インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
「え?理事長室?」
「あぁ、理事長がお前達に直接話があるらしい。この後専用機持ちと篠ノ之、それとボーデヴィッヒを連れて来い」
「分かりました」
ラウラの告白から二日後。全ての授業が終わり、生徒達はそれぞれ寮へと帰る支度をしている最中に、千冬がステラに声をかけた。千冬は用件を伝えると、そのまま足早に教室を出て行った。
「なんなんだろ?」
「どうした、嫁よ」
「うん、それがさぁ………って!私は嫁じゃない!」
「ふむ、これがクラリッサの言っていた”ツンデレ”という物か」
「違うもん!私デレて無いもん!」
感慨深そうにうんうんと頷くラウラに、顔を赤くしながら反抗するステラ。この二日間で最早定番となりつつあるこの会話だが、ステラは不意にハッとしてラウラに用件を伝える。
「それはそうと!この後理事長室に皆で行くよ」
「結婚の報告か?」
「いや、まだ早いよ!て言うか違うよ!」
「ならば一体なんなんだ?」
「ほら、この前の事件の事じゃない?」
「この前。あぁ、あの事か………」
「あ、ごめん。そんな気じゃ…」
「ん?なんだ?私達の馴れ初めの話じゃないのか?」
「だからちーがーうー!むぅ………」
「どうしたんだ?」
ステラがラウラのボケに突っ込んでいると、専用機持ちと箒が集まってステラ達に話しかける。
「あ、皆。丁度良かった。今から皆で理事長室に来いって千冬さんが」
「そうか。なら私は先に寮に帰っておくぞ」
「あ、箒も一緒に来て」
「私も?」
立ち去ろうとする箒を呼び止めると、箒は怪訝そうな表情をした。
「私は避難誘導しかしてないぞ」
「それなら俺らもだ」
箒の言葉に賛同するように、そして少し嫌そうに言う弾。
「なんでそんなちょっと嫌そうなの?」
「今日はぶら☆くらの再放送開始日なんだよ!」
「あぁ!忘れてた!どうしよう!録画してない!」
「ステラ」
「何、簪!」
「録画、昨日しておいたよ」
「ナイス簪!」
そういってサムズアップする簪に、ステラは思いっきり抱きつく。
「ちょ、ちょっと、ステラ!見てる!」
「別に見られても良いじゃん!やましい事ないんだし!」
「いや、そうなんだけど…」
「…………」ジィーーーーーーーーーー
(凄い形相でラウラが見てくる…)
抱きつかれる簪を羨ましそうに、ラウラはジッと睨む。
「っと、本題忘れるところだった。とりあえず、呼ばれてるから行こうよ」
簪から離れながら、ステラはそう言った。そのステラの言葉に従い、一同は理事長室に向かった。
…………………………
コンコンッ
「はい、どうぞ」
「失礼します」
室内からの返事を受け、ステラは扉を開いて室内へと入る。それに続いて一夏たちも室内へと入る。
「ようこそ。そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」
奥の高そうな椅子に腰掛けるのは、柔らかな表情をする”男性”だった。
「私はこの学園を理事長として取り仕切る、「轡木 十蔵」です」
「男、性?理事長は確か女性のはずでは?」
「表向きは、です。彼女は私の妻ですよ」
セシリアの言葉に、十蔵はにこやかに笑いながら答えた。
「そうなんですの。失礼いたしました」
「いいえ、いいですよ。さて、そろそろ本題に入りましょうか」
コンコンッ
十蔵の言葉を、ノックが遮る。
「はい、どうぞ」
「失礼します。あら、ステラちゃん達もう来てたのね」
「楯無さんに、織斑先生?」
扉を開いて部屋へ入って来たのは、楯無率いる生徒会。そして千冬だった。
「すみません理事長。ドイツ軍のデータへのハッキングは成功したんですが、どこにもそれらしいデータは見当たりませんでした」
千冬の言葉を、十蔵は事前に分かっていたかのように頷く。
「そうですか………ラウラ・ボーデヴィッヒさん」
「はい。どんな処罰も受ける覚悟です」
「ちょ、ラウラ?!」
「良いんだステラ。私は処分されて当然の事をした。お前達も傷つけたんだ」
「でも!」
「落ち着いてください。誰も処分する気はありませんよ」
「「え?」」
十蔵の言葉に、ステラとラウラは揃って間の抜けた声を漏らした。
「ボーデヴィッヒさん。そもそも貴方は被害者の様なものなんですよ。ドイツ軍は貴方の知らぬところで暗躍した。VTシステムもその一環です」
「でも!発動は私が望みました!あの誘惑に負けて、私は!」
「ならば、仕方ないですね。貴方に処罰を与えましょう」
「理事長。本気ですか?」
そう言った楯無の目には、明らかな敵意があった。それを知ってか知らずか、十蔵は微笑みで返す。
「それでは、ラウラ・ボーデヴィッヒ。貴方に処罰を言い渡します」
「はい………」
十蔵の言葉に、理事長室に緊張が走る。
「校内全域の清掃活動です」
「「「「「え?」」」」」
言い渡された処分の内容に、一同は驚きの声を上げた。
「おや?それだけと考えているのですか?この学園の敷地は広いですから、一人はきついですよ。ちなみに、協力は禁止です。見つけたら皆さんも一緒に掃除です」
そうにこやかに告げた十蔵は、立ち上がってラウラの方を見た。
「期待していますよ」
その言葉を残して、十蔵は理事長室を後にした。そして、ラウラの瞳からは涙が零れていた。
「ラウラ、良かったね」
「あぁ、これでまた、お前を口説けるな…」
「もう、強がらないの」
無理矢理笑顔を作るラウラを、ステラは抱きしめた。そして翌日の放課後から、ラウラは掃除を始めた。
「ラウラー!手伝いに来たよー!」
「おい!お前も指導くらう気か!」
「え?うん」
「お前な………」
ステラの当たり前かの様な口ぶりに、ラウラは呆れた様な声を出した。
「ていうかラウラこそ、理事長先生の話聞いてなかったの?」
「どういうことだ?」
「手伝ったら罰で掃除なんでしょ?なら皆でやった方が早いってなってね」
「皆?」
ステラの言葉に、ラウラは首を傾げる。
「「「「「私達の事だ(よ)!」」」」」
「おわぁ?!」
急にステラの後ろから飛び出してきた一組のメンバーにラウラは後ずさった。
「なんで俺まで…」
「おい弾。この期に及んで文句言うなよ」
「俺達は仲間だ。お前が罰を受けるなら、俺達も相乗りするぞ」
「御手洗…」
「数馬でいい」
数馬の言葉に、ラウラは涙ぐむ。そして涙を拭い、笑う。
「ありがとう、数馬。皆!」
「ちょっと!勝手に終わってんじゃないわよ!」
「あれ?鈴も来たの?」
「逆に来ないと思った?」
そう言って笑う鈴の後ろには、二組の生徒が居た。
「ううん!鈴大好き!」
鈴に抱きつこうとするステラを、後ろからラウラが抱き着いて止める。
「うぇ?何してるの?ラウラ」
「ありがとう、ステラ。お前が居なかったら、私はきっとこんな気持ちを知れなかった。私はお前が大好きだ」
「うん。私も大好きだよ、ラウラ」
「ちょっと待って。まだ私達もいる」
「あ、簪だ!来てくれたの?それに、三組の人も?」
簪の後ろには、四組だけではなく三組の生徒達がいた。
「いや、ここで来ない訳には行かないじゃん!」
「そうだよ!皆でやろ!」
三組の生徒達は勢いよく答えると、一斉に掃除道具を掲げた。
「ちょっと待ちなさい。私達を忘れていないかしら」
その雰囲気を、一つの声が遮る。
「この声は、まさか!」
「天が呼ぶ。地が呼ぶ。人が呼ぶ。そして可愛いステラちゃんが私を呼ぶ!」
「何格好つけてるんですか会長」
そしてその声も遮る声。
「もう!せっかく決めてたのに!」
「楯無さん!来てくれたの?!」
「私達だけじゃないわよ?ほら!」
その声と共に、楯無の後ろから数え切れない程の生徒達が集まる。その胸のリボンの色はどれも、一年のものではなかった。
「うお?!」
「全校生徒、集めてみました!」
「な、なんか無駄に多いな」
「ハハハッ…」
箒の呆れた様な声に、シャルロットは苦笑する。
「でもまぁ、こういうのも偶には良いんじゃない?」
「そうですわね」
鈴の言葉に、セシリアは微笑む。
「それじゃあ!全校生徒による罰則、校内全体清掃!始めるわよー!」
「「「「「おーー!!」」」」」
楯無の言葉に、全校生徒は掃除道具を空に掲げた。
そこからの掃除の速度は異常だった。かのIS学園の生徒達が、放課後の自主練すらも忘れて毎日掃除に明け暮れた。
そして、理事長室からその光景を見守る二人。千冬と十蔵だ。
「理事長は、最初からこうなると分かっていたのですか?」
「はて、何のことかさっぱり」
そう言う十蔵の顔は、穏やかだった。
「こんな日々が、いつまで続くんでしょうね」
「それは一体?」
「今朝方、各ISを保持する全ての国家に、脅迫文が送られました。そしてここにも」
その言葉を発する十蔵の顔は、険しかった。
「っ?!一体何者ですか?」
「デストロ・デマイド。貴方の友達ですよ」
「違います!あんな奴は、友達等ではありません!あいつは!「そこまでだ千冬」っ、し、師匠?」
激高する千冬を扉からの声が宥める。
「やっほー、ちーちゃん」
「束まで!理事長、これは一体」
扉から入ってきたのは『篠ノ之 柳韻』と束。柳韻は箒と束の実の父親で、箒に剣を、束には力の使い方を教えた。
「お久しぶりです、十蔵さん」
「えぇ、久しぶりですね」
「お二人は、お知り合いなんですか?」
「えぇ、貴方達が小さい頃は、よく彼に稽古をつけていましたからね」
「やめてください。あの頃はまだただの未熟者でしたから」
(師匠が敬語を使っている…。理事長の顔はどれ程広いんだ)
(敬語使うお父さんとか新鮮すぎる…)
二人の関係に困惑する千冬達だったが、すぐに表情を正した。
「それで、今回俺を呼んだのは?」
「それは、三人が私の共犯者になってくれるという事でよいのかな?」
「共犯者?」
十蔵の言葉に、千冬は疑問符を浮かべた。そして、十蔵の口から語られた言葉に、三人は戦慄を覚えた。