ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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3話まで自分で読んで思ったのは、まあ自分の作品でのパターンだなーってこと(´・ω・`)

大体似通ってくるものですね。

とはいえその土台となるキャラや舞台が違えば展開も違ってくるもの。

頑張れ総帥。


第4話【魔王】

クリムゾンが意識を取り戻したのは、神龍によって願いを叶えてから三日後のことだった。

 

「……俺はどの程度眠っていた」

 

彼が寝かされていたのはレッドリボン軍本部の寝所。

 

目を覚ましてすぐに声をかけたのは、この部屋に必ずバイオレット大佐がいると確信してのものだ。

 

「三日ほど。時間にして78時間といったところでしょうか」

 

「……少し眠りすぎたか。いや、まあいい。ドクターゲロの元へ行くぞ」

 

「かしこまりました」

 

シャワーを浴び、身嗜みを整えレッドリボン軍の軍服に身を通す。最後に深紅のマントを羽織れば、総帥としてのクリムゾンの完成である。

 

ドクターゲロの研究室も本部地下にある。移動は短時間で済んだ。

 

「目を覚ましたか、クリムゾン総帥。それほど慌ててワシのところへ来るとは、怖い夢でも見たか?」

 

心底見下した様子でクリムゾンを煽るドクターゲロだったが、クリムゾンはむしろ先程まで見ていた悪夢の未来を思い出して一度俯く。

 

「……ああ、あれは間違いなく悪夢だった。ドクターゲロ、折り入って話がある」

 

「なんじゃ改まって……いや待て、お前さんドラゴンボールで()()()()

 

「絶望の未来だ。俺自身困惑していることも多い。順を追って話そう」

 

そうして語る内容はドクターゲロをしても俄には信じられないことだった。

 

「……ピッコロ大魔王の復活はわかる。ドラゴンボールが実在しとったんじゃ、おとぎ話の魔族が蘇っても不思議ではなかろう。だがその後に起きる宇宙人の襲撃か。仮にそれが本当だとして、それほど一方的にやられてしまうものなのか?」

 

ドクターゲロの疑問はもっともだった。

 

クリムゾン自身、見た夢の内容がどこまで正確なのかなど疑問がつきない。ましてや不確定なはずの未来の映像だ。

 

今現在それが変わっていないなどとどうして言い切れるというのか。

 

「それは俺も考えた。だが、お前も天下一武道会の映像は見ただろう? 生身の人間が月を壊したんだぞ。俺にはあれが上限とは思えない。ましてや、広い宇宙の中にはあれ以上の実力者がごまんといると思ったほうが納得できる。それこそ、惑星どころか恒星系そのものを破壊しかねないような化け物がな」

 

「否定できんのが恐ろしいの……」

 

ドクターゲロは天下一武道会での映像から、鍛えた生命体がその肉体から出すエネルギーを用いて格闘能力を遥かに向上させる通称エナジーアーツの研究をも進めていた。

 

理論上エナジーアーツに上限はない。であるならば、確かに惑星を破壊するような化け物が現れてもおかしくはないというクリムゾンの言葉は、ドクターゲロが優れた科学者だからこそ否定できなかった。

 

「ではどうする? 人造人間8号はまず性能面では成功といえた。今後襲来する脅威に備えてアレを量産でもするのか?」

 

あまり気が向く話ではなかったが、地球を滅ぼすような相手がやってくるのならば防衛手段は必要だ。人造人間8号は試作型のエナジーアーツ機能を搭載してあるが、その性能は現時点でも破格と言えた。

 

「……いや、それは違うだろう。俺達はレッドリボン軍だ。地球を守るなどという使命感で動くべきではないにしても、一方的に蹂躙されるのは真っ平だ。現状での到達点を量産するよりも、より高みを目指すべきだろう」

 

「なるほど、その通りだな。ならば今研究している人工細胞兵器に関して、予算を分けてくれると考えてもよいのかな」

 

ドクターゲロがやや逡巡するように尋ねてきたのは、セルと呼ばれる人造人間の最終形態である。あらゆる生物の優れた特徴を兼ね備えた完全無欠のまさしく人造人間。それこそはドクターゲロの生涯目標でもあった。

 

「あの予算食いの計画か。……まあ致し方ないが、進行状況は逐一チェックさせてもらう。それとひとつ確認だが、それは制御が可能なんだろうな?」

 

クリムゾンの脳裏にあったのは、絶望の未来で見た二人の若い男女の姿。

 

「勿論だろう。培養段階から頭脳に働きかけてレッドリボン軍への忠誠を誓うようにするとも。お前さんから聞いた話では、未来でワシの作った人造人間らしき連中が暴走しとったようじゃからな。より強固なプロテクトを施すとも」

 

「……今はそれを信じよう」

 

クリムゾンは今後のために動き始めた。それは本来の歴史とは違う動き。

 

そんな焦燥するような男の背中を、付き従うバイオレットはただただ不安そうに見つめていた。

 

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射撃場で轟音が響く。

 

バレルを通常のモノから長い14インチのサイズに変更して行う射撃訓練は、全身を叩く衝撃がクリムゾンに安心を与える。

 

彼は15歳のときから、戦場にいた。

 

長く小競り合いを続ける国王軍とレッドリボン軍との戦い。他にも大小様々な勢力と戦ったが、実戦を経た叩き上げであることから兵士たちからの人気は高い。

 

そんな彼が愛用するのはデザートイーグル。.50AE弾という大口径弾を扱うこの銃は、グリップの大型化や、メンテナンスの手間など、戦場では嫌厭される類いの代物だ。

 

だがクリムゾンは鍛えることによって安定感を増加させ、遂にはデザートイーグルを用いて至近距離ならワンホールショット(※1)まで可能とするほどだった。

 

しかしそんなことは、今や彼にとって何ら自慢にならなかった。

 

銃がうまいから何だと言うのか。そんなもの、あの化け物達にどれだけ通用するというのか。

 

クリムゾンは全弾撃ち尽くした愛銃を思わず地面に叩きつける。

 

無力感。それはこれまでどこか自分の力も用いて事態を解決してきたクリムゾンにとって、はじめての挫折だった。

 

「……総帥」

 

「……なんだ、バイオレット」

 

専用の演習場であることから、この空間に入ることが許可されているのは限られている。

 

時折メンテナンスを任せているドクターゲロを除けば、残るは彼女だけだ。

 

クリムゾンは到底認めていないが、意外と彼女に依存している。

 

それは母親がいなかったがゆえに、どこか甘えられる対象を求めてのことなのかもしれない。

 

だが彼自身が甘えを否定している為、彼女を抱く以外に向けるモノを持ち合わせていなかった。

 

「あまりご無理をなさらないでください。あなたの体は、あなただけのものではないのです」

 

「俺は俺だけのモノだ。婚約者になったからもう良妻気取りか。そんなに俺を自分の支配下に置きたいか?」

 

項垂れたままバイオレットを罵るクリムゾン。自身の力がまるで無力だと知った男が、はじめて見せる弱音。

 

罵られているはずなのに、バイオレットはそのことがどこか嬉しかった。

 

「いいえ、私の身も心も総帥のモノです。あの日あなたに抱かれた日から……きゃっ!」

 

クリムゾンは首にかけていたタオルを落としながら、打ちっぱなしのコンクリートの床へとバイオレットを引きずり倒す。

 

()()()()か……? もっと上手にしたらどうなんだ」

 

「それであなたの気がすむなら、私はいくらでもこの身を委ねます」

 

空調が効いているはずの空間が、ほんのりと熱を増した。

 

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事後、乱暴に抱いてしまった気まずさを誤魔化すようにクリムゾンはバイオレットを抱き締めていた。

 

「……すまなかった」

 

「……はい」

 

拙い男女の会話。しかし不思議とクリムゾンの心は満たされていた。

 

そして反芻していた。あの悪夢を見たとき、自分がもっとも激昂したのはなんだったかを。

 

「なあ、俺はダメな男だ。きっとまともな父親になんかなってやれない。どうすればダメかはわかっても、どうすればいいかわからないからだ。だけど、そんな俺でもお前が大切になっていることは自覚できた。なあバイオレット。俺と、一緒にいてくれ。緩慢な死が、二人を別つまで」

 

「先程も言いましたが、私の身も心もすでにあなたのものです。この身が千々に砕けようとも、私はあなたと共にいます」

 

「だったら俺はそんな未来が来ないように生きるとしよう。絶望の未来など、俺が認めない」

 

そう言ってクリムゾンは優しくバイオレットの唇を塞ぐと、再びその体を重ねるのだった。

 

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ある日の出来事だった。

 

例年通り、天下一武道会へと視察に向かわせた部下から驚くべき報告があがってきた。

 

「……ピッコロ大魔王が復活しただと」

 

クリムゾンはその報告を聞き、現状監視に留めるよう部下に通達した。

 

「興味深いな。是非細胞のサンプルが欲しい」

 

ドクターゲロは大魔王復活の報を聞き即座に司令部へやってきていたが、今はスパイマシンの操作に夢中になっていた。

 

ちなみにバイオレットは産休である。

 

「よろしいのですか、総帥。新型のミサイルなら如何にピッコロ大魔王といえど……」

 

「確実に殺せるという保証はない。それに、可能な限りピッコロ大魔王との戦いは孫悟空少年や武天老師に任せるつもりだ。俺達が見据えるべき目標はまだ遥か先にいる」

 

そう言って、クリムゾンはスパイマシンを操作させピッコロ大魔王の居所を突き止める。

 

そのまま大魔王の部下を含めた監視を行っていると、なんと孫悟空は部下の魔族と戦い始めた。まだ天下一武道会での戦いを終えたばかりだというのに。

 

案の定、悟空は敗北しその場で気絶してしまった。

 

しかしこの事態にクリムゾンが動いた。

 

「ハイパージェットを用意しろ。彼を救出しにいく」

 

「正気ですか総帥!? せめて他の者を向かわせます!」

 

彼を止めたのはブルー将軍だった。彼自身、総帥に期待され今まで以上に自分自身を鍛え直してきたが、クリムゾンが父親となってからは一度として勝てていない。

 

だがそんなことは関係ない。例え殺されてもここで止めなければ、最悪目の前の敬愛する人物が殺されてしまうかもしれないのだ。

 

悲壮な覚悟を決めたブルー将軍だったが、それはあっさりと裏切られた。

 

「俺が行った方が早いだけだ。そこまで言うならブルー将軍、お前も来い。ハチ、お前もだ」

 

「あたしも行くの!?」

 

思わず素で叫んでしまったブルー将軍は驚愕しきりだ。さきほどまではピッコロ大魔王には関わらないようなことを言っていたというのに。

 

スパイマシンでの監視は続いており、悟空を倒した魔族は次々と各地で天下一武道会の参加者を殺害して回っているようだった。

 

「俺もか。わかった」

 

人造人間8号ことハチは大きな体をのっそりと起こしてクリムゾンについていく。読書していたようで、大きな手には不釣り合いな文庫をそっと近くの机に置く。

 

「急ぐぞ」

 

クリムゾンは運転をブルー将軍に任せ、ハイパージェットに乗り込んだ。

 

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圧倒的な格上が相手でも、手段と計画さえ用いればあっさりと片付いてしまう。

 

目の前でバラバラになったシンバルという魔族を見下ろしてクリムゾンは嘆息した。

 

「……あたしの数倍は強かったのに。総帥、今のは一体なんですか?」

 

ブルー将軍は強靭な魔族の肉体を切り裂いたワイヤーネット射出装置を持つクリムゾンに問いかける。

 

「これか? 形状記憶の性質を持ったワイヤーネットを撃ちだし、設定した距離で瞬時に収縮する性質を持った武器だ。距離感を取るのに少し苦労するが、決まればご覧のとおりだ」

 

あっさり言うが、恐らくほんの十センチもズレればここまで劇的な効果はなかったはずだ。

 

恐るべしはクリムゾンの射撃能力か。

 

「さて、そこで隠れているヤツ出てこい。何が目的だ」

 

「お、俺は別に何も企んでねえど! それよりそこのバラバラのヤツ、食わねえなら俺にくれ。腹減ってんだ」

 

「……食うのか、これ」

 

「んだ」

 

クリムゾンは世界の広さにしばし目頭を揉み解すと、念の為名前を聞いておくことにした。

 

「お前、名前はなんという」

 

「俺はヤジロベーだでよ」

 

「そうか。ヤジロベー、縁があればまた会おう」

 

短く挨拶を交わし、クリムゾンは悟空を連れてレッドリボン軍本部に戻る。

 

悟空がうわごとで「よくもクリリンを……」と呟いているのを聞き、あの快活な少年が復讐心を抱いたのを見て少し意外そうな顔をした。

 

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事態は加速度的に進んだ。

 

ドラゴンボールによってピッコロ大魔王を倒そうとしたブルマ達だったが、それは叶わずピッコロ大魔王は若返ってしまい、あまつさえ神龍は殺されてしまう。

 

それを見てクリムゾンはせめてひとつでいいからドラゴンボールを確保しておくべきだったと後悔した。悟空との契約で四星球を渡してからは、残りをブルマが“その内使う予定があるから”とのことだったので預けてあったのである。

 

さらにはクリムゾンが期待していた武天老師も、ピッコロ大魔王の封印に失敗してなぜか死んでしまった。性質は不明だが、どうやら命と引き換えにする技であったらしい。

 

それらの話を聞き、軍の食堂で尋常ではない食事量を平らげていた悟空はひとつの覚悟を決めたようだった。

 

「……今のオラじゃダメだ。なあクリムゾンのあんちゃん、オラカリン塔まで行ってくる」

 

「カリン塔? ああ、いつぞやの親子がいた近くにある、あのとんでもなく長い塔のことか」

 

クリムゾンは悟空に頼んで四星球を借りたことを思いだし、未だ頂上が判明しない不思議な塔のことを思い出していた。

 

「ああ。あそこには素手でのぼらなきゃいけねえけど、上にはカリン様がいる。オラ、そこでもっと修行して皆の仇を討つんだ!」

 

力強い悟空の言葉に、クリムゾンは少し考えそれを了承した。

 

「いいだろう。ならカリン塔までは俺が送ってやる。筋斗雲とやらは壊されてしまったんだろう?」

 

「ああ。筋斗雲の仇もとってやらなきゃな!」

 

目の前の明らかに自分より幼い少年にどこまで期待するべきかを悩むクリムゾン。

 

武天老師が殺されたことは想定外だったがゆえのことだったが、実は彼自身直接ピッコロ大魔王と戦ってもどうにかできる自信が実はあった。

 

だがその為には多くの手札を晒すことになる。いずれ現れる敵がどこから見ているかわからない以上、悟空が対処できるならばまずは彼に任せてみるべきだろう。

 

万が一負けたのならば、そのときこそレッドリボン軍を動かせばいい。

 

(……すでにスパイマシンが悟空を含めた達人の血液をこれ幸いと集めたことだしな。先程の魔族の死体からもこっそり細胞はいただいておいた。ひとまずはこの少年のお手並み拝見といくか)

 

「よし、ではさっそく行くぞ!」

 

クリムゾンと悟空は再びハイパージェットに乗り込み慌ててその後をブルー将軍とハチが追った。

 

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カリン塔の下で悟空が登るのを見届けて三日が過ぎた。

 

クリムゾンは本部に戻り、ピッコロ大魔王が恐怖政治を始めたことを宣言するテレビ放送を詰まらなそうに見ていた。

 

「街ひとつ消し飛ばす破壊光線か。どうしても武天老師の月を吹き飛ばした一撃と比べると見劣りせざるを得んな。だが何故武天老師はあんな無謀な勝負に出たのだ。あのかめはめ波という技を不意打ちで繰り出せば勝機はあったかもしれんというのに……」

 

「もしかしたら、星を吹き飛ばすのと街を消し飛ばすのでは気功波と呼ばれる技の質が違うのかもしれません。なにか星が含むエネルギーに反応させているという可能性はないでしょうか?」

 

「なるほど、一理あるな」

 

クリムゾンはいつでもキングキャッスルごとピッコロ大魔王を殺せるようにミサイルを発射段階で待機させていた。

 

これは悟空が失敗したときの備えでもある。

 

「……来た」

 

新たに手に入れたのか、筋斗雲に乗ってやってきた悟空はピッコロ大魔王討伐にやってきて追い詰められていた天津飯を救うと、一撃で魔族を殺してピッコロ大魔王と対峙した。

 

そこからの戦いは正しく激戦だった。一個人の人間が発せられるとは思えないほどの大量のエネルギーが飛び交い、キングキャッスル周辺を破壊し尽くした。

 

そして最後に勝負を決めたのは、ピッコロ大魔王の慢心と、孫悟空の執念だった。

 

両の手足の内右手以外を潰された悟空だったが、最後の力を振り絞って撃ったかめはめ波の威力を全身に乗せてピッコロ大魔王の腹部を貫いたのだ。

 

勝利に湧く司令部だったが、クリムゾンはピッコロ大魔王が最後に吐き出した卵を見逃していなかった。

 

「アレを追うぞ!」

 

「またあたしも行くの!?」

 

ブルー将軍の首根っこを引っ張り、クリムゾンはピッコロ大魔王の卵を追う。

 

そこに未来を変える可能性が詰まっていると確信して。

 

 




※1 ワンホールショット。銃弾が通った同じ穴を通して全弾をひとつの場所に命中させること。劇場版のび太がやらかしてたりする。

自分の書く作品においてのヤジロベーの不遇率は異常(´・ω・`)
だって彼のポジション美味しすぎる割りにいない方が仙豆の為なんだもの……

ちなみに最後でクリムゾンがピッコロさん追っかけていきましたが、アレは単に魔族の幼体ならセルの材料として願ってもないことからです。ちなみにセルの計画に関しては軍内部でも一部しか知りません。

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