インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
「らぁぁ!」
「そんな単調な攻撃では、この『シュヴァルツェア・レーゲン』には傷一つ付けられないぞ!」
ステラの全力の拳は、空中で静止した。
「っ?!動かない?!」
「驚いたか?これがシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界、AICだ」
ラウラはそう言いながらレールガンの照準をステラに定めると、最大出力で放った。
「シフト、ディフェンス!」
ドカーーンッ!
「ぐあ!」
ギリギリの所でシフトの能力で防御力を上げたが、あまりの反動に吹き飛んだ。
「なんだ、その程度か?」
「いっけぇ!」
ステラはリングを投げつけると、ラウラはそれをAICで止めた。しかしステラはそれを分かっていたようにラウラの真後ろに回り込み、拳を振るった。
「予測済みだ」
「なっ?!」
ラウラが屈むと、その影からリングが飛び出してきた。
「くっ!」
ステラはそれを操作して威力を殺したが、突如下からの衝撃にまたしても吹き飛んだ。
「実力差が、ありすぎるよ………ぐっ!」
ステラの双眼は、レールガンを構えるラウラを捉えた。しかし、先程腹部にくらった攻撃の影響で、ステラはよろめき、その場に膝をついた。
「貴様には失望した」
「え?」
「貴様の実力はここの誰よりも強いと確信していた。しかしあんな連中とつるんでいるとはな。これ程弱いのも合点がいく」
「どういう、こと?」
ステラはラウラの言葉の意味が分からずに困惑した。
「研ぎ澄まされた剣と猛き剣士と言えど、剣士が鈍ると剣も鈍り錆びる。貴様は甘いんだ。どうだ、今度のタッグマッチで私と組まないか?あんな連中よりも、私と組む方が賢明な判断だと思うがな」
「黙れ…」
「ん?何か言ったか?」
「黙れーー!」
ステラの叫びはアリーナに木霊した。
「お前が………皆を語るな!お前なんかが!」
ステラの目は徐々に赤く染まっていた。
『マスター!いけません!』
「っ?!」
ステラはギンギラの声を聞いて、意識が戦いから逸れた。
『冷静さを欠いて勝てる相手ではありません』
「そう、だね………。ありがとう、もう落ち着いた。」
そう言ったステラの瞳はみるみるうちに青色に戻っていった。
「さてと、もう終わったか?」
「ごめんね。時々自分でもよく分からないくらいに感情が抑えられなくなるんだ。でも、もう大丈夫。これで貴方を倒せる!」
「それはどうかな!」
ステラは拳を。ラウラはプラズマ手刀を構えて急接近した。しかし。そこに―――
「そこまでだ!」
「千冬さん?!」「織斑教官!」
トリガーを纏った千冬が割り込んだ。
「これは一体何事だ!」
「はっ!模擬戦をしていました!」
「模擬戦?そうは見えないが?」
「千冬さん!これは!」
「織斑先生だ。それと、今日から学年別トーナメントまでお前たち二人のアリーナの使用を禁止する」
「そんな!千冬さん!話を聞いてよ!」
「織斑先生と呼べと言っている!」
千冬の表情は怒りに染まっていた。その理由が分からず困惑するステラに、シャルルは声をかけた。
「ステラ、今は引こうよ。これより重い罰が下されるかもしれないよ?」
「…………うん」
ステラはか弱い声でそう言い、ギンギラを解除してアリーナを出た。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。一体何のつもりだ?」
「全ては、貴方の為です。織斑教官」
「織斑先生と呼べと言ったのは、お前もだ。それと、私はこんな事望んではいない!」
「それは知っています」
「ならば何故!っ?!」
突如千冬はラウラの傍から飛びのいた。
(なんだ今のは。殺気か?それにしては穏やか過ぎる!こいつに何があったんだ!)
「ラウラ、私が居なくなって何があった」
「何もありませんよ。ただ、自分の存在価値に気付いただけです。これ以上話す事はありません。それでは」
「待て!ラウラ!」
千冬の声を聞いても、ラウラは止まる事無くアリーナを立ち去った。
「……………クソッ!」
一人残された千冬は、その場で地面を強く踏みつけた。
…………………………
「今日からよろしくね。数馬」
「あぁ」
荷物を持ったシャルルの言葉に数馬は短く返事をした。
「それにしても、どうしてわざわざ僕と同じ部屋にしたの?元々は弾との相部屋だったんでしょ?」
「少し聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?何かな?」
「どうして男のふりをしている」
「え?」
数馬の言葉に、爽やかさに満ちていたシャルルの顔が固まった。
「何を言ってるのかな?僕は男だよ?」
「俺の提示出来る情報を示そう。
一つ、お前は俺達に肌を見せる事を嫌がった。それだけならまだ見せたくない傷等があるのだと思えるが、それならば言えばいい。
二つ、体の作りだ。この年に男子が迎える程の声変わりを迎えていない。その証拠に、お前の喉ぼとけは出ていない。
三つ、少なくともデュノア家に15歳~16歳の息子はいない」
「どうして?そんな事なんで君に分かるのさ!」
数馬の言葉に、シャルルは無意識にも激昂した。
「分かるさ。お前は覚えていないかもしれないが、俺は一度だけお前と会っているからな。『シャルロット・デュノア』、それがお前の真実の名前だ」
「会ってる?僕は君の事なんて知ら、ない………。御手洗 数馬………。え?まさか、御手洗 宗吉さんの息子?」
「あぁ、そうだ」
シャルルは………いや、シャルロットは数馬の顔を見ながら一つの答えに至った。
「そんな………。じゃあ、最初から?」
「まぁな。それで、どうする?」
「バレちゃったからね。どっち道、僕に未来は無いよ」
暗い顔をしながら言うシャルロットに、数馬はため息をついた。
「方法が無いのに、わざわざこうやってお前に言うと思ったか?」
「どういう事?」
「校則だよ。ここの生徒には原則としてどこの国であろうと干渉できない」
「そう、なの?」
「あぁ。猶予は三年だ。その間に決めろ」
「………ねぇ、数馬」
泣きそうな声で絞り出すように喋るシャルロットの次の言葉を、数馬は静かに待った。
「どうして、私を助けてくれるの?たった一度だけなんだよ?僕たちが会ったのは」
「そうだな、一度だけだ。だが、俺はそれでも覚えているぞ。お前の笑顔も、泣き顔も、怒った顔も、何故か頭に残っていた」
「でも、僕にはもう安心して笑える場所は無いよ…」
「なら、ここにいろ」
「え?」
数馬の言葉は、シャルロットの鼓膜に響いた。
「居場所が無いなら、俺が居場所になってやる。だから、笑えよ。いや、今は泣いとけ」
数馬はシャルロットの泣きそうな顔を見て笑いながら、シャルロットの頭を撫でた。
「う、うぅ………。あぁぁぁぁ!」
シャルロットは、大きな声を上げて泣いた。
「全く、お前は変わらねぇな」
「うわぁぁ!う、う、数馬のバカぁ!そんな事言われたらぁ…うわぁぁん!」
「分かった分かった」
数馬は苦笑いしながらシャルロットを抱きしめた。
…………………………
「えっと?それで、シャルルはシャルルじゃなくてシャルロットだったって事か?」
「ごめん、さっぱり分からない」
数馬の提案で、信頼出来る人間には話そうということになって今に至る。
「それで、校則を利用してシャルロットを匿おうと。考えたね数馬」
「あぁ、まぁな」
「そう言えば、あの三人は怪我が酷いから呼べなかったよ。簪はまだ軽い方だから、学年別トーナメントには出られるって」
ステラは一瞬だけ顔を強張らせ言った。
「そうか、なら仕方ないな」
「でも、そうしたらどうする?学年別トーナメントは急遽タッグマッチになったが、セシリア達が居ないのであればこの場のメンバーと簪でチームを決めなければいけないが」
箒の提案に全員が唸ったが、数馬だけはすでに何か決めているようだった。
「一夏とシャルロット、俺と弾、ステラと簪だ」
「まぁ、それが妥当だね」
「え?でも箒はどうするんだよ?」
「私は他と組むさ。専用機持ちと組んで足手まといになっても申し訳ないからな」
「そっか………。もし試合で当たったら、よろしくね」
「あぁ」
ステラと箒はトーナメントでの事で盛り上がろうとしていた。だがそこに弾が口を挟んだ。
「でもよ。確実になんか起こるよな」
「そうなったら、俺達で止める。それと、今回は特にデストロに注意だ。俺達に存在が知れた今、遠慮の必要が無くなったからな」
「そうだね」
「あぁ、そうだな」
「了解」
「分かった」
(え?デストロって誰?)
二日後、シャルロットの疑問を置き去りにして学年別トーナメントは始まった。
今日ここまで投稿して、あとは本当に不定期です。
ご迷惑をお掛けしますが、今後とも『インフィニット・ストラトス ~空から落ちてきた白銀と少女~』をよろしくお願いします!