ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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hisaoさん、誤字報告ありがとうございました。
前回感想にて「バトル描写ばっかで飽きてきた」と言われてしまいましたが、お気づきでしょうか? “今回の試合でようやっと半分を過ぎたということを”!!
本当の地獄はここからだぜ……(´・ω・`)!!(笑)

まあ冗談はさておき、自分としても飽きが来ないように色々他のキャラクター視点など交えて今回の大会は書いていきますのでそれも併せてお楽しみください。
あとこれを見てマイトガインを好きになってください(笑)
グレート・ダッシュ!! (3:44) http://nico.ms/sm3466271 #sm3466271 #ニコブラウザ


第55話【好敵】

──……──……──……──……──……──……──

 

宇宙の辺境。

 

ルード教と呼ばれる邪教集団との戦いで、ヤムチャはパラパラブラザーズを名乗る三人組が仕掛けてきた意外な技に苦戦を強いられていた。

 

「くそぉ……! 踊るのを止められん!!」

 

「ぐぬぅ……! お、おのれえええ!!」

 

『ギ、ギルルルル……!!』

 

ヤムチャと共に躍り狂うのはレジック。以前寄った惑星イメッガで戦った相手であり、ドン・キアーなる惑星の王に雇われた用心棒だった男だ。ヤムチャに負けてからは彼と共に宇宙を旅している。

 

もう一体はギルを名乗る小型の人型ロボット。プーアルに気に入られ共に旅をする彼もまた、ヤムチャの仲間である。

 

しかし宇宙においても列強に挙げられるほどの実力者であるレジックですら、躍りを誘発する催眠音波に逆らえないでいた。

 

『ヤムチャさま~! ボクもダメです~!』

 

同じくマントに変身していたプーアルも、ヒラヒラと揺れ踊っている。聴覚がある者を対象に無制限に行動を制限するパラパラブラザーズの催眠音波。その意外すぎる凶悪さにヤムチャは冷や汗をかく。

 

「ボンパラパラパラ、ボンパッパ♪ ライトライト♪ レフトレフト♪ クルっとターンでニッコリスマイルゥ♪♪」

 

煽るように歌い、躍り続ける三人組のなかでも一際大柄な体格のリーダー、ボンパラ。

 

「スマイルを忘れちゃダメよ~!」

 

自身の両頬を人差し指で押し上げながら挑発する細身のダンパラ。

 

「スマイルスマイル~♪」

 

小太りのソンパラがクルリと回り会心の笑顔を向けてくる。

 

「き、きっさまらっーーーー!! ……むっ、なんだ、この脱力感はっ!?」

 

激高するレジックは気を高めようとするが、そこで自身の体から気が抜け落ちていくような感覚に気づく。

 

(そうか! この躍りには相手を無力化する効果まであるのか! まずい、音さえ聞けるなら強制的に行動を制限するだなんて、なんて奴等だ……! しかもなまじ意識があるから最初は抵抗する、その間に気が減ってしまえば……!!)

 

この躍りの効果を解析し、その力に戦慄するヤムチャ。そうこうしている内に、ボンパラが躍りながらレジックに近づく。

 

「ぐあっ!!」

 

「ほーら! スマイルを、忘れちゃダメよー!」

 

躍りながらボンパラがレジックを殴り飛ばす。まともに戦えば瞬殺できるであろう実力があるにも関わらず、躍りによって戦闘力を大幅に下げられたことでレジックは無防備に殴り倒されてしまう。しかも、気絶しなければ躍りは続く。かつてヤムチャと互角以上の戦いを繰り広げた男が一方的に痛ぶられるその姿に、ヤムチャは内心で戦慄する。

 

「そぉら! アンタもよ!!」

 

何故か口調さえ変化しているボンパラの一撃がヤムチャを襲う。思考するためすでに踊ることに対する抵抗を止めていたヤムチャは、その瞬間不意にリズムに合わせてターンする。

 

「ととっ!!」

 

「なにっ!?」

 

体の自由は効いていなかった。しかし、今ヤムチャは己の意思で攻撃を回避することができた。

 

「ええい、偶然よ!!」

 

腕を振りながら、再び迫るボンパラ。ヤムチャは再び、リズムに乗って回避しながら回転に合わせて裏拳を繰り出す。

 

「あぎゃ!」

 

一撃で殴り飛ばされるボンパラ。

 

「ええ!」

 

「リーダー!」

 

動揺が広がるパラパラブラザーズ。その瞬間、ヤムチャはこの技の弱点に気づいた。

 

「そういうことか!」

 

ヤムチャは躍りながらクルクルと()()()()()()()()残る二人を攻撃していく。

 

「クルっとターンで!」

 

「ぐえっ!」

 

回し蹴りによって飛んでいくダンパラ。

 

「ニッコリスマイル!」

 

「おぎょ!」

 

歌うことでさらに自由度が広がることに気づいたヤムチャは、歌いながらスマイルの際に上がる肘を利用して最後のソンパラを打ち据える。

 

「繰気弾!!」

 

気の減衰が止んだのを察知して、ヤムチャの意思で動く繰気弾が放たれる。それが音源であるパラパラブラザーズのジャケットを破壊し、一行は催眠音波からようやく解放された。

 

倒したとはいえムーマという異常に強靭な生物もいるこの星からさっさと脱出したいヤムチャだったが、地響きからそれも難しくなったのを悟る。

 

後ろを振り向けば、先ほど倒した巨大なムカデにも似たムーマが起き上がろうとしていた。

 

「不味いな……!! プーアル、レジックを頼む!」

 

「はい、ヤムチャ様!!」

 

マントから少女の姿に変わったプーアルはレジックを重そうに抱え、途中で変化すればいいことに気づいて空飛ぶ絨毯となってレジックを宇宙船へと運んでいく。

 

ヤムチャもまた倒したパラパラブラザーズ全員を抱え、宇宙船へと移動しようとした。

 

──その瞬間、総毛立つようなとんでもない気がどこからともなく一行の肌を叩いた。

 

「なっ……!!」

 

「ぐっ、な、なんだ……! この気は……!!」

 

気絶していたレジックすら起こす壮絶な気の爆発。それを感じ取って、ヤムチャは不意に覚えのある気配を思い出す。

 

「ご、悟空なのか!?」

 

半信半疑のヤムチャだったが、よく感じとればその気は自身の友である悟空のモノであると断言できた。しかし遠く離れた宇宙まで届くそのあまりにも巨大な気に、ヤムチャは戦慄する。

 

「たしか、銀河最強決定戦なるモノが地球では行われているはず……一体、何をするつもりなんだ悟空!?」

 

あまりに巨大な気を感じ、さきほどまでヤムチャ一行を襲うつもりだったムーマでさえ怯えて隠れてしまった。

 

ヤムチャは地球で何が起きているかを気にしつつ、呆けているレジックとプーアルに声をかけて宇宙船へと向かうのだった。

 

──……──……──……──……──……──……──

 

 

時を少し戻して、地球における銀河最強決定戦の武舞台にて。

 

八回戦のザンギャ対ゴクアが、ザンギャの不意打ちによる赤い糸の結界であっさりザンギャの勝利に終わった後。

 

エレベーターで上がってきたその二人が対峙した瞬間、喧騒が止んだ。

 

緊迫感、などという生易しいものではない。

 

闘気、闘志、闘魂。闘うために溢れる感情が空気を、空間を歪め、二人の激突を予感させている。

 

その静けさには、もはや神聖ささえあった。

 

「……ようやくだ。ようやく()()までやってこれたぞ」

 

「……ああ、そうだな」

 

アナウンサーから開始の合図は既に告げられている。しかし二人にとってそんなことは関係ない。

 

彼らがこうして正面から対峙した時点で、ぶつかり合うのは決定事項なのだから。

 

「クリムゾンに尋ねたよ。細工したのか、とな。答えは“否”だった。今日ほど運命を感じた瞬間はない……。孫悟空、俺はお前を認めている。お前も、俺を刻み込めッッ! 出し惜しみなど絶対に許さん!! 俺の全存在を貴様に叩き込んでやる!!」

 

瞬間、クウラが駆け出し──消えた。

 

「なにっ!?」

 

超高速の移動などではない。明確に、確実に、クウラは悟空の前から姿を消したのだ。

 

「こっちだ!」

 

「ぐあっ……!」

 

右から現れたクウラの拳が悟空を打ち据える。悟空は転がりながら受け身を取り、立ち上がって口の端から流れる血を拭う。

 

「今のは……まさか!」

 

「ほう、一撃で気づいたか。そら、どうする!!」

 

再びクウラが姿を消し──同時に悟空も姿を消す。

 

「ぐはっ!」

 

何もない場所から殴られたらしきクウラが吹っ飛び、先ほどの悟空のように地面を転がる。

 

「ふふ、やはり貴様も使えるか……!!」

 

「お返しだ。へっ、オラもクリムゾンのあんちゃんから教わってるんだよ」

 

「くくっ、有言実行というわけか。そうこなくてはな!!」

 

再び二人の姿がかき消える。

 

異次元で。通常空間で。二人の気が乱れ絡まるかのようにぶつかり合う。

 

「らぁ!」

 

「かっ!」

 

拳と拳が打ち付けられ、その衝撃波だけで武舞台の石畳が剥がれていく。

 

「りゃあああああ!!!」

 

「きええええええ!!!」

 

肩を殴る。肘が頬を掠める。蹴りが水月にめり込む。手刀が首を打つ。右拳で肋を打つ。前蹴りを膝に打ち下ろす。

 

互いに繰り出す無数の拳打や蹴打がさながら花火のごとく衝撃波となって伝わる。まるで滑るように武舞台を移動しながらの打ち合いはもはやレッドリボン軍によって画像を処理されていても一般人には認識さえできない戦いと化していた。

 

「ばっ!!」

 

悟空の懐に潜り込んだクウラが超能力との合わせ技による衝撃波で悟空を吹き飛ばす。

 

「波っ!!」

 

しかし悟空もさるもので、吹き飛びながらクウラへ向かってかめはめ波を撃ち逆にクウラを吹き飛ばす。

 

互いにダメージを負ったのか。否、お互いに無傷のまま二人はある程度まで近づき再び対峙する。

 

「……準備運動はこのくらいでいいか?」

 

「ああ、そうだな。じゃあまずは見せてくれよ、オメエの鍛えたプラチナクウラっちゅうのをよ」

 

「……クククク、いいだろう。はあっ!!」

 

気合い一閃。クウラが気合いを解放すると同時にその全身が光輝く。

 

雄々しく天を突く太く逞しい角。白金色に輝く全身。凍てつくような闘気の影響か、彼の足元がパキパキと凍っていく。

 

かつて弟の見せた黄金の片鱗から見いだした究極の姿。クウラが己を最強と自負する変身形態である。

 

「さあ、俺は見せたぞ。貴様の切り札も見せてもらおう。出し惜しみなんぞしたらその場で殺してやる……!!」

 

基本的に、悟空は戦う上ですぐ本気にはならない。相手と競い、比べ、より強くなろうとする為でもあるが、それは強さを全てとし悟空を倒すためにこれまで鍛えてきたクウラからすれば“舐めている”としか思えない。期待と不安の入り交じった複雑な殺気が、悟空を刺すように痺れさせる。

 

「……オメエは本当にスゲエよ。正直言うと、あのときセルと戦ったオメエを見てオラはどこかで敗けを認めちまってたんだ。()()()()ってな。だけどそいつは違え……オメエがセルに勝つ為に形振り構わなかったように、オラも強くなるためにこだわりを捨てることにしたんだ。できることは、全部やってやるってな!」

 

悟空は超サイヤ人に変身して構えると、自分の胸の前に淡く光るエネルギー球を形成する。

 

「こいつはターレスから教わった技で、パワーボールっちゅうんだ。知ってっか?」

 

「ああ、一部のサイヤ人が大猿に変身する為に使うという技だな。だが、今さらただの大猿に変身というわけでもあるまい?」

 

「その通り……はあああっっ!!」

 

ニヤリと笑った悟空がパワーボールを構えたまま、さらに超サイヤ人3へと変身する。

 

大きく伸びた黄金の長髪。一回り逞しくなった筋肉の影響で眉は埋もれ、全身を激しい蒼雷が包んでいる。

 

「まだだぁ! 弾けて混ざれっ!!」

 

さらに悟空は自身の目の前でパワーボールを発動すると、膨らもうとするそれを圧縮し、月と同じ1700万ゼノのエネルギーを発する球体を()()()()()()()()()()

 

「うわああああああああっっっ!!!!」

 

月と同じ力を持つパワーボールの作用によって変わっていく悟空。やがて頭部から背面にかけて体毛の伸びた蒼雷を纏う黄金大猿が現れる。

 

「■■■■■■■■■■ーーーーっ!!!!」

 

黄金大猿が吠える。誇るように、自らの存在を示すように。その強大なパワーは、宇宙のあらゆる所へと届くだろう。

 

すると黄金大猿の全身が光輝き──弾けた。

 

そこから現れたのは、超サイヤ人・オリジンへと変身した悟空ではない。

 

黄金の輝きが明滅し、その姿を徐々に露にしていく。

 

変身したラディッツと同じく、上半身の大半を体毛が覆っている。だが、その色は赤ではなく金。

 

超サイヤ人3の時と同じように膝裏まで伸びた髪は黒へ、白へ、様々な色へと変化を繰り返し、やがて髪の色は落ち着きを取り戻すように深紅へと染まっていく。

 

超サイヤ人3の時に盛り上がっていた額の筋肉は収まり、再び眉毛が露になる。

 

全ての変身が終わると同時に、それまで閉じていた目を悟空が開く。

 

「ふう……待たせて悪かったな。この変化は()()も初めてなんだ」

 

「それが、貴様の極みか……!!」

 

そこにいる存在を果たしてこれまでの孫悟空と同一視してよいものか、クウラは困惑した。

 

体型、気の質、顔つき、それらすべてがこれまでの悟空と違う。まるで彼の存在そのものが進化してしまったような、そんな錯覚を覚えた。

 

黄金の体毛に、たてがみの如く雄々しき深紅の頭髪。生えた尻尾は存在感を増すように長くなり、悟空の後ろを揺蕩っている。目付きは好戦的につり上げられ、その身から放たれるオーラは紛れもなくブロリーさえ凌駕するほどの圧力を放っていた。

 

……無論、その姿に驚いたのは何もクウラだけではない。それを見ていた全員が驚愕し、目が離せないでいた。中でも特別観客室のひとつで山盛りのスイーツを食べていた紫肌の猫型獣人の驚きようはひとしおだった。

 

「な、なんだアレ……!? 超サイヤ人ゴッドなのか!? ……いや、違う。だが紛れもなく“神”の気を感じる! だというのに、アイツから感じるのは紛れもなく“人”としての気だ! くそぉ、行動を制限されるのがこんなにムカつくとは……!!!!」

 

歯噛みし手に持ったフォークを思わず()()しながら唸る猫型獣人の彼──ビルスの言葉を聞きながら、横に立つ青い肌に白い髪の神官じみた服装の優男──ウィスは、武舞台を愉快げに見つめている。

 

「どうやら神の領域に至ってるみたいですねえ。素晴らしい! このままビルス様が死んだら、彼に次代の破壊神を継いでもらうのもアリですねえ♪」

 

「冗談じゃないぞ!? くそぉ、お前のせいだからな界王神!! お前が無様に妙なもの流し込まれるのがいけないんだぞ!!」

 

怒りの矛先をむけられ、露骨に怯える界王神。彼はこの大会のリザーバーとして招かれていたが、地上の強者達の実力を完全に侮っていたことを自覚してこれまで無言で自分の出番が来ないことを祈っていた。

 

彼はこの一年、あまりに何もかもを知らなかったことを老界王神に諌められ、それを補填することに勤めた。これまで万が一の事あらば、自らの力を振るって地上へ介入しようとした界王神だったが、それがまさしく蛮勇であることを自覚したからである。界王神と破壊神の関係を知ってからはなおさらであった。

 

「わ、わたしだってそんなものが体に入っていただなんて気づきませんでしたよぉ!」

 

涙目になりながらビルスに反論する界王神。そんな彼らの様子を、モニターの映像をプロトに中継させて見つめるクリムゾンがほくそ笑んでいた。

 

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悟空がクリムゾンを頼ったのは数ヵ月前。

 

思い詰めた……とは違うが、どこか覚悟を決めたその様子にクリムゾンはいつにないことだと仕事を切り上げ応接室で対峙する。

 

悟空は目の前に出された茶菓子にも目を向けず、クリムゾンに頭を下げた。

 

「頼む、クリムゾンのあんちゃん! オラを、オラをもっと強くしてくれ!!」

 

「……いきなり来られて“強くしてくれ”と言われてもな。大体、お前はもう十分に強いだろう?」

 

クリムゾンは内心では悟空の変化に慈しむような感情を抱きながら、あえて言葉では彼を突き放すようなことを告げる。

 

「いや、全然ダメだ。なあクリムゾンのあんちゃん。今のオラが全力で戦って、セルに勝てると思うか?」

 

クリムゾンはその言葉に悟空が誰に勝ちたがっているのかを悟る。

 

「……無理だな。気の質、量ともにヤツの方が上回っている。如何にお前が超サイヤ人3の激しいエネルギーの消費を克服したとはいえ、アレを真正面から攻略するのはまず不可能だろう」

 

「キッツいな、クリムゾンのあんちゃんは。オラもそう思う。だけど、オラはアイツに応えてやりてえんだ。オラ達を守るために切り札を使って死んだクウラの為にも……」

 

クウラはすでに生き返っているとはいえ、沈痛な表情で拳を握りしめる悟空。彼の最後は、間違いなく悟空の心理に影響を与えていた。

 

「ふむ、いいだろう。そこで私に頼るという選択肢は間違っていない。なにせ、今の私は()()()()()()()()()()()()からな」

 

クリムゾンがセルから吸収したのは彼の記憶だ。それはすなわち、セルが殺し吸収してきた相手の記憶をも取り込むも同様である。並みの人間なら発狂しかねないほどの無数の記憶。それらを御し、支配するクリムゾンの超人的な精神力こそが何を隠そう彼最大の武器である。

 

「じゃあクリムゾンのあんちゃん! さっそく……!」

 

「まあ待て。お前を強くするための方法を探すのに少し時間が欲しい。……そうだな、三日もあれば探しだして見せよう。それまではまず、他のサイヤ人から教わってくるといい」

 

「他のサイヤ人っていうと、兄ちゃんとかべジータのことか?」

 

「ターレスも忘れてやるな。アレはアレで意外と器用だからな。なにかお前に技のひとつも教えてやれるだろう」

 

そうしてクリムゾンが記憶の捜査をしている間に、悟空はラディッツ、べジータ、ターレスの三人からそれぞれ技を教わることとなった。

 

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ラディッツは資料整理をしていたところをクリムゾンに呼び出され、悟空へと指導する為にデンジャールームへと赴いていた。

 

「考えてみれば、お前に何かを教えてやるのは初めてか。……そうだな、せっかくだから俺の切り札をお前に教えてやる」

 

「切り札ってえと、超サイヤ人オリジンってヤツのことか? いいのかよ、兄ちゃん」

 

悟空は遠慮するように尋ねるが、ラディッツはそれに笑みで答える。

 

「構わん。兄と名乗っておきながら、お前には何一つしてやれてないからな。俺からせめてもの贈り物だ」

 

「……兄ちゃん」

 

「さ、お前なら大して時間がかからず身に付けられるだろう。俺は厳しいからな!」

 

「オス!」

 

勢いよく返事した悟空へと、ラディッツは自らの変身を交えて超サイヤ人オリジンのことを説明していく。

 

そこで問題が発生した。悟空に尻尾がなかったのだ。しかしこれもすぐに解決できた。ブルマである。

 

「……要するに、サイヤ人の尻尾って大猿に変身するアンテナみたいな役割をしているわけよ。べジータが言ってたんだけど、どうやら戦闘力がサイヤ人の限界を超える頃に尻尾が無くなると、それに合わせて尻尾が生えなくなっちゃうみたい。原因はよくわかってないんだけどね。で、アンテナがないならそれが必要ないくらいにブルーツ波の出力を上げちゃえばいいわけよ!」

 

そしてブルマによって改造された超ブルーツ波発生装置によって悟空は無事超サイヤ人オリジンへの変身を遂げることができた。

 

「……スゲぇパワーだ。しかも超サイヤ人3の頃にあった消耗の激しさまで最初からなくなってる。オラからしてみれば、順番としては超サイヤ人4ってところか」

 

「あっさり身に付けたのは驚きだったが、お前らしいか。だが、絶対値は超サイヤ人3の時と比べてそれほど上昇していないな」

 

「それはたぶん、オラがあの変身を極めたからだと思う。こっちの方が他のことにも意識を割ける分(たたけ)えやすいけど、咄嗟に変身できねえから難しいところだな」

 

「……そうか。役に立てずにすまんな、カカロット。……! そうだ、カカロットよ! ターレスにパワーボールを教えてもらえ!」

 

「パワーボール?」

 

ラディッツの告げた耳慣れない言葉に、悟空は語尾に疑問符をつける。

 

「ああ、一部のサイヤ人──べジータなんかが使えたはずだ。お前なら恐らく身に付けられるはずだ」

 

「わかった。サンキューな、兄ちゃん!」

 

「ああ」

 

束の間の兄弟の修行風景は瞬く間に終わりを告げ、悟空は次の日森の中でやや成長したハイヤードラゴンを枕に眠るターレスの元を訪れる。

 

「よ!」

 

「……なんだ、お前か。どうした、俺に何か用か?」

 

「頼みがあんだけどさ」

 

悟空から話を聞いたターレスは“なるほど”と納得しながらも、さすがに1日では無理だろうと予測する。事実、ラディッツは身に付けることができなかったし、ターレスであっても習得するには三年を要したのだ。

 

「ほれ、コイツがそうだ。コイツを星の酸素と混ぜ合わせることで月と同じ1700万ゼノのブルーツ波を放つエネルギー体が作れる。コツとしてはだな、まずエネルギーの形成を「できたぞ!」はあっ!?」

 

ターレスが説明を始めようとした次の瞬間には、すでに悟空はパワーボールを発生させていた。

 

思わず顔面崩壊しかけたターレスだが、一応使い方の注意を呆れ返りながら悟空へ説明していく。

 

「サンキューな、ターレス! 武道会がんばろうぜ!」

 

朗らかに笑って去っていく悟空を見送り、ターレスは苦笑いでその後ろ姿を見つめた。

 

「……こいつは優勝無理そうだなぁ。ま、いっか」

 

そう言ってターレスは再びハイヤードラゴンを枕に寝始めた。

 

さらに翌日、悟空は今の自分より格上であるべジータから指導を受けるべくデンジャールームへと戻っていた。

 

教えを請うた際、べジータは二つ返事でそれを了承した。

 

「ブルマから聞いたぞ。貴様の妻が妊娠したようだな。まずは元王としてそれを祝そう……だが父親として貴様は失格だぞ! そこでこの俺が自らお前の中のモヤモヤを文字通りブッ飛ばしてやる。何か身に付けたいと思うならば、この戦いのなかで獲得してみるがいい!!」

 

そう言ってべジータはマスター超サイヤ人となり、超サイヤ人3の悟空を一方的に追い詰めていく。世界が違えば強さを追いかけるのはべジータだったことを知るクリムゾンは、その光景を不思議そうに眺める。

 

「ぐあっ……! ま、まだまだぁ!!」

 

「いい根性だ。だが精神力だけではどうにもならん! お前は何の為に強くなる。何の為に上を目指す」

 

言いながらべジータはビッグバンアタックを悟空に向かって放ち、悟空はそれを受け止めるも弾かれデンジャールームのバリアへとぶつかる。

 

「……へ、へへ。なんでだろうな。オラもよくわかんねえんだ。でもさ、(つえ)えヤツと戦うとスゲェワクワクすんだ。オラにとっちゃ、戦うことそのものが楽しいんだと思う。おかしいかもしんねえけど、そうやって絶対に負けねえ為に限界を極め続けることが、オラが強くなろうとする理由だ」

 

前を向き、戦い続けることが強くなる理由だと言ってのけた悟空。べジータはそれを聞いてわずかに驚いたものの、さもありなんと苦笑して戦闘体勢を解いた。

 

「フッ、貴様のライバルとなった相手はさぞかし苦労するだろうな。なにせ強くなることに満足しないのだから。だがそれもいいだろう。励めよ、孫悟空」

 

サイヤ人としてではなく、地球人としての呼び方で彼の存在を認めたべジータ。その勇ましい在り方に悟空は感銘を受けると同時に、自身の目指すべき方向性が見えてきた気がした。

 

__________________________________

 

そして約束の三日後。

 

悟空がクリムゾンに呼ばれてデンジャールームへと赴くと、そこにはセルへと変身したクリムゾンが()()()()()()()

 

「「「「「待たせたな悟空。今からお前にとびきりのプレゼントをやろう」」」」」

 

異口同音に話すクリムゾン。そこで悟空は気づく。すべてのクリムゾンセルが異なる気を放っていることに。

 

すると同時に話すのが面倒だったのか、中央にいたクリムゾンセルが代表して悟空へと話しかける。

 

「今からお前に与える力は、かつて存在した伝説の超サイヤ人と並び称された存在。その名も、“超サイヤ人(ゴッド)”」

 

「……超サイヤ人、(ゴッド)

 

「だがただ与えるのではない。願わくば悟空よ、神の力に呑まれるな。その力を取り込み、私にその先を見せてくれ」

 

どこか懇願するようなクリムゾンの様子に、悟空は彼が語る力の大きさを知る。

 

「わかった。どんなパワーかはわかんねえけど、オラがきっとモノにしてみせる。だから安心して、オラに任せてくれ」

 

「その言葉を待ち望んでいた。では与えよう。降臨せよ! かつて“悪”を挫かんと戦ったサイヤ人の魂よ!!」

 

クリムゾンの叫びと同時に、悟空へと五色の気が注がれていく。その力は、呼び水となって彼の潜在能力を引き出した。

 

 

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再び場面は武舞台で対峙するふたりに戻る。

 

クウラは感動していた。

 

今の自分の実力を、あっさり超えてくれた好敵手に。そして彼がそうであるならば、自身も同じくそこまで上り詰めてみせるという野望を再び抱かせてくれたことに。

 

「その姿に、名はあるのか?」

 

「いや、まだねえ。オレも自分がどうなってるか知らねえんだ。こいつはこれまでの超サイヤ人全部をオレが取り込んだ結果だ。超サイヤ人3の爆発力、超サイヤ人4の完成度、そしてマスター超サイヤ人が見せた気の昇華……。それに全てを超える超サイヤ人(ゴッド)を取り込んだのがコイツだ」

 

悟空が一歩踏み出せば、あらゆる存在を凍てつかせるはずのクウラの凍気の干渉が弾かれ消滅する。その様子に、クウラは益々笑みを深める。

 

「では俺が名付けよう。神を超え、人を超えた超サイヤ人。“超サイヤ人ユナイト”! それが新たな貴様の力の名だ!」

 

指を突きつけ宣言するクウラ。悟空は笑みさえ浮かべてそんなクウラと対峙する。

 

「サンキューな、クウラ。さあ、始めようか!!」

 

悟空の叫びと共に圧倒的な溢れ返る。

 

究極と究極のぶつかり合いが、今まさに、始まろうとしていた。

 

 




4分前に書き終わりました。誤字あったらごめんなさい。

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とりあえず遅ればせながらの次回予告です。

次回予告

神をも超える2つの力がぶつかり合う。
その力、その意思、紛うことなき純なる意思。
故にその力は尊く、その意思は焦がれる。
次回【予兆】。刻み込め、その在り方を。

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