なんだかまた日間ランキングに載ったようで、お気に入り登録していただいた方、評価していただいた方ありがとうございます。感想は基本的に全部返しますのでどしどしください(・∀・)
そしてやっぱり扱いの悪い界王神様(´・ω・`)
藤色の肌に白いモヒカンの少年──界王神は、自分を呼び出した人物を前にして緊張を隠せなかった。
地球の軍事力を統べるというその男は、一見しただけではただの人間にしか見えなかったが、その存在感は単なる人間に許された領域を遥かに上回っている。彼は軍服の上着らしきものを肩に羽織り総ガラス細工のテーブルの向かいに座っているだけだが、界王神は自分の喉がカラカラに乾いていくのを自覚していた。
「そ、それで、貴方が魔人ブウについて知っているとのことですが……」
自身を睨むかのように見詰めてくるクリムゾンの視線はハッキリ言って厳しい。そんな無言の圧力に堪えかねるようにして界王神が問いかけると、クリムゾンは目に見えてガッカリした様子でため息をついた。
「アンタ、名前は」
顎に拳をついてクリムゾンは短く告げる。あまりに露骨な態度に界王神の付き人である桃色の肌に白髪のキビトが声を荒げそうになるが、一睨みで黙らされる。
「元の名前はイスト。今はただ単にシンと名乗っております」
「なあシン。アンタ、ここ最近地球で何が起こっていたか、少しでも把握できてるか?」
「……寡聞にして、存じません」
「だろうな。だったらもういい、精々破壊神が死なないように引きこもってろ」
「どういう意味ですか……?」
「な!? なぜ貴様がビルス様のことを!」
「黙れ」
キビトは再びクリムゾンに睨まれ、今度は金縛りで文字通り動けなくされる。
「まさか知らないとはな。なるほど、セルの失望もさもありなんと言ったところか。……なあ、親切心で言ってやるが、アンタ一度宇宙そのものを文字通り見直した方がいいんじゃないか? 時間を取らせて悪かったな」
クリムゾンはそのまま立ち上がり席を辞そうとする。
「ま、待ってください! 魔人ブウはどうなさるのです!」
シンの言葉にクリムゾンは立ち止まり、再びため息を吐く。
「だから
クリムゾンはそのまま部屋を出ていく。室内には、痛い沈黙だけが残った。
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執務室に戻ったクリムゾンは荒々しく座ると、足下の冷蔵庫からウォッカを取り出し、グラスに注ぐと一息に飲み干す。
「随分と荒れているな。高級ウォッカが台無しだ」
その様子に資料整理をしていたラディッツが苦言を呈する。
「……すまない。だがあれがこの宇宙最高の神だと考えるとな」
クリムゾンが界王神に落胆した原因は、ひとえに彼の単純さにあった。
界王からの連絡があったとはいえ、仮にも宇宙の最高神であろう存在が護衛も付けずに自分の前に現れる愚かさ。さらに素直に聞けば相手が答えてくれると思っている交渉の拙さ。極めつけが自身の貴重さを自覚すらしていない無知の不知。
相手が子供のような容姿をしていたから怒鳴りこそしなかったものの、クリムゾンは奇しくもかつてセルが感じたのと同じ落胆を覚えていた。
「いっそ始末してしまえばよかったのではないか? 破壊神は不確定要素過ぎるだろう」
「それで他の宇宙から別の破壊神が派遣されたら対処のしようがない。だが“枝”は張った。備えとしては十分だろう」
クリムゾンは金色の眼を輝かせて微笑する。
セルによって一度細胞レベルで溶けたクリムゾンは、復活の際いくつかの要素を伴って肉体を再構築していた。
元々クリムゾンは、緊急事態に対応する為自身の肉体のサイボーグ化を徐々にだが進めていた。また気のコントロールに関する訓練はこの十数年継続して続けており、セルとの戦いで即座に全力戦闘できたのはその影響が大きい。
そしてサイボーグ化した肉体は復活の際に生体と融合し、クリムゾンの肉体を生物と機械の融合した“生機融合体”とでも呼称するべき存在へと変貌させていた。
中でも金色の瞳に宿った“プロト”ことプロトセルの意識は彼にとって今や無くてはならないものとなっている。界王神に枝を張った、すなわち仕込みを植え付けたのも彼によるものだ。
それも彼が仕込んだのは発動すれば即死効果のある生体ナノマシン“タナトス”。勿論遠隔操作可能である。
これによってクリムゾンはいつでも界王神を殺すことができるし、待機状態のタナトスはセルでさえ気づくことのできなかったヴェノム以上の秘匿性を持つ。破壊神にさえ気取られることはないだろう。
さらには基本、今のクリムゾンの実力は生身でもかつてのフリーザに匹敵する。抑制形態ではなく、通常形態のだ。
これによって向上したパワーを制御し、超能力を制御しているのもプロトである。
「プロト、界王神達はどうしている」
『現在部屋で協議中のようです。どうやら貴方の処遇をどうするのか決めかねているようですね』
「やれやれ……仕方がない、現実を教えてやるか。ラディッツ、誰か人をやって界王神らに“銀河最強決定戦”への参加か観戦を促してくれ」
「いいのか? 下手に刺激して破壊神が介入するような事態になりはしないだろうな」
「問題ない。彼らには平和的に敗北してもらうさ」
クリムゾンはそう言って体内のアルコールをプロトに一瞬で分解させて仕事に戻る。
「ん? 酒を飛ばしたのか、もったいない。というかそれをするなら酒を飲んだ意味はあるのか?」
「気分の問題だ。八つ当たりするよりはいいだろう」
そう言ってクリムゾンは複数のモニターを睨みながら仕事の同時処理を始める。端から見る分には無言で手を組んで画面を睨んでいるのだが、実際には電脳空間で無数の仕事をこなしている。彼以外ではこちらの世界での人造人間にのみ可能な仕事のやり方であった。
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新設されたレッドリボン軍にて、眼球にも似たいくつもの窓を備えた宇宙船が着陸した。
予定された来訪ではないそれを受けて、幾人かの兵士が慌てて宇宙船に駆け寄り彼の来訪を待機する。
宇宙船は触脚のようなカギ爪状の足で器用に着陸すると、そこから身長にして三メートルはあろうかという巨漢の宇宙人──コルド大王が姿を現した。
コルド大王は、地球への報告に来た際真っ先にクリムゾンの下へと向かう。今回も同じであったが、新設された基地をはじめとして兵士の装備が変わっている様子などから何か異変が起きたことを察していた。
「クリムゾン総帥、報せなく早参となりまして相申し訳ありませぬ。急ぎ、報告がございまして戻りました次第にございます」
本来であれば、コルド大王の来訪はまだ先であった。それを気にするクリムゾンではないが、なにかあったのかと気になる程度には早い。
改めて巨体を傾げ慇懃に礼をするコルド。しかしそこで彼は気づいた。目の前にしたクリムゾンの
「……なにか、ございましたか?」
「ほう、抑制しても気づいたか。お前も随分と鍛え直したようだな、コルド」
刹那にも満たない一瞬。解放されたクリムゾンの気に、コルドは気圧され冷や汗が一気に吹き出す。
(か、格が違う……! な、なにが起きたと言うのだ!!)
困惑するコルドに対して、クリムゾンはこれまでになく優しく労るような声音で語りかける。
「私の口から詳細を話してやる気にはならん。だが気になるならば基地の記録室へ行くといい。なんなら、ピッコロ辺りから話を聞いても構わん。私が許可したと言えば話してはくれるだろう」
「しょ、承知しました。そ、そうです! 急ぎお伝えしたいことがあるのでした!」
思わず会話を終えてしまいそうになったコルドは、急ぎの用件を思いだしクリムゾンへと再度問いかける。
「なにがあった?」
「実は……」
コルド大王はかつてフリーザ軍とも対抗したスラッグ軍を追い詰めたこと、さらにはその首魁であるスラッグを後一歩まで追い詰めたところで封印されているはずのヘラー一族に邪魔されたことを告げた。その力は強大であり、かつて噂に聞いた以上の実力を感じるとも。
「……ボージャックが復活した件はすでに界王から聞いていたが、お前と接触していたとはな。ん? 待てコルド。今のお前以上の実力だと?」
クリムゾンは現在のコルド大王の実力を感じとり、それ以上の力を持っていたというボージャックに違和感を感じとる。
「はっ、鍛え直しはしましたがさすがは銀河を荒らし回った連中。恥ずかしながら逃げを打つ以外に手はありませんでした」
頭を深く垂れ、謝罪するコルド。
「いや、それはいい。むしろ逃げてきて正解だ。だがひとつ確認がしたい。コルド、そいつらの額にこういった文字はなかったか?」
そう言ってクリムゾンは気を応用して空中に“M”字を描く。
「そ、そのとおりです! なにか、ご存じなのですか?」
「……ああ、お手柄だコルド。奴等の力を警戒していなかったわけではないが、これでどうやって封印から逃れたのか理解できた。魔導師バビディが動き出したというわけだな。面白い……! おいコルド、お前にひとつ命じる!」
「ははっ! なんなりと!」
覇気を溢れさせ立ち上がったクリムゾンに、コルドは喜びすら感じて従う。
「宇宙全てに触れを出せ! 今より八ヶ月後、この地球で全銀河最強の戦士を決するとな! 力あると自覚する者は悉く参加せよ! もちろんお前もだ、コルド!」
「ははっー!」
命令を受けたコルドは全身を紛れもない歓喜が貫くのを感じた。
野望はある。だが目の前にした男が名実共に強者となった事実は、コルドにそれ以上の確固たる忠誠を誓わせていた。
そうしてフリーザ軍はその巨大な勢力を利用して全宇宙へと報せを伝えに駆け巡る。
宇宙そのものの命運を決める戦いに向けて。
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それより数ヵ月後。
北の銀河より最も遠い南の銀河において、ひとりの巨漢が居城から眼下の街を満足そうに見下ろしていた。
赤いマントを翻し、三メートルはあるであろう巨体は見るものをそれだけで圧倒する。
そんな彼の元に、ひとりの男が近づいてきた。
「……皇帝陛下。お耳に入れておきたい情報がございます」
「親父ぃ、ここは誰の目があるわけでもない。普通に呼んでくれて構わんぞ」
「いえ、けじめは付けねばなりませんからな」
巨漢は恭しく頭を下げる自分の父親であり宰相である男に苦笑すると、彼からの話を待った。
「なんでも、北の銀河にある地球という星において“銀河最強決定戦”なる戦いが行われるのだとか」
「それをわざわざ俺の耳に入れるということは、何かあるということだな?」
「はい。まずこの話を広めているのが
「なに? それは実に興味深いな」
「は、それにこの話を広めているコルド大王曰く“力あると思う者は悉く参加せよ”との言葉もありますし、なにより“力ありながら参加せぬものは臆病者の謗りを免れぬと知れ”とまで言われては、陛下がその力を指し示す以外にはありますまい」
ニヤリ、と自分によく似た笑顔を浮かべる父親を見て自らも同じ顔になっていることを自覚する巨漢──ブロリーは、しだいに込み上げてくる笑い声を吠えるようにあげるとマントを翻して宰相パラガスへと宣言する。
「臆病者とはな! はっはっは! いいだろう、そこまで言われてこの俺が参加せぬわけにはいかん。北の銀河と言ったな、だったらすぐにでも出発するぞ」
「そう急がずともよろしいかと思われますが、まあよいでしょう。私も同行させていただきます。アブーラひとりでは不安ですからな」
パラガスがそう言うと、ブロリーの纏うマントが突如として喋り出す。
『なんじゃい藪から棒に』
「あなただけに任せてはブロリーを止める者がいないでしょう。いえ影ながらブロリーを守っていただいているだけでも感謝するべきなのですが、一緒になって調子に乗るでしょうあなた」
『はて、なんのことやら』
「そうだぞ親父! 俺たちは別にお調子者ではないぞ!」
妙なところで意気投合する一人と一枚にパラガスは頭を抱えながらも安心していた。
全ての運命が変わったのは今より数十年前。
日増しに凶悪になっていくブロリーのパワーが無限の破壊衝動となりかねない時、奇跡は起こった。
ブロリーが何の気はなしに拾ってきた赤いマント。そこに宿っていたという魔神アブーラは、最初ブロリーの潜在パワーを手にしようと彼の意識を乗っ取ろうとしたのだ。
慌ててパラガスがマントを剥がそうとするも、手出しすることもできない気の奔流に吹き飛ばされてしまう。
そうして丸一日、ブロリーの凶暴性とアブーラの邪心がぶつかり合い──結果そのどちらもが相殺されてしまった。
驚くことにブロリーはこれをきっかけに自らのパワーを自在に引き出せるようになり、ブロリーを乗っ取るつもりだった魔神アブーラは邪心を失い見失った目的を補填するようにブロリーを補助する生き方を選んだ。そもそも彼が一体化したマントとブロリーが一個の生命体として合体してしまった為それも無理はなかったが。
パラガスはその後も何かと好き勝手するブロリーのフォローに回っていたが、気がつけば彼を中心とした銀河帝国が南の銀河に再建され、彼は今や銀河皇帝の立場にあった。
一時期は「どうしてこうなった」と思ったものの、人間習うよりも慣れろである。
また皇帝が勝手に城を飛び出すなどいいのかという話でもあるが、そもそもブロリーが君臨した理由も混乱した南の銀河を平定する為の象徴的な意味合いが強い部分が大きい。一個の星と居城を与えられているが、君臨すれども統治せずである。パラガスの宰相という役割も、あくまでブロリーに対するストッパーとしての役割を期待する為に与えられたに過ぎない。
しかしパラガスはそれで構わなかった。無目的にブロリーの力が振るわれたならばこの銀河さえもあっという間に無茶苦茶にされてしまうからだ。
また放浪を許す理由として、なにより帝国を脅かすような強者や悪党は軒並み消滅するか、はたまた討ち破り自らの軍門に降し結果的に良い方向へと導いたからである。
「さあ行くぞ! フッハッハッハッハッハッハ!!」
人知れず育った最強のサイヤ人が、今地球に向けて旅立った。
多くの強者を巻き込む“銀河最強決定”まで、後六ヶ月。
今回も準備段階の話ですね~。プロトのcvは森功至さんイメージです。やっぱ若本voiceならこの人相方かなと(´・ω・`)
次回は「え、このタイミングで!?」となりかねませんが逆に言えば自分的にはここしかなかったのです。前作で扱えなかった彼が登場です。
それでは次回予告をどうぞ。
絶望の未来を過ごした。
愛する人を守り抜き、宇宙の悪を撃滅した。
時の流れを変えることが悪ならば、これもまた宿業なのか。
次回【流転】。お前の存在を、俺が認めてやる。