インフィニットストラトス ~空から降ってきた白銀と少女~ 作:鉄血のブリュンヒルデ
12月に入り、クリスマスシーズンということもあり街は多くの人で溢れていた。
そしてそんな街を歩く二人の少女。ステラと鈴だ。
「寒いわねぇ…ねぇステラ、カイロない?」
「ん?あるよ。いる?」
「マジで?サンキュー」
今夜は一夏の家に集まりパーティーを開こうという事で、二人は皆に渡すプレゼントを買って帰る所だった。
二人は五反田食堂で食事をした後からすぐに仲良くなり、たまにステラが鈴の恋愛相談(殆ど愚痴)を聞いたり、二人で遊びに行ったりと親友と呼べる程の仲となっていた。
「ねぇ鈴、『一夏』にはどんなプレゼント買ったの?」
「は、はぁ?!なんで一夏の部分強調すんのよ!」
「いや、だってプレゼント選ぶ時にずっとぶつぶつ言ってたじゃん」
『一夏ってどんな物貰えば喜ぶかな。一夏の喜ぶ顔……フフッ、驚かせてやるんだから』
「っ?!////」
「あー、顔真っ赤だ。へへっ、可愛いなぁ」
「う、うっさい!て言うか、あいつの家でパーティーするんだからそりゃ違う物じゃないとダメじゃん?!」
「誤魔化す必要ある?私は鈴の恋心も知ってるし一夏の鈍感さもわかってる。その上で言うけど、そんなんで大丈夫?」
「分かってるわよ……」
そんな時、数人のチャラそうな男が近寄ってきた。
「ねぇねぇ君さぁ、ちょっと俺らとご飯食べに行かない?」
「俺ら奢っちゃうからさ。ほら、一緒に行こうぜー」
「え?いや、今日友達とパーティーするので、ごめんなさい」
基本的に誰に対しても礼儀正しいステラは、自分をナンパしようとしている男達に丁寧に断りの言葉を告げた。
「えぇー、いいじゃん。絶対俺達と遊んだ方が楽しいって。だからほら、ね?」
今の世の中、ISの存在により世界には男尊女卑ならぬ女尊男卑と言う風潮が蔓延している。
そして、そんな中で顔や財力等で女からちやほやされて調子に乗っている男もいる。ステラの前にいる男達が丁度そういった輩だ。
「いや、ですから私は!」
「ちっ!いいから来いって言ってんだろ!」
一人の男がステラの腕を掴んで無理やり引っ張ろうとした。その時鈴がその男の腕を掴んで明らかに怒りながら叫んだ。
「ちょっと、離しなさいよ!ステラが嫌がってんでしょ!」
「うるせぇ!貧乳に用はねぇんだよ!」
ドンッ
「きゃあ!」
「鈴!…あ、あぁ……」
「さてと、それじゃあ「……てる」、は?」
「私の…私の友達に、何してるって言ったんだよ!」
「うわっ!なんだよこいつ!」
「覚悟は出来たかなんて聞かない。
もう、それを待てる程の余裕は、私には無い」
その頃、一夏の家では一夏、弾、数馬、弾について来た蘭(目当ては一夏)、そして年末年始で長期休暇を取って帰って来た千冬が飾り付けをしていた。
「それにしても、ステラと鈴おせぇな」
「あぁ、いくら何でも遅すぎる」
その最中に弾と数馬は、なかなか帰ってこない二人の事を話していた。
「五反田、御手洗、話すのは良いが手も動かせ」
「しかし、確かに遅すぎる。トラブルに巻き込まれたりしてなければ良いが」
「早く帰って来ねぇとご飯冷めちまうぞっての」
(((主婦かお前は)))
「いくら何でも遅すぎます!私ちょっと探しに」
Prrrr Prrrr
「ん?おぉ、タイムリーだな。鈴からだ。どうした?」
『一夏!今すぐ来て!』
「っ?!どうしたんだよ鈴!」
「おい、鈴に何かあったのか?」
「とにかく、今何処だよ!」
『弾の家から一番近い公園!お願い!今すぐ来て!ステラが、ステラが!』
「わかった、待ってろ!」
「おい、結局どうしたんだ!」
「わからねぇよ!でも行ってみるしかねぇだろ!」
鈴からの電話を切ってすぐに家を飛び出した一夏を追って、四人も家を出た。
それから五分程走って公園に着くと、一夏達は目の前の光景に驚愕した。
「ま、待て!もうやめてくれ!」
「まだ、まだまだだよ?まだ喋れる体力あるなら十分でしょ?」
地面には、数人の男が呻き声をあげながら倒れ込んでいて、先程声がした方を見るとそこには、男の胸ぐらを掴み片腕だけで体を持ち上げる少女の影があった。
「おい…ステラ、なのか?」
「え?」
千冬の声に反応してその少女、ステラは振り向いた。そしてその目はいつもの澄んだ青色では無かった。赤く、そして中心に行くほど黒くなっている。
まるで獣の様な目だった。
「千冬、さん?あ、あれ?私、何して…え?何で、この人達倒れて……あ、え、どうして皆、そんな目で私を見るの?」
「これ全部、お前がやったのか?」
「わからない。何もわからないよ!うっ、こんなの私じゃない。こんな事、私は!私は……」
バタッ
「お、おい!ステラ!」
突然倒れ込んだステラに全員が駆け寄ると、その顔には泣いたような跡が複数あった。
「………おい、貴様ら」
「は、はいぃ!」
「何故貴様らはこんな状況にある。説明しろ」
「お、俺達はただあいつにナンパしようとしただけだ!そしたらあいつが急にキレて殴りかかってきて「違う!」は?!何が違うんだよ!」
「おい凰、説明しろ」
「ステラがナンパされて、それで何度も断ってたのにそいつらが何度も何度も絡んでくるから私が止めようとした。でもそしたらそいつが私を突き飛ばして、その時からステラの様子がおかしくなったんです!」
「は?!それはお前が邪魔を「ほう?」ひぃっ!」
「今から2つの選択肢をやる。今すぐそこに転がっている粗大ゴミを持ち帰るか、それともまた同じ目に合うか。後者を選ぶのなら言っておく、命乞いはするな。時間の無駄だ」
「す、すみませんでしたぁ!」
男はそう言うと周りの男を起こして、全員を連れて逃げて行った。
「一夏、五反田兄、御手洗、ステラを家まで運べ。凰、五反田妹は先に家に戻りタオル等の準備をしろ」
「わかった、でも千冬姉はどうすんだよ」
「束を呼ぶ。どんな医者よりあいつの方が頼りになる」
Prrrr Prrrr
『はいはーい、もすもすひねもすー♪どうしたの?ちーちゃん』
「緊急事態だ、今すぐ来い」
『えぇ?!いきなり無茶振り?!て言うかちーちゃんが私に頼るほどの緊急事態って……まさかスーちゃんに何かあったの?』
「そのまさかだ。今すぐ来い」
『うん、わかった!本気で飛ばして数分だから、待ってて!』
千冬は電話を切り、その瞬間から身体は加速しだしていた。
(一体ステラの身に何が起こった。束ですら予測不可能だった今回の騒動、ステラのあの目。いや、今は)
「考えても仕方ない、か」
千冬はそう言って、一夏達の後を追った。
「どうだ束、ステラの容態は」
「発熱があるね。それ以外は特に何も無いかな。外傷も見た感じは全く無いし、あったとしてもかすり傷だよ。でも、ずっと苦しそう……ごめん、私じゃここまでしか…」
「あの、篠ノ之博士」
「ん?君はいっくんとスーちゃんの友達の子だったね。名前は?」
「えっと凰 鈴音です」
「そっか、ならリンリンでいいね。それで?何かな?」
「え?あ、えっと、ステラが暴れてる時に目が赤かったのは話しましたけど、実は凄く苦しそうな顔だったんです。それに、涙も流れてました」
急にあだ名をつけられた事に驚き、少し動揺しながらもあの時のステラの状態を伝えた。
「え?…………そうなると、やっぱりスーちゃんの意思じゃないってこと?でも、それじゃあどうしてスーちゃんは………?」
『束さん、私と解析機器を接続して下さい。あの時のデータが残っています。あの時マスターを止められなかった私に出来るのは、これだけですが……』
「ううん、ギンギラちゃんありがとう。よし!始めるか!そこの男子二人と女の子!名前は?」
「え?俺ら?えっと、五反田 弾です」
「五反田 蘭です!」
「御手洗 数馬です」
「五反田に、御手洗?……そっか、じゅんくんとそうくんの…。
うん!決めた!ダンくんとランちゃん、それとカズくんでいいね!今からちょっと作業に移るから手伝って!リンリンはスーちゃんの容態見てて、クーちゃんとランちゃんもその手伝いよろしく。いっくんはお粥とかの軽く食べられる物を作っててね。ちーちゃんは、ちょっとこっちに来て」
そして束と千冬は、玄関から家の外に出た。
「なんだ束。ステラを放っておいて良いのか?」
「うん。良くはないけど、ちょっと話したい事があってね。出て来ていいよ、れーちゃん」
「久しぶりね、千冬」
束の呼び声と共に影から蓮が出て来た。
「蓮か?どうしてここに」
「二人に話そうと思ってね。今のアイツの事を」
「っ?!見つけたのか?!」
「そう、それで?何処にいるの?」
二人の言葉に、束は首を横に振った。
「違うよ。居場所はまだ特定出来てない、でも、今アイツがやってる事はわかった」
「生物兵器の製造」
「なんだと?アイツ、今度はそんな事をしているのか?ふざけるなよ……」
「それで、それを私達に言ってどうするの?」
「これ、れーちゃんに預ける」
束はそう言って、懐から千冬の物と全く同じ形状のトリガーを取り出した。
「おい、束。お前」
「これは?」
「トリガーって言って、ISのコアの技術を応用して作ったの。ちーちゃんも持ってる」
「おい束!どういうつもりだ!」
「多分、アイツは今から数年の内に何か大きな計画を実行する筈。だから、その時に私達でアイツとの決着をつける。二度と誰かを巻き込まない為に、私達で」
「そうね、確かにもう誰一人として巻き込む訳には行かないわ。あの日の様に」
3人の中に緊張が走るが、その緊張も玄関から飛び出して来た一夏によって破られた。
「束さん!千冬姉!ステラが目を覚ました!ってあれ、蓮さん?どうして」
「ちょっとステラちゃんのお見舞いにね」
そう言って蓮は微笑み、千冬達に向き直り冷静な顔で一夏に聞こえないように声を出した。
「話は今度聞くわ。今はステラちゃんの事を見てあげないと、ね?」
「うん…」
「わかって、いる」