艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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Tape12; Last Man Standing

チャージ完了──

 

「この死に損ないのクソ女共がああぁ!!」

 

海面に両足を滑らせ、ただ前方にいる化け物共に突進する。

誰でもいい、誰か殺さないと頭が爆発しそうだ!!片目を隠した死体女に飛びかかる。

AMG-78を装着した左腕を振りかぶり、

ヘリが直撃したデカブツに気を取られていたそいつの顔面に、

全力の拳をえぐりこませた。

 

『ぎゃああっ、がががぁ!!』

 

フルチャージの威力と殺意を込めて、思い切りぶち込んでやった。

頭部にぐしゃりと拳がめり込み、衝撃波で両手足が吹き飛んだ片目女は、

その場で浮力を失い氷点下の世界に沈んでいった。

だが、俺の憎しみは収まるどころかますます燃え上がる。

 

俺の攻撃に気づいた他の化け物連中が、こっちに砲撃、銃撃を開始した。

そんなもんはどうでもいい。

とにかくこの殺意のはけ口を求めて、手近な深海棲艦に殴り掛かる。

 

今度は真っ白な仮面に穴が1つ空いたジェイソンの出来損ないに拳を振るう。

奴に手を伸ばそうとすると、ビュウ!と砲弾が俺の顔面をかすめた。

左耳がちぎれ、顔の皮膚の一部が持って行かれる。

 

「なんでだ!なんでだ!なんでだって聞いてんだよ!!」

 

血が吹き出すが関係ねえ。周りの連中全部ぶち殺すまで、俺は何度でも生き返って、

テメエらを全員墓場送りにしてやる!とうとう標的に組み付いた。

ノーチャージだが構わねえ。俺はそいつを右手で掴み、力任せに何度も殴りつける。

 

「なんで俺の半分も生きちゃいねえ若造がとっととくたばって!」

 

右!左!右!そして、マシンガンのような連続ジャブ!

マスク女が連打によろめき、周りの敵が砲を向ける。

勝手にしろ、だがお前ら全員生きて帰れると思うな!

 

「テメエらみたいな化け物が当たり前のように生きてんだ!」

 

ムラマサを抜いて、敵の土手っ腹をザクザクと何度も突き刺す。

ギャオオオ……!と情けねえ悲鳴を上げて、

ジェイソン女がムラマサを抜こうと刀身を掴む。その隙にAMG-78をチャージする。

 

《チャージ開始》

 

その時、遠くからパラララ、と乾いた銃声が聞こえ、

一瞬後に背中に幾つもの衝撃が走った。ああ、そうだろうよ。

頭のおかしなジジイを始末するには絶好のチャンスだったろうさ。

銃弾が貫通し、胸が血に染まる。

 

……だからなんだっつってんだ!

俺はムラマサの柄を回して、刃を回転させてジェイソン女の内蔵を傷つけ、

更に出血を促す。

血を吸い取ったムラマサが、俺の人間性と引き換えに無尽蔵の命を注ぎ込む。

 

『ギャアアアアーーーッ』

 

《チャージ完了》

 

「お前らの命1ダース束ねたところで、あの若造は帰りゃしねえ!」

 

──だから!

 

「二度と俺の前に現れんなぁ!!」

 

ジェイソン女の顔面に、怒りと、憎しみと、呪いを乗せた一撃を放った。

拳が命中すると頭部が弾け飛び、四肢が根本からちぎれて、

青黒い肉片となって撒き散らされた。

 

「うおああああああっ!!」

 

俺は振り返り、尚も俺を殺そうと発砲を繰り返す化け物連中を見回す。

いやがったぜ!コック帽のクソ女!

俺を正気に戻せるものがあるとしたら、あの野郎の死体だけだ!

道具ポケットがブルブル震え、何かの声が聞こえる。

 

だが、殺意に取り憑かれた俺には、もう何を言ってるのかわからなかった。

俺はコック帽に向かって再度突撃。効くかどうかは問題じゃねえ。

奴を殴ってねえと気が狂いそうになるんだよ、もう手遅れだろうがな!

 

 

 

 

 

艦娘やB.S.A.A隊員は、敵の砲撃に応戦しながら、

荒れ狂うジョーの様子を見ていることしかできなかった。

赤城が必死に思念でジョーの通信機に呼びかけるが、返事はなく、

彼は血まみれになりながら敵を殺すことしか頭にない。

 

「ジョー!返事をして、お願い、ジョー!」

 

「よせ、彼は完全に正気を失っている。君は後退するんだ」

 

「いやです!このままだと、あの人、死んじゃうじゃないですか!」

 

「今、なんとかする!……2号機、聞こえるか?応答しろ!」

 

『こちら2号機!どうしましたか!』

 

「通信を聞いていなかったのか!ラムロッド弾を投下しろ!

超大型B.O.Wは不死タイプだ!ラムロッド再生阻害弾が必要だ!」

 

『無茶です!この高さから物資を落とすと、かなりの確率で破損します!

ましてや弾薬類となればショックで爆発する危険が!』

 

クリスは内心舌打ちした。

そう、対空砲火が届かない高高度にいる輸送ヘリから物を投げても、

安全に受け取れる保証はないし、風に煽られてどこに落ちるかわからない。

かと言って高度を下げれば……戦闘ヘリの二の舞いだ。

 

「ジョーが重巡ネ級、軽巡ヘ級を撃破!我々も続くぞ!」

 

「魚雷装填、またまた行きますかね!」

 

「スコーピオン、目標ロックオン、ファイア!」

 

悩んでいる間も、艦娘や部下達が各々の装備で敵の猛烈な攻撃を受けながら、

壮絶な殴り合いを繰り広げている。鳴り止まない砲声の中で悩み込む。

一体、一体どうすればいい!?その時、赤城がそっと俺の腕に指を乗せた。

 

「クリスさん、私に考えがあります。

その、ラムロッド…弾を受け取ってくればいいんですよね?」

 

「ああそうだが、どうやって?」

 

彼女は返事をせずに、グラーフの元へと滑り、何事かを話しかけた。

すると、彼女は一瞬驚いた様子だったが、頷いてケースからカードをドローし、

飛行甲板にセットした。準備が整うと赤城が戻ってくる。

 

「今、グラーフさんに頼んで戦闘機を発艦してもらいました。

私、それに乗って輸送ヘリから特殊弾を受け取ってきます!」

 

「危険すぎる!安全高度までにたどり着くまでに攻撃を受けない保証はないんだぞ!」

 

「やらせてください!

飛行甲板が大破した空母の私にできることは、それくらいかないんです……

ここに残っても、できることは、標的になってみんなへの攻撃を反らすことだけ。

だから、お願いです!」

 

「……すまない」

 

後ろから、高度を下げたグラーフのFw190T改のグレーの機体が迫る。

赤城は何も言わずニコリと笑うと、

戦闘機に向かって、思い切り跳躍、機体に直接飛び乗った。

Fw190T改が機体をほぼ垂直に向けて急上昇。輸送ヘリに向かって飛び去っていった。

……残り5隻となった敵艦隊が、彼女の機体に機銃弾を浴びせる。

 

「うおおお!!」

 

俺は無駄な抵抗とは知りつつも、トールハンマーで散弾を撒き散らし、

グレネードのピンを抜き、一瞬手の中で遊ばせてから敵に投げつけた。

コックオフで爆発時間を調整した手榴弾は、海に落ちることなく命中と同時に爆発。

大したダメージにはならなかったが、ほんの2,3秒攻撃の手を止めるには十分だった。

 

見上げると、次の瞬間にはもう赤城は安全高度まで空高く舞い上がっていた。

それを確認すると、“向こう”から通信が。サムライエッジを連射しながら応じる。

 

『クリス、大変よ。ジョーの防寒着が破損した。

一刻も早く収容しないと彼の命が危ないわ!』

 

「くそ!残り時間は?」

 

『あなたのベストの半分程度。

でも、上半身は完全に吹きさらしの状態だから、参考にならない。

お願い、早く彼を助けて』

 

「もう少し、もう少しだ!」

 

 

>防寒モード機能停止まで、あと42min.

 

 

 

 

 

 

二本腕の化け物を背負った、鬼みたいな女の脇をすり抜けて、

陣形の一番奥にいるヤツと、もう一度相対することになった。

鬼女は無数に突き刺さったヘリの残骸にもがいていて、

それを見ると、また頭の血管がはち切れそうになったが、

俺が殺るべきはこいつじゃねえ。護衛を無視して奴の前に仁王立ちする。

右手にムラマサ、左手に無敵の拳。

 

面白え。よく見ると、奴も右腕が機械の腕。背中からもデケえ二本腕が伸びてやがる。

二本腕もやっぱり鋼鉄のマシンアームで、

手の甲に当たる部分に三連装の大口径砲を装備している。相手にとって不足はねえ。

 

「また会ったな!

死なねえもん同士、どっちが先にダウンするかやってやろうじゃねえか!」

 

すると、コック帽はまた薄気味悪い笑みを浮かべて答えた。

 

『オモシロヒ オトコダ カンムスデモナイ タダノ ニンゲン ナゼ アラガウ』

 

「テメエらが生きてるのが気に食わねえ、それだけだ!」

 

その時、通信機にノイズ混じりの妙な声が聞こえてきた。

 

(……して!そいつも、あいつらも、全部殺して!)

 

コック帽はフッと笑うと、背後で俺に砲を向けていた部下を下がらせた。

 

『オマエタチハ カンムスト ニンゲンヲ コロセ ヤツハ ワタシガ カタヅケル』

 

最初の12人からすっかり数を減らした深海棲艦が、再び艦娘との砲雷撃戦に戻った。

俺は左手を握り込む。

 

《チャージ開始》

 

「簡単に俺を殺せると思うな。テメエの料理なんざ、まずくて食えやしねえんだよ!」

 

『クルガヨヒ ゼイジャクナル ニンゲンドモヨ』

 

 

 

 

 

艦娘達の戦いも激しさを増す一方だった。頭数は減ったものの、

北方水姫を除いても姫級が2隻、限界まで強化された戦艦ル級2隻。

武蔵でも手に余る強敵ばかりだ。実際被害状況も悲惨な状況だった。

無傷の艦娘は誰もいない。尾張小破、武蔵・グラーフ中破、赤城・北上・ポーラ大破。

 

「やだやだ!痛すぎる!」

 

「う~ん、まともな魚雷発射管が、ほとんどないってさ。しょんぼり」

 

「頑張るんだ、ポーラ。だが私も飛行甲板もいつまで保つか……」

 

「怯むな、撃ち続けるんだ!」

 

武蔵が皆を鼓舞しながら46cm三連装砲を敵陣に向けて放つ。

砲身が震え、爆音が轟き、徹甲弾が螺旋を描きつつ戦艦ル級の片方に突き進む。

 

『っ!?』

 

サーモバリック弾による先制攻撃、攻撃ヘリの爆発、そしてジョーの乱入。

立てつづけに起こった不測の事態に、

かき乱された精神を持ち直し切れていなかったル級に直撃。

その白い肉体に突き刺さった大型弾が体内で爆発。

その威力でル級の上半身と下半身を引きちぎり、燃え盛る炎で焼き尽くした。

 

「ル級1隻轟沈!」

 

残り4隻!だが、敵も黙ってはいない。残りは全て強敵。

 

『アハハッ イックヨォ!』

 

駆逐古姫が左腕の5inch砲を発砲。そのターゲットは。

 

「がっ、ああっ!わちきの着物が……」

 

まだ実戦での立ち回りを十分に会得していなかった尾張に直撃。

まだマシなほう、だった小破から中破状態に陥った。

しっかりと着付けられていた着物が焦げ、

帯がずれてみっともない格好になってしまった。

尾張の眉間に皺が寄り、駆逐古姫を睨みつける。

 

「……禿(かむろ)の分際で、太夫のわちきに歯向かうとは、

よほど仕置を欲っしてささんすか!」

 

51cm連装砲3基6門を一気に目標一つに向け、方位修正する。

その巨大な鋼鉄のからくりが擦れ、巨鳥の鳴き声のような甲高い音を立てる。

 

「容赦はせんえ」

 

そう口にすると、この世界最強の51cm砲が咆哮。

前方が膨大な範囲の硝煙で包まれ、中から6つの鋼鉄の牙が獲物を求めて飛び出した。

一瞬反応が遅れた駆逐古姫が青くなる。

 

『イヤアアア!!』

 

悲鳴を上げる彼女。しかし、子供だろうが知った事かと言わんばかりに、

炎の玉6つがその小さな身体を食いちぎっていく。そして、最後の一発が腹に命中。

51cm砲弾の炸裂による衝撃波が内蔵を押し潰し、身体から強引に青黒い血を押し出し、

大量出血に至らしめる。

もう、悲鳴すら出せない彼女は、雪の舞い散る空に向かって少しを差し伸べると、

間もなく海の中へゆっくり沈んでいった。

 

 

 

 

 

その頃、赤城はFw190T改の機体に掴まりながら、輸送ヘリの待つ高度を目指していた。

高度が上がるに連れて気温も下がり、彼女の指を凍りつかせるほどまで冷たくなる。

 

……艦娘でも、この寒さは少し堪えるわね。でも、そんなこと言ってられない。

私は目を閉じ集中すると、ヘリの通信設備に思念を送りました。

 

『こちら赤城。まもなくそちらに到着します。特殊弾受け渡しの準備を』

 

『来るってどうやって!?おい、まさかレーダー真下の機体が君なのかい!』

 

『説明している余裕がありません。

限界まで横付けしますから、ラムロッド弾の準備を!』

 

『分かった、待ってるぞ!』

 

見えてきました、さっきまで私達が乗っていたヘリ。

あ、ドアが開きました。操縦士さんが手を振っています!

 

「お願い、あのヘリの真横まで!ぶつからないよう、慎重にね!」

 

私はコクピットの小人さんに大声で呼びかけます。

彼女が親指を立てて返事をしてくれました。

すると、機体が水平を保ったまま、ふわりと上昇、とうとうヘリにたどり着きました。

小さな木箱を持った操縦士さんが、搭乗口から大声でこちらに叫びます。

 

「1,2の3でこいつを投げる!しっかりキャッチしてくれよ!」

 

「はい!」

 

──1,2の…3!!

 

彼の手から木箱が離れ、こちらに飛んできます。

私は、腰を低くして姿勢を安定させ、両腕を伸ばします。届いて!

……必死に差し伸べた両腕の中には、少し火薬の臭いがする小さな木箱。

 

「ありがとう!必ずクリスさんに届けます!」

 

「こっちこそありがとよ!隊長をよろしく頼む!」

 

「はい!……じゃあ、ここでお別れね。ここまでありがとう」

 

上るのはのは大変だけど、下りるのは簡単。私は小人さんにお礼を言うと、

大事に木箱を抱えて、再び戦場の海へと飛び降りました。

 

 

 

 

 

戦いは佳境を迎えていた。敵はリーダー含め精鋭中の精鋭3隻。

こちらは数でこそ勝っているが、満身創痍の艦娘と、

一度でも攻撃を受ければ死ぬしかない人間6名。

 

「総員、死力を尽くせ!戦艦棲姫、戦艦ル級を沈めれば敵の本丸だ!」

 

やはり武蔵が叫ぶように皆を励まし、また46cm砲を放つ。だが、命中弾1発。2発が夾叉。

明らかに彼女にも疲れが見え始めていた。

その砲弾を食らった姫級、戦艦棲姫が頭から血を流しながら反撃してきた。

 

『ウウ……アイアン、ボトム、サウンドニ……クッ』

 

攻撃ヘリの体当たりを受けた彼女もやはり傷だらけだったが、

背負った怪物の両肩に装備された16inch三連装砲は健在。当然命ある限り撃ち続ける。

3連装砲2基による連撃。つまり6発が艦娘達に降り注ぐ。

 

「散開しろ!固まらずに回避を……ぐあうっ!」

 

皆に警戒を呼びかけていたグラーフが被弾。

飛行甲板がへし折れ、空母としての機能を奪われた。

 

「しっかしろグラーフ!」

 

「すまない……もう、艦載機は……」

 

「ポーラも、ポーラだってやるんです!……えい!」

 

既に重傷だったポーラも、己を奮い立たせて203mm/53 連装砲で反撃。

2つの砲弾は戦艦ル級に命中したが、

やはり強化済みの戦艦相手に目立った効果が見られなかった。

戦艦棲姫も戦艦ル級も再装填を済ませ、攻撃態勢に入っている。

次の攻撃を許せば、誰かが、沈む。

 

 

 

 

 

クリスさーん!!

 

上空から声?思わず見上げると、木箱を抱えた赤城が落ちてくる。まずい、俺の真上だ!

横にジャンプして、激突する一瞬前に避けられた。

一方、彼女は海に支えられて、無事着水。

そしてすぐさま、俺に駆け寄って木箱を差し出した。

 

「取ってきましたよ、ラムロッド弾!」

 

木箱を開けると、黒いケースがあり、

開くとブルーの液体が入った拳銃弾が大量に保管されていた。

これなら、北方水姫の無限再生を止められる!

 

「ありがとう、その傷でよく頑張ってくれた!

俺はジョーのところに行ってくる。君は安全な場所に退避を」

 

すると、赤城は首を振った。

 

「言ったじゃないですか。戦えなくても、みんなの盾にはなれる。

それに……もう大破しているのは私だけじゃないですから」

 

そういう彼女の瞳に宿る決意は、何を言っても揺らぐことはないだろう。

俺は、ただ頷いて、サムライエッジから通常弾のマガジンを取り出し、

代わりにラムロッド弾を装填した。

 

「絶対に、君達は犠牲になるな」

 

「貴方達も、これ以上仲間を失わないでくださいね……」

 

「ああ、もう、俺は行く」

 

「お気をつけて」

 

俺はサムライエッジを構えて、冷たい海を滑り、残り3体のB.O.Wへと疾走していく……

が、海?何かが気にかかる。俺は走りながら周りを見回すと、最悪の状況を目にした。

 

 

 

 

 

 

《チャージ開始》

 

俺は北方水姫とか言うコック帽女から一旦距離を取ると、AMG-78にチャージを始めた。

奴は相変わらず笑いながら、時々両腕の三連装砲を撃ってくる。

殺気を読んで横にローリングして回避するが、その轟音に鼓膜が破れ、何も聞こえねえ。

だが、どうでもいい。目が見えてりゃ、奴の死に顔は拝める。

 

《チャージ完了》

 

とりあえず邪魔なでかい両腕を潰す。

俺はフルチャージしたAMGを巨大な右腕に叩きつけた。

ちくしょう、バカみてえな硬さだ。

とりあえず砲身は一つ潰せたが、全体を見るとほとんど何も変わってねえ。

 

ん?奴が何か言ってやがる。俺は防寒着の道具ポケットを開け、回復薬を取り出し、

むき出しになった腕に振りかけた。

なぜか鼓膜が再生し、通信機越しに奴の声が聞こえるようになった。

 

『ムダナ アガキヲ オマエニ ワタシハ コロセヌ』

 

(そう、私が、力をあげたもの)

 

聞く価値もねえ戯言だったが、続いて気になる声が聞こえた。

さっきも聞いたような気がするが、お前は誰だ?

 

「おい、そこで盗み聞きしてんのは誰だ!

このクソ女の仲間ならラジオの向こうから引きずり出して叩き殺してやる!!」

 

(もうすぐ、逢えるわ。ウフフ……)

 

「テメエら全員俺をキレさせねえと気が済まねえのかよ!」

 

『モットモ ドロシーノ スガタヲ ミルコトナク オマエハ シヌ』

 

猛烈な吹雪の中、防寒着の破れた俺の上半身は血液まで凍りそうだったが、

頭に燃え上がるほど血が上ってるから、あいにくまだ凍え死んでやるつもりはねえ。

 

『マワリヲ ミルガイイ』

 

「ああん!?」

 

僅かに視線を動かしてみると、若干ヤバい状況が目に飛び込んできやがった。流氷だ。

最初のサーモバリック弾とか言うやつでふっ飛ばした流氷が、

沖から流れ込んでるんだよ!

 

『オマエハ マモナク ウゴクコトモ……』

 

(殺して!早くみんな殺して!お願い急いで!)

 

『ナニヲ アセル ヒツヨウガ』

 

(いいから早く!近づいてるの!)

 

一体なんだ?急にドロシーとかいうバカが騒ぎだしたぞ。おっとチャンスだ!

俺はコック帽の大きな腕を駆け上って、奴の横っ面を殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

俺は北方水姫を目指して、ただただ海を走っていた。時折、通信に艦娘達の悲鳴が届く。

FGM-148ジャベリンは全くと言っていいほど効果がないらしい。

リロードを急ぐ部下たちの努力も徒労に終わっている。だが、これで終わりだ。

 

北方水姫の居る海域最奥を目指す途中、俺は最後の護衛2隻に戦いを挑んだ。

どちらも艦娘に砲を向けている。これ以上の攻撃を許す訳にはいかない。

俺はサムライエッジを構えて、まずは近くの戦艦ル級に銃弾を放った。

通常の9mm弾なら、かすり傷にもならないが──

 

『キャアアアア!!』

 

戦艦が空をつんざくような悲鳴を上げる。

そのあまりの大きさに、まさに発砲しようとしていた戦艦棲姫も、思わず振り向く。

すかさず奴にも2発撃ち込む。

 

『ウッ、アガアアア!!』

 

2隻の深海棲艦を包んでいた謎のオーラが消えていく。

彼女達はその場で喉を掻きむしり、のたうち回る。

不死性でなくとも、生命体の全身細胞に重篤なダメージを与えるラムロッド弾を食らい、

2隻の戦艦はまともに戦うことすらできなくなった。すぐさま艦娘達に通信。

 

「こちらクリス。奴らに猛毒弾を撃ち込んだ。やるなら今だ!」

 

『感謝する!』

 

俺が敵リーダーへ再び急ぐと、後方から幾つもの砲声が轟いてきた。

10秒ほど置いて、熱風が後ろから吹き付け、何かが2つ爆発するような音。

彼女達がチャンスを活かしてくれたのだろう。もう倒すべき相手は一人だけだ。

タイムリミットまでにミッションを完了しなければ。

 

 

>防寒モード機能停止まで、あと17min.

 

 

 

 

 

流氷が足にまとわりついて動きにくい!ジャングルの底なし沼のほうがまだマシだ!

流氷つっても、まだ氷水みたいなもんだが、それに触れたブーツが外気にさらされると、

凍りついていちいち踏み砕かないとまともに移動もできねえ!

もう大型の流氷本隊がそこまで来てるぞ、どうすんだおい!

 

『アハレナ ニンゲンノ イノチ ショセン コノテイド』

 

「うるせえ、黙ってろ腐れキノコ!!」

 

だが、実際ろくに身動きが取れねえのは確かだ!

さっさとこいつをぶっ殺してずらからねえとヤバい。

その時、何か黒いものが心に染み込んでくるのを感じた。

 

……あん?何考えてんだ俺は。

こいつの肉を斬り刻んで、激痛に泣き叫ぶ悲鳴を聞けりゃあ、

それで十分なんじゃなかったのか?そうだよ、バカか俺は。

生きたいとか思うから、惨めなザマを晒してんじゃねえか!

 

おっしゃ、やりまくるぜ!!

俺はムラマサを構えると、奴の右手の三連装砲に飛びついたんだよ。

一本は潰れてるからしがみついても大丈夫だ!

それを頼りに奴のデカい手をよじ登って、とうとう真っ白な姫君と再会だぁ!

こんなに嬉しいことは滅多にないぜ!

 

『ジョー、返事をしろ!まだそいつは倒せない!』 『ジョー、しっかりして!』

 

「ハッハァ!久しぶりじゃねえか!元気してたか!?」

 

『……サガレ ゲロウガ』

 

「冷てえなぁ?派手に殺し合った仲じゃねえか。こんな風に、よぅ!」

 

見てくれ!奴の脇腹に深々とムラマサをぶっ刺さってるぞ!刺したのは俺なんだがな!

流石に姉ちゃんもちょっと痛そうだぞ!んん?

 

『クッ、アソビハ オシマイダ!』

 

ハハッ!姉ちゃんが重そうなガントレットをはめた手でぶん殴って来やがった。

顎が砕けちまったよ、おお痛え!もしかして俺とお揃いにしてくれたのか?泣けるぜ!

だが、まだまだお楽しみはこれからだ!

 

『目を覚ませ、返事をしろ!』 『ジョー、お願い!』

 

俺はいい加減痛そうなムラマサを脇腹から抜いてやった。

今度はいろんな所ぶった斬るんだがな!顔、腕、背中、腹!

斬る度に噴き出す血が刀に吸い取られる!楽しくてやめらんねえ!

なんでこいつと殺し合うようになったのか、もうわからねえが、俺は今、幸せだ!

 

『刀を捨てろ!!』 『私の声を、聞いて!』

 

『チッ モウイイ クルッタ アホウガ!』

 

あっ!姉ちゃんが怪力で俺を投げ飛ばしちまった。

もう水じゃなくて氷の床が広がってたから、叩きつけられた背中がすげえ痛え。

 

「ん~?あんだよ姉ちゃん、もっと遊ぼうぜ」

 

俺は鋼鉄の城のように佇む姉ちゃんに一歩ずつ近づく。

デカい両腕の大砲が俺を狙ってるが、なんでもいい、血をくれ血を。

なんだか酔っ払ってるみたいに意識がゆらゆらする。前に進んでるが足の間隔がねえ。

血を求めてムラマサを振り上げた時。

 

銃声と共に手からムラマサが弾かれた。

 

振り返ると、銃を構えたクリス。そして、通信機から聞き覚えのある声。

 

『ジョー、あなたのそんな姿、見たくありません!私達のジョーに戻って!』

 

頭の中にまで外の空気が吹き込んできたかのように、

熱に浮かされていた脳が一気に冷え、自我を取り戻すことができた。

……ちくしょう、俺は本当に馬鹿だ。怒りに囚われて、考えなしに突っ込んで、

ほとんど自殺と変わらねえ死に方するんだからよ。

多分、次の瞬間には、奴の両腕の砲が発射されて、粉々になるんだろう。

 

(殺して、早く!間に合わない!)

 

ドロシーとか言ったな。お前一体誰だったんだ?今となってはどうでもいいが。

目の前には北方水姫つったか?とにかく深海棲艦の親玉。

こいつらも一体何がしたかったんだろうな。

海も陸も支配して、残った焼け野原とだだっ広い海を手にしたら満足なのか。

くだらねえ、勝手にしろ。

ジジイ一人殺すのにこんだけ手間取ってるようじゃ、10世紀かかっても無理だろうが。

……あばよ。

 

そして、両腕の深海12inch三連装砲が放たれた。

……が、その砲弾がジョーに命中することはなかった。

 

 

『グルオオオオオ!!』

 

 

分厚い流氷を突き破って現れた異形の存在。それが右腕を長く強靭なヒルに変化させ、

北方水姫の両腕を縛り上げて上を向かせたからだ。

ジョーはその姿に、考える前に思わず声が出る。

 

「ジャック!」

 

しかしジャックは返事をすることなく、北方水姫の腕を押さえ込んでいる。

彼女も突然現れた怪物にパニックを起こす。

 

『ナニモノ!』

 

(早くしてって言ったのに!)

 

確かに死体を確認したわけではないが、まさかあの攻撃を受け止め、生きていたとは。

流石にジョーも呆然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

俺は自分の目が信じられない。

B.O.Wらしき生命体、いや、ジャックが北方水姫と戦っている。

ジャックの怪力で締め上げられた腕を振りほどこうと、北方水姫も必死にもがく。

力は両者互角。……こうしてはいられない。

俺はサムライエッジを構えて、深海棲艦の姫に叫んだ。

 

「ゲームオーバーだ、北方水姫!」

 

『キサマニ ナニガデキル!?』

 

「お前のせいで部下が死んだ!B.S.A.A隊員として最後まで戦った!

だから俺はその隊長として、お前をB.O.Wとして始末する!……おおおお!!」

 

ジャックともみ合いになり、北方水姫の肌が露出した瞬間を狙い、

銃身内のラムロッド弾を全弾撃ち尽くした。

その白い皮膚に、再生能力を奪う化学物質を詰め込んだ特殊弾がめり込み、体内で炸裂。

瞬時に全身を侵食した。そして、

 

『ウウウ…… イギギアアアア!! アツイ! カラダガ トケル!!』

 

北方水姫の全身から蒸気が立ち上り、オーバーヒートした艤装全体に亀裂が走る。

激痛にもだえ苦しむ彼女は、反撃を忘れて体中をさする。その時、武蔵から通信が。

 

『ボスゲージの振動が止まらない!今なら人間の武器でも倒せるぞ!

我々が向かっている時間がない、とどめを頼む!』

 

「了解した!……ジョー、もう同じミスはご免だぞ」

 

「ちっ、わかってるよ」

 

ジョーがムラマサを海に投げ捨てた。妖しく光る妖刀が海の底へ消えていく。

もう無限に回復、とは行かなくなったが、そんな必要はないだろう。

俺はラムロッド弾をリロードし、ジョーはAMG-78を構えた。

 

《チャージ開始》

 

「散々手こずらせてくれやがったな、覚悟しやがれ!」

 

『ヒキサガルワケ…ニハ……イカナイ…ッ!…………カカッテ…コイヨォオッ!』

 

 

 

 

 

俺はジャックが腕を縛り上げている隙に、

その大きな腕の下をくぐり抜けて敵の本体へ滑り込んだ。

お互いの顔がくっつかんばかりに接近し、

すっかり装備がボロボロになった女に話しかけた。

 

「ダセえコック帽が似合ってねえことに気づいたのは褒めてやる。こいつがご褒美だ!」

 

『コシャクナ……!』

 

《チャージ完了》

 

「うおおお!!」

 

互いの時間がスローモーションになる。

フルチャージのAMG-78がゆっくりと女の顔面に食い込む。

奴の歯が吹き飛び、顔が変形し、唾や体液が飛んで行く。

 

『やった!もう再生しないよ~そのままやっつけて!』

 

おし!ここまで来たら出し惜しみなしだ!

ジャングル仕込みの体術をテメエがくたばるまで味わわせてやる!

おっと、ようやくジャックの触手から抜け出した女が、

マシンアームで俺を叩き潰そうとしてくる。が、そんな縦の大振りなんざ当たるかよ!

軽く横にステップを取って回避する。

 

砕かれた流氷が冷たい海にボタボタと落ちる。奴が重い左腕を持ち上げようとするが、

そんな隙を見逃す俺じゃねえ。

右フック、左フック、右フックの三連打で怯ませて……左ストレートでノックアウト!

 

『アウッ! グウウウ……』

 

へっへ、基本は大事だな!姫君も大層ご立腹のようだ!

 

『ズニ ノルナ! ニンゲンゴトキガァ! ツメタイトコロニシズンデイケッ!!』

 

女がマシンアームを俺とクリスに向ける。

だが、このパーティーにゃ、もう一人ゲストがいること忘れてねえか?

 

『ウゴオオオ!!』

 

とんでもない跳躍力でジャンプし、女に飛びかかったジャックが、

空高くからカカト落としを決めた。

どう見ても200kgはあるジャックから頭に空中カカト落としの直撃を食らい、

足元がフラフラになった女は、明後日の方向に主砲を発射。流石に熱風や衝撃波が痛え。

俺は道具ポケットから回復薬を取り出し、腕に振りかけた。

 

それを援護するように、クリスが遠くからハンドガンで女を撃ち続ける。

どういう仕掛けか知らねえが、ただのハンドガンなのに、

一発当てるごとに物凄い悲鳴を上げやがる。

俺達の猛攻を受けて、明らかに女の目から余裕がなくなってる。あと一踏ん張りだ!

 

その時、奴が攻撃の方針を変えた。各個撃破に転ずることにしたようだ。

両腕の砲をリロード中のクリスに向ける。そういうのをな、自殺行為って言うんだよ!

ジャックが再び右腕をヒルに変化させ、その重くしなる鞭で女を縦にぶっ叩いた。

不気味なまでの風切り音を立てて女に命中したヒルは、敵の全身に鈍い打撃を与えた。

 

『ガ…ハ……』

 

もう、減らず口も叩けなくなった女。俺はこいつを楽にしてやることにした。

 

《チャージ開始》

 

右手でその首を掴んで持ち上げる。

 

「ガッツのある戦いぶりだったが、人様に迷惑を掛けるのは頂けねえ。

お前ら、日本に来て何がしたかったんだ?」

 

『キサマニ ワカルモノカ……』

 

「ああ、そうかよ。言葉の通じる化け物と、それでさよならってのは残念だがな。

……あばよ」

 

《チャージ完了》

 

そして、俺は北方水姫の腹にAMG-78の一撃を放った。

拳は腹を貫通し、俺の腕が青黒い体液に染まる。

女は大量に血を吐いて、一言一言、最期の言葉を紡ぎ出した。

 

『ウソダ…コノワタシガ…モウ、ツメタイトコロハ…イヤ……

アタタカイ…セカイヘ…モドリ…タイ……

アァ…アタタカイ…ワタシ…ワタシタチ、カエッテモ…イイノ…?ありがとう……』

 

「……」

 

遺言の意味はわからねえ。

ただ俺は、ゆっくり腕を抜いて、強敵の亡骸を抱いて、海に沈めた。

冷たい海に還っていく北方水姫。

それを見送ると、俺はバリバリと流氷を踏み砕く音に振り返った。

ジャックが俺達に背を向けて去っていく。

 

「ジャック!待て、戻ってこい!!」

 

その、白く大きな背中が一瞬止まったような気がしたが、

やはりジャックは足を止めることなく、やがて凍えるような海に飛び込んでいった。

 

「馬鹿野郎……決着も付けずに、勝手に消えるやつがあるか!!」

 

やり場のない気持ちに海を蹴る。クリスがゆっくり近づいてきた。

なんだ?くだらねえ用なら承知しねえぞ。

 

「お前の防寒着の活動限界が近づいている。

ましてや上半身が破けている状況では、バッテリー残量はあてにならない。

今すぐヘリに戻らないと凍死する」

 

「ああ……わかった」

 

 

 

 

 

海域を逆戻りすると、すでに輸送ヘリが海面近くまで降下していた。

FGM-148ジャベリン攻撃班と艦娘達は既に搭乗していた。彼女達も負傷している。

すぐ鎮守府に戻らなければ、と言いたいところだが、

寄らなければならないところがある。

俺がジョーに肩を貸しながらヘリに乗り込むと、赤城が小さく悲鳴を上げた。

 

「ジョー!酷い怪我!しっかりしてください!」

 

「赤城か……また世話になっちまったな。俺は大丈夫だ」

 

「でも、こんなに血だらけで……」

 

「出血は止まってる。心配ねえよ」

 

実際ジョーの見た目はボロボロだった。

防寒着の上半身が破損したため、身体のあちこちが凍傷を起こしている。

すぐに保温シートを巻いて応急処置を施したが、

彼もすぐに手当が必要なことに変わりはない。

俺は全員が乗ったことを確認すると、ドアをスライドして閉じ、

パイロットに離陸を命じた。

 

「直ちに北海道海軍基地に向かえ!」

 

“ラジャー”

 

輸送ヘリがどんどん高度を上げていく。

旗艦艦隊は撃滅したが、大ホッケ海にはまだ敵機動部隊や攻撃隊がうようよいる。

今回の作戦はそれらを無視した、言ってみれば力づくで強引なものだった。

だが、彼女らを束ねる北方水姫を失ったことで、

それらの活動は大幅に縮小されるだろう。

 

そうでなくては、戦死したカーターの覚悟の意味がない。

B.S.A.Aは任務の性質上、殉職者が絶えないが、こればかりは慣れないものだ。

俺は肩に掛けたトールハンマーを握りしめた。

 

 

>平常気温を検知 防寒モード解除

 

 

 

──海

 

激闘の果てに死んでいった彼女が海底へと飲まれていく。

 

(あ、死んじゃったんだ)

 

(じゃあ、それ、いらないよね)

 

(私に、ちょうだい)

 

すると、その亡骸が停止した細胞分裂を再開し、やがて心臓が鼓動し、その目を開いた。

 

 

 

──北海道海軍基地

 

誘導員が赤色灯を振りながら、ヘリポートに輸送ヘリを導く。ヘリは慎重に着地。

軍服姿の男と作業員2名が駆け寄ってくる。

俺は搭乗口のドアを開けたが、自己紹介する間もなく、軍服の男がまくし立ててきた。

 

「あいつから話は聞いてる。時間がない。ヘリの給油口は?」

 

「左尾翼だ」

 

「了解。……作業を開始しろ!」

 

指示を受け、作業員が素早く輸送ヘリに給油を開始した。

そう、もともとこのヘリには鎮守府と戦場を往復し、

なおかつ戦闘終了まで待機するだけの燃料を積むことはできなかった。

提督と相談した結果、彼と親しい幹部が取り仕切るこの基地で、

帰りの燃料を都合してもらえることになったのだ。

 

「30分で作業は終わる。今は敵だけじゃなく軍部も浮足立っている。

この混乱に乗じて速やかに給油し、鎮守府に戻るんだ」

 

「すまない、礼を言う」

 

「構わない。こっちも深海棲艦の進軍を食い止めてもらったからな。

北海道はギリギリのところで救われた……しかし、見事な機体だ。アンブレラ?」

 

「ああ……悪いがそれに関してはあまり触れないでもらえると助かる」

 

「おっとすまない。あいつにも言われてたな」

 

それから俺達は、海軍基地で給油を受け、再び飛び立とうとしていた。

 

「本当に助かった」

 

「もう燃料には余裕があるだろう。なるべく陸から離れて飛行するんだ」

 

「わかった。貴軍の健闘を祈る」

 

名も知らぬ軍人に別れを告げると、俺は搭乗口のドアを閉めた。

同時に、ヘリのローターが加速度的に回転速度を上げ、

やがてふわりと鋼鉄の機体を浮かび上がらせた。

燃料切れに怯える必要がなくなった俺達だが、負傷者がいる状況を踏まえ、

陸から遠すぎず、近すぎない行路を選び、鎮守府に向かった。

 

 

 

──鎮守府上空

 

往路より若干遠回りをして、俺達はとうとう鎮守府に帰り着いた。

大きなローター音に気づいたのか、

北方水姫討伐の報せが既に届いていたのかわからないが、

提督や長門を始めとした大勢の艦娘が集まっていた。

俺達を乗せたヘリが広場に着陸し、搭乗口を開くと、提督達が駆け寄ってきた。

 

「よくやってくれた!皆のおかげで日本の危機は回避されたよ!」

 

「提督、話している場合じゃない。負傷者多数だ、艦娘全員とジョーの治療を頼む」

 

「了解!……救護班、担架を7つだ!高速修復材を惜しむな!急げ!」

 

それから、艦娘達は特殊な修復剤とやらで瞬時に治療され、

ジョーは医務室で手当を受け、今はベッドでいびきをかいている。

もう、俺にできることは何もない。

月明かりの下、ヘリに寄りかかって、ただ時間を潰していた。

 

特に温暖な気候だとは思わなかったが、あの凍てつく海域で戦った後だと、

こんなに暖かいところだったのかと改めて感じた。足音が近づいてくる。提督だった。

 

「ここに居たのかい」

 

「燃料補給の手回しに感謝する」

 

「とんでもない。

日本を守り抜いてくれて、感謝しなければならないのはこちらのほうだ。……ん?」

 

俺達の帰還でゴタついていたから、今になって気づいたらしい。

 

「もう1機のヘリは?」

 

「……まだ、34だった」

 

「すまない……私達の世界のために」

 

「それは違うぞ。元々、深海棲艦がおかしくなったのも、

B.O.Wが現れるようになったのも、俺達の世界が生み出した負の遺産が原因だ。

それを駆逐するのが俺達B.S.A.Aの任務だ。カーターは、その使命に殉じた。

彼の決意に悔いはない。少なくとも俺はそう信じている」

 

「そう、だね」

 

提督は北を向き、軍帽を脱ぐと胸に当てた。

俺は、ドッグタグを持ち帰ることすらできなかった部下に、

心で詫びることしかできなかった。

 

 




禿(かむろ):
遊郭に売られた少女。
遊女となるべく教育を受け、花魁の身の回りの世話や雑用などを行った。

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