艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

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Last File; Ethan Never Dies

光。見えるのはただそれだけだ。

何処とも知れぬ空間で、俺はこれまでの戦いを振り返っていた。

ミアを迎えに来たベイカー邸で、当のミアに左腕を切り落とされ、

モールデッドに追い回され、トラップに怯えながらたどり着いた娯楽室。

ここが全ての始まりだった。

 

怪しいビデオを見ると、いつの間にやら海軍基地。最初は不審者、スパイ扱いだったが、

2017年の武装を活かして俺の世界のB.O.W.や異世界の深海棲艦と戦ううちに、

段々仲間と呼べる者たちが増えていった。そんな矢先の出来事だった。

 

度々コデックスを通じて茶々を入れてきたルーカスが、

この世界にまで魔の手を伸ばしてきたのだ。

自分自身も特異菌に冒されていることを感じていた俺は、元凶のエヴリンを倒した後、

意図的に特異菌を暴走させることで奴を追い詰め、

最終的にはロケットランチャーでルーカスを退けた。

 

……そして、同じく感染してしまった金剛。

彼女に宿る特異菌に俺の体内の菌をぶつけることで滅菌に成功したが、

それは俺自身の崩壊も意味していた。

超人的な能力を解き放った俺の肉体を、ある意味支えていた存在がなくなったのだから。

ジャックやマーガレットの様に真っ白な石になって、俺は死んだ。

 

相変わらず光以外は何も見えない。日本人は死後、

三途の川という長い川を渡り、生前の行いについて裁きを受けるらしいが、

アメリカ人の俺は渡らせてもらえないらしい。いつまで経っても光のまま。

どうしようもないので横になる。大の字になって目を閉じると、ようやく闇に恵まれた。

もう眠ろう。と、思ったのも束の間。今度は意識が直接光で満たされた。

思わず俺は叫ぶ。

 

 

「しつこいぞ!」

 

 

寝る気もなくなって身体を起こすと、そこにはさっきまで見ていた光景。

ルーカスとの激闘でボロボロになった屋上。紅い夕陽。そして。

 

「イーサン!!」

 

泣きはらした顔の金剛が抱きついてきた。これは、一体どういうことだ!?周りを見る。

大勢の艦娘、提督、レッドフィールド。皆一様に驚いた様子で俺を見ている。

誰か説明してほしい。世界の壁をいじりまくったせいで時間が逆行したのだろうか?

だが、海を見ると夕陽は俺が絶命した時より明らかに沈んでいる。

静かにパニックを陥る俺は、ようやく口を開いた。

 

「俺、生き返った?」

 

若干間抜けた口調になってしまったが、俺を馬鹿にしたいなら一度死んでからにしろ。

金剛が俺の手を両手で握り、何度もうなずきながら答えてくれた。

 

「うん……うん、そうだよ!イーサン、帰ってきてくれたんだヨー!」

 

「でも、なんでだ。まさか特異菌の再生能力、なんて冗談は勘弁してほしいが」

 

長門が俺に歩み寄って、裂けたプラスチックのボトルを差し出した。

滅多に見ることのない優しい眼差しで俺に語りかける。

 

「恐らく、この薬の効果だ。

お前が崩れ去ってしばらくすると、急にこのボトルが膨らみだしてな。

破裂して中身が周りに飛び散った。液体はお前の亡骸にも降り掛かった。

そしたら、お前の身体が一度完全に砂になって、再び人の形に固まったんだ。

やがてその形が肉体に変化して……お前は、お前はっ……!」

 

そういうと、彼女はすたすたと屋上の端に歩いていった。

途中、鼻をすする音が聞こえたのは気のせいだろうか。

俺は手渡されたボトルの残骸を見る。……そうだ、いつか作った怪しげな薬。

“復活薬”を謳っていたが、まさか本当に効果があるとは思わなかった。

 

「は、はは、あははは……」

 

思わず乾いた笑いが出る。本当に、あのワークベンチは謎だらけだ。

明石が執着するのも無理はない。その明石が駆け寄ってきた。

 

「イーサン、君って本当タフだよね。

B.O.Wだろうと深海棲艦だろうとお構いなしに突っ込んで、

挙句の果てには死んだと思ったら生き返ったり……

もう、心配かけてくれちゃった埋め合わせは復活薬もう一個で許してあげます!」

 

「はは、自分でも試したくなったのか?」

 

「もう!イケズ言わないの!」

 

やいのやいの言い合う俺に次々艦娘が集まってくる。

香取に付き添われて赤城が一歩ずつ、ゆっくり地を踏みしめて歩いてきた。

 

「イーサン、教えてください。私は、数日前に罪を犯しました。

そして、今度は、貴方まで失うところでした。

私は、どうすれば贖罪ができるのでしょうか……」

 

「彼らのことを忘れないでいてやることだ。辛いことだろうが。

俺のことは気にする必要はない。だってこの通り生きてるんだからな。

それでも心が持ちこたえられないなら、俺も君の罪を一緒に背負う。

本来この世界に存在しない災厄を招いたのは、俺のせいでもあるんだから。

何も心配しなくていい」

 

「うくっ……ありがとう、ありがとうございます……」

 

赤城の頬に二筋の涙が伝う。

彼女の背中をなでながら香取が俺を見る。眼鏡の奥の目を細めて。

 

「あなたは、言葉ではなく行動で私達に改めて道を示してくれました。艦娘としての道。

人々を脅威から守るため危険を顧みず戦う道。

そして、仲間と生きる喜びを分かち合う道。全てにおいて、あなたは100点です……!」

 

「ははっ。本当、最後まで先生みたいだな」

 

「真面目に話してるんですから、混ぜ返さないでくださいまし!もう!」

 

潮風に紺のスカートをはためかせながら、

コマンダン・テストが船体を象った靴を鳴らしながらこちらに歩いてくる。

 

「イーサン、ワタシ、本当に嬉しい。

ほんの少しだけど、あなたと過ごせて、本当によかった」

 

「俺も楽しかったよ、テスト。この世界のフランスと日本を頼む。

俺の世界じゃ、日本もフランスもアメリカも、友好的な関係を築いている。

きっと、君みたいな人間が尽力してくれたおかげだ」

 

「イーサン。これからも、時々、会いに来てくれませんか。

あの人達も、来ることができました。

日本と、フランスと、アメリカの、架け橋になってください」

 

「……テスト。済まないが、それはできない」

 

「Ah...どうして?」

 

「何度も世界を行き来するのは危険なんだ。なあ、レッドフィールド」

 

俺は振り向き、後ろでずっと様子を見守っていたレッドフィールドに声をかけた。

 

「その通りだ。世界間を転移するには強力な自己の存在意識の改変が必要になる。

だが、何度もそれを繰り返していると、

やがて自分が本来どちらの存在なのかわからなくなり、

行き場を失った自分自身が消滅する。俺達はすぐに帰還する。

この世界と俺達の世界。接続するのはそれで最後だ」

 

「そんな……」

 

「テスト、そんな顔しないでくれ。艦隊これくしょん、だったな。

思い出したんだ。日本のパソコンゲームだ。

元の世界に帰っても、俺はモニターの向こうから君達を見守るから」

 

「……はい!」

 

コマンダン・テストは、決意を秘めた表情で、力強く応えた。

それを見届けると、レッドフィールドが部下に指示を出した。

 

「撤収準備に入るぞ!プロジェクターの準備だ。テープは用意できてるな?」

 

「はい!技術班によって編集済みです!」

 

それからは忙しかった。B.S.A.Aのメンバーが本館前広場にヘリを移動し、

機内にプロジェクターを設置。本館の真っ白な壁にビデオを投影する準備をしていた。

手伝えることのない俺は、指定された時間まで、各所をブラブラと歩いていた。

まず、手近な艦娘に声をかけ、鳳翔という人のところへ案内してもらった。

食堂で炊飯係をしている彼女に礼を述べる。

 

「もしもし、忙しい所済まない。あなたが鳳翔っていう人か?」

 

「はい、そうです。私が鳳翔ですが、もしかして貴方は……」

 

「ああ。イーサン・ウィンターズだ。

あなたに服を作ってもらって、洗濯までしてもらった。助かったよ、本当にありがとう。

まぁ、一着焦がしてしまったけど……」

 

「お話は聞いています。あの激しい戦いを生き延びてくれて嬉しいです。

服のサイズ、大体会っていたようでなによりです」

 

「いい着心地だ。残りの2着も大事に着るよ。

あなたたちが、戦いに勝利することを祈ってる。それじゃあ、俺は失礼するよ」

 

「はい。どうか、お元気で……」

 

鳳翔と別れた俺は、工廠に寄ってみる。中に入ろうとした瞬間、悲鳴が聞こえた。

中に飛び込むと明石が頭を抱えていた。

 

「Noooooo!!」

 

「どうした、うるさいぞ」

 

「ここで叫ばなくていつ叫ぶのさ!ない、ないのよ!」

 

「何が!」

 

「破砕機とワークベンチ!イーサンが帰ったら私の物よウヘヘって考えて、

早速何かいじろうとしたら……見てよこれ!」

 

俺は明石が指差したところを見る。ああ……確かに変だ。

破砕機もワークベンチも跡形もなく消えている。

 

「俺達がそろそろ向こうに戻るのを察して、一足先に帰ったんじゃないか?」

 

「いやあああ!納得できな~い」

 

「ユラヒメの技術で頑張るんじゃなかったのか?なんか前にそんなこと言ってたろ」

 

「それはそれ、これはこれ!私もワークベンチ、ほ~し~い~の~!」

 

「こいつはひどい」

 

子供のように駄々をこねる明石を置いて、工廠を後にした。

まあ、彼女は性格的に放っておいてもそのうち立ち直るだろう。

……さて、そろそろ行こう。

 

 

 

──本館前広場

 

夕日が沈み、夜の帳が下りた広場に戻ると、

既にレッドフィールド達が準備を終えていた。

そして、提督や艦娘達が見送りに来てくれていた。

俺の姿を見るとレッドフィールドが話しかけてきた。

 

「準備は完了しているが、出発予定時刻まで少し時間がある。

別れは今のうちに済ませろ」

 

「ああ。ありがとう」

 

俺は金剛を探し、彼女を見つけると近づいて話しかけた。

 

「金剛……具合はどうだ」

 

「ノープロブレム、ネ!医務室の血液検査も異常なしだったヨー!」

 

「そうか、よかった。本当によかった」

 

「イーサン。これで、本当にお別れなんだネ……」

 

「そうだな、いや……分からないな」

 

「どういうこと?」

 

「俺達にとってこの世界がゲームだったように、

俺達の世界が君達から見てゲームになる時が来るかもしれない。

今はテレビも普及していないけど、70年経って、

テレビゲームが子供だけのものじゃなくなった時、

イーサン・ウィンターズを主人公にしたゲームが登場するかもしれない。

いや、きっと来る。その時まで、少しの間お別れだ」

 

「私、待ってる。ずっと、待ってるから……」

 

俺は黙って頷くと、彼女と握手を交わし、そっと離れた。さて次だ。

見つけやすいやつにも別れの挨拶くらいはしないと、モニター越しに怒鳴られそうだ。

俺は長門の前に立つ。改めて向かい合うと本当に背が高い。

いざ何かを言おうとしてもなかなか言葉にならない。

 

「なあ、俺達の出会い方って酷いもんだったな」

 

「……ああ。不審者が乗り込んできたと思えば、翌日にはいきなり殴られるわで散々だ」

 

「初めて会った時にいきなりお前に締め上げられたんだ、あいこだろ」

 

「ふん、口の減らないやつめ。……まぁ、その後の働きについては若干評価しているが」

 

「やっぱり最後まで上官のつもりかよ!って、これで、本当に最後なんだな」

 

「うむ、そうだな……」

 

「世話になった」

 

「礼には及ばん。部下の面倒を見るのは、」

 

「上官の務め、だろ?もういいよ部下で!」

 

「ああそうだ!お前は私の認める部下で……戦友だ」

 

「……元気でな」

 

「お前こそもっと身体を鍛えて体力を付けろ。さらばだ」

 

そして俺は踵を返し、ヘリに向かって歩き始めた。

後ろ髪を引かれる思い、とはこういう感情なのだろうか。でも俺は振り返らない。

別れは新たな出会いの始まりでもある。

プロジェクターが設置された機内に乗り込み、ベルトを着用する。

俺が乗ったことを確認すると、レッドフィールドが説明を始めた。

 

「今から屋敷の壁に映像を投影する。

なるべく瞬きせず凝視しろ。めまいが起きてもこらえるんだ」

 

「わかった」

 

後ろのやり取りを聞いたパイロットがマイクで提督達に呼びかけた。

 

“皆さんにお願いです。これから投影される映像は一切見ないでください。

我々が消失するまで、目を閉じる、後ろを向くなどして

光を目に入れないようご注意ください”

 

外がにわかにざわつく。本当に異世界へ転移が可能なのか興味のある者が多いのだろう。

だが、すぐに皆が後ろを向き始めた。

その様子を見たレッドフィールドが部下に指示を出す。

 

「再生しろ」

 

「了解」

 

部下の隊員がプロジェクターのスイッチを押すと、

屋上が崩れた邸宅の壁に、カラーバーが映し出された。

俺達は目を凝らして何も動きがない映像を見続ける。

B.S.A.Aがサブリミナル効果を再編集したらしい動画を見つめていると、

頭のなかにモヤがかかる。世界が揺れて、身体から力が抜ける、

というより実体がなくなる。目が乾いて開けていられなくなった瞬間、

突然ブラックホールのような空間が現れ、声を上げる間もなく俺達を吸い込んだ。

 

 

 

──ベイカー農場

 

「……サン、イーサン!」

 

レッドフィールドに肩を揺さぶられ目を覚ますと、

そこは見渡す限り小麦が広がる農園だった。

そのど真ん中にヘリごと俺達は転移したのだ。もう月が高く昇る夜更けだったが、

明るい色の小麦が月に照らされ、周りの状況は良く見えた。

 

俺はベルトを外すと、一瞬ためらい、思い切って小麦畑に飛び降りた。

この世界の土を踏むのは何日ぶりだろう。

たった一週間と少しだが、何年も旅をしてきたような錯覚を覚える。

だが、ここは紛れもない“現実”。俺はとうとう自分の世界に帰ったんだ。

しかし、感傷に浸る間もなく俺はレッドフィールドに呼び戻され、

ヘリに逆戻りすることになる。

 

「イーサン、戻れ。こんなところにいても仕方がない。君は行くべきところがある」

 

「ああ、そうだったな。畑で何をするつもりだったんだ俺は」

 

再び機内に戻りベルトを締めると、

ドアが閉まりヘリがローターを回転させ離陸を開始した。

レッドフィールドに防音ヘッドホンを渡され、装着する。

そして十分な高さまで上昇すると、何処かへ向けて発進した。

どこへ向かっているのだろう。長い長い旅路だった。

俺は道中、気になったことを尋ねてみた。

 

「レッドフィールド、ひとつ聞いてもいいか」

 

「クリスでいい。なんだ」

 

「どうしてB.S.A.Aのあんたが、アンブレラのヘリに乗ってるんだ。

バイオテロの元凶になった企業だろう」

 

「……B.O.W開発に関する諸々の機密が発覚し、壊滅的な損失を出したアンブレラが

民事再生法の適用を受け、再建されたことは聞いただろう」

 

「それはニュースでやってた。でもその先がわからない。なんでそんな企業を助ける」

 

「一つは金の問題。世界中に支社、下請け企業を持つアンブレラが消滅すれば、

莫大な数の失業者が生まれ、株価の暴落による世界経済への打撃は計り知れない」

 

「もう一つは?」

 

「人の問題だ。

バイオテロによる被害者への賠償金は1年や2年で払いきれるものじゃない。

かと言って国民の血税で一企業の不祥事の後始末をすることは国民が許さない。

よって、アンブレラは国からの支援を受ける代わりに、

B.S.A.Aの完全管理下に置かれ、

賠償金を払い続けるためだけに操業を続けることになった。

アンブレラによるバイオテロの首謀者が全員死亡しているという事情もある」

 

「まさに、生きる屍だな。他には?」

 

「そんなところだ」

 

「そうか……わかった、ありがとう」

 

気のせいだろうか。クリスが前を向く前に一瞬目を逸らした気がした。

だが、もうクリスはこちらを向こうとせず、俺も次の瞬間に小さな疑問が消え去った。

東から眩しい朝日が昇ったのだ。

 

 

どんなに暗い夜も、いつかは明ける

ようやく夜明けが訪れた

気が遠くなるほど長い夜だった

苦しめられたのは俺とミアだけじゃない

ベイカー家もそうだ

あの化け物「エヴリン」に、変えられてしまった

だがあいつはもういない

 

 

ルーカスも死んで、おぞましい事件に終止符が打たれた。

しかし奴の言っていたことは本当だった。俺達の生きる世界は絶対なんかじゃないこと。

でも、それがなんだというんだ。

この太陽は、きっと向こうの世界も等しく照らしているはず。

彼女達が生きる、俺達がゲームだと思い込んでいた世界も。

 

艦娘達も俺達と同じように誰かのために戦い、傷つき、懸命に生きている。

それだけは誰にも否定できない。

俺も悪夢のような出来事から立ち上がり、前に進むんだ。

 

ここから新しい日が始まる。

 

陽の光を浴びながら、青い傘がペイントされたヘリコプターは、B.S.A.A.支局に向かう。

疲れが溜まっていた俺は、いつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

──B.S.A.A某支局

 

「さあ、起きろイーサン。到着だ」

 

「ん、ああ。悪い」

 

クリスに起こされ、ヘリから降りた俺は辺りを見回す。

広い荒野の中に、ぽつんとコンクリート作りの無骨な5階建てビルがある。

ここはどこだ。クリスに尋ねてみる。

 

「クリス、ここはどこなんだ」

 

「B.S.A.A.支局のひとつ、としか言えない。詳しい場所は機密事項だ」

 

「なんだって!……そんなところに俺を連れてきてどうするんだ」

 

「会わせたい人がいる。君の妻だ」

 

「ミアがいるのか!?どこだ、どこにいるんだ!」

 

「落ち着け、ただ、かなり制限された状況での面会になる」

 

“面会”という表現が気になったが、今はそんなことはどうでもいい。

俺はクリスに続いてビルに入った。殺風景な外観とは裏腹に、

内部には多数の職員がパソコンやコンソールに向かい、

頭上のモニターを見ながら立ったまま何事かを話し合っている。

 

そんな様子を物珍しそうに見ながらクリスに付いていくと、

彼は階段を下り、どんどん地下階へと下りていく。

ひんやりした空気に包まれたフロアで立ち止まると、彼はドアを開けた。

 

「中へ」

 

「ああ」

 

クリスに促されて部屋に入ると、

そこはパイプ椅子と大型モニターがあるだけの寂しい部屋だった。

俺が椅子に座ると、彼が無線で2,3短いやり取りをした。

するとモニターの電源が付き、そこに待ち焦がれた人物が映し出された。

 

「ミア!」

 

『イーサン!……ごめんなさい!私、私のせいで!』

 

「もういいんだ、全部解決した!エヴリンも、もう死んだ!

……どうしたんだ、ミア。その格好は」

 

喜びのあまり気づかなかったが、よく見ると

ミアは囚人服のようなオレンジ色のズボンとシャツを着ている。

すぐさまクリスに問いただす。

 

「クリス、あの服はなんだ!彼女に何をした!ミアはどこにいる!」

 

「それは彼女に直接聞くといい」

 

「ミア?今、どこにいるんだ。どこかに監禁されているのか?」

 

ミアは泣きながら状況を語りだす。

 

『イーサン、これは当然の罰なの。……エヴリンを連れてきたのは、私だから!』

 

「なんでだ!君とエヴリンに何の関係がある!」

 

『前に言ったわよね、私、あなたに嘘をついた。本当は貿易会社になんて勤めてない。

エヴリンを開発した組織の工作員、それが、私なの……』

 

目の前が真っ暗になる。この惨劇の引き金となったのは、実の妻だった。

喉に何かが詰まったように、言葉が出ない。

 

『3年前にあなたの前からいなくなったのは、あの屋敷でエヴリンに捕まってたから。

あの子は家族を欲しがってた。私を母親代わりにしていたの。

そこでカビに冒されて……』

 

「もういい!!」

 

やりきれない感情が爆発した俺はテーブルを殴った。そしてクリスに詰め寄る。

 

「今すぐミアと面会させろ!

組織とやらについて、直接会って洗いざらい聞かないと気が済まない!」

 

だが、クリスはまっすぐ俺を見て、

 

「残念だが、彼女はもうB.S.A.Aの隔離施設に収容されていて、

俺にもどこにいるのかわからない。

彼女も言った通り、ミアは今回のバイオハザードの主犯だと言ってもいい。

だから特別施設で刑期を過ごすことになる。

密室裁判の判決はまだ出ていないが、恐らく終身刑になるだろう」

 

「なんでだ!血清で特異菌は消えたんだろう!?」

 

「ミアの話を聞いていただろう。彼女はまともじゃない組織に所属していた。

どこに口封じ専門の工作員が潜んでいるかわからない。

普通の刑務所に入れたら、いずれ“事故”が起きて死ぬことになる」

 

「……っ!」

 

全身の力が抜けた俺は、ガシャンとパイプ椅子に座り込んだ。

そんな俺にミアが語りかけてくる。

 

『ごめんなさい、ごめんなさい、イーサン……

もう会えないけど、私には謝ることしかできないの』

 

「もういい……全てが、嘘だったのか」

 

『もう何を言っても信じてもらえないだろうけど、あなたを愛してた。

最後に、それだけは信じて』

 

「愛してたならなんでそんな組織に入った!!」

 

『他に生きる方法がなかった!父はギャンブル中毒、母はヘロインで廃人に。

家を飛び出した私に、世界は暴力と屈辱しかくれなかった!』

 

「俺が送った愛じゃ、足りなかったのか」

 

『その時にはもう手遅れだった!逃げ出したらあなたまで巻き添えに!』

 

「ああ手遅れさ!見ろよこの左腕を!」

 

『ごめんなさい!ごめんなさい!……うっ、ああああ!』

 

全てが解決したと思っていた。

でも、それは同時に全ての真実が明らかになるということ。

過去を断ち切る決心をした俺は、うなだれてつぶやいた。

 

「ミア……さようなら。俺も、愛してたよ」

 

『さようなら、イーサン。本当に、悪い妻だったわ……』

 

そしてモニターの電源が落ちた。希望を失った俺にクリスが何かを差し出した。

 

「ゾイからだ。彼女も、もうゾイ・ベイカーとして生きることができなくなった。

理由はミアと同じだ。彼女はテラセイブという組織に保護されている。

但し、名前も経歴も国籍も変えて、国外で生涯を終えることになる。

それまでの人間関係は一切断ち切らなければならない。ただ、手紙を預かってきた。

読んでやれ」

 

俺は黙って手紙を受け取ると、封を切って読み始めた。

 

 

“イーサン。あんたが来てくれて本当によかった。ありがとう。

ありきたりだけど、そんな言葉しか出てこない。

正直B.S.A.Aの話は信じられないものばかりだったけど、

あんたが戦う姿を見て、真実だと確信した。

父さんや母さんを、取り戻してくれてありがとう。私を助けてくれて、ありがとう。

そして、お礼のひとつも言えずに消えてしまって、ごめんなさい。

すぐには無理だろうけど、イーサンがこの悪夢を本当の意味で振り払って、

新しい幸せを掴んでくれることを祈ってる。

あたしも頑張るから、イーサンも諦めないで。世界の何処かから。

ゾイより、愛をこめて”

 

 

読み終えた手紙を胸ポケットに押し込むと、俺は立ち上がった。そしてクリスに尋ねる。

 

「B.S.A.Aに……システムエンジニアが足りてない部署はあるか?」

 

「世界規模で展開するB.S.A.Aは慢性的な人手不足だ」

 

「決まりだな」

 

イーサン達は冷たい地下から陽の光の差す外の世界に出た。

彼は太陽に向かって一歩ずつ地を踏みしめるように歩み出す。

逆光に晒されるその姿は、翼を得たペガサスに見えた。

そして、再び待機していたヘリに乗り込むと、B.S.A.Aの訓練施設へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 

《再生終了》

 

 

全ての出来事を目撃した“私”は、

映像を見るのに邪魔になっていたガスマスクをかぶり直し、

ビデオデッキからテープを取り出し、回収した。

B.S.A.Aはサブリミナル処理が施されたテープに夢中で、

この娯楽部屋自体の監視カメラには気が回らなかったのだろう。

私の仕事はこいつに写り込んだテレビ画面が映ったビデオを回収すること。

任務は達成した。B.S.A.Aが殆どのB.O.Wを片付けてくれたので楽な仕事だった。

私は無線で連絡を取る。

 

「……アルファチーム、H.U.N.K.だ。回収を頼む」

 

“今日も早いな。仕事は上手く行ったのか?”

 

「回収を、と言った」

 

“す、すまん。すぐにヘリをよこす”

 

10分27秒でステルス迷彩が施されたヘリが屋敷の中庭に降り立った。

私は即座に乗り込む。回収したビデオテープを携えて。

恐らく、これから世界の混迷はバイオテロに留まらなくなるだろう。

だが、それは私の知るところではない。ただ、与えられたミッションをこなすだけだ。

 

──そして、ガスマスクの男を乗せたヘリは飛び立った。

バイオテロの撲滅と世界の安寧のために戦うB.S.A.A。

そして、新たな形の世界を求めるバイオテロリスト。

両者の戦いは、まだ序章を迎えたに過ぎない。

 

 

 

「艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil」 END




ETHAN SURVIVED

CLEAR TIME

9days 14hours 57minutes



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