ですわ」
そしてその外。
「ならあんたはどんだけISを動かせるんだ?」
「動かせないわよ。あなた達知らないの?ISは国家代表候補生とかじゃないと「あれ?そんなに偉そうにしててIS学園行ってねぇの?」……え?」
「そんなにISの事語っといて、まさかIS学園卒業してないって訳じゃ、ないよな?」
「そうだな。先程の熱弁っぷりでIS学園に行ってもいないとなるとただの知ったかぶりって事になるが、そんな訳がないよな」
「あなた達いい加減にしないと、警備員呼ぶわよ?!私が証言さえすれば、あなた達なんてすぐに捕まって「残念だったなぁ。実に残念だ」「あぁ、同意だ」何よ?!今度は何!」
女性が声を荒らげるが、弾と数馬はそれぞれ呆れたような仕草でそれを一蹴する。
「もう少し”お勉強”した方がいいぜ?」
「これを見れば、少しは気が収まるか?」
数馬はそう言いながらポケットから生徒手帳を取り出した。
「さて問題です。俺達は、だーれだ?」
「ま、まさか男性操縦者?!」
「さて、どうする?ここで警備員を呼んで社会的地位を下げるか。それともこのままその商品を自分で戻して帰るか」
「くっ!もういいわ!」
女性は、そのまま商品を棚に戻して逃げる様に人混みに消えた。
(俺、完全に空気だったな……)
…………………………
「うーん…………どっちにしようかなー」
「ステラ、どうしたんだ?」
両手に水着を持って悩むステラに、箒が声をかける。
「あのね。このフリル付いてるのか、何も付いてないで星マークが書いてあるの。どっちがいいかなぁってずっと悩んでるの。箒はどんなの?」
「私のはこれだ」
箒はそう言いながら、白に黒のラインが入った水着を取り出す。
「なるほど。箒らしいシンプルなデザインだね」
「そうか?私としてはもう少し落ち着いたイメージの。それこそ学校の水着とかでも良かったんだが」
「待って箒。それは箒の属性じゃない」
「何を言っているんだ?」
ステラの言葉に、箒は困惑する。
「ねぇ、ステラ。私のどう思う?」
箒と話している所に、鈴が話しかける。その手には、オレンジ色の水着を持っていた。
「いいんじゃないかな。鈴はよく動くしそのくらいの方がいいと思うよ」
「やっぱりそうよねぇ。ん?ステラのそれ可愛いじゃん。二つ買うの?」
「いや、私そんなにお金持ってないよ……」
「なら、私が買って差し上げましょうか?」
そこに、セシリアも加わる。
「いや、流石にそれは出来ないよ」
「ならば、私が奢ろう。先日軍からの配給があってな」
セシリアに続く様に、ラウラも同じ様な事を言う。
「いや、だから」
「もー、二人ともそこら辺にしときな?」
「そうだよ。ステラが困ってる」
そこに、助け舟を出すシャルロットと簪。
「ですが、やはり欲しい物は我慢せずに買うべきです」
「そうだ。我慢しすぎるとストレスが貯まるぞ」
「そうだけどね〜。でも水着なんて着る機会滅多にないし」
「「「「「「「んー……」」」」」」」
ステラの言葉に、全員が唸る。
「なら、夏休みにプールに行こう」
「プール?」
「なるほど、その時に持っていくのと今回臨海学校の。そういう事だよね?ラウラ」
ラウラの言葉の意味が分からずにぽかんとするステラの後ろでシャルロットが納得したような声を出した。
「あー!そういう事か!ラウラ天才!」
「ふふん」
ラウラはドヤ顔気味に鼻を鳴らす。
「それなら、夏休みの予定は空けとかないといけませんわね」
「そうだな。楽しみだ」
「それ考えると、僕も二つ買おうかな?」
「あー、私も」
「私も買いたいけど、今度発売のゲームの為に無駄遣い出来ない…」
「あ!忘れてた!どうしよう!」
女子組はまだ始まってもない夏休みに思いを馳せながら、談笑する。するとそこに
「おーい!そろそろ昼なんだけどー!」
「え?あ、ごめん!忘れてた!」
買い物が終わって二十分程待たされていた男子組からの催促の声が、水着売り場に響く。
「さてと、それじゃあ……………簪!今度ゲーム買ったら一緒にやらせて!」
「うん、いいよ」
「よし!これで予算内でギリ行ける!」
「だから、私が奢ると「それはダメ!」むぅ、頑固だな」
ラウラの申し出を断り、ステラは水着をレジに持っていこうとしたその時。
「ん?なんだ、お前達も来ていたのか」
水着コーナーの入口に、堂々たる立ち姿が一つ。
「え?千冬さん?!」
「ふむ、二つも買うのか。貸せ、私が買ってやる」
「いや、いいですよ!私のお小遣いで買えます!」
千冬の言葉に、ステラはやや不貞腐れた様に言う。
「私はお前のなんだ?」
「え?大切な人です」
「うむ。望んだ答えでは無いが嬉しいぞ。私はお前を束に任された、保護者の様な立場だ。それに、去年誕生日プレゼントを買ってやれてなかったしな。その分だ」
「うっ、それはセコい…」
千冬の言葉に、ステラは少し狼狽えるように後ずさる。
「お待ち下さい教官!ここは私がステラに奢ります!」
そこに、ラウラが割って入る。
「いえ、ここは私セシリア・オルコットが頂きますわ」
そしてセシリアも横から入る。
「ほう?小娘が、私と張り合うか?」
謎の火花を散らす三人に、ステラは首を傾げる。
「えっと、これは何の争い?」
「ステラは知らなくていいよ」
「うん、知っても多分分からないし」
「まぁ、別に本気で争ってる訳じゃ無いから大丈夫だ」
「どーせすぐに千冬さん勝利で終わるしね」
「?」
四人の言葉に、ステラの疑問は深まるばかり。
「なぁ!まだかー?!」
そして、男子組の不満も深まっていた。
尚、この後ステラはやや強引に千冬に買ってもらいました。