艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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Tape9; Queen of the Night

なんだなんだ?研究のし過ぎでおかしくなったのか?

明石が弾いたクラッカーの煙が臭う中、みんな呆気にとられて見ているしかなかった。

わりかし重要な話の最中だったから、余計に格好の珍妙さ加減が際立つ。

長門がハッピとか言った派手な薄い上着に、頭に鉢巻を巻いてる。

いきなり乗り込んできたお祭り女に、ようやく提督が返事をした。

 

「それは……素晴らしい。良くやってくれた!でも、激しい戦闘の後で皆、疲れている。

ポッド解放は明日にしようじゃないか」

 

「あ、すみません。もう開けちゃいました!

ガレージで服と装備品の装着も済ませちゃってます!」

 

「君ね……」

 

「ああ、とにかく提督も皆さんも急いで下さい!彼女を()()()しなきゃなんで」

 

「はぁ……まったく、お前は優秀な技術者だが、

新しいものを見ると見境がなくなるのは、どうにかならんのか」

 

長門が仕方なく提督と連れ立って部屋の外に出た。

 

「ニシシ、こればっかりはどうしようもないですねぇ。さあ、みんなも出た出た!」

 

他の連中も出ていく。日本最強の戦艦か。面白そうだな。こいつを見逃す手はねえ。

俺が席を立つと明石が露骨に嫌な顔をした。

 

「え、来んの……?」

 

「固えこと言うなって。こないだのことは謝るからよ」

 

「あ、そうだ。ジョーは……うん、いいよ。来て」

 

「よっしゃ!」

 

なぜか許可が下りたから俺も皆に付いていく。本当にエイリアンだったら笑えるんだが。

 

 

 

──工廠 艦娘建造ドック

 

全員建造ドックに集まると、明石が慌ただしく準備を始めた。

棚からカゴを下ろしたり、床に赤いカーペットを敷いたり。

近代的なエリアの隅にあるデカいガレージの周りでしばらくうろちょろすると、

壁にくっついてるインターホンで、中の小人と何やら打ち合わせを始めた。

呼ばれた俺達はボケっと突っ立ってるしかねえ。

 

「みんな、用意はいい?開けてもいい?まだ?うん、こっちは大丈夫だよー!

……ほら、新艦娘が御成りになるからシャッターから離れて!列の邪魔になるから!」

 

列だぁ?ひとりしかいねえのになんで列ができんだよ。

だいたいお前が着てる服は何なんだ。艦娘が一人できる度にこんなお祭り騒ぎなのか?

聞きたいことは色々あったが、明石が妙に慌ててやがるから聞くに聞けねえ。

 

「準備ができた?わかった、行くね!……ささ、みんなもっと下がって!」

 

相変わらずガレージの中の小人となんか打ち合わせてる。

もったいぶってねえで早く出せよ!

……と思っていると、ついにガラガラとシャッターが開いた。

すると、一瞬目がくらむほどの光の中から、小人達の列が現れた。

 

例の最強の艦娘は、まだ逆光で輪郭しか見えねえ。

いや、ちょっと待て、どう見ても人の影じゃねえぞ!

小型の要塞にしか見えねえ巨大な影がジリジリと中から進み出てくる。

マジでエイリアン作りやがったんじゃねえだろうな!

影の前を整列して進む小人達は、

どいつも明石みたいなハッピを着てシャンシャン鳴る杖を持ったり、

キモノを着てなんか派手な飾りや黒塗りの箱を持って、ゆっくりゆっくり歩いてくる。

 

じれってえ。と、いつもの俺なら、

ガレージに飛び込んで引っ張り出してくるところだが、

なんだかこの豪華な列をずっと眺めていたい気になって、大人しく待っていた。

ダイミョー行列みたいなパレードを見ていると、ついにその艦娘が姿を表した。

 

カン、カラララ、カツン……、 カン、カラララ、カツン……

 

「こいつぁ……すげえな」

 

アメリカ人の俺でもわかるほど豪華なキモノを着た艦娘が、

黒い三枚歯の高下駄を履いて、

何かの字を描くような独特な足運びで提督に近づいてくる。

明石はすっかり芝居の裏方にでもなったかのように、

その艦娘の周りをぴょんぴょん飛び回りながら、カゴに入った紙吹雪を撒く。

新しい艦娘の様子を見た長門が何かに気づいた様子で声を上げた。

 

「あの歩き方は、外八文字!まさか……!」

 

なんだ長門、なんか知ってんのか?って聞こうと思ったが、

目の前の華やかなパレードに目を奪われて、口が開けない。

超大型戦艦は、分厚くて重そうなキモノの裾を胸の前で担ぎながら、

相変わらず規則的な歩き方で俺達に近づいてくる。

俺を含めた皆が、何も言えずに息を呑む。

 

この戦いの決め手となる最強の艦娘は、

光源から離れて、もうその姿がはっきりと見える。

きらびやかなキモノと、巨大な大砲、高角砲、機銃群は、あまりに不釣り合いだが、

そのアンバランスさが目を惹きつけて離さねえ。

 

「あれは、艦娘の艤装と言えるのか?私の46cm砲を遥かに上回っているぞ!」

 

顕になったその姿に、武蔵を含め、皆驚きを隠せない。

そして、小人の列が道を開け、その艦娘を提督と引き合わせる。

カン!と高下駄を鳴らしてようやく足を止めると、

艦娘は目を細めて唇に僅かな笑みを浮かべ、提督に挨拶した。

艶やかな銀色の髪を高く巻き上げるように結い、

電波塔を模した髪飾り(カンザシって言うんだとよ)を、何本も刺した美女の雰囲気に、

提督も一瞬圧倒される。

 

 

「わちきは超大和型戦艦1番艦 尾張の太夫でありんす。

主様、ここで会うたも何かの縁。わちきと共に海をば駆けなんせ」

 

 

提督が我に返って、握手を求めて手を差し出す。

 

「う、うむ……貴艦の着任を心より歓迎する。その力を戦場で存分に発揮してほしい」

 

だが、尾張は困った顔を浮かべ、かすかにうつむいて断った。

 

「……わちきの手をば触りとう思わらば、先ずは馴染みになりしんせ」

 

「提督。彼女はやはり、花魁かと……」

 

「そうみたいだね」

 

長門が提督にそっと耳打ちする。なんだそりゃ。

 

「なあ、花魁ってなんだ?二人で納得してねえで教えてくれよ」

 

「後にしろ!状況が落ち着いたら説明してやる」

 

すると、尾張が帯に差した鉄の棒みたいなやつを抜いて、俺を手招きしてきた。

 

「そこな(おきな)、ちいとここに来ぃなんし」

 

「俺か?おめえの喋ってることは方言がキツすぎて半分も意味わかんねえんだよ、

他の連中みたいに……」

 

「これ」

 

ゴツン!

 

痛え!この野郎、鉄の棒で人の頭ぶっ叩きやがった!

 

「何しやがるこの着包み女!」

 

「“何しやがる”はわちきの台詞。人の寝とう間に何をささんすか。

五月蝿うてまだ眠なんす」

 

「だから何言ってんのか全然わかんねえよ!」

 

「何しやがるは私の台詞、人が寝てる間になにするのよ、うるさくてまだ眠たいわ。

……ジョーが彼女のポッド散々叩きまくったの根に持ってんのよ」

 

明石がジトッとした目で俺を見ながら翻訳してくれた。

ああなるほど?入室が許可された理由がわかったぜ。ああ、痛え。

当の尾張は鉄の棒を広げて優雅に扇いでやがる。骨が鉄でできた扇か。

扇面には武蔵の首元と同じ菊の紋章。ほう、こいつが日本最強の戦艦、の艦娘だな。

クリスは後ろでどっかと通信してる。

 

「おい、日本海軍の戦艦・尾張について調べてくれ」

 

『少し待ってください。O.WA.RI……出ました。超大和型戦艦1番艦・尾張。

第二次大戦末期に旧日本軍が建造計画を立案しましたが、

実際には起工されず計画の段階で建造が中止されています』

 

「辻褄が合わないぞ。その尾張の艦娘が目の前にいるんだ。

……提督、この世界では超大和型戦艦は完成していたのか?」

 

「いや、こちらでも計画倒れに終わっている。

彼女の起源となる艦艇など存在しない筈だが、私にも何が何やら……」

 

『出ました。スパコンAIの推論によると、イーサン救出時の往復と今回の作戦での往路、

合計3回の転移によって、世界の壁にゆらぎが生じている可能性が75.2%』

 

「つまり?」

 

『今、クリスがいる世界が、私のいる世界と異なる、

第三の世界と部分的に接続された可能性が高いということです』

 

「なんだと、クリスの世界以外にもまだ異世界が存在するというのか!?」

 

『あくまで人工知能の演算結果による結論になりますが、その通りです……』

 

長門が目を丸くしてクリスのヘルメットに叫ぶ。

まぁ、こうも妙ちきりんな出来事が続くと無理もない。

かく言う俺も世界が3つもあるとなると驚かざるを得ないが。

 

「ふむ……どうやらその世界では、超大和型戦艦が完成するほど、

戦争が長期化しているようだね」

 

「そう考えるしかないだろうな。どの道俺達にできることは何もない」

 

「なぁ、なぁ、主様。わちきは眠うござんす。はよう、わちきを寝床へ連れなんし」

 

尾張が提督の袖をつまんで急かす。

 

「ああ、眠たいんですね!提督、尾張さんを早く宿舎で休ませてあげてください!

彼女の武装・能力の分析は明日のお楽しみということで、ウシシ!」

 

「そ、そうだね。気になることはあるが、尾張君の諸元等については明日にしよう。

皆に紹介するにも、もう夜が更けている。

……さあ、尾張君。ついてきてくれ。宿舎の君の部屋に案内しよう」

 

「いりんせん(いらないわ)」

 

「え?」

 

「主様の部屋へ連れなんし」

 

「提督の私室へ!?キャー、尾張さんってば大胆!」

 

明石がまた飛び跳ねてはしゃぐ。長門はそれを一喝して割り込んだ。

 

「ふざけている場合か!

尾張、いくら新造艦でもそのようなわがままは許されん。

さあ、私と艦娘宿舎へ来るんだ!」

 

「ん~ん?よう考えささんしたら、わちきは主様に身請けされた身。

主様と床を共にするのが筋でありんす」

 

マイペースに語ると、尾張は扇子で口元を隠し、

恥じらうように、ほんの少し顔を背けた。

 

「と、と、床を!?駄目だ駄目だ、絶対ダメだー!」

 

今度は割りと落ち着いてる感じの武蔵まで慌てだした。顔真っ赤にして。

 

「おい、武蔵の姉ちゃんまで何慌ててんだ。っていうかよう、

俺達外人組はさっきから置いてけぼりなんだが、早いとこ誰か状況を説明してくれ」

 

「提督は鎮守府を遊郭にするつもりなのか!?答えてくれ!」

 

「武蔵君まで馬鹿なことを言うものじゃない!

部屋を貸すだけだ!私は執務室のソファで寝る!」

 

こりゃだめだ。一晩寝かせてパニックが収まるのを待つしかねえ。

俺はうなだれて首を振る。

 

「主様。はよう、わちきを連れなんし。この鉄の部屋は冷とうござんす」

 

お前が喋る度に誰かがわめき出すから黙ってろ。

 

「うむ、では行こうか尾張君。君の寝泊まりする部屋に案内する」

 

「よろしゅうお頼の申しんす」

 

おっと、重たそうに抱えてた裾から手を離しやがった。

豪華な刺繍が施されたキモノが、花開くように広い面積を占めて床に広がる。

それで裾引きずったら汚れるぜ、と思ったが、なんか変な力で浮いてるぞ。

だったら別に持たなくてもいいだろうが。

 

……もういい、こいつのことは明日聞く。昼の激戦と夜のどんちゃん騒ぎで疲れた。

武蔵は尾張をじろじろ見ながら宿舎に帰った。俺も提督と尾張についていって、

本館で休もうとしたら、ドアから出る瞬間いきなり左腕を掴まれた。

とっさに右の拳を構えるが、俺を引き止めたのは明石だった。

しきりに俺の臭いを嗅いでくる。

 

「くんくん、くんくん……」

 

「どうした。気化したシンナーでも吸い過ぎたのか」

 

「テクノロジーの匂いがするわ!」

 

「そういうことか。へっへ。やっぱ気づいたか、こいつによ。

αは試作品だったが、こいつは正真正銘の完成品だ」

 

俺はニヤリと笑って、手に入れたばかりのAMG-78を見せつけた。

 

「わかるよ~!見た目は前のとほとんど変わらないけど、

コアが放つ出力が明らかに違うし、

アーム連結部の強度や滑らかさが洗練されてるもん!」

 

「そうだ!こいつがあれば、姫級をぶっ殺せる。それに……」

 

「それに?」

 

「……いや、なんでもねえ。

とにかく、最強の戦艦も完成して、俺の新兵器も手に入った。俺達は負けねえ。

絶対に日本守ろうぜ」

 

「うん、そうだね!」

 

「じゃあ、俺はもう寝る。お前も夜更かしすんなよ。バックアップ専門だって聞いたが、

お前も艦娘なんだろう。いつ出撃があるかわかんねえからな。

……なあ、おい、もういいだろう。帰りてえんだが」

 

「まーまーまーまー!そう急がないで!

またコーヒー入れるから、着け心地とか色々聞かせてよ!」

 

はぁ。明石がAMG-78を装着した左腕を離さねえ。

結局、俺は深夜までこいつの知的好奇心に付き合わされることになった。

 

 

 

──本館前広場

 

「ふあ~あ、おい」

 

夜が明けて時刻は10時頃。

俺はあくびしながら、広場に設置された鉄製の小さなステージの前で、

尾張のお披露目会の始まりを待っていた。周りには鎮守府の艦娘全員が集まっている。

ただの新顔紹介じゃあなさそうだな。皆の雰囲気もざわついてやがる。

 

“武蔵さんの主砲より強力な武装なんですって!”

“それより聞いた?昨日は彼女、提督のベッドで寝たらしいわよ!”

“ウソー!それってもしかすると、もしかしちゃうの?ウフフッ!”

 

ため息が出る。やっぱ女はそっち方面かよ。今朝提督から聞いたぜ。

尾張の姿は、花魁っていう盛り場の女王みたいな存在と同じなんだとよ。

しかも、ダイミョーだろうが大富豪だろうが、

簡単には相手をしてもらえないほどの高嶺の花だったらしい。

それを踏まえると、昨日の艦娘連中の騒ぎっぷりも納得が行く。

 

まあ、俺には関係ねえ。とにかく姫級さえぶち殺してくれればそれで満足だ。

……ん?どっかから、昨日聞いたばっかりの杖の音が響いてくる。どこだ?

ざわめきが収まり、その場にいた全員が辺りを見回す。

すると、次の瞬間、バタンと本館のドアが開いて、昨日と同じパレードが始まった。

ハッピやキモノを着た小人の列の中央で、

提督に片手を預けた尾張が、例の歩き方でゆっくりとステージに向かってくる。

 

その姿を見た艦娘達が歓声を上げる。

確かに、薄暗いドッグでよく見えなかった昨日とは違って、今ならはっきりとわかる。

まず、キモノがとんでもなく豪華だ。

漆黒の高級な生地に熟練の技で繕われた刺繍の数々。

大輪の花を咲かせる桜並木を、昇り龍が縫うように飛んでいく。

空には桜吹雪が舞い、数え切れないほどの鶴が飛び交う。

 

続いて艤装だが、ここまで来ると、艦娘と武装どっちが本体なのかわからねえ。

武蔵の装備を見たときにも結構驚いたが、こいつはその比じゃねえ。

もう普通の軍艦の大砲と変わらねえほどデカい。

それを背中の骨組みだけで背負ってるんだが、どうして自重で潰れねえのか不思議だ。

 

俺達が驚きながら花魁道中に見入っていると、尾張と提督がステージにたどり着いた。

とうとう始まるな。腕を組んで成り行きを見守る。

すると、人混みをかき分けてテストが俺の隣に来た。

 

「おはようございます、ジョー。あの娘が新しい仲間なんですね。とっても綺麗です」

 

「ああ、おはようテスト。何でもあいつは別世界の艦艇の生まれ変わりらしいぜ」

 

「ジョー、あの娘の事知ってるんですか?」

 

「あまり詳しくはねえが、ゆうべ生まれた時に立ち会った。

なんでも花魁タイプの艦娘で、とにかく最強なんだとよ」

 

「オイラン?オイランってなんですか」

 

やべえ、口が滑った。

何も知らないテストが、青い目をぱちくりさせて答えを待ってる。なんて答えるか。

……俺は、考えた結果、友軍に助けを求めることにした。

 

「ほら、ちょっと後ろに赤城がいるだろ。あいつの方が詳しい。

俺もよくわかんねえんだ」

 

「はい。少し失礼しますね」

 

許せ赤城。テストが彼女のところにたどり着いて、二言三言話すと、

赤城が俺を睨んで、テストの耳を借りて内緒話をした。

しばらくすると、テストが両手で顔を隠して俺のところに戻ってきた。

 

顔は見えないが真っ赤になっているのは想像が付く。耳も真っ赤だからな。

少し落ち着いたところで、テストが何も言わずに俺の背中をペチペチ叩く。

確かに悪かったのは俺だが、どこまで詳しく話したんだよ、赤城。

お、提督の演説が始まったぜ。

 

「おはよう諸君、よく集まってくれた。

今日の決起集会に新たな仲間を紹介できることを嬉しく思う」

 

決起集会と来たか。その言葉に艦娘達が静かに動揺の色を見せる。

なるほど、決戦も近いってことだな。

 

「まずは、諸君の新しい仲間を紹介したいと思う。尾張君、前へ」

 

尾張が美しい所作で一歩前に出る。

その繊細ながらも堂々たる姿に周りの艦娘は息を呑む。

 

「超大和型戦艦1番艦 尾張の太夫でありんす。

以後、よろしゅうお付き合い頼みなんす」

 

“超大和!?それって、大和さんや武蔵さんより強いってこと?”

“艤装も凄いけど、着物もド派手ね……”

“そんなに戦艦ばかり作ってどうするのかしら。武蔵さんじゃ駄目なの?”

 

「ゴホン。今、誰かが話した疑問はもっともだ。

確かに深海棲艦との戦いにおいて、戦艦は戦略の要となる重要な存在である。

しかし、無闇な大型艦の建造は資材の浪費でしかないばかりか、

鎮守府の運営に支障を来す。

だが!今の我々は彼女の力を必要とせざるを得ない状況に陥っているのだ。

そう、もう諸君の何人かは知っているだろう。姫級が日本近海に姿を現した!」

 

知ってたやつ、知らなかったやつ、反応は様々だ。

決意を秘めた目で聞き入る者もいれば、突然知らされた事実にうろたえる者もいる。

提督は演説を続ける。

 

「言うまでもなく、これは日本建国以来の未曾有の危機だ。だが恐れないでほしい!

当鎮守府は姫級討伐のため、決戦の日に備え、

この日まで最強の戦艦の建造に全力を上げてきた。

そして、ついにその苦難が実を結んだのだ。

そう、ここにいる尾張君こそが姫級打倒の決定打となってくれる!

既に彼女の建造成功の報告を上げた大本営から、同時に北海道防衛の命が下された。

しかし、もとより我々は日本国防衛のため、命を賭けて戦う道を選んだ身。

命あらずとも我々は総力を以って姫級を迎え撃つ!」

 

隣じゃテストが祈りを込めて手を握ってる。

恐怖の混じった不安げな声を上げる艦娘も少なくねえ。

 

“また、姫級と戦うのね……”

“きっとまた、犠牲が出る”

“何人帰って来られるのかしら……”

 

「だが、繰り返すが皆、恐れるんじゃない!

尾張君の能力を列挙すれば、主砲、51cm連装砲3基6門。高角砲、12.7cm連装高角砲6基、

機銃、25mm三連装機銃集中配備……」

 

51cm砲。戦艦大和の46cm砲は世界でも有名だが、

そいつを更に上回るバケモノ級の主砲の存在に驚愕が広がる。

 

「このように、彼女は主砲の威力を除けば取り立てて目立った特徴はない。

しかし、逆に言えば、その砲一つで勝利への道を切り開いてくれる可能性を秘めた、

まさに最新鋭の戦艦なのだ。彼女を仲間に迎えた今、恐れるものは何もない!」

 

おいおい提督、そろそろ誰かのこと忘れてねえか?

もう少しで、俺はここだと叫びそうになった。

 

「それだけではない。我々にはB.S.A.Aという異世界から来てくれた心強い仲間がいる!

彼らは昨日も70年後の最新兵器で、歪に進化した深海棲艦を退けたばかりだ!

当鎮守府は姫級討伐に向けてB.S.A.Aと共闘することが決まっている!

そして、皆も既に知っていると思う。

ジョー・ベイカー。拳で深海棲艦を打ち砕く彼も、戦いに参加する。

我々は、この鉄壁の布陣で日本を守り抜く!

姫級討伐に当たる第一艦隊のメンバーは追って選抜し、発表する。

皆、気を抜くことなく心して待っていて欲しい。

では、新たな仲間の紹介と、我々の新たな任務の説明をもって、この決起集会を終わる。

一同、解散!」

 

さっきまでは迷いを見せていた一部の聴衆も、

今は口を固く結んでまっすぐ提督を見つめている。

提督と尾張がステージを下りて去っていくと、皆もその目に覚悟を宿して、

一人、また一人とその場を離れていく。

やがて、広場には俺とテストだけが残されるだけになった。

 

「ジョー、本当に行ってしまうんですか……?」

 

「心配すんな。姫の野郎を殺すまでは絶対死なねえ。俺がお前に嘘ついたことあるか?」

 

テストが俺の肩に両手を乗せて、寄り掛かるように頭をくっつける。

 

「ワタクシも行きたいけど、ただの水上機母艦じゃきっと無理。

ずっと待ってますから……」

 

「おう、パッと行ってサッと片付けて戻ってくる。約束だ」

 

本格的に寒くなっていく12月の冷たい潮風が、刺すような冷気を浴びせる。

戦いでは、こいつとは比べ物にならないほどの寒さとも戦わなきゃならねえ。

今はまだマシなほうだし、肩に小さな温もりもある。

テストの顔を見る。やっぱりゾイを思い出す。

 

ジャックもそうだが、ゾイは今どうしているんだ。

元気にしてるのか。風邪を引いちゃいねえか。

……いや、戦う前から後ろに気を取られてちゃ勝てる戦も勝てやしねえ。

俺は考えをジャックに絞り、そっとテストの肩に手を当て彼女を離した。

 

「ここは冷える。お前はもう宿舎に戻ってろ。俺も部屋に戻る」

 

「ジョー……」

 

「俺ほどしぶとい人間は他にいねえ。死にゃしねえよ。

それよりお前にも出撃命令が下る可能性がある。

風邪引かねえうちに帰って準備してろ、な?」

 

「……わかりました!」

 

そして、テストは宿舎に続くゆるい坂を上って帰っていった。

途中、見送る俺を何度も振り返りながら。

 

 

 

──大ホッケ海北方

 

占守島近海上空。

機動力と攻撃力に優れた武装ヘリに搭乗しているのは、

パイロットのカーターと俺だけだ。

鎮守府で燃料補給を受け、夕暮れ時に飛び立ったヘリは、

現在北海道北東海域を飛行している。任務は当然姫級の捜索だ。

とは言え隣のガンナー席にいる俺にできることはない。

カーターが操縦士用暗視装置で、雪の嵐が吹き荒れる大ホッケ海を、

目を皿のようにして目標を探しながら操縦している。

 

多数の機動部隊や攻撃隊が散見され、時折俺達に対空攻撃を放ってくるが、

高高度を飛行する俺達には届かないし、空母は夜間には航空機を発艦できないらしい。

今が1940年代で助かった。

奴らがスタンダード対空ミサイルやナイトビジョンを装備していたら、

既に俺達は死んでいただろう。

 

「カーター。まだ、それらしい艦隊は見つからないのか。

提督の情報によると、姫級には10以上の護衛がついているらしい」

 

「すみません。この猛吹雪で視界が悪く」

 

「焦る必要はないが、確実な索敵を頼む」

 

「ラジャー」

 

しかし、こうしてガンナー席でじっとしているのも、もどかしい。

……俺は、ベストの内部に固定している装備品の電源を入れた。

連動したヘルメットの視界が薄いグリーンに変わる。

 

「俺も手伝う」

 

「何をなさるおつもりで?」

 

「後ろに下がる。これなら肉眼でも調査が可能だ。ドアを開けるぞ」

 

「レッドフィールド隊長、危険です!」

 

俺は返事をせずに、席を下りて重いドアを腰を入れてスライドして開き、

床にうつ伏せになって、眼下の海を舐めるようにゆっくりと探し出した。

暗視デバイスがあれば暗闇でも視界が得られる。

ヘルメットの操作パネルをスライドして視界を拡大する。敵は10を越す大艦隊。

 

流氷の浮かぶ極寒の海に、無数の深海棲艦の姿が見られる。

だが、俺達の目標はこいつらじゃない。

はやる気持ちを抑えながら、地道に索敵を続ける。その時、カーターが大声で報告した。

 

「隊長、10時の方向に敵艦隊!今までと桁違いの規模です!!」

 

はっと俺はそこを見た。確かに、1エリアに多種多様、かつ大勢の深海棲艦。

俺は更に視界をズームする。重装備の護衛が守る群れの中心に、そいつはいた。

真っ白な肌を厚手のマント一枚で包み、背の高い帽子を被った異様な深海棲艦。

間違いない、奴が、姫級だ。

 

「……カーター。鎮守府に打電。“我、姫級発見せり”。現在地の経緯度も忘れるな!」

 

「ラジャー!」

 

俺は指示を飛ばしながらその存在を見つめていた。

右腕が無骨な機械の腕になっていて、背負う艤装から巨大な二本腕が伸びている。

これらもやはり鋼鉄で出来た機械仕掛けで、手の甲に三連装の大口径砲を装備している。

俺が息を呑み、彼女の姿を分析していると、ふと真っ白な女性型B.O.Wが俺を見上げた。

そして、妖しい笑顔で笑いかけてきた。そう、笑ったのだ。

 

 

 

──本館前広場

 

次の日。

俺達はあの晩、帰還後すぐさま提督に発見した姫級について詳細を報告した。

奴と戦おうにも、艦娘の選定が尾張以外まだ終わっていない。

よって協議の上、まずはB.S.A.Aのメンバーとジョーを集め、

正式な作戦を通達することにしたのだ。俺は部下達に、B.S.A.Aの部隊編成を発表した。

 

「諸君に集まってもらったのは他でもない。昨晩姫級の位置特定に成功した。

よって我々は、これより敵艦隊撃滅のための作戦行動に移る。

つまり、ジョーの救出を目的とした“インビジブル・セカンド”を解消し、

新たな司令を発動する」

 

遂に来たその時を迎え、隊員達にも緊張が走る。

 

「まず、各位の行動方針を発表する。

FGM-148ジャベリンによる遠距離攻撃担当は、ヴァイパー、カーチスのペア。

戦闘可能な状態まで回復したスコーピオン、そしてリパブリックのペア。

つまり先日の深海棲艦との戦いと同じだ。

火力に特化したジョーは、砲の届かない近距離での戦闘、

俺はジョーの援護と敵の撹乱を行い、全員の攻撃をサポートする」

 

その時、ヴァイパーが手を挙げた。

 

「発言してもよろしいでしょうか」

 

「許可する」

 

「その先日の戦闘ですが、ジョーのロボットアームは、

進化した敵にあまり効果がなかったように見えました。

自分は彼を決戦に投入するのは無理があるかと……」

 

「へへっ、そう思うだろ!ところがどっこい!」

 

ジョーが不敵に笑いながら左腕の装備を構えた。提督が前に出る。

 

「それには私が答えよう。その心配は不要だ。彼は新たな力を手に入れた。

例のアイテムボックスに新型のAMGが送られたんだ。

私も昨日知らされたばかりなのだが、

ダミーを標的にした実験では威力が十倍以上に向上していた。

間違いない、彼はもうフラグシップも敵じゃない。まさに敵は姫級だけだ」

 

「その通り、既に全員戦う準備はできているということだ」

 

もう、部下は全員沈黙し、覚悟を決めた。

アサルトライフルを肩に掛け、直立不動で整列している。

それを認めると、俺はもっとも重要な事柄を通達した。

 

「では、この最終決戦を迎えるに当たって、

この超大型B.O.W撃滅作戦の作戦名を発表する」

 

 

 

──本作戦名は、“Not A Hero”とする

 

 

 




お詫び:
尾張の廓言葉は多分間違いだらけです。調べられるだけ調べてはみたのですが、
何ぶん情報が少なくて…申し訳ありません。

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