雪ノ下雪乃の消失   作:発光ダイオード

15 / 31
5-b

放課後、優美子たちに今日は部活を休むと伝えたわたしは、ヒッキーたちがクリスマスイベントの準備をしているコミュニティセンターに向かって歩いていた。そこは美浜図書館のある建物の中に併設されていて、どちらかと言えば図書館として知られている。建物は学校と駅を結んだ直線上の中間から少し駅寄りの所にあり、わたしの足で歩いてだいたい15分くらいかかる。一度バスに乗って駅まで行きそこから歩いてコミュニティセンターへ行く方法もあるけど、生憎バス通学のわたしの定期券は駅までの経路を通っていない。友達と遊ぶ時のために回数券は何枚か買ってあるけど、バスの待ち時間や移動時間を考えると少しもったいない気もした。うちの学校は原則バイト禁止で、お小遣いでやりくりするわたしにとってはたとえ回数券と言えどとても大事なものなのだ。

高校生は体が資本っ!と気合を入れて歩いて行くことに決めたのが、およそ30分ほど前のことである…。

迷路のような住宅街を抜けてしばらく歩くと、目の前に角砂糖を積み上げたような真っ白な建物が現れる。茶色く出っ張ったポーチには明朝体の太字で“千葉市美浜区高洲コミュニティセンター”と書いてあった。わたしはほっと息を漏らす。場所はだいたいわかっていたけれど、来るのは初めてだったので時間に余裕を持って学校を出てきた。にも関わらず倍近く時間がかかってしまったのはわたしが道に迷ったからだろう。地図をだと真っすぐ行って曲がって曲がって曲がってちょっと行けば着くはずだったのに、まさかこの距離で道に迷うとは思わなかった。スマホを取り出して時計を見ると時間は待ち合わせギリギリだった。

 

「結衣先輩!」

 

不意に後ろから、それもすぐ近くで名前を呼ばれる。昼休みの時のような既視感に振り返ると、いつの間にかいろはちゃんがわたしのすぐ後ろに立っていた。

 

「ごめん、ちょっと迷っちゃった」

 

「いえいえ、時間通りです」

 

そう言いながらにこにこ笑ういろはちゃんの手にはお菓子や飲み物が詰まった袋がぶら提がっていた。たぶん向かいのコンビニからわたしの姿が見えて出てきたんだろう。

お昼の彼女の頼みというのはクリスマスイベントの手伝いをしてほしいという事だった。なんでも人手が足りなくなったらしい。放課後特に予定もなかったわたしは、ヒッキーたちがどんなことをしているのか気になっていた事もあって二つ返事で引き受けた。けど、手伝いが必要な時はヒッキーから声を掛けるって言ってなかったっけ?

 

「先輩いま忙しそうなんですよ。なのでわたしが独断と偏見で頼みました」

 

あれ、聞こえてた?

わたしの心を読んだのか、いろはちゃんは悪びれる様子もなくそう言った。えっとつまり、ヒッキーに黙って勝手にわたしを呼んだということらしい。いろはちゃん大丈夫かな?わたしも帰れとか言われないだろうか…。ふとヒッキーの面倒くさそうな顔が浮かぶ。帰ってやるもんかと心に決めた。

 

「けどそれなら優美子たちも呼んだほうがよくない?」

 

「実は今はまだそこまで困ってる訳じゃないんですよ。けど後々必要になってくると思うので、結衣先輩には今のうちから来といて貰おうかなと思いまして」

 

「なるほど……」

 

何となくいろはちゃんの考えていることがわかった。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

「あっ、うん」

 

わたしはいろはちゃんに背中を押されながらコミュニティセンターの中へ入っていった。

時間帯のせいか館内にはまだ照明が着いておらず、床に反射した外光が薄暗いロビーを切り裂くように輝いていた。周りにはわたしたちの他にも地域の人がちらほら居て、その中で自販機のそばに立っている男の子の姿が目に留まる。海浜高校の制服を着て、手には缶コーヒーを持っていた。彼はわたしたちに気が付くと、残りが少なかったのだろう缶コーヒーを一気に呷り、空き缶をゴミ箱に捨てて近づいてきた。

 

「やあ、いろはちゃん」

 

「玉縄先輩、お疲れ様です」

 

いろはちゃんは玉縄先輩と呼んだ彼に小さくお辞儀をする。

 

「そっちは初めて見るニューフェイスだね」

 

「由比ヶ浜です。今日はいろはちゃんたちの手伝いに来ました」

 

「はじめまして由比ヶ浜さん。手伝ってくれて助かるよ。僕は玉縄。海浜総合高校の生徒会長なんだ。フレッシュでルーキーな生徒会長だけど、お互いリスペクトできるパートナーシップを築いて、よりベストなイベントにしていこう」

 

いろはちゃんを真似てわたしも頭を下げると、玉縄くんは爽やかにそう言った。どうやら生徒会長さんだったらしい。言われてみると顔つきや仕草に賢さがあるように見える。けれどどこか胡散臭さを感じるのは、多分彼の喋り方がある男性タレントがユーズしているネイチャーランゲージの一カインドにルックライクなせいだろう。

軽く二言三言交わして挨拶を済ませ、わたしたちは2階にある講習室に向かう。階段を昇ろうとすると、ちょうどすぐ横の掲示板が目に留まる。今月のイベントの予定やヨガサークルの会員募集など、他にもいろいろな貼り紙がしてあった。その中にはクリスマスイベント告知のチラシもあって、サンタクロースやトナカイのイラストが小学生が描いたような可愛らしいタッチで描かれていた。

玉縄君に続いていろはちゃん、わたしと階段を上がっていく途中、踊り場辺りでいろはちゃんは不意に何か思い出したように、

 

「そう言えば玉縄先輩はどうして生徒会長なんですか?」

 

「えっ?」

 

「いえ、雪ノ下先輩の方が生徒会長に向いてると思うんですけど、どうして玉縄先輩なのかなって」

 

思わず振り返った玉縄君はとても難しそうな表情をしていた。雪ノ下先輩というのが誰なのかわからないけど、何となく玉縄君にとってはあまり触れられたくない話みたいだった。これは話を逸したほうがいいのだろうか……ふたりの顔を交互に見ていると、それに気付いた玉縄君はわたしに向かってため息混じりに笑う。

 

「えっと…雪ノ下さんっていうのは海浜の生徒で、今このイベントを手伝ってくれているんだ。ほら、ちょうど君たちの学校の比企谷君みたいに」

 

「へ…へぇ、そうなんだ」

 

わたしはわざとらしく声のトーンを上げて相槌を打った。

 

「それで…実は、雪ノ下さんも生徒会長に立候補していたんだ」

 

「それって雪ノ下先輩じゃなくて玉縄先輩が選ばれたってことですかっ!?」

 

信じられないとでも言うように口許に手を当てるいろはちゃんを見て、玉縄君は首を大きく横に振った。

 

「ノーノー、そういう訳じゃない。雪ノ下さんが生徒会長に立候補すると知って、僕は立候補を会長から副会長に変えたんだ。彼女と選挙戦を繰り広げても勝てないのはわかっていたしね」

 

「………」

 

「他の候補者も同じ考えだったみたいで、実際生徒会長に立候補したのは雪ノ下さんだけだった。おかげで副会長の選挙は近年稀に見る混戦になったよ」

 

玉縄くんは冗談のように肩をすくめるけれど、わたしはなんと言っていいか少し反応に困ってしまった。一方いろはちゃんは気にすることなく自分の疑問をどんどんぶつけていく。

 

「でも、それでどうして玉縄先輩が生徒会長になるんです?」

 

「開票の結果、当然生徒会長は雪ノ下さんで、僕も何とか副会長に当選した。だけど後日、雪ノ下さんが突然生徒会長を辞退したんだ」

 

「なんでですか?」

 

「理由は詳しく知らないけど、家庭の事情とは言われてるね。ほら、彼女の父親は県議会議員なんだ。それに建設会社の社長もしているし、僕たちにはわからない偉い人の考えがあるんだと思うよ」

 

大人の事情と言われてしまえばそうなのかもしれないけど、果たしてそれでいいんだろうか?

 

「まあそういうことがあって、僕が繰り上げで生徒会長になったんだ」

 

「そうなんですねぇ。でも、玉縄先輩はもともと生徒会長やりたかったんですよね?ならよかったじゃないですか」

 

確かに。けれど玉縄君はどこか浮かない表情だ。

 

「…それがそうでもないんだよ。なんて言ったて雪ノ下さんの代わりを勤めるわけだからね。周りも当然雪ノ下さんが会長をやると思ってたわけで、期待よりもむしろ落胆の声の方が大きかったよ。

だから僕は少しでも自分ができる人間だと思わせる為に色々やった。このイベントだって、初めての企画だけど絶対成功させるって息巻いて取り組んでいた…」

 

「………」

 

「でもそれが空回りの原因になって……いろはちゃんには随分と嫌な思いをさせちゃったね」

 

玉縄君は少し言葉を詰まらせてからそう言った。

そう言えば前にヒッキーが部室に来た時、両校の意見がまとまらなくて全然話が進まないと唸っていた事があった。原因はいろはちゃんにも玉縄くんにもそれぞれあったらしく、今はそんな事ないらしいけれど、玉縄くんはまだその事を気にしているみたいだった。

 

「雪ノ下先輩にも怒られちゃいましたしね」

 

「…………」

 

玉縄くんは黙ったまま、自嘲するように口許だけで笑う。

 

「まぁ過ぎちゃった事ですし、それはそれとして…。今の私たちって前よりも生徒会長っぽくありません?」

 

自信ありげにそう言うと、いろはちゃんは玉縄君に向かってにっと笑いかける。

 

「そうかな」

 

「そうですよっ。さあ、今日もしっかり働いてくださいね、玉縄生徒会長!」

 

「…うん、そうだね」

 

その屈託のない笑顔につられたのか、今度は玉縄君の目も笑った。

 

 

わたしたちが2階に上がると、何やらざわざわとした音が聞こえてきた。どこから聞こえてくるんだろうと耳を澄ませると、どうやら講習室から人の話し声が漏れているみたいだった。それほど大きい声ではないので内容までは聞き取れないけれど、周りが静かなこともあって廊下まで伝わってきた。

 

「…またですか」

 

「……まただね」

 

そう言っていろはちゃんと玉縄くんはお互いに顔をしかめる。なんのことか理解できないわたしとは反対に、どうやらふたりには心当たりがあるみたい。玉縄君が講習室の扉を開けると声はよりはっきりと聞こえてくる。

 

「…だから、あなたのやってる事は間違っているわ。どうして全体が見えないのかしら。木を見て森を見ずとはこの事ね」

 

「何言ってる。一事が万事って言うだろ。ここさえ押えておけば大抵の事にも応用が利くだろ」

 

目の前では男の子と女の子が口論をしていた。けれど口論と言っても声を張ったり荒げたりしているわけではなく、内容さえ聞こえなければ、まるで友達と日常会話でもしているような自然なやり取りに見えた。室内には他にも両校の生徒が居るけれど、このおかしなやり取りを止めるべきか聞き流すべきかわからずに黙ってふたりを見つめていた。

口論をしているひとりはヒッキーだった。教室ではいつもむっつりと口を閉じ、部室でもあまり多くを語らない彼を見慣れているわたしにとって、目の前であれこれ喋っているヒッキーの姿はとても新鮮で衝撃的だった。

そしてもうひとりは長い黒髪の、海浜高校のブレザーを着た女の子。芸能人とかアイドルとか言われても全然不思議じゃないくらい整った顔立ちをしている。その品性というか佇まいにわたしは思わず見蕩れてしまった。

…わたしは直感的にその子が雪ノ下さんだとわかった。

 

「何の話してるの?」

 

「さあ、事前準備の行程表の話じゃないですか?知らないですけど」

 

わたしがそう訊くと、いろはちゃんはため息をついてからヒッキーと雪ノ下さんに近づいて行く。

 

「はいはいおふたりとも。恥ずかしいからあんまり騒がないでくださいねー」

 

いろはちゃんが仲裁に入ると、ふたりはぷいっとそっぽを向いてしまう。

 

「いつものことだから気にしなくていいよ」

 

「あのふたりって仲悪いの?」

 

「…多分いいんじゃないかな」

 

そう言う玉縄くんのフォローの言葉を聞きながら、ヒッキーもあんなふうに話したりするんだ…意外な一面を見た気がする。

そんなことを考えていた。

 

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

 

四角く囲まれた机の正面中央にはいろはちゃんと玉縄君が並んで座り、ふたりを挟むようにヒッキーと雪ノ下さんが両端に座っている。わたしは総武高の一番後ろ…書紀の女の子の左隣に座り、邪魔にならないように黙って会議を聞いていた。

今日の議題は作業シフトの組み立ての件で、司会玉縄君、進行はいろはちゃんという形で進んでいった。会議は概ね順調で、たまにふたりをサポートするようにヒッキーが足りないところを付け加えたり、雪ノ下さんが間違っているところを訂正したりしてた。いろはちゃんも玉縄君もとてもこの間生徒会長になったばかりとは思えないくらいスムーズに会議を進行させていて、その手際の良さに思わず感心してしまう。それから30分ほどで会議は終わり、その後はみんな各自に割り振られた作業をしはじめる。

やることの無かったわたしは手持ち無沙汰に室内を見回した。すると幾つかできていたグループから溢れ落ちた様に、独り黙々とプリントと向き合っているヒッキーの姿が目に入る。

 

「何か手伝う事ある?」

 

近づいて声をかけると、ヒッキーはシャーペンを走らせていた手を止めてゆっくりと見上げる。

 

「由比ヶ浜……なんでここにいんの?」

 

「いろはちゃんに頼まれたの。人がいないから手伝ってって」

 

「別に今は困ってる訳じゃないけどな…」

 

「うん。なんか今後のことも考えてって言われた」

 

そう言いながらわたしはヒッキーの隣の椅子を引いて腰掛ける。

 

「由比ヶ浜、お前はもっと断ることを覚えたほうがいい。人が良いのもほどほどにしとけ」

 

「そうかな?」

 

「後々川崎たちにも手伝いを頼む事になるだろうが……どうせ一色のことだからその時の指示出しとかお前に任せるつもりだぞ」

 

それは何となくわかっていた。いろはちゃんは賢いし容量もいい。前に優美子たちとサッカー部の練習を眺めていた事があった。マネージャーをしているいろはちゃんは他の女の子達が仕事に明け暮れる中、暇そうな男の子に荷物運びやビブスを配るのを手伝ってもらっていた。そして暇を見つけては隼人君と話したりしているのを見て、由美子が恨めしそうな顔をしていた。いろはちゃんは不真面目とは言わないけれど、とにかく感心してしまうくらいしたたかなのだ。今回の事もそれと同じで、生徒会長としての責任があるいろはちゃんとしてはなるべく自分の負担を減らしたいんだろう。確かにわたしは頼まれたら断れない性格たけど、それを差し引いても頑張っているいろはちゃんを手伝ってあげたいと思う。

 

「でもいいよ、そのくらいなら全然やるし。それにわたしヒッキーの役にも立ちたいもん」

 

「………」

 

なんか少し恥ずかしい事を言ったかも。ヒッキーも黙ってしまった。わたしは誤魔化すように慌てて言葉を繋げる。

 

「そ、それで、何か手伝うことある?」

 

「ん?あぁ…そしたらこれ頼めるか。えっと、説明するとだな…」

 

 

しばらくヒッキーの仕事を手伝っていると誰かが近づいてきてヒッキーの横で立ち止まった。

 

「比企谷君、保健所への許可申請表もう書けたかしら」

 

顔を上げるとそこに立っていたのは雪ノ下さんだった。話しかけられたヒッキーは手を動かしたまま応える。

 

「今書いてるところだよ。もうすぐできる」

 

「そう。早くしてちょうだいね」

 

「…あいつらはどうだ?」

 

ヒッキーは様子を探るようにチラリとだけ視線を上げる。それに気づいた雪ノ下さんもヒッキーと同じ所を見るのでわたしもつられて視線を向けると、その先にはいろはちゃんと玉縄君が一生懸命作業に没頭している姿があった。

 

「うまくやってくれてるわ。作業シフトも玉縄君が製作中だし、多少の不安はあるけど一色さんも全体の管理をなんとかやってくれている。ふたりとも思ったよりも優秀でビックリしてるわ」

 

「そうか…」

 

そう言ってヒッキーと雪ノ下さんは微笑んだ。なんだか子供の成長を見守っている親みたい。わたしが雪ノ下さんをじっと眺めていると、雪ノ下さんはわたしの視線に気付いて少し訝しげな表情を向ける。

 

「あ…初めまして雪ノ下さん。わたし由比ヶ浜結衣です。今日はいろはちゃんに頼まれて手伝いに来たの」

 

わたしの口から自分の名前が出たことに驚いたのか、雪ノ下さんは少し固まってしまう。けれど意識を取り戻したように軽く会釈を返してくれた。

 

「…初めまして、雪ノ下雪乃です。…えっと、何か手伝いましょうか?」

 

「いいの?ありがとー」

 

雪ノ下さんは薄っすら笑うとヒッキーの隣に腰かけた。

 

「なんでこっちに座るの?手伝うなら向こういけよ」

 

そう言ってヒッキーはわたしの方を指差す。

 

「嫌よ、もう座っちゃったもの。どうしてもって言うなら比企谷君が変わってちょうだい」

 

雪ノ下さんは意地悪そうに目を細める。

 

「ていうか、おまえ暇なの?自分の作業はどうした」

 

「あら、わたしが手伝ったらいけない?由比ヶ浜さんとふたりで作業したかったのかしら」

 

雪ノ下さんの視線がヒッキーを鋭く睨む。

 

「いや、なんでそうなるの」

 

「ちょっとヒッキー、みんなで一緒にやろうよ。そっちのが楽しいって」

 

両側からわたしと雪ノ下さんに睨まれたヒッキーは、もうどうにでもなれというようにがくりと肩を落として溜息をついた。

 

「…まぁ、黒い猫でも白い猫でも、手伝ってくれるのは良い猫だ」

 

「ヒッキー何言ってんの?」

 

「…この間授業でやったろ。殤不患(しょうふかん)だか笑福亭(しょうふくてい)だったか…」

 

「鶴瓶師匠?」

 

鄧小平(とうしょうへい)よ。でもその使い方合ってるのかしら」

 

「わたしは猫よりも犬の方がいいかな」

 

「いや関係なくね、それ」

 

「雪ノ下さんはねこーって感じだね。髪の毛綺麗だし黒猫…でも雪ノ下だから白猫かも」

 

わたしがねこの仕草をしながらにゃあにゃあ言うと、雪ノ下さんは大きく目を見開いて顔を赤らめた。それから一二度自分の髪に手櫛をかけながらそっぽを向いてしまう。かわいい。ひょっとしたら雪ノ下さんはネコが好きなのかもしれない。

 

「お前ら余計なこと喋ってないで、手伝うんならちゃんと手伝ってくんない?」

 

その一言で雪ノ下さんの表情はまた鋭いものに戻ってしまう。淡々と作業を始める雪ノ下さんを横目にヒッキーをじっとりとした目で睨むと、ヒッキーもギクリと肩を揺らして作業に戻っていった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。