艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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Case of Ethan
File1; Unknown Footage


“私”は、あるものを求めてベイカー邸2階へ続く階段を上がっていた。

すると、俺の存在を感知したのか、上りきったところにある渡り廊下中央に、

グジュグジュとどす黒い粘液が集まり、二足歩行の人型B.O.W.が形を成した。

二本足以外は人間と似ても似つかぬ醜悪な化け物がこちらに両腕を伸ばして迫ってくる。

私はステアーを構える、照準を合わせる、トリガーを引く。

いつもの手順で9mm弾を連射し奴の頭部を粉砕した。

B.O.W.がその場に崩れ落ち、元のヘドロに戻る。私は気にせず歩を進める。

 

真っ白なドアを開け、通路に出た。左に進み、蛇のミイラが飾られたドアを無視し、

さらに廊下を歩く。そして俺は右手の茶色い扉を開き、広い娯楽室に入った。

立派なビリヤード台やバーカウンターが完備され、

かつて一家や客人たちがここでパーティーを楽しんだのだろうということが想像できる。

しかし、今ここにいるのは私と床に倒れているカビ人形だけだ。

 

適当な椅子をひとつ引き寄せて腰掛け、

バーカウンターに置かれているビデオデッキにテープを挿入した。

砂嵐しか写さないテレビが、カラーバーとタイムカウントに切り替わる。

しばらくすると、日付とタイトルらしきものが表示されたが、

伏せられているのか、編集時に文字化けしたのか、

ところどころ切り取られているため判読できない。

結局何が書かれているのかわからないまま画質の荒い映像が始まった。

 

 

 

 

 

《再生開始》

 

 

キィ……

 

ゆっくり音を立てながら娯楽室北側のドアが開かれ、銃を構えた白人男性が

恐る恐る娯楽室に入ってきた。欧米人としては標準的な体格。

カメラが急な角度で見下ろす格好になっているため、

ブロンドのショートヘア以外、顔はよく見えない。

 

「はぁ…はぁ…畜生、ここもトラップだらけじゃないか」

 

男性が娯楽室に足を踏み入れると、ピッ、ピッ、と

何かの電子音が真横から聞こえてきた。

 

「うわあ!!ふざけんな、こんなとこにまでタレット置きやがって!」

 

彼は慌てて後ろに下がり、しゃがんだ。ここに来るまでの通路にも

探知圏内に入って数秒経つと機銃弾が放たれるトラップが設置されていた。

 

「あの箱も明らかに爆弾……邪魔だ消えろ!(銃声、そして爆発音)。

……いいか?大丈夫だ、落ち着け、落ち着けイーサン。

お前ならやれる、ビリヤード台まで走って、しゃがむ。それだけだ。行くぞ……」

 

そして、イーサンという男は覚悟を決めて時限発射式タレットの前を駆け抜け、

ビリヤード台の前に滑り込んだ。しかし、またタレットの警告音がしたため

慌てて一歩身を引いた。

 

「くそっ!もう一台タレット。他には……」

 

イーサンは一瞬だけビリヤード台から顔を覗かせ、

娯楽室を抜けるドアへの進路にトラップがないか確かめた。

タレットの他にワイヤートラップがひとつ。それを確認していると、また警告音。

長居しなければ問題ないのはわかっているが、やはり心臓に悪い。

 

一旦座り込んで呼吸を整える。すると、目の前のバーカウンターに木箱がひとつ。

黄色いテープが二重に巻かれている。アイテムだ。なんでもいいから欲しい。

薬、弾薬、武器。何もかもが不足している。イーサンはナイフを構えて箱に近づく。

ピッ、ピッ、……くそっ!タレットの探知圏内だ!

いや、待て。素早く壊す。素早く戻る。素早く掴む。素早く戻る。

できないことじゃない。よし……

 

彼はその場で立ち上がり、素早く木箱に駆け寄りナイフを一振り。脆い木箱が崩れる。

ピッ、ピッ。逃げるようにビリヤード台に戻る。

ああ、あの音を聞くたびに寿命がガリガリ削られる!

そして再度木箱があった場所へ走る。何なのかを確かめている余裕などない。

黒い何かを掴んでまだ安全地帯に戻った。そして、右手に持った何かのラベルを見る。

 

“Fuckin’ Birthday Ethan! Love, Lucas.

(クサレ誕生日おめでとうイーサン。ルーカスより愛を込めて)”

 

「あのキチガイ野郎!!」

 

ルーカス・ベイカーが用意したビデオテープだった。

死ぬ思いをしてまで手に入れたのがこれか……!

イーサンは思わず投げ捨てようとしたが、思いとどまった。

何かこの洋館から脱出するヒントが隠されているかもしれない。

今まで散々悪趣味なスナッフビデオを見せられてきたが、

皆どこかに屋敷の仕掛けを解く鍵があった。

 

ふとバーカウンターを見る。ビデオデッキとテレビが都合よく置かれている。

どうせルーカスの仕業だろう。だが見るしかない。

突然地獄の屋敷と化したこの洋館から脱出するにはどんな手がかりでも欲しい。

例えそれが哀れな犠牲者の上に作られたものであっても。

イーサンはテープをビデオデッキに入れて再生ボタンを押した。

 

 

 

>>再生

 

『ええと?マイクはこの辺でいいか。あと映像が……

くそっ、動け!動けよ安モンカメラが!……ああ映った、よーしよしそれでいい』

 

パーカーを来た痩せぎすの男が、何かの準備をしている姿が画面に映し出される。

それが終わるとパーカーの男がこちらに向かって語りかけてきた。

 

『よう、俺だ相棒!

いきなり俺ん家がドッキリハウスになってちょっくら驚いてんじゃねえのか?』

 

「お前の仕業かルーカス!」

 

『お前がよ、あのボロ屋に行ってる間に大急ぎで準備したんだぜ?イーサン。

お前の誕生日パーティーに相応しいサプライズをよう!』

 

「今日は俺の誕生日じゃない!」

 

『喜んでくれよ。いや本当、マジで大変だったんだぜ?

エヴリンも一生懸命手伝ってくれた。家族でもねえお前のために。

ところでこいつは”爆弾で腕がちぎれたり化け物に殺されたくなかったら

グリーンハウスのババアぶっ殺さなきゃゲーム(仮)”ってんだ。

名前はまだ考え中だが』

 

「ゲームならまともな武器を寄越せ!薬液はもうたくさんだ!」

 

『まー、その様子だと99.9%の確率でしょうもねえ死に方して、

みんなを白けさせるのは目に見えてるから、

”ちょっとだけ“ルール変更することにした。いいよな、エヴリン?』

 

ルーカスはカメラの視界の外にいる誰かと二言三言話すと、突然苛立ち大声を挙げる。

 

『……しょうがねえだろ!見ろよあいつのコデックス!

まだ半分も行ってねえのに、もうフラフラじゃねえか!

こんなクソみてえなパーティー何が面白えんだよ!わかったよ、やりゃいいんだろ!』

 

短い会話が終わると再びこちらに向き直った。

 

『……おい、イーサン。お前マジラッキーだよ。

お前のためにもう一個プレゼント用意したんだ。嬉しいだろ、なあ。

その名も”カワイイ女の子に囲まれてウハウハゲーム(伏)“だ。

やっぱり名前は募集中だし、何を伏せてるのかはお楽しみだ。

そっちのゲームにモード変更したいならビデオを最後まで早送りしろ。

それとも、やっぱりババアと直接対決がしたいならビデオを止めて先に進め。じゃあな』

 

 

 

そこでビデオはカラーバーに変わった。

 

「何がウハウハゲームだ……!どうせ正体は化け物だろう!」

 

しかし、イーサンは考える。所持品はポケットナイフ、弾切れのショットガンM37、

6発しか入ってないハンドガンG17、合成素材のない薬液3つ。以上。

安っぽい作りのバーナーは、旧館で酷使したため壊れてしまった。

これでグリーンハウスまでたどり着き、マーガレットを倒せるとは到底思えない。

 

左に視線をやると娯楽室の外へ通じるドア。単なる予感だが、

この先にろくでもないものが待ち構えているような気がしてならない。

ルーカスの玩具にされているようで癪だったが、

イーサンは汗ばむ手でビデオデッキの早送りボタンを押した。

 

ギュルギュルとテープが巻き取られる音がするが、

映されているのは相変わらずカラーバー。

1分ほど待つと、テープが完全に巻かれ、デッキ内部でコツンと音がした。

その瞬間、テレビのモニターが激しくフラッシュし、目がくらんだ。

畜生、やっぱりトラップだった!

 

『チクタク、チクタク、……ヒヒヒヒ!!』

 

どこかに設置されているスピーカーからルーカスの嘲笑が聞こえる。逃げなければ!

多分テレビが爆発する!逃げ惑うイーサンだが、タレットの警告音が彼を更に焦らせる。

どっちだ?どっちに逃げればいい!?結局テレビの前でうろたえるばかりのイーサン。

遂に、時が来た。まばゆい閃光が彼を包み、娯楽室を完全な白に染め上げたのだった。

 

 

 

──海岸

 

寄せては返す静かな波。人の気配もなく、かもめの鳴き声が響くだけ。

イーサン・ウィンターズはそんな鎮守府南の海岸で目を覚ました。

 

「うう……ここは?」

 

立ち上がり服についた砂を払うと、ある異変に気づく。

左腕に着けていた腕時計型多機能端末、コデックスの心電図が

グリーンの正常値を示しているのだ。

数回に渡るモールデッドの攻撃を受け、危険水準の赤になっていたはずなのに、

切り傷や酸による火傷は綺麗になくなっていた。

……ステープラーで強引にくっつけられた左腕の傷跡はそのままだったが。

 

所持品も失っていたが、敵の姿は見えないし、

そもそも大したものは持っていなかったので今のところ問題はなかった。

しばらく呆然と辺りを見回していると、コデックスが着信音を鳴らした。

イーサンは少し迷い、通話ボタンを押した。

 

 

 

『ようイーサン!やっぱりカワイコちゃんとウハウハコース選んじまったか!

まあ無理もねえが、奥さん泣くぜ、おい』

 

「黙れ、ミアはどこだ!」

 

『そいつは教えらんねえなぁ。そっちで頑張ってりゃ見つかるんじゃねえの?

求めよ、さらば与えられん!ってか?ウヒャヒャヒャ!』

 

「ふざけるな!俺に何をした!ここはどこだ!」

 

『キレんなって。さっきも言ったろ?

これは、もう一つの、バースデープレゼントなんだよ。わかるか?

青い海、”とりあえず“安全な寝床、頼れる仲間達。大冒険の……幕開けだァ!』

 

「仲間?B.S.A.A.がいるのか!?」

 

『質問タイムしゅーりょー。まあせいぜい頑張ってくれや。

もうタレットやワイヤートラップで意地悪しねえからよ。また連絡する、あばよ!』

 

 

 

ピッ。ルーカスは一方的に通話を切った。

途方に暮れたイーサンは改めて周囲の状況を確認する。目の前に広がるは大海原。

後ろを向くと……真っ白な巨大な邸宅。東側には工場らしき建造物と倉庫が幾つか。

クレーンと船舶を停泊する港。確認できたのはざっとこんなところ。

 

ここがどこかはわからないが、誰かいるはず。

イーサンは助けを求めて、白亜の邸宅に足を向けた。

図らずも彼は地獄の館から脱出を遂げた。

雑草を踏みしめながら徐々にその事実を受け入れる。

四つ足に切り裂かれることもなければ、肥満体に酸を浴びせられることもない。

外はなんて平和なんだ。イーサンは束の間の安寧を享受していた。

間もなくより苛烈な戦いに巻き込まれることになるとは知る由もなく。

 

 

 

──艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil──

 

 

 


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