艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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Tape5; Rest Easy

不思議な事は続くものなのですね。また、異世界からの訪問者が現れるなんて。

昨日いらしたばかりできっと困っていることも多いはず。

今度はワタクシが力を貸して差し上げたいです。どんな方なのでしょう。

期待を込め、大きくて重い本館のドアを開きます。

……すると、なんだか2階から怒鳴り声が。

 

“とにかくやることがないなら、鎮守府を巡回してB.O.Wの痕跡を探してこい!”

 

“お前にゃ年寄りをいたわろうって気はねえのかよ!

2回連続で死ぬ思いして戦ってきた年寄りをよ!!

大体そういうのはツーマンセルでやるって話だっただろうが!”

 

“私には提督と片付けなければならない執務が山ほど残っている!

主にお前が暴れた事件を上層部から巧妙に隠蔽する作業がな!”

 

“ああそうかよ!B.O.Wを追っ払ったケツを拭いてくださって涙が出るほど感激だ!”

 

“ブチ殺したの間違いだろう!いいからスワンプマンが現れた海岸の辺りを”

 

“行きゃいいんだろ!!”

 

バタン!

 

えーっと……なんだかすごく怒ってるみたいです。どうしよう。

大きな足音がどんどん近づいてきます。

ワタクシは何もできないまま立っていることしかできませんでした。

 

 

 

こんにゃろう。

最近の若えもんは、ジジイに対する敬意とか優しさってもんが欠けてやがる。

破裂寸前のステイクボムを綺麗にラッピングして、

長門にプレゼントしてやろうかとすら思えてくるぜ。大股で歩く足にも勝手に力が入る。

 

AMGの衝撃波で片側の手すりが壊れた階段を下りて、外に出ようとすると、

ドアの前で誰かがじっと立ってる。変な姉ちゃんだ。

フランス国旗みたいに前髪を染めて、全体的にふっくらした感じの装いだ。

俺には女物のファッションなんざわからねえが。

 

「ああ、姉ちゃん。悪りいが通してくれねえか」

 

「え?あ、すみません!」

 

「ちくしょう、海岸の近くで昼寝でもするか。

一度あいつにAMG食らわせてやりてえよ、ブツブツ……」

 

「あ、そうじゃなかった!待ってください!」

 

「あん?」

 

フランスみたいな姉ちゃんに呼び止められた。

会ったこともねえジジイに声をかけたってことは、やっぱりあれか?

 

「イーサンのことなら知らねえぞ」

 

「違うんです。イーサンのことも関係はあるんですけど……

あなたが、異世界から来た人、なんですよね?」

 

「そうだが、どっかで会ったか?」

 

「いいえ、はじめましてです。ああ、よかった!

ワタクシ、コマンダン・テストと言います」

 

「ジョー・ベイカーだ。ジョーでいい。こんな年寄りに何の用だ?」

 

「はい。あなたがB.O.Wと戦いながら、

向こうの世界に帰る方法を探していると聞きました。

もし良かったら、ワタクシが鎮守府をご案内しようと思いまして。

ここは、とっても広いです。いざという時、場所がわからないと困るんじゃないかと。

あの、あなたさえよければですけど……」

 

おっと、親切なやつもいるもんだな。

確かに、ここに来てから行ったとこと言えば、宿舎と本館周りと海岸くらいだ。

ざっと見回したが、他にも建物が色々あった。

なんかあったとき、どこ行けばいいのかわかりませんじゃ話にならねえからな。

ここは素直に厚意を受けるとするか。

 

「ありがてえ。よろしく頼む」

 

「はい!まず、Arsenal(工廠)から案内しますね。ワタクシの友達もいるんです」

 

「Arsenal?その発音はフランス語だな。コマンダンはフランス人なのか?」

 

「あ……ワタクシの名前はコマンダン・テストで一繋がりなんです。

長いのでテストと呼んでください。はい、フランス出身です」

 

「ああ、そういや艦娘には、

ファミリーネームやファーストネームの概念がないって聞いてたな。頼むぜテスト」

 

「はい!」

 

それで俺達は本館から出て、東側の道路に抜けて、

コンクリートで舗装された道を南に歩き始めた。途中自己紹介がてら雑談する。

 

「あんなとこで待ってたってことは、わざわざ俺を案内するために来たってことか?」

 

「はい。ワタクシも初めてここに来た時、イーサンに色々助けてもらったんです。

だから、また異世界の人が来たと聞いた時、今度はワタクシが助けになろうと」

 

「若えのに感心だな。長門にも聞かせてやりてえもんだ。

今日だけで2回もB.O.Wと殺し合いして疲れてる俺に、暇なら調査に行ってこいだとよ」

 

「じゃあ、さっきの警報はやっぱり……?」

 

「B.O.Wだ。深海棲艦でもねえ新型。しかも知性まで持ってやがる。

まるで格闘技の心得がある人間みたいな動きだったぜ。

俺達はスワンプマンって呼ぶことにしたが」

 

「そんな!イーサンがウィルスを全滅させたはずなのに、どうして……」

 

「それを俺達が調べてる。まだ何も分かっちゃいないがな。

……お、もしかして工廠ってあそこか?」

 

俺は大きなシャッターが開け放たれた、

バーナーの音や鉄を叩く音が聞こえる建物を指さした。

 

「はい、そうです!ワタクシ達艦娘や、装備品を作っている、大切な場所なんです」

 

それで、俺達は工廠に足を踏み入れたんだが、そこでとんでもなく奇妙な物を見た。

天井から鎖で吊られている砲身や装甲板にたくさんの小人が張り付いて、

溶接したりドリルで削ったりしてやがる。

足元でも忙しなく同様に小人達が走り回ってなんかの作業をしてる。

 

「うぉい!こりゃあなんだ!?」

 

「工廠で働く小人さんです。

この世界に艦娘建造技術がもたらされたと同時に現れた、不思議な子達です。

お話しはできないんですけど、かわいいですよね」

 

「ふーん、こいつらがなあ……」

 

俺は足元を駆け回る一匹を捕まえて眺めてみた。

驚いたそいつは俺の手をペチペチ叩いて逃げようとする。

ちょっと待てって、お前らのことが知りてえんだよ。

 

「ああ、だめです!乱暴なことはしないでください」

 

「別に何もしてねえ、見てるだけだ」

 

実際こいつはなんなんだ?B.O.Wもそうだがこいつも調べる必要がありそうだぞ。

テストもなんか当然のように見過ごしてるが。

 

 

「ちょおっっと待てえええい!」

 

 

その時、デカい声でピンクの長い髪を振り乱した女が駆け寄ってきて、

俺から小人をひったくった。

 

「小人ちゃんになんてことするのさ!この子達に何かあったら許さないよ!」

 

小人を近くの脚立に乗せながら俺を睨む謎の女。おーい、こいつは誰なんだテスト。

 

「ああ、明石さん……ごめんなさい。

彼、小人さんに興味があって、悪気があったわけじゃないんです」

 

「あれ、コマちゃんじゃない。この変な爺さんと何してるの?」

 

「知り合いか、テスト?」

 

「紹介します。彼女はこの工廠の責任者、明石さんです。明石さん、ごめんなさい。

彼、この世界のことにまだ不案内で、ワタクシが鎮守府を案内していたんです」

 

「えっ、この世界ってことは、彼が色んな所を騒がせてる2番目の転移者?」

 

「そうらしい。イーサンって奴が先に来たらしいが、最初に言っとく。俺は何も知らん。

自己紹介が遅れたな。俺はジョー。ジョー・ベイカーだ」

 

「ふぅん。見たところ漁師のお爺さんだね。

今度はワークベンチも破砕機も期待できそうにないか……まぁ、適当に見てってよ。

機械には何も触らないでね。それじゃあ」

 

とぼとぼと俺達を置いて去っていく明石。

まぁ、あんまり歓迎されてねえみたいだから、とっとと次に行くか。

 

「テスト、他の案内を頼む。長居しないほうがよさそうだ」

 

「え、もういいんですか?」

 

「俺にしたって、見ててそれほど興味のあるもんでもねえしな。

機械はAMG-78αで十分だ」

 

すると、奥からドドドドと猛烈な勢いで先ほど引っ込んだ明石が舞い戻ってきた。

 

「何、何、なんなのその素敵な名前!?」

 

「おい、なんだ、どうした一体!」

 

「あんまり美しい型番だから一発で覚えちゃったわ!AMG-78αって何?」

 

「今出すから落ち着け!」

 

俺はしがみついてくる明石を押しのけて、

戦闘中以外は邪魔くさいから外して道具袋に入れておいたAMGを取り出す。

すると、機械の腕を見た明石の目が輝き出した。

 

「うわあ……動力部が放つまばゆい光、

そして頑丈でありながらピッタリ腕にフィットする可動部!

ねえ、これって一体どんな効果があるの?ねえねえ教えてよ!

教えてくれたらお茶くらい入れるからさ!」

 

「落ち着けって言ってんだろ!

……こいつはな、装着すると筋力を何十倍にも増幅して、

ドでかいパンチを食らわせる強力な兵器だ」

 

「それじゃあ、昨日のB.O.W襲撃事件で生身で戦った人って、もしかしてジョー?」

 

「いや、それは拳で殴ったり踏み潰したり、後ろを取って首をへし折って殺した。

AMGは昨日の晩、本館のアイテムボックスで手に入れたばかりだ。

実際こいつをぶっ放したのは、レ級とかいう奴を殺した時と、

さっきの警報にあった新型と戦った時だけだ」

 

「えっ……それって、冗談だよね?レ級と新型以外は素手で殺したってことになるよ?」

 

「何がおかしい。新型は取り逃がしたがな」

 

「何が、ってねえ?コマちゃん……コマちゃん?」

 

俺がAMGの能力と、入手した経緯を説明していたら、

テストがまばたきもせず棒立ちになっていた。どうした、寒いのか?

 

「コマちゃん!大丈夫?」

 

「あ、ごめんなさい。信じられない話ばかりで……」

 

「まぁ、実際こいつの威力は目を見張るものがあるからな。

フルチャージしたらフード野郎の頭部が一発で粉々になって脳や目玉が」

 

「血生臭い話、終了!コマちゃんが耳塞いで現実逃避始めちゃったじゃない!

……それよりさあ、ちょっとそれ使って見せてよ!」

 

「待ってろ」

 

俺がAMGを装着すると、コアから機体に青緑のエネルギーが広がり、

外れないようガチャリと俺の腕を軽く締め付けた。

そして電子音声で戦闘態勢が整ったことを告げる。

 

《装備完了》

 

「おおっ、喋った!」

 

「それだけじゃねえ。さっきも言ったが、

こいつはエネルギーをチャージして威力を爆発的に高めることが出来る」

 

「見せて見せて!」

 

「ああ……それが見たいなら、広い場所とぶっ壊れてもいい何かを用意してくれ。

フルチャージしたときの威力は洒落にならん」

 

「わかった、ちょっと待ってて!」

 

明石は急いで裏手に走って、何かの準備を始めた。

待っている間に俺はテストの再起動を試みる。

 

「テスト、テスト!聞こえてるか。もう殺……戦いの話はナシだ。

そろそろ復帰してくれ」

 

「あら?ごめんなさい!ワタクシが案内するって言ったのに、何をしているのかしら。

ごめんなさい……」

 

「あんたのせいじゃねえ。この世界が狂ってんだ。明石とのやり取りは聞いてたか?」

 

「はい。それはなんとか……」

 

「準備ができたよー!」

 

その時、明石が裏口から戻ってきた。えらく早いな。

……ああ、体中にひっついてる小人が手伝ったんだろう。

 

「ふぅ、みんなありがとね。

それじゃあ、ジョー。AMG-78αの真価を見せてちょうだい!」

 

「おう、どこでやるんだ」

 

「ついてきて!」

 

俺達は明石の後を追って裏口に出る。すると、そこには広い船着き場があって、

海に向かって厚さ2cmほどの鉄板がバルーンで10枚ほど浮かべられてた。

海を正面に立って、二人に警告する。

 

「離れてたほうがいいぞ。近くにいると衝撃波で怪我するぜ」

 

「わかったよ、お願い」

 

「ジョー、何をするんですか……?」

 

「こうすんだよ!」

 

《チャージ開始》

 

拳を握ると同時にAMGがパワーを蓄え始めた。その様子を、固唾を呑んで見守る二人。

機械仕掛けのガントレットがグォン!と二段階目のチャージに移行。

内部のエネルギーが行き場を求めてガタガタと震える。収束する力が大気を揺さぶる。

そして。

 

《チャージ完了》

 

「おおおお!!」

 

俺は前方に向けて左手の力を解き放ち、目の前の一枚をぶち破る。後は知らねえ。

 

「きゃあ!」「うわおっ!」

 

ただ、物凄え音と、鉄板の列の向こう側で、大きな水柱が見えた。それだけだ。

轟音が収まり、海水が静けさを取り戻すと、

明石がゆっくりと横に回り込んで鉄板の様子を確認した。

 

「あ、はは……すごいよこれ、コマちゃん見なよ!」

 

「Incroyable(信じられない)……」

 

二人が驚いてるから、俺もどうなったか見てみる。

ほうほう。5枚の上半分が消し飛んで、残り5枚が綺麗に90度に折れてる。

まぁ、連戦の後だからこんなもんだろう。お、明石がこっちに走ってくるぞ。

 

「凄いよジョー!約束通りお茶入れるから中でお話ししようよ!コマちゃんもほら!」

 

「あ、待って明石さん!」

 

それから俺達は工廠の中に戻った。

だが、でかい金属をいじくるとこにゆっくり茶をしばくところなんかあったか?

 

「ちょっと待っててジョー」

 

明石が、大きなステンレスっぽい板2枚がはめ込まれた壁のそばにある、

なんかの読取機に手のひらを乗せた。すると、ステンレスの板が両方に開いた。

なるほど、ただの板じゃなくてドアだったってわけか。俺はテストと共に中に入る。

今度は俺が驚く番だった。広い空間には、

エイリアンに出てきたコールドスリープ用のベッドみたいなもんが並んでて、

いくつかには実際人が入ってる。ははん、なるほど。

 

「そっ。ここで私達艦娘を建造してるの」

 

「やっぱりか!提督から艦娘は人工的に創られた存在ってのは聞いてたが、

ここまでとはな。今、1940年代で合ってるか?」

 

「大丈夫。話すと長くなるけど、ここにある技術は日本でも諸外国でもない、

第三者からもたらされたの。ジョーが履いてる水上移動ブーツもその延長線上の産物。

さあ、立ち話もなんだから座って話そうよ!」

 

明石が俺達をテーブルに招く。

このテーブルも、洒落たビルのロビーに置いてあってもおかしくねえ、近代的な作りだ。

言っちまえば、この空間だけが2017年にタイムトラベルしてても驚かねえくらいだ。

明石がコーヒーを持ってやってきた。

 

「おまたせー!はい、ジョー。コマちゃんは紅茶でよかったよね?」

 

「ありがとう、明石さん」

 

「おう、ありがとよ」

 

俺は明石からマグカップを受け取った。熱いコーヒーが冷えた身体に染みる。

それぞれ一息ついたところで明石が話を再開した。

 

「やっぱり70年後の技術、すごいです。

イーサンもいろんな武器をたくさん持ってました」

 

「そうだね。

特にあの丸鋸は、人類が夢見続けてきた永久機関を完成させちゃってるんだから、

帰すには惜しい存在だったわね」

 

「よっぽど色々やらかしたみてえだな、イーサンの野郎は」

 

「はい。ワタクシ達にとって、特別な人です……」

 

「懐かしいな~ワークベンチで色々作ってたっけ」

 

「俺は銃には頼らねえ。信用できるのは拳だけだ」

 

「ワオ、男っとこらしい」

 

「使うとすれば、背中の投げ槍か……」

 

俺は道具袋を探ってステイクボムを取り出し、テーブルに置く。

 

「こいつくらいのもんだ」

 

「え?なにこれ」

 

「すごく、トゲトゲしてます」

 

「火薬のいらねえ、堅い木片を撒き散らす手製の爆弾。木片でも威力は折り紙つきだ」

 

「ちょっ!そんな物騒なもん置かないでよ!

……でも火薬不要ってのは少し興味が惹かれるわね。ちょっとそのまま」

 

明石がキャビネットから取り出した双眼鏡のようなもんを通して、

ステイクボムをいろんな角度から眺める。

 

「うっわあ……バネになってる曲がった木の板の反発力や、

粘着剤の接着力が絶妙なバランスを保ってて、

爆発しそうでしない天然の爆弾として完成してるわ。殺傷能力も申し分ない。

ローテクなのかハイテクなのかわかんないわね……

でも、うっかりゴッツンコしたら明石達ハチの巣だから、やっぱりしまって?」

 

「へへっ、こいつで黒カビ野郎共をまとめてミンチにすると爽快なんだ。

肉片と体液と木片が空を舞ってパレードを」

 

「あーあー」

 

ステイクボムをしまいながら説明すると、またテストが耳を塞ぐ。

 

「コラ!コマちゃん怯えること言わないの!ジョーと違って繊細なんだから!」

 

「悪い悪い。ほら、もうしまった。爆弾はねえから耳から手をどけてくれ」

 

「ジョー。あんまり怖い話はしないでほしいです……」

 

「お前らが抱えてる大砲の方が危ねえと思うんだが」

 

「それはそれ、これはこれ!ジョーは少し凶暴すぎる!

もう少し女の子との接し方に気をつけて!」

 

「だから悪かったって。俺の武器はこれだけだから、もう大丈夫だ」

 

「本当かしら……」

 

明石が訝しげな目で俺を見る。それを見ないふりをしてコーヒーをまた一口飲むと、

ちょっとした疑問が湧いたから明石に聞いてみた。

右側後方に並ぶポッドの列。今も青白い光を放っている。

 

「なあ、明石」

 

「なに?」

 

「あのポッド、ずいぶん沢山あるが、そんなに大勢の艦娘が必要なのか?

……やっぱり俺と一緒に飛ばされてきたB.O.Wへの対応策なのか」

 

「それは違う」

 

急に明石の雰囲気が締まったものに変わる。なんか事情がありそうだな。

 

「確かにたくさんの艦娘が建造中だけど、建造に取り掛かったのはジョーが来る前。

来るべき戦いに備えてね」

 

「ってことは、深海棲艦と本土決戦でもすんのか?」

 

「場合によってはそれもありうる。

たくさんの娘を作ったのは、とある艦娘を手に入れるために試行錯誤した結果。

艦娘建造システムはまだ未完成で、目的の娘を必ず作れるわけじゃないんだ。

完成までの残り時間である程度どの艦種の娘ができるかはわかるけど、それだけ」

 

「とある艦娘って誰のことだ?」

 

「戦艦の艦娘は珍しくないけど、存在だけが噂されてる最強の戦艦。

やっとその娘の建造に成功したかもしれないの。

建造時間が今までのどの艦種より飛びぬけて長い。

きっとあの娘がこの戦いの切り札になってくれるはず」

 

「う~ん、お前ら一体何と戦おうってんだ?」

 

「姫級です」

 

その時、俺が脅かしたせいで黙り込んでいたテストが、明石に代わって答えた。

 

「深海棲艦もワタクシ達のように艦種によって様々な分類がされていますが、

中でもとりわけ強力で、特定の海域を支配している、

深海棲艦のボスのような存在がいます。それが、姫級」

 

「そう。実は、その姫級が日本近海に姿を表したの。

放置しておけば本土にまでその手を伸ばしてくるのは確実。

奴を迎え撃つために、提督は最強の戦艦の建造に着手したの」

 

「なんてこった。奴はいつぐらいに来る。どんくらい強いんだ」

 

明石は黙って首を横に振る。

 

「わからない。深海棲艦はその行動パターンが一切不明だから、

来月かもしれないし、明日かもしれない。

奴に近づくにも護衛の深海棲艦が多数配置されてるから、偵察にも行けない。

ぶっつけ本番で難敵とやり合うしかないんだ……」

 

「ちくしょう!その最強の艦娘はどこに寝てるんだ?」

 

明石が一番奥のポッドを指さした。

 

「あの娘が私達の切り札……かもしれない」

 

「そうか……」

 

俺は立ち上がって、そのポッドに歩み寄った。

顔だけが見えるポッドの中で、一人の艦娘が眠っている。

そばには心電図や各種測定器があって、一番上にタイマーみたいなモンもある。

ああ、小さく“残り建造時間”って書いてあるな。あと、何分で出来上がる?

……14日22時間27分58秒だぁ!?ふざけんじゃねえ!

 

「おい、起きろ、起きてくれ!」

 

とりあえず俺はポッドをバシバシと叩いてみる。

 

「ちょっとちょっと!何やってんのさ!」

 

「お前がいねえと話にならねえんだ!」

 

今度は近くの計器を殴ってみる。モニターをガシガシ殴るが反応がねえ。

測定器を上から横からバシバシ叩いて気合を入れるが、

相変わらずタイマーはのんびり1秒ずつ刻んでやがる。

 

「お前が化け物ぶっ殺してくれねえと日本がやべえんだよ!」

 

「やめて、ジョー!中の娘がかわいそうです!」

 

「建造中の娘はデリケートなんだから!何かあったらどうすんのさ!」

 

二人に構わず俺はタイマーをガンガン殴る。

強けりゃこの際エイリアンでもいいから、さっさと作れよクソポッド!

 

「コマちゃん!二人でこいつ叩き出すよ!」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

 

俺が一秒でも建造時間を短縮しようと努力してたら、

いきなり後ろから二人に両脇を掴まれ、すげえ力で近代的なエリアから放り出された。

明石に突き飛ばされ、工廠の床に叩きつけられた。

 

「ジョーはもう建造ドッグ立入禁止!コマちゃんからもそいつ叱っといて!」

 

「ごめんなさい!明石さん、ごめんなさい!」

 

それで、自動ドアが閉じて明石は姿を消した。おお、いてて。ひどい目にあったぜ。

立ち上がって砂を払う。ん?テストがなんか言いたそうに俺を見てるが。

 

「どうして、あんなことをしたんですか?」

 

「少しでも早く最強の艦娘を作りたかっただけなんだ、信じてくれ」

 

「あんなめちゃくちゃなやり方で、艦娘ができるわけないです。

力ずくじゃどうにもならないこともあるんです」

 

「……ああ。俺が悪かった」

 

見た目年齢とは言え、孫くらいの少女に怒られて流石に俺も消沈した。

しょげたままテストと共に工廠から出ると、空から腹に響くような音が聞こえてきた。

思わず見上げると、とんでもねえもんがいやがった。

そいつらの機体には、青い傘のマーク。そして、“UMBRELLA CORPORATION”

 

 

 

──鎮守府上空 アンブレラ社所有ヘリ

 

降下準備を整えた隊長以下総員は、長いロープを投下して、指示を待った。

すぐさま隊長が命令を下す。

 

「降下準備、完了しました。指示を願います」

 

「3名ずつ降下。全員の降下完了まで待機。俺が最後に下りる。

ヘリは放送を続けながら、その後広場に着陸」

 

”はっ!”

 

総員の勇ましい返答が機内に響き、

マガジンやグレネードを装着した防護ベストに身を包んだ隊員達が

次々とロープを滑り降りていく。

2機のヘリのうち、1機が屋外スピーカーでメッセージを放送する。

 

 

《日本海軍の皆様、我々はB.S.A.A時空失踪者捜索部隊です。

我々に攻撃、侵略の意図はありません。国際法に則り要救助者の捜索のみを行います。

この活動は国連特別措置法により認められたものであり……》

 

 

パイロットの放送開始を見届けると、隊長もロープを下り、地上に降下。

先行した部下と合流してチームを編成した。

 

「全員揃ったな。これより作戦名“インビジブル・セカンド”を開始する。

民間人との接触は極力避けろ。不用意に殺傷性のある装備に触れることも禁ずる。

要救助者を確保し、速やかにこの次元から退去する。いいな」

 

“はっ!”

 

そして、隊長は何者かと通信を開いた。

彼が話している間も、艦娘達が突然現れたヘリ2機を遠巻きに見つめている。

 

「転移に成功した」

 

『こちら本部。通信は良好です。彼は無事でしたか?』

 

「いや、今からこちらの責任者と接触するところだ。

二度の次元転移で世界の壁に少なからず影響が出ている。

転移の途中、2名が吐き気を訴え撤退した。要救助者を確保次第、我々も退去する」

 

『わかりました。念のため、随行した輸送ヘリに対深海棲艦兵器を搭載していますが、

くれぐれもご注意を』

 

「わかっている。俺達は戦いに来たわけじゃない。目的を達成後、速やかに撤退する」

 

隊長は通信を終えると、部下を引き連れて本館に向かい、ドアを開けた。

ヘッドアップディスプレイを通して、

ところどころに和洋折衷の意匠が施された玄関ホールが眼前に広がる。

 

「そこで止まれ!」

 

鋭い声が走り、武装らしき物を背負った女性が階段を駆け下り、彼らに砲を向けた。

隊員達もアサルトライフルを構える。だが、隊長がそれを静止した。

 

「全員、武器を下ろせ。下ろすんだ」

 

皆、顔を見合わせながらゆっくりと銃を下ろす。

そして、隊長が酸素フィルタの着いたフルフェイスのヘルメットを脱いで、

女性に話しかけた。

 

「B.S.A.Aアルファチーム、クリス・レッドフィールドだ。提督と面会したい」

 

「お前は……確か!」

 

「ああ。最後の日、イーサンを救出に来た」

 

「長門君も艤装をしまって。……待っていたよ」

 

その時、2階から男性がクリスに声をかけた。彼は階段を下りてクリスの前に立つ。

 

「そろそろ来るんじゃないかと思っていたよ」

 

「久しぶりだな、提督」

 

ジョーの知らぬ間に再会を果たした異世界の存在。

彼らがどのような運命を紡ぎ出すのか、今はまだ謎のままだ。

 

 


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