艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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File4; Naval Fight

軍用クルーザーで全速前進し、俺は日本の領海を南下していた。

モニターを見ると、6つの光点の前方に更に4つか、それくらいの反応。

……恐らく、それが深海棲艦と見て間違いないだろう。

その時、姿は見えないが、はるか遠くから落雷のような空を裂く重低音が響いてきた。

もう長門達が戦闘を始めているに違いない。

俺は彼女たちに合流すべく、舵を僅かに取舵に切った。

 

 

 

──小笠原諸島近海

 

長門を旗艦とする鎮守府第一艦隊は、

小笠原諸島を侵略しようと魔の手を伸ばす深海棲艦の群れと対峙していた。

メンバーは戦艦・長門、日向。正規空母・赤城。重巡洋艦・愛宕。

軽巡洋艦・天龍、球磨。

 

対する敵艦隊。戦艦タ級2隻、重巡ネ級2隻。

あいにく水上機による偵察に失敗し、残り2隻の艦種と居場所がわからない。

付近にいるのは確かなのだが。

 

不利な状況で戦わざるを得なくなったが、退くことはできない。

自分たちの後ろにいるのは小笠原諸島の住民たち。

そして、小笠原を制圧されれば、今度はそこを拠点に日本本土を攻撃してくるはずだ。

 

「総員、死力を尽くして敵を殲滅しろ!我らが背負うは日ノ本なり!」

 

“応!!”

 

漆黒のコートをはためかせ長門が全員を鼓舞する。そして、ついに戦闘が始まった。

 

「まずはとにかく手数を削ぐ!総員重巡に狙いをつけろ!」

 

長門が皆に作戦方針を伝えた。軍艦の転生体である彼女たちは、

離れていても電波通信のように互いの思念を送り合うことで情報をやり取りできる。

 

「おっしゃ!天龍様の魚雷、食らいやがれぇ!」

「球磨も頑張るクマー!」

 

まずは軽巡2人が重巡ネ級に魚雷を放った。2隻の四連装魚雷が放った計8本。

うち6本がネ級一隻に命中。大破に追い込んだ。

滑り出しは上々、しかし敵重巡も魚雷を放ってくる。

 

「総員散開!雷撃回避!」

 

長門の号令で全員が距離を取る。予想以上に多い魚雷にやや手こずるが、

それぞれが慎重に魚雷の進路を見極め回避に成功。だが本番はこれから。

敵艦はまだ全て健在。これから主砲による壮絶な殴り合いが始まる。

まず、戦艦タ級が日向に戦いを挑む。16inch三連装砲を発砲、

爆炎を上げて砲身から飛び出した砲弾が日向に食らいつく。

 

「……来るか!!」

 

日向は回避行動を取る。空から迫りくる燃える砲弾の弾道を読み、1発、2発を回避。

しかし、3発目を避けきれず、被弾。だが損害は艤装にかすった程度。まだまだ戦える!

今度は日向がお返しとばかりに無傷の方の重巡ネ級に照準を合わせた。

 

「方位角32度、仰角25度……撃てっ!」

 

諸元入力を済ませ、35.6cm連装砲で狙い撃つ。

彼女の精密射撃で放たれた砲弾は吸い寄せられるように重巡ネ級に命中。

一気に大破状態に追い込んだ。

 

「仕留め損ねたか……すまない、とどめを頼む」

 

「任せてください!」

 

今度は赤城が弓で空に矢を放った。矢は空で炸裂し、爆撃機・彗星に変化。

日向の砲撃で致命的損傷を受け、苦しむネ級に襲いかかる。

爆撃機部隊は、ブオオン!と大空に爆音を響かせてネ級の頭上から爆弾を降らせた。

彼女が頭上を見上げると、いくつもの黒い物体がポツポツと現れ、

それは徐々に大きくなり、それが爆弾だと気づいた時には遅かった。

彗星が落とした爆弾は重巡ネ級を押しつぶし、爆発し、彼女を粉々にした。まずは1体。

 

「やったクマ!球磨達は瀕死のやつを片付けるクマ。

長門さん達は戦艦を叩いて欲しいクマ」

 

「了解した!」

 

「天龍ちゃん、一緒にあの重巡を沈めるクマ!」

 

「おっしゃあ!奴に引導を渡してやるぜ!」

 

球磨と天龍は隣り合い、14cm単装砲を構えた。

魚雷攻撃で片足を失い苦悶の表情を浮かべるネ級に二人が照準を合わせると、

球磨がそばの天龍と示し合わせた。

 

「3,2,1,でドカン、クマ」

 

「ああ、カウントダウン、頼んだぜ!」

 

3,2,1……球磨が3つ数えると同時に、二人はそれぞれ主砲を発射。

砲弾はゆるい弧を描いて動けないネ級に飛んでいった。

一発が腹に命中、爆発。彼女の腹が破れ臓物が海にあふれだす。

そしてもう一発が頭部に当たり、首をちぎり飛ばした。

その無残な死体が海に沈んでいく。

 

「やったクマー!」「へっ、ざっとこんなもんよ!」

 

喜びの声を上げる軽巡2人。捕捉できている範囲で残るは戦艦2隻。

重量級同士のぶつかり合いとなる。ようやく長門の出番がやってきた。

彼女は艤装を操作し、敵に向けて正確に照準、

自慢の試製41cm三連装砲を戦艦タ級の1人に向ける。三つの砲口が敵を睨む。次の瞬間、

 

「撃てぇ!!」

 

三門の大砲が一斉に吠え、ビリビリと大気を揺るがす圧倒的な火力で砲弾が放たれ、

衝撃波で海に大きなくぼみができ、積乱雲のような硝煙が吹き出す。

空に飛び出した41cm砲弾3発。それが真っ赤な軌道を描いてタ級に迫る。

 

“hzkrnkhsr!!”

 

自分に飛んでくる殺意の塊にうろたえるタ級。

猛スピードで突っ込む焼けた鉄塊は彼女に全弾命中。

一発が右腕をもぎ取り、一発が顔右半分をえぐり取り、最後の一発がまともに腹に命中。

彼女はたった一射で大破状態になったのだ。

 

「ふん、しぶとい……」

 

「大丈夫です。もう一度爆撃機を!」

 

赤城が弓に矢をつがえた時、北からブオオオ……と耳慣れない音が聞こえてきた。

敵も味方も思わずそちらを見る。

すると、一隻のクルーザーが猛スピードでこちらへ海を疾走してくる。

皆が呆れ半分で驚く。

ほぼ深海棲艦に支配された海を呑気にクルーザーで泳いでくる馬鹿がいるとは。

 

軍用クルーザーが徐々にスピードを落とし完全に停止すると、

操縦席から白いシャツを着た白人男性が現れ、船首に移動してバックパックを下ろし、

中から武器を取り出した。

 

「チッ、あの馬鹿め!」

 

長門が舌打ちする。何を考えているのだ。いくら装甲板で補強されていても、

魚雷や戦艦の一撃を食らえば木っ端微塵だというのに!

彼女はクルーザーの無線に思念を送る。

 

『おい、そこの馬鹿!何をしている!今すぐ回頭して海域を離れろ!』

 

「任務に決まってるだろ!お前も敵から目を離すな!」

 

イーサンはグレネードランチャーに弾薬を装填しつつ、

船内の無線に届くよう大声で喋りながら答える。

 

『対人用の武器で手に負える相手じゃない!邪魔だ、帰れ!』

 

「お前の指図なんか受けるかよ!」

 

そしてイーサンは波で揺れる不安定な足場で片膝を付き、姿勢を安定させ、

既に大破状態のタ級に狙いを付け、トリガーを引いた。

燃える焼夷弾が弧を描いてゆっくり飛んでいき、

身動きのままならないタ級の片方に命中し、爆発した。

 

『ギャアアアアーーーッ』

 

爆発と全身を焼き尽くす炎によるダメージを受け続ける彼女。

慌てて海に潜るが、ゲル化した酸化剤と皮膚に染み込む特殊燃料を混合した

焼夷弾の炎は、水の中でも消えることがなく、徐々に彼女の体力を奪っていく。

やがて海中で生きたまま焼かれ、ついに力尽きた彼女はそのまま暗い海の底へ沈んでいった。

 

また、爆発の巻き添えを食った残りのタ級も身体にまとわりつく炎に苦しんでいたが、

流石に五体満足の戦艦に対し、飛び火程度ではわずかなダメージしか与えられず、

先に燃料が燃え尽きた。仲間をやられ身を焼かれ、怒り狂う戦艦タ級。

彼女は砲をイーサンに向け、16inch三連装砲を撃ってきた。

まずは閃光、続いて腹に響く轟音、そして真っ赤に焼けた砲弾が飛んでくる。

 

それを見たイーサンは、バックパックから何やら場違いな感が漂う巻物二本を取り出し、

ジーンズのポケットに無理矢理突っ込んだ。

 

「頼む頼む!船には当てんな!」

 

着弾まで1秒を切った時、イーサンは両腕でガードした。

流石に重量数百キロに及ぶ鋼鉄の塊が飛んでくるとビビる。思わず目を閉じるイーサン。

次の瞬間、耳を裂くほどの轟音。

結果、二発が夾叉。一発がイーサンに直撃。

遠巻きに見ていた艦娘達も思わず目をそらす。

身元不明の怪しい外人といえど、人が殺されるのを見るのは気分がいいものではない。

 

……が、次に彼女達は信じがたい光景を目にする。

そこには衝撃波で装甲板が剥げた軍用クルーザー。

そして、船首にはクロスした両腕から煙を出しながらそこに立つイーサン。

皆の間に動揺が走る。生身の人間が深海棲艦の砲弾を受け止めた!?

意味がわからない出来事の連続に艦娘達が浮足立つ。

 

 

 

その頃、イーサンは。

 

「ああくそっ!凄え痛てえ!」

 

慌ててバックパックから回復薬を取り出し、左腕にドボドボと振りかけ、

残りを頭から浴びた。傷を癒やし一息つくと無線に大声で呼びかける。

 

「おい、さっさと仕留めてくれ!次、クルーザーに当てられたらアウトだ!」

 

『なぜお前が生きているのか説明しろ!』

 

「後にしてくれ!奴が撃ってくる!」

 

戦艦タ級も不可解な現象にあっけにとられていたが、

我に返ると、砲弾を再装填し、再びイーサンを狙いだした。

 

「世話が焼ける!」

 

「私に任せて~重巡洋艦の力、見せてあげる!主砲、撃てーい!」

 

愛宕が20.3cm連装砲で、恐らく最後の戦艦に強力な主砲を浴びせる。

飛んでいった二発の砲弾は一発が夾叉、一発が直撃した。

彼女の顔に砲弾が当たり、陶器の仮面のように左半分が砕けた。

砕けた部分から黒い肉と、なおも光り続ける目が見える。

 

『……オマエタチ、ヨクモ!』

 

ここで初めて深海棲艦が人間にはわからない言葉で喋った。

言葉というより高周波で思念を放っているので、

艦娘にはその内容を読み取ることが出来る。

 

「敵艦隊は、何のために攻めてくるのだ……」

 

日向が35.6cm連装砲に再装填し、主砲を構える。残るは1体。

彼女は慎重に照準を合わせ、発砲。二発の鋼鉄の牙が生き残りのタ級に飛びかかる。

そして、全弾命中。胸と腹に重い一撃を食らった敵は、

青黒い血を吐きながら後ろに吹っ飛ばされる。

 

「最後を飾らせてもらうぞ!」

 

そして、長門の艤装が唸りを上げ、

自重で壊れないのが不思議なほど重量のある試製41cm三連装砲が、再び敵に向けられる。

巨大な砲台が微妙な位置角度を修正。用意よし。

 

「撃てぇ!!」

 

またしても落雷の如き砲声が小笠原の空を破り、三発の41cm砲弾が飛翔。

大気を切り裂きながらタ級に向けて巨大砲弾が飛んでいく。彼我の時間がスローになる。

二者が固唾を呑む。当たるか!?そして、避けられるのか!?

 

しかし、現実は無情でただ結果だけが残る。

タ級には命中したら確実に死ぬ凶器が飛来してくるのが見えていたが、身体が動かない。

認識能力に身体が追いつかないのだ。

そのまま41cm砲弾二発が命中。一発は外れたが、タ級の命を奪うには十分過ぎた。

その貫通力と爆発で、彼女の腹に穴が空き、手足が吹き飛び、海面に投げ出された。

 

『ア、アア……』

 

「終わり、だな」

 

ズブズブとタ級の身体が海に沈んでいく。その様子を見届けた長門は皆に呼びかける。

 

「とりあえず見えている敵は片付いた。みんなご苦労だったな」

 

「ま、オレがいるならこれくらい楽勝っすよ長門さん」

 

「ふふっ、お前の力はその自信だな」

 

『おい長門!後ろだ!』

 

珍しく微笑みを浮かべる長門の耳に、イーサンからの通信が飛び込んできた。

慌てて後ろを振り返る。

 

「アハハハハ!」

 

フード付きの服を着て、ネックウォーマーを着けた深海棲艦が

笑いながらこちらに駆け寄ってくる。

海上に浮かぶ霞の彼方からこちらの様子を窺っていた戦艦が襲い掛かって来た。

 

『キミタチ、ヤルヨネ!イクヨ!』

 

現れるやいなや、海を駆け抜けながら長門達に魚雷を撃ちまくる。

 

「ここに来てレ級とは……!」

「クマー!?」

「いやーっ」

「うわっとと!ふざけんな!」

 

皆、不意を突かれて慌てて回避行動を取る。しかし。

とてつもない爆発音と叫び声。背後から最初に狙われた長門が被雷してしまった。

その大きな艤装ごと宙に飛ばされる長門。

 

「げはっ!があっ……!!」

 

決して無視できるダメージではないが、

改二に改装された戦艦の耐久力で、どうにか中破で留まった。心配ない、まだ戦える!

よろけながらも立ち上がる長門。とんでもない雷装。

まずは視線を走らせ、味方の無事を確認する。大丈夫、どうにか全員避けきったようだ。

しかし、レ級の暴走は止まらない。

 

『マダマダコレカラー!』

 

彼女は背から生えた、戦艦の砲台や飛行甲板が融合した太い尻尾から、

爆撃機を飛び立たせた。今度は長門達に爆弾を抱えた航空機が迫り来る。

 

「こんなもの!」

 

すかさず赤城が空に矢を放ち、炸裂させた。矢は高性能戦闘機・烈風に変化し、

機銃で爆撃機の掃討を開始した。

戦闘機特有のスピードで一機、また一機と撃ち落としていく。

だが、敵機の回避能力も高く、殲滅するには至らなかった。

こちらにたどり着いた爆撃機が彼女たちに爆弾を降らせる。

 

「キャアアアア!!」

「痛いクマー!」

「汚えぞこの野郎……!」

 

愛宕、球磨、天龍が威力の高い爆弾を食らい、中破。

まだ当たりどころが良かったからこの程度で済んだ。

艤装で守られていない肉体に直撃を受けていたら、大破は免れなかった。

 

戦艦レ級。深海棲艦の中でも特に戦闘能力が高いこの個体は、

練度の高い戦艦でも手に余る。

その頃、ようやく爆撃機を全て撃墜した赤城が被弾した者に声をかける。

 

「みんな、ごめんなさい!怪我は?」

 

「こんくらい、どうってこと、ねえっすよ……!」

「私もまだまだ平気よ~……」

「球磨もやれるクマ……」

 

なおもケタケタ笑いながら海を走るレ級。

その時、艦娘たちから離れた場所にふと興味深いものを見つけた。

移動用のクルーザーに人間が一人乗っている。なにやらこちらを睨みつけている。

ひょっとして、タ級が燃えちゃったのってあいつのせい?

 

 

 

その時、イーサンのクルーザーに通信が入った。

 

『おい、敵の増援からお前にメッセージだ!

癪だが艦娘を経由すれば人間の言葉に置き換わる。

私が繋いでやるから得意の減らず口で皮肉のひとつでも飛ばしてやれ、以上!』

 

「あいつ喋れるのか?」

 

聞く者もいない独り言をこぼすと、通信機から聞いたことない声が。

とにかくイーサンはマイクを取る。

 

「誰だ」

 

『キミノ、ナカマヲ、コロシニキタンダ。キミタチハ、”レキュウ“ッテ、ヨンデル』

 

「何のためにこんなことしてるんだ。人間から海を奪って何がしたい!」

 

『ウミハ、モトモト、ワタシタチノ、モノ。ニンゲンハ、ヨケイナ、ゴミ』

 

「ああ、テロリストは大体似たようなこと言うさ。

でもな、後から来たお前らが所有権を主張したところで、

ガキが駄々こねてるのと変わらないんだよ!」

 

『チガウ。ワタシタチガ、サイショ。

……モウイイ、”タキュウ“ヲ、コロシタノ、キミ?』

 

「ああ、バーベキューにしてやったよ。まずそうだから捨てたけどな!」

 

『キミ、オモシロイネ。ワタシタチト、ヤルツモリ?』

 

「……俺は、本気だ」

 

『キミハ、サイゴニ、コロシテアゲル。ヒトガ、シヌトコロ、アマリ、ミタコトナイ』

 

そこで通信が切れた。初めて深海棲艦なるものと会話した。

意思疎通ができるB.O.W?一瞬考え込んでしまったイーサンだが、

遠くの砲声で我に返る。そして急いで再び船首に戻った。

 

 

 

長門達は、今度はレ級の激しい砲撃に晒されていた。

レ級は、尻尾の先に付いた戦艦の艦首のような部位から大砲を撃ちまくる。

皆、降り注ぐ燃える砲弾の回避に必死で反撃もままならない。

 

『アハハ!ニゲアシ、ハヤイ、カンムス、オモシロイ!』

 

笑いながら、いたぶるように彼女たちを撃ち続けるレ級。

長門はそんな状況に歯噛みするが、奴の砲弾が尽きるまでどうにもできない。

 

「おのれ……!」

 

しかし、苦戦する長門の心に通信。イーサンからだった。

先程の通信時に計器の周波数を見たのだろうか、とにかく迷惑な話だ。

 

「馬鹿者、この状況がわからんか!」

 

『その状況をなんとかする!あと20秒だけ攻撃を引きつけてくれ、以上!』

 

「おい……!チッ、やはり足手まといではないか!」

 

長門の苛立ちは頂点に達していた。

一方その頃イーサンは、バックパックから弾薬を取り出し、

グレネードランチャーに装填する。

焼夷弾の空薬莢を取り出し、ブルーのドーム状カバーが付いた弾薬。

それを込めると、再び片膝を付き、標的に照準を合わせる。

チャンスは1回。奴がまたこっちに注意を向けたら、アウトだ。

 

 

 

『ハハハ!タノシイナァ!キミラモ、ウチナヨ!』

 

「くそっ、舐めた真似を!」

 

レ級は完全に戦いを遊びながら楽しんでいる。艦娘が逃げ惑うのを見るのが好きらしい。

無尽蔵かと思われるほど砲弾を連射しながらも、全く再装填の隙を見せない。

……彼以外には。

 

『ツギハ、ギョライニ、シヨウカナ……ア!?』

 

大砲に比べれば小さな銃声。さっきの変な人間が発砲してきた。

だが、人が携行できる武器で深海棲艦がどうこうできるわけがない。

完全に油断していたレ級にブルーの弾薬が着弾する。

すると、炸裂した弾薬が青いガス状の神経毒を撒き散らした。

何が起こったのか分からない彼女は、思い切り吸い込んでしまう。そして。

 

『ウ……アガガガガガ!!』

 

全身が硬直して動けない!何これ!何が起こってるの!?

不可解な現象に驚いているのは長門達も同じだった。

あれだけ激しい攻撃を止めようとしなかった戦艦レ級が微動だにしなくなった。

その時、再び長門に通信が。

 

『神経弾で動きを止めた!保って30秒だ!急げ!』

 

瞬時に状況を飲み込んだ長門は、全員に最後の号令を掛ける。

 

「総員、レ級戦艦に集中砲火!一気に沈めろ!」

 

“応!!”

 

皆、自らの誇りとする艤装に司令を送り、それぞれ砲をレ級に向けた。

全員の意思がシンクロし、同一目標へ一斉に発砲。

 

6人の艦娘が放つ砲撃で辺りが硝煙に包まれる。

大気は揺れ、海が跳ね、全員の主砲弾がレ級に襲いかかる。

それを見ていることしかできない彼女。逃げたくても脚も手も動かない。

動かせるのは肺と心臓くらい。先にあの変な人間を殺しておくんだった……!

 

後悔する彼女だが時既に遅し。無数の砲弾が彼女に突き刺さった。

もう、誰の砲弾が何発当たったのか数えるのも無意味なほど、巨大な爆発が起こった。

吹き付ける煙と炎で艦娘たち自身も顔をかばう。

 

しばらくして風が全てを運び去ると、そこに残されていたのは、

かろうじてレ級だと判別できる生物。

尻尾を含めた下半身、両腕、右目が砕け散り、消失していた。

放っておいても命が尽きるのは時間の問題だった。

 

 

 

イーサンも彼女たちの決着を見守っていたが、こちらにまで温かい突風が届き、

よろけそうになった。その時、長門を介して無線機に通信が。

 

『ア、ハハ……ソレッテ、ズルインジャ……ナイノ?』

 

「……フェアプレーがしたいなら浜辺でビーチバレーでもやってろ」

 

『イイサ、オタノシミハ……コレカラ』

 

通信終了。というより、レ級が事切れたのだ。なんだ?まだ増援が来るっていうのか?

 

 

 

「みんな、聞こえていたか!増援が来る可能性がある!警戒を怠るな!」

 

「はい!」

 

長門が皆に呼びかける間に、命尽きようとするレ級が、

思い切り息を吸込み、断末魔の声を響かせた。

人間には音として感知できないほど高周波の音波が大海原に響く。

それを最後にレ級は海に沈んでいった。なんだ今のは。警戒する長門達。

 

すると、霧霞の向こうから、何やら人影が近づいてくる。

そして段々その姿が露わになると、さすがの長門も戦慄した。増援どころの話ではない。

別個体の戦艦レ級2隻、空母ヲ級2隻、そして何やら赤いオーラをまとった

重巡ネ級2隻の大艦隊。皆、怪我を負っている上に、そもそも戦力差が大きすぎる。

長門たちの心に絶望がよぎる。敵空母が彼女達に思念を送った。

 

『ヨクモ、ナカマヲ、ヤッテクレタ。

オマエラモ、ニンゲンモ、ホノオニツツマレ、シヌガイイ!』

 

その怒りと憎しみに満ちた声に思わず球磨が後ずさりする。

だが、敵艦隊が彼女たちに砲を向け、艦載機を召喚し、攻撃を開始しようとした瞬間、

思わぬことが起きた。

晴天の海が、突如闇に包まれたのだ。

 

イーサンの軍用クルーザー、長門達、敵艦隊。

全てが閉じ込められるように光の差さない闇の中に入り込んでしまった。

変わらないのは海だけだ。更に思いもよらぬことが起こる。

戦場の真ん中に、黒いドレスの少女が現れたのだ。

 

艦娘のように、増援と長門達の間に立っている。

その足元からは、何やら黒い液体が漏れ出している。

敵も味方も、不可思議な現象の連続に戸惑うばかりだ。

そんなことは気にも留めず、少女は笑顔で空母ヲ級に歩み寄り話しかけた。

 

「ねぇ、お姉ちゃんたち。私のお姉ちゃんになって!私の家族になってよ!」

 

ヲ級達は突然の出来事に戸惑い、互いに顔を見合わせたが、

やがて落ち着きを取り戻すと彼女を突き放した。

 

「バカガ!ヒトカ、カンムスカ、ワカランヤツガ、

ワレワレノ、ナカマニ、ナレルモノカ!」

 

「……そう、なってくれないんだ。じゃあ」

 

そして、少女は子供に相応しくない邪悪な笑みを浮かべ、

 

 

──お前達なんか要らないよね

 

 

次の瞬間、ヲ級達が次々と弾け、青黒い肉片に変わった。

肉の砕ける気味の悪い音が6回続き、背筋に冷たいものが走る。

 

イーサンも、艦娘も、全く展開に付いていけない。

ウフフフ……少女は、笑いながら闇の外へと走り去っていった。

すると、イーサン達を包んでいた闇が晴れ、元の青空に戻った。

何がなにやらさっぱりだが、とりあえず生き残ったことは確かなようだ。

その事実を受け入れると、皆、ようやく一息ついた。

 

 

 

イーサンは長門達に向かって手を挙げた、彼女たちが向かってくる。

クルーザーの端に脚をかけて、皆を待った。

冷たい潮風が心地いい。戦闘の興奮を冷ましてくれる。

陽の光できらめく広い海を眺めていると、突然何かに脚を掴まれた。

 

「なんだ、なんだおい!!」

 

酸素マスクを着けた水死体のような怪物が、

イーサンを海に引きずり込もうと脚を引っ張る。通信機から声が聞こえる。

 

『ニガサナイ、オマエハ、ユルサナイ……』

 

『潜水カ級!?最後の1隻は潜水艦だったのか!』

 

水死体に続いて長門の声。

イーサンは手すりに掴まり、奴の顔を蹴り、何とか逃れようとするが、

カ級は両腕で脚に掴まり決して離さない。

 

「やめろ畜生!」

 

このままだと海の底だ!激しく抵抗したため、船体が大きく揺れる。

カ級に何度も蹴りを入れるが、怯むどころか徐々に俺の身体を上ってくる。

ゴトン、とまた船体が揺れる。その時、船首に置いたバックパックが倒れ、

中から何かが転がってきた。慌ててキャッチ。

これは……イーサンは自由になる片手でどうにか使えるそれのスイッチを入れた。

 

「これでも食らえ!」

 

ごちゃごちゃしたコードや電極が絡み合うそれを、

勢いをつけて水死体の酸素マスクのチューブに挟み込んだ。

しっかり固定されたことを確認すると、

腰のサバイバルナイフを抜き、何度もカ級を斬りつけた。

 

“うう、ううう……”

 

しかし、痛がりはするが、奴は腕を緩めようとしない。

おまけに皮膚が固くてこれ以上攻撃すると刃こぼれしそうだ。なら!

 

「しつこいんだよ!」

 

奴の目に思い切りぶっ刺した。

 

“ギャアアア──!!”

 

流石に今のは効いただろ!水死体が激痛に腕を離して海に落ちる。

イーサンは操縦席に飛び込んで急発進。

十分距離を取ったことを確認し、別添のリモコンのボタンを押した。

 

ドォン……と後方の海中で何かが爆発した音がした。

最後の手段だが、トラップ用のリモコン爆弾を直接敵に貼り付け、爆破した。

肥満体モールデッドも一撃で倒せるが、接近する際に危険を伴うので、

やらずに済むならそれに越したことはない。爆発が起きた辺りの海面が敵の体液で青黒く染まる。

今度こそ最後だよな?イーサンはクルーザーを停めて長門達を待った。

 

 

 

 

 

で、長門達と合流した俺はまた理不尽な罵倒を受けていた。

俺はクルーザーの端に腰掛けて長門と話していた。

 

「馬鹿者が!運が良かったから助かったものの、

人間が深海棲艦との戦場に入ったら普通は間違いなく死ぬんだぞ!

勝手なことばかりして、そんなに早死にしたいのか!」

 

「ひどい言い草だ。俺は提督からの任務を遂行してただけだ」

 

「何……?」

 

「提督言ってたよな?二人で協力してB.O.Wを殺せ。

さっきの化け物は明らかに生物兵器だった。

その命令を無視して一人で勝手に出ていったのは誰だ?

俺はお前を追いかけて命令通りに化け物退治を手伝っただけだ」

 

「へ、屁理屈を!」

 

「屁理屈かどうかは大好きな提督様に聞いてみろ。

また独断専行したお前と、任務を忠実に果たそうとした俺の言い分、

提督はどっちを聞き入れるんだろうな」

 

「むぅ、わかった。緊急招集だからやむを得なかったのだ……馬鹿と言ったことは謝る」

 

「気にすんな。とりあえず帰ろうぜ。俺はクルーザーだからここで解散だな。じゃあ」

 

 

「ちょおおおっと待ったぁ!」

 

 

その時、デカい声で待ったをかけた者がいた。

眼帯を着け、海戦で役に立つのか不明な刀を腰に下げた艦娘。

彼女が俺に話しかけてきた。

 

「おい、そこの外人!お前には聞くことが山ほどある!」

 

「誰だか知らんが後にしてくれ、俺は疲れて……」

 

「いいえ、それを承知でお願いしています。私達の疑問に答えてください」

 

眼帯はともかく、こっちは昨日のB.O.W襲撃の中で会った。確か赤城とか言ったな。

相変わらずどこか警戒する目で俺を見ている。

 

「まぁ、あの時、後で質問に答えるって言ったな。わかった、何が聞きたい」

 

「それは」「お前の腕を見せろ!どうなってんだ!」

 

赤城に割り込んで眼帯が俺の腕をとる。いきなり引っ張ったから落っこちそうになった。

 

「誰だお前は!話の順番くらい待て!」

 

「オレの名は天龍だ!オレと龍田のコンビを知らないって、お前モグリだな?」

 

「モグリもなにも、俺は昨日ここに来たばかりだ。用がないなら赤城に代われ」

 

「待て!お前、普段どんな鍛え方してるんだ?」

 

「鍛え方?」

 

「お前……戦艦の大砲素手で受け止めてただろう!

どう鍛えればそんなに強くなれる?教えろー!」

 

ああ、あれか。俺はバックパックを取ってきて、

邪魔になったのでしまっておいた二本の巻物とポケットの中のメダルを取り出した。

 

「この巻物は“防御の極意”と“防御の真髄”。このメダルは“鉄壁のコイン”。

ひとつでも効果があるが、全部を併せ持つことで、

ガードさえすればあらゆる攻撃をほぼゼロにできる。

巻物の中身は読んでみたがさっぱりだ。呪文でも書いてあるんじゃないか?

とにかく、期待したような答えじゃなくて悪いな」

 

「じゃあさ、それちょっと」「駄目だ」

 

「ちぇ、ケチ……」

 

天龍が残念そうに水を蹴る。

 

「お前の番はおしまいだ。……で、赤城。俺に聞きたいことって?」

 

いわゆるヤマトナデシコを連想させる艦娘が俺を見据えて語りだす。

 

「単刀直入に伺います。貴方は私達の敵ですか、それとも味方ですか?」

 

「敵だったらあの時君にグレネードランチャーを撃ってたと思うんだが」

 

「……講和条約を結んだとは言え、世界各国の関係は

まだ良好といえるレベルには達していないのです。

あの怪物騒ぎも、私達を助けたのも、この鎮守府に取り入るため、

という可能性を私は完全には捨てていません」

 

勘弁してくれ。ここまで死ぬ思いをしてなんでスパイ容疑をかけられなきゃならんのか。

 

「おい、全員聞いてくれ。

この中で俺がアメリカかどっかのスパイだと思うやつ、手を上げてくれ」

 

結果。

 

天龍「いや、お前は武道の達人から暗殺拳の極意を習得した放浪者だ!」シロ

 

球磨「う~ん、あの戦いぶりが芝居だったとは思えないクマ」シロ

 

愛宕「そうねえ。今日会ったばかりだから私には判断できないわ」保留

 

日向「こんな辺鄙なところの鎮守府に機密もなにもないだろう」シロ

 

長門「え、お前か!?えと、う~ん、赤城の言うこともわからなくもないが、

金剛達を助けたのも事実だし……すまん、保留だ!」保留

 

赤城「場所は関係ありません。鎮守府には等しく大本営からの通達がありますし、

作戦行動に関する情報も共有されています。

かえって警備が薄い田舎の鎮守府のほうが侵入しやすいと考えます」クロ

 

「だ、そうだ。取り越し苦労してるのは今のところ君だけらしいぞ」

 

「そのようですね。では、最後に。あの謎の少女の正体は?

見たところ西洋人らしい顔立ちでしたが……」

 

「俺が知るかよ!

俺があの女の子とグルだったなら、最初から深海棲艦ひき肉にしてたさ!」

 

「……わかりました」

 

それだけ言うと、彼女は下がっていった。

 

「もうないか?そろそろ帰らせてくれ」

 

「あ、最後にひとつ教えて欲しいクマ!」

 

ブラウンの髪が一房だけ飛び出しているセーラー服の艦娘が手を挙げた。

 

「レ級の動きを止めたのはどうやったクマ?」

 

「レ級って、ネックウォーマーのあいつか?

あれはグレネードランチャーで神経弾を撃ったんだ。

着弾すると神経を麻痺させる毒ガスを撒き散らす。

2017年の技術だから信じるかどうかは任せる」

 

「凄いクマ!」

 

語尾に熊が付く妙な艦娘の質問に答えると、俺は立ち上がった。

 

「じゃあ、今度こそさよならだ」

 

「いや、待て!」

 

「今度は長門か?いい加減にしろ!」

 

「そうじゃない、ちょっと待て。……日向、帰投の艦隊指揮を頼めるか?

私はイーサンと話がある」

 

「構わない。安全海域を戻るだけだから、問題ないだろう」

 

「すまないな。……イーサン、私もクルーザーで帰るぞ!」

 

「別にいいが、なんでだ?」

 

「とにかく話がある。乗せてくれ」

 

「ああ、乗れよ」

 

そして、長門がクルーザーに乗り込もうとしたら船体が大きく傾いた。

ああそうだ!こいつらは大砲背負ってるんだったな。

一体何百キロ、いや、1トン超えてるかもしれん。燃料が保てばいいが。

 

長門は装備を艦尾に固定し、操縦席の隣に座った。

俺も操縦席に座り、エンジンをかけ、リモコンレバーを倒した。

軍用クルーザーが母港目指して徐々にスピードを上げる。出発時より少し苦しそうに。

小笠原諸島を後にした俺達は、しばらく無言だったが、やがて長門が口を開いた。

 

「……さっきのことだが」

 

「なんだ?」

 

「赤城を許してやってくれ。彼女も悪気があるわけじゃない。

ただみんなを守りたい、その一心なんだ」

 

「……昨日今日会ったばかりの外人を手放しで信じられるやつのほうが珍しい。

こういう組織じゃ、疑り深いくらいのやつがひとりは必要だ」

 

「そうか……助かる」

 

その後もフルスピードで鎮守府を目指した俺達は、

どうにか夕暮れ前に母港に帰り着くことができた。

工廠裏の港に軍用クルーザーを止める。

エンジン音を聞いたのか、同時に明石が飛び出してきた。

クルーザーから降りる俺達に飛びつかんばかりに質問をぶつけてきた。

 

「わー凄い!本当に生きて帰ってくるなんて!足、付いてるよね?」

 

「どうにかな。危うく持って行かれそうになったが」

 

「装甲剥げてるけどクルーザーも無事!信じられない!本当にあれで戦ったの?」

 

「援護射撃程度だけどな。キー返すよ、本当にありがとう」

 

「いや、こいつは大きく勝利に貢献した。

敵戦艦にとどめを刺し、レ級の動きを止めたことは戦局を大きく有利に運んだ」

 

降りてきた長門が珍しくが俺を褒めるような事を言ったので、正直驚きを隠せなかった。

驚いた表情のまま長門を見ていると、

 

「……ええい、何を見ている!私は事実を言っただけだ!

部下の功績を評価するのも上司の仕事だ」

 

「俺がいつお前の部下になった!」

 

「お前は海での戦いはまだまだ未熟!私が上官となり、戦いの心得を叩き込んでやる!」

 

「真っ平御免だ!クロールでアメリカまで帰るほうがまだマシだ!」

 

またぎゃあぎゃあ騒ぎ出した二人に構わず、

要件を思い出した明石がイーサンを連れ出した。

 

「そうだイーサン、また変なものが現れたの!こっちに来て!」

 

「え、なんだよ変なもんって!」

 

「見ればわかるよ!ほら、長門さんも!」

 

「ああ、待ってくれ!」

 

 

 

──工廠

 

工廠の片隅にそれはあった。

上部にモニターが付き、下にスクラップが貯まっている謎の機械。

隣には各種工具や薬品が置いてあるワークベンチ。

 

「さっき見たら突然。小人ちゃん達に聞いても“知らない”ってさ。

今は止まってるけど、イーサン動かしてみてくれない?」

 

「動かすって、これか?」

 

とりあえず俺は目につく大きなボタンを押してみた。

すると、赤いモニターが緑に変わり、何かの数字を表示した。

そして、機械がガオンガオンと音を立てて、スクラップを作り始めた。

チャラチャラと音を立てて、機械下部の保管スペースに

小さな部品らしきものが落ちてくる。

 

「やっぱり君の世界の物だったんだね。私がスイッチを押しても動かなかった。

どうもこれは破砕機みたいだね……ってどうしたの君達、何やってるのさ!」

 

驚く明石を尻目に、小人たちが脚立を持ってきて、機械の上から鉄屑を投げ入れ始めた。

問いかける明石にも小さな手で敬礼するだけだ。

 

「う~ん、使い道もないガラクタだから別にいいんだけどさ……

スクラップなんか作ってなんになるんだろう?」

 

「それは……このワークベンチで使えるらしいぞ」

 

俺はワークベンチに置いてあったハンドブックに目を通していた。内容は以下の通り。

 

 

スクラップ加工の手引:

このワークベンチでは、後述のレシピに従って各種武器・薬品・弾薬を作成、

またアップグレードが可能である。

 

1.まず、破砕機で十分な量のスクラップを作成する。

2.レシピに従って必要な物資を作成する。

3.再度スクラップを作成する。

 

基礎的な運用方法はこの3つの繰り返しだが、

一部の物資、特に薬品等消耗品の作成は計画的に行う必要がある。

薬品の作成は備え付けの薬液にスクラップを溶かして作成するのだが、

基本的に薬液の補充は想定されていない。

 

この薬液は■■■の機密に当たり、むやみに配布することは許されない。

作戦行動終了とともにテルミット法による処分が前提とされている。

やむを得ず補充を必要とする場合は、■■■の管理局長に申請のこと。

但し、薬剤の不審な乱用、持ち出しが認められた際、関係者の事情聴取を省略し、

実働部隊■■■■による処分が行われる事を心得ておくよう。

 

■■■南アメリカ支部

(署名欄らしき跡。汚れていて判読できない)

 

薬剤調合の注意点:

備え付け薬液の特徴は、十分なスクラップさえあれば、

少量でも目的の薬剤を調合できるという点である。

つまり、治療薬の調合1回目に薬液10、スクラップ100を使用した場合、

2回目の調合時、薬液の節約を目的として薬液5、スクラップ150で

作成することが可能であるということだ。

薬液を節約するか、スクラップを優先するかは戦局に応じて判断されたい。

しかし、繰り返しになるが、薬液の補充は基本的に不可である。

慎重な状況判断が最も重要であることは言うまでもない。

 

 

「ううむ……つまりどういうことなんだ?」

 

「うわっ、後ろから急に話しかけるな!」

 

長門が長身を活かして俺の後ろからハンドブックを覗き込んでいた。

相変わらずスクラップを作り出している破砕機の音で気づかなかった。

 

「小さなことに驚きすぎだ、男のくせに情けない」

 

「巨人が後ろにいたら誰でもびっくりするだろう!」

 

「なんだと!」

 

「まーまーまー、ちょっと明石にも見せてね。……ふむふむ」

 

明石が俺の手からハンドブックを取り、速読で目を通した。

やはり技術者だけあって飲み込みが速い。

 

「要するに、このワークベンチでは武器や薬なんかが作れますけど、

薬や弾薬と言った消耗品は

作るたびに必要なスクラップが増えていきますよーって意味です」

 

「どうして増えるのだ?作るものは同じだろう」

 

「もういいだろ!どうせお前は使わないんだし!」

 

読んだはずなのになんでわからないんだ?

こいつは艦隊指揮や戦闘は得意なようだが、どうも頭が堅いらしい。

 

「ん?なんか今、馬鹿にされたような気がする。説明してもらうぞ!なぜ増えるんだ!?」

 

「まーまーまーまー!長門さん、興味がおありなら後日ゆっくりご説明しますので、

今日の所は一刻も早く、提督のところに戦果報告に行かれたほうが……」

 

「はっ、しまった私としたことが!行くぞイーサン、置いていくぞ!」

 

「誰のせいで遅くなったと思ってんだよ!」

 

「今日は勘弁してやるが、今度必ずお前の口から説明してもらうからな!

なぜ増えるか!」

 

「わーったよ、早く行け」

 

こうして、慌ただしい2日目が終わった。もうとっくに日は暮れていた。

今もルーカスは俺のことを見ているのだろうか。

何を考えて俺を助けたり追い詰めたりしているのだろう。

キチガイ野郎の考えなどわかるはずもないが、どうしても考えざるを得ない。

……そして思い出す。深海棲艦の群れを皆殺しにした少女。

走り去る姿だけだが、間違いない。俺は、あの子を、“向こう”で見た。

 

 


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