元ヒカルの部屋で現在の物置部屋にて、買ってもらった碁盤を早速広げる。
夕飯までのわずかな時間に少しでも打つことにする。
「やっぱ盤見ないと打った気しないな」
『石の流れを直に見るのと見ないのでは全く違いますものねぇ』
少し早碁だったが、楽しい時間だ。
「ヒカルー、ご飯だから降りてきなさーい」
美津子の声が聞こえ、夕飯をとることにした。
「(やっぱ自分の部屋がないと不便だなぁ)」
『なかなか打てないですからねぇ…。でもまだヒカル4歳ですし、しばらくご両親に甘えておきましょう』
「(うえぇ~…。風呂とかも一緒なのになぁ…)」
佐為と碁が打てるだけで幸せか、と考え直し両親の部屋にてついでに買ってもらったマグネット盤で楽しむことにした。
次の日、今日も幼稚園ではおとなしいヒカルがいた。
自由時間になり、机から動かないヒカルのそばにあかりが駆け寄る。
「ヒカル、おままごとしよう!」
「オレ碁打ちたいから」
「ご?ごってなに?」
「じーちゃんがやってるだろ?囲碁っていうんだ。楽しいんだぜ」
「たのしいの!?わたしもやりたい!」
「………(しまった。佐為と打ちたかったのに…)」
マグネットの碁盤を手に取り固まるヒカル。
『いいじゃありませんかヒカル。教えてあげたらどうですか?前の世界のあかりちゃんもヒカルの影響で楽しく打っていましたし、この年齢から始めると将来が楽しみですよ』
「(う~ん、佐為が言うなら…。あかりにも散々迷惑かけたしな。せめてこの世界のあかりには優しくしとこ)」
―――同性だしなぁ。
そう言い聞かせながらヒカルは優しくあかりに教えるのだった。
園から帰宅したヒカルは物置部屋に駆け込んで碁盤を広げる。
打ちながら佐為に話しかける。
「佐為。しばらくは我慢してくれないか?いつも我慢で申し訳ないけど…オレはまだ4歳。誰とも打たせてやることができない」
『そんな事考えてたんですか?私はヒカルと打ててそれで満足ですよ?』
「…佐為にはもっとわがままを言う権利あるぞ?前はオレが邪魔をしたんだし」
『何を言ってるんです!邪魔をしたのは私なんです!ヒカルは私の我侭を沢山聞いてくれました!』
「………佐為…」
『今、こうしてもう一度…ヒカルと会えて、そして触れられる。こんなに幸せなのにまだ幸せになれとヒカルは言うのですか?』
にっこり微笑む佐為にヒカルも笑う。
「そうだな、オレ達、また会えたんだもんな…」
『そうですよ。あ、じゃあ一つだけ我侭を。ヒカル。これからも私と打ってもらえますか?』
ヒカルの頭をなでながら言う佐為に、それは我侭になってねぇよと返し、笑いあう。
「まずは小学生まではなんとか我慢だな。前は小学校進学と同時に部屋をもらえたし、お小遣いももらえる。それまではお母さん説得して囲碁教室でも通うか?」
『囲碁教室!あの白川先生の所ですね!行きたいです!』
「(まぁ喜んじゃって…。佐為の笑顔がまた見れて嬉しいな)」
「よし、早速説得だ!」
ヒカルは美津子をなんとか説得し、次の土曜から通える事になった。
ちなみにこの説得の時、平八にも口添えしてもらっている。
「ヒカルには囲碁の才能がある!金ならわしが払うから行かせてやってもらえんか!」
と熱弁する義理の父に美津子も了承せざるを得なかった。
「最近変だと思ってたら…碁だなんて…。娘がわからない…」
夜、布団の中で一緒に寝ながら佐為と語り合う。
「(良かったな。すぐに教室通える事になって)」
『はい!本当に!そうだ、あかりちゃんも誘ってみたらどうです?』
「(あかりか…。そうだな。楽しそうだし誘ってみるか)」
そして、手を繋いだまま眠りについた。
(佐為って幽霊なのにあったかい。なんだろう、すごく泣けてくる。佐為…)
それは何かの芽生え。
会話ばかりの文章です。
まだ園児が続きます。