インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~   作:鉄血のブリュンヒルデ

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混乱と出会い Tenth Episode

「それじゃあ始めよっか」

 

「うん」

 

机の上に広げられた設計図。それには至る所に赤いペンで修正や追記がされていて、どれもがISの専門用語ばかりだ。

 

「昨日どこまでやったっけ?」

 

「慣性制御のシステムの見直し」

 

「あー、あそこね」

 

二人のこの作業は、クラス代表決定戦の日から行われていた。

 

 

…………………………

 

 

ガチャッ

 

「うぅ、まだ背中がヒリヒリする……」

 

寮の扉を開きながら、ステラは呟いた。一夏の全力の零落白夜によって受けた傷は、束の作った医療用ナノマシンが塞いだ。しかし、まだ体が順応していないのか、ステラは背中に変な感覚が残っていた。

 

「ここは、こう。出力はもう少し上げて。でもそれだと重量が増すから……」

 

「ん?更識さん何やってんの?」

 

「ひゃっ?!ターナーさん?」

 

「あ、ステラでいいよ?その方がしっくりくるし」

 

「なら、私も簪でいい」

 

「オッケー、簪。それで、それって何の設計図?」

 

「あ、えっと…」

 

未だ動揺する簪を他所に、ステラは机に広げられている設計図を見た。

 

「『打鉄弍式』?打鉄の次世代、でも無さそうだけど」

 

「それ、私の専用機なの……」

 

「そうなの?………………えっ、だったら何で簪が設計図なんて」

 

「私の専用機の開発が中断されちゃったから」

 

「中断?ISは国にとって最重要の筈なのに……………ねぇ、簪。もしかして簪の専用機を開発しているのって倉持技研?」

 

「そうだけど、どうしたの?」

 

ステラは簪の返答に、少し呆れた様な表情になった。

 

「幾ら初の男性操縦者だからって、元からある契約をほっぽり出すなんて」

 

「あ、違うの。打鉄弍式を担当してくれてた技術者さんは最後まで粘ってくれたの。でも上の人からの命令だからごめんなさいって。だから私は大丈夫」

 

「それでも、これは酷いね。半分くらいしか出来てないじゃん」

 

「やっぱり、私一人じゃダメなのかな?」

 

「え?」

 

「え?」

 

簪の言葉に呆気にとられ、間の抜けた声を出すステラ。そしてその声を聞いて同じ様な声を出す簪。

 

「一人って、えぇ?!これ簪一人で作ってるの?!」

 

「うん」

 

「どこから?!」

 

「フレームの設計の見直しから、だけど……?」

 

「凄い。簪ってそんな事も出来るんだ……」

 

「ステラも、出来るでしょ?」

 

「ううん、私はフレームの設計なんて出来ないよ。プログラムや整備くらい」

 

「私は、そっちの方が少し苦手」

 

「「…………あっ」」

 

二人は何かを思いついた様に声を出した。

 

「あの、簪。よければその、手伝っても、いい?」

 

「いや、その、私も手伝って欲しいなって…」

 

そして二人はパァっと表情を明るくして顔を上げた。

 

「「一緒に作ろう!」」

 

 

…………………………

 

 

そして、時間は現在に戻る。

 

「えっ?!ステラってあの篠ノ之博士の弟子なの?!」

 

「んー、ちょっと違う。私と束さんは第二の家族みたいな物かな」

 

「第二の?そういえばステラの両親って」

 

「結構離れた所に居るから、今は会えない」

 

「あ、ごめん…」

 

「いいよいいよ!それよりほら、続き続き!」

 

申し訳なさそうに俯く簪に、ステラはとびきりの笑顔で笑いかけた。

 

「…………うん!」

 

そして二人の作業は夜遅くまで続き、ある時ステラがある事に気付いた。

 

「束さんに手伝って貰うっていうのもありじゃん」

 

「え?」

 

「いや、束さんに少し武装や慣性制御プログラムを手伝って貰おうかなって」

 

「出来るの?」

 

「多分ね。忙しく無かったら大丈夫だろうけど……」

 

『マスター、束さんからビデオ通話です』

 

束の事を話していると、丁度束からの連絡が入った。

 

「おぉ!タイムリー!何何?」

 

〈やっほー!スーちゃん!実はクーちゃんが会えないからってごねだしちゃって、ご飯作ってくれないの!明日土曜日でしょ?出来れば来て!座標送るから!〉

 

「いや、別にいいですけど。あ、一つお願いいいですか?」

 

〈スーちゃんの頼みなら全然いいよ!何?〉

 

「実は、倉持技研が開発中だったISが一夏達の存在で開発が中止されちゃって。それで私とそのISの所持者の子で制作しているんですけど、資料や資材が足らなくて……だから」

 

〈うん、全然いいよ〉

 

「本当ですか?!ありがとうございます!」

 

〈それじゃあまた明日ね。そっちに迎えのロケット飛ばすから、数人乗れるスペースあるし誰か誘っていいよ〉

 

「はい!ありがとうございます!」

 

〈それじゃあバイバーイ!〉

 

「はい!さようなら!」

 

プツッ

 

電話が切れると、ステラは速攻でタンスを開き中から色々な物を取り出した。

 

「簪も準備しなよ」

 

「え?私も行っていいの?」

 

「え?行かないの?」

 

「いや、行きたいけど。邪魔にならないかな……」

 

「まさか!そんな訳ないじゃん!束さんだってあんな風にしてたけど、少しは罪悪感感じてるよ」

 

「罪悪感?」

 

『一夏さん達の専用機の開発には束さんも参加しています。それ故に、話している時に僅かに声の振動パターンが変わりました。恐らく少し動揺したのでしょう』

 

「そう、なんだ…」

 

ギンギラの言葉を少し信じられない簪だったが、ふと一つの事を思い出した。

 

「そういえば、さっき誰か呼ぶって言ってたけど誰呼ぶの?」

 

「え?あー、まぁまずは千冬さんかな。それと箒も呼ぼうかな」

 

「箒?」

 

「うん。一組の生徒で、束さんの妹なんだよ」

 

「そうなんだ」

 

 

…………………………

 

 

「それで、ステラ。だいたい誰に会いに行くのかは予測済みだが、なんだこの大所帯は」

 

学校の門の付近に、数人の人影があった。そしてそこに立つ千冬がステラに問いかけた。

 

「いやぁ、めぼしい人呼んでたらいつの間にか増えてて………でもほら、多い方が楽しいし!」

 

「はぁ……まぁいい。それで、このロケットに乗るのか?」

 

「はい」

 

「そうか、わかった」

 

千冬はそう言うと、一人で乗り込んだ。

 

「ほら、一夏達も乗って」

 

「おう」

 

「ステラ、これからどこに行くんだ?」

 

「まぁまぁ、それは着いてからのお楽しみだよ」

 

ステラにそう問いかける箒に、悪戯を仕掛けた子供の様な笑顔で答えた。そして一夏達男子メンバー三人と翔一、箒、鈴、そしてセシリアが乗り込んだ。

 

「ステラ、今日はありがとう」

 

「いやいや、元々はこの為だし」

 

「それでもだよ。それじゃあ、先に乗ってるね」

 

「うん」

 

「貴方がステラ・ターナーさん?」

 

簪が乗り込むのを見届け、自分も乗り込もうとしたステラに、一人の女子生徒が声をかけた。

 

「はい、そうですけど。えっと、あれ?もしかして」

 

「えぇ、私は更識 楯無。簪ちゃんの姉よ」

 

「そうですよね!やっぱりそっくり!」

 

「ステラさん。こんにちは」

 

「虚さんも来るんですか?本音誘えばよかったなぁ」

 

「あぁ、それなら」

 

「も~、一番星ちゃん酷いよ~。こんな楽しそうな事があるのに声掛けないなんて」

 

「え?!なんで本音いるの?!」

 

「お姉ちゃん達が話してるのを聞いて付いて来たのだ~」

 

本音の言葉に驚いているステラに、虚が申し訳なさそうに声をかけた。

 

「この事は簪お嬢様には内密にして頂けますか?」

 

「いや、いいですけど。ていうかお嬢様?」

 

「私の一家は、代々更識家に使える従者の家系なんです」

 

「そういえば更識ってどこかで……………あぁ!あの対暗部むぐぅっ?!」

 

思い出した様に声を上げるステラの口を、先程とは打って変わって人さえ殺しそうな顔になった楯無が塞いだ。

 

「貴方、どうしてそれを知っているの?場合によってはこのまま首を切るわ」

 

いつの間にかステラの首元には、鋭い木の枝が当てられていた。

 

「楯無お嬢様!お止め下さい!」

 

「そうだよ!そんな事したら、かんちゃんが悲しむよ!」

 

「……………事情は後で聞くわ」

 

「あ、ありがとうございます……後でこの事を教えてくれた人と事情説明します……」

 

「お嬢様、あまり脅さないで下さい。ステラさんが怯えています」

 

「え?あぁ、ごめんなさい!癖でつい……ごめんね?ステラちゃん」

 

「え?あ、えぇと、はい」

 

殺気に満ちていた表情と雰囲気は何処に行ったのか、その表情は本気で申し訳なさそうだった。それに戸惑ったのか、ステラは少し困惑した様な声を出した。

 

「おーい!ステラ!早く行こうぜ!」

 

「え?あー、ごめんごめん!今行く!楯無さん達も行きましょう?」

 

「そうね」

 

「えぇ、待たせてしまっていますしね」

 

「わーい、一番星ちゃんの手作り料理~」

 

そして四人もロケットに乗り込んだ。するとロケットの扉が自動で閉まり、エンジンが駆動し始めた。

そして十二人を乗せたロケットは空へ飛び出した。




三月四日に、内容を少し変えました。

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