艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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Tape10; The Falling Sun

その作戦名を告げると、隊員達の緊張感がより引き締まったように感じた。

信頼できる部下だ。言葉にせずとも自らの使命、存在意義を理解している。

それでも改めて語っておきたい。

 

「そう、例えこの作戦が成功したとしても、俺達は英雄なんかじゃない。

そう呼ばれる資格があるとするなら、それは艦娘達だけだ。

我々は自らが住まう世界から、本来B.O.Wとは無関係な世界に漏れ出した、

負の遺産を殲滅するためにここにいる。言うなれば、贖罪だ。

今更諸君に言うまでもないことだが、B.S.A.A隊員として戦う以上、

それを確認しておきたかった」

 

“はっ!”

 

総員の力強い返事を聞くと、

俺はヘルメット越しの部下達の顔をしっかりと目に焼き付け、

皆に待機の命令を下した。

 

「鎮守府側のメンバーの選定が終わり次第、ブリーフィングを行う。

それまで各自気を抜くことなく、

5分以内に2階作戦会議室に集まれる状態を維持しておくこと。解散!」

 

 

 

──広場隣雑木林

 

正直クリスの話なんか半分も聞いちゃいなかった。

俺はただ姫級ぶっ殺して、B.O.Wを皆殺しにして……

アイツと決着を付けられればそれでいい。

無心に木の枝を拾っては加工し、木箱を壊して物資を集めていた。

もちろんイモムシやザリガニも忘れちゃいねえ。

 

結果、投げ槍10本、回復薬3つ、ステイクボム2つ、スローイングナイフ2つ。

こんだけありゃあ十分だろう。

なるべくどれも姫級との戦いに備えて温存したいところだが……奴との戦況次第だな。

 

俺は林の中から、雑木林のそばにある高い崖を見上げる。

行ったことのねえ場所だが、岩肌に沿うように、頂上に向かって長い階段が伸びている。

ああ、わかるぜ。いるとすればあそこしかねえ。

天まで届くほどの階段に俺は足を乗せた。

 

潮風であちこちが錆びた鉄製の階段を一段ずつ踏みしめながら、着実に頂上へ向かう。

途中の踊り場で一息つく。時刻はもう正午を過ぎて、太陽はこれから少しずつ沈み行く。

この戦いで地に伏するのはどっちなんだろうな。

 

気が済むまで鎮守府の景色を眺めて一休みした俺は、再び階段を上りだした。

一体何段あるんだ。まだまだ行ける、と自分じゃ思っていたが、

このいつまでも続くような階段は老骨には堪える。ようやく頂上が見えた。

……崖に隠れて様子はまだ見えねえが、間違いなく奴がいる。

俺は一気に残りの十数段を駆け上った。

 

「ジャック!!」

 

頂上は木に囲まれた広い野原だった。

何のためにこんな崖に階段を作ったのかわからねえ。隅にボロい空き家があるだけだ。

そして。

 

『ぐおああああああ!』

 

ジャックは振り返って俺の姿を見ると、思い切り上半身を反らして天を仰ぎ、

真っ黒な泥を吐き出して、吠えた。

そして間髪入れず、俺に駆け寄り、左右から重いフックを繰り出す。

俺は瞬時に逆方向にステップを取り、2発共回避。

少しは説得の余地があるかと考えた俺が馬鹿だった。

即座にファイティングポーズを取り、戦闘態勢に移った。

 

「俺のことも分からねえんだな!?もう楽にしてやるよ、かかってこいよ!」

 

俺はAMG-78を装着した左手を握りしめる。

 

《チャージ開始》

 

完成したAMGが俺の腕力を感知し、爆発的に増幅させ、

一切合財を粉砕する力を俺に与える。

こいつをぶち込めばジャックの野郎も叩きのめせる。

が、奴もじっとしてるわけじゃねえ。

むしろ、今までの戦いで身のこなしや攻撃方法が多様になってやがる。

 

危険を察知したのか、後ろに下がって距離を取る。

そして、右手をグジュグジュと変異させ、長く巨大なヒルに変えた。

それを丸太のように太い鞭にして、真正面から叩きつけてくる。危ねえ!

偶然避けられたが、あと半歩横にいたら直撃を食らってた。奴の一撃が地を揺らす。

 

《チャージ完了》

 

AMGのフルチャージ完了、つまり俺の番!

だが、ジャックもそこらのB.O.Wと違ってマヌケじゃねえ。

軽いジャンプを繰り返しながら、俺の攻撃を避け、なおかつ反撃する機会を狙ってる。

俺は敢えて次の攻撃を待った。

すると、また右手をヒルに変化させて、俺を叩き殺そうとする。

その瞬間を見計らい、ダッシュで駆け寄り、

ジャックの顔面に極限まで加速した鉄拳をお見舞いした。

 

『うっ!ぐおうおお……』

 

鉄拳の威力と衝撃波で、ジャックがよろめき、ヒルの腕も弾け飛ぶ。

へっ、やるな。AMG-78の一撃に耐えきるとは。

ジャックの野郎も進化してるのかもしれねえ。

奴は少し頭を振ると、また戦闘態勢に戻った。今度は素早い接近からの重いタックル。

チャージの途中だったから回避ができず、ガードで受け止めた。

ふざけんな、痛えんだよ!俺はジャックの横を駆け抜け、AMGにチャージ開始。

 

ジャックも後ろに下がり、互いに殺気を迸らせて相手を見る。チャージ完了。

攻撃のチャンスを待つだけ。心配ねえ、こいつなら奴の息の根を止められる!

今度はお馴染みの強烈な四連打を放ってきた。

大きな上半身をひねった猛烈な強打が4回。間違っても食らいたくはねえな!

後退しつつ隙を窺う。なんとか全部避けきったところで、

大振りの攻撃を避けられ隙を見せた。

 

今だ!俺はすぐ側まで迫ったジャックの頭に、2度目のフルチャージを叩き込んだ。

すると、ジャックがよろよろと立ち上がったと思ったら、耐えきれずに膝をついた。

チャンスだ!すぐさまAMGを再チャージすると、

足元でうずくまるジャックに、もう一度渾身の一撃をぶちかました。

 

「どうだ!」

 

ジャックがその巨体から真っ黒な体液を噴き出しながら、5m程ふっ飛ばされた。

俺はゆっくりと立ち上がるかつての弟に呼びかける。

 

「覚えてるか?

ガキの頃、俺がお前の鼻をへし折ったよな!お前をぶっ飛ばして沼に落としたよな!」

 

聞こえてるはずなんかねえが、そんなこたぁどうでもいい。

昔みたいにお前をボコボコにして、どっちが兄貴か弟か分からせてやるよ!

今度こそケリを付ける!

手傷を負ったジャックが立ち上がると、また右手をヒルの触手に。

即座に俺は奴の正面から外れたが、今度は横に薙ぎ払って来やがった。

 

「がはああっ!!」

 

不意の一撃を食らい、右脇腹に激しい鈍痛が響く。咳に血も混じる。

くそっ、攻撃パターンを変えやがった!そして痛みで動けない俺に更に追い討ち。

今度は左脇腹に命中。左右の往復攻撃をガードできずまともに食らった俺は、

ろくに息もできない状態でジャックと向き合う。

とりあえず呼吸が落ち着くまで攻撃はできねえ。

だが、追い込まれたジャックも容赦なく次々と俺に攻撃を浴びせる。

右手の触手、飛びかかっての両腕叩きつけ。

 

とりあえずガードして耐えてはいるが、確実に体力を削り取られてる。

もう視界が灰色だ。姫級に備えて回復薬は使いたくねえ。

……危ねえ賭けだが、手段は選んでいられねえ!

俺は腰にぶら下げたムラマサを構えて、攻撃直後のジャックに飛びかかった。

 

AMGのチャージ攻撃より隙が小さい刀で、2,3回斬りつけては離れる、を繰り返す。

おおっ、やっぱり少しずつだが痛みが引いてくる。大して威力はねえが、

守備と攻撃の繰り返しに徹していれば……とも言っていられねえんだな、これが。

 

俺の心にふつふつと、明らかに俺のものじゃねえ何かの殺意が染み込んでくる。

ムラマサの呪いだ。さっさと回復してこいつを収めねえと、どっちにしろ死だ。

ジャックが左足を大きく上げて、上半身を振りかぶり、

強力な右ストレートを放ってきた。これで最後だ!

俺は右に走って拳を避けると、すれ違いざま3回ジャックを斬った。

 

上出来だ!すっかり視界は良好、痛みもねえ。

慌ててムラマサをしまうと、俺はまた殴り合いの決闘に戻った。

太陽が俺達をジリジリと照らす。遠くに広がるは大海原。再び左手を握り込む。

 

《チャージ開始》

 

『うごおお……』

 

「ジャック、お前は昔からへなちょこだった!

俺を殺すことも出来ねえ奴がバケモノになったからって、今更俺に勝てると思うな!」

 

《チャージ完了》

 

『があああ!!』

 

「うおおおお!!」

 

二人が吠える。

俺もジャックも、ただ殺すためにお互いを追い求めて、両足を交互に動かす。

世界一汚ねえ兄弟喧嘩。遂にその決着が付く。両者全力の拳を放つ。その結果は。

 

『……うっ、ぐごああ』

 

「ちっとは効いたぜ、お前の拳。

だが、俺の弟に生まれたのが運の尽きだ。俺に勝てる弟なんて、いやしねえんだ」

 

ジャックの顔面にクロスカウンターが決まった。

真正面からAMGを食らったジャックは、その場で膝を折った。

右手で弟だった化け物の頭を掴む。

ムカデだらけで見る影もねえが、やっぱりその目はジャックのものだった。

……俺は抵抗する力を失った敵にとどめを刺すべく左手を握る。

 

「お前はもう俺の家族じゃねえ、ジャック……!」

 

そして青白く光るコアに全力を託し、何かを訴えるような目で俺を見るジャックの胴に、

全力の拳を叩きつけた。衝撃波が走り、俺達を囲んでいた木々を大きく揺らす。

まるでロケットで打ち上げられるかのように、ジャックの身体が崖から放り出され、

海に向かって遥か遠くに飛んでいった。断末魔の声すら聞こえることはなかった。

 

なんでかは知らねえが、パンチを放った後、

俺はしばらくそのままの姿勢から動けなかった。

興奮が冷めて我に返り、ようやく立ち上がると身体の砂を払って、一言だけ海に告げた。

 

「……あばよ」

 

気がつくと太陽が大きく傾いていた。

夕暮れには早いが、1時間以上戦ってたってことになる。……もう帰るか。

俺がのんびり階段を下りていると、スピーカーから放送が聞こえてきた。

 

 

《お呼び出しを申し上げます。ジョー・ベイカーさん。

ジョー・ベイカーさんは、直ちに本館2階の作戦会議室までお越しください》

 

 

無茶言うな。まだ半分も下りてねえ。

まぁ、どうにもならねえなら待たせとくしかねえな。

下りは上りより楽だからそんなにかからねえだろう。

 

 

 

──本館2階 作戦会議室

 

「B.S.A.Aの装備はAH-64アパッチをベースとした……」

 

ガチャッ

 

「遅いぞ!」

 

いつまで経ってもジョーが来ないので、

知らなくても直接戦闘に支障ない程度の説明を先に始めていた。

すると、途中でジョーがノックもなしに入ってきて、適当な席に大きく腰掛けた。

 

「うるせえ、B.O.Wと戦ってたんだからしょうがねえだろ」

 

にわかにざわついた雰囲気になる。

警報が鳴ることもなく、ここまで長期戦になったということは、やはり。

 

「……ジャックか」

 

「他に何がいる」

 

「どうなった」

 

「海の向こうまでぶっ飛ばした。……続けろ」

 

「そうか」

 

俺はそれ以上何も聞かず、広い講壇の反対側の提督を見た。彼も何も言わず、ただ頷く。

ジョーのシャツに新しい血が付いていたが、やはり何も聞くことなく本題に入った。

 

「では、全員が揃ったところで、“Not A Hero”作戦概要について説明する。

まずこの地図を見てくれ」

 

長い引っ掛け棒で黒板上の幕を引き下ろし、

血に染まったように真っ赤な占守島付近の地図を皆に見せた。

 

「先日の捜索で姫級の位置が特定された。ここを見てくれ」

 

占守島からずっと東。地図には様々な敵艦隊の予想潜伏地点が記されているが、

全部を無視して、一点を指示棒で差した。

誰かの茶目っ気かなにかは知らないが、

提督に報告したポイントが可愛らしい鬼のマークになっている。

 

“そこに、姫級が!?”

“もう日本のすぐそばじゃない!”

“あまり時間は、ないみたいだな”

 

艦娘の精鋭達も予想以上のスピードで日本に迫る姫級に驚きを隠せない。

 

「そう。俺達には時間がない。提督と協議した結果、作戦結構は、明日。

0900に鎮守府を発つ。また、提督の案で例の姫級に仮称ではあるが名前が付いた。

以後、姫級は“北方水姫”と呼称する」

 

「一旦交代しよう、クリス。

ジョーやB.S.A.A隊員の皆に紹介する。鎮守府側からは、

隣に座っている次の艦娘諸君が出撃することになった。

各員、B.S.A.Aの輸送ヘリに乗って、本来戦うべき機動部隊や攻撃隊の頭をすり抜け、

ピンポイントで旗艦艦隊を直接叩く。

まず、戦艦・武蔵、戦艦・尾張、空母・赤城、空母・グラーフ・ツェッペリン、

重雷装巡洋艦・北上、重巡・ポーラ。皆、可能な限りの改造を施していると考えてくれ。

以上だ。クリス、続きを頼むよ」

 

「了解した。この戦いでは攻撃ヘリの機動力を活かして、先制攻撃を仕掛ける。

まず、作戦ポイントに到着次第、我々のヘリに搭載されているサーモバリック弾を投下。

敵艦隊にダメージを与え、同時に作戦行動の邪魔になる流氷を吹き飛ばす」

 

「すいませ~ん」

 

その時、ベージュの制服を着た、おさげの艦娘が手を挙げた。

 

「北上君、どうぞ」

 

「サーモ……え~と、なんとか弾ってなんですか?」

 

提督の目配せを受け、俺が答える。

 

「サーモバリック弾。通常の爆弾とは異なり、二段階の爆発で敵を殺傷・破壊する。

第一段階で投下した爆弾内部で爆薬を点火、瞬時に燃料を気化させ、圧力で破裂させる。

そして二段階目に、一段階目で破裂して周囲に広まった燃料と空気が、

最適な比率で混合した時点で、再度爆薬で点火。

すると、広大な空間に拡散した燃料が一気に燃焼し、巨大な爆風がエリア一帯を襲う。

今回俺達は、サーモバリック弾で敵の攻撃はもちろん、流氷もまとめて吹き飛ばし、

敵の混乱を誘い全員が着水するチャンスを作る」

 

「ど~も~っ、あの辺の流氷、魚雷撃つのに邪魔だな~って思ってたからさ」

 

「続いて作戦行動時間だが、何があろうと2時間以内に決着を付けてもらいたい。

理由は2つ。まず気象の問題。

言うまでもなく、占守島近海は人間が生存できる限界を遥かに超えた、極寒の海だ。

戦闘中は防護ベストに組み込まれた電熱線で体温を維持ことになるが、

バッテリー容量を考えると、保って2時間。

ジョーに関しては工廠で耐寒服を製造中だが、同じ理由で2時間が稼働限界だ。

次に、ヘリの燃料。ここから戦闘エリアまで向かい、

北海道の海軍基地まで帰り着くまでに必要な燃料を差し引くと、

上空で待機できるのは2時間がいいところだ。

ヘリが落ちれば、君たちはともかく、人間は北海道にたどり着く前に凍死する」

 

「えへへ~あそこは、ポーラ達でも寒いです~

ホントは、あったかいお部屋でホットワインを飲んでいたいです~」

 

「オホン、ポーラ君。本作戦終了まで、飲酒は禁止する。

明日までにアルコールを抜いておくこと、いいね?」

 

「えーそんな!あの、勝利を祈ってみんなで乾杯ってのはどうかと思うんですけど……」

 

「座れ。ザラに言いつけるぞ」

 

「うう……」

 

白と黒を基調とした軍服の艦娘にたしなめられ、しぶしぶポーラが着席した。

すると、提督が天井から2枚目のスクリーンを下ろした。

三つ又の槍を描くように、何が配置されている図が大きく描かれている。

 

「今度は私が引き継ごう。特にB.S.A.A諸君やジョーはよく覚えてほしい。

これは“第四警戒航行序列”と言って、

今回のような大規模戦闘で採られる陣形のひとつだ。

戦闘開始後、速やかにこの隊列を形成して欲しい。

超長距離攻撃な人間のB.S.A.Aは比較的安全な後方へ。

深海棲艦の攻撃に耐え、反撃が可能な艦娘は前方に位置取ること。

接近戦を挑まざるを得ないジョーも前に出てくれ」

 

“了解!”

 

ジョーと尾張以外の全員が返事をする。

尾張は他人事のように鉄扇で仰ぎながら、ぼんやりと宙を眺めている。

 

「そう言えば提督、尾張の様子はどうなんだ。

生まれてからほんの2日で実戦に投入するのはやはり不安が残る」

 

「私もそうだったよ。演習に出せたのはたったの2回。

なんとか練度を10まで上げるのが精一杯だったが……心配は無用だ。

彼女の火力は空恐ろしくすらある。相手旗艦を一撃で大破させた」

 

「そうか。ならいいが……やはり演習と実戦は違う。

他の5人で彼女を支えるよう伝えてやってくれ」

 

「わかってるよ。……では、諸君。

これにて作戦名“Not A Hero”のブリーフィングを終了する。一同、解散!」

 

 

 

クリスや提督らがぞろぞろと出ていった後も、俺はしばらくぼーっと座り込んでいた。

あいつらが何言ってたのか、ほとんど思い出せねえ。

爆弾落として、奇襲する。確かそんな感じだったと思う。

ここで理屈をこねたところで、どうせ実戦じゃ何が起きるかわかりゃしねえんだ。

それはいいとして、頭ん中のモヤモヤがずっと晴れねえ。こっちのほうが問題だ。

くそったれ、俺は弟の始末を付けただけだ。

なにウダウダ考え込んでんだ、俺らしくもねえ。

 

一気に立ち上がると、俺は作戦会議室のドアを開け、廊下に出た。

帰ってシャワーでも浴びるか。すっかり文明人みたいな習慣が付いちまったな。

元の世界に戻った時、また沼地で生きていけるか心配だ。

……ん、なんだ?子供が壁に寄りかかってうつむいてる。

俺に気づいたら嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「ああ、よかった!また会えて」

 

「お前は……」

 

思い出した。俺がこの世界に飛ばされて、B.O.Wの襲撃が始まった時、

一人で戦ってた女の子だ。珍しい緑色の髪だからよく覚えてる。

 

「駆逐艦・高波です!ごめんなさい。あの時は、ちゃんとお礼も言えなくて……」

 

「構うこたぁねえ。子供を守るのは大人の義務だ」

 

「あの!これ、大したことはできないんですけど、受け取ってください。

何の役にも立ちませんけど、裁縫だけは得意で……」

 

高波は小さな人形を差し出してきた。麻の糸を編んで作ったボクサーの人形か。

へへっ、いっちょまえに赤いグローブまで着けてやがる。思わず笑みがこぼれる。

ささやかな真心を受け取って、なんか……頭のモヤが晴れたような気がする。

俺は、そいつを大事に道具袋にしまった。

 

「ありがとよ。大事なお守りにさせてもらうぜ。これで遠慮なく暴れられる」

 

「あなたが大変な戦いに行かれることは聞いています。

高波には何もできませんけど、どうかご無事で」

 

「もう、してくれたじゃねえか。心配すんな。

深海棲艦だろうが、B.O.Wだろうが、この鎮守府には指一本触れさせねえ。

俺達は明日行く。決着も明日だ。信じて待っててくれ」

 

「はいっ……!」

 

高波の頭をポンポンと軽く撫でると、

彼女と別れて肩で風を切りながら廊下を進んだ。

迷いみたいなもんを振り落とした俺を止められるやつはもういねえ。

覚悟しやがれ、深海棲艦。

俺は左手で、右手のひらをパシンと殴った。

 

 

 

──大ホッケ海北方

 

吹雪、流氷、全てを白が埋め尽くす海域に溶け込むように、そこに佇む北方水姫。

彼女は、またドロシーと名乗る存在と交信していた。

 

「ヤツラガ アラハレタ ソラタカク ヤミヨカラ」

 

『気をつけて。あいつらは卑怯。どんな手を使ってくるかわからない』

 

「ムヨウナ シンパイ ワレラハ シンゲキヲ ツヅケル」

 

『きっと勝ってね。そして、私の、居場所を作って』

 

「……ショウリノ サキニ オマエハ ナニヲミル」

 

『どういうこと?』

 

「ヒトトシテ イキルノカ ソレトモ ワレワレノ ドウハウト ナルノカ」

 

『私は……ドロシー。それ以外の何者でもないわ』

 

「ワカラヌ ヤツダ マア ヨイ アスニハ スベテノ コタエガ デル」

 

『じゃあね。楽しみに、してるから』

 

「ウム オマエハ ソコデ ミテイルガ イイ」

 

どちらからともなく交信を終えると、北方水姫は吹雪の吹き荒れる海を眺めた。

時折、吹雪の止み間、遥か遠くに北海道の陸地が見える。

B.S.A.A、日本海軍、深海棲艦。血で血を洗う三者の激闘は、もう間もなくだった。

 

 


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