インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
「えっと、今日は皆に大事な話があるから聞いてね?実は、今学年いっぱいで鈴ちゃんが中国に帰国することになりました。」
帰る前のHRで2年1組の担任の津上 翔一が唐突に告げた言葉に、クラスは時が止まったように静まり返った。
そして、数秒後にそれぞれの反応を示しだした。
「え?」
「何?」
「はぁ?!」
「おい、鈴!どういう事だよ!」
「どういう事も何も、そういう事よ」
驚き、現状が理解しきれていない一夏は、隣の席でいつもと変わらず飄々とした態度で座っている鈴に問いただそうとしたが、鈴の返しに何を言えば良いのか分からなくなった一夏は黙ってしまった。
「ま、まぁとりあえず帰りの号令しよ?ほら、放課後なら自由に質問していいから」
翔一の言葉に一先ずはそれを優先させようとクラスの殆どはすぐに納得し、鈴と親しい者達はその事をとにかく早く問いただしたいという思いから若干渋ったが、流石に関係無い者を巻き込むわけにも行かないので一先ずは翔一の言葉に従った。
「気を付け、礼」
『さようなら!』
礼が終わった瞬間にクラスの殆どが鈴の元に集まった。
「ねぇ、凰さん。どうして帰国するの?」
「家庭の事情って奴よ」
「お別れ会しようか?」
「別に良いわよ、そんなの」
「ねぇ、凰さん」
「あーもう、うるさいわね!私もう帰るから退いて!」
クラスの殆どからの質問攻めを鬱陶しく感じたのか、鈴はクラスメイトを押し退けて教室から出ていった。
「おい!待てよ鈴!」
「待って一夏!ここは私が行く」
「でも!」
「一夏、女同士の方が話しやすい事もあるだろ」
「…分かった。ステラ、頼む」
「任せて!」
ステラはそう言うと、鈴の後を追って走って行った。
それから約10分後、ステラは学校の敷地内で人気の無い場所に居た。
「鈴って、何かあるとよくここに来るよね」
ステラはそこでうずくまって座っていた鈴の隣に座った。
「ねぇ、鈴。ここに一夏は居ないよ?だから強がらなくてもいいんだよ?」
「ステラに嘘はつけないわね……
実はね、父さんと母さんが離婚するの」
「え?」
「父さんと母さんはまだちゃんと仲良いのよ?でもその親、つまり私のおじいさんとおばあさん達が揉めててね。それで仕方なく」
「でも、それと帰国って何の関わりがあるの?」
「とりあえず揉め事を収めるためにって。それを言われた時凄く謝られたなぁ」
「そっか。ねぇ鈴、こんな時に言うことでも無いと思うけど、一夏に告白したら?」
「はぁ?!なんでそうなるのよ!」
急に変な話を振られ、少し怒鳴り気味に鈴はそう言った。
「思いを伝えないままサヨナラなんて、悲しいじゃん」
「いや、それもそうだけど……」
思いの外ステラが真面目に言っている事に気が付くと、鈴は急に気恥しくなった。
「ねぇ、行こ?今一夏教室に居るから」
「あぁ、もう!分かったわよ!告白すればいいんでしょ?!」
「そうそう、その意気だよ♪」
「あんた楽しんでるでしょ」
「エェ、ナンノコト?」
「片言じゃん…はぁ……」
そんなこんなで、二人は教室に向かった。
しかしそこには一夏だけでは無く、数馬と弾もいた。
「ちょっとステラ!話が違うじゃない!」ヒソヒソ
「大丈夫だよ、私が連れ出すから」ヒソヒソ
「おい、鈴を連れ帰ったと思ったら急に二人で内緒話とはどういうこった」
「そんなことより、弾と数馬はこっち来て」
「あぁ、分かった」
「え?ちょい数馬了承早くない?」
「察しろアホ」
「は?………あぁ、そういう」
困惑していた弾だったが、ステラの表情と鈴の顔の赤さで察したのかニヤリと笑い数馬とステラを連れて教室から出て行くのだった。
「えっと、ねぇ一夏」
「おう、どうしたんだ?」
この状況で察せない辺りで一夏の鈍感さが誰でも感じ取れる。
「その、さ……私の話、聞いてくれる?」
「別にいいけど、何だ?」
「次に会った時に私が料理上手くなったら、毎日酢豚食べさせてあげる!」
「え?おう」
「それじゃあ!私帰るから!」
「お、おい!……行っちまった」
鈴は急いで教室を飛び出して走ったが、途中で廊下の影から伸びた腕に捕まった。
「ちょっと鈴こっち来い」
「わっ?!ちょっと何よ!」
そのまま使われていない教室に連れ込まれると、そこには先程教室を出て行ったステラと弾と数馬の3人が居た。
「あのさぁ、鈴。あれは無くね?」
「あぁ、一夏があれで気付くと思うか?」
「多分タダ飯食わせてくれるとかそんな感じだろうね」
「し、仕方ないでしょ!」
「まぁ、いいんじゃね?鈴がそれでいいなら」
「いや、良くはないけどさ………」
「ねぇ、鈴。私ね、また鈴と色々な事で競ったり協力したりしたい。だから絶対帰ってきてね!こんな事言ったらダメかもしれないんだけどさ、ここは私達のホームなんだからさ」
「ステラって、よくそのバンドの歌詞使うわよね。どんだけ好きなのよ……ねぇ、ステラ。あんたってIS学園に入りたいんだよね?」
「うん、そうだよ?」
「なら、IS学園に入る一番最速の方法って何?」
「普通に受験するのが無難だけど、それだと試験で数百人と競わなきゃいけないから、国家代表候補生か国家代表、または企業代表になって受けた方が確率的には高いかな。そもそも代表候補生や企業代表になる事が難しいんだけどね」
「そっか、専用機持てるのってそういう人間なの?」
「うん、そうだね」
「なら、私中国の国家代表候補生になる」
「「は?」」
「え?」
「あんたが言ったんでしょ?競いたいって。だから代表候補生になって専用機手に入れてあんたと戦う」
「………そっか、分かった!じゃあ私も頑張って合格しないとね!その時は負けないから!」
「こっちのセリフよ!」
ステラと鈴は笑いながら、お互いの拳をぶつけた。
「さてと、そろそろ帰るか」
「そうだな、さっさと帰ろうぜ」
「あ、待ってよ二人とも!」
「待ちなさいよ!」
「あ、おーい皆ー!一緒帰ろうぜ!」
「あ、ごめん一夏!忘れてた!」
「忘れんなよ!」
私達は、こんな平和な日々が続くと思っていた。
そう、これから半年後のあの日まで。
ここで鈴が中国に行った経緯を若干変えてみました。
何となくこれが丸っと収まるかなって思ってやりました。「ここはどうすれば」とか「もっとこうすれば」等の指摘や意見など頂ければありがたいです。
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