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なお今回は【クリムゾン怒りの鉄拳】ってタイトルがなぜか最初に浮かびました(´・ω・`)
時間にしてわずか数秒の間に、いくつもの出来事が同時に起こった。
まず彼女の元にラディッツが駆け寄り、それよりも早く16号が助け起こす。
悟空とクリリンは後ろの軍人や武道家に向かって叫び、逆転の可能性を求めて元気玉の準備を始める。
さらにベジータ、桃白々、ターレスがそれを援護するため、ふたりの前に立ちはだかる。
さらにセルを撹乱するため、天津飯と彼が率いる達人らが散開しセルを囲む。
──しかしそれらの出来事はセルにとって、全て取るに足らないことだった。
クウラの強さはセルにとっても予想外だった。だがそれだけだ。再生能力を上回る復元能力を持つセルにとって、このセルゲームは文字通り遊戯にすぎない。
見たところ、先程のクウラの強さに並べそうなのはピッコロとベジータぐらいだろうとセルは考える。悟空とクリリンは何やら企んでいるようだが、ラディッツに至っては
周囲の地下に潜ませたセルジュニア達も今や遅しと待ちかねている。
(ふん、所詮はこんなものか。やはり私に匹敵しうる存在など、もはや破壊神しかいないということだな)
そう考えたセルが、自身と同じサイズに成長したセルジュニア達へと皆殺しの指示を出そうとした、その瞬間だった。
突如して、セルの腹部に皹が入った。
「え?」
その瞬間セルが上げてしまった間抜けな声を、誰が笑うことができただろうか。
「ぶごはぁっ……!!」
続けてセルが大量に吐血する。次の瞬間、皹が砕けセルの腹から突然
セルにとって想定外のダメージであったからか、その対応は遅いものだった。
「ぶぐっ…! ごはぁっ! な、なんだというのだっ!?」
理解できない事態への恐怖。未だ吐き出され続ける紫の血で周囲を染めながら、セルは困惑の声をあげる。
しかし困惑しているのはセルだけではない。事態を見ている全員が抱いた感情だった。
「お、おのれえええっ……!!」
セルが腕を無理矢理引き抜く。
すると、腕の繋がったソフトボールサイズの黒い塊が引きずり出された。
セルは即座に負ったダメージを復元させようとするが、それが思うようにいかないことに違和感を覚える。
そんなセルと戦士らの間に置かれた腕が、びくびくと動き始めた。
腕はしばらくじたばたともがくと、しっかりと地面へと手を置きまるで起き上がるような姿勢へと変わる。
次の瞬間、黒い塊は一瞬にして人の形へと変形していく。誰もにとって見覚えのある、ある男の形に。
さすがに全裸ではあったが、その引き締まった筋肉からは彼がすでに40代に突入しているとはとても思わせないだけの張りがある。
そうして、紅く伸びた長髪を“ぐい”と後ろに引き伸ばし、かつて失った瞳を燃えるような金色に輝かせて──クリムゾンが帰還した。
「ば、ばかな……! なぜ貴様──ごぁっ!?」
誰何するセルの顔面にクリムゾンの拳が叩きつけられ、
弾き飛ばされたセルは岩山をいくつか砕きながらその動きをようやく止めた。
クリムゾンは金色の眼を虚空へと向ける。すると、どうやって作動したのかサテライトシステムが起動しクリムゾンの全身を照らし出す。
クリムゾンは自身の掌を見ながら無言で後ろを振り向くと、事態についていけなかった面々のなかに光学迷彩で紛れていた部下の姿を見つけ出す。
「少佐ぁ!!!
「はっ!」
思わず光学迷彩を解いた人造人間13号は、これまで待機させていたファイナルデッドリーボンバーをクリムゾンへ向かって発射する。
これこそは13号の切り札。本来であれば超13号へと変身するためのエネルギーであるそれを、命令通り躊躇なく放ってからグレイは焦る。
しかし、いつの間にか黒い甲殻に包まれていた腕でクリムゾンはそれを受け止め、数瞬で吸収してしまう。
「な、なんと!」
「悟空! お前らのもだ!」
「わ、わかった!」
クリムゾンの迫力に押されて、悟空はクリリンと共同で作っていた元気玉を発射する。
万が一クウラが敗れた場合に備えて、彼らはある作戦を練っていた。
それはベジータが提案したものであり、内容は誰かがセルを無理矢理押さえつけている間に元気玉をぶつけるという至極単純なものである。
この際セルを押さえ込む面子にはベジータとピッコロが参加することになっていたが、彼らもまた変貌するクリムゾンを見て動きを止めていた。
そしてこれまでどこか暗さを抱えていた悟空は、目の前で烈火のごとく怒るクリムゾンを見てワクワクする気持ちが蘇ってきていた。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっーーーー!!!!!!!!!!!」
膨大な、まるで銀河そのものを飲み込むのではないかと思われるほどのエネルギーがクリムゾンを包み、その姿を変えていく。
真紅の肌に、黒い甲殻。そう、その姿は皮肉なまでに、さきほどまでのセルに似ていた。
クリムゾンが変身を終えた頃、どうにか回復したものの以前までの緑の肌に黒い斑を浮かべた完全体の姿に戻ってしまったセルは戻ってきて唖然とした。
自身と対峙する相手の気が、まぎれもなく先程まで吸収していたクリムゾンであると確信してなお、今の事態を信じることができなかったからだ。
「な、なにが起きたというのだ。貴様は地球人だ! サイヤ人でも、ナメック星人でもない! なぜただの人間の貴様にそんなことができるっ!」
セルは叫ぶ。目の前にした現実を信じたくないばかりに。
しかし、答えは静謐の殺気と共に返ってきた。
「……
言葉と共にセルとなったクリムゾンから赤い炎のごときオーラが吹き出す。敵対者を焼き尽くさんばかりに溢れ出す炎は、セルをして警戒するに余りうるだけのエネルギーを感じさせた。
「セ、セルジュニア達よ!!」
クリムゾンというひとりの男から迸る殺意。それがセルに生命の危機を悟らせ、彼に手段を選ばぬ決意をさせる。セルは他の戦士らはもとい娘であるスカーレットを襲わせることで人質にしようと考えていた。
セルはなにが起こったのか、薄々とではあるが察していた。
目の前にいる男、クリムゾンは地球人で最高の人造人間適正を持つ存在である。仮に彼が女のサイヤ人を孕ませれば、その子供は生まれた時より最高の能力を持った子供が生まれるであろうほどに。
さらに彼が吸収される瞬間、プロトセルと呼ばれる自身の試作体を解放していたのも察していた。恐らく今の姿は、そのプロトセルと融合した姿とも言えるのであろう。
だがゆえにセルは解せなかった。クリムゾンを吸収したセルの支配は完璧だった。プロトセルもクリムゾンも、はじめの内は抵抗を見せたがやがてセルによってその意識は完璧に封殺され彼の身に溶け込んでいたはずなのだ。
だというのに、今彼はこうしてセルの支配を打ち破りあろうことかパワーの一部を奪い取って復活している。
未だ上回っている筈の実力をもってしても、セルはクリムゾンに恐怖せざるを得なかった。
「……スカーレット」
一方でクリムゾンは、胸に穴を空けられ倒れた
その目は後悔と、悲哀と、苦痛と──なにより憤怒に満ちていた。
彼女が自分の直接の娘ではないのはわかっていた。だがクリムゾンはセルに取り込まれることで、セルジュニアの記憶までも見ていた。
無様に殺された自分、娘を庇って殺された妻。
その後も彼女は、多くの仲間を犠牲にしてここまで辿り着いた。
野盗に襲われたとき、女盗賊ふたりに助けられた。しかし彼女達も、娘を守るために死んだ。
旅のなかで出会った青年と恋に落ち、その相手をも目の前で殺された。
彼女は大切なものをことごとく失っていた。そしてその度、彼女の心は死んでいった。
それを為したのが目の前にいる、自分の細胞を使って作り出された化け物だという。
クリムゾンは、生まれて初めて制御できないほどの怒りに身を焼いていた。
「うおおおおおおおおぉぉぉっっーーーーーー!!」
クリムゾンが吠え、走る。
体勢を整えたセルはそれを迎え撃ち、拳を交わしあう。
地上で、空中で、交わされる衝撃波のみのぶつかり合い。
まるで花火が無数に炸裂するかのように、衝撃波が周囲のものを崩壊させんばかりにぶつかり合う。
そして地上では、セルジュニア達が地球の戦士達を襲っていた。
「死ねっー!」
数匹のセルジュニアが小さい方のスカーレットを襲うが、その選択はあまりにも無謀すぎた。
「お前らの存在は許されない……!」
「誰に断ってこの子に手を出そうとしてやがる!」
セルジュニアが断末魔の悲鳴さえ上げることなく、1体が16号の巨拳によって体を砕かれ、更に1体はラディッツの気功波によって消滅した。
また一方では、ベジータが10体以上のセルジュニアと戦っていた。
その様子を見る天津飯は、ベジータが相手の攻撃を見ることもせず、まるでそこに来るのがわかっていたかのように動いて叩き伏せるのを目撃していた。
「何百体いようと、貴様らなんぞこの俺の敵ではないっ!!」
ベジータはその場で回転しだすと、自らに向かってくるセルジュニア達へ向けて連続エネルギー弾を発射し始めた。
「ぐぎっ!」
「うぎゃっ!」
見た目は成体でもまるで子供のような声をあげて次々とセルジュニアらは撃破されていく。
数体が無理矢理突っ込もうとするが、端から見ればそれは自らエネルギー弾に突っ込んでいるようにしか見えなかった。
「ケケッ! 雑魚が!」
「む! 強い……!」
しかし周りばかりを気にしてはいられない。天津飯はセルジュニアの一体と戦いながら、セルジュニアによって放たれたかめはめ波で倒れた仲間の気を感知して死んでいないことを確認する。
天龍や小拳らも果敢にセルジュニアに立ち向かったが、地球人としては達人である彼らもセルジュニアの圧倒的なパワーには敵わず、すでに倒されていた。
「死ねえ!」
再びセルジュニアからかめはめ波が放たれる。天津飯はその瞬間四妖拳を発動させて腕を四本に増やすと、真正面からかめはめ波を受け止めた。
「無茶だ、天さん!」
同じくセルジュニアとギラン、チャパ王の三人がかりで戦っていたナムがそれを見て叫ぶ。圧倒的とも言える気の差に、ナムは天津飯が為す術なく殺されるのを想像した。
「はっ!!」
しかし、驚くことに天津飯はセルジュニアのかめはめ波を消してしまった。
「ぎっ!?」
そのことに固まってしまうセルジュニア。その隙を見逃す天津飯ではなかった。
「超気功砲!!!」
四つの手で作られた四角の中から放たれた特大の気功波がセルジュニアを焼く。どうにか一撃を耐えたセルジュニアだったが、天津飯からの砲撃はそれだけではなかった。
「はっ! はっ! はぁっー!!」
「く、くああぁっーーーー!?」
次々と放たれる超気功砲によってやがて防御もままならなくなったセルジュニアは、気の奔流に飲み込まれその体を消滅させた。
セルゲーム全体での戦いが激化する中、クリムゾンとセルの戦いも流れが変わってきていた。
「はっはっは! どうした先程までの勢いは! いくらか奪ったところで、まだまだ私のパワーは貴様を上回っている! 勝てるとでも思ったのか? ぬか喜びだったなぁ!」
哄笑しながらセルはクリムゾンへと向けて次々とエネルギー弾を放つ。
クリムゾンはパワーで押されているのを理解していたので、それらを冷静にバリアで防ぎ様子を窺う。
「
最大加速して突進するクリムゾン。自分へ向かって無防備に突っ込んでくるそれを迎撃せんとセルが口許を笑みに歪め──一瞬で間合いを詰められ腹部に拳を穿たれた。
「ぶるぁ!?」
攻撃は止まない。
クリムゾンは“赤い糸の結界”でセルを捕らえると、空中で固定されたセルへ向かって容赦ない連撃をお見舞いする。
無言で続けられる攻撃。それらは少ないが確実にセルへとダメージを蓄積していく。
無論、セルとて反撃は試みている。しかしそのことごとくがタイミングを外されてしまう。
(瞬間移動だとでもいうのか……!? いや、違う! なんだ、一体何の能力を用いているのだ!)
クリムゾンが用いる理解不能の攻撃。それを読むことができず及び腰になっているセルは、そのためにパワーで勝っていながらクリムゾンを追い詰めることができないでいた。
そんなセルの様子を見ていたクリムゾンは、怒気を露にしながらもさらに冷静さを奪うために挑発する。
「どうした、いつものように笑ってみろ。追い詰められて、笑い方がわからなくなったか? こうするんだよ……!」
その口許を歪めた姿に、セルは戦慄とも怒りとも呼べぬ複雑な感情を浮かべる。
運命を革新する戦いは、まだ始まったばかりである。
実はこの話、かなり難産でした。
クリムゾンの怒りを表現するために書いては違うを繰り返し、気づけばストックが尽きる始末( ̄▽ ̄;)
本当は前回と合わせて時間差更新だったのですが、これが精一杯でした。
では次回予告をどうぞ。
次回予告
死の闘技場にて、悪夢の終わりを仄めかす福音が響く。
希望の灯りを取り戻さんと、男が戦う。
その果てにあるのは、はたして希望か絶望か。
次回【服毒】。後悔すると、告げたはずだ。