艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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Tape6; Drumfire

「……なるほど、つまり自分の縄張りをうろついていた部下を殴り飛ばして、

デバイスを奪ったと」

 

「だから、そうじゃねえ!

あいつが見ろって言ったんだ。そしたらいきなり気分が悪くなってここにいた」

 

あれから驚いた俺達は、ヘリから降りた連中を追って本館に戻ったら、

長門に連れられて執務室に放り込まれた。

今、俺はガスマスク野郎の親玉から執務室で尋問を受けている。

正面に提督とクリスとか言う親玉。隣にはテストがいる。長門?悪いなそこで立ってろ。

この椅子は二人がけなんだ。そんな目して睨んでも無駄だ。テストには重要な話がある。

 

「偶然隠しフォルダーの設定を解除して、適当に入力したパスワードがヒットして、

よりによってあの動画を再生したと?」

 

「んなもん知らねえよ。適当にいじったらカラーバーだ。ありゃ一体何だ」

 

「お前がこうなった原因、としか話せない」

 

「ああ、クリスすまない。実は彼にイーサンの件については大方話してしまった。

ビデオテープやルーカスのことについてもね。

彼に自分の身に起きたことについて納得してもらう必要があった」

 

「そうか……あまり民間人に公にはしたくなかったのだが」

 

提督とクリスが話し込んでいる。

こっちもこっちで重要な話があるから早めに切り上げてくれ。

テストが不安そうに俺達を見てる。

 

「お前が見た映像は、

そのビデオテープの映像をデータ化して共有フォルダーに保存していたものだ。

もういいだろう、俺達の世界に帰るぞ。

……提督、騒がせたな。日没後に俺達はまた転移して帰還する」

 

「うん、見送るよ」

 

クリスが立ち上がって、ついてくるよう促すが、当然俺が行くはずもねえ。

 

「行かねえよ」

 

「何故だ。本来俺達はここにいるべき存在じゃないことはわかっているだろう」

 

「……提督、なんであのことを言わねえんだ」

 

「あのこと、とはなんだい?」

 

「すっとぼけんじゃねえ!

なんで姫級が日本に迫ってることを黙ってたのか聞いてんだ!」

 

俺がテーブルを殴ると、長門と提督が目を丸くする。

わけのわからないクリスは眉をひそめ、

テストは胸の前で両手を握って悲痛な表情を浮かべている。

提督は顎を触りながら次の言葉を探し、ようやく口を開いた。

 

「どこで、その話を?」

 

「工廠の明石って女だ!

そいつとの戦いに備えて、あんたが最強の艦娘を作ろうとしてることも全部だ!」

 

「あ、提督……明石さんは悪くないです。

ジョーを工廠に連れて行ったのはワタクシです」

 

「いいんだ。……ジョー、それについて話さなかったのは、

恐らく近いうちにB.S.A.Aが迎えに来る可能性が高いと思っていたからなんだ。

現にこうして救出にきてくれたじゃないか。それに、姫級の駆逐は我々の仕事だ。

君達とは無関係だ」

 

「無関係だと!?もう深海棲艦だろうが黒カビクソ野郎だろうが、

同じB.O.Wとして対処することになったはずだろう!特にカビ野郎が問題だ!

元々俺達の世界から現れたバケモンをよその世界になすりつけて、

助けが来たからてめえだけ帰れって、そう言いてえのか!」

 

「落ち着けジョー!

提督はお前の身を案じているのだ。気持ちはわかるが、ここは退くべきだ」

 

「お断りだ!最悪、カビ野郎全部とスワンプマンをぶっ殺すまでは帰らねえ!」

 

「ちょっと待て。スワンプマンとはなんだ」

 

クリスが話に割り込んできた。

まあ俺達が勝手に付けた名前だから、伝わらねえのもしょうがねえが。

 

「俺達が名付けた新型だ。お前らが知ってるかどうかは知らんが、

全身を白っぽい皮で包んで、いろんな寄生虫をくっつけてる。

それで、こっからが肝心だ。奴には喋れないまでも知性がある。

戦い方がプロの格闘家のそれに近い。技、足運び、防御。

考えなしにできることじゃねえ」

 

「知性ある新種か……少なくともB.S.A.Aのデータベースには存在しない。

ジョーはどうやってそれと戦った?銃を持っているようには見えないが」

 

「こいつだよ」

 

俺はAMG-78αを取り出して見せた。

すると、クリスが脇に抱えてるヘルメットから声が聞こえてきた。

 

『クリス!その装備は一体どこで?アンブレラが開発中の試作品です!』

 

「知っているのか?」

 

『ロールアウト直前に技術開発部から紛失しました。

他にも数点の装備が持ち去られた形跡が』

 

「そんなことは聞いてなかったぞ。他には何が?」

 

『ショットガンM21、そしてムラマサの2つです』

 

「ショットガンはわかるが、ムラマサとはなんだ?」

 

「ああ、そいつに関しちゃ俺から説明する」

 

いきなりどっかと通信を始めたクリスに、俺は腰のムラマサを見せた。

淡くピンクに光る刀を端から端まで見つめるクリス。

 

「こいつにゃあな、斬りつけた奴の血を吸って生命力に変える効果がある」

 

「冗談はやめろ」

 

「本当だ。嘘だと思うなら赤城に聞いてみろ。

血ヘド吐くまで痛めつけられた俺がピンピンしてるのも、こいつのおかげだ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「使いすぎると気が狂って相手を殺すことしか考えられなくなる。

だからこれを使うのは本当にヤバい時だけにすることにした」

 

「……提督、赤城という人物に話を聞くことはできるか?」

 

「それには及ばないよ。私も同行した艦娘から話は聞いている。

彼女は嘘や冗談をいうタイプじゃない。保証しよう」

 

その時、ヘルメットからまた通信が届いた。こいつらは一体どうやって交信してるんだ?

 

『クリス、その話は本当です。その刃はアンブレラの捜索隊が発見したもので、

ムラマサという名は本部から付けられた仮称です。

電気ショックで気絶させた牛を用いた実験では、確かに生命体を攻撃した場合に、

急速に止血、造血、体細胞の再生を促す作用が認められました。

そして装備した者の脳波に干渉して、

凶暴性を急激に上昇させる副作用も確認されています』

 

「そんな話は聞いていない。発見したのはいつだ」

 

『あなたの部下の捜索が始まったのとほぼ同時期。隊員が沼地で不審な人影を発見し、

追跡して見失ったところで、それを発見したとのことです』

 

「人影だと?」

 

『ええ、確かに人間の後ろ姿だったそうなのですが、

とんでもない速さで駆け抜けて行ったとのことです』

 

「なぜ出撃前に報告しなかった」

 

『それは……作戦目標とは無関係ですし、

ムラマサに付着している物質の分析もまだ済んでいなかったので』

 

「分析が完了したら、また何か造るつもりじゃなかったのか。

少なくともB.S.A.Aに報告を上げる時間はあったはずだ」

 

『聞いてクリス。もう我々はアンブレラであってアンブレラじゃないの。

前にも話したじゃない。

本部に上げようにも、実物が紛失したからどうしようもなかったのよ』

 

「傘の色が変わろうが、アンブレラは執行猶予付きの有罪判決を受けた企業に過ぎない。

B.S.A.A管理下のもと、バイオテロ被害者への賠償と、

バイオテロ撲滅のためにだけ武力を行使することが許されている。

B.S.A.A認可外の研究開発は厳禁だ。それを忘れるな」

 

『だからクリス、付着物質の正体がカビの汚染と……いえ、いいわ。

続きは帰ってからにしましょう。話を続けてちょうだい』

 

「その前に、関係者全員の身辺調査を行うんだ。

ムラマサはともかく、ロボットアームはアンブレラの開発品だろう」

 

『もうやってるわよ!』

 

剣呑な雰囲気だな。なんか喧嘩をおっ始めやがったぞ。

そういやこいつら、アンブレラのヘリに乗ってきたが、

結局B.S.A.Aなのかアンブレラなのかどっちなんだ?

 

「戻る前に犯人を見つけるんだ!切るぞ。

……はぁ、済まない。すっかり話が脱線してしまった。

確か、スワンプマンという新種のB.O.Wと、

なぜかジョーがアンブレラの試作品を持っているという話だったな」

 

少し興奮気味のクリスがコップの水を飲んで続けた。

 

「うむ、ジョーの装備品は1階のアイテムボックスに入っていた。

彼自身には何の心当たりもないようだが」

 

長門が補足する。そうだ。このAMG-78αとムラマサは、

俺のものにしか見えないあの箱にいつの間にか入ってた。

 

「アイテムボックスか……

イーサンにEネクロトキシンを届けるために使用した箱が、今回も?」

 

「そうなんだ。1階の階段隅にある。今回もジョーがこの世界に来る少し前に現れた」

 

「状況としてはイーサンのケースとほぼ同じ、か……」

 

クリスが腕を組んで考え込む。だが、やっぱり浮かび上がるのは一つの疑問。

 

「なぜルーカスが死亡した今になって、こちらの世界のB.O.Wが現れるようになった?」

 

「それについては散々協議したけど、やっぱり答えは出なかったよ」

 

そこで俺は一番肝心な問題をぶつける。

 

「それで結局お前らはどうするんだよ。俺は帰るつもりはねえ」

 

そして、悩みに悩んだクリスが告げた。

 

「B.S.A.Aはバイオテロ鎮圧及び抑止を目的として結成された組織だ。

モールデッドが出現し続ける状況を見過ごすわけにはいかない。

出現次第排除、そして発生ポイントを特定・破壊する必要がある。

……提督、今回は少し長丁場になりそうだ。

この場所をしばらくの間貸してもらえるだろうか」

 

「もちろんだとも。B.O.W撃滅のスペシャリストがいると心強い。

3階の部屋は全て客室になっているから、好きな部屋を使ってくれ。後で鍵を渡そう」

 

「すまないな」

 

「おーし、やったぜ!テスト、俺達は必ず自分の世界のB.O.Wを殲滅する。

お前達は安心して姫級との戦いに集中しろ」

 

「……絶対、無理はしないでくださいね」

 

テストがそっと俺の手を握って言った。

……そう言えば、年の頃はゾイと同じくらいだな。

 

「だが、危険な真似はするな。お前はあくまで民間人。

モールデッドとの戦いは俺達の仕事だ」

 

「邪魔はしねえよ。敵を見つけてぶん殴る。それ以外のことはしねえ」

 

「いいのかい?彼を連れて帰らなくて」

 

「イーサンの事件で何度も時空を転移した影響が世界の壁に現れている。

転移は次の1回で最後にしたい」

 

「そうか。それまでの生活については心配しなくていいよ。

本来の任務に尽力してほしい」

 

「重ねて礼を言う。では、一旦俺達は失礼する」

 

すると、クリスがまたフルフェイスのガスマスクを被り直した。

そして立ち上がった直後、昨日聞いたばかりのサイレンが鳴り響く。

また、スワンプマンか?

 

《警告!鎮守府内全域にB.O.W発生!

総員第一種戦闘配備、発見次第敵性生物を排除せよ!繰り返す……》

 

「来やがったな、スワンプマン!」

 

「全員出動だ。2チームに分かれて敵を相当する。

ヘリオス隊は敷地の北西、俺を含むマスタング隊は北東エリアで迎え撃つ。

地形は頭に叩き込んであるだろうな」

 

“はっ!”

 

クリスが部屋の外で控えていた隊員に指示を飛ばす。

となると、当然残りの南側は俺の担当ってことだ。腕が鳴るぜ。本当に鳴るんだが。

馬鹿なことを考えているとクリス達に先を越された。

もう階段を下りて外に出るところだ。

俺も執務室から飛び出そうとすると、テストに呼び止められた。

 

「待ってください!ワタクシも戦います!」

 

「やめとけ。さっき工廠で聞いたような出来事が目の前で起きるんだぞ」

 

「それでも、ワタクシは……大丈夫です!約束したんです、戦うって!」

 

「……いいか?絶対俺より前に出るんじゃねえぞ。

ただ突っ込んでるように見えてるだろうが、安全危険を考えて間合いを取ってる」

 

「はい、攻撃はこの子達がしてくれます!」

 

テストは懐から小さな戦闘機の模型を2つ取り出した。

それで何がしたいんだ、と言いかけたが、

彼女達の装備が見た目以上の能力を持っていることを思い出した。

 

「じゃあ、背中は頼んだぜ!」

 

「はい!」

 

「ジョー、気をつけろ!すまないが私は提督をお守りしなければならない。

ここにB.O.Wが乗り込んでこないとも限らないからな!」

 

「おう、長門も後は任せた!」

 

そして、俺とテストは本館から飛び出す。目の前はまさに地獄。

艦娘とB.O.Wの総力戦が繰り広げられていた。

四方から機銃弾、主砲の砲声、バケモンのうめき声が聞こえてくる。

くそっ、とにかく殺すしかねえ!広場を見回すと、見知った顔がいた。

 

「おい、駆逐艦はオレの後ろから機銃を浴びせろ!

隙のでかい主砲は俺に任せて、ヤバくなったら迷わず後退だ!」

 

「任せて!」「なのです!」「当たって!」

 

天龍が水兵服を来た子供3人とグループでモールデッドの群れと戦ってる。

やべえな、数が多すぎる。普通のやつ4体、右腕が刃になったやつ3体。

それと……また新型か?両腕が刃になった奴2体が約10m間隔で迫ってる。

普通のやつは天龍達に任せるとして、俺達は後続の新型を片付けねえと対処が遅れる。

鋭い両腕を食らうと間違いなくやべえ。

 

「テスト、お前の航空機で何ができる!?」

 

「瑞雲とLaté 298Bで機銃掃射と爆撃ができます!」

 

「あの両腕が硬そうな奴をぶっ潰してくれ、俺は真ん中に奇襲する!」

 

「はい!」

 

返事を聞くと同時に、俺は跳ねるように駆け出した。

中央の片刃のグループに、わずかに15度程度後方から接近し、1体目に飛びかかる。

そして肩を掴んで膝を付かせ、両腕の筋肉に瞬間的に全力を込めて首をへし折った。

こいつらは耳がねえから、視界にさえ入らなきゃ先制攻撃は楽勝だ。

 

ヴェアアアア……

 

流石に他の2体が気づいて俺に刃の腕を振り下ろすが、やっぱり遅え。

AMGで力を増した左腕と鍛えた右腕で猛烈なパンチの連打を仕掛ける。

攻撃態勢を崩され、後ろに倒れる2体目。となれば、やることは一つだ。

右足で思い切り頭部を踏み潰す。だが、ちょっと懐に入りすぎたみてえだ。

3体目の攻撃に回避が間に合わねえ。とっさに両腕でガードする。

 

叩きつけられた重く鋭い刃物をどうにか両手で受け止めたが、すげえ痛え。

痛みを振り払うように軽く左手を振って、左右の状況を確かめる。

左、天龍達が普通のモールデッドを殲滅する寸前だ。もう心配はいらねえだろう。

右、新型の両腕刃が接近中だ。チッ、実質3体の相手は結構キツそうだ。

 

その時、マフラーを外したバイクの排気音のような爆音が降ってきた。

見上げると、一対のフロートを備えた航空機が急降下してきた。

2機の航空機は空から機銃掃射を行い、新型2体に鉛玉の嵐を食らわせる。

なるほど、テストが持ってた模型か。

新型は上空からの急襲に少なからずダメージを受け、ふらついてる。

1体は片方の腕を弾き飛ばされた。チャンスだ。

 

《チャージ開始》

 

まずはこいつを片付けねえとな。

俺は片刃のモールデッドから数歩距離を取り、AMG-78αにチャージを始めた。

焦るな。こいつらは四つ足を除いて基本的に走ることもできねえ。

両腕もテストが足止めしてくれてるから問題ねえ。

片腕がノシノシとこっちに近づいてくる。

来いよ、あと3秒くらいでテメエをぶちのめしてやる!

 

《チャージ完了》

 

おし!奴が右腕を振り上げた瞬間、俺が左腕を放った。衝撃波で周囲に一陣の風が吹く。

一瞬の差で、機械の腕が敵の頭を粉砕する方が早かった。

肉片とヘドロを撒き散らしながら、モールデッドは右手を上げたまま後ろに倒れた。

 

はしゃいじゃいられねえ。状況を確認。左、天龍隊が普通のモールデッドを殲滅。

俺に向かってなんか叫んでるが、あちこちで弾ける銃声で聞こえねえ。

ん、右だ?……なんてこった!両腕野郎がテストに迫ってやがる!

 

俺は急いで駆け出し、助走を付けて、

片腕をもがれた1体にドロップキックを食らわせた。

重心に飛び蹴りを食らったそいつは、真横に倒れる。

倒れたってことは、次にやることはいつもと同じだ。

 

「オラァ!」

 

残った刃の腕を根本から踏み潰して無力化する。頭狙ってる暇がなかった。

構わず最後の1体に向き合い、拳の連打。

だが、すぐに死んでくれるほどヤワでもねえみてえだ。

俺の拳を浴びながらも、奴は刃の両腕で二回連続攻撃を放ってきた。

接近戦だから避ける間もなく、両腕でガード。ちくしょう、やっぱり痛え。

血が飛び散って顔にかかる。

 

「ジョー!しっかりして!」

 

「下がってろテスト!奴の相手はこの俺だ!」

 

この程度の怪我でムラマサを振り回すわけにはいかねえ。今は赤城もいねえしな。

なら、迅速にぶっ殺す、それだけだ!俺は改めて攻撃に転ずる。

左、右、そして、右の素早い連打から繰り出すジャブをぶちかました。

すると奴の片腕が根本からちぎれた。

 

キシャアア!

 

ははん、ブレードは硬そうだが、付け根は見た目ほどの耐久力はないのかもしれねえ。

ならこいつを試してみるか。

 

《チャージ開……》

 

チャージ完了を待たずに、そこそこ充填したAMGのパワーを、

残った腕に何度も何度も叩き込む。苦しみながら奴が後退する。

なるほど、限界が近いってわけか。今、楽にしてやるよ!

俺は左右の拳で最後のラッシュをお見舞する。

 

「オラオラオラオラ!!」

 

すると、ブチィッ!という気色悪い音と共に奴の腕がちぎれ、

はるか遠くに飛んでいった。金切り声を上げて苦しむモールデッド。

こうなったらもう通常種と変わらねえ。

俺は、地面を這いつくばっている始めの1体の頭を踏み潰すと、

今度こそAMGにエネルギーを最大まで溜め込む。

 

《チャージ開始》

 

チャージ開始と同時に、

俺は苦しみながらうろつく元両腕モールデッドの腹を蹴り飛ばして距離を取った。

奴がつまづいて後ろに倒れる。

2段階目!コアが唸りを上げてさらにエネルギーを増大させる。

立ち上がろうとするモールデッドを蹴飛ばし、片足で踏んづけて地面に固定する。

両手を失った奴に逃げる術はねえ。

 

《チャージ完了》

 

とうとうさよならだ。俺は左腕を構え、モールデッドの頭部に狙いを定める。

 

「あばよ、なかなか面白かったぜ」

 

そして、俺はフルチャージしたAMG-78αの力を乗せた左拳を地面に叩きつけた。

拳はバケモンの頭だけでなく、真下の石畳も粉々にして、

爆発音のような巨大な音と爆風を巻き起こした。

皆、風に煽られないように身を低くする。

後に残ったのは、頭のなくなった敵の死体と砕け散った石畳。

周りを見て敵の姿が消えたことを確認すると、天龍が駆け寄ってきた。

 

「なんだよ、誰かと思ったらやっぱりジョーじゃねえか。

危ねえだろ、機銃の射線上に入ったら」

 

「考える前に身体が動いちまうタイプでな。

ところでこのバケモン共はどっから来たんだ?」

 

「年寄りが無茶すんじゃねえぞ。とりあえず今の敵は、西の雑木林から押し寄せてきた。

たまたまここで遊んでたオレ達が応戦してたけど、後の展開は説明するまでもないだろ」

 

「悪りいな。こいつらは俺が片付けなきゃならねえんだよ」

 

「ま、みんなも無事だったしいいけどな」

 

天龍の周りに、いつの間にか一緒に戦ってた子供たちも集まってる。

 

「本当に拳で怪物と戦うなんて、何考えてるの!?」

「あんまり、おっきな音は出さないでほしいです。びっくりしちゃいます……」

「一人で無茶はなさらないでください。今度は、三日月達の武器も効くんですから」

 

「あー悪かった。これからはできるだけ静かに殺すように頑張る」

 

「反省してねえだろ」

 

「そうです!両手だって血が出てるじゃないですか!ほら、このハンカチを……」

 

テストもお冠だ。

心配してくれてるのはありがたいが、後ろから大声出すなよ。びっくりするだろ。

 

「心配いらねえ」

 

俺は道具袋から回復薬を取り出すと、ドボドボと腕に振りかけた。

数回のガードで出血し痛めた腕が、瞬時に止血され腫れも引いていく。

すっかり治った腕を見せてとりあえず皆を安心させる。

 

「へぇ。色々持ってんだな、ジョー。それ、お前が作ったのか」

 

「ああ。触媒になる薬液とイモ……肉を調合すると、

相互作用で滋養強壮効果が倍増する。それより、こいつらは西から来たって言ってたな」

 

「そうだ。雑木林からワラワラと湧いて来やがった」

 

俺は針葉樹が生い茂る雑木林を見つめる。

今はモールデッドの姿もないが……わかるぜ、あいつの気配がよ。

何も言わず遊歩道に足を踏み入れる。

 

「待ってください、ジョー!一人で行く気なんですか?

林の中では航空機での援護が……」

 

「いらねえ。あいつとは俺がケリを付けなきゃいけねえんだ。

天龍も他の奴を手伝ってやれ」

 

「でもよう……ん~!絶対死ぬんじゃねえぞ!」

 

「当たり前だ、俺のKO勝ちに決まってる」

 

後ろに手を振ると、俺は薄暗い雑木林の奥に進んでいった。

 

 

 

 

 

少々時を遡る。

クリス・レッドフィールド率いるマスタング隊3名は、

艦娘宿舎を中心とした北東エリアを目指して坂道をひた走っていた。

道中に出現したモールデッドを、隊員がアサルトライフルの集中砲火で貫きながら、

敵の集まるエリアを探していた。

 

すると、やはり大勢のモールデッドが艦娘宿舎に向けて、

よたよたとした足取りで集まっていた。

艦娘達も応戦しているが、百鬼夜行の如く迫りくる数に押され気味だ。

クリスはすかさずグレネードのピンを抜き、モールデッドの列に投げつけ、

艦娘達に叫ぶ。

 

「伏せろ!」

 

次の瞬間、炸裂したグレネードがモールデッド数体を粉砕し、敵の列を乱した。

その隙に艦娘達と合流したクリス達。

皆、突然現れた兵士3人の姿に驚くが、ヘリからの放送を思い出し、

すぐに平静さを取り戻す。加賀がクリスに問いかけた。

 

「貴方達が、B.S.A.A?」

 

「アルファチーム隊長、クリス・レッドフィールド。

ここは敵を二分するべきだ。一つに固まると押し切られる」

 

「ちゃんと銃は持っているんだろうな?無鉄砲な命知らずはジョーひとりで十分だ。

こちらの寿命が縮む」

 

「こいつが見えないか?」

 

クリスは、バレルに多数の吸気口が開いた大型ショットガン、

トールハンマー<A.W.モデル02>を武蔵に見せた。

 

「なるほど、それが70年後の武器か。陸軍のやつらが喜びそうだ」

 

「立ち話をしている暇はない。俺達は南に周る。

お前達は引き続き宿舎の防衛に当ってくれるか?」

 

「任せておけ」

 

クリス達が南側に迂回すると、体勢を立て直したモールデッドの列が二手に分かれ、

一方がマスタング隊、もう一方が艦娘に向かい、艦娘達の負担が軽減された。

そして、クリス達が押し寄せるモールデッドに銃を向ける。

 

「ファイア!」

 

両脇の隊員はアサルトライフル、

クリスは強力なハンドガン・サムライエッジ<A.W.モデル01>で正確に敵の頭を狙い撃つ。

時折、頭部への銃撃に耐えきった敵が、よろめきつつ体勢を立て直そうとするが、

 

「はぁっ!!」

 

瞬時に間合いを詰めたクリスが鉄拳を叩きつけ、

周囲の敵を巻き込みつつモールデッドを粉砕する。そろそろ敵の数が増えてきた。

クリスは武器をサムライエッジからトールハンマーに切り替え、

ブレードモールデッド、高速で這い回るクイックモールデッドを、

12ゲージ弾の衝撃波と散弾で粉々にする。

装弾数の多いトールハンマーは、敵にほとんどリロードの隙を見せることなく、

マスタング隊に向かってくる敵を確実に仕留めていった。

 

 

 

 

 

一方艦娘達も、B.S.A.Aの加勢で敵戦力が分散され、状況が好転した。

 

「くそっ、結局パンチじゃないか!」

 

武蔵が15.5cm三連装副砲の三連射を、

ファット・モールデッドに正確にヒットさせながら愚痴る。

深海棲艦用の武装をまともに食らった肥満体は爆発する間もなく吹き飛んだ。

 

「フッ、戦い方まで力づくとは、アメリカ人らしいな」

 

グラーフ・ツェッペリンが、腰のケースからカードを1枚ドロー。

艤装の飛行甲板にセット。すると、カード情報が実体化し、戦闘機・Bf109T改に変化。

機体は瞬時に加速して飛び立ち、モールデッドの群れに襲いかかった。

 

Bf109T改は敵の上空から機体をガタガタ揺さぶりつつ20mm機関砲を発射。

無数の焼けた機銃弾が密集したモールデッドに突き刺さる。

機体が飛び去ると同時に体液、肉片が舞い上がり、着実に数を減らしていった。

その時、南の方角からドォン!という轟音が響いてきたので、

思わず二勢力とも、本館の方を見た。

 

 

 

 

 

そして。

 

「てめえ……さっきはよくもやってくれたな」

 

俺は両手の指を鳴らしながら、奴と対峙する。薄暗い林の中。

そいつはじっと立って待っていやがった。まるで俺が来るのを知ってたみたいにな。

いいじゃねえか。やろうぜ、第2ラウンドだ!俺が地を蹴る、奴が拳を振りかぶる。

タイミングは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

──大ホッケ海北方

 

占守島近海。

吹雪や流氷の絶えることのない極寒の海で、彼女は護衛を下がらせ、ひとり佇んでいた。

その白い肌にただ一枚のマントを羽織り、瞳を閉じて何者かと心を通わせている。

 

『私の声が聞こえる?あいつらがそっちに行った。きっと貴女のところにも、すぐ』

 

「モンダイハ ナイ ワレワレノ ショウリガ ユラグコトハナヒ」

 

『エヴリンが殺された。奴らに殺された。みんな殺して、必ず。今度は、私達の番』

 

「イハレナクトモ カンムスモ ニンゲンモ ワレラガ ウツ」

 

『そう。自分の都合で私達を造り、殺し、また造る。

創造主を気取る人間達を、全て消し去るの。そのために、私の欠片をあげたんだから』

 

「ワルクナイ オマエノ チカラ オモシロヒ」

 

彼女は、その細指を滑らせながら、自らの腕を眺める。

無限の命を得た自分に不可能はない。日本は既に我が手中。

今度は彼女が問いかけた。

 

「オマエハ ナニモノ ナゼ ワレワレニ クミスルノカ」

 

僅かな間。そして帰ってきた答え。

 

『私も、生まれたかったの』

 

「……オマエトハ ワカリアエル キガスル」

 

『それじゃあ。今日はこれが精一杯。そっちの動きは任せるわ』

 

「マテ」

 

『なあに?』

 

「オタガイ ナナシ デハ フベンデ アロウ ワタクシハ 北方水姫 オマエハ?」

 

『そうね……奴らは名前なんてくれなかったけど、Dorothy(ドロシー)と呼んで』

 

「ソウカ ドロシー マタ レンラクヲ ヨコセ」

 

『わかった。じゃあね』

 

ドロシーと思念での会話を終えた北方水姫は、また流氷の広がる北の海に視線を戻した。

この生命の存在を否定するほど凍える海が、やがて灼熱の炎に包まれるのだが、

それはまだ先の話である。

 

 


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