インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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混乱と出会い Twentieth Episode

「まさか、初戦から貴様と当たるとはな。ある意味幸運だな」

 

「なんでお前が俺やステラに因縁みたいな物を感じているかは知らねぇけど、三人を傷付けた事は絶対に許さねぇ!」

 

ラウラの怪しげな笑みに、一夏は怒りを露わにしながら怒鳴るように言った。

 

「えっと、どうして箒はそっちにいるの?」

 

「いや、誰かと組もうとは思ったんだ!だが、流石に時期も時期で余っている人が居なかったんだ………」

 

「あー、そういう………」

 

「しかし、身内だからといって勝負には変わりはない。全力で行くぞ」

 

「分かってるよ」

 

箒とシャルロットの会話も終わり、場内は緊張に包まれた。

 

〈第一試合!織斑 一夏、シャルル・デュノアVSラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之 箒!〉

 

アナウンスが場内に響くと、両ペアとも身構えた。

 

〈試合………開始!〉

 

「はぁぁ!」

 

「フンッ、まるで闘牛だな!」

 

「行くよ!箒!」

 

「てりゃぁ!」

 

試合開始のコールと共に、一夏はラウラに、シャルロットは箒に攻撃を仕掛けた。

 

「はぁ!てりゃ!おらぁ!」

 

「ハハハッ!それでは掠りもしないぞ!」

 

一夏の剣戟を難なく躱すラウラ。一夏はそれでも剣を振るい続ける。

 

「そんな事、分かってんだよ!」

 

「ほう?ならば何故その当たらないと分かっている攻撃を何度も仕掛ける?無駄な足掻きにしか思えんが」

 

「そうだよ、足掻いてんだよ!俺の力じゃお前に勝てないことなんて百も承知だよ!だからこそ、勝つ方法を探して足掻いてんだよ!それになぁ!人間はどんなに弱くても、必死に努力すれば強者にだって勝てるんだよ!」

 

「フンッ!ならば、努力では越えられない絶対的な実力差(かべ)を見せてやる!」

 

ラウラはそう言ってワイヤーブレードを構えて反撃を始めた。

 

 

…………………………

 

 

その頃、箒とシャルロットも白熱した戦いを繰り広げていた。

 

「やるねぇ、箒!」

 

「そちらもな!シャルロ………シャルル!」

 

箒の剣戟を躱しつつ、地道にダメージを与えていくシャルロット。つい本名を言ってしまいそうになったが、慌てて言い直しながら鋭い剣捌きで躱されながらもじわじわとシャルロットを追い詰める箒。

 

「くらえ!」

 

「うわっ?!」

 

箒に反撃の為に距離を置こうとしたシャルロットだったが、その隙を突いて箒は近距離でアサルトライフルの弾丸をシャルロットに撃ち込んだ。

 

「剣術だけだと思ってたけど、まさかそれはフェイクだったなんてね」

 

「篠ノ之流の剣術だけではいずれ限界が来る。そう思ったから私はひたすら拘っていた剣での正々堂々とした戦いを捨てた。父の剣に憧れた。父の背中を目標とした。だが、私は祖父にはなれないし、あの人ほどの強さも無い。だから、私は他の何かで補って強くなると決めたんだ!」

 

箒は自らの決断を語りながら、右手に刀、左手にアサルトライフルをもってシャルロットを追い詰めた。

 

「これで!」

 

「………正直、これはまだ使いたく無かったんだけどね」

 

そう言うと、シャルロットはシールドを箒に向けた。

 

「『盾殺し(シールド・ピアーズ)』!」

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)、通称盾殺し(シールド・ピアーズ)と呼ばれるそれは、シャルロットの専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』の最強の武装。第二世代の中では最高クラスの威力を有している。故に

 

「ガハッ?!」

 

量産機の打鉄でその威力は防げなかった。その威力で打鉄のシールドエネルギーは底を突き、箒は敗北した。だが、その表情には一片の曇りもなく、逆に晴れやかな表情だった。

 

「シャルル、ありがとう。全力でぶつかってくれて」

 

「それはお互い様だよ。でも、まさかこんな所で隠し玉を使う羽目になるとはね」

 

「それは、褒めの言葉と捉えていいのか?」

 

「うん、当然」

 

シャルロットはそう言いながら手を伸ばした。箒はその手を掴んで立ち上がった。

 

「先にピットに上がって観戦させて貰う。一応敵だが、頑張れよ」

 

「うん、ありがとう」

 

二人が笑顔で会話を終えたその瞬間、一夏とラウラのいる方向から咆哮の様な叫びが響いた。

 

 

…………………………

 

 

「くっ!」

 

「らぁ!」

 

一夏の剣戟は鋭くなっていき、その勢いは留まる事を知らなかった。そしてその勢いに、ラウラは押され始めていた。

 

(何故だ!何故私がこんな雑魚に!)

 

「そろそろ、終わりだぁ!」

 

(嫌だ!嫌だ!こんな奴に負けたくない!私は強くないと存在価値はない!あの人の前で負けたくない!)

 

『願うか……?汝、自らの変革を望むか?より強い、唯一無二の力を………。否、望め!我の力を!全てを破滅させる最強の力を!』

 

「寄越せ!力があるならば全て寄越せ!なんでもいい!力をくれ!誰よりも強い力を!」

 

「なんだ?!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

突然シュヴァルツェア・レーゲンがスパークしだした。一夏は異変に気付き飛びのいたが、異変は収まらなかった。

 

「ぐぁ、あぁ!なん、だ!これはぁ!」

 

「おい!どうしたんだよ!」

 

いくら敵といえど、自分と同じ年の少女の苦しむ様を見て心が動かない訳では無かった。

 

「痛い、熱い!でも、これで力が手に入るのなら………がぁぁ!」

 

「一夏!今すぐボーデヴィッヒさんのシールドエネルギーをゼロにして!」

 

「え?!どういう事だ?」

 

突如開かれたステラとのプライベートチャンネルに驚きながらも、しっかりと話を聞く一夏。そしてステラの口から語られたのは、衝撃の事実だった。

 

「それはヴァルキリートレースシステムって言って、簡単に言うと全盛期の千冬さんを再現するシステムなの。でもそれは、アラスカ条約で禁止されたシステムなの!」

 

「要するに、あれは禁忌の力ってことか」

 

そして、シュヴァルツェア・レーゲンから黒い液体の様な物が溢れ出し、それは正にラウラの心に宿る負の感情を表しているようだった。

 

「とりあえず!あれを斬ればいいんだな!」

 

一夏はその言葉と共に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で接近し、黒い何かを斬り裂こうとした。だが、それより先にラウラの右腕を黒い物体が包み込み、その腕で零落白夜を発動させた雪片弐型を受け止めた。

 

「なっ?!」

 

「………!」

 

「ぐあぁ!」

 

薙ぎ払うように振るわれた腕に、一夏は吹き飛ばされた。その隙に、黒い物体はラウラの体を包んでいった。そして飛ばされる最中に一夏が見たのは、その顔すらも飲み込まれそうになりながら、涙を流すラウラだった。

 

「くっそ…」

 

「一夏!」

 

ギンギラを纏ったステラが降りてきた事を確認した一夏は、立ち上がりながら零した。

 

「………助けたい」

 

「一夏?」

 

「酷いことする奴だけど、助けたい」

 

「そっか、分かった」

 

そう言ってステラは一夏の隣に立った。

 

「一夏。あの黒いのはシールドエネルギーの塊みたいなものなの。だから、零落白夜であれを切り裂いて」

 

「そしたら、ボーデヴィッヒを助けられるんだな」

 

「うん。でも、もうシールドエネルギー無いでしょ?」

 

「それなら僕が何とかするよ。一夏と組む時に、エネルギー切れの対策もしてあるんだ。僕のラファールから、白式にエネルギーを補給出来る」

 

「それならお願い。あれは私が食い止めるから」

 

ステラはそう言って一夏たちの前に立った。

 

「他の皆は避難誘導をしてもらってるから、まだ来れない。私一人でどこまでやれるか分からないから、なるべく早くね」

 

「うん!」「おう!」

 

ステラの言葉と共に、全員が行動に移った。

 

 

…………………………

 

 

その頃指令室では。

 

「織斑先生!あれは!」

 

「あぁ、VTシステムだな。クソッ!ドイツ軍は何を考えている!」

 

「織斑先生!」

 

その時、指令室に楯無が飛び込んできた。

 

「IS学園の裏通信に、デストロという男から織斑先生宛に通話です!」

 

「なんだと?!今すぐ繋げ!」

 

「はい!」

 

千冬の声と共に、真耶は操作パネルを操作してモニターの中心に一つの映像を映し出した。

 

〈やぁ、千冬。一週間ぶりだね!〉

 

「黙れ!貴様か!ボーデヴィッヒの………ラウラの機体にVTシステムを積んだのは!」

 

〈違うよ。僕はあくまで技術提供したまでさ。それを彼らがそういう風に使ったのさ〉

 

「ふざけるな!そのせいでラウラはl傷ついているんだ!」

 

〈なら君に問おう。銃を作ったものは犯罪者か?違うだろう?銃の制作者にはなんの罪のなく、それを使って悪事を働く奴が悪い〉

 

「ふざけるなぁ!貴様に、貴様に罪が無いだと?どの口が言うんだ!お前は、今まで殺した人間の数を覚えているのか!宗吉と純は、貴様が殺したんだろうがぁ!」

 

千冬の荒ぶる姿に、指令室にいる職員は唖然とした。

 

〈なら君は、今まで食べたパンの枚数を覚えているのかい?〉

 

「なんだと?」

 

〈覚えていないだろう?僕にとっては、そういう事なんだよ〉

 

「…………いつか、必ず貴様を殺す」

 

〈ハハッ!楽しみにしているよ!〉

 

そう言って通信は途切れた。そして千冬は通信機を取り出すと、ステラに通信を繋げた。

 

 

…………………………

 

 

〈聞こえるか、ステラ〉

 

「千冬さん?おわぁ?!な、何?今凄く大変なんだけど?!」

 

〈よく聞け。今回の事には、デストロが関わっている〉

 

「え?」

 

〈VTシステムを完成系にしたのは、奴だ〉

 

千冬の声色から、ステラは千冬の果ての無い怒りを感じた。そしてステラは、立ち止まり腕の力を抜いてだらりとした。

 

「分かったよ千冬さん。私が、ボーデヴィッヒさんを助ける」

 

ステラはそう言って千冬との通信を切り、目を閉じた。

 

「ねぇ、ギンギラ。おかしいんだ。凄く怒ってるのに、頭がスーッとする」

 

『っ?!マスター?』

 

ステラが目を開くと、その目は暴走した時の様な赤黒い色ではなく、まるで炎のような深紅だった。

 

「人ってあまりにも怒ると、冷静になるものなんだね」

 

そう言いながらも、ステラは視線の先にいるVTシステムの発動したシュヴァルツェア・レーゲン(以下:VTレーゲン)に歩み寄っていた。

 

「リミット、ブレイク………」

 

その声と共に、ギンギラから放たれる光は一瞬にして膨れ上がった。

 

「なぁ、ステラ」

 

声のした方を見ると、そこには白式を纏った一夏が居た。

 

「俺、考えたんだ。もしボーデヴィッヒが助けられる事を望んでいなかったら、俺たちは余計な事をしてるんじゃないかって」

 

「………それでも救う。自己満足だとか言われようが関係ない。私はボーデヴィッヒさんを助けたい。それが私のいまやりたい事だから。完膚なきまでに救ってやる」

 

「そうか………っ?!ステラ?!」

 

一夏はそこで初めてステラの目に気付き、驚愕した。

 

「お前、大丈夫なのか?」

 

「え?何が?」

 

『一夏さん。マスターは今いたって正常です』

 

「そう、か」

 

「二人とも何の話してるの?っ?!一夏避けて!」

 

ステラ達の会話を断ち切るように、VTレーゲンは斬撃を飛ばした。それに気付いて反応したステラは、一夏を突き飛ばして自分はバックステップで飛び退いた。

 

「どうやら、話はここまでみたいだね」

 

「そうだな」

 

「一夏、行くよ!」

 

「おう!」

 

二人とVTレーゲンの戦いの火蓋は切って落とされた。


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