インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
「何故貴様がここにいる!デストロ・デマイド!」
千冬の怒鳴り声がアリーナに響く。
「なに、少し昔の友に会いに来ただけさ」
「誰が貴様などと!」
千冬はデストロを睨みながら叫んだ。
「酷いなぁ。僕が君に何をしたと言うんだい?」
「確かに、私には何も大したことはしていない。だがお前は!束の夢を汚し!多くの儚い命を奪い!壮吉と純を殺した!」
「え?」
「そいつが、親父を?」
「はっ?!」
千冬は我に返り後ろを振り向いた。
「そいつが父さんを殺したのか?」
「ち、ちが「そうだよ」っ!デストロ貴様!」
「僕が君達の父親を殺した」
「そうか」
「教えてくれてありがとよ」
数馬と弾はデストロを睨みながら言うと、一歩前に出た。
「待て!そいつは私が倒す!」
「何言ってんすか?」
「コイツは俺達が殺る」
「かかってきなよ。まぁ、勝敗は目に見えてるけどね」
「行くぞ弾!」
「おう!」
デストロの言葉を区切りに、二人は突っ込んだ。
「トランザム!」
「サイクロン!ジョーカー!」
二人は機体の能力を発動させながらデストロ目掛けて襲い掛かった。その様子を見てギンギラとステラは驚愕していた。
「ねぇ、ギンギラ。あれって…」
『えぇ。少し形状等は変わっていますが、あれは紛れも無くブレンと私が戦ったゼニスです』
「そう、だよね?ならなんでこんな所に?あれはあの戦いで破壊された筈じゃ?」
『あの威力ならばほぼ確実に破壊している筈です。しかし、ゼニスの残骸は発見されても、本体はどこにも見当たりませんでした。つまり』
「私達と、同じ?」
ギンギラの言葉に、ステラは信じられないように聞いた。
『可能性は大いにあります。しかし、彼は見覚えがありません』
「そうだね。EDN-3rdの人でもなさそうだけど」
『今は戦闘に集中しましょう』
「うん」
ギンギラはそこでステラとの会話を終えたが、思考の中では未だに先程の事を考えていた。
『(マスターにはこう言いましたが、デストロ・デマイドという名前は以前千冬さんの話の中に出てきた人物と同じ。同姓同名とは考えづらい。つまりは彼が束さん達を騙し、ISの技術を盗んだ犯人……)』
「何してるのギンギラ!反応遅れてるよ!」
『っ!すみません』
ステラの言葉にはっとしたギンギラは、急ぎ戦闘に集中した。
ガキンッ!
「ぐあっ!」
ガコンッ!
「がはっ!」
ギンギラが戦闘に意識を戻したのと数馬達が吹き飛ばされたのは同時だった。
「全員下がれ。コイツは私が倒す」
「でも!」
「『でも』ではない!足手まといだと言っているんだ!」
千冬の今まで見たことの無い様な剣幕に、全員がたじろいだ。
「さぁ、勝負だデストロ」
「ふっ、そんな未完成な物で僕に勝てるとでも?」
「勝つさ。完全に、真正面から!」
そう言うと千冬は弧月を二本とも抜刀して斬りかかる。
「はぁ!」
「はははっ!相変わらずのスピードだね!でもそれじゃあゼニスに勝てない事は君が一番分かっているだろう?」
「旋空弧月!」
ブンッ!
「うおっと!危ない危ない。こんな隠し玉があるなんてね」
「ちっ!」
わざとらしく大げさに振る舞うデストロに腹が立ち、千冬の剣戟は更に加速し鋭くなっていく。
「くっそ!」
しかし、デストロには一撃も当たらずに弧月の刃は常に空を斬っていた。
「トリガー、オン!」
突如響いた声に、デストロを含めた全員が上を見上げた。
「見つけた。デストロォォーーー!!」
上空から急降下して来るのは、トリガーを起動させてスコーピオンを二本構えた蓮だった。
「くっ!」
今まで余裕だったデストロの表情が、蓮の一撃で崩れた。
「まさか、君も居るとはね。ある意味で千冬より厄介だ」
「純の仇よ。今ここで殺す」
「無理だね。そもそも君はそんなに力は」
バンバンバンッ!
「ぐっ?!」
デストロは突如腕に重量感を感じた。デストロは腕を見るとそこには鉛色の重石が機体から生える様な形でくっついていた。
「こ、これは?」
「これで終わり!」
蓮はその言葉と共に一瞬で加速した。しかし、デストロは表情を一変させて邪悪ににやけた。
「蓮やめろ!罠だ!」
「っ?!」
千冬の声でその事に気付いた蓮だったが、既にデストロの間合いに入っていた。
「残念。ゲームオーバーだ」
デストロは重石が付いていない方の手を蓮に向けて赤黒い光弾を放った。
「蓮さん!」
その事にいち早く気が付いたのはステラだった。トリガーが解除された蓮が爆煙の中から弾かれた様に飛んできたのを受け止めて千冬に引き渡すと、ステラはデストロを睨んだ。
「正直、貴方が何者かだなんてこの際どうでもいい。貴方には聞かなければならない事があるけど、それもどうでも良くなった。でも、一つだけどうでもいいで済ませれない事がある」
そう言ってステラは目を閉じて、ゆっくりと開いた。するとステラの瞳の青かった部分が真っ赤に染まっていた。
「お前が、私の大切な人を傷付けた事だ!」
ステラの豹変ぶりに多くの者は驚いたが、中学の頃からステラを知る者達は焦り、動揺した。
『マスター!いけません!』
「ステラ!ダメ!」
「はあぁぁぁぁぁ!」
「リミットブレイク!」
ズドンッ!
ステラの叫びと共に、ギンギラから放出されていた光が強くなった。
「うらぁ!」
「くっ、はぁ!」
ガキンッ!
アリーナの中心で、ギンギラとゼニスの拳がぶつかり合う。
「オラッ!ダラァ!」
「グッ!なんだこのスピードとパワーは!」
「喰らえ!」
「ちっ!はあぁ!」
ギュンッ!
「ラァ!」
デストロの放った光弾をステラは殴り打ち消した。
「計算外だ!こんなの!…………仕方がない」
「ブースト!」
デストロの叫びと共に、ゼニスから放出されていた光が強くなった。先程のギンギラと同じ様に。
「サーマル!」
ステラはリングを前へと配置し、拳を腰の辺りに構えた。
「オメガ!」
対するデストロは両手を肩の高さまで上げた。
「キャノーーーンッ!」
ステラは拳を突き出して最大の技、サーマルキャノンを放った。その威力はいつもの倍以上だった。
「シューーーートッ!」
デストロは両手を突き出し、赤黒いエネルギーを撃ち出した。
ぶつかり合う黄と赤の光。その威力は互角で、拮抗したまま動かなかった。
「ここは引くのが身の為か」
デストロはそう言うと、全速力で戦闘中域から離脱した。
それを確認したステラは、サーマルキャノンを撃つのを止めた。
「待て!逃げんのか!私と戦えー!」
ステラの叫びはアリーナに木霊した。
「うっ!」
ステラは急に苦しみだし、倒れた。状況に取り残されていた者達は辺りを見回した。
サーマルキャノンの熱量により溶けて穴の開いた壁。所々に出来たクレーター。まだ十五歳の少年少女達にはその光景があまりにもショッキング過ぎた。
その後、束の指示で一同はステラを運んだ後にリビングに集まった。