ということで今回は私のなかでエロいと話題の彼女がチラッと登場。
私が電波を受信して設定した彼女についてのことは活動報告にて。
第38話【不穏】
どこかパオズ山にも似た、人跡未踏にしか見えない秘境。
切り立った崖を、己の手足のみで登る一人の男の姿があった。
彼の名を天津飯という。
気を一般人もかくやというほどに抑えたことで、本来であれば片手間で済んでしまうロッククライミングも厳しい修行となる。
鍛え抜かれた肉体は金剛力士もかくやというほどに研ぎ澄まされ、彼の先祖である宇宙人三つ目族を彷彿とさせる特徴的な三つ目が額に存在していた。
この崖の表面は非常に脆い材質が堆積して出来ており、僅かでも掴む場所を見誤れば落下してしまう。
……とはいえ舞空術が使える天津飯にとって危険かと言われればその限りではないのだが。
そうして最後にほとんど逆さになるような場所を乗り越え、天津飯は頂上へとたどり着く。そこには、簡素ながら寺院らしきものが
「あ、お帰り天さん!」
汗だくになった全身を大きく上下させ息を整える天津飯へ、まるでキョンシーのごとく白い肌に丸く赤みのさした頬をした子供のような存在──チャオズが声をかける。
天津飯が自身の祖先が宇宙人であると知ったのは数年前のことだ。だがチャオズのルーツに関してはクリムゾンも匙を投げた。興味をもって様々な調べ方をしたのだが、地球人であるのは間違いないが魔族のような資質を持つと判断されたのみだった。
結果として宇宙にいる超能力を操る種族の大半がこれらの特徴を持つことが判明したが、特別それがわかったことで何かが判明することはなかった。
「おお、天津飯殿お帰りなさいませ」
「崖行ですか。精が出ますな」
さらに天津飯を迎えたのはナムとチャパ王だった。彼らともう一人は亀仙人の下での修行を終えた後意気投合し、共に天下一武道会に出場するなどして切磋琢磨し続けていた。
天下一武道会はレッドリボン軍やカプセルコーポレーションがスポンサーに付いたこともあり、大会規模を大幅に増していた。
今となっては優勝賞金は一億ゼニーという莫大なものであり、文字通り世界中から猛者が集まる大会となっている。
なかでも亀仙人の元で修行した達人らはその才能を開花させ、世間一般でも達人が超常的な戦闘力を持つことが認知されつつあった。
ちなみに最近では毎回一回戦敗退なものの、驚異的な運の良さとそのキャラクターからMr.サタンという男が人気を得つつある。
「お、天津飯じゃねーか。下の連中も食ってるし、俺らもそろそろ飯にしようや」
羽ばたきつつ現れたのはギラン。
ここにいる一同をはじめとした武術家達は、天下一武道会で再会したのをきっかけに再び集まって修行する機会を得ていた。
最初は適度に広い場所やレッドリボン軍に場所を借りていたのだが、達人の中から天津飯に一門を率いて弟子入りする者が現れたのをきっかけに、ナムが“どうせほぼ全員が亀仙人に薫陶を受けたのだから”と新たに道場そのものを立てることになったのだ。
資金に関しては全員が持ち合えば十分すぎるほどにあったし、それらの話を聞いたクリムゾンやブルマから各種トレーニング施設を格安で手にいれることができたためむしろ安上がりで済んでしまっている。
また満場一致で天津飯を代表にとしようとしたが本人が辞退したこともあり、道場の名前は寓話から【梁山泊】と名付けられた。
「それもそうだな」
そう言って天津飯は一見無造作に、しかし実際にはまるで無駄なく崖を降りていく。
飛び降りているのではない。しかし落下と変わらない速度で次々と崖のわずかな足場を頼りに降りていっているのだ。
それ以外の各自もそれぞれの方法で天津飯の後へ続き、一行はさして時間をかけずに麓の村まで辿り着いた。
「すまない、待たせてしまったようだな」
食事を取らずに待っていた二人に天津飯が詫びをいれると、待機していた
「いえとんでもない。師よりも先に食事をいただくなど考えられません」
豹牙天龍。かつては豹牙流を率いた彼は、前年の天下一武道会で天津飯に負けたことをきっかけに彼へと一門まるごと率いて弟子入りした。これによる人数の大幅な増加が、武道家達が道場を作ることを決心したきっかけでもある。
「真面目すぎるんですよ、天龍さんは」
苦笑しつつ小拳が天龍に声をかける。とはいえ彼に付き合って彼自身も食事を取っていなかった。
かつて悟空と出会った頃よりもたくましい青年として成長した彼は、引退した父の後を継ぐように武術家として大成していた。亀仙人に教えを受けたこともありその才能を大きく開花させ、近年での天下一武道会準決勝におけるチャパ王との戦いは格闘マニアの間では語り草である。
──そんな風に平穏な日々を過ごす彼らを、ひとりの女が見つめている。
「……いただいたデータよりも遥かに上回る数値。ですがこの程度ならば、警戒には値しませんね」
青と赤の模様が
彼女はしばらく地球の達人らを観察すると、ふと興味を無くしたように視線を外し姿を消した。
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その日、悟飯は父親と二人で川へ釣りに来ていた。
以前悟空が何とはなしに口にした約束を守るような形である。
悟飯は明るく話しかける父孫悟空と楽しげな一時を過ごすも、その心にはひとつの不安があった。
(……父さんは、もう戦うことを止めてしまったんだろうか)
表情に出さないようにしても、どうしてか悟飯は父の無防備な背中を目で追いかけてしまう。
悟空は、クウラと引き分けた後あらゆる修行を止めていた。
そのあまりに武術から離れた姿に妻であるチチなどは心配でいたが、一転して真面目に働く夫の姿は頼もしく、息子である悟飯の為にせっせと働くのを止めるわけにもいくまいと見守るに留めていた。
そして悟飯もまた、そんな母を心配させまいと家では殊更武術の話はしなかった。
しかし今はふたりきり。悟飯は機先を制して声に出そうとして、釣竿が引っ張られているのに気づく。
「え……? わ、わ、うわぁっ、っととと!」
慌てたせいで余計な力が入り釣竿を落としてしまう悟飯。“しまった”と思い川へと入ろうとした悟飯であったが、次の瞬間風が吹いたかと思うと釣りざおは手の中に戻っていた。
「あ、あれ?」
「どうした、悟飯」
父がどこかイタズラが成功したような顔つきで自分を見ているのを見て、悟飯は父がどこまで自分のことを見透かしているのか不思議な気分になった。
だから機先を制するつもりで開こうとした口が、半端に開いた状態のときに話しかけられるとは思いもしなかった。
「おと「オラが修行しないのが、そんなに不思議か? 悟飯」ぅい!? え、えっと……うん」
悟飯は迷いつつもこれまで抱えていた疑問を父親へとぶつける。それは何も修行のみならず、自身のパワーを制御することを覚えた悟飯がなぜ戦力に含まれないかといったことへの質問もあった。
悟空はそれらにゆっくりと答えていく。
まず、修行を止めてはいないと。むしろ以前以上に続けているし、正直どんな修行よりも難しいと。
そして悟飯が戦力として考えられていないのは彼がまだ子供だからであり、悟飯自身に義務として戦うことを押し付けるつもりは一切ないことを告げた。
悟飯は悔しいような、ホッとしたような表情になって、父が行っている修行の成果を見せてもらえるようにねだった。
「ん~どうすっかなあ。……ま、たぶんでえじょうぶだろ。悟飯、しっかり腹の下に力いれて気を高めとけよ」
「は、はい! お父さん!」
悟飯は気を解放し、自身の全身を包むようにオーラでその身を囲う。
「んじゃま、少しおさらいだな。悟飯、超サイヤ人はわかるよな」
「うん、前にお父さんが見せてくれたから」
「よし。それじゃ行くぞ」
悟空は気を高め、一瞬にして超サイヤ人へと変身する。炎のごとき黄金のオーラと、逆立った髪の毛が特徴的な悟空の切り札である。
「これが超サイヤ人。本当はこの状態になるまでにもうちっと色々変化があるんだが、今はこれで十分だろ。……でもって、さらにこいつが!」
悟空が構え、瞬間大気が鳴動する。
激しいオーラの奔流が溢れ、さらに悟空のオーラの周りを青い電光が包む。
髪の毛はさらに逆立ち、鋭角ささえ覗かせる雰囲気を見せている。
「……こいつが超サイヤ人を超えた超サイヤ人。ま、超サイヤ人2ってところかな」
悟飯は父親の圧倒的とも言える気に全身を戦かせつつも、どこかその姿に憧れを感じて見とれている。
「そして……!! こ、これが……!! さらにそれを! 超えたっっ……!!」
高まる気に言葉をつっかえさせながら悟飯に説明する悟空。
「あ……! ああ……!!」
あまりの莫大なパワーに悟飯は戦慄する。父が知らぬ間にこれほどの力を手に入れていたなどとは思いもしなかったからだ。
地球そのものを震えさせながらも、放出される莫大な気は留まるところを知らないかのように高まり続ける。
しかし、ある一定を境に悟空の気は突如として安定し、周囲へと放出し続ける気の殆どが悟空の内に収められ悟空の全身が輝く。
──果たして光が収まったとき、そこにいた悟空の姿を見て悟飯は驚愕を隠せなかった。
長く伸びた黄金の髪。超サイヤ人2の時以上に激しくスパークする青い電光。一回り巨大化した筋肉によって全身のボリュームが増し、顔に至っては眉が埋もれてしまっている。
「……待たせちまって悪かったな。まだこの変化に慣れてねえんだ」
雰囲気は荒々しくも神々しく、圧倒的でいながら空や海を思わせる雄大さを兼ね備えた父の姿。
超サイヤ人3。
それこそがこの形態の名である。
悟飯がひとしきり目に焼き付けたのを確認すると、悟空はふっと笑って変身を解く。
「ふぅ……一回だけピッコロに手伝ってもらって変身したんだけど、やっぱ慣れねえなこいつは。どうしたって気の消耗が馬鹿にならねえし」
少々疲れた様子で語る悟空。事実、悟空は今の変身だけで気の三割ほどを消耗してしまっていた。
次元違いのパワーアップを可能とする超サイヤ人3であったが、代償もまた軽いものではなかった。
「でもま、見通しが立たねえ訳じゃねえ。そういう意味でならこの変身の完成度はまだ6割ってところだな」
「ええっ!?」
まだ強くなるのかこの父親はと言いたげな悟飯であったが、悟空は不敵な笑みを浮かべてそれに応える。
「なに驚いてやがんだ悟飯。ベジータはどうか知んねえけど、たぶんクウラも今ごろはおんなしくれえ強くなってっぞ」
さらっと驚愕の事実を語る悟空。悟飯はそのことを慌てて尋ねるも、悟空の態度は至って平静なものだった。
悟空いわく、クリムゾンがベジータとクウラに取り付けた緊箍児にはある副作用があると。
それは気の抑制に伴う潜在能力の解放。
そもそも、いくら脳を直接弄ったところでそれはエナジーを出力させる機能を抑制させているに過ぎない。
星々をも砕くエネルギーは消滅したわけでもないのだから。
ベジータやクウラの戦闘力を封印した緊箍児は、脳から作用することで体内で気を相殺させる。それはゆるりと肉体を蝕むかのように負担を与えるが、それだけならば何ら問題はない。
問題は、その状態にも関わらずトレーニングをした場合だ。
ただでさえギリギリの状態で保っているエネルギーは本来ならば大したことのない簡単な負荷でも肉体に大ダメージを与えるだろう。
しかしその状態で体に負担をかけぬように気を完璧にコントロールできたならば。
それは緊箍児を施されたものにとって空前絶後の潜在能力解放のきっかけとなる。
気を拘束する期間が長ければ長いほど、この修行は効果をもたらすのだから。
「そ、それじゃそのことを早くクリムゾンさんに教えなくちゃ!」
悟飯は焦って悟空に詰め寄るが、悟空はそんな息子を愛しげに抱き上げ肩へと乗せる。
「でえじょぶだ。クリムゾンのあんちゃんがそんなことに気づいてないはずがねえ」
息子を安心させるように笑いながら告げる悟空。しかし内心では別のことを思ってもいた。
(……オラはむしろ、そうまでしなきゃいけない相手がいることの方が気がかりだがな)
悟空はフリーザとの戦いに備えて修行のみを繰り返し、家族を蔑ろにした。10年以上の歳月を精神と時の部屋で過ごし、周囲とは違う時間に生きた。
だからこそ、家族の大切さが身に染みた。
父親として、夫として。離れた時間が悟空に自覚をもたらした。
そしてそうした精神の変化が、悟空に“自ら気を極限まで下げつつ抑制した気を消耗し続ける”空前絶後の修行を可能としていた。
日々肉体を駆け巡る気を制御し続けるのは、並大抵のことではない。
しかし妻の顔を見れば、息子の顔を見れば、それも苦ではなくなる。
今、最強のサイヤ人としての力を持った男は更なる高みを目指して確実に歩いていた。
……余談ではあるが、超サイヤ人3変身に伴う地震のことで悟空はクリムゾンにこっぴどく怒られたそうな。
誤字訂正しました。
地球人の平均戦闘力がインフレを開始しました(´・ω・`)
悟空がいつの間にか超サイヤ人3になってました(ただし未完成)。
でもってさらっとみんなの修行が近いものになっていってます。
名付けて“めっちゃ手加減しつつ全力を出す”です。
次回【胎動】もお楽しみに。