インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
「次は私達ね」
「その様ですわね」
ステラ達の戦いを見ていた鈴とセシリアはそう言いながらカタパルトに立った。
「凰 鈴音、甲龍!行くわよ!」
「セシリア・オルコット、ブルーティアーズ!行きますわ!」
二人の声と共にカタパルトはレールの上を滑り、二人をアリーナへと解き放った。
「手加減しないから」
「無論ですわ」
<試合、開始!>
「はぁ!」
「やはりそう来ますか!」
試合開始の合図が聞こえると、鈴は双天牙月を展開して真っ先にセシリアに突っ込んだ。それを予測していたセシリアはスターライトMk-Ⅲを展開しながら距離をとった。
「遅い遅い!」
鈴は龍砲でセシリアを狙い撃つが、セシリアはそれを縦横無尽に機動することで当たる回数を最低限に収めていた。
「今ですわ!」
セシリアはいつの間にか飛ばしていたビットを甲龍に向けた。
「チッ!危ないわね」
鈴はそれをギリギリで回避して上に飛び上がったが、セシリアは既にその位置に銃口を向けていた。
「終わりですわ!」
「っ?!」
鈴が気付いた時には既にビームがそこまで迫っていた。
「くっ!仕方ない!」
鈴はそう言うとビームに向かって龍砲を最大出力で放った。二つのエネルギーはぶつかり合って相殺されたが、エネルギーの衝突地点が近すぎた為にダメージを負った。
「もう少しで、やられる所だった…やるわね」
「まさかエネルギーを衝突させて相殺するなんて。流石ですわ、鈴さん」
「はっ、澄ました顔で、言って、くれんじゃない」
息切れを起こす鈴をセシリアは余裕の表情で見ていたが、内心は驚いていた。
(あの一瞬であの判断を下すのは非常に困難ですわ。しかし、鈴さんは特に誇る様子もありませんし。あれが野生の勘というものですの?)
「なにボーっとしてんのよ!」
「っ!」
鈴は考えに浸るセシリアに二つを連結させた双天牙月を投げた。
「しかし、その程度なら!」
セシリアがそれを避けると、機体からロックオンされている事を警告するアラームが響いた。
「さっきの、お返しよ!」
「くっ!ティアーズ!」
先程とは逆の立場になり、セシリアは苦い顔をしながらビットを四つ前に出して盾にした。
「これであんたの戦力は大幅に落ちたわね」
鈴の言葉に、セシリアは下唇を噛んだ。
(確かにそうですわ。鈴さんは装甲へのダメージはあるものの、武装は全て使える状態。私はビットを四つ失い、インターセプターは使えますが近接格闘では鈴さんには敵いませんわ。つまり…)
「絶体絶命ですわ…」
「これで終わりよ!」
鈴はそう言うと双天牙月を二本に分けて投げた。
「その手ならもう食らいませんわ!」
セシリアは飛んできた一本目の双天牙月をスターライトMk-Ⅲの側面ですべらせる様にして受け流し、次に飛んできた方はビームを撃ち弾いた。
「まだまだ!」
鈴は弾かれた双天牙月を掴み龍砲を撃ちながら全速力でセシリアに迫った。
「どこを狙っていますの?」
しかし鈴の撃った龍砲は明後日の方向に向き、セシリアの後方で衝突音が響く。
ガキンッ!
「?」
突然響いた金属音を聞き、後ろを振り向くと。
「なっ?!」
そこには、急速で回転しながら迫る弾いたはずの双天牙月があった。
「くっ!」
セシリアはそれを受け流す事で回避した。そして、次にセシリアの目に映ったのは。
「うらぁーーーーー!!」
二本の双天牙月を振り下ろす鈴の姿だった。
………………………………
「中々いい動きだったぞ。特に最後の決め手は見事だった」
「あ、ありがとうございます!」
ピットに戻った鈴を待っていたのは
「本当にお見事でしたわ。最後のはどうやってやったのか、今でも分かりませんわ」
「あぁ、ええとあれは…」
「まずは壁を龍砲で深く凹ませる。そしてそこに向かって双天牙月を投げつけて、出力を抑えた龍砲をそこに撃ち続ける事で生まれる空気の流れを使うんだよ。その空気に乗って双天牙月が動いて、そっちに気をとられた相手に攻撃するっていうのがさっきの戦いで使った戦法、だよね?」
「え?あ、あぁうんうんそうそう!」
「なーるほど。そういう使い方もあるのか」
鈴が説明に戸惑っている所に、いつの間にかピットに入っていたステラが補足し、束が納得したように頷きながら歩いてきた。
「どうだ束。私の生徒は」
「うん。状況判断能力も高いし、それを活かすための反射神経とかもしっかり付いてる。そしてなにより、ISとの適合率が高い」
束の言葉に、セシリアと鈴は首を傾げた。
「私のISの適正はAですので、普通の代表候補生でもこのくらいは多くいますわよ?」
「私もAです」
「あぁ、そうじゃなくて。コア自体との適合ね」
「「コア自体との適合?」」
聞きなれない言葉に、セシリアと鈴は再び首を傾げた。
「うん。コアには自我にも似たものがあるのは知ってるよね?」
「はい」
「勿論ですわ」
「つまりは、コアとどれだけ仲が良いかって事なんだよ。ISが気に入らなければ本来の力は発揮されないし、ISが認めれば必然的に力は通常を遥かに凌ぐ物となるんだよ」
「そんなシステムが」
「全く知りませんでした」
「そりゃそうだよ。ここでしか言ってないもん」
「おーーい。準備出来たぞーーー!」
「あー、はいはい。ちょっと待ってね」
カタパルトに乗った弾に言われ、束は端末を操作して弾をアリーナへと運び出した。
「出たか」
「あれ、数馬?弾と戦うんじゃないの?」
「そのつもりだったんだがな」
「おい、束。お前が呼んだのか?」
「うん」
「そうか」
「え?なんでここに?!」
全員が見つめるモニターに映る弾の正面に立つ人物。それはその場の殆どが見知った人物だった。
「……………母さん」
「少し久しぶりね。弾」
弾の母親、蓮だった。
「なんで母さんがここに?」
「分かってるでしょ?それでも聞くあたり、純に似てきたわね」
「さぁな。皆目検討もつかねぇよ」
「まぁいいわ。私が勝手に理解しておくから」
蓮はそう言いながら、ポケットからトリガーを取り出した。
「えぇ?!なんで蓮さんがトリガーを?!」
「トリガー、オン」
スピーカーから響くステラの声を他所に、蓮はトリガーを起動させた。
「いくら母さんでも手加減しねぇからな。俺にも譲れねぇ物がある」
「ふふっ、そもそも勝てると思ってるの?」
「速攻で終わらせてやるよ!」
弾は
「甘いわね」
蓮は余裕でその攻撃を手に持ったスコーピオンで受け止めた。
「チッ!」
弾は舌打ちをしながらなぎ払うようにGNブレードを振るった。
「感情的になって勝てるほど、私もアイツも甘くないわよ?」
「そんな事、分かってんだよ!」
「いえ、分かってないわ」
「っ?!」
先程まで地面にいた筈の蓮が目の前に現れた事に、弾は驚愕した。
…………………………
その頃、ピットでは。
「流石れーちゃん。もう完全にトリガーを使いこなしてるよ」
「あぁ」
「そんなことより束さん!いい加減に教えて下さい!なんで蓮さんがトリガーを持ってるんですか?!」
「篠ノ之博士。そもそもトリガーとはなんですか?」
「ていうか何で蓮さんがいる」
「あぁもう!私聖徳太子じゃないんだから一斉に聞かないで!」
三人の質問攻めに、束は後ずさりした。
「とりあえずトリガーについて説明するね。トリガーは私の作った擬似ISコアを埋め込んだシステムの総称だよ。今は研究用の三本と実戦用の二本の五本しかないけど、使い手によってはISをも上回るよ」
「使い手によっては?」
「本来のスペックはISには劣るんだよ。所詮擬似的な物だからね」
束の言葉に、楯無は疑問を抱いた。
「何故擬似的なのですか?ISのコアは篠ノ之博士が作ったのですから、完璧な物を作ればいいじゃないですか」
「そ、それは…」
束は楯無の言葉に口篭った。
「更識姉。その事は後でだ。ここでは耳が多すぎる」
「そうですね」
「さて、次はスーちゃんだね。れーちゃんのトリガーは私が渡したんだよ。理由は言えない」
「どうして!」
「それが約束だから。いくらスーちゃんでも、教えられない」
「…分かりました」
ステラは無理矢理に自分を納得させた。それを見ると、束は数馬の方を向いた。
「さて、次はカズ君だね」
「いや、俺はいい。あの戦いを見たらなんとなく分かってきた」
「そっか」
数馬の言葉に全員がモニターを見ると、既に決着がついていた。
…………………………
「はぁ…」
束島の西側。夜の草原に、弾は寝転び星空を睨んでいた。
「勝てなかった」
「なに黄昏てんだよ」
「数馬?」
寝転ぶ弾に声をかけたのは、湯気の立つコーヒーを持った数馬だった。
「なに焦ってんだよ」
そう言いながら数馬は弾の隣に腰を下ろした。
「……やっぱ数馬には隠せねぇか」
「当たり前だろ。何年親友してると思ってる」
「そりゃそうか」
弾は笑いながら答えたが、すぐにまた先程の表情に戻った。
「ステラが始めて俺の家に来た日覚えてるか?」
「あぁ。それがどうした?」
「あの日、母さんが束さんに電話してるの聞いたんだよ。その時、母さんは殺すって言ってた。そして、電話が終わった後に父さんの名前を呟いたんだよ。それに毎年父さんの命日になると必ず何かを恨む様な顔をするんだよ。これってつまり」
「殺されたって言いたいのか?」
「……あぁ」
数馬の言葉に、弾は悲しそうに答えた。
「だから、母さんはソイツに復讐しようとしてるんだと思うと、止めたくて………………でも、母さんの復讐心はもう止められないって分かった。だから、母さんがソイツを殺す前に俺が殺す」
「やめとけ。お前には無理だ」
「かもな」
「だが、お前が決めたんだろ?なら好きにしろ」
「いいのかよ」
「その時の気分次第だ……………お前は俺が死なせない」
「ははっ、心強いこった」
弾はそう言い、拳を突き出した。数馬も無言で突き出し、互いの拳をぶつけた。
そして、夜空に不自然に赤黒い星が煌いているのに、二人はまだ気付いていなかった。