なので短い文章を繋げた感がちょいとあったり。話的に削った部分もあったりするんですけどね。まあ全部が全部説明しないでもよかろうとの判断です。
そしてソフィアさん、誤字報告ありがとうございます!
第25話【回帰】
ベジータ達サイヤ人の襲撃から半年が過ぎた。
宇宙は奇妙なほどに静けさを取り戻しており、悟空と師弟関係となった界王がそれとなくフリーザの動向を監視してくれているものの目立った動きはないとのことだった。
「……問題は“目立った”動きではなく、“ちょっとした”動きから生じている違和感なんだがな。以前ベジータ達が来た頃のコルド大王の動き、お前はどう見る? ターレス」
かつてのバトルジャケット姿ではなく、ラフなワイシャツ姿に身を包むターレスは砂糖多目の甘いコーヒーを飲みながらしばし黙考する。
「俺は、恐らくコルド大王……そのフリーザの父親だという存在がフリーザ救出に動いたのは間違いないと思っている。事実、ヤツがナメック星を消滅させたのは間違いないのだろう?」
そう、ナメック星は地球でクリムゾン率いる戦士らが激戦を繰り広げている間に消滅してしまった。
その犯人がコルド大王であることはわずかに残ったスパイマシンの映像で判明している。
しかし何よりも驚異的だったのは、取り残されたフリーザがナメック星でトレーニングをしていたことだった。
「奴からすればほんの気まぐれであり、本格的な運動でさえなかっただろう。だが、あの戦闘力の上昇率は洒落にならん。事実、最終形態におけるヤツの推定戦闘力はもはや1億などという数値では収まりがつかないほどだからな。こちらも、早急にパワーアップする必要がある」
「……神精樹を使うか?」
「いくらあの実が万能に近いパワーアップアイテムだとしても、どれだけの星を犠牲にすればいいか皆目見当もつかん。そして何より界王いわく、もしあれ以上ベジータが星を食らい続けた場合最高位の神が動いていた可能性もあったらしい。どんな存在かは知らんが、現段階でフリーザ以上に余計な勢力とことを構える余裕は我々にはない」
「そりゃそうか。にしてもこの間の界王とかいうヤツとの話し合い、いくらか益になったのかよ」
ターレスはお茶請けのクッキーをモリモリ食べながら尋ねる。最近はラディッツにテーブルマナーを習っているらしくそれなりの仕草になっているが、クリムゾンからすれば彼の領域に至るには十年早い。
「益にならないような与太話でも、そこから益になるものを見つけるのが俺の仕事だ。ひとまずはターレス、お前もそうだが悟空くんも含めてスーパーサイヤ人とやらになってもらうぞ」
「……スーパーサイヤ人ねえ。俺なんかになれるのかよ」
ターレスは自身の頬をポリポリとかきながら自信なさげにクリムゾンへと問いかける。
「なってもらわねば困る。一応ドクターゲロに診断してもらった結果、二人とも変身は可能だと言われているからな。とはいえターレス、お前にはまず基礎を鍛え直してもらうぞ」
「基礎だあ? 今さら俺に地道な筋トレでもしろってのかよ」
「3ヶ月で結果を出せ。お前に地道な修行が向いていないのはわかっているから、師匠としてピッコロをつけてやる。物足りなければ飛びっきりキツい場所に案内してやるから安心しろ」
「それ安心する要素あるのかよ……」
ターレスのぼやきを無視してクリムゾンは淡々と指示をする。
一方で彼は、現段階で完成している人造人間をいよいよ起動する日が来ていると確信するのだった。
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「……ベジータ。俺はお前を許したわけじゃない。だがお前の知識が必要なのも確かだ。嫌でも俺に協力してもらうぞ」
レッドリボン軍特設訓練場。ここは最低でも戦闘力1000を超えたものしか入れない、悟空やピッコロ、ラディッツといった面々が修行するための空間である。
今ラディッツは、戦闘力を1500まで落とされたベジータと一緒にいる。
ベジータの表情にもはや悔しさはない。唯一心の支えであった戦闘力を奪われた彼の目は絶望に満ちていた。
「……好きにしろ」
無表情に呟くベジータ。
ラディッツは内心で仮想空間室、通称デンジャールームに今入っているカカロットでは、同情しかねないほどにしおらしいベジータからのアドバイスは受けさせてやれないと判断する。
万が一ベジータが逆転の目を狙っていた場合、なにが隙になるかわからないからだ。
「まず俺が考えているのは、スーパーサイヤ人と魔猿化の組み合わせだ。変身としては一応別物だからな。同時に発動すればかなりの戦力になると俺は考えているが、お前の意見を一応聞いておきたい」
「やめておけ。俺もそれは考えたが、ただでさえ理性を失いやすいスーパーサイヤ人とその魔猿化とかいう大猿化の亜種は相性が悪い。その額につけたアイテムでも、両方同時に発動した際の暴走まで抑えきれるとは到底思えんからな」
「……やはりそうか。ならば、ひとまずはこのスーパーサイヤ人に慣れることにしよう。どうにも変身している間強制的に興奮状態に陥るからな。この落ち着かん気分をどうにかすることから始めるとするか。ベジータ、助言礼をいう」
言いつつラディッツはスーパーサイヤ人へと変身し、目を閉じてその場に座る。
これはピッコロから教わった修行方法で、精神を統一し自身の体内にある気のムラを微細に制御することで総合的なパワーアップを図るものだ。
今回はそれにスーパーサイヤ人化を伴うことで、自身の精神状態と繋がった溢れんばかりの気を制御することも修行に組み込んでいる。
──ラディッツが己の修行を確立した頃。
「やめろっー! フリーザッー!!」
悟空の悲痛な叫びが響く。今彼の前には夥しい死者が転がっていた。
それは地球の人間達であり、彼の仲間でもあった。
ヤムチャが、天津飯が、亀仙人が。いずれも超一流の達人である三人が無惨な姿で殺され息絶えている。
そして──悟空の親友であるクリリンもまた。
『悟空っー!!』
空中で爆発四散するクリリン。その様子を見た悟空に、遂に変化が訪れる。
──ゾワリ──
怒りの臨界を超えた悟空が
その様子をモニターしていたレッドリボン軍の職員が測定された推定数値を見て驚く。
「す、すごい……! 推定エナジー量、さきほどの50倍にまで上昇しました!」
「これがスーパーサイヤ人か……!!」
ドクターゲロは眼前に広がる光景を見下ろしながら、ひとつの結論に至っていた。
あれこそが、自ら求める究極の人造人間最後の要素なのだと。
変身による人造人間のパワーアップといった案はこれまでもあった。だがそれは、他の人造人間を吸収するなどした一種共食いのごとき行為の果てにあるものである。
しかし目の前の異常なパワーの上昇率を目にしてしまえば、そんなアイデアは遥か彼方に飛んでいってしまった。
(これを人造人間に搭載できれば格段のパワーアップを図ることができる。……密かにナッパの死体を保存しておいて正解だったな)
ドクターゲロは内心でほくそ笑む。究極の人造人間とも言えるセル。それに搭載するべき最強の機能が決まった瞬間でもあった。
「……そろそろ孫悟空の催眠を解いてやれ。怒りに任せてデンジャールームを壊されては敵わん」
高まり続ける悟空のエナジー量を観測していた兵士が、慌ててデンジャールームの状態を待機モードに切り替える。
するとそれを条件にされていたのか、悟空がキョトンとした表情で正気に戻った。
「あれ? オラどうしちまったんだ?」
『テストは終了だ孫悟空。……嫌な思いをさせて悪かったな』
ドクターゲロらしからぬ気遣いの言葉だが、今回得たものを考えればその程度のねぎらいなど安いものである。
「あー、まあホントじゃねえんだろ? だったらいいさ。……なあドクターゲロ、フリーザが来たらああなるかもしれねえってことなんだよな」
悟空は催眠術によって信じこまされた仮想空間での出来事を思い返す。
友が次々と倒され死んでいく姿。あのまま自分が死ねば、その矛先は息子や妻にも及ぶだろう。それだけは避けねばならない。
『ああ、恐らくお前の想像以上に悪い事態が起きるだろう。早い内にその力をモノにすることを推奨するぞ』
「わかった。今なってみただけでも色々できそうな感じだから、兄ちゃん誘って試してみっか。サンキューな! ドクターゲロ!」
『……妙なやつだ。礼を言うのはこちらの方だと言うのに』
「ん? なんか言ったか?」
『……いや、励めよ孫悟空』
もし、出会い方が違っていればこんな風に話をできていただろうかと、ドクターゲロは考える。
彼にとって他人とは単なる事象に過ぎない。過度のコミュニケーションなど望んでいないし、正直な話誰とも接しないでよいのならばそれで構わなかった。
だが目の前の男は、孫悟空は違う。明確な拒絶をしてもなおこちらへと踏み込んでくる。その上それが不快でないときた。
(クリムゾンとは別の意味で
決戦の日に向けて準備は整いつつある。ドクターゲロは果たして宇宙最強の存在を前に、自分の作った人造人間がどこまで戦えるか楽しみで仕方がなかった。
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天界。
つい数ヵ月前までは複数の達人らが入り交じり修行したこの場所には、今はもう神とミスターポポしかいない。
そこへ、神にとっては意外な来客が訪れていた。
「……お前がここへ来るのはわかっていた、ピッコロよ」
「そのようだな」
いつものターバンとマントを身に付けたピッコロ。その表情にはひとつの覚悟が窺えるのを感じて、ミスターポポが焦ったように神とピッコロの顔を見比べている。
「クリムゾンには感謝せねばなるまいな。まさか私も、お前を拾い正しく育てることなど考えもしなかった。……ふふっ、情けない話だ。まずそう考えねばならないのは私でなくてはならないというのに」
自嘲するように笑う神は、慈愛の表情を浮かべてピッコロを見る。
若く、たくましい龍族の、ナメック星人の戦士。
かつての自分以上の強さを身に付けたその姿に惚れ惚れとしながら、神はピッコロの望みを自ら口にした。
「あれだけの修行を経てもなお、此度のサイヤ人襲来はギリギリの戦いだった。そして次に現れるフリーザの強さはそれ以上の可能性があるとクリムゾンは言っている。……なるときが来たのだ、大魔王と神がひとつになるときが」
「……ああ、そのとおりだ」
ピッコロは神へ融合を強要しない。
だがこのままクリムゾンの役に立てないのだけは我慢ならなかった。
邪悪な存在として生まれた自分を慈しみ育ててくれた相手が、死を選ばねばならない状況など二度とごめんであると断言できる。
だからこそ今日ピッコロはここまで来た。
神と、そして自分自身が覚悟を決めるためにも。
「ベースはお前だ。私の胸に手を置くがいい。強さのきっかけにしかなってやれんが、せめて私の蓄えた知識を役立てるといい。……世話になったな、ミスターポポ」
「……神様」
ミスターポポを振り返る神。彼の瞳には涙が浮かんでいる。幼い頃に神殿へ招いてより数百年。共に過ごした日々が彼の脳裏を駆け巡る。
「ではゆくぞ……! はぁっ!!」
神の体が光り、眩い閃光が周囲を埋め尽くす。
やがて光が収まると、そこにはピッコロのみが立ち尽くしていた。
彼はかつてネイルと融合したときのように、自身のなにかを確認するように開いた両手を見つめてから拳を握る。
「ではな、ミスターポポ。また来るぞ」
「神様、どうか死なないで」
「そいつは気が早い。だが、死ぬつもりは毛頭ないさ」
天界を降りてレッドリボン軍本部へとピッコロは、かつての名前も忘れたナメック星人は飛んでいく。
その目には確固たる力が宿っていた。
ということで今回はトップメンバー修行の様子でした。他の地球人組ももちろん修行していますが、前回あまり描写がなかったので今回はこの三人になりました。
奇をてらった表現をしなくていいのでそういった意味では楽ですね。
でもって今回もストック有りとはいえ連続更新記録を更新する勢い。あと少しだけどいけるかなー。