ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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今回はセル編後始末及びその後の様子。
クリムゾンとドクターゲロがはっちゃけます(´・ω・`)


第47話【情動】

セルを倒した後、クリムゾンは変身を解くとその場で倒れた。

 

高熱を出し、死んでしまうのかと思われる状態が一週間以上続き、ナメック星人による回復能力も通じなかった。

 

ただその間にも後始末は行われ、まずはドラゴンボールによってセルに殺された人々が生き返らされた。

 

生き返ったバイオレットはクリムゾンが倒れたという話を聞き、すぐに付きっきりで看病していた。なおモーブはピッコロが、スカーレットはラディッツが預かっている。

 

「……ここは」

 

蚊の鳴くような声をあげながら、クリムゾンが目を覚ました。

 

「あなた……!」

 

バイオレットは感極まって泣き出す。クリムゾンは即座に現状を把握すると、そのままバイオレットをベッドに引きずり込んだ。

 

「きゃっ……! あ、ま、待ってください……! せめて一度シャワーを……!!」

 

抱きすくめられ、思いきり匂いを嗅がれたバイオレットは()の気配を感じて焦るがすぐに深いキスをされて何も言えなくなった。

 

どれくらいの時が過ぎただろう。クリムゾンはゆっくりと名残惜しげにバイオレットの唇を解放すると、再び彼女の気配を確認するかのように胸へと顔を埋めて深く息を吸う。

 

バイオレットは、そんな普段見せない弱々しい姿のクリムゾンを愛しげに抱き締め黙って頭を撫で続けた。

 

「……落ち着きましたか?」

 

まるで子供に言い聞かせるような口調にクリムゾンがばつの悪そうな顔をするが、事実なので否定することもできず頷く。

 

「……ああ、すまなかった。悪いが、わかる範囲でいい。現状を報告してもらえるか?」

 

「はい、総帥」

 

クリムゾンに抱きすくめられ、膝に乗った姿勢のままバイオレットは凛々しく答える。

 

そんな妻を押し倒したくなる情動を制御しながら、クリムゾンは内心“自分はこんなに堪え性がなかったか”と悩む。

 

それからバイオレットの口から話を聞いて、クリムゾンは現状ほとんどの後始末が終わっていることを知った。

 

すでにセルに殺された人々は全員が生き返り、行く当てのない人物らはそれぞれ縁のある人物をひとまずは頼っているらしい。また崩壊したレッドリボン軍も現在再建中で、ドクターゲロが張り切って陣頭指揮を取っているとのことだった。

 

デンデはひとまずレッドリボン軍というかピッコロが引き取り、現在は軍が所有するナメック星人の居住区で寝泊まりをしていた。ミスターポポも一緒である。

 

聖地カリンに住んでいた人々は、ボラファミリーを中心にレッドリボン軍のキャンプ地に。カリン様は亀仙人を頼っていた。

 

崩壊した聖地カリンは、近々レッドリボン軍とカプセルコーポレーションが合同で軌道エレベーターを建設予定だという。その際神殿も再建するとのことだった。

 

「……そうか、色々と苦労をかけるな」

 

「問題ありません。それよりも総帥、今回は大分無茶をされたそうですね。いい機会ですから引退して悠々自適に暮らしてはいかがですか?」

 

どこかいたずらっぽく、返ってくる答えがわかりきっているという顔でバイオレットは問いかける。

 

勿論、クリムゾンの答えは決まっていた。

 

「残念だが、まだそれには早い。それに俺は色々と現役だ。これを機に、前よりも自分の気持ちに正直になってみようかとは思うがな。手始めにバイオレット、君が欲しい」

 

情熱的にバイオレットへと再び口づけを落として、クリムゾンは彼女を自分のベッドへと押し倒す。

 

バイオレットは満更でもない顔だったが、その瞬間咳払いが響いた。

 

「んんっ!!」

 

そこに立っているのは、顔を真っ赤にした大きい方のスカーレットこと人造人間21号だった。

 

「お父さんとお母さんがこっちの世界でも仲がいいのはわかりましたから、娘の前でおっ始めないでください」

 

視線を逸らして告げるスカーレット。どうやら一部始終を見てしまったらしい。

 

「……そういえば、先程来ていたのを忘れてました」

 

さらっと天然なバイオレットの発言に傷つくかと思いきや、スカーレットは疲れた顔で苦笑いをするに留める。

 

「スカーレット……正直に言ってお前にどんな言葉をかけてやればいいのか、俺にはわからん。だからこれは俺の気持ちだ。”お帰り、スカーレット”」

 

その言葉に、遥か過去の記憶がフラッシュバックしたスカーレットは涙を流す。

 

「……うん、ただいま!」

 

笑顔で涙を流しながら、スカーレットは失った両親へと抱きつく。

 

百年ぶりの再会を祝して、病室の外で静かに16号が微笑んでいた。

 

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経過観察も含めて、結局クリムゾンが総帥として復帰したのはそれから一ヶ月ほど後のことだった。

 

すでに本部は再建され、これまで以上にハイテク化が進んでいる。

 

まずはバリアシステム。これは人造人間15号に搭載されたものを改造し、彼自身を制御コンピューターに組み込むことで完成した。なお、15号本人は電子世界で割りと悠々自適に暮らしている。

 

その耐久力たるや凄まじく、ピッコロの魔貫光殺砲を20秒近く防げるほどの防御力を誇るほどである。

 

さらには基地そのものを地下に収納することで緊急時にはシェルターにもなる。

 

極め付きは地下一キロに建設された大造船所。現在はここにて、地球最大の戦艦を建設中であった。完成は未定だが、船の大きさは全長で20キロを超える。

 

その他無数の迎撃施設の建設と、クリムゾンがいない間にドクターゲロは好き放題に基地を魔改造してのけた。

 

「……で、そんなことをすれば当然こうなるか」

 

クリムゾンは復帰早々大量の仕事に追われていた。なお、現在レッドリボン軍の経営は火の車である。あれだけ基地に無茶な改造を加えた上に緊急時の補償まですれば当然の帰結であったが、クリムゾンはこんな状況を覆す手段を知っていた。

 

「やれやれ。憂さ晴らしに私も出るとするかな」

 

クリムゾンが作成している資料には、『銀河最強決定戦』の文字が踊っていた。

 

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広大な畑を、気の遠隔操作を応用して一斉にたがやす男の姿があった。

 

最初は雑になりがちだったその作業も、今では熟練の技を見せひとりではとても管理しきれないような作業まで直接手を触れずとも可能としている。

 

それらの作業をしながら、大きな岩の上でクリリンと話し込んでいる悟空の姿があった。

 

「銀河最強決定戦? 面白そうだなぁ!」

 

「だろ? 俺も出場するからさ、悟空もどうかなって思ってな」

 

クリリンは現在警察官として働いていた。セルジュニアとも互角の戦いを繰り広げるほどの実力を持つクリリンの評価は高く、新米警官ながら機動隊としても活躍していた。

 

「開催はいつなんだ?」

 

「さすがにすぐじゃないみたいだぜ。今から一年後だ」

 

「……一年か。ならいっちょやってみっか!」

 

悟空はセルとの一件で自身の強さの方向性を見いだしていた。復活したクウラとの決着もある。彼の胸に、闘志が燃え上がり始めていた。

 

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デンジャールーム。レッドリボン軍本部の訓練施設として仮想空間も併用した訓練ができる特殊な部屋である。そこで、クウラとベジータが戦っていた。

 

「ヒャア!」

 

「せやっ!」

 

クウラとベジータの拳がぶつかり合う。すぐにお互いは距離を取ると、クウラは連続でデススティンガーを発射するがベジータはそれらを全て回避しながらあっという間に距離を詰める。

 

「ちぃっ!」

 

「ビッグバン・アタック!」

 

移動しながら気を充填したベジータは超至近距離で必殺技を放つが、爆煙が治まるとそこにはプラチナ化したクウラがいた。

 

「……変身をコントロールできるようになったか」

 

「ふん! 貴様なんぞに最初に見せることになろうとはな!」

 

「カカロットでなくて悪かったな」

 

ニヤリと笑ってクウラを挑発するベジータは、自身も超サイヤ人へと変身する。

 

黄金の炎のごときオーラが天を突くかのようにそびえ立ち、光の粒がベジータの周囲を囲む。

 

「マスター超サイヤ人か。面白い! 悟空の前に貴様を血祭りにあげてやる!」

 

「やれるものならやってみろ!!」

 

互いに気を高めたふたりが対峙して、いざぶつかろうとしたその時──横合いから乱入したピッコロ、ラディッツ、ターレスによって止められた。

 

「おい! せっかく直ったのにもう壊す気か! 俺はもう瓦礫拾いはイヤだぞ!!」

 

「……頼むから仕事を増やすな、ベジータ」

 

「お前ら自分の実力考えて戦えよ!」

 

ラディッツの言葉にどこか悲壮感が漂うのは、彼もまたクリムゾンの秘書紛いの仕事をしているからであろうか。

 

またピッコロに至っては度重なる片付けに嫌気がさしていた。ターレスはたまたまトレーニングしに来たら巻き込まれた形である。

 

そんな彼らの元に、足音が響く。

 

──キシュン、キシュン──

 

「ようやく仕事が一段落つきそうだというのに……まさか私の残業をさらに増やそうなどとは思っていないよなぁ、お前ら……?」

 

そこには、セルへと変身したクリムゾンが真紅のオーラを迸らせて歩いてきていた。

 

後ろにはエネルギーを提供させられたのか、13号ことグレイ少佐がぐったりした顔付きで付き添っている。

 

「……ふん、こんな設備が壊れたところでなんだというのだ」

 

内心少々悪く思わなくもないクウラだったが、クリムゾンの迫力に気圧されたのを認められずそんな言葉が口をつく。

 

だがそんな細かい心の機微は、普段ならともかく一週間以上寝ていないクリムゾンには通用しなかった。

 

「許さんぞ貴様らっーーーー!!!!」

 

「よぉしやってしまえクリムゾン! 俺が許可する!」

 

錯乱したクリムゾンがクウラへと襲いかかり、それをピッコロが止めようとしラディッツが煽りベジータはひとり帰り支度を始めている。

 

「なに帰ろうとしてんだベジータ!! 止めるのを手伝え!! というか煽るなラディッツ!」

 

「断る! 今日はトランクスとお風呂に入る約束をしているんでな!」

 

「親父! 落ち着け!!」

 

「ぶるああああああ!!!!!」

 

有り体に言って大混乱である。結局、デンジャールームは再び破壊されクリムゾンは21号によって取り押さえられた。

 

この親父、最近はっちゃけすぎである。

 

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クリムゾンには最近悩みがあった。

 

これまで完璧だった感情のコントロールが、まるで制御できないのだ。

 

バイオレットを見れば場所をわきまえず口説きたくなるし下手すれば押し倒したくなる。

 

仕事を増やされたぐらいで怒りはしなかったのに、この間はそれのせいで設備を破壊してしまった。

 

そのことをセルになった副作用かと考えたクリムゾンは、ドクターゲロの元へ相談に来ていた。

 

『ファイナルッ! アトミック!! バスターッーーーー!!!』

 

「ぎにゃー!」

 

「……ということなんだが、やはりプロトセルと同化した影響だろうか?」

 

「ん? 悪い聞いとらんかった。ザンギエフがなんじゃって?」

 

「ぶっ飛ばすぞクソジジイ……!」

 

「まあまあそう怒るでないわい。どうした21号、もう諦めるのか?」

 

額に井桁を浮かべて怒るクリムゾンをやり過ごしながらドクターゲロは対戦相手の21号を挑発する。さきほどの悲鳴は彼女のものだ。

 

ドクターゲロはセルの一件が落ち着いてから引退しており、クリムゾンが許可を出したのをいいことに地下のラボをゲームセンターさながらに改造して悠々自適な生活を送っている。

 

なお現在の状況は路上格闘を売りにしたゲームで21号がドクターゲロの使う“赤いサイクロン”にパーフェクトKOされたところであった。

 

「弱いな、姉さん。俺に代われよ」

 

「あたしは強いわよ! このジジイが強すぎんのよ!」

 

「ふふん、こう見えてもこの手のゲームは得意なんだぜ」

 

17号は21号の惨状を目にして自分が代わって対戦しようと申し出る。

 

なお18号も同じ部屋にいるが、ひたすらに漫画を読んでいる。手に持っている単行本の背表紙には『君に届け』と書いてあった。

 

さらに数分後、無様に敗北を晒した17号を21号が慰める傍らで、ようやくクリムゾンは話を聞いてもらうことができた。ゲームをしながらであるが。

 

「待ちガイルとは小癪な……! お前さんの性格が変わったのは別にセルの影響ではないと思うぞい。ハッハー! スクリューパイル!!」

 

「ええい! いつの間にやりこんだ貴様……! ではこの現状は一体どういうことだ」

 

『K・O!!!』

 

ゲームの結果はクリムゾンの負けであったが、思った以上の接戦に17号と21号は見入っていた。

 

「よっしゃ! ……ふむ。分かりやすく言えば反動じゃろうな。これまでお前さんはひたすらに感情を抑え込んで生きてきた。なんらかの感情があっても、それもまずは理性ありきだったじゃろう?」

 

「……よく見ている。その通りだ」

 

クリムゾンにとって、セルとの戦いで感じた怒りは生まれてはじめての感覚だった。それに次ぐ感情の露出といえば、バイオレットへのプロポーズやスカーレットやモーブの誕生くらいである。

 

ラディッツをからかったりすることもあるが、これは少ない情動を取っ掛かりに“こういう行動を取るだろう”といったことをトレースしているに過ぎない。

 

「それをこの間の戦いでお前さんは解放した。感情のままに行動したことによって、お前さんの中に普段はあるタガが外れたんじゃろう。これまで通りにしたいというならば催眠術でも応用してやってやるが、お前さんはどうしたいんじゃ?」

 

「俺が……どうしたいか」

 

悩み俯くクリムゾンの顔を、人造人間ズが覗きこむ。17号は面白そうに、18号は無表情に、21号は心配そうに。

 

「……いや、このままでいい。別に悪い気分じゃないしな。ありがとうドクターゲロ、気が楽になった」

 

そう言ってクリムゾンは立ち上がり部屋を出ていく。

 

「……格好いい」

 

ボソりと呟かれた18号の言葉に一時室内が騒然とするが、それはまた別の話。

 

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レッドリボン軍本部屋上。

 

満点の夜空の下で、人造人間21号ことスカーレットは星を見上げる。

 

その横には、16号の姿もあった。

 

「それにしても、記憶が消えなくてよかったね」

 

「ああ、父さんはすごいな。まさかあのプロテクトを突破するとは」

 

16号は自分を強化パーツとして扱い既存の16号に組み込むよう告げたが、ドクターゲロが取った手段は逆だった。既存の16号を別の世界から来た16号へと組み込んだのである。

 

16号がそれを提案しなかったのは、セルによって仕掛けられたプロテクトがあまりに強固だったからである。しかしドクターゲロはそれを解き、自らも一度は不可能と断じたメモリーチップの移動までこなして見せた。

 

結果、16号はこれまでのパワーに加えてある機能を得たことにより機械的完成例として再起動した。

 

「ま、残念ながら活躍の場はなくなっちゃったけど」

 

「それは仕方がないさ。あそこで下手にしゃしゃりでようものなら、俺まで殺されかねない」

 

「そうよね、お父さんすっごい怒ってたもの」

 

「……アレを怒ってるで済ませていいかはわからんがな」

 

16号は苦笑しながらセルと戦ったクリムゾンを思い出す。

 

「ねえ、聞きたかったんだけどさ。どうしてそこまで私の為に戦ってくれたの?」

 

「それは……!「大スカーレット、ここにいたか」……また、今度話すよ」

 

屋上へと現れたクリムゾンの姿を見て、16号は返答を控える。

 

そんな彼の姿を見た21号は、イタズラな笑みを浮かべて彼へと囁いた。

 

「……お父さんの前で言えないようじゃ、まだまだだね♪」

 

16号はその言葉に、彼女には自分以上の高感度パワーレーダーが搭載されていたのを思い出す。

 

クリムゾンへと腕を絡めて歩き出す21号。彼女へと想いを告げるようになるには、まだまだ高いハードルが待ち構えているらしいと16号は黙考する。

 

ひとまずは、今度開催される武闘大会で目覚ましい成績をあげて注目されよう。

 

そんな風に考えて、彼もまたふたりの後を追って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『余談』

 

21号は不意に現れた父親を見上げて言いたかったことを告げる。

 

「……ねえお父さん、その“大スカーレット”ってのやめてくれない? なんか、あたしトイレみたいじゃない」

 

「何を言うんだ。きちんとどちらもスカーレットと認めているからこそだろう」

 

クリムゾンは至って真面目な顔で答えるが、21号からすれば“う○こ”呼ばわりされているようで勘弁してほしいのである。

 

「お願いだからやめてよ。それに100年近く“21号”で呼ばれてきたんだから、その名前で呼ばれると戸惑っちゃうし……」

 

どこか複雑な表情を見せれば、クリムゾンとしては否やはない。

 

渋々それを認めると、彼は「母さんはまた別で説得しろ」とだけ告げて納得した。

 

(よっしゃ!)

 

内心でつい先程まで遊んでいたジジイと同じようなリアクションをしているであろう娘の姿を見て、クリムゾンはどのタイミングで心が読めていることを告げるか悩むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




21号は小悪魔系女子。色々とふっきれてメンタル強くなってます。
あとクリムゾンがデンジャールームで怒ったのは体力的にというよりさっさとバイオレットとイチャイチャしたかったためです。

では次回予告をどうぞ。
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悪意の下に蠢く者共。
暗黒の世界で幾つもの鼓動が生まれる。
果たして彼らの選択は、彼らの未来へ繋ぐ希望となるのか。
次回【蠢動】。敢えて言おう、それがどうした。

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