ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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日頃から「なぜ体調管理ができないのか」「どうして初期症状の段階で病院に行かなかったのか」と連呼している上司がインフルに。しかも三日前から自覚症状ありなのに平気でマスクなしで働いていた模様。そしてその影響で私の休みは消滅。残った毛根全て滅べ。
なんだよ12連勤て。


第64話【再開】

神龍よりも遥かに巨大な怪物である幻魔神ヒルデガーン。その巨体が持つ破壊力はすさまじく、超サイヤ人オリジン・フルパワーとなったラディッツも苦戦を免れなかった。

 

「攻撃を仕掛けても煙となってすり抜けられる、か。知らなければ不意打ちをもらって終わっていたな……!!」

 

ラディッツが両腕から発射するダブルサンデーで牽制するも、ヒルデガーンは煙となってそれを回避してしまう。

 

「くっ……! 俺にベジータやカカロットほどの格闘センスがないのが悔やまれるな!」

 

尻尾の打撃を無理矢理受け止め、せめて動きを固定しようとするもそれさえも逃れてしまう。

 

カウンターで仕留めればいいのは理解しているのだが、それをするだけの余裕がラディッツにはなかった。とはいえ、必要な一撃を準備している者がいる。ならば今のラディッツが為すべきことは、そのチャンスを作り出すことだ。

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛ッーーーー!!!!」

 

ヒルデガーンが叫びと共に広範囲の火炎を吐き出す。未だ避難が終わらない観客席はバリアで守られているとはいえ、ラディッツからすれば無力な者を背後に逃げ出すわけにもいかなかった。

 

「無理にカウンターなんぞ仕掛けようとするから逃げられる……だったら!!」

 

火炎がラディッツを飲み込み、魔術と気の複合能力である火炎が彼の全身を焼いていく。

 

しかしラディッツはそれを無視してヒルデガーンの口腔まで肉薄すると、自身最大最短の必殺技をそこへ向けて発射した。

 

「ウィークエンドォ!!」

 

両腕から放たれ口内から侵入したエネルギー波はヒルデガーンの頭部を吹き飛ばすことさえ叶わなかったものの、体内にまで及んだ気の波動がヒルデガーンの全身にヒビを入れる。

 

沈黙するヒルデガーン。しかしラディッツは知っている。この幻魔神がまだ成体へと進化することを。そして、蛹が孵る瞬間こそ最も無防備であることを。

 

──ォン──

 

一刀が、今まさに変わろうとするヒルデガーンに向かって振るわれた。

 

「揚げて食うと美味そうだったんだけどな」

 

チン、と刀を仕舞ったヤジロベーが振り返る。哀れ、ヒルデガーンは生まれ変わる寸前の脆い肉体を両断されて武舞台中央で横たわった。

 

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クリムゾンの肉体は、セルの再生能力を用いて擬似的に再現したモノである。

 

かつてのヒトとしての体はもはや無く、彼がプロトなくば日常生活すら送れない理由がそこにある。

 

彼の肉体は変身せずとも戦闘力にして1億ほどを計上するが、それはあくまで出力での話。

 

言うなれば彼の肉体は、バラバラの戦闘力を持った無数の細胞が無理矢理くっ付けられているのと変わらないのである。

 

例えるなら、仮に右足のつまさきのパワーが最大で100。その内10だけ引き出すとしよう。同じ感覚でくるぶしの辺りを動かそうとすれば、そこのパワーは最大で2000もあり、結果的には200ものパワーが発揮されてしまうということだ。

 

こういった状況が細胞単位で全身に存在し、それらはひとつとして同じ出力ではないのだ。そしてそれらてんでばらばらな細胞を統括するのがプロトである。

 

生機融合体でもあるクリムゾンの肉体を応用し、プロトは常時肉体の全出力を担っている。それは過剰なパワーを発揮しようとする肉体を抑制することでもあり、クリムゾンがプロトなくては日常生活さえ送れないことの理由がここにあった。

 

無論、セル事件以降クリムゾンが何ら対策を打たなかったわけではない。だが、無数の細胞ひとつひとつを解析し調整する為にはそれこそ100年単位で時間がかかる。

 

そこで彼が目を付けたのが、潜在能力の解放だった。

 

老界王神がトランクスから膨大な戦闘力を引き出す方法に魔術が用いられているのを、クリムゾンは金色の眼差しで看破していた。

 

とはいえクリムゾン自身に、そこまでとんでもない魔術の素養はない。また、神を頼って自らを完成させることはクリムゾンの矜持に反する。

 

そこでさらに白羽の矢が立ったのが、魔人ブウ復活の為に地球へ降り立った魔導師バビディだった。彼が持つ洗脳魔術と、それに伴った潜在能力の解放。これらを自らが取り込めば、或いはこの肉体を克服できるのではないかと。

 

だがそれを成すのは簡単ではなかった。まず単純にバビディを取り込むことはクリムゾンが拒絶した。かつてセルが行ったのと同じ蛮行に及ぶのを激しく拒絶したのだ。

 

ではどうする、といったところで“ならばバビディ本人に魔術を仕掛けさせればいい”という結論に至った。自身の内にある“悪の気”を最大限強調し、バビディの行動を制限して誘導してやればよいと。

 

10の力しか発揮できていない細胞も、10000の力を発揮できる細胞も、等しく全て引きずりあげる。

 

なるほど確かに凄まじい痛みがクリムゾンを襲ったが、そんな程度で怯む彼ではない。死者の復活という予想外の出来事はあったが、それとて現在地球上にいる面子を考えればなんら問題はない。

 

そうしてブロリーがセルをボコボコに打ちのめし、アブーラによって行動を封じられた頃。

 

クリムゾンの究極(アルティメット)化は、完成していた。

 

「……待たせてしまったな。退屈させたなら、すまない」

 

セル化したクリムゾンの見た目に殆ど変化はない。胸部中央に芽生えた、凧型をした黄金のクリスタルを除いて。

 

「いや、思ったよりはコイツとの戦いも楽しめた。一応聞く為に殺さないでおいたが、こいつは始末してもいいのか?」

 

ブロリーは徐々に再生しつつあるセルを見下ろして言う。

 

「いや、私が承ろう。もはや転生さえ許さん」

 

言いながら歩み寄るクリムゾンにセルが怯えるが、一見簀巻きにされただけの拘束はびくともしない。

 

「もう一度このような機会がないとは言えんからな。さようならだ、セル」

 

「ま、待て……!」

 

クリムゾンがセルの頭部を鷲掴みにした瞬間アブーラの拘束が離れ、かつてセルと呼ばれた存在は魂さえも()()されて真っ白な砂のようになって崩れていった。

 

クリムゾンはそのまま超能力のいくつかを発動し、本来の性能を十二分に発揮できるようになったプロトと協力して全宇宙のみならずあの世さえをも把握していく。

 

「突然死人が蘇った原因はあの世か。……あれはフリーザか? なるほど、あれならばすぐに問題も解決しよう。では、地球上だけでも余計な存在は一掃させてもらうとするか」

 

何気なく上げられた腕から、無数のエネルギー弾が発射される。アサルトレインという名のそれは、世界が違えば地球人全てを抹殺する攻撃でもあったが、今はそれが地球人全てを救うための光となった。

 

クリムゾンに属する者や生者を守ろうとする者を除いて、地球に現れた他を害するこの世ならざる者共が一掃される。美しい花火さながらの光景に誰もが武舞台へ目をやり、同時にそれは見る者に戦いの再開をも予感させた。

 

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カサカサに枯れ果て、恐怖の表情で絶命した魔導師バビディの姿を見て、トワは全身に走る震えが止まらなかった。

 

バビディが何かを狙っているのを彼女は気づいていた。もし自分があの恐ろしい赤毛の男に売り込むとすれば、それを妨害するのがいいだろうと算段も付けていた。

 

しかしその企みも杞憂だった。実際にクリムゾンを洗脳しようとしたバビディの表情が、すぐに驚愕へと変わったからだ。

 

なんとクリムゾンは、バビディの仕掛けた洗脳魔術に呼応して彼の魔術そのものを奪い取りに来たのだ。

 

これに慌てたのはバビディである。彼は必死の形相で流出する魔力を止めようとしたが、遂にそれは叶うことなく、クリムゾンの潜在能力を解放する為に己の全魔力を解放する羽目になり枯死した。

 

傲慢で、愚かで、矮小な存在ではあったが、自らが頼るモノ全てを奪いあげ抹殺するクリムゾンのやり方に、トワは戦慄し恐怖していた。

 

今彼女はただ、無性に誰かに抱き締めてほしかった。

 

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クリムゾンとブロリーの二人は互いに事態が収拾していくのを並んで知覚しながら相談しあっていた。

 

「さて、どうする。興が冷めたなら一度時間を置くが」

 

「欠片も思っていないことを口にするんじゃあない。笑顔が隠せていないぞ」

 

再び獰猛な笑みを浮かべた二人が誰に言うでもなく気を昂らせ、武舞台中央の大穴を境にして向かい合う。

 

『え、戦う? 誰がですかってえええええーー!?』

 

戻ってきた21号に腕をつつかれ教えられたアナウンサーが武舞台を映し出すモニターを見て驚愕する。

 

「生まれて初めてだ……本気を出せそうな相手は。俺を失望させないでくれよ?」

 

「こちらこそ、今の私のフルパワーがどれほどのモノなのか。存分に当たらせてもらうぞ……!!」

 

『いかん! 結界を張るぞ!!』

 

『武舞台に最大出力の自立バリアを展開』

 

アブーラとプロトがそれぞれの用いることができるフルパワーの結界とバリアを武舞台と武舞台外縁にそれぞれ作り出す。

 

「ぬうぅぅあっ!」

 

「かああああっ!」

 

ブロリーのギガンティックミーティアとクリムゾンのスーパーノヴァがぶつかり合う。後少し障壁の展開が遅れていたならば、武舞台は今の一撃で完全崩壊していただろう。

 

「はっ!」

 

「てりゃぁ!」

 

ブロリーの巨大な拳がクリムゾンを襲うが、クリムゾンはそれを念動力と併用した合気によって運動エネルギーごとブロリーを空中へと放り投げる。

 

「はっはっはっはっはっは! 気が高まる、溢れるぞぉ……!」

 

ブロリーが高め身に纏った気からブラスターメテオが発動し、無数の気弾が文字通り武舞台を埋め尽くさんばかりに降り注ぐ。

 

「ディザスターレイン!」

 

それに対してクリムゾンは自身に命中するモノだけを狙いディザスターレインで迎撃し、プロトにそれの制御を任せている間に胸部のクリスタルを両腕と共鳴させ最大威力の必殺技を準備する。

 

しかしブロリーもまたその無限とも言える気に任せて、ブラスターメテオを発動したまま両手を構えて最大威力の必殺技を仕掛ける。

 

「エーテルストライク!!」

 

「ギガンティックオメガ!!」

 

互いの必殺技がエネルギーを食い合いその威力を相殺するが、即座に殴り合いを始める両者。

 

小細工抜きでの極限の肉弾戦が、戦いを見守る全ての者の意識を引き付けていた。

 

あの世で起きた騒動を見守るのみに止めた破壊神でさえ、二人の戦いを前にして手に汗を握っている。

 

巨拳が振るわれ、クリムゾンの硬質な拳がそれを弾き逆の拳を腹筋に叩き込む。しかしまるで分厚いゴムの塊を殴ったかのような感触にクリムゾンの拳は弾かれ、ブロリーの頭部が隕石さながらにクリムゾンの頭部目掛けて墜落してくる。

 

回避したクリムゾンが肘でブロリーの顎を狙えばブロリーは逆に接近することで側頭部で威力の減衰した肘を受け止めると、クリムゾンを捉え絞め殺さんと迫る。

 

クリムゾンは脱力するようにしてブロリーの拘束を逃れると、その場で反転し全身のバネを最大級に発揮して強烈な逆さ蹴りをブロリーの顎へと命中させる。

 

「ぐう……! ふっはっはっはっは! 掴まえたぞぉ!」

 

ダメージ覚悟でそれを受け止めたブロリーは捉えたクリムゾンの両足を振りかぶり自身の周りを超高速で振り回す。

 

目にも止まらぬ速さで振り回されるクリムゾンは遠心力に耐えながら脱出手段を模索するも、半透明のドレスのようになったクリムゾンは時折バリア仕込みの地面へ叩きつけられることもあり思うようにいかなかった。

 

だがそれも長くは続かない。クリムゾンが自ら足を切り離したからだ。

 

「なにっ!?」

 

「喝っ!」

 

クリムゾンが念を込めるのと同時、ブロリーの掴んでいた足が大爆発を起こす。

 

その間に両足を再生させたクリムゾンは、わずかに距離を取りながら些かも戦意を喪失していない。

 

やがて爆煙の中から姿を現したブロリーが、アブーラに火傷を治癒されながら構える。

 

右腕を前に、左腕を正面に。右拳は掌を天に向け、左拳は掌を地に向けている。

 

腕と同じ位置で広く前後に取ったスタンスは前進のみへと意識が向けられていることを意味していた。

 

「これから出す技は俺の本気の技だ。お前とて、正面から受け止めれば“死”は免れん」

 

ブロリーの顔からは笑みが消えていた。本気を出させてくれた歓喜はある。だが同時に、これから出す技を用いれば相手を殺してしまうことを確信してブロリーは自覚することなく涙を流した。

 

「鬼が泣く、か。泣くぐらいなら哭け、ブロリーよ。お前は強い……反則的な手段で得た強さを持つ私に一個人で肉薄できるのはお前のみだろう。この俺が、お前を最強と呼んでやる」

 

「うれしいな。お前に出会えて、俺は幸せだ──おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!」

 

ブロリーの気が高まり集束していく。

 

同時にブロリーの全身をアブーラのマントが包み込み硬質化、マントは鎧へと変化していく。

 

(体にかかる負担をアブーラの鎧に委ねた姿か。文字通りフルパワーが来るだろう。だが、それに臆して逃げるような真似をすれば私はレッドリボン軍総帥としての矜持を失う……)

 

クリムゾンは、独り()()を決めた。

 

「かあああああああッ!!」

 

クリムゾンの腕が赤熱化し、赤く、白く変色していく。

 

「心よ燃えよ……!! 魂よ吠えよ……!!!!」

 

奇しくもクリムゾンの構えは、ブロリーと鏡合わせになるかのように全く同じとなる。

 

ビルスは自身であれば()()らを受け止められるかと考え、苦笑する。

 

「……僕としたことが。ッ! 動くかッ!?」

 

武舞台をバリアごと消滅させながら、ブロリーとクリムゾンが大穴の上で衝突する。

 

「ディバインフィストッッッ!!!!!」

 

「バニシングフィストッッッ!!!!!」

 

ぶつかり合う互いの拳から生まれた余波のほんの一部で、武舞台が完全消滅していく。銀河崩壊規模のエネルギーが生まれるが、しかしバリアが消滅する寸前にビルスが自らの力を持ってエネルギーを相殺していく。

 

「くうぅ……!! なんてとんでもないエネルギーだっ!!」

 

悟空やべジータ、ピッコロやクウラなどもそれに加わりエネルギーの放出を食い止める。

 

──やがて、奇跡的に残った岩盤の上に対峙していたふたりの姿が見えてくる。

 

クリムゾンは片腕を失いブロリーに支えられていた。ブロリーは全身に激しい裂傷を帯びているものの、別段ふらつくこともない。

 

「やれやれ、敗北()けだな。だが心地よさすらある。清々しいほどに完敗だ」

 

『わざわざ正面からブロリーの一撃と撃ち合いよって。……その腕、()()()じゃろう?』

 

「ほう、わかるのかアブーラ殿」

 

『こう見えて知恵だけはあるからのう。まあお前が覚悟の上で起こした結果であるなら、ワシから言うことはないわい』

 

「なに、次はもっと上等な腕を用意しておくさ」

 

冗談目化して笑いながら、クリムゾンは肘から先を失った腕を振りながら答える。

 

その様子が可笑しかったのか、笑い出したブロリーに釣られて笑ってしまうクリムゾン。

 

『あ、あの~? 勝負はどうなったのでしょうか?』

 

勝敗を告げる権利を持ったアナウンサーが、和気藹々とした二人の雰囲気に困り果て思わず質問する。

 

「ああ、すまんな。私の敗北()けだ。ブロリーの勝利だよ」

 

爽やかに笑うクリムゾン。これはあくまで武としての強さを求めた武闘大会。戦争ではないのだ。ならば、こうして敗北を笑うことも許されるだろうとクリムゾンは思う。

 

力の入らない体で、クリムゾンは安心して意識を失った。

 

 




ちなみにバビディの没カットです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=172341&uid=35351

ということで戦いはブロリーの勝利となりました。まあ総帥も真正面からガンガン殴り合うという本来のスタイルではないのでしゃーない。でも本人的にはとっても満足(´・ω・`)

最大規模の戦いは終わりましたが、まだまだトーナメントは続きます。
では次回予告~♪

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かつて天下一を謳う武闘会にて、勝負を分けた男達がいた。
友より授かりし奥義を胸に、矮小なりし勇者が真価を示す。
次回【極限】。クリリンよ、お前の力を見せてやれ。

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