ドラゴンボールR【本編完結】   作:SHV(元MHV)

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聞いてください、最初私はバトルメインのお話にする予定だったんです。

でも気づいたら半分ラブメインのお話になってました。

これもベジータってやつのせいなんだ(´・ω・`)


第28話【渇求】

宇宙空間から直接飛来した五人の影。

 

それらは西の都の直上で止まると、整列するかのように集まった。

 

「なんだよなんだよ、兵隊どもは情けないことになってるみたいじゃない。しょうがねえ、やっぱり俺達が活躍するしかないみたいだな」

 

五人のなかで一番大柄な男であるパイナップルヘアーのリクームが眼下の都市を品定めするように眺めながらこの後のことを想像して悦に浸る。

 

「ぬけがけはなしだぞリクーム、この間の星を侵略したときはお前がいいところを全部持っていったんだからな」

 

赤い肌にざんばらな白い長髪をたなびかせるジースが、今にも飛び出しそうな様相を見せるリクームを注意すると、リクームはいかにもわかっているとでも言いたげに肩をすくめ頷いて見せる。

 

「しゃんとしろ貴様ら! これはフリーザ様直々の命令でもあるんだぞ。一度下の都市に降りた後は散開し、それぞれ目ぼしい場所を無差別に破壊せよ。特にドラゴンボールとかいうアイテムは発見次第破壊してしまえとのおおせだ」

 

いつものようにふざける特戦隊の面々を、二本の角を生やした隊長のギニューが諌める。

 

「ではゆくぞ!」

 

「「「「「我ら! ギニュー特戦隊!!」」」」」

 

五人は空中で無闇にポーズを取ると、勢いよく西の都へと降りていく。

 

「へへーん♪ それじゃあさっそくボクチャンから決めさせてもらうぜえ!!」

 

リクームは道路を砕きながら降り立つと、激しいエネルギーを噴火する直前のマグマのごとく高めていく。

 

その様子に特戦隊でもっとも小さい四つの目を持つグルドが慌てて逃げていき、他の特戦隊はその滑稽な様子を笑って眺める。

 

「リクーム! ウルトラ!! ファイティング……!!!」

 

解放したエネルギーによって広範囲を壊滅的なまでに吹き飛ばすリクームウルトラファイティングボンバー。

 

その効果を知っている特戦隊の面々は、それぞれが距離を取って怒濤の破壊エネルギーから逃れようとする。

 

──しかし、その隙をついて肉薄する影があった。

 

「こか……!!」

 

一瞬で全身を指拳で打ち抜かれたリクームは麻痺したことを理解することもなく、直後にこめかみを至近距離のどどん波に貫かれて絶命した。

 

「安い技だな。大道芸と変わらんぞ」

 

彼こそは世界最強の元殺し屋。求道者桃白々その人である。

 

「リクームのヤツめ、油断しているからだ」

 

「おいそこのお前。俺達ギニュー特戦隊を舐めているとどんな目に遭うぐげっ!!」

 

リクームの死因を油断からのものだと断じて降り立ったジースと、それを援護するように逆側に立つ、リクーム以上の身長を持つ青いカエルじみた肌を持つバータ。

 

しかし危険を感じたギニュー隊長が彼らを止める間もなく、まずはジースがその喉を貫手で貫かれる。

 

「げ……! げえ……!」

 

大量に出血しながらもまだ生きているジース。バータは思わず手を貸すべきか悩み、その隙を突かれて心臓を抜き取られた。

 

「お、俺の……! か、かえ……!」

 

「断る」

 

ぐしゃりと勢いよく潰された心臓を見たショックか、バータが絶命する。

 

事態を重く見たギニュー隊長だったが、彼の判断は遅すぎた。

 

眼下から飛来する無数のどどん波がギニューとグルドを襲う。

 

「ぷはっ……! あ、危ねえ!」

 

「油断するなグルド! すぐに次が来るぞ!」

 

高空へと逃れたグルドとギニューだったが、ギニューは正直今対峙している相手の戦闘力をまるで見抜くことができなかった。

 

これは歴戦の戦士である彼をもってしても初めてのことであり、その違和感こそが特戦隊をほぼ全滅に追いやった要因であると考える。

 

「……貴様妙な技を使うな。面白い、殺すのは最後にしてやろう」

 

「けっ……!!」

 

いつの間に後ろに立たれたのか、グルドは振り向くことも許されず麻痺したまま落下していく。

 

「さて、これで残るは貴様ひとりだが……どうする?」

 

「ふ、ふふふ……! 凄まじい強さだな。本来ならここで貴様のボディをいただきたいところだが、どうやらそれも無理そうだ、降参しよう」

 

ギニュー隊長は冷や汗を流しつつ、桃白々を前にして両手をあげる。戦闘力まで落として無防備になった様子からは抵抗してくる意思はまるで感じられなかった。

 

桃白々はそんな様子のギニュー隊長をまるで信用していなかったが、少なくとも拘束しておくべきだろうと判断する。

 

しかし、近づく前にギニュー隊長は再び喋り出す。

 

「だがそれだけに解せん。フリーザ様の強さは私など足元にも及ばん。貴様はそれを知らんのか?」

 

「知らんな。フリーザというふざけた若造がやってきていることは知っているが、そやつもどうせクリムゾンに敗れるだろう。あれが敵対した相手に勝つと宣言したならば、すでに勝つための算段は出来ていると考えた方がいいからな」

 

「わけのわからないことを言う男だな。だがどうやらそのクリムゾンという男が今回の事態の黒幕か」

 

しかしそこまで話したところでギニュー隊長のスカウターが破壊される。

 

「くだらんお喋りをしてくると思えば、情報収集か。だが名前がわかった程度でどうこうできる相手ではないぞ」

 

「そんなことはわかっているさ。……やれ! グルド!」

 

「なにっ!?」

 

桃白々が慌てて下を見れば、確かに全身を麻痺させたはずの背の小さな宇宙人がひとりの女を捕まえている。

 

よりによってその女がブルマであることが桃白々をさらに焦らせる。

 

「ちいっ!」

 

露骨に舌打ちをした桃白々は警戒を止めていなかったギニューと再び対峙する。

 

ギニューは目の前の男の様子から当然下へ向かうと思っていたが、予想が外れて動き出せずにいた。

 

「いいのか? 私が合図すればあの女は死ぬぞ」

 

「問題ない。大体こんな状況で外を出歩いているあの女が悪い」

 

桃白々はギニューへと肉薄し、ギニューもまた戦闘力を再び上昇させ激しい乱打を仕掛ける。

 

空中でぶつかり合う二人。その事態に慌てたのは下でブルマを捕まえていたグルドだ。

 

「ど、どういうことだ!? 俺は確かにこいつを人質にしたことをギニュー隊長に伝えたはずなのに……!?」

 

グルドが無事だった理由は彼の超能力にあった。

 

彼は今使っている肉体が動かないことを悟ると、自身の超能力で作り出した分身体へと意識を写して行動していた。

 

分身であるがゆえに戦闘力は半分以下になってしまうが、それでも大半の地球人を圧倒するだけの実力がある。

 

そうして呆然と油断しきったグルドの後ろにひとりの男が現れたが、グルドは首をはね飛ばされるまで近づいたことを気づかなかった。

 

「ぜえ……はあ……はあ……くそっ、抑え込まれた戦闘力がこれほど厄介だとは……!!」

 

ブルマを救出した人物であるベジータは、汗だくになりながらもかき抱いたブルマを離そうとしない。

 

ブルマはそんな彼の意外な姿にしばし呆然としながら、なんと言っていいかわからず胸に額を預けるようにして俯く。

 

「……ちょっと、汗くさいわよ」

 

「ハア……第一声が……ハア……文句か……ゼッ……貴様は……つくづく、度しがたい、女だな……」

 

「なによ、もう……」

 

二人の影が重なっていく。

 

グルドは首だけとなりながらも生きていたが、どこからともなく飛来したどどん波に額を貫かれて絶命した。

 

ブルマとベジータ。この二人がこうなったのには、少しだけ過去を振り返る必要がある。

 

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ブルマという少女がいた。

 

彼女は幼くして超人的な頭脳を持ち、恵まれた家庭環境に生まれたこともあり自らが想像したもののことごとくを作り出してきた。

 

だがある日、作れないものがあることに気づく。

 

“自分だけを理解してくれる、理想の相手”。

 

そればかりはどれだけのお金をかけようとも、どれだけの発明をしようとも叶うことはなかった。

 

しかし、ブルマは諦めなかった。

 

自分にできないならば、それを可能とする手段を探せばいい。

 

そう考えた彼女は、偶然発見したドラゴンボールのことを知ったこともあり、夏休みを利用した大冒険へと繰り出した。

 

その結果彼女はこの星の命運を決めかねない少年、孫悟空と出会い、初の恋人であるヤムチャを手にいれることとなる。

 

そこまではよかった。二人ともに恋愛に関しては初々しく、しばらくはまともに話すこともできない日々が続いた。

 

しかしそれは最初だけだった。

 

ブルマの家で世話になるようになったヤムチャは学校へ行かせてもらい、そこで多くの友人を得た。

 

ブルマはそれが気に入らず、男女問わず彼に友人ができる度にヤムチャへと突っかかり、喧嘩をした。

 

最後は大概ヤムチャが折れて収まるものの、ふたりの溝はこの頃より徐々に出来始めていた。

 

やがてブルマは悪の軍隊レッドリボン軍を率いるクリムゾン総帥と出会い、彼からある一言を言われる。

 

“彼と一緒にいることを選ぶか、彼の夢を応援することを選ぶか”。

 

その選択肢はブルマをじわじわと悩ませ、ヤムチャがけた違いの達人となったときに確信となった。

 

(ああ、この人が持つ輝きを……私は奪おうとしている……)

 

ブルマはそれを知って、怖くなってしまった。

 

今まで自分がなにをしても許してくれた優しい彼が唯一生まれたときよりすがってきたのが強さである。

 

ブルマにとってみれば頭脳といってもいい彼の大切なアイデンティティーである武術を取り上げる。

 

クリムゾンはどれだけ残酷なことを言うのだろうと、ブルマは人知れず泣いて悩んだ。

 

悩んで、悩み抜いて、自分自身から別れを切り出そうとした矢先だった。

 

ヤムチャから、ブルマへと別れを告げられたのだ。

 

「俺は不器用な男だ。お前と、そしてお前の親父さんとお袋さんには感謝してもしきれないだけの恩がある。けど、一緒にいる男は俺じゃダメだ。俺じゃ、きっとブルマをダメにしちまう。甘えて、頼って、ブルマから何もかもを奪わなきゃいけない気になる。それじゃ、そんなんじゃだめなんだよ」

 

ブルマはそれを否定しなかった。涙を流すこともなかった。ただ笑って、旅立つヤムチャを見送った。

 

でもどれだけ表面上平気に見せていても不調はバレるようで、行く先々で彼女を心配する声はかけられた。

 

クリムゾンに至っては、結婚相談所を紹介してくる始末である。

 

ブルマは次第に周囲が自分をバカにしているんじゃないかと思うようになった。不幸になった、身を引いた自分を見下しているんじゃないかと。

 

“いっそ、落ちるところまで落ちてしまえばいい”。

 

まともな恋愛経験のないブルマは、そんな思考の果てに最低な行為に身を沈めようとしていた。

 

そんなある日、クリムゾンの元にかつての力を封じられた宇宙人がいるという話をブルマは聞いた。

 

その男がひどい悪人だとも。

 

ブルマはチャンスだと思った。彼の元を訪れ凌辱されてしまおう。そうして汚れきってしまえば、これ以上あんな目で見られる機会はなくなるだろうとも。

 

自分の判断が極めて間違っていることにも気づかず、ブルマは得意の頭脳を活かしてレッドリボン軍の基地に潜入。

 

大量のアルコールを接種し酩酊状態ながらも、あらかじめ用意しておいたカードキーでベジータのいる部屋へと訪れたのだ。

 

結果は、惨敗。

 

凌辱されるどころかこれまでの不安や愚痴を一晩中聞いてくれた上に、慣れない酒で苦しむ彼女をなんだかんだと言いながら朝まで看ていてくれたのだ。

 

それは打算の結果だったかもしれない。ベジータがあの時点でブルマを押し倒していれば、監視カメラで確認していたクリムゾンが三個小隊をベジータ鎮圧に向かわせていたのをどこかで察知したのかもしれない。

 

だがブルマからしてみれば、ひどく屈辱的なことを言われたにも関わらず優しささえ感じるそのときの対応を忘れることが出来なかった。

 

だから、その後も何度もベジータの元へと通った。気づけば結果的にはヤムチャにさえ捧げることのなかった純潔まで捧げることになったが、カメラをハッキングしておいたので気にすることもなかった。……クリムゾンには苦虫を噛み潰したような顔で見られたが。

 

それが“愛”と呼ばれる感情なのかは、ブルマにはわからなかった。

 

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自分になにかあればあの人は来てくれるのだろうかと考えたとき、ブルマは人知れず西の都の路上にいた。

 

メールで一言“来て”とだけ送って。

 

出会って半年足らずの男に何を期待するのかとどこかで冷静に考えながら。

 

それでも、ベジータは来てくれた。

 

息を切らして。必死になって。離すまいとしっかりと自分を抱き締めて。

 

ブルマは気づいた。これが恋愛感情なんだということに。

 

愛情とは常に誰かから与えられるものだと思っていた少女(ブルマ)は、そのとき初めて自身の愛情を与えるべき相手がいることに気づいた。

 

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「雨降って地固まる、といったところかな。ふん、青臭いものを見せよって。……それで、どうするね」

 

上空から一部始終を見つめていた桃白々は、ずたぼろになったギニューを見て一応確認する。

 

しかしそれはあくまで最後通牒。ギニューに残った桃白々の外気功は、すでに彼へといつでも致命傷を与えられるだけの準備を終えていた。

 

「ぐっ……ごほっ……! ひとつだけ聞かせてくれ……貴様は、どうやってこれほどの力を……?」

 

半死半生ながらギニューはせめて最後に己の疑問を解消しようと訪ねる。

 

「……ふむ、人生を三百年ほど無駄にした後、一から鍛え直した。それだけだ」

 

「ふ、ふふ、そいつは、気の遠くなる話だ、な……」

 

気絶し、落下していくギニュー隊長。気を縛っている今、落下すれば待ち受けているのは死のみだろう。

 

しかし、桃白々は彼に残した気を応用して舞空術の要領で彼を浮かせる。

 

「面白い男よ。何か切り札があるようだったが、最後まで使用せんかったな。ちょうど最近暇をしていたところだ、弟子にして性根を叩き直してやる」

 

ひとりの男が運命を狂わされる。それが幸か不幸かは、まだわからない。

 

 




ホントはね、桃白々もっと苦戦する予定だったんですよ。ところがいざ書き始めたら特戦隊が全員瞬殺されてました(´・ω・`)ナニコレー

ベジータとブルマがいつの間にくっついてましたが、彼らの恋愛描写ばかりできないのがツラいところよ。でもたぶん彼らの甘酸っぱい出会いと別れを絶望未来軸で短編書けそうなくらいには色々考えた。

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