インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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混乱と出会い Sixteenth Episode

「束、ステラの容体はどうだ?」

 

「まだ目が覚めないよ」

 

「そうか」

 

リビングの隣の簡易医務室で、数馬、弾、蓮、ステラがベットに横たわっていた。しかし、ステラだけが依然として目を覚まさず、数馬と弾も一度起きたらすぐに模擬戦をしに行ってしまった。

 

「これで二度目だな」

 

「うん。一度目も二度目も大切な人が傷付けられた事によりスーちゃんが怒りを見せた時に発動している」

 

「ステラにとっては、自分より他人の方が大切なんだな」

 

「そうだね。私には真似出来ないよ」

 

ステラの頬を撫でながら言う千冬に、束は苦笑混じりに答えた。

 

「ねぇ、千冬。貴方達は知っているんでしょ?ステラちゃんのさっきの状態の事を」

 

「あぁ、知っている。お前にトリガーを渡した日が、私たちの中では最初だ」

 

「そう。あの日なのね」

 

蓮は少し考えた後に、再度千冬を見た。

 

「私にも教えて。ステラちゃんのあれがなんなのか」

 

「……………良いだろう」

 

『ならば私から話します』

 

「あぁ、頼む」

 

ギンギラの声を聞いた千冬は、ディスプレイを付けて蓮の隣に立った。

 

『ありがとうございます。それでは話す前に蓮さんにお願いします。この話を聞いても、決してマスターの事を特別視や、軽蔑をしないで下さい』

 

「当たり前でしょ?する訳無いじゃない」

 

『わかりました。それでは話しましょう。私の前マスターとマスターのここではない星の出会いの話を』

 

 

…………………………

 

 

「お父さーん!」

 

開いた扉から一人の少女が飛び出してきた。

 

「おぉ、ステラ!いい子にしてたか?」

 

ステラと呼ばれた白髪の少女は、抱きつきながら男の顔を見上げた。

 

「うん!あのね、私今日いっぱいお花摘んできたの!あとでお父さんにも見せてあげるね」

 

「おう!」

 

「おかえり、ブレン」

 

「ただいま、ティキ」

 

ブレンと呼ばれた男とティキと呼ばれた女は、互いに微笑みながら挨拶を交わした。

 

「ねぇねぇお母さん!今日のご飯何?」

 

「ハンバーグよ」

 

「わーい!私ハンバーグ大好き!早く食べよ!」

 

ステラはそう言いながら食卓に走っていった。

 

「あーもう、ステラ!廊下は走っちゃダメよ!」

 

「だってお母さんの料理早く食べたいもん!」 

 

「それは嬉しいけど、廊下は走っちゃダメ」 

 

「もー!お母さんのケチ!」

 

なんだかんだあって、三人は食事を済ませた。そしてステラは少し遊んだ後に、疲れて眠りについた。

 

「ステラ、寝たか?」

 

「えぇ、ぐっすりと」

 

「そっか…………そういえばウォルター教官が、ステラは俺達に任せるってさ」

 

「そうなの?なら安心ね」

 

二人はいつしか暗い顔になっていた。

 

「あれから三年か……」

 

「そうね。あの事件から、三年」

 

 

…………………………

 

 

「おい!待て!」

 

警報音の鳴り響く研究施設で、ブレンは白衣の男を追いかけていた。

 

「くそ!何故この場所が分かった!NEVEC!」

 

「教えねぇ、よ!」

 

ブレンは男を蹴り上げて気絶させ拘束し、次に研究の資料を拾い始めた。

 

「うっわ、まさに外道だな…………ん?」

 

ブレンがふと横を見ると、そこには一つの大きな水槽の様な物があった。そしてその水槽は黄緑色の液体に満たされていた。

 

「なんだ?また人口のエイクリッドか?…………っ?!」

 

その水槽には、一人の小さい赤子が入っていた。

 

「くくくっ、驚いたかい?それは私が作った人型人工生命体『エクスノイド』さ。人工的にエクストルーパーを作る研究の一環でね」

 

「ふざけんな!人の命をなんだと思ってやがる!」

 

ブレンは男を睨みながら胸倉を掴んだ。

 

「ただの研究材料さ。どれだけ手っ取り早く『奴』に近づく為のね」

 

「奴?」

 

「君は疑問に思った事は無いかい?そもそもT-ENG(サーマルエナジー)はどこから来たのか。その答えがそこの画面に映っているよ」

 

「あ?…………嘘だろ?」

 

ブレンは男の言葉を聞いて画面を見ると、そこにはとあるデータが記されていた。

 

「嘘じゃないさ。そこに書かれているのは紛れも無い事実さ」

 

ガタンッ!ドカァーーンッ!

 

「なんだ!」

 

「自爆プログラムさ。そしてこれが起動したと言う事は、アイツはもう脱出したようだな」

 

「アイツって誰だ!」

 

男の先程からの濁す様な言い方に、ブレンは苛立ちを隠せなかった。

 

「なに、私の後継者さ。それよりいいのかい?このままここにいても、君は死ぬぞ?」

 

「くっ!…………なぁ、あの子は本当になんなんだ?」

 

「体の構造は限りなく人間に近い。アレは君と雪賊の大女神の細胞から作った、ある意味君達の子供さ」

 

「そうか。なら、連れて帰らせてもらう」

 

「いいのか?確かに人として育てる事は可能だ。アレには何の知識も記憶も無いからな。だが、いつかアレが成長すれば自ら気付くだろう。そして感情の爆発でアレは覚醒する。それが君に止められるのか?」

 

男の言葉に、ブレンは静かに男を見下ろした。

 

「分からねぇよ。でも、俺が近くにいる限り止める。もし俺らが居なかったら、その時はあの子に友達が出来てる時だろうな。そして、友達がいればその友達が止めてくれる筈だ」

 

「確率は100%では無いのだろう?ならばやめておいた方が「うるせぇよ」ん?」

 

「それを決めるのはお前じゃねぇよ。『この子』だ」

 

ブレンはそう言って水槽を持ち上げた。

 

「ならば黄泉の国で見ていよう。ソレの決断とやらをね」

 

そしてブレンは水槽を抱えて、爆煙が充満した研究施設を脱出した。

 

 

…………………………

 

 

「あれから三年。あの子は三歳になって、人として生きている」

 

「何も知らずに、ね」

 

ブレンの表情は、どこか罪悪感の様なものを感じている様な表情だった。

 

「本当に良かったのか?あの子がもし真実を知って傷付いた時、『父親』として何を言えばいい?」

 

「ブレン……」

 

「まだ頭に残ってんだ。あの日のあの男の言葉が」

 

次にブレンが見せた表情は、悲しそうな表情だった。

 

「…………確かにこの子は兵器として生まれたかもしれない。けど、生まれと育ちは関係無いでしょ?大事なのは、この子がどう生きるか、でしょ?」

 

「そう、だな」

 

「きっとこの子は今後色々な困難に襲われるかもしれない。けど、その時はきっとこの子の周りには『皆』みたいな友達で溢れてる筈。だから、信じよ?」

 

「皆?あー、センパイ君とかクーリスとかか。なら安心だな!」

 

「ふふっ、そうね」

 

「さてと、それじゃあ寝るか!」

 

「うん、そうしましょう」

 

 

…………………………

 

 

『以上が、マスターの真実です』

 

「そう。つまりステラちゃんは、あの子達と同じなのね」

 

「あぁ。だから私達には守る義務がある」

 

「デストロが作ったあの子達と、EDN-3rdで作られたスーちゃん。二つの存在を」

 

会話が途切れ、医務室には重苦しい空気が流れた。

 

「私、少し焦りすぎてたかも」

 

「蓮?」

 

「私の力はまだ千冬にも遠く及ばない。なのにデストロに勝てる訳もないわね」

 

「確かに、れーちゃんは焦ってるかもしれない。けど、強くはなってると思うよ。だって、あんなに攻撃を正確に当ててたじゃん」

 

『ただ、まだ実戦経験が少なかっただけです。まだ強くなれます』

 

「三人とも、ありがとう。ゆっくりとまた始めるわ」

 

今まで復讐に燃えていた蓮の言葉に、三人は安堵した。

 

 

…………………………

 

 

「弾君はトランザム状態になると動きが直線的になるのよ。それは一夏君の瞬時加速(イグニッションブースト)中にも言える事よ」

 

「なる程、直線的……」

 

「さっすがロシア代表兼生徒会長。説明がわかりやすい」

 

リビングで、一夏達専用機組は楯無によるISの操縦技術の指導をされていた。

 

「それと数馬君はファイトスタイルが機体の能力に依存しがちな所があるから、素の状態でも戦える程の力を身に付けなければいけないわ」

 

「確かに一理あるな。能力を使用した戦いは避けるべきか?」

 

「いえ、能力は全然使っていいわ。けど、能力だけでは無くてもっと色々な戦い方を見につければ、能力と組み合わせて戦うことが出来る」

 

「そういう事か。助かる」

 

「いえいえ。それじゃあ今回はこのくらいにしておきましょうか」

 

数馬の返事に満足した様に楯無は手を叩いて終了を提案した。

 

「はい、ありがとうございました」

 

「そんじゃあ帰る準備すっか」

 

「あぁ、そうだな」

 

「私は皆に声をかけてくるわ」

 

そう言って楯無は、廊下へと消えた。


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