インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
「だーかーらー!トランザムはダン君への負担が大きいの!時間伸ばすとか無理だから!」
「だから!あれじゃあ時間も出力も足りねぇの!アリーナ壊れた時だってギリギリで、下手すりゃ死人出てたんだぞ!どうせリミッター掛けてんだろ?さっさと外せよ!」
「あー!もう!弾も我儘言わない!ただでさえピーキーな機体なんだから、そうそうリミッター外せないよ!」
ここは束のラボの整備室。そこにはそれぞれの専用機、そして見たことの無い機体が一機鎮座していた。
「ちょっと三人とも落ち着いて!」
言い争う束と弾とステラ。そしてそれを止めようとする翔一。何故この様な状況にあるか。それは今から約二時間程前。
…………………………
「やーやー!久しぶりの子は久しぶり!初めましての子は初めまして!皆のアイドル、みーたn……束さんだよぉ!」
一瞬どっかのネットアイドルの名前を口走りそうになった束だったがすぐに言い換えた。
「皆さんお待ちしておりました。束様のメイドを務めさせていただきます、クロエです。以後お見知りおきを」
何故か歩きながら言うクロエに全員が疑問を抱いていたが、次の瞬間更なる疑問に襲われる。
ギュウッ
「はぁー♡ステラ様の匂い、落ち着く♡」
「おわっ?!えぇ?!どうしたのクロエさん!ていうか何があったの束さん!」
「いやぁ、私ばっかりスーちゃんに会ってたらいつの間にか禁断症状起こしちゃって。ははっ」
「いやいや笑ってる場合じゃないでしょ!クロエさんこんなキャラでしたっけ?!」
「まぁまぁ、対処法ならもう考えてるから」
「何ですか?!言ってください!」
焦るステラに落ち着いたまま語りかける束。しかし、周りはまだぽかんとしていた。
「ちょっと耳元で『ただいま、クロエ』って囁いてみて。出来るだけ暖かい息漏らしながら」
「いいですけど、何でですか?」
「え?あー、それはまぁ。何となく」
(あっぶなー、スーちゃんこういうの知らないの忘れてた)
「えっとー、ふぅ……」
「ただいま、クロエ」ボソッ
「んんっ♡おかえりなさい………………あれ?私何を?!」
「あ、戻ってきた」
ここまで約二分。未だにぽかんとしているその他大勢だった。
…………………………
「という事で!束さんの束さんによる束さんの為の島。略して束さんの島へようこそ!」
「あれ?でも束さんって移動型ラボで世界を放浪するんじゃ」
「まぁまぁ、細かい事は気にしない!」
実際に、束は移動型ラボで世界中を放浪していた。しかし、そのせいでステラに会いづらいとクロエが駄々をこね始めてしまったので、急遽人工島を建設した。無論ステルスも完備している。
「さてと、それじゃあ早速料理を出すね。クーちゃん手伝って」
「はい。かしこまりました」
すっかりいつもの調子に戻ったクロエと共に束は厨房へと消えた。
「一番星ちゃんは作らないの?」
「いや、そのつもりだったんだけどさ。『成長した私達を見せてあげる!』って言われてさ。断りづらくて」
「なーんだ、残念」
残念がる本音。何気に適応力が高い。
「ここが、篠ノ之 束のラボ………」
楯無は少し警戒した様な目で部屋を見渡す。
「お嬢様、一応人様の家です。あまり見渡すのは良くありませんよ」
「それもそうね。それと、お嬢様って止めてくれる?学園では会長って呼べと」
「ここは学園ではありませんよ」
「うぅっ、的確に痛い所を……それなら昔みたいにたっちゃんで」
「それでは立場が」
「同い年なんだから立場も何も無いでしょ?それに、そういうのをとっぱらってこそ食事を楽しめるのよ?」
「……そうですね。たっちゃん」
「ふふっ、それでいいのよ」
微笑ましく話す二人を少し離れたステラの隣の席から見る視線が一つ。
「何でお姉ちゃんが?どうして?」
酷く困惑した簪だった。
「簪、ごめんね?」
「直前で行かせてって言われたものだから、つい」
「それにね~、一番星ちゃんは二人の関係の修復の為にお嬢様を呼んだんだよ~」
「あ、ちょい本音!何でそれ言っちゃうの!」
「そうなの?ステラ」
「あの、ごめんね?勝手にこんな事しちゃって……」
「ううん。ステラが私の為にしてくれたんだから、嬉しいよ。でも、次からは事前に言ってね?」
「うん!」
簪に撫でられながらそう言われ、ステラはニコッとしながら答えた。そして簪は席を立ち、虚の席と交代した。
「皆お待たせー!束さんとクーちゃん特製メニューごっちゃ混ぜフルコースだよー!」
束はそう言うとテーブルに敷いてあるテーブル掛けを叩いた。すると、テーブル掛けから和、洋、中華と様々な料理が現れた。
「どうよ!この為だけに作ったグルメテーブル掛け!某ネコ型ロボットの秘密道具を完全に再現したよ!まぁ、拡張領域の技術を応用してテーブル掛けの中から取り出してるだけなんだけどね」
「うおぉぉぉ!グルメテーブル掛け!最高かよ!」
「何だろう。技術の無駄遣いな気が」
「はぁ?!使える技術は使い潰すのが基本だろうが!」
「落ち着け弾。まぁ、自分で作った技術をどう使おうが束さんの勝手だろ」
「まぁいいんじゃない?美味しそうだし」
「それじゃあ!皆食べていいよ!」
束の言葉に全員が一斉に食事を始めた。
「うん!美味い!店出せるレベルだよ!」
「ふふん、創作料理の神と噂の津上 翔一に褒められるとこちらも鼻が高いよ」
褒める翔一に、束は少しドヤ顔まじにりにそう答えた。
「うん、確かに美味しいわね!それにこの酢豚も!」
「さっすがクロエさんに束さん!料理の飲み込み早いねぇ。私も流石にここまで上達してるとは思って無かったよ!これはもう私追い抜かれちゃったなぁ」
「そんな事ありませんよ。ステラ様の料理にはまだ敵いませんよ。何せステラ様の料理は愛情がたっぷりで尚且つ美味しいですから、まだ私は追い付けません」
にこやかに話す鈴とステラとクロエ。
「下手なファミレスより美味いな」
「あぁ、特にこのステーキの焼き加減が絶妙だ」
「ポテトうめぇー!」
それぞれの感想を述べる一夏、数馬、弾。
「あの姉さんが料理……?」
「束は既に家事が出来ると言うのか?ま、まずい。相当出遅れている。それに、何故束と津上先生が話しているのを見てイライラしているんだ私は!」
小声で呟く箒と千冬。
「えっと、その……元気だった?簪ちゃん」
「う、うん。それなりに……」
「お嬢様……」
「これは気まずいね~」
気まずい主人姉妹を見守る従者姉妹。
全員感想はそれぞれだが、その表情は楽しそうだった。
…………………………
「さてと!食事も終わったし、皆の機体のチェックでもしようか」
「束様、整備室のメインコンピュータを起動させてきます」
「うん、よろしく」
クロエはそう言い、部屋を出た。
「それじゃあ皆ISを出して」
「私達も、ですか?」
「うん、お願い。この前の無人機のデータ取りたいから」
「そうだ、束。あの無人機について分かった事はあるか?」
「え?あー、うん。でもその話はここじゃ」
「出来ない様な内容なんですか?」
「いや、こういうのはあまり多くの人に知れちゃ行けないから」
ステラの質問に、束はそれとなく返した。
「私達当事者なんだけどね」
「うっ…」
「私達も学園の生徒会として知る義務があります」
「うぅっ……分かったよ。言うよ」
ステラと楯無の鋭いツッコミに折れ、束は大きなディスプレイに映像を映し出した。
「これがあの無人機『ゴーレム』の資料だよ。元々は私のラボで研究していた無人探査用のISだったんだけど、その資料の内の五割程が何故かコピーされちゃってたんだよね。そして、その直後にIS学園の襲撃。更に、あのISの最大の特徴は「束、それ以上は言うな」………そうだね」
「どうしてですか?どうして何も教えてくれないんですか?!」
「ここからは、最重要機密だ。例え当事者であろうと生徒会であろうと、教えられない」
「しかし!」
「これは教員として命令する。これ以上聞くな。いいな?」
「「………はい」」
「皆さん、整備室の準備が整いました」
会話に区切りが付いた所で、整備室からクロエが戻って来た。それに反応する様に、部屋に張り詰めていた重い空気は消えた。
「うん、分かった。皆、行こ?」
束の言葉に全員が従った。
…………………………
「だーかーらー!トランザムはダン君への負担が大きいの!時間伸ばすとか無理だから!」
そして場面は冒頭に戻る。
「だから!あれじゃあ時間も出力も足りねぇの!アリーナ壊れた時だってギリギリで、下手すりゃ死人出てたんだぞ!どうせリミッター掛けてんだろ?さっさと外せよ!」
「あー!もう!弾も我儘言わない!ただでさえピーキーな機体なんだから、そうそうリミッター外せないよ!」
「ちょっと三人とも落ち着いて!」
「そうだ五反田。お前はいいかも知れんが、守られる側は納得していないようだぞ?」
「え?」
「弾君!貴方はもう少し自分の体を気遣って下さい!」
「だから、それを言ってられる程「少し黙って下さい!」は、はい!」
間髪をいれずに話す虚に、弾は流される様に聞く側になった。
「貴方はすぐ突っ走りますけど、こちらからすればただいつもヒヤヒヤしてるんですよ?!心配で心配で、だから」
「あーもう分かったって!」
「何?あの二人できてるの?」
「いや、まだだよ~」
「へぇー。まだ、ね~」
夫を心配する妻の様な虚の言葉に、楯無は二人の関係を怪しんだが、本音の「まだ」という言葉に少しニヤリとした。
「それより、気になってる事あるんですけどいいですか?」
「ん?何かな?」
「あの機体、誰の?」
「あー、あの機体ね。あれは翔一君のだよ」
「え?俺の?」
自分にはあまり関係の無いことだと思い、近くのベンチに座って本を読んでいた翔一は、突然自分の名前が呼ばれた事に驚いた。
「うん。世界に四人だけの男性操縦者なんだから、護身用に持っといた方がいいよ」
「いや、でも俺ISなんて一回しか触った事無いしな~………」
「どんな機体なんですか?」
「うん、これはモードセレクトで武装が変わる機体だよ。まぁ遠距離系は無いんだけどね」
「津上先生、あなたもIS学園の教員。持っておいて損は無いと思います」
「織斑先生……はい、分かりました!それじゃあ束さん、お願いします」
「うん!それじゃあ
「はい」
束に言われ、翔一は扉から隣の部屋に向かった。
「それじゃあ他の皆もそこら辺のハンガーにISを掛けててね。スーちゃんはギンギラちゃんを置いたら簪ちゃん連れてきて」
「はーい」
それぞれ指示に従って作業を始めた。しかし、ここで三人程困っていた。
「「「私は何をすれば…」」」
専用機を持たない箒と本音、虚だった。
「虚ちゃんちょっと来て」
「どうしたんですか、たっちゃん」
「ごめん、手伝って本音」
「はいは~い」
「…………さて、何をするか」
「箒ー!ごめん手伝って!この荷物私一人じゃ無理っぽい!」
「っ!あぁ!今行く!」
頼られた事が少しでも嬉しかったのか、箒の顔は嬉しそうだった。
「束さん、着替え終わりましたよ」
「うん、分かった。それじゃあこの子に触れて」
「………………」
トンッ
翔一は静かにISに触れると、ISと翔一は光に包まれた。光が止むと、そこには黄金の装甲を纏った翔一が立っていた。
「何だろう。初めてな気がしない」
翔一は手を閉じたり開いたりしながらそう呟いた。
「それじゃあ、名前を決めようか。何がいい?」
「……………………アギト」
「どうして?」
「何でか分かんないけど、頭に浮かんだんです」
「そっか。なら
…………………………
「ふむふむ、これは確かに学生レベルじゃ難しいね。よくここまで頑張ったね。流石スーちゃん」
「でも、やったのは殆ど簪だよ。私は簪の苦手な部分を補っただけだし」
「ほえー。今の代表候補性はレベルが高いね」
束が簪に関心する束に、ステラはデータを開きながら問いかけた。
「それでさ、この前の事なんだけど」
「うん、全然いいよ。でも武装の実践データは私じゃ無理だから、スーちゃんよろしくね」
「うん、その程度なら幾らでもいいよ」
「あの、ありがとうございます。私なんかの為に…」
「え?お礼なんていいよ。そもそも私のせいなんだし」
「でも、これだけは言いたくて…」
「…………そうだ!ねぇ、かんちゃんって呼んでいい?」
「え?いいですけど」
「ありがとね。それじゃあかんちゃん。君にやって貰いたいことがあってね」
「束さん?」
「実はこれはそこそこ難易度高いんだけど、頼めるかな?」
「はい!私に出来ることならなんでも!」
「そっか、ならお願い」
「何するんですか?」
「それはねぇ」
ガシャーーーンッ!
「おわっ?!なになに?!」
「うらぁ!」
「たぁ!」
何かが壊れる様な音が整備室に響き、その方を全員が向くと、そこには紅蓮と黄金の光が幾つもの線を描いていた。
最近ステラの妹感強すぎると感じています。
そして翔一の機体は皆さんお分かりでしたでしょうが、やっぱりこれです笑