艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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Tape13; Birth-Day

──広場隣雑木林

 

[Nelson Carter (1983-2017) R.I.P.]

 

ネルソン・カーター(1983-2017)、安らかに眠れ。

 

あの激戦から数日後。広場に隣接する雑木林に小さな墓を作ることが許された。

提督はもっと明るく広い場所で、と言ってくれたが、

B.S.A.Aの存在がこの鎮守府以外の者に知られることはあってはならない。

目立たぬよう、遊歩道から外れた薄暗い場所に、

明石という艦娘から借りた電動工具で岩を削り、カーターの墓を作ったのだ。

花を手向けると、俺を含む全員が、手作りの粗末な墓標の前に整列した。

 

「自らの任務を最後まで全うし、バイオテロ根絶の信念に殉じた隊員に、敬礼!」

 

俺達はそこにいるはずのないカーターに向かって敬礼。しばしの間黙祷を捧げた。

そして、部下達に語りかけた。

 

「俺達が今、こうして生きているのは、艦娘達の奮闘、お前達自身の努力、

そしてカーターの犠牲があったからだ。確かにB.S.A.Aは危険な職務だ。

次にいつ誰が倒れるかわからない。でも、俺達は捨て駒じゃない。

大事なのはお前達が生き残り、同士を増やしていくことだ。

ここにいる、ひとりひとりが希望だ」

 

“はっ!!”

 

「明日にはジョーも回復する。疲労は溜まっているが、軽傷のようだ。

俺達の世界へ帰還する準備をしておくように。では、一同、解散」

 

隊員達は一列になって、本館へ戻っていった。

俺も、もう一度カーターの墓に視線を送り、遊歩道に足を向ける。

すると、そこに2人の人物が立っていた。提督と、菊の花束を携えた長門だった。

 

「やあ。我々も、彼に花を供えていいかな」

 

「……本人に代わって礼を言う」

 

すると提督と長門は、墓の前にしゃがみ込み、花を供えて手を合わせた。

日本式の作法で部下を弔ってくれる二人を見つめていると、

提督が墓に手を合わせたまま問いかけてきた。

 

「ここには、いつまで居られるんだい?」

 

「ジョーの回復次第だ。

とは言え、彼の体力なら今日いっぱい休めば、明日には出発できるだろう」

 

「そうか。もうお別れだね」

 

「二人共、本当に世話になった。二度とこの世界にB.O.Wが流れ込むことがないよう、

B.S.A.Aは死力を尽くしてバイオテロと戦う」

 

二人が立ち上がり、俺に向き合う。俺達はほんの数秒見つめ合った。

互いの目には、まだ終わることのない戦いへの静かな闘志が宿っていた。

 

「君達のおかげで北方水姫は倒れ、指揮を失った護衛艦隊は、

何もできずに後退を余儀なくされているらしい。君達のことは決して忘れない。

他の誰も知ることがなくても、命を賭して戦った戦士達がいたことを」

 

「今回の騒動では私は殆ど役には立てなかったが、せめて彼の墓は私が守ろう」

 

長門が微かに微笑みながら約束してくれた。

 

「ありがとう。部下を、よろしく頼む」

 

そして俺達は握手を交わし、帰還まで束の間の平穏な時間を過ごすため、

本館へ続く遊歩道に戻った。さらさらと木々を揺らす風が心地良い。

ずっと緊張で張り詰めていた精神をなだめてくれる。

戦いにばかり身を置いていた俺が、こんな気分になるのはいつ以来だろうか。

 

また、明日にはバイオテロとの戦いに舞い戻ることになるが、せめて今だけは。

……そう思いたかったが、どうやら最後の仕上げが残っていたらしい。

屋外スピーカーが叫ぶ。

 

《非常事態発生、非常事態発生!B.O.Wが鎮守府全域に出現!

……数が多すぎる!各自、単独での交戦を避け、複数人での迎撃に当たれ!》

 

「クリス!」

 

「ああ、分かってる!俺はB.O.Wに対処する。長門は提督を守ってくれ!」

 

「了解だ!」

 

俺は背負っていたトールハンマーを構え、遊歩道を駆け出した。

 

 

 

 

 

時を遡ること少し。

目を覚ますと、いつか見た白い天井が。ああ、なんだ、鎮守府の病院か。

敵の親玉をぶっ殺してからの記憶があやふやだから、てっきりあの世かと思ったぜ。

ベッドから身体を起こす。

 

まだあちこち痛むが、もう十分動き回れる。

床に下りると、近くの棚に畳んで置いてあった俺の漁師服に着替えた。

やっぱりこっちの方が落ち着くぜ。

肩から道具袋も掛けて準備完了……つっても、もう殺す相手なんかいないんだが。

 

「ああ、駄目ですジョー!まだ寝てなきゃ!」

 

医務室から出ようとしたら、しばらくぶりの声が聞こえてきた。

 

「心配すんなテスト。俺が頑丈にできてるのは知ってるだろ」

 

「でも、凍傷だってまだ。顔がこんなに痣だらけで……」

 

「放っときゃ治る。

……んぁ、わかったよ。回復薬を浴びてくるからそんな顔すんなって。

アイテムボックスに1個預けてるんだ」

 

テストがすねたような目で見てくるから、俺は医務室から出て、

彼女と一緒に1階ホールのアイテムボックスに向かった。

相変わらず、でんと構えたデカい箱。俺は回復薬を取り出すために、その蓋を開けて……

とんでもないもんを見た。まただ、AMG-78の入ったジュラルミンケース。

 

「おい、冗談は勘弁してくれ。またなんか入ってるぞ」

 

「なんですか、それは?」

 

「俺が知るかよ。とにかく開けるぞ」

 

同じくアンブレラの社章と社名が印字されたケースを開くと、やっぱりAMG-78。

……ん、待てよ。こいつは右腕用だ。あ、中に例の付箋もあるぞ。

 

“ふたつでひとつ”

 

そんだけだ。誰が書いたのかは、やっぱりわかんねえし、

今更何のためにこんなもん寄越したのか謎だ。

 

「着けてみたらどうですか?」

 

「ん~そうだな。なんかの役には立つだろう」

 

右腕にもう一つのAMG-78を装着。

左のやつと同じく、自動的に俺の腕に合わせて形状を変え、

手の甲のコアから機器全体にエネルギーが広がる。

 

《装備完了》

 

装備完了。したはいいが、使い道がどうしてもわからん。

元の世界に戻ったら、本来の用途で石工になるのもいいかもな。

テストを見るが、首をかしげるばかりだ。

両腕のAMGが揃ったから、さしずめこいつはAMG-78Dualってとこか?

 

俺もテストも困っていたら、突然バカでかい音量のサイレンと警告に驚かされた。

……また、B.O.Wの大群が攻めてきただと!?

北方水姫が連中を操ってたんじゃなかったのかよ!!

 

「ジョー、とにかく行きましょう!」

 

「おう!奴らをぶち殺さねえことにはどうにもならん!」

 

一応回復薬も忘れず道具袋に詰め込み、俺達が本館のドアへ走り出すと、

通信機に変な声が。

 

(私と、遊んでよ)

 

そうだ……!あの氷漬けの海で、

ドロシーとか言う野郎が、戦いの最中に茶々入れてきたのを思い出した。

なるほど、深海棲艦の変異も、B.O.W発生も、全部こいつの仕業だったって訳かよ!

俺達は体当りするようにドアを開け、本館の外へ飛び出した。

こいつぁひでえ!黒カビクソ野郎共が、どこを向いても、うじゃうじゃいやがる!

 

「明石さんが心配!きっと建造中の娘達を守ってるはず!」

 

「決まりだ、そっちから片付けるぞ!」

 

俺達はアスファルトの道路を走って、全速力で工廠へ向かった。

 

 

 

 

 

B.S.A.A部隊は倉庫区画でグループを2つに分け、6つの倉庫の一つの南北を守っていた。

艦娘宿舎の援護を申し出たが、

彼女達から“ここはなんとかなる、3番倉庫を守ってくれ”と返信があった。

燃料や弾薬と言った爆発物が大量に保管されているらしい。

ここを攻撃されると鎮守府が吹き飛ぶ。

 

「敵の増援を確認!撃て撃て撃て!!」

 

南を守る4人グループが放ったアサルトライフルの5.56mm NATO弾が、

緩慢な動きのモールデッド達に突き刺さる。

腕や足を吹き飛ばされ、数体のノーマルモールデッドが折り重なるように倒れる。

一方北側では、クリスを含む4人が激しい攻撃に晒されていた。

 

両腕が刃になった進化型ブレードモールデッド、クイックモールデッド、

そして白いモールデッド・フィーマー。

クリスの部下がやはりアサルトライフルで応戦するが、

耐久力の高いブレードモールデッドや、素早いクイックモールデッドに苦戦している。

クリスもトールハンマーで援護に回りたいが、

不死のフィーマーをラムロッド弾で始末しなければならない。

モールデッド達はどこかから次々と湧いてくるのだ。

 

「くそっ、一体何が起こっている!」

 

その時、クリスのヘルメットに謎の通信。

 

(私と、遊んでよ)

 

クリスも耳覚えのある謎の声。間違いない、B.O.Wを操っているのはこいつだ!

だが、どこにいる?

 

 

 

 

 

俺達が工廠に乗り込むと、もう中は化け物連中で定員オーバー状態だった。

そこを明石一人が建造ドックのドアの前で必死に守っていた。

 

「もう!明石の工廠、汚さないで欲しいんだけどなぁ!」

 

明石が艤装に積んである機銃でB.O.Wをハチの巣にする。

攻撃を食らった奴は、瞬く間にミンチになるが、明らかに人手が足りてねえ。

明石が正面の敵を相手にしてる間に、

左から4体が押し合いへし合いしながら近づいてくる。くそっ、明石が危ねえ!

俺は早速AMG-78Dualにダブルチャージを開始した。

 

《チャージ開始》《チャージ開始》

 

「うおおお!!」

 

両腕が無敵の拳になった俺は、モールデッドの群れに突撃。

それぞれに充填されるエネルギーを感じながら、左右の腕を振りかぶる。

 

《チャージ完了》《チャージ完了》

 

「くたばれ!」

 

そして、俺は両腕から極限まで筋力を増幅したAMG-78Dualを、

黒カビクソ野郎共に放った。

直撃したのは一番後ろにいた奴だが、凄まじい衝撃波で4体まとめて粉々に砕け散った。

いつもどおり、どうしようもないほど、バカみたいに強力だ。

一旦敵の攻撃が止んだ隙に、俺達は明石に駆け寄った。

 

「明石さん、大丈夫ですか!?」

 

「コマちゃん!来てくれるって信じてたよ~!みんな無事。

小人ちゃん達も建造中の娘もドアの向こうに避難させてる」

 

「おい、どうする。俺も身体はひとつしかねえ。

ここに残って手伝うか?それとも他に助けてほしい場所はあるか」

 

「ジョー!その右腕……素敵じゃん!ついに両腕のAMGが揃ったんだね!

2つに性能差はあるのかな?ちょっと拝見……」

 

「馬鹿、後にしろ!あちこちで皆が戦ってるが、まるで数が減る様子がねえ。

どっかから湧き出してるとしか考えられねえが、心当たりねえか?」

 

「えー、そんなこと言ったって……そうだ、さっきの変な放送は聞いた?

放送っていうか一言だけのメッセージっていうか」

 

「あ……それって」

 

 

──私と、遊んでよ

 

 

「ワタクシも聞きました。女の子の声で」

 

「う~ん、もしかしたら今の状況について何か知ってるかも。

一応さっきの通信のログはあるんだ。

シグナルの強弱を見れば、大まかな位置は特定できるよ!」

 

「早えとこ頼む!全く銃声が鳴り止む気配がねえ!」

 

「任せてよ!」

 

明石は縦長の大型コンソールを操作。すると、小さめのテレビみたいなモニターに、

ぼやけた地図みたいなもんが表示されて、2,3分でくっきりした映像になった。

ああ、俺がガキの頃のテレビもこんな風だったな。

明石がモニターに顔を近づけると、驚いた様子で振り返った。

 

「ねえ!本館のど真ん中に反応が出てるよ!」

 

「そんな!ワタクシ達、本館から来たんですよ!?」

 

「だよねえ……本館に電波塔なんてないし」

 

「いや、ある」

 

明石とテストが同時に俺を見た。この二人は知らないから無理もねえ。

 

「ドロシーだ。北方水姫と戦ってた時、どこかから通信機に声を飛ばしてきた奴がいた。

姫級が死んだ今、そいつが犯人だとしか考えられん」

 

俺は、一旦外に出て本館の外観を確かめる。

なるほど……東側の裏手に非常階段の塔がある。いるとすれば、屋上しかねえ。

 

「奴は屋上にいる。俺はドロシーを殺さなきゃならねえが、二人だけで大丈夫か?」

 

「うん、コマちゃんが来てくれたからもう大丈夫!」

 

「はい!ワタクシは明石さんと工廠で敵を迎え撃ちます!」

 

「済まねえな、行ってくるぜ!」

 

「気をつけてくださいね!」

 

「帰ってきたら、右腕のAMGも見せてね~!」

 

二人の声を背に、俺は本館の非常階段へ向かって逆戻りした。

さっき通ったばかりのアスファルトの道を、ふらふらとモールデッドが徘徊している。

 

「どけ、この野郎!」

 

両腕を広げて大げさなモーションで斬りかかってきたノロマを殴り飛ばし、

 

「邪魔するんじゃねえよ、太っちょ!」

 

右腕のAMGをフルチャージして、

ゲロを吐く寸前のデブに、利き腕のストレートを叩き込んだ。

重そうな身体が吹っ飛ばされ、10m先でゴロゴロと転がると、水風船のように弾けた。

銃声が四方から響き、怒号と悲鳴が飛び交う。

俺は戦場を走り抜け、本館の裏手に続く日陰のスペースに飛び込んだ。

 

その狭いエリアに6体のモールデッドが待ち構えていた。

やっぱりこの先には来てほしくないみてえだな!再びAMG-78Dualにチャージを開始する。

同時に、化け物共が呻き声を上げながらこっちに向かってきた。

 

《チャージ開始》《チャージ開始》

 

ゔああああ……

 

「聞こえねえか!?邪魔だって言ってるんだよ!」

 

数が増えようとやっぱり所詮は沼のカビ野郎と同じだ。

後先考えずに攻めることしかわからねえ。俺はゆっくりと後退しながら自滅を待つ。

6人同時に俺を捕まえに来たもんだから、庭石で足場が狭くなったところで、

団子になって動けなくなった。当然、俺は……!

 

《チャージ完了》《チャージ完了》

 

「おらああっ!!」

 

二つ揃って、もはや破壊兵器でしかなくなったAMG-78Dualをぶち込んだ。

極限まで増幅された両腕の筋力と、それが放つ衝撃で、6体が同時に砕かれ、

手足をもぎ取られた。かろうじて1匹生き残ったが、何の意味もない。

 

「ふん!」

 

ぐしゃりと頭を踏み潰されるまで、3秒ほど寿命が伸びただけだ。

生まれ変わったら、譲り合いの精神を身につけるんだな。

俺はB.O.Wの死体をまたいで、本館裏手にたどり着いた。

 

そこには金網で出来た非常階段の塔。

入り口は取っ手に鎖を何重にも巻かれて、更に南京錠で鍵を掛けて頑丈に施錠されてる。

おい、これじゃ非常時に使えねえだろうが!まあいい、やることは一つだけだ。

 

《チャージ開始》

 

俺は右腕のAMG-78にチャージを開始。急げ、みんな長くは保たねえ。

ここのてっぺんにドロシーとかいうB.O.Wの本当の親玉がいる。

 

《チャージ完了》

 

「はあっ!」

 

入り口をぶん殴ると、蝶番が壊れて、綺麗にドアが丸ごと外れて飛んでいった。

俺は急いで螺旋階段を駆け上る。

1階、2階、3階部分まで上って、とうとう屋上まで上りきった。

……そこで俺は、黒い人影らしきものを見る。

塔から足を踏み出し、広い屋上を踏みしめるように歩を進める。

すると、人影が俺を見てニッコリ笑った。

 

『来てくれたのね、嬉しいわ』

 

「テメエが、ドロシーか……!」

 

その姿は、醜悪としか言いようがなかった。

どうにか顔が判別出来る程度しか原型を留めていないほど、

腐り果てた北方水姫の肉体が、体中から真っ黒なヘドロを撒き散らしながら、

おぼつかない足取りで一歩一歩近づいてくる。

白いコンクリートの屋上に、黒い足跡がくっきりと残る。

俺は、右手を思い切り握り込む。

 

『ねえ、褒めて。私、エヴリンを超えたのよ!

彼女みたいに、自分の存在認識を変えて、世界の壁を越えることができたの!』

 

喋る度に口から凄まじい腐臭を放つドロシー。

恐らく笑っているのだろうが、崩れた顔面からはおぞましさしか感じられない。

 

「ドロシー、深海棲艦を無理矢理進化させて操ってたのは、お前か……?」

 

『それだけじゃないわ!私の菌で、みんな、強くなった!

エヴリンみたいに化け物に変えることなく!』

 

「だったら下で暴れてる連中はなんだ!!」

 

『一生懸命作ったの。そう、エヴリンのように、菌を増殖させて作ったの。

もう、誰にも私を失敗作なんて呼ばせない!』

 

「ふざけるな!何のためにそんなバカみてえなことしやがった!」

 

『“友達”が欲しかったの。

私の菌を受け取った子は、みんな、考えを共有して、力を得る。

そう、私と一つになって、菌のように無限に再生して、絶対に死なない。

ずっと友達でいてくれるの……』

 

「てめえ……ぶっ殺す!!お前のしみったれたクソまみれの欲望で、

死なずに済んだ奴が死んだんだぞ!友達なんざお前には必要ねえ!

目の前のイカれたジジイで十分だ!」

 

《チャージ完了》

 

『でも、ひとつだけできないことがあるの。見て、私の右腕。

これだけはどうしても作れないの。人間に奪われた。もう戻ってこない。

……ねえ、とっても綺麗なあなたの右腕、私にちょうだい?』

 

「ああいいぜ!ちょうど今からお前の顔面にくれてやろうと思ってたとこだ!!」

 

俺は地を蹴って走り出し、ドロシーに向けて右腕を構える。

その生きる腐乱死体に接近すると、その顔に思い切りフルチャージのAMGを叩き込んだ。

頭部の大半が消し飛び、俺の腕が向こう側に突き抜けた。

これで終わりか?呆気ない、と思った瞬間、頭が一瞬にして再生し、

俺の腕を取り込んだ。肉と骨に包み込まれた腕はなかなか抜けない。

 

「放しやがれ、ちくしょうめ!」

 

『ウフフフ……ア・リ・ガ・ト・ウ』

 

また醜い笑顔を見せたドロシーは、左手の人差し指を天に向かって高く指した。やべえ!

本能的に危機を察知した俺は、左腕のAMGで奴を何度も殴り、

頭部を砕いてようやく右腕を解放し、何も考えず右に転がり込んだ。

 

まさに一瞬の差。奴がスッと指を下ろすと、

見えない刃が飛んでいき、屋上のコンクリートを音もなく切り裂いていった。

この野郎、真空波か何かを使いやがるのか……!

 

身体は脆いが、即座に再生。おまけにコンクリートすら切り裂く特殊能力と来たもんだ。

しかも、あいつもやる気になったみたいで、こっちに近づいてくる。

下手に近寄ると危険だが、離れすぎても攻撃できない。なら、こいつを試すか……!

俺は道具袋に手を突っ込んで、ステイクボムを放り投げた。

 

『ワタシハ Dガタ ナンカジャナイ! ワタシハ ドロシー!!』

 

ドロシーは感情が高ぶり、トラップに気付いてない。

奴の足が木製爆弾に触れたところで、スローイングナイフを投げて起爆させた。

下手な金属より固い木片が弾け、ドロシーの肉体を引き裂いた。

奴が肉片となってコンクリートの地面に散らばる。

 

すぐさま接近し、頭部を踏み砕き、その場から離れた。そして様子を見るが……

くそったれ!グジュグジュと肉片が集まって、また元の人間型B.O.Wに逆戻りだ!

 

『アナタモ ワタシノ オトモダチニ ナッテ!』

 

ドロシーが両腕をクロスして、バッと開いた。5本の指から放たれる真空波が迫り来る。

とてもじゃないが避けきれる代物じゃねえ。俺はしゃがみ込んで両腕でガードした。

だが、真空波はAMG越しに俺の腕を深く切り刻む。

 

「があああ!!」

 

両腕から大量出血。すぐさま回復薬を取り出し、腕に振りかけるが、

半端じゃないダメージを受け、完全に治し切ることができなかった。

次に同じ攻撃を食らえば、ガードしようが間違いなく死ぬ。

だが、残りの回復薬はあと一本。しかも敵は不死身。

まさに絶対絶命ってやつだ、こんちくしょう!

 

 

 

 

 

北の海での戦いから電源を入れっぱなしにしていたジョーの通信機から、

無線をキャッチした。

B.O.Wを生み出している、ドロシーという聞き覚えのある存在と交戦中のようだ。

しかも不死タイプ。俺が行かなければどうにもならないが……

 

「敵増援出現!3体です!」

 

「くそっ!」

 

前後から5.56mm NATO弾の絶え間ない銃声。

俺は、トールハンマーでB.O.Wの頭部を狙い、粉砕し、

よろめいた敵に拳を浴びせてとどめを刺す。この繰り返しだ。

かつてないほど激しいモールデッドの襲撃。

一人抜ければ燃料・弾薬庫を守りきれる見込みは薄くなる。

しかし……ドロシーにとどめを刺さなければいずれは弾切れ、つまりは死だ。

 

「リロードする!……だめだ、弾がない!誰か、5.56mm弾をくれ!」

「俺もこれで最後だ!」

「グレネードは?」

「だめだ!倉庫に引火したらどうする!」

 

部下も徐々に追い詰められている。もう、やるしかない。俺は、決断した。

弾切れのアサルトライフルを抱えている隊員に、

トールハンマーと残りの12ゲージ弾を押し付けた。

 

「隊長!?」

 

「何があってもここを死守しろ!本館で何が起きてるかは聞いただろう!」

 

「しかし!」

 

「命令だ!倉庫を守りきれ、いいな!」

 

「……了解!!」

 

うおおお!!俺はサムライエッジを構えながら、モールデッドの群れに突撃した。

行く手を塞ぐ個体には、頭部に9mm弾をヒットさせて、拳で頭を叩き潰す。

全部を相手にしてはいられない。

俺はB.O.Wの隙間を縫うように本館に向かって走り続けるが、

時折視界の外から薙ぎ払われた奴らの爪を食らい、出血する。

 

「ぐうっ!」

 

防護ベストの中に血が広がる感触。俺は走りながら回復アンプルを思い切り腕に刺す。

足だけは止めてはならない。そして、通常弾で敵を牽制しながら走り続け、

遂に本館に到着。裏手の非常階段を目指した。

 

 

 

 

 

攻撃の第三波。今度はドロシーが左手の指ですくい上げるような動作をする。

一瞬遅れて、また5本の真空波。限界まで横に跳躍して、どうにか回避した。

やはり屋上のへりが均等な間隔で5つに切り裂かれる。

 

次に食らったらもう死ぬしかねえ!迷った末、最後の回復薬を腕に振りかけた。

体調が完全に戻ったが、このまま打開策が見つからなきゃ、

いずれは細切れにされてお終いだ。俺は屋上を逃げ回りながら、ドロシーに呼びかける。

話し合いが通じる相手じゃないことは分かってるが、何も知らねえまま死ぬのもご免だ。

 

「お前はなんでこの世界にこだわる!なんでこの世界を巻き込んだ!」

 

『あ…ガガ……向こう、私、ひとりぼっち……みんな、ガラクタ…言う!

深海棲艦、ナカマ……ワタシト…オナジ……ともだち、ナッテくれた。

……わたし…生まれ変わる、この世界で!!』

 

「残念だが、ここにもお前の居場所はねえ!お前が生まれ変わることもねえ!

ただ腐って死んで行くだけだ!鏡があれば見せてやりてえよ!」

 

『ウルサイ!ウルサイウルサイ!!』

 

チッ、ちょっと落ち着いてたドロシーを刺激したか。

メチャクチャに左腕をぶん回して真空波を飛ばしてくる。

しゃがんで身を低くしてガードするが、真空波の一本が、

やっぱりAMGを着けてなきゃ腕を切り飛ばすほどの斬れ味で出血させてきた。

 

……次、真空波が命中したら、もうガードしても意味がねえ。腕を落とされて失血死。

最後のあがきに何かできるか考えてみたが、もう限界みてえだ。

投げ槍、ステイクボム、とっくに死んでる虫、スローイングナイフ。

そして両手のAMG-78Dual。どれも俺を救っちゃくれない。

 

深海棲艦の女王を殺せようが、カビの女王も殺せねえんじゃ、笑い話にもなりゃしねえ。

ドロシーも俺を見て笑ってら。お、また左腕を振り上げやがった。

……今度こそ年貢の納め時ってやつか。ゾイ、悪いが俺はこの異世界のどっかで死ぬ。

お前はまだ若い。俺みたいな馬鹿な人生送るんじゃないぞ。じゃあ……あばよ。

 

 

──諦めるな、ジョー!!

 

 

ハッ!?と、その声に振り返ると同時に、一発の銃声。

それが、頭蓋骨で硬さを保っていた腐乱死体の頭に命中。すると、異変が起こる。

ドロシーが鼓膜を突き破るほどの悲鳴を上げた。

 

『キャアアアアアア!!アア、アア、イタイ!クルシイ!ダレカ、タスケテ!』

 

そして、彼女の身体が真っ黒な液体となってドロドロと溶けていく。一体どうなってる?

クリスが銃を構えたまま俺の隣に立った。

 

「やはりラムロッド弾が有効だった。こいつを使え」

 

クリスが一本の注射器を投げてよこした。

変な緑色の液体が入ってるが、この際、毒じゃなきゃなんでもいい。

腕に注射器をぶっ刺すと、出血が止まり、鈍っていた身体の動きがスムーズになった。

ありがてえ、これで即死は免れる……が、ドロシーはもう死んだ。

 

「おい、クリス。お前今、何やったんだ?」

 

「こちらクリス……そうか、わかった。ドロシーは死亡。B.O.Wの完全駆除を確認した」

 

聞いちゃいねえ。俺はあっけない幕切れに手持ち無沙汰になって、

ヘドロになったドロシーに近づいてみた。もうただの黒い水たまりだ。

誰も傷つけさえしなけりゃ、俺がダチ公になってもよかったんだがな。

バケモンには慣れてる。

 

「ジョー。鎮守府を襲撃していたモールデッドは、ドロシー死亡と同時に消滅した。

帰るぞ。被害状況を確認しなければ」

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

俺が非常階段に向かうクリスを追いかけようとすると、突然背後に巨大な存在が現れた。

思わず振り返る。そこで目にしたものは──

 

『ワタシモ ウマレタカッタノ!!』

 

今度は腐乱死体じゃねえ、右腕のない北方水姫と瓜二つの女。

だが、デカさが半端じゃねえ!

ちくしょう、きっと鎮守府全部のB.O.Wをかき集めて自分の身体にしてやがったんだ!

クリスも慌てて屋上に戻る。

 

『コロシテヤル! トモダチニ ナラナイナラ シンデシマエ!!』

 

「ジョー、最後の戦いだ」

 

「ああ。分かってる……」

 

俺はAMG-78Dual、クリスはハンドガンを構えて、完全変異ドロシーと対峙した。

 

《チャージ開始》《チャージ開始》

 

『こちら本部。クリス、聞こえますか?ゾイ…いえ、情報提供者の証言によると、

そのB.O.WはD型被検体という、コネクションが開発した実験体から生まれた可能性が、

極めて高いそうです。

つまり、今回のバイオハザードは彼女が引き起こしたものと考えて間違いありません』

 

「そんなことは分かっている。今、対処中だ」

 

『ワタシハ ウマレカワルノ! ジユウナ セカイデ!』

 

「Drothy! いや、D型被検体!お前にそんなものはない!

ここでお前は何にもなれず、死んで行くだけだ!」

 

『ダマレ! ワタシハ ドロシー ダ!』

 

激怒した体長20mはあるドロシーが、ドスドスとコンクリートを踏み砕きながら、

俺達に突進してくる。俺達は示し合わせたように左右にダッシュ。

どっちかは狙われずに済む。

 

《チャージ完了》《チャージ完了》

 

ドロシーが巨大な足でクリスを蹴飛ばそうとしたが、とっさに体ごと横に転がり回避。

一瞬奴が一本足になった。やるなら今しかねえ。

 

「うおらああ!!」

 

俺はドロシーの左足に向かって全力で駆け、両腕のAMGで奴の脛をぶん殴った。

奴の体内で衝撃波が暴れまわり、骨を砕き、肉を裂く。

 

『イタアアアアイ!!』

 

悲鳴を上げてドスンと後ろに倒れるドロシー。ざまあみろ、さっきのお返しだ。

俺はAMG-78Dualに再チャージを開始。こうなりゃ死ぬまで付き合ってやる!

ドロシーが左手を伸ばしてクリスを掴もうとするが、

俺はさっき思い巡らせた、起死回生の一手を思い返す。

 

今なら効果があるはずだ!俺は道具袋からステイクボムを取り出すと、

奴の手に向けて思い切り投げつけた。この速さでぶつければ、勝手に爆発するはず。

実際、ドロシーの手の中から、パン!とステイクボムが弾ける音が聞こえ、

またドロシーの悲鳴がこだました。背中を丸め、左手をかばう。今なら隙だらけだ。

クリスがハンドガンを構えた。

 

もう全身が弱点になったドロシーに追い打ちを掛けるように、

クリスがさっきの妙な弾丸を撃ち込む。撃たれた部分から、猛烈な蒸気が発生し、

真っ白で滑らかだった肌が、急速に枯れ木のように老化していく。

 

《チャージ完了》《チャージ完了》

 

ナイスタイミングだ。俺は茶色く皺だらけになった左足の膝に接近、

再度ダブルチャージのAMG-78Dualを叩き込んだ。

グシャグシャブチィッ!という、モールデッドを踏み潰した時と変わらない音を立てて、

左足が完全にちぎれて本館の下に落ちていった。

 

『イヤ…… ドウシテ ミンナ ワタシヲ ブツノ? トモダチガ ホシイヨウ……』

 

もう叫び声を上げる体力も残っていないドロシーが、黒い涙を流して泣き言を漏らす。

クリスが奴の頭部に銃口を向ける。

 

「お前が友達だと思っていたのは、ただの取引相手だ。

再生能力と等価交換の友情などありはしない!」

 

そして、銃声。

ドロシーの額に命中した特殊弾が、急速に皮膚と頭蓋骨を劣化させていく。幕引き、か。

俺は両手を握り込む。

 

《チャージ開始》《チャージ開始》

 

もう、ろくに身動きもできなくなったドロシーの巨体をよじ登り、走り、

その涙で濡れた顔に立つ。奴の大きな呼吸が俺に吹き付けてくる。

 

「これで、お終いだ。なんでこうなったかは、お前自身で考えろ。

せっかく知性を持って生まれてきたのによ」

 

『ウマレテ……? ワタシハ ウマレテイタノ?』

 

「こんなバカでかい図体さらして何言ってやがる。

お前は、ドロシー。俺だけは、覚えておいてやる」

 

『イヤ モット イキタイヨ……』

 

「残念だがそれは無理だ。お前はやり方を間違えた。なにもかも」

 

《チャージ完了》《チャージ完了》

 

俺は人間の足でも踏み抜けそうなほど脆い額に移動する。

そして、AMG-78Dualの狙いを定め、足元にそのフルパワーを解き放つ。

轟音と共に巨大な頭部が粉砕され、脳がミキサーに掛けられたようにすり潰され、

貫通した衝撃波が後頭部を突き破り、

本館の屋上を砕いてようやくエネルギーが停止した。

 

生命活動を司る脳を完全に破壊されたドロシーの身体が、

徐々に石膏のように白い石になり、崩れていく。

俺も真っ黒な体液を思い切り浴びたはずなのに、

彼女の血はアルコールのような揮発性を伴って、空に消えていった。

なんとなくドロシーの残骸に手を置く。それだけで亡骸はガラガラと更に崩れる。

 

「……あばよ」

 

それだけを告げると、クリスが待つ非常階段にぶらぶらと歩いていった。

 

 

 

 

 

地上に下りると、周りは軽くパニック状態だった。

突如出現した巨人に驚かされた者、怪我人の収容に追われる者、

クリスの帰還を喜ぶB.S.A.A隊員、テストや明石。

人、人、人でごちゃついて、俺までめまいがしそうだった。

 

「ジョー!無事だったんですね!よかった、本当によかった!」

 

「なるほど~やっぱり右のAMGも半端なかったってことだね。じゃあ見せて!」

 

「お前の頭にゃ他にねえのか!死にかけたジジイをねぎらうとか。テストを見習え」

 

「ねぎらうねぎらう!新型見せてくれたらね!」

 

「よっしゃ、顔面に思い切り近づけるからよく見とけ」

 

「ちょ、冗談!冗談だって!」

 

隣も隣でうるさそうだ。

 

「隊長、よくご無事で!」

 

「この世界から最後のB.O.Wを撃滅した。俺達のミッションはひとまず完了だ」

 

「モールデッドが消滅した時はホッとしました。

隊長から預かったトールハンマーを抱えたまま死ねませんから。

……これを、お返しします」

 

「確かに。よくやってくれた。他の全員もだ。

最後まで拠点を守りきれたのは、皆の日頃の修練の成果だ」

 

そして、本館のドアが開き、提督と長門が出てきた。

 

「ジョー、クリス、B.S.A.Aの諸君。

命を賭けて鎮守府を守ってくれて本当にありがとう。

これで、ようやく戦いは終わるんだね」

 

「ああ。ドロシー……最後のB.O.Wだが、奴は完全に消滅した」

 

「はぁ、我ながら情けない。戦艦でありながら今回の戦いには殆ど参加できなかった。

執務ばかりで身体が鈍っていなければいいのだが」

 

「何へこんでんだ。司令官が死ぬと軍の機能が止まるって言ったのはお前だろう。

なら、そいつ守るのがお前の仕事だろうが」

 

「ジョー……うん、そうだな。ありがとう」

 

「筋力が落ちてるってんなら、スパーリングに付き合うぞ。

ちょうど両手のブツも手に入ったしな」

 

「なにおう!私はまだまだ第一艦隊の……」

 

「はいはい、そこまで。

……ふふっ、こんな感じは久しぶりだな。ジョーが来たばかりの」

 

「そうだ!いきなりドアを破ろうとするわ、バス代貸せだの図々しいことを言うわ……」

 

「ジョーったら、本当にハチャメチャな人なんですね。フフ」

 

ほんの1時間前まで、

この鎮守府でB.O.Wと総力戦をしていたのが嘘のような笑いに包まれる。

そうだ。もうB.O.Wとの戦いは終わったんだ。

この世界にはまだまだ深海棲艦が居るそうだが、

そっちはここの住人に頑張ってもらうしかねえ。

だが、俺はここのメンツなら踏ん張れると思ってる。だからこそ、安心して帰れるんだ。

そう、ゾイが待つ俺の世界に。

 

 


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