ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

69 / 75
hisaoさん、ゆーの助さん、bqさん、zzzzさん、あるすとろめりあ改さん、誤字報告ありがとうございます。というか半端に訂正したのを放置してごめんなさい( ̄▽ ̄;)

それとありがたいことにまたもや日間ランキングに載ることができました。これもひとえに皆さんの熱い応援のおかげだと思っております。感謝しております。
それと最近気づいたのですが、ドノバンさん定期的な高評価ありがとうございます。おかげさまでこの作品はここまで色々な方に知られることができました。

さて、前回Twitter上の漫画をノベライズする機会に恵まれましたが、非常に勉強になりました。
漫画という二次元的な情報にこれほど無数の情報が想起されるのかと驚いた次第です。
今後も作者の方に許可が取れたものは積極的に書いていきたいので、その時にはよかったら読んでください。今回は非常に勉強になりました。


第69話【同撃】

「ねえねえパパ! 優勝したらどんな願い事を叶えてもらうの?」

 

ベジータの差し出した腕にぶらさがりながら、5歳のトランクスが無邪気に父親へと尋ねる。

 

この銀河最強決定戦にて優勝した者にはドラゴンボールを使う権利が与えられる。

 

ベジータはその問いに押し黙り、果たして自分に願うことなどあったかと考え始めた。

 

家族を得て、安らぎを手にした。幸いにも家は裕福で日々の食事からトレーニングからなに不自由なく過ごせている。

 

強さも得た。誰と比べることもない強さは孤高ではあったが、家族を守る為に得た強さは今では天井知らずに上がり続けている。

 

力を試す相手にも、超える目標にも事欠かない。

 

その上でベジータが望むもの。それは……。

 

「俺が望むものは()()()()()()()()()だ。……そして、それは俺の手元になくてもいい」

 

「全部欲しいの? わがままだねぇ、パパ!」

 

驚いた息子の顔が愉快で、ベジータはその頭をくしゃりと撫でる。

 

「ああ、俺は我が儘なんだ。お前達が平和に過ごす為には、何もかもが必要だからな。だがそれは別にドラゴンボールで願う必要もない。日々の努力で勝ち取っていけばいい。そういう意味では、今回叶える願いはないな」

 

笑みを浮かべ、武舞台を見上げるベジータ。

 

これまでの戦いで見いだした強さをぶつけることができる相手と、あそこでぶつかることになる。

 

ベジータは人知れず、己の限界を遥かに超えたパワーを試すことができる機会に抑えきれぬ胸の高鳴りを覚えるのだった。

 

__________________________________

 

先に武舞台に上がったブロリーは次の対戦者であるベジータの到着を待ちながら、ふと思ったことを口にする。

 

「アブーラ、あんたに言っておきたいことがある」

 

『なんじゃい、藪から棒に』

 

「……ありがとう。あんたがいなければ、俺はどこまでも破壊を求める殺戮の使徒にしか成り得なかった。こうしてただひとつの強さを追い求めることができて、礼を言う」

 

『かっ! これから死ぬわけでもあるまいに、礼を言うなど早いわい! それで、次の戦いでは“魔装術”を端から展開していいんじゃな?』

 

“魔装術”。それは、マントとなったアブーラが編み出したブロリーが全力戦闘するための反動吸収装置。無限のパワーを持つブロリーだが、一度に発揮できるパワーは肉体の強度によって制限される。アブーラはそれを自らが鎧と化すことによって慣性すら制御し、ブロリーの肉体にかかる負担を数百分の一へと抑制することができるのだ。

 

クリムゾンとの最後の一撃の際に纏ったのは全身を包み込む防御形態。今から纏うのは、攻撃を優先させた攻勢形態である。

 

「頼む。俺の勘だが、あの元王様は相当強い。さっきの桃白々とかいう男の闘いを見てそれがよくわかった」

 

ブロリーは笑みを消し、至極真面目な顔でそう告げる。

 

『……なるほどの。お前はそう見たか。だったら、わしも全力で防御に集中するぞ。本気でやれ、ブロリー』

 

「無論、そのつもりだ」

 

静かに気を高めるブロリーの上半身を、赤いマントが変形し鎧となっていく。

 

腕部と胸部を中心にブロリーの巨体を包む赤い鎧は禍々しいほどに鋭利な棘を生やす。その役割は相手の攻撃をわずかでも躊躇させる為のアブーラなりの気遣いである。

 

そうしてマントの大きさを3分の1ほどに縮めたアブーラだが、残るマントは想定外の攻撃から身を守ったり逆に攻撃する為に使うつもりであった。

 

そして、準備万端整った段階で静かに腕を組んだベジータが武舞台へと上がってきた。

 

その表情には、敵意も、害意も、悪意もない。ただ純然に対峙するブロリーを見つめていた。

 

「数奇なものだな。俺は銀河皇帝、あんたは今や王を捨てたひとりの男だ」

 

表情を嫌らしく歪め、かつてのベジータならば最も腹立つであろう言葉で僅かにでもベジータの動揺を引き出そうとするブロリー。

 

「ひとりの男であり、一人の夫であり、一人の父親だ。名ばかりの王をしているときより、よほど今の方が充実している」

 

淡々と笑みすら浮かべてのろけてみせるベジータ。その様子にかつて噂に聞いたプライドに凝り固まった部分は塵ほども残されていないとブロリーは悟る。

 

「……人は変わるものだな。すまない、あんたの動揺を誘おうと心にもないことを言った」

 

『そこで謝ってどうするんじゃ』

 

アブーラが思わずつっこむが、それを気にする二人ではない。

 

「気にするな。お前は気兼ねなく全力でかかってくるがいい。この俺が、お前の王の器を量ってやろう」

 

人差し指でブロリーを招くベジータ。そこに浮かんだ笑顔は実に蠱惑的で、ブロリーは“やはり”と確信する。

 

“この男は、すでに自分より数段高みに至っている”と。

 

「はあっ!!」

 

全身の気を解放し、己の身にかかる反動をアブーラの魔装術によって無効化したブロリーは、いきなり最大級の必殺技ギガンティックジェノサイドを仕掛ける──が。

 

ブロリー自身方向転換すら許されぬ超速の一撃を、あろうことかベジータは()()()回避する。

 

『「なっ!?」』

 

正中線をさらけ出すという、あまりの無防備を晒したブロリー。アブーラの魔装術によって反動を無理矢理吸収させ、慣性の法則を無視するような直角軌道にてその場を離脱。即座に体勢を整える。

 

『大技はやめじゃ! 弾幕を貼れぃ!』

 

「応よ!!」

 

アブーラの指示に従い、ブロリーはさながら拳の集中豪雨とでも言うような攻撃をベジータへと向かって降り注がせる。

 

ただでさえ破壊神に匹敵するパワーを持つブロリーのパンチは、それのみでも必殺技と呼べるほどの威力を持つ。

 

だが次に起きたベジータの反撃に、ブロリーとアブーラのみならず、彼らの闘いを見守る全員が驚愕することになった。

 

──ズドドドドドドドッ!!──

 

ブロリーの拳の雨。それを、ベジータはあろうことか全弾カウンターでもって迎え撃った。

 

「ス、スゴい……!!」

 

「あれでは巨大な拳に思いきり殴られたようなもんだ。どんな化け物でも倒れざるをえん」

 

モニター越しに武舞台を見るゼノが手に汗握り、桃白々が冷静に今の攻撃を解説する。

 

魔装術に入ったヒビを、アブーラが修復する。

 

ブロリーは飛びかけた意識を下唇を噛みきることで無理矢理繋ぎ止め、再び近接戦闘を仕掛ける。

 

今度はアブーラ自身も己の体であるマントを伸縮させながら、尖らせた先端でベジータに攻撃を仕掛ける。

 

実質1対2である戦いだが、ベジータは縦横無尽に振るわれる攻撃を一撃ももらわない。見ているだけで酔ってしまいそうな軌道を描きながら、ベジータは無数の攻撃を見ることさえなく回避する。

 

ビルスは静かに、その動きを見て学んでいた。

 

「……身勝手の極意。まさか先を越されようとはね」

 

「おやおや、殊勝ですねビルス様」

 

「当たり前だろう。ここにいる面子だけで破壊神の候補に上がる連中がどれだけいると思っている。こんな機会そうそうあるものじゃないんだ。だったら、僕も次に備えて勉強させてもらうまでさ」

 

ややぶすくれながらも、ビルスの視線は回避し続けるベジータから離れない。神の領域に至ることなくそれを超えてみせた()()()()()の強さは、破壊神の興味を強く惹いていた。

 

「ぜえ……ぜえ……ぜえ……まさか、この俺が息切れするとはな……!」

 

『なんというヤツじゃ……!! まさかこれだけの攻撃を仕掛けて掠り傷ひとつ負わないとは……!!』

 

攻撃主体の魔装術であるにも拘わらず、ブロリーの攻撃はまるでベジータに通用していなかった。

 

ブロリーの攻撃は、カッチン鋼で出来た武舞台に無数の拳の痕を残すほどのものである。

 

最短最速。エネルギー弾などよりよほど(はや)い攻撃を凌がれたが──ブロリーの心は折れていなかった。

 

「フフフ……!! いいじゃないか、素晴らしい!! ハーハッハッハッハ!!」

 

頭がおかしくなってしまったかと思うほどの哄笑。しかしアブーラは知っている。自身が共生するこの男は、ピンチの時ほど笑うのだと。

 

「点で駄目なら面で攻める! さあ、行くぞアブーラァ!!」

 

尽きたかに見えた気が瞬く間にブロリーの全身を満たし、光となって溢れ出す。

 

「ハアッ!!」

 

ブロリーの右手から撃ち出されたエネルギー弾がベジータへと向かっていく。

 

(はじ)けよ!!』

 

アブーラの操作によってベジータの寸前で無数に弾けたエネルギー弾がベジータを襲う。しかしさきほどの拳の豪雨以下の攻撃など今のベジータにはさして問題とならない。

 

だが、回避行動中のベジータにさらなる攻撃が降り注ぐ。

 

「プラネットゲイザー!!」

 

放たれた複数のエネルギー弾が直撃すると、武舞台上にエネルギー弾の数だけ爆光が生まれ、それは立ち上る光の柱となってベジータがいるエリアを埋め尽くす。

 

さしものベジータもこれには回避する術を持たず、エネルギーの中に飲み込まれていった。

 

「ギガンティックミーティアァァアァァァァアァ!!!!」

 

さらにブロリー渾身のギガンティックミーティアが光の渦と化したベジータのいるエリアに降り注ぎ、他のエネルギーと混ざりあった巨大なエネルギー球は破壊の渦を描きながら武舞台を削っていく。

 

「むうぅ……!!」

 

アレを同じ状況でやられたならば、今の自身では防御しきれないかもしれない。規模に比してビルスがそう思うほどの超圧縮されたエネルギー量がそこには込められていた。

 

ブロリーは破壊の渦に巻き込まれていない武舞台の端に降りると膝を突orつく。無限の気を持つと言われる伝説の超サイヤ人。その限界を超えたエネルギーの乱用は、アブーラの回復が追い付かないほどにブロリーの体力を消耗させていた。

 

『……やったか!』

 

「……いいや、ダメだな」

 

アブーラの言葉に答える形でブロリーが断言する。

 

すると、武舞台を包む破壊の渦の色が次第に変わっていった。

 

緑色のエネルギーは最初その色を銀色に染め、やがて銀と金が入り交じった輝きを持つと静かに昇華され光の塵となって消えていく。

 

晴れた景色の中心には、マスター超サイヤ人と化した──否、さらなる進化を遂げたベジータがそこに立っていた。

 

──立ち上る黄金の柱には、まるで寄り添うように銀の支流が流れ──

 

──全身を包む黄金と白銀の気は、穏やかに沸き立つ湯気のごとく纏われ──

 

──全てを見切る黄金の瞳孔は、銀の虹彩によって縁取られていた──

 

「身勝手の極意じゃない……!? なんだ、あの姿は……!!」

 

ビルスが立ち上がり、ウィスもその表情から笑顔を消し今のベジータを観察する。

 

「その姿、どうやらそれが今のお前の本気らしいな」

 

ブロリーが清々しさすら感じる笑顔でベジータを見つめる。

 

「ああ、お前のフルパワーのおかげで殻が破れた。超サイヤ人とは異なる領域……“無窮の極意”とでも名付けようか」

 

ブロリーは今、かつて初めて銀河を眺めた時のことを思い出していた。

 

なぜそんなことを思い出したか考え、すぐに答えは出た。目の前の男の強さが、まるで計れないのだ。

 

巨大な山を見たときのように。雄大な大海原を目にしたときのように。そして銀河の広大さを感じたときのように。

 

「……アブーラ。あと一撃だけ付き合ってくれ」

 

『正真正銘最後の一撃というヤツか。では、わしは少し寝ることにするぞ。全パワーをお主に預ける。やるだけやってみい』

 

そう言って、アブーラは己の全魔力をブロリーの左腕に宿して意識を閉ざす。

 

ブロリーは精神エネルギーである魔力を左拳に集中させ、逆の右拳には己の生命エネルギーである気を全て注ぎ込む。

 

「今思い付いた技だが、こいつは俺でさえどうなるか予想がつかん」

 

「来い。全てこの俺が受け止めてやる」

 

静かに、優雅に、ベジータはブロリーの前に立ちはだかる。

 

ブロリーの融合させんとするエネルギー同士が反発しあい、自然発生した紫の破壊の雷光が武舞台を削っていく。

 

「ふたつのちからを……!! ひとつに……!!」

 

強靭なブロリーの肉体が反動に耐えきれず震える。アブーラの魔装術によって耐えられる臨界を、今だけは超えていた。

 

「ギガンティック……!! ディバイン、ブレイカァァァァァァ!!」

 

両手を組み、周囲の空間との反作用を利用して地面を滑りながら突進していくブロリー。

 

凄まじいエネルギーの奔流は、しかしベジータのみに向けられ余波さえ生じない。

 

──ベジータは静かに拳を構える。

 

気を己の裡深くまで()()、生まれた光を()()、濁りない意思によって()()、あまねく全てと()()()()

 

ブロリーの全身全霊を受け止めたベジータの拳は、静かにそのエネルギーを霧散させていた。

 

「相殺しただと……!? 天地開闢に匹敵するような、あの馬鹿みたいなエネルギーを相殺したというのか……!!」

 

ビルスは驚愕と興奮に鳴り止まない心臓の音を聞きながら今の現象を理解できなかった。

 

だが彼のみならずこの場にいる全員が、全てが消滅してしまうかもしれない今の状況において動かなかった。

 

それすなわち、今のベジータの力をこの場にいる誰もが魂で理解したことに他ならない。

 

全エネルギーを使いきり幸せそうに気絶したブロリー。そのブロリーを抱き止めるベジータを──ただひとり悟空だけが笑みを浮かべて見つめていた。

 

 

 




つーことでベジータの新形態披露でした(´・ω・`)
なんとなく予想されてた人もいるんじゃないかなとは思いますが、身勝手の極意を超えさせてもらってます。まあそのままなられても違和感ありますしね。

では次回予告

彼の意思は神罰。彼の行為は裁定。
破壊の神の名の下に、振るい振るわれ星が瞬く。
次回【意地】。神を下すのは、いつだって人間だ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告