艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

14 / 31
*今回だけ注釈させて頂きます。途中、“彼”が語る内容は
別作「艦これ×龍騎」の出来事です。未読の方には大変申し訳ありません。



File13; Awaked Inferno

──本館 イーサンの客室

 

もう問題はない。B.S.A.Aが出動してあの屋敷は占拠された。

懸念していたように彼らはいきなり屋敷を焼き払うことなく、

入念な調査を行ってくれている。おまけに今朝、彼らから電話がかかってきた。

初めは半信半疑だったが、ルーカスの名前を出したら信用してもらえた。

テープの存在も伝えたし、後は俺次第だ。

第六倉庫の防空壕に行って血清の手がかりを見つけなければ、

例え帰還の方法が分かったとしても俺は帰るわけにはいかない。

バックパックの中身を整理すると、俺はそいつを背負って部屋を出た。

 

 

 

──倉庫区画

 

俺は敢えて提督達に何も言わずに第六倉庫へ向かった。

必ず戻ってくるのだから、挨拶など必要ない。

大きな倉庫が立ち並ぶ区画の道を歩いていると、後ろから背の高い誰かが歩いてきて、

徐々に俺に近づき、横に並んだ。

 

「独断専行は感心せんな」

 

「……ここから先は、俺一人で片付ける必要がある」

 

「上官である私や提督に一言もなしとは。お前は軍の規律を分かっとらん」

 

「部下じゃねえって言ってるだろ。

死出の旅路でもあるまいし、すぐに用事を片付けて戻ってくる」

 

「死出の旅路、か。ふっ、お前はアメリカ人なのに、妙に日本の言葉に詳しいな」

 

長門が少し微笑んで、俺の横顔を覗き込む。

 

「日本の文化には興味があるからな。詳しくはお楽しみだが、70年後の日本は面白いぞ。

ジャパニメーションやオタク文化が一大産業になっている。特に……」

 

その時、俺の頭に謎の現象が起きた。

コマンダン・テストを迎えた時に覚えた感覚と同じ。脳内がかき回される。

俺は何かを知っている。しかしそれが何なのか思い出せない。

三半規管を潰されたように視界がぐるぐると回転する。

だが、それを思い出そうとすることをやめると治まった。

 

「特に?」

 

俺の異変に気づいていない長門が尋ねる。

どうやら混乱していたのは、実時間でほんの一瞬だったようだ。

 

「いや、なんでもない。とにかく楽しいことがたくさんだ」

 

「何のことだかさっぱりだが……やめておく。大人しく70年待つとしよう」

 

「70年経ってヨボヨボの婆さんになったお前を見られないのは残念だ」

 

「なにを!年寄りになってもお前を投げ飛ばせるくらいの力はあるぞ!」

 

「あー、はいはいわかったよ。ほら、目的地に到着だ」

 

いつの間にか第六倉庫に着いていた俺達は中に入る。

そして再び開けられなかった防空壕の出入り口へ。

俺はバックパックから金属溶解液を取り出す。今度こそ大丈夫なはずだ。

 

「それはなんだ?」

 

「ここに入りたいんだが、鍵穴自体が駄目になっている。

昨日鍵そのものを溶かす薬品を作ったんだ」

 

「知っているぞ。それも一度作ると必要な破砕金属が増えるんだろう!」

 

「今更それかよ」

 

苦笑すると鍵穴にボトルの先端を差し込み、濃い紫の液体を注入した。

文字通り焼けた金属に水を垂らすような音とともに、

鍵穴とその周辺が放射状に腐食した。鼻を突く臭いが広がり、俺も長門も顔をしかめる。

でも、これで鍵は溶け切ったはず。

 

「危ないぞ、離れろ」

 

俺は四角形の出入り口の取っ手に手をかけ、思い切り引っ張った。

一度では開かなかったが、中でバキンと何かが折れる音がした。もう一度。

また全力で引っ張ると、今度は一気にハッチが開き、

錆びついた鍵内部の部品が散らばる。

 

ようやくこれで手がかりらしき物への糸口が現れた。

何があるのかすらわかっていない、か細い糸だが、

俺にとっては頼ることのできる最後の突破口だ。中を覗いてみる。

垂直の鉄製の梯子、コンクリートの壁と床に、物資が置かれた簡易棚がいくつか見えた。

 

「むっ、妙だな」

 

「ああ変だ」

 

中の様子が見える。長門もその矛盾に気づいたようだ。

何十年も使われていないはずの防空壕に、なぜ明かりが灯っているのか。

まさかモールデッドが電球を点けることなどあるまい。

ということは、何者かがこの中に潜んでいることになる。

あるいはそいつと命のやり取りをしなければならない。だが、行くしかない。

 

「長門。俺は行くが、後を頼む」

 

「お前に言われなくてもわかっている。……イーサンも、死ぬんじゃないぞ」

 

「ああ。少し、待っててくれ」

 

「わかった」

 

短い別れを済ませると、俺は梯子を下りてついに防空壕に入った。まず周りを見回す。

40人ほどが入れるスペースに棚やダンボール箱が置かれているが、

保管されている銃や缶詰はどれも錆びきっていて使い物にならない。

だが、俺の目的は物資ではない。なら何が目的なのかと聞かれても困る。

ただ手探りで現状を打破する何かを探しているだけだ。

 

防空壕の中を歩いていると、崩れた壁を見つけた。

近づいてみると、むき出しの土で形作られた地下道が続いている。見つけた。

この先に俺の求める何かがあるに違いない。

ひょっとしたら最低2名分の血清があるかもしれない。

そんな都合のいい期待をしてしまう。

 

馬鹿な考えを振り払い、ホルスターから取り出した丸鋸を構えながら

洞窟を進んでいく。一歩一歩慎重な足取りで探索を続行。

無闇に走り抜けると、後ろから遅れて現れたモールデッドと

前方から奇襲してきた個体から挟み撃ちを食らう。土のトンネルを通るが、やはり変だ。

むき出しの電球が一定間隔で壁に取り付けられており、

懐中電灯なしでも問題なく進むことができる。

 

通路を抜けると、一旦開けた場所に出た。地下水で浅い水たまりができている。

警戒しながら足を踏み入れると、来た。

3ヶ所にグジュグジュとヘドロが集まり、人型に固まる。

それらはモールデッドに転化し、俺に向かってよたよたと歩いてくる。

俺は突っ込まず、退路を確保しつつ迎え撃つ。

 

ゔああああ……

 

1体が噛み付いてきたが、俺は丸鋸のトリガーを引き、奴に押し付けた。

凄まじいスピードで回転するギザギザの刃が、

瞬時に奴の両腕を切り飛ばし、地面に叩きつけた。

あっという間に瀕死に追い込まれた奴の頭を切断し、とどめを刺す。

残りの2体も近づいてきたが、トリガーを引きながら左右に斬りつけるだけで、

モーターの馬力とブレードに巻き込まれ、瞬く間に肉片と化す。

 

げべっ、うげげげえげ、あああ……

 

何もできず3体のモールデッドは沈黙。

俺は水たまりの辺りを慎重に調べるが、もう何も出現する様子はなかった。

とりあえず後ろは安全。俺は前進を続ける。また細い通路が続く。

ゆっくりと歩を進めると、今度はブレード・モールデッドが2体、

お行儀よく前後に列になって現れた。

 

ここでもやはり丸鋸が猛威を振るう。攻撃を食らう前に押し付けてやると、

ブレードの回転力で、巻き込まれた1体がぐるりと身体を一回転し、

左腕を切り飛ばされた。

俺はトリガーを握り続け、苦しむ奴の頭部にブレードを当て続ける。

すると額あたりが綺麗に切断され、脳を失った1体が動かなくなった。

 

叫び声を上げて残った後ろのブレード・モールデッドが右腕の刃を振り下ろしてくるが、

丸鋸を突き出すと、細かい刃の連続攻撃の衝撃に耐えかね、

ただ転ばずに立っているのがやっとで、切り裂かれることしかできない。

狭い通路が、丸鋸が撒き散らすモールデッドの体液で染め上げられる。

俺は力を込めて刃を押し出す。今度は心臓、というより胸全体を開かれ、

2体目が膝を折って倒れた。

 

今のところ弾薬の消費はゼロ。頼りになる武器だ。思わず俺は丸鋸を眺める。

しかし、その一瞬の油断で接敵に気づかなかった。

かすれた耳障りな鳴き声を上げて、クイック・モールデッド3体が走り寄り、

1体が飛びかかってきた。とっさにガードしたので僅かな出血で済んだが、危なかった。

鼓動が早まり、身体から嫌な汗が吹き出る。やはり油断は命取りだ。

 

しかし、対処ができればこっちのもの。

俺は慌ててしゃがみ、丸鋸を前方に向けてトリガーを引く。

今度の3体は、我先にと仲間を押しのけ俺を殺しに来る。

だが、奴が飛びかかってきても、待っているのは丸鋸という名の殺戮兵器。

わざわざ回転刃に向かって飛び込んできた個体は、

振りかざした刃物のような腕を切り落とされ、

真っ直ぐ向かってきた者は、頭を真っ二つにされる。待っているだけで勝負はついた。

 

クイック・モールデッドらの死体を踏みつけながら先に進む。また開けた場所に出た。

完全に錆びついたフェンスで仕切られた、扉のない小部屋がある。

中に入ると、なぜかガンパウダーやハーブがあったが、

あいにくバックパックのスペースに余裕がない。

 

俺が小部屋から出ると、聞きたくもない声が。

ファット・モールデッドがゲロを吐きながら階段を下りてきた。

階段の狭さから考えて横をすり抜けるのは難しいだろう。

近接武器の丸鋸もこいつばかりには効果がない、というより

飛び散る酸性の体液でこちらがダメージを食らう。

 

倒すべきだろうか、いや、あくまで俺の目的はこの怪しい洞窟の探索。

バックパックからひとつだけリモコン爆弾を取り出し、広場の中央に置いた。

俺に気づいた奴がこちらに向かってくる。俺は小部屋に隠れてしゃがむ。

 

うっ、うっ、ぐおえええ!!

 

その時、奴が滝のようなゲロを浴びせてきた。小部屋のガラクタに隠れて回避する。

確かに巨体ではあるが、どこにあれだけの体液を溜め込んでいるのだろうか。

ファット・モールデッドは再び重い身体を揺らしながら俺に迫ってくる。

 

「食らえ!」

 

奴が広場の中央に差し掛かった時、リモコンのボタンを押した。

遠隔操作された爆弾が派手に爆発する。

ひとつで奴を殺し切ることはできないが、すっ転ばせることはできた。

その隙に俺は小部屋から飛び出し、ファット・モールデッドをやり過ごして

階段を上った。

 

ノロいあいつが追いかけてこられない距離までとにかく走る。

丸鋸を持ったままひたすら走った。

運良くそれ以上モールデッドに出くわすこともなく、

完全に肥満体の追撃をかわすことができたのだ。

 

「……あいつに構ってたら、弾がいくつあっても足りない。

帰り道にまだ居たら戦おう」

 

無駄な戦闘はしないに限る。俺は呼吸を整えながら、辺りを見回した。

しかし、慌てていた俺は気づかなかったが、俺はその異様な光景に息を呑んだ。

背の高い作業用ライト、ショベルカー、パイルドライバー、

点在する強化プラスチック製のコンテナ。まるで現実世界のトンネル掘削現場である。

 

これが70年、いや、それ以上昔の世界であるはずがない。

俺が呆然としていると、コデックスに着信。

もうルーカスがB.S.A.Aに確保されたのだろうか。

それともまだどこかに隠れて怯えているのだろうか。

若干楽しみにして俺は通話ボタンを押した。

 

 

 

「よう、相棒。元気でやってるか」

 

『ふざけんな、てめえ、ぶっ殺してやるからな!お前のせいで、俺は、俺は……!』

 

「それは怖いな。でもあいにく異世界にいるから会えないんだ。お前もテープ見るか」

 

『バカが!そんな、必要、ねえんだよ!』

 

「ならさっさと来い。俺は忙しいんだ。

お前を丸鋸でズタズタにして、早く血清を探す必要がある」

 

『まだだ!俺は、もっと、力を吸収しなきゃならねえ。

全部終わったら、てめえも、その世界も何もかもぶっ壊してやる!

二度と血清なんか渡さねえ!』

 

「風邪で熱でもあるのか?声もガラガラだし、言っていることも意味がわからん」

 

『お前よォ……マジにそこが70年前の世界だと思ってんのか?』

 

「今更何を言ってる。俺はその70年前の防空壕にいる」

 

『ハッ!やっぱテメエは底なしのバカだ!

70年にショベルカーや掘削機があると思ってやがる』

 

「何が言いたい」

 

『よく聞け?前にお前が0点取った、”そっちの世界はゲーム論“の

答え合わせをしてやるぜ。色々こじつけてひねり出した割にはいい線行ってたが……

肝心なことに全然触れてねえからやっぱり0点だ』

 

「さっさと答えろ!」

 

『なぁ、おい。お前が生まれ育った世界と、お前がゲームだと思ってる世界、

どっちが”現実“だと思う?

実は、お前が生まれた世界こそ誰かが作ったゲームで、お前は誰かに操作されてるだけ。

そっちのゲーム世界こそが現実。そうじゃないって言い切れる根拠はあるか?』

 

「バカの癖に禅問答はやめろ」

 

『あるのかないのか聞いてんだよ!!ねえよな、あるわけねえよな!

ところがこっちにゃ、あるんだよ~

そもそも俺がそっちの世界の存在に気づいたのはなんでだと思う?』

 

「もうすぐ死ぬやつの与太話に興味はない」

 

『死ぬのは、テメエだ!話に戻るぞ!

実はそっちの世界を知ってるのは俺だけじゃあねえ。

何百万人というナード(オタク)共が知ってんだよ!』

 

「どういうことだ!」

 

『艦隊これくしょん』

 

「一体何を……あがぁっ!!」

 

ルーカスが口にしたその単語を聞いた瞬間、俺の脳に激痛が走った。

こめかみにワインオープナーをグリグリと差し込まれるような、強烈な頭痛。

思わずその場にしゃがみ込む。なんだ、一体奴は何を知ってる!?

 

『おお?その様子だと心当たりがあるみてえだな!

そうだよ、その世界は艦隊これくしょんっていう、

日本のネットサービスの会社が作ったゲームなんだよ。

じゃあ、どうやって俺がお前をそっちの世界に送り込んだかって?

簡単だよ、お前に見せたテープにちょいと細工をしてだな、

”自分は艦これの世界にいる“っていう情報を深層心理に刷り込んだんだよ。

フラッシュはちょっとした演出さ。気に入ってもらえたか?』

 

「バカ、が……思い込みだけで異世界に行けるとでも……」

 

『行けちまうんだから世の中不思議だよなぁ!だって、さっきも言ったが、

俺達の世界だってゲームの世界じゃない保証はないんだぜ?

……う~ん、この世界にタイトルを付けるなら、”RESIDENT EVIL“……いやいや!

シンプルに”BIOHAZARD“なんかもイケてるかもな。

とにかく!俺達の世界と艦これの世界を隔ててる壁は、

厚いようで紙ペラくらいの薄さしかねえんだよ。

認識ひとつで行き来できちまうんだからな。

まぁ、その認識がよほど強烈でないと不可能ではあるんだが』

 

「何のためにこんなことを!

俺を殺したいなら、あのままマーガレットと戦わせてれば済んだだろう!

お前のせいでどれだけ多くの住人が苦しんだと思ってる!」

 

『まさにそのためにテメエを使ったんだよ!

艦隊これくしょんの世界に報復するために!』

 

「お前と、艦隊これくしょんに、何の関わりがある……!」

 

『はぁ…はぁ…よく聞け?あれは2002年頃のことだった。

まだガキだった俺は、日本でブレイク中のネットゲーム、

そう、艦隊これくしょんに夢中だった。

寝食も忘れて、親父に殴られながらも、日本語の辞書片手に毎日艦娘連中を育ててた。

ダチ公よりも先に難関ミッションをクリアして自慢したもんだった……

だが!奴らが俺を裏切ったんだよ!』

 

「裏切った……?」

 

『ある日、艦これにログインしようとしたら、

いきなり「404 Not Found」と来たもんだ!ユーザーである俺様に、何の断りもなく!

俺が奴らをレベル99に育てるまで何百時間かけたと思ってる!

親父に頼んで運営会社にクレーム入れてもらおうとしたら、また殴られた!

なんで一方的な被害者である俺がこんな目に会わなきゃならねえ!』

 

「……この、くそったれ」

 

『それだけじゃあねえ!連中は、2013年になって、何事もなかったかのように、

また艦これを復活させやがったんだ!呆れたね!

とりあえず当時のIDとパスワードでログインしようとしたら、

”IDかパスワードをお間違えです“だとよ!つまり一からやり直しだよ!

アカウントを作り直してゲームスタートしたら、

やっぱりレベル1の艦娘がひとりだけだ!

俺の苦労と、夢と、努力を連中は踏みにじったんだよ!だから俺はやり返すことにした。

心理学、脳科学について徹底的に調べ尽くしてよぉ、

自己の存在認識を司る精神に干渉する信号を作り出すことに成功したんだよ。

そう、お前がカラーバーだと思ってボケっと見てたあれだよ』

 

「たかが、ゲームのために、エヴリンまで利用したのか」

 

『あのクソガキの名前を出すな!イラつくんだよ!俺の身体を返しやがれ、畜生!』

 

「その様子じゃ、お前ももうすぐ自我がなくなって、B.S.A.Aに滅菌されるだろうよ」

 

『ああそうだろうよ。だがな、その前に俺は艦これとエヴリンとお前に復讐する。

ただで帰れると思うなよ』

 

「言っとくぞ。お前はプレーヤー選択を間違えた。またゲームオーバーになる運命だ」

 

『せいぜい強がり言ってろ。知ってるぜ、お前も感染してるってことくらいな』

 

「……どうにでもなる。B.S.A.Aとも連絡が取れた。少なくともお前より状況はマシだ」

 

『だといいなぁ、ヒヒヒ』

 

 

 

もういい。俺は通話を切った。そう、思い出した。

俺は、この世界を知って()()

15年前、絶大な人気を誇りながら、ある日忽然と姿を消し、

2013年に再びサービスを開始したネットゲーム、“艦隊これくしょん”。

それにまつわるニュースはIT産業に携わる俺の耳にも入っていた。

 

今なら全てがわかる。俺がこの世界に来た理由。エヴリンがこの世界にいる理由。

コマンダン・テストを連れてきた時の不可解な感覚。

ルーカスの言うことを信じるなら全て辻褄が合う。

 

俺はルーカスのビデオテープに仕込まれた信号で認識を書き換えられ、

艦これの世界に来た。

他者の意識を支配できるエヴリンなら自己の認識を変化させることもできるだろう。

テストと一緒に鎮守府に入った瞬間感じた奇妙な感覚は、

彼女が艦これの世界、つまり鎮守府に入ったことにより、

本来フランス語しか話せない女性が日本語も話せるよう、

世界のシステムが変更されたことによるものだと思う。

 

まだ若干痛む頭を押さえながら、どうにか立ち上がる。立ち止まってはいられない。

探索を続けなければ。丸鋸を片手にゆっくりと歩きだす。

一体ここでどんな作業をしていたのだろう。

ライトで十分に照らされた工事現場の捜索にそれほど手間はかからなかったが、

これといったものが見つからない。

 

コンテナを開けてみるが、どれも空か、ありきたりな工具しか入っていない。

もうすぐエリアを一周してしまう。このまま収穫なしでは本当に手詰まりになる。

俺が焦りを覚えて、最後のコンテナが積み上げられた区画に踏み入ろうとしたその時、

 

 

ヒャハハハハハァ!!

 

 

物陰から奇怪な叫び声と共に、灰色のパーカー姿が飛びかかってきた。ルーカスだった。

馬乗りにされ、後ろに倒れたが、俺はすかさず丸鋸を取り出し、

奴の顔面目がけて叩きつける。

しかし、鋼鉄の固まりに触れたように、激しく火花を散らすだけで、

まったく聞いている様子がない。

 

「駄目だぜぇ、人の話はちゃんと聞けよ!

俺は今、“艦これ”と“BIOHAZARD”、好きな方に存在を切り替えられるんだよ!

どっちか片っぽにしか存在してねえ武器が効くわけねえだろ!」

 

「くそっ!」

 

俺はマグナムを構え、ルーカスの頭に放った。

轟く銃声が広い洞窟をビリビリと震わせる。

だが、銃弾はルーカスの顔面で潰れて止まっていた。

 

「わかってねえなぁ、今のお前じゃ俺に傷一つ付けられねえんだよ。次は俺のターンだ。

見てろよ、初めは嫌だったけどよぉ、慣れればこの体も悪くねえんだ」

 

ルーカスが右手を伸ばすと、周囲の作業用ライトや転がっていた鉄パイプなどが、

磁力で引き寄せられるように次々と集まり、巨大な瓦礫の玉と化した。

人間の体が自壊しないのが不思議なほどの重量がルーカスを通じて伝わってくる。

息が苦しい。

 

「いくぜぇ、ヒャヒャヒャ!!」

 

そして、奴は俺に鉄球を思い切り振り下ろした。一体何トンある!?

圧倒的な力が迫ってくる。当然俺はガードしたが、

鉄球はドゴォ!!と俺を地面にめり込ませ、ガードした腕に激しい痛みを与えた。

 

「があああっ!!」

 

「まだだろ?こんなもんじゃねえだろぉ?」

 

その後もルーカスは、何度も鉄球を振り下ろしてきた。

振動で洞窟が揺れ、天井から土埃がパラパラと降ってくる。

ドシン、ドシンと奴の攻撃を食らう度、背が堅い地面に押し付けられ、

腕は折れる寸前だ。なんとか頭だけは守らなければ!

だが、このままではどんどん体力が削られ、最終的には、死だ。

 

「ほら、お前も殴れよ!俺を殺してくれぇ、生きてるのが辛いんだよ!ハハハハ!」

 

変異したルーカスの度重なる攻撃で、既に俺の視界は真っ赤だった。

あと、1,2回の攻撃で俺は死ぬだろう。こんなところで死ぬわけには行かないのに!

ここで俺が死んだら、感染した金剛は?いや、他にもいるかもしれない。

何より……俺はまだミアに会っていない!

会って話さなきゃいけないことがたくさんある!

 

「お前のお話はゲームオーバーだ!あばよ!」

 

ルーカスが最後の一撃を叩き込もうとした時、

真っ赤に充血したイーサンの目が見開かれた。混濁した意識の中で彼が思うのは。

 

『世界……融合……艦これ……BIOHAZARD!!』

 

ドゴォ!と音を立てて異変が起こる。

 

「お、おい。なんだよこれ、何やってんだお前!」

 

イーサンが左手で巨大な鉄塊と化したルーカスの腕を受け止めていた。

そして、空いた右腕でルーカスを殴り飛ばした。

 

「がはっ!!」

 

バウンドしながら鉄球ごと10mは後ろに吹っ飛ばされたルーカス。

はずみで能力を解いてしまったため、鉄球はバラバラになる。

体中を打ち付けた痛みに耐えながら、瓦礫から這い出し、彼は立ち上がる。

そこで見たものは。

 

「はは……そうかよ、とうとうお前もそこまで来たのかよ!傑作だぜ!」

 

立ち上がったイーサンの目は燃えるように赤く、

実際彼の周りには高熱で陽炎がゆらめいていた。

その吐息は煙のように白く、全てを焼き尽くすような熱を帯びている。

そう、イーサンは、語らずして見るもの全てを圧倒する“変異体”へと

転移を遂げたのだ。

 

「これでお前もエヴリンの家族ってことだ!

いいぜ、超能力バトルと行こうじゃねえか!」

 

『カ…ゾク……ミア…エヴリン……グアアアアア!』

 

イーサンが咆哮すると周辺の気温が急上昇し、残されていた書類やゴミが燃え上がった。

そして、彼は右腕に意識を集中する。

手のひらに超高熱の火球が現れ、それはどんどん大きくなる。

念動着火能力(パイロキネシス)を得たイーサンは敵に狙いを付け、その火球を放った。

彼の変貌に少なからず驚いたルーカスは回避に失敗。直撃を受ける。

 

「イギャアアア!!あっぢい!ふざけんなテメエ!身体が戻るまでどれだけ……」

 

『グルアアア!!』

 

とっさに身体をかばった右腕が金属のように溶け落ちたルーカス。

彼が喋り終わる前に、イーサンが突進し、ルーカスを殴りつける。

左手で服を掴んで壁に押し付け、筋肉が異常に膨張した右腕で何度も、何度も。

 

「げほっ、がはっ!待て、ちょっと!ストップ、やめろ、降参だ!」

 

丸鋸すら効かなかった顔が、鉄拳の連打でどんどん潰れていく。

鼻血があふれ、歯がほぼ全て失われ、左目が破裂した。

ルーカスも必死に抵抗するが、変異イーサンの人を超えた筋力の前に為す術がない。

なんとか防御を捨てて左手に磁力を集めて、彼の後方から瓦礫の雨を振らせたが、

 

『ハァッ!!』

 

右腕のひと振りで全て弾き返されてしまった。

だが、彼の注意が逸れた隙に、ルーカスはパーカーを脱ぎ捨て、

人間離れした跳躍力で、あちこちを飛び回りながら逃げていった。

 

“ちくしょう、これじゃ再生しても戻れねえ、ちくしょう!!”

 

『グルルルル……』

 

ひとり残された変異イーサンは、水が沸騰するような燃える大気の中、

ただそこに立ち尽くしていた。

 

 

 

──B.S.A.A.作戦司令室(旧ベイカー邸 娯楽室)

 

「……全員、今の出来事を信じるか?」

 

ブラヴォーチーム隊長・シーゲルの問いに、皆無言だった。

ルーカスの部屋から押収したパソコンから、コデックスを通して

一部始終を聞いていた隊員達は少なからず動揺している。やがて一人が口を開いた。

 

「やはり自分は、人間の意識だけで異世界に移動できるとは考えられません……」

 

「でも、技術班の分析だと、あのビデオには

強度のサブリミナル効果のある映像が仕込まれていたわよ。

ちょうど早送りすると特定の周波数の催眠に近い効果が現れるようになってる」

 

「血清ってなんだ?イーサンが探していたようだけど」

 

「はぁ……状況わかってる?特異菌を除去する薬。通報者もそれで助かったんじゃない」

 

「とにかく、アルファチームに連絡を取って、血清を確保してもらうしかないだろう」

 

「でも隊長、発見できたとしても、“向こう”に送る方法がありません」

 

「そう言えば、通報者はどうやって血清の材料を手に入れたんだ?」

 

「詳しい事情は聞けなかった。

“イーサンがくれた手がかり”とだけ言って意識を失った。

何かしら向こうと物品をやり取りする手段があると思われるが、

今は彼女達の回復を待つ他ない。

とにかくジェニファー、レッドフィールド隊長に通信を。

……さっきのやり取りは録音してあるな?」

 

「はい。音声データをアルファチームに送信します」

 

 

 

──ボートハウス

 

アルファチームは、ルーカスの実験場を抜け、ボートハウスにたどり着いていた。

途中、悪趣味なパーティールームがあったが、

デバイスで照らすと多数のトラップが検出されたため、

ギミックは全て無視して隠し通路を爆破し、さっさと通り抜けた。

その後、モールデッドを排除しつつ木板でできた橋を渡りながら、

ボートハウスの終点まで来たのだ。そこには、1隻のボートが横付けされていた。

 

「隊長、この大きさでは、全員は乗れませんね」

 

「同行するメンバーを選別する。この装備では2名が限度だろう。

一人は俺、もうひとりは……」

 

その時、クリスのデバイスが静かに振動する。ブラヴォーチームからの通信だ。

デバイスの通話ボタンを押すと、防毒ヘルメットに装備されたヘッドセットから

シーゲルの声が聞こえてきた。

 

「こちらレッドフィールド、要件は?オーバー」

 

『シーゲルだ。アルファチーム全員に聞いてもらいたいものがある。

今、音声を流しても問題ないか。オーバー』

 

クリスは周りを見回すが、狭い桟橋にはモールデッドの影も見当たらない。

 

「敵の姿はない。大丈夫だ。オーバー」

 

『わかった。では、今から流す音声を全員で聞いてくれ。

ターゲットと要救助者の身に異変が起きている。

デバイスに音声データを送る。オーバー』

 

「了解……ダウンロードが完了した。再生する。オーバー」

 

デバイスを床に置き、ダイヤルとボタンで操作するクリス。

完了すると全員に呼びかけた。

 

「全員よく聞け、以降の作戦に関わる内容だ。ターゲットと要救助者の安否に関わる」

 

「はっ!」

 

全員が耳を澄まし、クリスがデバイスのボタンを押すと、

マイクからノイズ混じりの会話が始まった。

そして彼らはイーサンとルーカスの一連の会話を通じて真実を知ることになる。

 

自分達の世界に絶対性などないこと、それを利用したルーカスの狂気地味た今回の計画、

イーサンが本当に異世界に転移してしまったこと。

そして、彼もまた変異体となってしまったこと。

再生が終わってもしばらく誰も口を開けなかった。

いち早く状況を飲み込んだクリスが通信を再開する。

 

「レッドフィールド。通話の内容を確認した。

ターゲットはこの先の廃鉱にいる可能性が高い。

これよりボートで沼を抜け、ターゲットの確保と要救助者の救援に当たる。オーバー」

 

『注意してくれ。敵がどんな手を使ってくるかわからなくなった。

本部に確認を取ったが、やむを得ない場合、ターゲットの殺害も許可されている。

……死ぬなよ。アウト』

 

「了解、まだ死ぬつもりはない。アウト」

 

通信を終えるとクリスは立ち上がり、隊員達に告げた。

 

「廃鉱には俺一人で行く。お前達はブラヴォーチームと合流し、

引き続きベイカー邸の安全確保に当たれ」

 

「危険すぎます!」

 

「敵の能力が未知数だ。

何もわからない状況で全員が突っ込んでも全滅する可能性が高い。

俺が廃鉱の状況を調べて増援を送るべきか判断する」

 

「しかし!」

 

「決定事項だ。通信の内容から要救助者も変異していると考えたほうがいい。

危険性が高いなら、彼も排除しなければならない」

 

隊員達の間に沈黙が降りる。

しばし黙った後、一人が耐BCベストからグレネードを外し、クリスに渡した。

 

「使ってください。補給に戻ってる時間は、ありませんよね。

俺達にできることは、これだけですから」

 

「……助かる」

 

そして、他の隊員も次々と弾薬ケースやタブレット等を渡した。

それらを受け取ると、クリスはボートに飛び乗り、エンジンを掛けた。

 

「ご武運を」

 

「お前達も、油断するなよ」

 

隊員と別れたクリスはボートを発進し、沼を進み始めた。

生い茂る穂をかき分けながら、ボートは突き進む。

途中、座礁した巨大なタンカーが見えた。あれはなんだ。

これほど大きなタンカーの座礁事故ならニュースになってもおかしくないが、

クリスはダルヴェイという土地自体知らなかった。

 

捜索の必要性を感じたが、目下の優先事項は廃鉱の調査である。

クリスはデバイスで位置情報だけを本部に送り、また沼を進む。

しばらくボートで淀んだ水を泳いでいると、沼の終わりにたどり着く。

先程のタンカーが岸まで突き刺さっている。やはり廃鉱と何か関係があるのだろうか。

そんな疑問と共に、クリスは廃鉱へ続く荒れ地にその足を踏み入れた。

古びた小屋にボートを止め桟橋に上がると、ポケットから小瓶を取り出す。

 

“お願い、これで、エヴリンを、止めて……”

 

通報者の女性はこれを託して気を失った。一体これがなんだというのだ。

一切が不明のまま、クリスは小屋の扉を開けた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。