そして人類に逃げ場なしさん、まさかのAAでの評価メッセージありがとうございます!(笑) びっくりして爆笑しました!
「クリリンッ! しっかりしろよクリリン!!」
18号の悲痛な声が武舞台の上で響き渡る。
クリリンの状態は、誰が見ても絶望的だった。
止めどなく溢れる大量の血。へし折れた首。捻れた左腕。肘から千切れた右腕。両足は滅茶苦茶に砕け、そこからも大量の血が溢れている。
「……呼吸が止まって約1分か。問題ないな」
「クリムゾンのおっさん、クリリンが、クリリンが息してないんだ……」
滂沱の涙を流しながらボロボロに裂けて血まみれの手でクリムゾンにすがり付く18号。クリムゾンは彼女なりになんとかしようとしたのを見て嘆息し、仕方ないかと彼女の手をさらっと復元しながら落ち着かせる。
「安心しろ。例え灰になろうが、今の私なら制限時間付きとはいえ擬似的な死者の蘇生ができる。レッドリボン軍総帥を舐めるんじゃない」
言いつつクリムゾンは、まず施術を行うのに厄介なクリリンを取り巻く界王拳を吸収・除去し始める。
18号の手がボロボロになったのはこれが原因で、半端に解除されなかった界王拳が今もクリリンの体のあちこちに残っていたからだ。全身に展開されたままであれば出血の量も少なかっただろうにと考えながら、詮無いことだと甘えた考えを投げ捨てる。
界王拳を一時的に吸収したことでクリムゾンの右腕が跳ねそうになるのを、プロトに制御させて施術を続行する。
まずは機能していない臓器を復元能力を応用して一瞬でコピーする。それを再生能力によって延長させた血管と繋げ、擬似的に内臓の修復が完了。バリアによって無菌状態で保たれた臓器が複数空中に浮かんでいる光景だが、それを気味悪く思う間などない。
だが流した血が多すぎた。クリリンの停止した拍動が戻るよりも前に、彼の魂が抜け出そうになる。それをクリムゾンが自らも幽体離脱して押さえ込み、肉体の操作をプロトに任せて治療を続ける。
肉体が安定したのに併せ、クリムゾンは治療の仕上げに入る。
弱まった肉体に界王拳を返すと、反動でクリリンの肉体が再び壊れかねない。なので折角だからと老界王神方式の潜在能力解放をアレンジして、魔術を少々施す。これで素の状態でも10倍界王拳程度ならば耐えられるようになるだろう。
最後に飛び散った血液を除去して洗浄し、内臓を腹に詰め直し、千切れた腕を再生させ、骨、神経、血管といった足りなくなった部分をひとつひとつ丁寧に再生していく。無論、無くした血も全て補充する。
──全作業行程が完了するまでにかかった時間、わずか二秒──
これが、もうじき46歳を迎えようとする壮年クリムゾン。ベストコンディションの姿である。
「あ、あれ? 俺生きてる」
呑気に起き上がったクリリン。まだあちこちから赤い電光を放ってバチバチと言っているが本人は無意識にそれを沈静化していく。
「クリリン……!!」
感極まってクリリンに抱きつく18号。その姿にクリムゾンは微笑む。
なおこの武舞台で起きる出来事はリアルタイムで放送されている。世界中に。
もう一度言おう、世界中に生放送中である。視聴率は90%を超える。
「あ、試合ってどうなりました? 俺、途中から記憶がなくて……」
申し訳なさそうにクリムゾンに尋ねるクリリン。試合の結果。それは誰もが気にするところであった。
「大会を運営する最高責任者として正直に告げよう。今回の勝負、引き分けだ」
見る者が見れば、今の勝負はクリリンの勝ちに見えただろう。だがクリムゾンは妥協しなかった。
確かに今のクリリンは界王拳の限界を超え、クリムゾンによって更なる力を手にいれた。
だが彼は努力の人である。突然上昇した戦闘力をそのまま実戦に持ち出せば、得意の気のコントロールを乱し最悪今と同じ事態になりかねない。
“引き分け”という判断はクリムゾンなりのドクターストップである。
「……そう、ですか。……あーあ、デートしたかったな~!」
「ば、ばか! デカい声でとんでもないこと言うんじゃないよ!」
「あ、ご、ごめん18号さん!」
正直に告げたことで18号の顔が紅くなる。
17号はコーラを飲みながらニヤニヤしている。
ファンクラブのメンバーは血涙を流している。
だが彼らは認めないわけにはいかなかった。今の言葉を聞いて、認めてしまったのだ。
そう、彼らは勘違いしていた。
「ちくしょう……!! 俺には出来ねえ……!! 腕がもげようが、足が砕けようが戦うだなんて……!」
「……ああ、悔しいが認めないわけにはいかねえ。アイツは文字通り
「ていうか、18号ちゃんの顔見たら他の誰かが入る余地ないってわかるわよ」
ファンクラブの面々がコメントする。なお二番目にコメントしたのはシルバー将軍である。何やってんだ将軍。
こうして初々しいカップルが誕生し、後から全国放送だったことに気づいた18号がしばらく引きこもることになるが、それはまた別の話である。
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武舞台を見上げて、孫悟飯は柄にもなく緊張していた。
次に戦う相手が、自身にとって紛れもなく確かな目標であり頂点だからだ。
そんな緊張する悟飯の肩を、三メートルの長身を持つピッコロが優しく叩く。
「らしくないぞ悟飯。お前の実力は俺達全員がよく理解している。相手が悟空であっても臆することなどない! この1年、お前が築き上げてきたモノをヤツに見せてやれ!」
「ピッコロさん……」
ピッコロの目に映るのは、徹底的な信頼。悟飯という一人の人間を信じる。その真っ直ぐな視線に、悟飯の緊張がわずかに解れる。
「そうだ。相手がカカロットだからといって遠慮することはない。俺のダブルサンデーでヤツの鼻を明かしてやれ」
「ラディッツおじさん……」
伯父にあたるラディッツの暖かい言葉。父親が修行などで家にいない日には、なにかと様子を見に来てくれた彼は悟飯にとってもうひとりの父親とも言えた。
「気楽にいけ、気楽に。カカロットは正真正銘“強さの塊”だよ。親父の胸借りてこい」
「ターレスさん……」
リンゴを齧り笑いながら悟飯を送り出すターレス。
「……全力で戦ってこい、悟飯」
「ベジータさん……」
腕を組み微笑みながら悟飯を激励するベジータ。だが彼だけは分かっている。今の悟空がどれほどの領域にいるのかを。それゆえに、不器用な激励のみを悟飯へと送る。
「俺の分まで殴ってこい」
「ク、クウラさん……」
軽く胸に拳を受け、たたらを踏み苦笑する悟飯。珍しいクウラの笑顔に、思わず戸惑う。
「よぉし、俺が悟空対策を伝授してやる! いいか、アイツは初戦の相手を見るとそいつの実力を試したくて手加減する悪い癖がある。そこを突いて、あいつが本気になる前にぶっ倒しちまえ!」
「クリリンさん!」
すっかり元気になったクリリンが悟飯を激励する。悟空の親友でもある彼は悟飯とも親交が深い。悟空の組手相手は伊達ではないのである。
「俺から言うことはないな。だが、お前の“可能性”というモノがこれだけの面子を集めたのも事実だ。出しきってこい、悟飯くん」
クリムゾンがそう言うと、彼の後ろからグレイ少佐が光学迷彩を解いて現れる。
「……俺の教えたラフファイト。孫悟空を相手にどこまで通用するかわからんが、やれるだけやってこい」
どこか申し訳なさそうな、後ろめたい雰囲気のまま悟飯へ告げるグレイ。しかし悟飯は彼の言葉に笑顔で答える。
「はい! ありがとうございます、グレイさん!」
そう言って悟飯は武舞台へと飛んでいく。グレイとクリムゾンはそれを見上げながら、不思議な感覚にとらわれていた。
「俺があれだけのことをしたというのに、あの子はまるでそのことを気にしていなかった。どうやったらそんな人間性が作られるんだろうな……」
「さてな。大自然に囲まれながら、厳しくも優しい母親と、強くて適当な父親がいればなれるのかもな」
「……両親、ですか。俺にはそのどちらもいなかった。羨ましいですな、あの子が」
グレイは苦笑いを浮かべながら武舞台を見上げる。親子の対決が、始まろうとしていた。
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悟空は笑みさえ浮かべて悟飯を見つめる。その顔にはこの勝負を楽しんでいる様子がありありと浮かんでいた。
「悟飯、やっぱオメエはスゲエやつだな! オラも随分と色んなヤツと戦ってきたけど、オメエとこれから戦えると思うとワクワクすっぞ!」
「はい! 僕の全部を出しきります!!」
そう言って悟空と悟飯は離れていく。
悟飯は自身の内側にある気をしっかりと感じとる。それはさながら地下に眠る広大なマグマを噴火させるがごとし。
「あっ!!!!」
叫んだ瞬間、武舞台がひび割れ凄まじい気の奔流が溢れだす。
見た目に殆ど変化はない。しかし、悟飯の髪が超サイヤ人のように逆立つとその雰囲気が一変した。
その隠されていた実力に、並みいる武道家らは冷や汗を垂らす。
「あ、あれが孫悟飯の本当の実力……!! 俺のパワーレーダーで計測不能だとぉ……!?」
グレイはカメラと直結した視界を制御しながら、迸る悟飯の戦闘力に戦慄する。
「いや、驚くのはそこではない。あの子の実力、まだまだ伸びるぞ……!!」
クリムゾンはかつて感じた“底の無い穴”を思い出し思わず呟いた。
「さて、悟空。ここからどう出る?」
『お待たせしました! これは宿命か、果たして天命か! 親子対決、孫悟空選手対孫悟飯選手、
並び立つ強者が見守る親子の激闘が、今始まった。
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悟飯の圧力を前に、悟空もまた超サイヤ人ユナイトへと変身する。
「はあっ!」
変身した回数はこれでまだ三回目だというのに、気合いの咆哮ひとつで難度の高い変身をして見せる悟空。
──鬣のように伸びた深紅の頭髪──
──長さは三メートルを超え、存在感を増した黄金の尻尾──
──さらには超サイヤ人4の時のように全身を黄金の体毛が包みこむ──
その全身から発せられる圧力は、自力で究極化へと至った悟飯でさえたたらを踏まざるを得ない。
だが悟飯は臆した自分自身を奮い立たせるように必殺技を放つ。
「ビッグバンアタック!!」
左腕を突きだし、親指だけを折り畳んだ独特の姿勢で凝縮されたエネルギー球を放つ悟飯。
「うらぁっ!」
決して悟飯が手加減したわけではない。だが、悟空はあろうことかビッグバンアタックを片手で受け止め、そのまま力尽くで握りつぶす。
「くっ……! ダブルサンデー!!」
一気に詰められた距離を少しでも開いたまま維持しようと中距離攻撃であるダブルサンデーによって悟空を迎撃する悟飯。
「があっ!」
しかしその攻撃でさえ悟空にダメージを与えることができない。
悟空は向かってきたエネルギー波に向かって吠えることで気を拡散させてしまう。
「いくぞぉぉ!!」
悟空の視線が示すのは悟飯の腹。悟飯は思わず両腕をクロスさせ体勢を固める。
「がっ……!」
防御していたにも拘わらず、悟飯は大きく吹き飛ばされる。威力の大きさを予期し、予め自分で後ろに飛んだ影響もあったがそれだけで危うく武舞台から弾き出されかける。
「ううわあああああ!!」
“接近戦では勝てない”。そう確信した悟飯は右手首を左手で押さえると、貫通力に特化したエネルギー波を雨霰と降り注がせる。
「だあああああああ!!」
攻撃を緩めることなく、悟飯は次々と攻撃を降り注がせながら悟空の動きを注視し続ける。この状況では、悟空の瞬間移動こそが最も警戒するべき技だからだ。
そして途中から放つエネルギー波は爆発力の高い気弾となり、武舞台を爆炎で包み込んでいく。
(父さんはどう出る……! やはり背後に瞬間移動するつもりなのか!?)
悟飯は緊張を隠せないでいたが、どんな状況になっても対策は練ってある。
切り札として現在準備しているのは、周囲に拡散した気を利用した突発的発動の可能な魔空包囲弾であった。
しかし悟飯にとって想定外だったのは、今の悟空の耐久力だった。
「──スゲエ攻撃だな、悟飯。さすがのオラもこれ以上まともに食らうのは勘弁だ」
悟空は、あろうことか組んだ両腕を頭上にかざし、防御の姿勢のみで全て耐え抜いてしまっていた。
そして、悟空の反撃が始まる。
「うあああああああああああっ!」
悟空が三度、吠える。
その瞬間悟飯は驚愕する。周囲に拡散した気が、全て悟空に吸収されていくからだ。
「そ、そんな……!」
吸収されていくのは展開していた魔空包囲弾用の気のみではない。自身が全身から溢れ出させている気までもが、悟空の中へと吸い込まれていくのだ。
「でやあああああああああああ!!」
悟飯の決断は早かった。このまま身構えていては負ける、そう判断した悟飯は全身に気を纏いクリリンが行った特攻のように、或いはフリーザの用いた突撃のように両拳を突きだし悟空へと向かっていった。
悟空はそれを前に、笑う。
「かぁ……」
腰だめに構えた両掌に、気が凝縮されていく。
「めぇ……」
全身の細胞から気が集められ、常時押さえつけていなければ再現なく膨らみ続けるエネルギー球から、光が溢れだしていく。
「はぁ……」
悟飯が悟空のやろうとしている技に気づく。父親の込める気の量に、文字通りの本気を感じる悟飯。
「めぇ……!!」
悟飯との距離、残り十メートル。悟空の腕が、前を向いた。
「波ぁっーーーーー!!」
「うわああああああ!!」
纏った気が質量を持つほどに全身全霊のエネルギーをこめる悟飯。
だが悟空のかめはめ波は、鉄砲水さながらに悟飯の小さな体を押し退けていく。
「負けて……たまるかぁぁぁ!!」
さらなる爆発。悟飯の気が増し、悟空のかめはめ波を掻き分けその身を打たんと迫る。
──パシッ──
結果は、あまりに軽い音だった。
悟飯は驚愕の表情を隠そうともせず、自身最大の攻撃をあっさり受け止めた父親の両手を見つめる。
「え?」
「ほ!」
悟空の手刀が首を叩き、悟飯の意識を落とす。
それを見たクリムゾンは今の悟空の実力を大幅に見誤っていたことに気づく。
彼もまた、破壊神を大きく上回るこの宇宙屈指の存在。
まだ悟空には次の試合が控えているにも拘わらず、クリムゾンは彼の勝利を疑うことすらなくなっていた。
「レッドリボン軍総帥を舐めるんじゃない」
その言葉を聞いてコルドは地味に戦慄していた。
「むぅぅ……! 擬似的な死者蘇生までもが条件とは、さすが総帥閣下。器が違うのぅ」
↑
没カット(´・ω・`)
次回予告
何かを告げる時には勇気がいる。
それは指摘であったり、教導であったり、事実であったりと、様々に別れるが本質は変わらない。
次回『告白』。……よーし、いい度胸だ。ぶっ壊してやるぞクソガキャァ!