艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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*Not A Hero 及びDLC第3弾が配信され、End of Zoe が面白かったので、
衝動的に始めてしまいました。DLC終盤同様、ぶっ飛んだ内容になると思われますので、
イーサン編の余韻を台無しにされたくない方は、閲覧を控えていただければ幸いです。
あと、ゆっくりペースの更新になると思われますのでご容赦ください。


Joe Must Die
Tape1; Joe’s Bizzare Adventure


鬱蒼と草木の生い茂る沼地の奥、手作りの小さな小屋に、

白い口ひげを蓄えた白髪の老人がいた。

だが、老人とはいえ、長年のサバイバル生活で鍛え上げられた、

鋼のような身体と無敵の拳は、並の軍人を凌駕する。

現に、今も彼のテリトリーをうろついていたB.S.A.A隊員を殴り倒し、

後ろ手に縛り上げている。床に転がりながら隊員は老人に訴える。

 

「頼む、縄を解いてくれ!俺はB.S.A.Aの隊員だ、怪しい者じゃない!

このあたりの汚染状況を調査して、生存者を助けに来ただけなんだ!信じてくれ!」

 

「B.S.A.A?知らねえな。汚染状況だ?ウソつけ、そんなもん信じられるか。

俺は何年もここに住んでるが、病気ひとつしたことねえぜ」

 

俺は、最近現れだしたバケモンの生首を手にとって、ドスンとテーブルに置いた。

 

「そうだろ?あんな武装ヘリに乗って、何が“助けに来た”だ」

 

「あんたは誤解してる……そうじゃない!」

 

目の前のガスマスク野郎は必死になって弁解してやがるが、

到底信用できたもんじゃねえ。

 

「てめえらが!何者かは俺には分かってるんだ。

ここらの……バケモンのことも知ってるんだろ?教えろ。奴らは何なんだ」

 

「何を言ってるんだ……あんたは分かっちゃいない!」

 

「分かっちゃいないだと!?」

 

鉈を掴んでガスマスク野郎の首筋に押し付けた。

ついでに、肝心なことを何も喋らねえこいつをぶん殴ってやろうかと思ったが、

今度は気になることを口走りやがった。

 

「やめろ!ベイカー家の事件を知らないのか!?」

 

「何だと?おい、ジャックの家とてめえらに何の関係がある。答えろ!」

 

「“コネクション”とルーカス・ベイカーが引き起こした大規模バイオハザードさ。

……あんたは、感染してないのか」

 

コネクションだの、感染だのはどうでもいい。なんで弟の名前が出て来る。

 

「今、ルーカスって言ったな。なんでジャックんとこの悪ガキが出て来る!

そいつが一体何やらかした!教えろ、教えねえと外の奴らのエサにしてやる!」

 

「分かった教えるよ!

右ポケットのデバイスを出してくれ、それで事件の全てがわかる……」

 

奴のごちゃごちゃした防護ベストを探って、俺は一本の変な筒を取り出した。

 

「電源を入れて、ダイヤルを回すんだ。

プロジェクターになってるから、まずは壁か床にライトを当ててくれ」

 

「ああん、こうか?」

 

スイッチを押したら黄色いライトが点いた。

そいつで壁を照らすとわけのわかんねえ写真やテキストがぞろぞろと出てきやがった。

それと、ダイヤルを回せつったが、これか?

回すとページが移動し、押し込むと選択するようになってるらしい。

俺が適当に筒をいじってると、床の野郎が大声を出した。

 

「待て!そのフォルダには触るな!

絶対再生するんじゃない、じゃないと、あんたまで!」

 

「うるせえな、またぶん殴られてえかよ!」

 

「とにかく危険なんだ!その動画は見るな!」

 

「ほう?よっぽど知られたくない情報を隠してるらしいな。

よーしよし、おじさんが隅から隅まで調べてやるよ」

 

「やめろ、やめるんだ!!」

 

俺はガスマスクを無視して“Case of Ethan Winters”ってフォルダを開き、

中の動画ファイルを選択してダイヤルを押し込んだ。

そしたら、黄色い光で照らされた壁に、カラーバーが映し出された。

だが、待てど暮らせどそんだけだ。

 

つまんねえ。こんなクソ動画大事に残してんじゃねえよ……と思った瞬間、

急に俺の意識が混濁して、ただ立っているだけなのに、

ふらふらと歩いているような感覚が襲ってきやがった。

 

そのうち世界がぐるぐる回るように視界もめちゃくちゃになって、

身体が軽くなる、というか消えてなくなっていく。

ちくしょう、やっぱりこいつらロクな連中じゃなかった!

ガスマスクを叩きのめそうと思ったが、身体が言うことを聞かねえ。

俺はただクソみてえな現象に身を任せるしかなかった。

 

 

 

 

 

……ああ、クソッタレ。まだ頭ん中が気持ち悪りい。俺は立ち上がろうと両手をついた。

そしたら、珍しい感覚だ。沼地じゃ珍しいサラサラとした砂。

気持ち悪さを我慢して、なんとか足に力を入れて立ち上がる。

それで目を開くと……なんだこりゃ?目の前はどこまでも広がる青い海。

泥で濁った沼とは全然別物だってことは俺にもわかる。

しかも、どっかからカモメの鳴き声まで聞こえてくる。俺は海岸で寝てたってことか?

 

とりあえず、家に帰るとするか。どこまで流されたんだ?

だが、俺が振り返ると、とんでもねえもんを見た。バカでかい港だ。

まず目に飛び込んできたのは、でけえクレーンと船着き場。

それと、金持ち共が住んでるような真っ白な豪邸。その他、工場、倉庫。

とにかくわけのわからん状況だ。

 

くそ、どこ行きゃいいのかわからねえ。

まず、多分人が住んでる白い家を訪ねてみることにした。

堤防をしばらく歩くと、コンクリートで舗装された道に出る。

途中、何人かの職員か住人か知らねえが、とにかく人とすれ違ったが、

どいつもこいつも俺を見るなり驚いてヒソヒソ話を始めやがる。

 

 

“ねえ、また異世界から外国人よ!”

“ひょっとして、イーサンの知り合い?”

“長門さんに知らせたほうがよくないかしら”

“それならまず提督じゃない?”

“そうね、私行ってくる!”

 

 

おい、丸聞こえだぜお嬢さん。

あと言っとくがな、俺を珍しそうに見てるが、おかしいのはお前らの方だ。

揃いも揃って変な戦艦みたいな格好しやがって。日系人らしい顔だな。

話しかけようかと思ったが、こんな連中と関わったら余計状況がややこしくなりそうだ。

やっぱり白い家に行くことにする。歩道を北に進んでようやく目的地に着いた。

俺は立派なドアを思い切り殴る。

 

ドゴン!ドゴン!ドゴン!と、とにかくぶっ壊す勢いで殴り続ける。

頑丈そうだから大丈夫に決まってる。

 

「おい、誰かいねえのか!ダルヴェイまでのバス代貸してくれ!

ここはどこなんだ、おい!」

 

そしたら急にドアが開いて、中から背の高い変な女が出てきた。

頭にアンテナ着けて、黒いコート着て、

やっぱり大砲やら煙突やらの模型背負ってやがる。

まさか本当にそいつで戦う気じゃねえだろうな。

 

「やめろ!ドアが破れるではないか!」

 

「悪りいな。ダルヴェイまで戻らなきゃならねえ。バス代貸してくれ」

 

「ダルヴェイだと!?……いや待て、その前に。お前が通報のあった外国人か?

残念だがここは日本だ。バスでアメリカには帰れないぞ」

 

「なんだって?ジジイだと思ってふざけたこと……」

 

ん?ちょっと待て。何かがおかしいぞ。なんで俺は日本語喋ってんだ?

こいつぁ流石に驚きだ。ガスマスクの連中が変な研究してたに違いねえ。

そしたら、今度は白い軍服を来たひょろ長い男が階段から下りてきた。

 

「どうしたんだい、長門君。すごい物音が聞こえたんだが……?」

 

「提督、それが……」

 

長門って呼ばれた女が提督って奴に近寄ってこそこそと何か話しかけてる。

すると、提督って野郎の顔がみるみる険しくなっていく。

話を聞き終えたそいつは、俺の方に歩いてきた。

 

「はじめまして、私は当鎮守府の提督です。

あなたの身に起きていることについて、きっと説明ができると思います。

立ち話もなんですから、良ければ執務室で話しましょう」

 

「俺はジョー・ベイカーだ。説明とかはいいからさっさとアメリカに帰りてえんだが」

 

「ベイカーだって!?……いや、それについてこちらもお聞きしたいことがある。

今のアメリカに帰っても、恐らくあなたの家は存在しない」

 

「なんでだ」

 

「話すと長くなります。やはり落ち着いたところに場所を変えましょう」

 

「んーわかったよ」

 

面倒くせえが、俺はこいつらに付いていくことにした。他にアテもねえしな。

提督って男と長門って姉ちゃんに連れられて、俺は凝った彫刻が刻まれたドアの前に立った。

こいつもぶん殴ったらいい音がしそうだ。提督がドアを開けて俺を中に入れた。

 

「さあ、どうぞ中へ」

 

「邪魔するぜ」

 

中に入ると、提督のオフィスみたいな部屋に、ソファが2つあったから、

俺は片方に腰掛けた。向かいのソファには提督と、妙な装備を外した長門……だったか?

二人が座った。そして、まず俺がこの妙な施設について疑問をぶつけた。

 

「なあ、ここが日本ってんなら、確か……自衛隊の基地ってことになるのか?」

 

提督は俺を見つめながら首を横に振った。

 

「残念ですが、ここに、この時代に、そのような部隊はありません。

なにしろ今は1940年代ですから。

あなたが“彼”と同じ時間から来たと仮定した場合の話ですが」

 

「なんだと!?年寄りからかうのも大概にしろ!

俺は沼から流されてここに来た、それだけだ!大体、“彼”って誰だ」

 

「イーサン・ウィンターズ」

 

「そんな野郎知らねえよ」

 

「……では、ルーカス・ベイカー」

 

驚いた俺は思わず立ち上がって提督を問い詰める。

 

「待て!なんで日本の軍人が弟の息子を知ってんだ!?

そういやガスマスクの野郎も言ってたな、ルーカスがなんかやらかしたってな!」

 

「その弟さんの名前はジャック。そして奥さんはマーガレット。間違いありませんね」

 

「なっ!……なんでそこまで知ってやがる。お前ら何もんだ!」

 

「我々は日本海軍。すべての疑問にお答えしますが……きっと辛い話になります」

 

「もったいぶらずにさっさと答えろ!」

 

「落ち着いてくれご老人!まずは座ってくれ!」

 

「俺はジョーだ!座りゃいいんだろ!」

 

立ちっぱなしだった俺は、ソファに座ってため息をついた。一体何がどうなってやがる。

なんで日本の軍隊が俺達のことを知ってんだ?

頭を抱える俺に、提督がゆっくりと語り聞かせるように状況の説明を始めた。

 

そいつが言うには、数ヶ月前にイーサンとかいう奴が、

俺みたいにこの海軍基地に流れ着いて、沼に現れたバケモノやジャック達と戦って、

B.S.A.Aとかいう連中と一緒に帰っていったそうだ。

そんで、弟たちが殺し合いする羽目になったのは、

ルーカスとエヴリンっていう人間型のバケモンの仕業だと。

 

エヴリンが放った変なカビのせいでジャックの家族はおかしな化け物になって、

人殺しを始めて、全員イーサンに殺されたらしい。

ついでにエヴリンもそいつに始末された、とのことだ。

 

「ちくしょう、なんてこった……しばらく会わねえうちにそんなことになってたとはな。

それじゃあ何か?俺ん家の周りをうろついてる、

バカでかい爪と牙を持ってるバケモンも、

エヴリンって奴のカビに感染した人間ってことなのか?」

 

提督が、頭を抱える俺を更に混乱させるような事実を突きつける。

 

「おっしゃる通りです。彼女が一から作り上げた個体もありますが。

イーサンによると、奴らはB.O.W。つまり有機生命体兵器と呼称されています。

そちらの世界では、B.O.Wを使ったテロが頻発しているとか。

あと、ご家族については……お気の毒ですが、本当の話です。

更に言えば、我々は深海棲艦というB.O.Wとも戦っています。

この世界では海の約9割を奴らに奪われました。

通常の艦艇では歯が立たない連中に対抗できるのは、隣にいる長門君のような艦娘だけ。

艤装を身に着け、自由に海を駆け、戦う力を持った彼女達でなければ不可能なのです」

 

俺は、ソファに大きくもたれて、天井を見上げた。

 

「もういい。BOWだの艦娘だの深海だの、知ったこっちゃねえ。

ジャックは……死んだんだな?」

 

「……はい」

 

「その、イーサンって奴はどうやって帰ったんだ」

 

「世界間の移動手段を突き止めたB.S.A.Aに救出され、帰っていきました。

ここに来る時に、何かおかしな映像を見ませんでしたか?」

 

「ああ。ずっとカラーバーが映ってるクソつまんねえビデオなら見たぜ」

 

「では、間違いありません。彼らも同じ方法で世界の壁を超えてきましたから。

この事件で助かったのは、イーサン・ウィンターズ、妻のミア、

そしてゾイ・ベイカーの3人だけです」

 

その名を聞いた瞬間、俺の心に光が差した気がした。

俺はまた立ち上がって、まくし立てるように提督を問い詰める。

 

「おい、今ゾイって言ったな!?ゾイは助かったのか?ゾイは俺の姪っ子だ!

あの子は今どこでどうしてる!」

 

「落ち着くんだ、ジョー!」

 

「大丈夫、慌てないで。彼女は無事です。一度はカビに感染しましたが、

イーサンと協力して血清を作成し、カビの除去に成功しました。

彼女はここには転移しませんでしたので、今もあなたの世界で生きているはずです」

 

「そうか。そいつは、何よりだ……」

 

なんでこんな事になったのか、正直よくわかってねえ。だが、大事な家族が生き残った。

姪が生きていてくれた、それだけでもう十分だ。

多分こいつらが言ってることも本当で、俺は70年前に来ちまったんだろう。

どの道もう長くねえ。

70年後に帰ろうだの、世界を飛び越えようだの、ジタバタする気はねえよ。

俺は立ち上がったついでに部屋を出ようとした。

 

「じゃあ、俺は行く。あばよ」

 

「待つんだ、ジョー。どこへ行く気だ!」

 

「別に行くアテはねえ。どっかの山奥で虫やら草やら食べて生きていくさ。

今まで通りだ。何も変わらねえ」

 

「逃げるのかい」

 

その時、俺を止めようと追いかける長門と対象的に、提督が座ったまま言いやがった。

 

「ふん、若造が舐めた口利くんじゃねえ。俺はどこでだろうと生きていける。

それだけだ」

 

「ゾイ君と再び出会う努力を放棄して?」

 

「わかったようなことを言うなと言ったはずだぞ、おい!

俺は誰の世話にもなるつもりはねえ、これまでも、これからもだ!!」

 

俺は提督の胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。

長門が俺に手を伸ばそうとするが、今の俺に近寄ったら、女だろうとぶっ飛ばすぞ。

 

「確かに我々には、あなたを元の世界に帰還させる手立てはないかもしれない。

だが、前例に基づく知識、つまりヒントのようなものはある。

誰の手も借りずにひとりで生きていくより、ここに滞在しながら

帰る方法を探すのが勇気だと私は考える。彼がそうだったように!」

 

「タダ飯食らいは性に合わねえんだよ!もういい、表に出ろ!人様の生き方に……」

 

だが、その時バカみたいにうるせえサイレンが外から聞こえたと思うと、

続いてスピーカーから警告が聞こえてきた。

 

《非常事態発生、非常事態発生!B.O.Wの再出現を確認!総員第一種戦闘配備!

直ちにB.O.Wの迎撃に当たれ!これは訓練ではない、繰り返す……》

 

「何故だ、イーサンの帰還と同時に姿を消したというのに!提督、ご指示を!」

 

「やはり、再び現れてしまったというのか……」

 

「なんだなんだ?何が起こってる、説明しろ!」

 

「恐らくあなたの世界のB.O.Wも同じく転移してしまったのです。

外はあなたの世界の怪物であふれているはず!」

 

「そうかよ。なら、やっぱり俺は行くぜ」

 

「待つんだジョー!B.O.W相手に手ぶらでどう対処する気だ!」

 

「両手で対処するに決まってる。お前らも急げ。自分ちがぶっ壊されても知らねえぞ」

 

「待ちたまえジョー!……行ってしまった。長門君、君も急いでB.O.Wの迎撃を!」

 

「了解!」

 

俺はうるさい連中を残して部屋を出ると、階段を下りて、屋敷のドアを開いて外に出た。

あちこちから聞き覚えのある、うめき声が聞こえて来る。さあ、どいつから片付ける。

あの倉庫あたりが臭えな。行くとするか。

 

 

 

その時、駆逐艦・高波は、

ブレードモールデッドとノーマルモールデッド一体ずつと対峙していた。

その目に恐怖ではなく闘志を宿して。

12.7cm連装砲でノーマルモールデッドの頭部を狙う。

 

「高波、もう逃げません!あの人が、勇気を残していってくれたから!」

 

落ち着いて照準を合わせ、発砲。

右腕に装着したコンパクトな砲から放たれた砲弾が、

ノーマルモールデッドの頭部を正確に捉え、着弾。粉砕。

 

「やった……!高波も、戦えるんだ!」

 

しかし、残ったブレードモールデッドが高波に迫る。

急いで再装填する彼女だが、既にB.O.Wは巨大な刃と化した右腕を振り上げていた。

その姿を目の当たりにし、思わず思考が停止し、身体が固まってしまう。

……もう、ダメ!彼女が死を覚悟したその時。

 

 

「子供に何してやがるクソ野郎!」

 

 

綿のシャツに、胴まで覆うゴム製の防水服を着た老人が、

ブレードモールデッドに飛びかかり、強烈な拳を叩き込んだ。

頭部に岩のような拳を食らったB.O.Wは思わずふらついて、大きくよろめいた。

 

 

 

どうにか間に合ったな。この子達が持ってる模型、本当に兵器だったんだな。まあいい。

とっととコイツをぶち殺さねえと。全力の右ストレートで体制を崩したが、

こっちに狙いを変えてきやがった。それでいい。さあ、やろうぜ!

俺はファイティングポーズを取ってバケモンと向き合う。

 

「出てきやがったな、この黒カビクソ野郎めが!」

 

奴が刃物みてえな右手で俺をぶった斬ろうとするが、遅えんだよ!

すかさず俺は右フック、左フックを交互にぶちこんで、

反撃の隙を与えず集中的に頭部を狙う。

何もできずに俺も連撃を受け続けるだけのバケモンが、とうとう足を滑らせて、

後ろに倒れ込んだ。へっへ、チャンスだ。

俺はそいつが立ち上がる前に駆け寄って、そいつの頭を──

 

「ふん!」

 

踏み潰した。汚え血と肉片を撒き散らして、

神経の反射だけでビクビクと少しの間身体を動かしたら、奴は動かなくなった。楽勝だ。

おっと、子供はどこだ。いたいた。緑の髪ってのは珍しいな。染めた様子でもねえ。

なんか、まばたきもしねえで俺を見てるが。

 

「お嬢ちゃん、大丈夫か」

 

「おじいさん、素手で、B.O.Wを……」

 

「怪我は、ないみたいだな。ガッツのある戦いぶりだったが、

ひとりで複数体を相手にするのは頂けねえ。時には退くのも肝心だ。わかったな」

 

「……え?あ、はい」

 

「連中、他にもいるはずだ。どっかで見なかったか?」

 

「ええと、やっぱり北の宿舎が狙われてまして、先輩方が迎撃に」

 

「よっしゃ行くぜ!」

 

俺は女の子が指差した方へ走り出した。

なんか言いたそうに手を伸ばしたが、悪いが時間がねえ。

身を守る術はあるみてえだから、その子を残して北へ急ぐ。

 

 

 

艦娘宿舎前。

その頃、やはり赤城達正規空母や、武蔵を始めとした戦艦数人が、

B.O.Wの迎撃を行っていた。

 

「皆さん、無闇に突っ込まないで!あの時の戦いを思い出して!」

 

赤城は空に矢を放ち、上空で炸裂した矢を戦闘機に変化させて、

モールデッドの群れに機銃弾を浴びせる。

 

「偵察機の情報だと、この動き、やはりイーサンの時と同じです。

やはりこの場に戦力を集中して迎え撃つのが得策」

 

加賀は偵察機・彩雲を鎮守府上空と建物内に放ち、索敵を行う。

その時、一機の彩雲が敵影を捉えた。

 

「待って。やっぱり宿舎内にもB.O.W。あの時の肥満体もいるわ」

 

「ならば、私が行こう。15.5cm三連装副砲で反撃の間を与えず一気に吹き飛ばす」

 

そばにいた戦艦・武蔵が副砲で2体を一度に粉砕すると、

宿舎内部の敵の掃討を買って出た。

 

「お願いします。私達はここで宿舎への侵入を食い止め……えっ!?」

 

加賀の声に反応した皆は驚くべきものを見る。

 

 

 

カアァァ……と乾いた吐息を漏らしつつ、

宿舎の影から艦娘達の隙を窺っていた四つ足のB.O.W、クイック・モールデッドは、

背後から迫る存在に気づくことができなかった。彼はゆっくりと右足を持ち上げて、

 

「くたばれこの野郎」

 

何度もB.O.Wの背中を全力で踏みつけた。

背骨を折られ、身動きが取れなくなったところで、やはりとどめに頭を踏み潰す。

ジョーは満足げにニヤリと笑うと、戦いを続ける艦娘達に呼びかけた。

 

「おい、嬢ちゃん方!俺も混ぜろ!バケモン殺すのは得意なんだ!」

 

 

 

武器も持たず、不意打ちでB.O.Wを瞬殺した老人を、皆、呆気にとられて見ていた。

 

「私の眼鏡が曇っているのか?今、老人が怪物を踏み潰したように見えたのだが……」

 

「いいえ、現実。私も見ました。そしてこっちに話しかけてきました」

 

「きっとイーサンと同じ転移者です!皆さん、彼を援護しましょう!」

 

赤城がいち早く状況を飲み込み、再び戦闘機による攻撃を開始した。

敵は見えている範囲でモールデッドが約5体。まだ増援があると思ったほうが良い。

だったら。

 

「おじいさん!宿舎の中にB.O.Wがいます!彼らの掃討をお願いできますか!?」

 

“おう、任せとけ!”

 

「いいのか、赤城!?」

 

「武蔵さんは彼を守ってください!」

 

「そうは言うが……」

 

武蔵が戸惑っている間に、老人は宿舎に入り、間もなく激しい戦闘の音が聞こえてきた。

 

「ん~ああ、わかった!彼ひとりでは危険だろう」

 

そして、彼女もまた宿舎へ飛び込んでいった。

だが、老人を助けるべく、彼女達の家に舞い戻った武蔵が見たのは、

異様としか言えない光景だった。

 

「お前らみてえな奴を殺すのは素手で十分だ!」

 

建物内をうろつくモールデッドに、目にも留まらぬパンチを浴びせ、

遂に頭を潰してノックダウンした、漁師のような老人の姿だった。

 

 

 

とりあえず1階のは片付けた。今ので全部か?

いや、違うな。まだ奴らの気配がしやがる。

2階への階段を探そうとしたら、後ろから声を掛けられた。誰だ、うるせえな。

 

「待て、ご老人!きっと違うんだろうが、念のため聞いておく。

これは、全部お前がやったのか……?」

 

今度は眼鏡を掛けた白い髪の姉ちゃんだ。床に散らばったバケモンの死体を指差してる。

 

「他に誰がいるってんだ。奴らはまだいる。悪いが後にしてくれ」

 

「あ、ちょっと!私も行こう。お前一人では危険だ」

 

「好きにしろ。どっちがたくさん殺せるか競争だ」

 

喋りながら廊下を進むと階段が見つかった。姉ちゃんが慌てて追いかけてくる。

階段を上りきったら、またバケモンだ。俺に気づくとかすれた声を上げて威嚇してきた。

次の瞬間、ダッシュでそいつに駆け寄り、まず右フックを食らわせた。

 

奴らとの戦いは基本的には先手必勝だ。

牙や爪を使う前に、連続攻撃を叩き込んで反撃される前に殺し切る。

今度も左右交互のパンチを浴びせてバケモンから攻撃のチャンスを奪いつつ、

両腕を砕き、頭を潰す。

 

「おい、待て、ひとりで、挑む、のは、危険、だ?」

 

一撃浴びせる度になんか言いたそうにしてるが……へへっ、悪りいな姉ちゃん。

こいつは俺の獲物だ。最後の一撃を奴にお見舞すると、見事に頭が砕け散った。

ざまあみろ。

 

「俺の勘だとこの先に強力なのがいやがるぜ。遅れんなよ」

 

「待て待て待て!さっきから何をやってるんだ!B.O.Wを不意打ちで殺すわ、

奴らを素手で叩きのめすわ、やってることがメチャクチャだぞ!

そもそもお前は何者なんだ!」

 

「俺はジョー・ベイカーだ。いつもは沼地でワニ漁をしてるんだが……

提督って奴の話によると、俺は70年前の日本に飛ばされちまったらしい。姉ちゃんは?」

 

「戦艦・武蔵。ジョー、お前ひとりで行かせるわけにはいかない。危険すぎる」

 

「好きにしろって言っただろ。だが、俺を助けようなんて考えなくていい。

バケモン殺すことに集中しろ」

 

「ああ、待てと言っている!」

 

俺は構わず廊下をズンズン進む。

すると、数歩先の床にどす黒いヘドロが集まって、デブのバケモンが形になった。

 

「あいつは……!以前金剛を傷つけた奴と同じ個体!

ジョー、下がっていろ。ここは私が!」

 

「家ん中でそのでけえモンぶっ放す気か?俺に任せろ!」

 

武蔵が止める前に俺はダッシュでデブに走って、まずは一撃食らわせる。

流石にでけえな。大して効いてる気がしねえ。

すると、そいつはヴッ、ヴッ、と気持ちわりい声を上げてうつむいた。

危険を感じた俺はしゃがんでガードした。

次の瞬間、奴が物凄い勢いで周りにゲロを吐き出した。すげえ射程距離だ。

だが、おかげで足元にまでは届かねえ。

俺はゆっくり奴の周りを回りながらゲロを回避した。

 

よっしゃ、普通のパンチが効かねえなら必殺コンボだ。

俺は立ち上がって、またファイティングポーズを取る。

そして、左パンチ、右、そして右の連打から素早い連続ジャブを叩き込んだ。

今度は俺の猛攻に耐えかねたのか、デブが膝を付く。

その隙に、また俺は奴の頭を左右交互に殴り続ける。

 

だが、何してくるかわからん相手に、あんまりくっつき過ぎるのもよろしくねえ。

よろよろと立ち上がったデブから一旦距離を取る。

すると、奴が身体を震わせて体中から白い煙を上げる酸性のような体液を撒き散らした。

ヒュー、間一髪だ。

 

次は俺の番だな。

いちいち何かする度に一瞬立ち止まるノロマに一気に近づいて、またコンボをぶち込む。

今度は強烈な右、素早い左ジャブ、右フック、そして……

左ストレートでノックアウトだ!

 

全力の拳を食らったデブが悲鳴を上げてひっくり返る。

嫌な予感がした俺は廊下を急いで引き返した。

すると後ろから何かが爆発するような音がした。ボケっと見てねえで助かったぜ。

ん~……空気が落ち着いたな。もうバケモンはいねえだろ。

俺は武蔵って姉ちゃんに声を掛けた。

 

「帰ろうぜ。もうここに用はねえ」

 

「あ、うん」

 

俺達は階段を下りて、建物から出た。

しかし、時間を超えて日本にまでついてきやがるとは、

バケモン連中のしつこさには呆れるばかりだ。

 

 

 

襲撃してきたB.O.Wの群れを打ち払ったばかりの艦娘達は信じがたい物を見た。

これは悲劇なのか喜劇なのか。

無傷の老いた漁師がちょっと野暮用を片付けてきたといった感じで、

武蔵は困惑しきった表情で、宿舎から引き上げてきたのだ。

かつての悲劇を思い出した赤城が二人に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?怪我はありませんか?」

 

「お、心配してくれてんのか?怪我したのはバケモンだけだ」

 

「武蔵さんは?」

 

「ああ、なんと言うか、掃討を買って出たはいいが、全部ジョーが片付けてしまった。

……拳で」

 

はぁ!?

 

と、その場にいた全員が同じ声を上げ驚くというか呆れ返る。メチャクチャだ。

誰もジョーの戦果を讃えたり、ましてや尊敬する者などいなかった。

人間ならせめて銃を使え。それが皆の一致した意見だった。

一方ジョーは、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、

軽く皆に手を上げただけで本館へ戻ろうとした。しかし、そんな彼を赤城が引き止める。

 

「待ってください!」

 

「ん?どうした嬢ちゃん」

 

「あなた、異世界からいらしたんですよね?

そうじゃなきゃ一般人で外国の方がここに入れるわけありませんもの!

……イーサンという人はご存知ありませんか?彼は元気なんですか?」

 

「はぁ、またイーサンって野郎か。悪いがそんな奴は知らん。

ずっとジャングルの沼地で一人身だったからな」

 

「そう、ですか……」

 

「じゃあな。あんたらも若えのにバケモノ退治に駆り出されて苦労してんな。

身体には気をつけな。あばよ」

 

そして、皆の微妙な視線を浴びながら、ジョーは今度こそ本館へ戻っていった。

エヴリンによる悲劇が終息した世界で彼は何を見るのか。今はまだ何もわからない。

 

 


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