インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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混乱と出会い Twenty third episode

「え?理事長室?」

 

「あぁ、理事長がお前達に直接話があるらしい。この後専用機持ちと篠ノ之、それとボーデヴィッヒを連れて来い」

 

「分かりました」

 

ラウラの告白から二日後。全ての授業が終わり、生徒達はそれぞれ寮へと帰る支度をしている最中に、千冬がステラに声をかけた。千冬は用件を伝えると、そのまま足早に教室を出て行った。

 

「なんなんだろ?」

 

「どうした、嫁よ」

 

「うん、それがさぁ………って!私は嫁じゃない!」

 

「ふむ、これがクラリッサの言っていた”ツンデレ”という物か」

 

「違うもん!私デレて無いもん!」

 

感慨深そうにうんうんと頷くラウラに、顔を赤くしながら反抗するステラ。この二日間で最早定番となりつつあるこの会話だが、ステラは不意にハッとしてラウラに用件を伝える。

 

「それはそうと!この後理事長室に皆で行くよ」

 

「結婚の報告か?」

 

「いや、まだ早いよ!て言うか違うよ!」

 

「ならば一体なんなんだ?」

 

「ほら、この前の事件の事じゃない?」

 

「この前。あぁ、あの事か………」

 

「あ、ごめん。そんな気じゃ…」

 

「ん?なんだ?私達の馴れ初めの話じゃないのか?」

 

「だからちーがーうー!むぅ………」

 

「どうしたんだ?」

 

ステラがラウラのボケに突っ込んでいると、専用機持ちと箒が集まってステラ達に話しかける。

 

「あ、皆。丁度良かった。今から皆で理事長室に来いって千冬さんが」

 

「そうか。なら私は先に寮に帰っておくぞ」

 

「あ、箒も一緒に来て」

 

「私も?」

 

立ち去ろうとする箒を呼び止めると、箒は怪訝そうな表情をした。

 

「私は避難誘導しかしてないぞ」

 

「それなら俺らもだ」

 

箒の言葉に賛同するように、そして少し嫌そうに言う弾。

 

「なんでそんなちょっと嫌そうなの?」

 

「今日はぶら☆くらの再放送開始日なんだよ!」

 

「あぁ!忘れてた!どうしよう!録画してない!」

 

「ステラ」

 

「何、簪!」

 

「録画、昨日しておいたよ」

 

「ナイス簪!」

 

そういってサムズアップする簪に、ステラは思いっきり抱きつく。

 

「ちょ、ちょっと、ステラ!見てる!」

 

「別に見られても良いじゃん!やましい事ないんだし!」

 

「いや、そうなんだけど…」

 

「…………」ジィーーーーーーーーーー

 

(凄い形相でラウラが見てくる…)

 

抱きつかれる簪を羨ましそうに、ラウラはジッと睨む。

 

「っと、本題忘れるところだった。とりあえず、呼ばれてるから行こうよ」

 

簪から離れながら、ステラはそう言った。そのステラの言葉に従い、一同は理事長室に向かった。

 

 

…………………………

 

 

コンコンッ

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します」

 

室内からの返事を受け、ステラは扉を開いて室内へと入る。それに続いて一夏たちも室内へと入る。

 

「ようこそ。そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」

 

奥の高そうな椅子に腰掛けるのは、柔らかな表情をする”男性”だった。

 

「私はこの学園を理事長として取り仕切る、「轡木 十蔵」です」

 

「男、性?理事長は確か女性のはずでは?」

 

「表向きは、です。彼女は私の妻ですよ」

 

セシリアの言葉に、十蔵はにこやかに笑いながら答えた。

 

「そうなんですの。失礼いたしました」

 

「いいえ、いいですよ。さて、そろそろ本題に入りましょうか」

 

コンコンッ

 

十蔵の言葉を、ノックが遮る。

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します。あら、ステラちゃん達もう来てたのね」

 

「楯無さんに、織斑先生?」

 

扉を開いて部屋へ入って来たのは、楯無率いる生徒会。そして千冬だった。

 

「すみません理事長。ドイツ軍のデータへのハッキングは成功したんですが、どこにもそれらしいデータは見当たりませんでした」

 

千冬の言葉を、十蔵は事前に分かっていたかのように頷く。

 

「そうですか………ラウラ・ボーデヴィッヒさん」

 

「はい。どんな処罰も受ける覚悟です」

 

「ちょ、ラウラ?!」

 

「良いんだステラ。私は処分されて当然の事をした。お前達も傷つけたんだ」

 

「でも!」

 

「落ち着いてください。誰も処分する気はありませんよ」

 

「「え?」」

 

十蔵の言葉に、ステラとラウラは揃って間の抜けた声を漏らした。

 

「ボーデヴィッヒさん。そもそも貴方は被害者の様なものなんですよ。ドイツ軍は貴方の知らぬところで暗躍した。VTシステムもその一環です」

 

「でも!発動は私が望みました!あの誘惑に負けて、私は!」

 

「ならば、仕方ないですね。貴方に処罰を与えましょう」

 

「理事長。本気ですか?」

 

そう言った楯無の目には、明らかな敵意があった。それを知ってか知らずか、十蔵は微笑みで返す。

 

「それでは、ラウラ・ボーデヴィッヒ。貴方に処罰を言い渡します」

 

「はい………」

 

十蔵の言葉に、理事長室に緊張が走る。

 

「校内全域の清掃活動です」

 

「「「「「え?」」」」」

 

言い渡された処分の内容に、一同は驚きの声を上げた。

 

「おや?それだけと考えているのですか?この学園の敷地は広いですから、一人はきついですよ。ちなみに、協力は禁止です。見つけたら皆さんも一緒に掃除です」

 

そうにこやかに告げた十蔵は、立ち上がってラウラの方を見た。

 

「期待していますよ」

 

その言葉を残して、十蔵は理事長室を後にした。そして、ラウラの瞳からは涙が零れていた。

 

「ラウラ、良かったね」

 

「あぁ、これでまた、お前を口説けるな…」

 

「もう、強がらないの」

 

無理矢理笑顔を作るラウラを、ステラは抱きしめた。そして翌日の放課後から、ラウラは掃除を始めた。

 

「ラウラー!手伝いに来たよー!」

 

「おい!お前も指導くらう気か!」

 

「え?うん」

 

「お前な………」

 

ステラの当たり前かの様な口ぶりに、ラウラは呆れた様な声を出した。

 

「ていうかラウラこそ、理事長先生の話聞いてなかったの?」

 

「どういうことだ?」

 

「手伝ったら罰で掃除なんでしょ?なら皆でやった方が早いってなってね」

 

「皆?」

 

ステラの言葉に、ラウラは首を傾げる。

 

「「「「「私達の事だ(よ)!」」」」」

 

「おわぁ?!」

 

急にステラの後ろから飛び出してきた一組のメンバーにラウラは後ずさった。

 

「なんで俺まで…」

 

「おい弾。この期に及んで文句言うなよ」

 

「俺達は仲間だ。お前が罰を受けるなら、俺達も相乗りするぞ」

 

「御手洗…」

 

「数馬でいい」

 

数馬の言葉に、ラウラは涙ぐむ。そして涙を拭い、笑う。

 

「ありがとう、数馬。皆!」

 

「ちょっと!勝手に終わってんじゃないわよ!」

 

「あれ?鈴も来たの?」

 

「逆に来ないと思った?」

 

そう言って笑う鈴の後ろには、二組の生徒が居た。

「ううん!鈴大好き!」

 

鈴に抱きつこうとするステラを、後ろからラウラが抱き着いて止める。

 

「うぇ?何してるの?ラウラ」

 

「ありがとう、ステラ。お前が居なかったら、私はきっとこんな気持ちを知れなかった。私はお前が大好きだ」

 

「うん。私も大好きだよ、ラウラ」

 

「ちょっと待って。まだ私達もいる」

 

「あ、簪だ!来てくれたの?それに、三組の人も?」

 

簪の後ろには、四組だけではなく三組の生徒達がいた。

 

「いや、ここで来ない訳には行かないじゃん!」

 

「そうだよ!皆でやろ!」

 

三組の生徒達は勢いよく答えると、一斉に掃除道具を掲げた。

 

「ちょっと待ちなさい。私達を忘れていないかしら」

 

その雰囲気を、一つの声が遮る。

 

「この声は、まさか!」

 

「天が呼ぶ。地が呼ぶ。人が呼ぶ。そして可愛いステラちゃんが私を呼ぶ!」

 

「何格好つけてるんですか会長」

 

そしてその声も遮る声。

 

「もう!せっかく決めてたのに!」

 

「楯無さん!来てくれたの?!」

 

「私達だけじゃないわよ?ほら!」

 

その声と共に、楯無の後ろから数え切れない程の生徒達が集まる。その胸のリボンの色はどれも、一年のものではなかった。

 

「うお?!」

 

「全校生徒、集めてみました!」

 

「な、なんか無駄に多いな」

 

「ハハハッ…」

 

箒の呆れた様な声に、シャルロットは苦笑する。

 

「でもまぁ、こういうのも偶には良いんじゃない?」

 

「そうですわね」

 

鈴の言葉に、セシリアは微笑む。

 

「それじゃあ!全校生徒による罰則、校内全体清掃!始めるわよー!」

 

「「「「「おーー!!」」」」」

 

楯無の言葉に、全校生徒は掃除道具を空に掲げた。

そこからの掃除の速度は異常だった。かのIS学園の生徒達が、放課後の自主練すらも忘れて毎日掃除に明け暮れた。

そして、理事長室からその光景を見守る二人。千冬と十蔵だ。

 

「理事長は、最初からこうなると分かっていたのですか?」

 

「はて、何のことかさっぱり」

 

そう言う十蔵の顔は、穏やかだった。

 

「こんな日々が、いつまで続くんでしょうね」

 

「それは一体?」

 

「今朝方、各ISを保持する全ての国家に、脅迫文が送られました。そしてここにも」

 

その言葉を発する十蔵の顔は、険しかった。

 

「っ?!一体何者ですか?」

 

「デストロ・デマイド。貴方の友達ですよ」

 

「違います!あんな奴は、友達等ではありません!あいつは!「そこまでだ千冬」っ、し、師匠?」

 

激高する千冬を扉からの声が宥める。

 

「やっほー、ちーちゃん」

 

「束まで!理事長、これは一体」

 

扉から入ってきたのは『篠ノ之 柳韻』と束。柳韻は箒と束の実の父親で、箒に剣を、束には力の使い方を教えた。

 

「お久しぶりです、十蔵さん」

 

「えぇ、久しぶりですね」

 

「お二人は、お知り合いなんですか?」

 

「えぇ、貴方達が小さい頃は、よく彼に稽古をつけていましたからね」

 

「やめてください。あの頃はまだただの未熟者でしたから」

 

(師匠が敬語を使っている…。理事長の顔はどれ程広いんだ)

 

(敬語使うお父さんとか新鮮すぎる…)

 

二人の関係に困惑する千冬達だったが、すぐに表情を正した。

 

「それで、今回俺を呼んだのは?」

 

「それは、三人が私の共犯者になってくれるという事でよいのかな?」

 

「共犯者?」

 

十蔵の言葉に、千冬は疑問符を浮かべた。そして、十蔵の口から語られた言葉に、三人は戦慄を覚えた。


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