ベジータさんフルボッコ&過去回想の前回でしたがいかがでしたでしょうか?
基本幽白の飛影なんかもそうだけど、あの手のキャラの初期って必ず小物臭あるんですよね。昭和の流れなんでしょうか( ̄▽ ̄;)
後にそれが人間的な成長を経て魅力に変わると思うと胸熱なんですがね。
毎度のことですが皆さん評価、感想ありがとうございます。
おかげさまでちょいちょい日刊ランキングにも乗るようになってますので、とても嬉しいです。
では本編をどうぞ。
ベジータとナッパ。
二人のサイヤ人との邂逅は、ターレスにとって悪いことでしかなかった。
愚連隊であるクラッシャー軍団はともかく、神精樹の樹をすでに見られている。
自分の素性を話しておいてなんだが、強さの秘密を知られるわけにはいかなかった。
「それで、あんたらまだ俺達に何か用か? もし何か命令したいなら諦めてくれ。俺はフリーザ様直属なんでな」
質問の形を取りつつ、ターレスは牽制することも忘れない。
自分がフリーザの配下だということをアピールしベジータが引き下がるように持っていこうとする。
「……気に入らんな。貴様何を焦っている。俺から何を隠そうとしている」
言いつつベジータは一歩ターレス達へと近づく。
その迫力に負け、にわかに殺気立つクラッシャー軍団。
ターレスはその様子に内心で舌打ちをしながらも、自身が盾となるようにベジータとクラッシャー軍団の間にするりと割り込む。
「別に何も隠しちゃいないさ、見たままだよ。それでも気になるなら、どうぞ好きなだけこの星を調べてくれていいぜ。といっても、生き残りなんざひとりもいねえけどな」
慇懃無礼な態度を取りながらも、少なくとも表面上はターレスは自分を下へと持っていっている。
気にくわないといった雰囲気を隠さないベジータだったが、許可が出たのならばさきほどから妙な気配を感じる
「ふん、いいだろう。ナッパ、お前はここでこいつらを見張れ。妙な動きをするようなら好きにしろ」
「……どちらへ行かれるんで?」
「なに、妙に勘が働くんでな。あそこの樹に──」
ベジータがそこまで言った途端、ターレスが弾かれたように動く。
向かってきたターレスの拳をベジータは裏拳を当てることで逸らし避けるが、そのときには拳以上の威力を持った膝が眼前に迫っている。
「ちっ……!」
(今のを躱しただと……!?)
ベジータの超反応によって回避された膝蹴りだが、ターレスの強襲は止まらない。
反撃に出ようとするベジータの拳を受け止め、力尽くでねじ伏せようとする。
「ぐぐぐ……!」
「きさまぁ……!」
両者の力の比べ合いは地面に大きな地割れを起こし、隆起によって足場が崩れるのに合わせて距離を取る。
「悪いなベジータ王子。死んでくれ」
「やはりナニかあるな貴様。いいだろう、戦闘民族サイヤ人の王子であるこのベジータ様の力を存分に味わうがいい!!」
戦闘力にして共に18000を越える両者の戦いは荒れ果てた大地を破壊しながら繰り広げられる。
「うおらぁ!」
「はああっ!」
ターレスが勢いよく肘を打ち込めば、ベジータはそれを最小限の動作で回避して脇腹に拳を叩き込む。
ベジータが首を固定してターレスの顔面に膝を叩き込もうとすれば、ターレスは位置をずらしてダメージを最小限に抑えつつ、ベジータの内腿に拳を叩き込んでその動きを怯ませる。
「けあっ!」
「はっ!」
互いに拳を肘でブロックし、高速での拳蹴のやり取りが繰り返される。
無数の乱打をやり取りした後再び距離を取ると、ターレスは心底称賛するといった具合に口を開いた。
「さすがは戦闘民族サイヤ人の王族。凄まじいまでの戦闘センスだ。……だが、それだけじゃ俺には勝てない」
ターレスは言いつつ懐からすでに収穫しておいた
「あんたが気になってることを教えてやろう。こいつは“神精樹の実”と言ってな。星の命を吸い上げることによって生まれる果実だ」
ターレスは徐に果実を一口齧る。
すると、途端にターレスの全身の筋肉が勢いよく膨れ上がる。
「さあ、これで俺の方が強い。ここで死ね! ベジータ!!」
再び突っ込んだターレス。ベジータはその急激に上がった速度に対応しきれず腹部に深々と拳をめり込ませる。
「が、がはぁっ……!」
ターレスはその勢いのまま吹き飛ぶことを許さず、拳を突きつけたままそこにエネルギーを集中させる。
「あばよ……!」
「ぐあああああ~ッッ!」
解き放たれたエネルギー波に飲まれ、ベジータは勢いよく吹き飛ばされていく。
「ちっ……! 面倒な方向に飛ばしちまった!」
ターレスは一抹の嫌な予感が消しきれずベジータへ追い付くため飛んでいく。
しかしその判断は、少しばかり遅すぎた。
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神聖樹に叩きつけられたベジータは、その巨大な虚のなかで激痛に喘ぐ身を悶える。
今彼の内心にあるのは怒りだった。
下級戦士、ましてやクローンなどという紛い物のサイヤ人にいいようにされる王族である自分自身への不甲斐なさ。
このまま自決してしまいたいほどにプライドを傷つけられたベジータだったが、ふと自分の手元に転がってきた
それは今の衝撃によって落ちてきたものが偶然手元に来たのだろう。
スカウターが壊れてしまったため確認できないが、このまま座していては急激に力をつけたあのターレスによって自分は殺されるだろうとベジータは考える。
そうして実に手を伸ばしたベジータはふと躊躇する。“このままこれを食べて、果たして自分はそれでいいのだろうか?”と。
その疑問は当然だった。誰よりも気高い誇りを持つ自分が、下級戦士をエリート以上の戦闘力にするほどのものとはいえ、そんなものに頼った力を受け入れることなど断じて考えられなかった。
誇りと命。極限の状況でそれらを天秤にかけ──ベジータは命を取った。
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ターレスは飛行しながらスカウターの反応が上昇していくのに気づく。
「戦闘力19000……20000……21000、くそっ、ベジータめ神聖樹の実を食いやがったな!」
ターレスは焦る。体感で自分の今の戦闘力はざっと30000ほど。このままベジータの戦闘力が上回れば、今度は殺されるのは自分の方なのだから。
「戦闘力42000……! まずい、俺も神精樹の実を食らわねば……ぐあっ!?」
ベジータへの強襲と神聖樹の実を採取することで揺らいだことが致命的な油断となった。
ターレスは神聖樹の樹を貫き放たれたベジータのエネルギー波によってダメージを受ける。
「ぐ、くそっ……! どういうことだ!? ベジータはどこだ!」
ターレスは即座に追撃が来るものとして構えていたが、ベジータの姿はない。
しかしスカウターの反応に上を向けば、そこには神精樹の実をむさぼり食らうベジータの姿があった。
「あ……ああ……!!」
ターレスは絶望する。
憤怒の形相で無数の神精樹の実をあっという間に食らい尽くしていくベジータ。
その戦闘力はスカウターで見ずとも急激に跳ねあがっていくのが理解できる。
「ス、スカウターが……!」
急激に上がった戦闘力を測定しきれずスカウターが爆発する。
しかしまだベジータの
ターレスはここに至って逃げの一手を打つことを考えた。
食事に夢中である今なら、仲間達を連れてこの星を逃げ出せるのではないかと。
しかしさきほどと同じように──全ては遅すぎた。
「……ターレス、だったか。ひとつだけ礼を言おう。これほどまでの力を今さら手にいれられるとは思っていなかったぞ。そして、この俺をこんな無様な目に遭わせたこと……今俺に忠誠を誓うならば許してやろう……!!」
ベジータの己への怒りは臨界を越え、神精樹の実による戦闘力の底上げと相俟ってひとつの奇跡を顕現させていた。
それは金色のオーラ。
それは金色の体毛。
それは通常時と比べて50倍とも言われる圧倒的な戦闘力。
ターレスはスーパーサイヤ人のことを知らない。しかしだからこそ本能的に思う。
儚い夢だったと。
いずれはフリーザを打ち倒し、全てを自分の前に跪かせてみせると豪語したかつての自分の如何に情けないことか。
ターレスは思い出していた。“死にたくない”。ただそれだけを思ってフリーザに忠誠を誓ったあの日のことを。
故に、今回もターレスが取ったのは恭順であった。
「あなたに……忠誠を……ぐぁっ!」
跪くターレスに満足げな笑みを浮かべたベジータは、一思いにその頭を踏みにじる。
「ぐあ、があああ……!!」
頭蓋骨がめきめきと変形するような感覚を受けながら、死なない程度に込められているのであろう力に圧倒的な差があることをターレスは自覚する。
これほどの差ができてしまったのかと。
それだけで、不意打ちでベジータを殺そうとした最後の気概も失せてしまった。
ベジータはターレスを一通り嬲ると、クラッシャー軍団と戦っていたナッパと合流。
ターレスを救出しようとしたサイボーグの男を気まぐれに殺すと、残るクラッシャー軍団をターレスと共に従え、さらなる力を求めてフリーザ配下の星々を襲い出すのであった。
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それからしばらくの間、数十に渡る星々を犠牲にし、ベジータはさらなる力を得ていた。
もはや彼にとってフリーザなど敵ではないとさえ考えている。
神精樹の実によって得た力と、己の誇りを踏みにじったことで得た黄金の力。
この二つがあれば全宇宙を支配するのもそう遠い日ではないと。
そうして気づけば気まぐれに殺してきたせいで全滅してしまったクラッシャー軍団の代わりを求めてラディッツへと連絡を取ろうとした矢先、彼からの挑発を受けた。
そのなかでラディッツは明らかにわざと“不老不死”という言葉を使った。
それが挑発なのか真実なのかはベジータにはまだ判断できない。だがそれからしばらくして、フリーザがナメック星に趣き死亡したという噂があちこちで流れていた。
なんでも不老不死を求めて返り討ちにあったとのことだったが……それをもってベジータは確信に至る。
ラディッツがいる場所にはベジータが求める最後の望み……不老不死があると。
それがどんな手段で手に入るものであれ、ベジータは自分にとって手に入れられないはずがないと考える。
かつてのように“王子”ではなく、“王”を名乗る戦闘民族サイヤ人の男は、抑えきれない野望をもって地球へと向かうのだった。
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ベジータとの戦いが終わって一時間ほどが過ぎた。既にクリムゾンの亡骸は冷凍カプセルに収容され、いつでも神龍による復活ができる状態にある。
重傷を負ったラディッツも、駆けつけてくれたムーリによって既に回復していた。
「……」
昆虫標本のごとく拘束され、もはや動くことのないベジータを見下ろすターレスの心を虚しさが占める。
ナッパはそんなベジータの様子にすっかり戦意を喪失したのか、呆然自失の体で拘束されていた。
ターレスは他の面々から未だ警戒されている最中なのでベジータに手は出せないことを悔やんだが、目の前にした彼の姿はひょっとしたらあり得た自分の姿かもしれないと思うと、もはや胸中にはなんの野望が湧くこともなかった。
「……虚しいもんだな。こいつをぶっ殺してやりたい一心で忠誠を誓った振りをしてきたが、それも見透かされていたんだと思うと。……俺は、どこかで逃げていたんだろうな。あんたらも悪かったな。あの男、死なせるには惜しい男だった」
ターレスは狂言に乗ったとはいえ目の前で死んだクリムゾンという男を存外に評価していることに内心で驚いていた。
それは死を目前にして死を恐怖した自分とあまりに違ったからだとターレスは考える。
あの男は死を飲み込み、なおかつそれが最大限仲間のためになることを願って死んでいった。
目の前で仲間達が気まぐれに殺されていくのを、黙って見ているしかなかったターレスにとってその姿は羨ましくさえあったのだ。
全員がしんみりとした雰囲気のなか、不意に冷凍カプセルが開く音が響いた。
「──お褒めに預かり恐縮だな。さて、どうやら事態はすっかり片付いたようだが……ラディッツ、ひどい顔色だぞ?」
「なっ……!!」
「いいっ……!!」
「お、親父!?」
ラディッツ、悟空、ピッコロが驚く。
そこにはつい先ほど死んだばかりのクリムゾンが五体満足で立っていたからだ。
「い、一体どうやって……」
「種明かしをする前にラディッツ、お前に謝ろう。本当にすまなかった。お前の力が、最近どこか燻っていることを俺は知っていた。それは悟空くんも同じだがな。だからそれを解放するには残るひとつの条件である“精神の解放”しかないと思っていた。とはいえ本来ならこんな荒療治をしなくとも、きっかけさえあればお前達は壁を越えるだろうと俺はたかを括っていた。……それでこの様なのだから、つくづく死人が出なかったのは奇跡だと思っていいだろう。今回の戦いに関してはヤムチャくん、君に感謝してもしきれない……」
クリムゾンはその場で土下座し、まずはラディッツに、続いてヤムチャに向かって頭を下げる。
焦ったのはヤムチャだ。
確かに体力が続く限り回復をしたせいで気絶していたが、それもすでにムーリの手で回復している。
「いや、クリムゾンさん頭を上げてください。俺は望んでこの役割を選んだんですから、俺の活躍でみんなが生き残れたなら本望ですよ」
「……そうか、そう言ってくれると助かる」
「だが親父、あんたは間違いなく死んでいたはずだ。一体どうやって生き返ったんだ? あれはロボットか何かだったのか?」
ピッコロの疑問も最もであった。
各人はクリムゾンの答えを今かと待ち構えている。
「きちんと説明するさ。だがその前に、一旦場所を変えよう。レッドリボン軍本部で食事でもしながら状況を整理したい。さすがに俺も死んでいる間のことまではわからんからな」
ニヒルに笑うクリムゾン。
ターレスはそのままこの場を去るタイミングを失い、彼に付いていくことになる。
そのことが再び、彼の運命を変えていく。
ということでほぼ回想でしたの巻き(´・ω・`)
ターレスの設定なんですが、昔劇場版のパンフレットで「ターレスは実はラディッツと取り違えられた悟空の本当の兄」とかいう情報を見て「はあ(゜д゜;!?」ってなった覚えがありまして(多分スタッフが勝手に作った……はず)。そのときの記憶というかインパクトが強かったのが、自分のなかでターレスをここまで作り込んだキャラクターにしたきっかけになっています。