ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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hisaoさん、誤字報告ありがとうございます。


今回暗いので閲覧注意です。なお感情描写優先で一人称になってます。
絶望の世界でひとり生きてきたスカーレットこと人造人間21号。彼女が歩んできた世界を、ほんの少しだけ紹介します。



第44話【追憶】

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地球の危機は地味に何度もあったらしいけど、私には関係ない。

 

そう、思ってた。

 

──あの日が、来るまでは。

 

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「やだっ! お父さん!」

 

「スカーレット! しっかりなさい! 自分の足で走って!!」

 

お母さんに手を引かれる私の後ろでは、青い肌に黒い斑の浮かんだ子供のような化け物と、お父さんが対峙している。

 

お父さんは私とお母さんに“逃げろ”と告げて、自分は化け物と戦い始めた。

 

お父さんは昔凄腕の傭兵だったらしいって聞いてたけど、今にしてそれが理解できた。

 

圧倒的に存在が格上の相手に対して、お父さんは一歩も引いていない。格闘技を趣味としている私からすればお父さんの動きは派手さのない実用性一辺倒なもの。

 

傭兵稼業は私が生まれてからはぱったり辞めてしまったというけど、きっと現役でも通じるだけの実力があると思う。

 

普段は見た目が年齢不詳だし、正直外で買い物をしていてその内彼氏と間違われるんじゃないかと考えたこともある。……その前に眼帯のせいでマフィアと勘違いされそうだけど。

 

でも、そんなお父さんでもあの化け物の相手は無理だ。テレビでアレの親らしきものが軍隊をあっさり皆殺しにしたのを見たし、立ち向かったMr.サタンと他の人達もみんな殺されてしまったのだから。

 

「キキッ!!」

 

今だって化け物は銃弾を面白そうに全て掴んで遊んでいる。でもお父さんは怯むどころか、どこから取り出したのかショットガンを驚くほどの速さで撃ちこんで化け物の動きを止めていた。

 

──でも、化け物が動きを止めたように見えたのはわざとだったみたい。あっさりとショットガンをやり過ごした化け物は、実に楽しげにお父さんの腕を()()()

 

「……!!」

 

でもお父さんは悲鳴をあげない。唇を噛み切りながらそれを堪えると、今度は閃光手榴弾で化け物の視界を塞ぐ。

 

なんとなく私は、どうしてお父さんやお母さんが折りを見て小さい頃から武器弾薬の知識やサバイバル技術を教えてきたのかが理解できてしまった。

 

「早く行けバイオレット! ……スカーレットを頼む。生きろよ、スカーレット」

 

お父さんはそう言って、化け物が迫る瞬間何かのスイッチを押す。すると、部屋の扉を分厚い鉄の扉が遮りお父さんと化け物を閉じ込めた。

 

「あっ……! ぐ、うう……!!」

 

お母さんは悲鳴をぐっと堪えて私と一緒に走り出す。車庫にあるジェットフライヤーで逃げるつもりなのだろう。

 

けど、そんな私たちの前に()()()()の化け物が現れる。

 

「生きなさいっ! スカーレット!!」

 

その瞬間、お母さんは脇見もせずに化け物へと突っ込んだ。予想外だったのだろう。化け物はお母さんより体重が軽かったらしく呆気なく倒れ込む。

 

私は泣きながら走った。後ろで、お母さんが()()()()()嫌な音が聞こえたのを、必死に数式を口にして誤魔化す。これでも科学者志望だったからそれで思考を切り替えられるかと思ったけど、涙は止まらない。

 

私が鍵の刺さったままのジェットフライヤーを動かして空へと飛び出すと、まるで計ったかのように私の家が燃え上がった。

 

何かの燃料にでも引火したのか、家は凄まじい速度で燃え上がり朽ちていく。

 

「お父さん……お母さん……」

 

胸の中には絶望しかない。

 

私は、ひとりジェットフライヤーの操縦桿にもたれて泣いた。

 

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人類の文明は崩壊した。

 

気まぐれにもたらされるセルジュニアの破壊行為は都市をことごとく消滅させ、わずかに生き残った人類も少ない物資を奪い合いその数を減らしている始末だった。

 

あの日、16歳を迎えて数える程度の日にちしか経っていなかった日。私は、すべてを失った。

 

それでも崩壊した世界で私は、父と母の願いである“生きる”ことを義務的に続けていた。

 

幸いにも両親が残してくれたジェットフライヤーには緊急事態に備えた食料その他が豊富に備えられていたため、私が困ることは少なかった。

 

けどそのせいか、私から食料その他を奪わんと餓鬼のごとく追いすがる人々を振り払うのは少なからず心が痛んだ。

 

それでも私は“生きる”ために足掻いた。

 

けれど、どこか限界だったのかもしれない。

 

不意を打たれた私は野獣と化した連中に組伏せられ、持っているモノをすべて奪われてしまった。

 

なにをされるかの想像はついたし、むしろ薬で意識を酩酊状態にしてくれたのはありがたくさえあった。

 

おかげで()()は大したことがなかった。それよりも、ジェットフライヤーにある数少ない両親の写真を破り捨てられたことの方が、私から残った気力を奪った。

 

(……どうしてわたしはいきてるんだろう)

 

私の上にまたがり必死に体を動かす男の顔を眺めながら、私はそんなことを思った。

 

ふと、轟音が響いて顔に生暖かい鉄錆の臭いが降りかかる。

 

「……なんだ、あんた生きてんのかい」

 

「おいハスキー、こいつら野盗にしちゃ食料も医療品もやたら……女か?」

 

「あなたたちは、だれ……?」

 

ぼんやりした意識の中、私は新たに私を見下ろす金髪の女ふたりを見つめる。

 

「チッ、クソどもがヤクでトばしやがったな。おいしっかりしろ! ……! あんたまさか、それにこれって……!」

 

「どうしたんだいハスキー。さっさと行くよ」

 

「このガキ、あたしが助け……」

 

「……正気…!…の得も……」

 

「……見捨……い! ……借りが……!」

 

段々遠くなっていく会話を聞きながら、私の意識は途絶えた。

 

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気がついたら、知らない天井が目の前にあった。もっとも、それが天井だと認識するのに時間がかかったけど。

 

「……ここは」

 

「お、気がついたかい。あんた、親父に感謝するんだね。あの人の娘じゃなきゃ、あたしも助けちゃいないよ」

 

「……父を、知っているんですか?」

 

「……まあ、昔ちょっとね。借りがあったのさ」

 

私を助けてくれた女性はハスキーと名乗る金髪の女性だった。もうひとり同じく金髪のランチという人もいたが、そちらの人は私とは関わらないようにしていた。

 

それでいいと思う。こんな世界で下手に情を交わすことは即、死に繋がるから。

 

それから一年ほど、彼女達と行動した。幸いにもパスコード式のホイポイカプセルのケースは野盗に開けられていなかったので、そこに保存してあった武器弾薬は彼女達にとても喜ばれた。

 

……けれど、別れは呆気ないほどに訪れた。セルジュニアの襲来だ。

 

「スカーレット、生きろよ」

 

頭から血を流すランチさんが自分のモノバイクが入ったカプセルを私に向かって放り投げる。ハスキーさんは、すでに殺されてしまった。

 

「コココ……! どこにいるんだぁ~?」

 

奴らは人間の生体エネルギーのようなものを感知するはずなので、今の台詞はきっとわざとだろう。私たちの恐怖心を煽るために言っているに過ぎない。だからこそ、私は怯えてなんてやらない。

 

「ランチさんは、どうするんですか……?」

 

わかってて、それでも聞いた。するとランチさんは女の私でも惚れ惚れするような笑みを浮かべて、愛用のマシンガンを掲げて言ってのけた。

 

「惚れた男の敵討ちだよ」

 

そう言って、ランチさんは走り出した。きっと、彼女が言ったことは叶わない。だけどいつか、彼女の意思が誰かに届くことを信じて、私は走り出す。

 

私は再び、泣きながら走った。

 

 

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はじめの頃からどれくらい経ったのだろう。10年は過ぎただろうか。

 

私はとうとう、化け物に捕まってしまった。

 

ランチさんとハスキーさんを失った私は、もう人類がほとんど残っていない地球をさ迷い生きてきた。けれどひとりじゃなかった。

 

私は今日までを、トランクスというセルジュニアと戦えるほどに強い子と一緒に生きてきた。生まれてはじめての恋人。だけど、その蜜月は一月に満たなかった。

 

彼は私が捕まるときに最後まで化け物の親玉である“セル”に抵抗し、殺されてしまった。父さんやランチさんと同じように、私に“生きろ”と言い残して。

 

──私は私を見下ろすセルの顔を見上げて言う。

 

「……なにがそんなに楽しいの?」

 

セルは私の目に浮かんだ絶望を見て愉悦に浸っているのか、饒舌に自分がこれから為そうとしていることを告げてきた。

 

生き残りの人類は全て彼にとっての餌であるが、使()()()によってはそれ以上の価値があるかもしれないと。

 

そこで私を含めた多くの人間を人造人間へと改造すると言ってきた。

 

人造人間。

 

父さんと母さんがかつて所属したレッドリボン軍の残した、人類を滅ぼした負の遺産。

 

それが巡り巡って、組織を作った人間の血を引く私の人生を終わらせようとしてくるなど、なんという皮肉だろうか。

 

だから、せめて喋れる内に言いたいことをこの化け物に向かって言ってやることにした。

 

「……あなたは私を改造したことを、きっと後悔することになるわ」

 

「面白い負け惜しみだ。君が言う“後悔”を、期待しないで待つとしよう」

 

セルの尻尾が私に向かって突き刺さり、私の意識は途絶えた。

 

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……夢を、夢を見ているようだった。

 

夢の中で私は、セルを楽しませる為にあらゆる手段を尽くした。

 

電脳化され、ダウンロードされたドクターゲロやブリーフ博士のコンピューターの知識を元に私はバラバラになった人造人間16号を復活させた。

 

どうやら無意識に彼がセルを倒すことを望んでいたようだが、残念ながらそれは叶わなかった。

 

私は彼に意識を植え付けなかった筈だが、驚くことに彼はまるで人間のような態度で私に接してきてくれた。

 

人間的な感情や情動を一切無くしてしまった私を庇うように、私に変わってセルに何度も破壊された。

 

そうして人類が完全に滅んでからも、私と16号とセルは地球を拠点にあちこちの宇宙を渡り歩いた。

 

セルは気まぐれに私にタイムマシンの研究をするように言ってきたが、専門外であることも加えて私はそれを完成させるのに50年近くかかってしまった。

 

その間にもセルはどんどん強くなっていった。どんな強敵も、邪悪も、セルを倒すことはなく、私の閉じ込められた無意識も次第に消えかかっていた。

 

そんなある日のことだった。

 

セルが引くほど嬉しそうにしながら地球へ帰還すると、一年以内にタイムマシンを完成させろと脅してきたのだ。

 

そう、脅し。それができないのならば私に用はないとでも言わんばかりの迫力を込めて。

 

幸いにも数十年前にタイムマシンは完成していたので、私と16号、それにセルが乗るためのスペースを作り直し、新たに飛行機能を有したタイムマシンを完成させることができた。

 

細かいプログラミングはセルがしたので詳細はわからなかったが、どうやら単なる時間移動ではないらしい。

 

 

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機能がほとんど停止してしまっているせいだろう。

 

ぼぉっとして動かない頭を必死に働かせて、私は現状を認識しようと眼前の光景を眼鏡を通して必死に確認する。

 

私の手を、女の子が握っている。癖のある赤毛に、不格好な白衣。まるで小さい頃の私にそっくりな彼女が、セルに対してあろうことか説教している。

 

「あんたがやろうとしたことは単なる自己満足以下のエゴよ!! この○×△◎野郎っ!!」

 

いいこと言うわね、さすが私にそっくりなだけある。けど今の言葉遣いに後ろの大人達が顔をしかめてるわよ。横の不良っぽい男の子は笑ってるけど。

 

緊張感のある空気は崩れてしまったけど、誰も戦うことを諦めてしまったわけではないみたい。

 

それを証拠に、私の高感度パワーレーダーが密かに高まる戦士達のエネルギーを感知したわ。

 

「……ふむ、罵倒されるなど貴重なので言いたい放題に言わせてやったが、随分なものだな。その通りだ、と言ってやれば満足かねレディ。残念ながらこの場に君は必要ない。早々に、退場したまえ」

 

そう言ったセルの行動に反応できたのは、きっとあの日から私がずっと後悔し続けてきたから。

 

私はセルの指先から放たれたデスビームから、私と小さい私を庇おうとする16号を押し退けて致命の光線をこの胸で受け止めた。

 

「スカーレットッ!!」

 

「……馬鹿な! 君が俺を庇う意味などっ!!」

 

ラディッツって言う男の人が駆けてくる。

 

16号が胸に穴の空いた私を助け起こすけど、多分もう無理。

 

私、疲れちゃった。けど、少しは役に立てたよね。

 

「お父さん……」

 

私の最後の言葉がセルに届いた時、全てを定めた運命の殻に、皹が入る音がした。

 

 

 




この世界をわかりやすく言うと“クリムゾンがレッドリボン軍を見限った世界”です。
彼が物語に関わらなくなった為に事態は原作通りに進み、最終的にはセルが勝利しました。そこに彼の要素が加わってはいませんが、そういう世界線だということです。
スカーレットの年齢にズレがあるのはその為ですね。


では次回予告です。
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紅蓮の怒りが、この身を焦がす。
哀惜の慟哭が、魂を震わせる。
憤怒の呼吸が、目を覚まさせる。
次回【赫怒(かくど)】。セル、お前は俺を怒らせた。

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