ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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雪、すごかったですね……(白目)



第67話【王道】

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魔人ブウとサタンことマークの出会いは一方的なものだった。

 

「サタン。お前に頼みがある。しばらくこいつを預かってくれ」

 

「ブウー!」

 

そう言ってクリムゾンから渡されたのはピンクの肌をした小太りの少年。年齢にして7、8歳前後だろうか。

 

「変わった子供ですね?」

 

「魔人ブウといってな。かつて宇宙を滅ぼしかけた存在だ」

 

「ええっーーーーーー!?」

 

冷や汗をかくサタンだが、クリムゾンは淡々と説明を続ける。

 

「そう騒ぐな。一応そいつはある事情から“悪の気”がほとんどなくなってる。というより、存在そのものが削られている。だがこのまま放置してもいずれ悪の気を吸収して元の姿に戻るだろう。そこで、お前に預ける」

 

「な、なんで私なんですか?」

 

「地球上の人間でお前が一番信用できるからだよ」

 

あっけらかんと言ってのけるクリムゾンに困るサタン。

 

「自分の妻を助ける為とはいえ、ナメックの謎かけを自力で解き、ピッコロを味方につけてグレイを倒し、俺との問答で認めたお前だからこそ頼むんだ。なに、タダとは言わんし困ったことがあればすぐにラディッツに聞け。一通りのことは説明してある」

 

「は、はあ。わかりました、がんばります」

 

いまいち不安の拭えないサタンだったが、彼は知らなかった。

 

このピンクの小悪魔がどれだけ好き勝手する生き物であるかを。

 

そしてブウもまた知らなかった。世の中には、善意だけで行動する人間がいることを。

 

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人造人間13号。それが、今のグレイ少佐の名だ。

 

かつての肉体はもはやない。今の自分を形作るのは、機械仕掛けの絡繰の身体である。

 

それでも電子頭脳に焼き付いた過去は自らをグレイというひとりの男でいさせてくれる。例え、それを証明するのが戦友との絆だけだとしても。

 

ズボンのポケットからタバコを取りだし、口に含む。指先から微量に放出した気によって火をつけ、深く息を吸う。

 

グレイは思う。よくぞこれだけの身体を自分に与えてくれたと。

 

彼は最初、蘇ってからの自分を一個の兵器にするつもりだった。かつて共に戦場を駆け抜け、惚れた男の為ならば己は一個の武器でいいと納得させようとした。

 

だが実際はどうだろうか。若き日より丸くなったとはいえ、クリムゾンはあの日と変わらず、人として自分と接してくれている。

 

それにどれだけ救われたか。そして、人であれるこの身体にどれだけ救われたか。

 

この身体は機械であるが、日常を送る分には人と変わりなく過ごすことができる。汗もかく、腹も減る、糞小便も垂れる。機械であるなら不要であるそれらの機能は必要とあれば任意で止めることさえできる。だが備わっているのだ。そしてそういった何気ないこと全てが備わっていることがグレイというひとりの男を未だ()()でいさせてくれる。

 

タバコを吸い終わると、グレイは携帯灰皿に吸い殻をグシグシと押し込む。身体に染み付いた臭いが、彼の精神を落ち着かせていく。

 

次の相手は可能性を失った自分とは対照的な、眩いほどに輝かしい可能性を持った少年だ。実力でいえば自分の10倍以上は軽くあるだろうと思い、グレイはほくそ笑む。

 

相手が強いことなど今さらである。戦場で戦車や爆撃機を前に「フェアじゃない!」と叫ぶ意味などないからだ。だが戦いようによっては、例え歩兵でも戦車や爆撃機を倒すことはできる。それを思えばたかが10倍の差、覆して見せよう。

 

かつてのあの男(クリムゾン)のように。

 

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いい顔をしている、とグレイは思った。迷いのない、真っ直ぐな瞳だと。

 

「よろしくお願いします!」

 

その言葉に、グレイは思わず押し黙る。これから戦う相手。嫌った方が、憎んだ方がやりやすい筈だろう。こちらを舐めているのかとも思う。だがそれは違う。この少年は、真摯に向き合っているのだ。相手と、そして自分と。

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

だからグレイも真摯に向き合うことにした。負けてもいいなどとは思わない。勝って自分の価値をどこまでも高めてやろうと思う。

 

『さあ二回戦も残すところ後三試合! 孫悟飯対人造人間13号、開始(はじ)めいッッ!!』

 

アナウンサーの声を合図に悟飯は走る。舞空術ではなく己の健脚によるダッシュは瞬く間にグレイとの距離を摘める。

 

「SSデッドリーボンバー!!」

 

まずは小手調べ。地球の半分を消し飛ばす威力の技をこの少年がどうするのか、それが見たい。

 

「はあっーーーー!!」

 

悟飯はSSデッドリーボンバーを手刀で散らす。なるほど、自分の力に確固たる自信があるようだ。

 

だが──

 

「それは悪手だったな」

 

──悟飯から見て真っ直ぐに並んで撃たれていたもうひとつのSSデッドリーボンバーがその姿を晒し彼の幼い顔面に直撃する。

 

「悟飯ちゃん!」

 

彼の母親が悲鳴を上げるが、例えSSデッドリーボンバーでもこの少年には致命傷足り得ない。

 

ゆえに、爆煙を抜け僅かに鼻血を垂らした悟飯の顔面に、急接近したグレイの飛び膝蹴りが直撃する。

 

「かはっ……!!」

 

強かに顔面を打たれ、思わずその場で揺らぐ悟飯。だがグレイは容赦しない。ここで畳み掛けねば勝てないということは、これまでの戦いを見てよく理解していたからだ。

 

「おおおおおおああああああ!!」

 

悟飯の喉を掴み、勢いよく武舞台に叩きつけるグレイ。さらに彼は悟飯の腕を掴み僅かに頭を上げると、全力で顔面へ向けて足裏を叩きつける。

 

──ガキッ! ゴガッ! ギンッ!──

 

試し割り、という()()がある。これは空手家などが演舞(パフォーマンス)として魅せるものの一つで、人体を用いて固い木石や氷塊を砕く行為だ。

 

これの内に、石を手刀で叩き割る技がある。未熟なものはこの際下にしたコンクリートやアスファルトとの間に十センチほどの隙間を空ける。こうすることで、結果的には手ではなく下にしたコンクリートやアスファルトで石を叩き割ることになるからだ。

 

今悟飯が受けているのは、人間での試し割りとも言えた。

 

人体をぶつけた程度では到底鳴り得ない音が鳴り響き、アナウンサーも止めた方がいいのかと戸惑うなか、不意に13号の足が止まる。

 

「ぐ、ぎぎぎ……!!」

 

「半端に受け止めたところで……くわぁっ!?」

 

悟飯がグレイの足元から脱出する。足を抱える13号のくるぶしから先が、千切られていた。

 

「すごい……力技だな……!」

 

冷や汗を流しながらもグレイは悟飯を称賛する。その目に宿った殺意を嬉しく思いながら。

 

「があっ!!」

 

「ぐふっ……! くくく、捕まえたぞ!!」

 

キレた悟飯がグレイの鳩尾を打ち据える。が、グレイもただでは終わらない。今の一撃でさらに内部に損傷が起きたが、それを無視して悟飯の腕と自身の腕を一本の紐で結んでしまう。

 

「ぐあっ! こ、このぉ!」

 

「おっと!」

 

グレイは巧みに紐を操り、超至近距離であるにもかかわらず悟飯の動きを紐で翻弄し自身の攻撃を確実に当てていく。その全てが顔面の中心を狙って放たれるものだった。

 

「しゃあ!」

 

「あぎゃっ!!」

 

グレイの頭突きによって、とうとう悟飯の鼻が折れる。激しい苦痛といよいよ息ができなくなった苦しさから悟飯が悶える。

 

「ぐっ! あが!」

 

グレイは無表情に悟飯を打ち続ける。すでにその攻撃は拳ではなく肘に変わり、悟飯を再起不能にせんばかりの苛烈な攻撃に見守る彼の師匠連中にも不満が溜まっていく。

 

「ええい……! グレイめ、いい加減にしないか!!」

 

「落ち着けピッコロ。怪我は治せるし、なによりグレイは何一つ間違っちゃいない」

 

ヤキモキするピッコロを宥めるラディッツ。そんなふたりを横目にしながらクリムゾンは若き日々を思い出す。

 

最初にグレイが自分に喧嘩を売ってきた日。彼は今グレイがやっている紐で動きを封じる戦術で、体格で上回るグレイを一方的にボコボコにし全治一週間の重傷を負わせた。

 

かつては少女と見紛うほどに細かったクリムゾンは、フィジカルで上回る相手は特に容赦なく打ちのめした。銃の扱いを覚えたのも、体型に関係なく圧倒的な攻撃力を持てるからだ。

 

しかし、クリムゾンは確信していた。恐らく、グレイは勝てないことを。

 

「うううあああああああああ!!!」

 

再び吠えた悟飯が、向かってきた肘に食らいつき歯が折れるにも構わず受け止め、その腰に突進する。

 

そう、この紐を攻略するには紐を切る以外にもうひとつある。近づききってしまえば関係ないのだ。

 

押し倒されたグレイは、先程までのお返しとばかりに半端に起き上がっていた顔面を勢いよく悟飯に打ちのめされていく。

 

鬼気迫るその様子は巻き上がる茶色い人工血液の色と相まって凄惨な図と化し、返り血を浴びる悟飯の姿は鬼そのものと言えた。

 

やがて、グレイが抵抗すらできず静かに横たわった頃。悟飯はどうにか自身の拳を止めることができた。

 

完全に頭を潰すつもりで打とうとした拳を、突如脳裏に響いたホーンライダーの声が止めたからだ。

 

「ぼ、僕は……!!」

 

自分自身が起こした結果に恐怖を抱きそうになる悟飯。しかし、攻撃が収まったのを察したグレイはその瞬間起き上がり悟飯の後ろに回り込むと、首に手をかけ──力尽きて倒れた。

 

『勝者! 孫悟飯選手!!』

 

パワーでも、スピードでも、テクニックでも、全ての面で悟飯が勝っていた。だが、悟飯は今の勝負で手段を選ばない相手の強さというものを嫌というほど味わうことになった。

 

その後控え室で師匠連中から心配と鼓舞と反省とさらなる修行を課せられた悟飯だったが、グレイの見せた強さは悟飯に新たな強さをしっかりと植え付けていた。

 

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人造人間用の特別な病室にて、治療を受ける為に首だけとなったグレイは目を覚ました。

 

『ここは……』

 

グレイの声は声帯が潰れていたことによって繋がられた機械のスピーカーから響いた。

 

「俺が作らせた人造人間用の専用病室のひとつだ。まったく、俺がいなければお前また死んでいたぞ」

 

クリムゾンの持つ能力のひとつに、復元能力がある。かつてセルが見せた、物質を以前の形に戻す再生能力の上位能力。消耗が激しいとはいえ、すでに試合に参加することのないクリムゾンにとってみればその程度なんら問題はない。

 

グレイは電子頭脳が半ば破壊され、全身の機能も9割が故障していた。最後に悟飯を裸締めにせんと見せた動きはまさしく電子頭脳に宿った彼の意地が起こした行動とも言えよう。

 

『申し訳ありません……負けてしまいました……』

 

グレイは気負っていたことを自覚する。クリムゾンが負けてしまった今、自分こそがどうにかしてこの大会に優勝せねばならないと無自覚に思っていたと。

 

だがそれはクリムゾンの行動を無駄に持ち上げるだけの、蛇足に近い行為。負けて五体もまともに動かせない今となっては、孫悟飯少年に悪いことをしたとさえ思っていた。

 

「ああその通りだな。ガキ相手とは思えないくらいムキになって、喧嘩殺法駆使して負けたなんぞ。恥を知れ恥を」

 

冷たく突き放すような言葉。繋がっていないはずの胸がどこか痛む錯覚をグレイは覚える。

 

「……だが、ナイスファイトだった。よくもまああんな“可能性の塊”相手に善戦したよ。()()()()、また頼むぞ」

 

『……はい、ありがとうございます』

 

そう答えるグレイの顔から、機能停止によって流せないはずの涙が滴り落ちた気がした。

 

 




戦場でのクリムゾンは、兵種を選ばず単身激戦区で戦功上げる化け物でした。狙撃手の気配察知してスコープ撃ち抜く、百倍単位の部隊を足止め、などなど。また基本的に武器は相手のものを奪って使っていました。でも物量には勝てず、彼の戦争は常に負け戦だったりします。
ちなみにそんな彼が当時使っていた愛銃はサンダー.50BMG。文字通りの切り札でした。

【若い頃のクリムゾンを描写してみる】
母親似全盛期の姿。化粧なしで女装が栄えるくらいの美人。美形じゃない、美人。
当時は体格的にどうしても細く、学生時代はよく女に間違えられ、その都度相手の指をポキポキ折っていた。グレイは当時有名だったクリムゾンに喧嘩を売り、その容姿を馬鹿にしたことからエライ目にあった。以後舎弟に。
ちなみに体格が細いだけで握力は当時から尋常じゃなくあった模様。
アレキサンダーくんがイスカンダルになっちゃった的な変貌遂げてます(´・ω・`)(笑)
イメージCVは坂本真綾さんで(爆)


眩さを感じるほどの真紅の長髪。白磁のような肌。細く整った指はそれだけで色気を感じさせ、無防備に開けられた胸元から覗く鎖骨が視線を釘付けにする。さながら抜き身の刀を思わせる危険な美しさが宿ったあの人に、俺は頭がどうかされちまったらしい……
※グレイくん17歳の頃のモノローグより。

では次回予告~

失われた時間は戻らない。
だが今から進む時間を守ることはできる。
悠久を生きてきた武人との邂逅は、青年に何をもたらすのか。
次回【普賢】。超えるべきは、時か運命(さだめ)か。

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