艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil   作:焼き鳥タレ派

10 / 31
*今回は装備を固めるお話です。大きな進展やバトルはないです、すみません。


File9; Far Away From Welfare

──鎮守府北エリア

 

俺がこの世界に来てから確か今日で……6日目。

ずいぶん色々なことがあったような気がするが、まだ一週間も経ってないのか。

 

ミアの件について提督と長門と俺は全て、いや、正確には左腕の傷以外について

真実を話した。それでも彼らは俺をここに置いてくれる。

いつか彼らに報いたいが、俺に出来ることといえばB.O.W退治程度だし、

そのB.O.Wが流れ込んできたのも元はと言えば俺のせいだ。

 

目に付いた木箱に、少々八つ当たり気味にサバイバルナイフを振るった。

中身は赤い薬液。なかなかだ、早速使おう……と思ったが、

そういえば何日か前に、明石にあげると約束してたな。取っておくか。

他にはなにかないか。俺は鎮守府の敷地をブラブラしながら木箱を探す。

 

提督が、激闘の後だし今日はゆっくりしてくれと言ってくれたが、

ただじっとしていても悶々とした気持ちに悩まされるだけだし、何より退屈だ。

だからこうしてパトロールという名の暇つぶしに外を歩いていると言うわけだ。

ちなみに客室にはテレビがない。

この世界ではまだ高級品で、客室全部に設置できる代物ではないそうだ。

 

おっ、今度は紫色か。テープは二巻き。俺は早速ナイフで木箱を壊す。

中身は、白い液体が入った注射器、ステロイドだった。今日はツイてる。

すぐさま俺は使おうとしたが……

うっかりここが往来の真ん中だということを忘れていた。

中身が何であれ、道路の真ん中で腕に注射器をぶっ刺していたら気味悪がられる。

俺は物陰に隠れ、早速ステロイドを注射した。

 

……段々鼓動が早くなり、血液の量が急激に増え、

身体が膨れるような不思議な感覚を覚える。それがしばらく続くと、

やがて心臓の動きが穏やかに戻り、膨張感も治まった。

上半身を主に、全身の筋力が明らかに向上したのがわかる。

身体の耐久力やガードの防御力も上がったに違いない。

注射針はその辺に捨てるわけにはいかないので、

後で医務室の職員に頼んで処分してもらおう。

 

お宝を手に入れて少し気分が良くなった俺は、もう少し足を伸ばすことにした。

すると、本館の真北、西を見ると公園や大きな講堂らしき建物があるエリアで

気になるものを見た。ちょうど鎮守府の門の前に人だかりがある。

興味が湧いたので近づいてみたら、群衆の中から、

銀髪の艦娘が俺を見つけて小走りに近寄ってきた。会いたくない奴に会っちまったな。

 

「なんだ、また難癖か?」

 

「し、失礼な!まるでわたくしが誰かれ構わずケンカを売る素行不良者のような……」

 

「前に似たような事をされた記憶があるんだが」

 

「あれは……わたしくしにも艦娘の練度向上に貢献し、

安全確保に努める義務がありまして」

 

なんだかモジモジしながらつぶやく香取。なぜかこの間のような押しの強さがない。

 

「とにかく、用がないなら俺は行くぞ」

 

「ああ、お待ち下さいまし!」

 

立ち去ろうとした俺を香取が引き止めた。

一体なんだってんだ。せっかくいい気分なのに。

 

「なんだ!今日は提督から直々に許可をもらってうろついてんだ。

これなら文句ないだろう」

 

「そうじゃありませんの……その、助けて欲しい事がありまして」

 

「艦娘先生様のために俺なんかができることがあると?」

 

「もう、おやめになって!

……あの後、プリンツさんに諭されまして、頭を冷やして考えたら、

貴方の言うことも、もっともだと思いまして。

確かにわたくしは、漠然とした不安を貴方にぶつけていただけなのかもしれません」

 

プリンツが香取に?あの娘も結構やるんだな。

 

「今日はえらく殊勝だな。で、俺にやって欲しいことってなんだ。

今は機嫌が良いから内容によっては引き受ける」

 

「向こうにいる艦娘を助けていただきたいの。

同じ欧米人の貴方ならなんとかなるんじゃないかと……」

 

「欧米人?プリンツ以外にも外人の艦娘がいるのか」

 

「正確にはこれからなる予定ですわ。

でもまだ日本語の勉強中らしくて、何が言いたいのかわかりませんの」

 

「わかった、行こう……ちょっと、どいてくれ、通してくれ」

 

俺達は群がる艦娘をかき分け、向こう側に出た。

そこにいたのは、クリーム色のダブルのコートを着た白人の艦娘。

同色の大きくゆったりとした、赤く丸い飾りを乗せた帽子を被っている。

両脇に小型の飛行甲板を象った艤装(というらしい)を抱えているから、

彼女が香取の言っている艦娘なんだろう。

群衆に囲まれながら、不安げにキョロキョロと周りを見るばかりだ。

 

「Je ne sais que faire...(どうしよう)」

 

俺は両手を上げて天を仰いだ。日本人が大好きなオーマイゴッド。香取に文句を付ける。

 

「おい、フランス人じゃないか。アメリカ人の俺にどうしろってんだ」

 

「え、だめですの?同じ欧米人ならどうにかなるかと思って……」

 

「あんたは日本語が喋れるから韓国語も喋れるのか。

同じヨーロッパでも何カ国語あると思ってる!」

 

「ええっ、それじゃあ、わたくし達は、どうしましょう……?」

 

俺達の視線の先には、誰かに声をかけようとしてためらうブロンドの少女。

……しびれを切らした俺は香取を置いて彼女に歩み寄った。出たとこ勝負はもう慣れた。

 

「あっ!」

 

いきなり輪の中に入っていった俺に驚く香取。とりあえず英語を試してみる。

 

「Excuse me? Do you need help?(もしもし、助けが必要なのか?)」

 

その答え。

 

「Je ne parle pas anglais. Je dois le voir le Amiral.

(英語は話せないんです。提督に会わなきゃ)」

 

やはり現実は無慈悲だ。今度は日本語を試してみる。

どのくらいのレベルなのか知りたい。できるだけ平易な言葉を選んで再挑戦。

 

「はじめまして。俺は、イーサン・ウィンターズだ。日本語はどれくらい話せるんだ?」

 

「Oh! スコシ リカイ ハラキリフジヤマ ダンスガスンダ テヤンデイ ベラボーメ」

 

「この娘にデタラメ吹き込んだ奴は正直に手を挙げろ!」

 

門の前で思わず叫ぶ。日本語を“勉強中”だと言っていたが、

この娘が使った参考書や講師に一発くれてやりたい気持ちになった。

だが遊んでる場合じゃない。名前だけでも聞き出そう。

 

俺はポケットからメモ帳を取り出す。

簡単な俺と彼女の似顔絵を書いて、俺の下に“Ethan”と書いた。

そして、手のひらで胸を叩いて“I’m Ethan.”と言いながら、

彼女にメモとペンを渡す。なんとかこちらの意図は伝わったようで、

嬉しそうにメモに名前を書いて俺に返した。

 

「Je m’appelle Commandant Teste. Enchantée!

(コマンダン・テストと言います。はじめまして!)」

 

なるほど、彼女の名前は……コマンダン、テストで良いのか?

そう発音したからきっとそうなのだろう。次は彼女の目的だ。

何が欲しいのか、文字も言葉も無しで聞き出すのは大変そうだ。

 

とにかく当たりをつけて目につく物、考え付く物のシンプルなイラストを書く。

信号、銃、ハンマー、とりあえず3つ書いて彼女に見せる。

“選べ”という意思を伝えるためにイラストに指を滑らせる。

コマンダン・テストという少女は、迷った末、銃を指差した。

 

「O.K. Just a moment.(わかった。少し待ってくれ)」

 

伝わらないのを忘れてうっかり口に出していたが、

もう気にせず次のイラストを書き始めた。銃から連想するもの。兵士、大砲、爆弾。

また彼女に見せる。今度は彼女が若干興奮して迷わず兵士を指した。見えてきたぞ。

 

次は階級章を三つ書いた。

上から提督が肩に付けている錨のマークをあしらったもの、

次はサクラのマークが3つのもの、2つのもの。さあどうだ?

すると彼女は嬉しそうに提督の階級章を指差した。ようやくはっきりした。

俺は香取を呼ぶ。

 

「おーい、香取。彼女の名前はコマンダン・テスト。提督に会いたいそうだ」

 

「まぁ!それじゃ貴方がフランスからの新規着任者でしたの?

大変失礼しましたわ!さあ、こちらへ」

 

香取が彼女を連れて行こうとするが、首を傾げたままその場から動かない。

世話が焼ける。仕方がないから最後まで面倒を見ることにした。

 

「何も伝わってないぞ。俺が連れて行くから、あんたはみんなを下がらせてくれ」

 

「え、はい!皆さーん、お客様が通りますから、お下がりになってー!」

 

「Follow me, Commandant Teste.(こっちだ、コマンダン・テスト)」

 

俺は伝わらない英語と共に、こっちへ来るよう腕で彼女にジェスチャーした。

今度はこっちについてきた。

……だが、最初から提督を呼べばそれで済んだんじゃないのか?

 

「なあ、香取。これ、とりあえず提督を呼んどけばさっさと解決したと思うんだが」

 

「ああ、それはいけません!確証が得られるまでは、

無闇に提督を所属外の艦娘と会わせるのは危険な行為ですから!」

 

「あんたの心配性は筋金入りだな」

 

そんな言葉を交わしながらコマンダン・テストと鎮守府の門をくぐる。

その瞬間、言葉で表現できない不可解な感覚に襲われた。

気持ち悪いような、良いような。世界が右に回転し左に回転し、

上下前後左右が意味を失い、俺という存在が曖昧になる。

その場に倒れそうになるほどの不気味な現象に倒れそうになるが、

倒れることすらできない。身体がなくなっているから。

 

俺は、一体どうなるんだ!?パニックに陥ったその時、大きな力が空から落ちてきて、

何か、世界を構成するシステムが書き換わったように感じた。

なんでそんなことがわかるのかと聞かれても困る。

ただ脳みそにマジックで書き込まれたようにそう刷り込まれてしまったんだから。

そして、気がついたら俺は門をくぐって鎮守府に入ったところで立ち尽くしていた。

 

「どうしたんですか、Mr.イーサン」

 

コマンダン・テストに声を掛けられ我に返る。辺りを見回すが状況に変化はない。

今のは何だったんだろう。それより彼女を送らなければ……ん?待て。

 

「ちょっと待ってくれ。今、君、日本語で話さなかったか?」

 

「あら、そんなはずは……本当だわ、ワタシ、日本語で話してる!

ちっとも覚えられなかったのに!」

 

今の現象と関わりがあるのは間違いない。俺は鎮守府の門を見る。

思えば俺は一度もここから外に出たことがない。

あの門を走り抜けて外の世界に出ると俺はどうなるのか、

いや、どうなってしまうのだろう。

試してみたい好奇心と、何が起こるか分からない不安が天秤の間で揺れ動く。

……俺は、とりあえず今は目先のやるべきことに戻ることにした。

 

「奇妙なことがあるもんだな。とりあえずよろしく、俺はイーサンでいい」

 

「ワタシも、テストと呼んでください。いつもフルネームだと、長くて不便ですから。

さっきは、困ってたところを助けてくれて、ありがとう」

 

「いいんだ。謎解きゲームみたいで楽しかったよ。

提督はあの大きな白い建物にいる。案内するよ。少し歩くぞ」

 

俺達は本館へ続くゆるい坂を下りながら雑談をする。

彼女がそこら中に散らばる木箱に興味を示した。

 

「ここは、不思議なところです。カラフルな箱があちこちに。何かの印ですか?」

 

「ああ……それは、話すと長くなるんだ。とりあえず物資が入ってる。

詳しくは提督に聞いてくれるとよく分かる」

 

俺は面倒くさい説明を提督に押し付けて、今度は彼女に質問した。

 

「ところで、どうして君は日本に?香取はフランスから来たと言っていたが」

 

「日仏の友好関係を深め、お互いの深海棲艦に対する戦力強化を図るために、

艦娘の交換が行われたのです。ワタシが、フランス代表として選ばれました」

 

「メジャーリーグのトレードみたいなもんか」

 

そうこう喋っているうちに本館の玄関に着いた。

 

「さぁ、ここだ。今日からここが君の家だ」

 

「ありがとう」

 

 

 

──執務室

 

大きな扉を中に入り、2階に上る。そして執務室のドアをノックした。

 

「提督、フランスからの艦娘を連れてきたぞ。入ってもらっていいか?」

 

“なんだって!予定より1時間も……いや、とにかく入ってもらってくれ!”

 

慌てた様子で返事が返ってきたが、気にせずドアを開けてテストを中に入れ、

俺も後に続いた。提督は彼女と向き合うと敬礼した。

 

「遠路はるばる日本へよく来てくれたね。我が鎮守府へようこそ。

貴官の奮闘に期待する!」

 

そして彼女も敬礼を返し、

 

「Bonjour! Enchantée. Je m'appelle Commandant Teste.

(こんにちは、はじめまして。ワタシの名前はコマンダン・テストです)

提督、どうぞよろしくお願い致します」

 

と、丁寧な挨拶をした。

それを見届けると、とりあえず俺の役目は終わったので立ち去ろうとした。その時。

 

「待って、イーサン。あなたにもいて欲しい」

 

「説明なら提督に聞いたほうがいい。誰よりもこの鎮守府を知っている」

 

「いや、待ってくれ。なぜイーサンが彼女を連れてくることになったのかが気になる。

すまないが、私にも話を聞かせてくれ」

 

別に不満ではないが、俺の休日もあっという間に終わったことは主張しておきたい。

俺達はいつものソファに座った。

今回は珍しく提督が一人、俺とテストが並んで座るという格好になった。

 

「就任の手続きとかごちゃごちゃしたことは、後で私が片付けておくよ。

じゃあイーサン、聞かせてくれ。どうして君が彼女をエスコートすることになったのか」

 

何を考えているのか提督がウィンクして改めて聞いてきた。

俺はため息をついてただ答えた。

 

「そんなご大層なもんじゃない。ただ一緒にぶらぶら歩いてきただけだ。

まぁ、きっかけはあるっちゃあるが」

 

「ふむふむ、それは一体?」

 

「テストが門の前で言葉がわからずに野次馬に囲まれて立ち往生してた。

たまたまそこに通りかかったら、香取に通訳を頼まれたんだが、

彼女は欧米人はみんな同じ言語を話すと思ってたらしい。

アメリカ人の俺にフランス語なんか出来っこないから、

とにかく筆談とジェスチャーでなんとかした。

後は関わったのも何かの縁だからここまで連れてきたが……なぁ、提督。

香取の心配性はどうにかならないのか?

最初っからあんたに会わせてりゃすぐ解決した問題なんだが」

 

「彼女はあれが持ち味でもあるんだ。勘弁してやってくれ。でも、奇妙だな。

コマンダン・テスト君は言葉が通じないと言っていたが、流暢に話しているじゃないか」

 

「それについては俺にもよくわからん。

実は、テストを連れて門をくぐろうとした時、急におかしな感覚に見舞われた。

それが彼女に起きた変化と関係があるかどうかもわからない」

 

その時、初めてテストが発言した。

 

「ワタシは特に何も感じませんでした。

でも、気がついたら日本語がまるで母国語のように」

 

「不思議なことがあるものだね。ところでイーサン。

彼女との筆談に使ったメモを見せてくれないか。

戦後の安全保障を踏まえて今後もこういった事態が起こりうるかもしれない。

その場合の参考にしたいんだ」

 

「ああ。これだ」

 

俺は提督にメモ帳を渡した。

提督がパラパラとページをめくると……突然ブッと吹き出した。

 

「くっ、くくっ!いや失礼。イーサン、君は意外とカワイイ絵を描くんだね」

 

「うるさいぞ!笑うなら返せ!」

 

「いや、すまない、本当、すまない!でも参考になったよ。

相手が欲しがるものを絵で示して絞り込んでいく方法は、非常時に役立つだろう」

 

「全く……」

 

差し出されたメモ帳をひったくる。そんな俺達を見ていたテストがつぶやいた。

 

「イーサンと提督、お友達みたいです。そういえばイーサン、軍人さんには見えない。

どうして鎮守府で働いているのですか?」

 

馬鹿騒ぎの最中に、突然本質を突く質問を挟まれたので俺も提督も黙り込んでしまった。

 

「どうしたの?」

 

「……提督、俺から話すか?」

 

「いや、私から話そう。この鎮守府全体に関わることだ。提督である私から説明しよう。

……コマンダン・テスト君?今からイーサンのことについて説明する。

多分、信じられないことが多いが、落ち着いて聞いて欲しい。

きっと、君が急に日本語が堪能になったことにも関係がある」

 

「Oui...(はい)」

 

思わずフランス語に戻った彼女に提督が説明を始めた。

俺が、妻を探して訪れた屋敷で怪物に追い回されているうちに転移してきた、

2017年に生きる異世界の存在であること。

ベイカー家を始めとしたB.O.Wと呼ばれるその怪物も転移し、

深海棲艦のみならず奴らとも戦っていること。

 

エヴリンという少女の存在。

彼女が生成する特異菌に感染すると、深海棲艦すら知性を失った化け物に変化すること。

今の所は行方不明だがこの世界にいることは間違いない点。

特に重要なところをかいつまんで説明してくれた。

 

テストは目を見開いたまま話に聞き入っていた。

信じた上で驚いているのか、とんだキチガイの巣窟に来てしまったと驚いているのか、

まだわからない。

 

「……他にも細々したことはあるが、彼の状況については、以上だ。

質問は、あるかい?」

 

ない方がおかしい。さっそく彼女が口を開いた。

 

「あの!だったら、他の鎮守府とも連携を取って、怪物と戦ったほうがいいのでは……」

 

提督は首を横に振る。

 

「私は、約束したんだ。イーサン君を客人として迎え、この鎮守府の構成員にすると。

彼に責任はない。だが、軍本部がそれを信じるとは到底思えない。

信じたとしても彼に非人道的な扱いをすることは想像に難くない。

実際……それに近いことも起きた。軍人として甘いことは承知している。

しかし、今のところ他の鎮守府からB.O.W出現の報告も出ていない。

だから私は一度受け入れた彼の居場所を守ることに決めたんだ」

 

「Oh...」

 

驚く彼女に今度は俺が語りかけた。

 

「多分、半信半疑っていうか、信じられないと思う。

でも、俺はここにいなきゃいけないんだ。今、提督が言ってた怪物化した深海棲艦。

あれは俺じゃなきゃ倒せない。俺がいた世界のものは俺しか干渉できない、

つまり俺の世界の存在になっちまったから俺にしか殺せない。

ここに来る途中に見た箱もおんなじだ。試しにハンマーか何かで殴ってみるといい。

反動すら返ってこない、らしい。俺は普通に壊せるからどんな感触かはわからないけど」

 

「それじゃあ!イーサンは一人でBO…なにかと戦い続けなければならないんですか!?」

 

「一人じゃないさ。話のわかる提督もいるし、

今はいないが長門っていうカタブツもいる。どっちも頼れる仲間だ。

深海棲艦は艦娘、俺はB.O.Wで手分けしてるってことだ。

それに、戦う武器は山ほどある。なにしろ2017年製だ」

 

俺は安全装置を掛けたマグナムを取り出して見せた。

彼女は驚いた様子で、見たことのないその大型拳銃を見つめる。

そして、提督が彼女に選択を求めた。

 

「わざわざフランスから来てもらったというのに、

こんな異常事態真っ只中で君を迎えることになってしまったことは本当に申し訳ない。

きっとこんなところじゃなくて普通の戦場で戦いたかったろう。今なら間に合う。

フランスに帰国するんだ。もちろん全ての責任は日本側にあることにして。

我々に君の能力を発揮するだけの技量がなかったということにすればいい」

 

「提督、そんなことして大丈夫なのか。

これで日仏の関係が破綻したら、ただじゃ済まない。

結局いつもあんた一人が危ない橋を渡ってるだろう」

 

「提督とはそういうものだ」

 

「むしろ出ていくのは俺の方だろう。

提督は艦娘達を守る為に存在してるんじゃないのか……」

 

「言っただろう。私は君も、艦娘も、どちらも守る。

提督とは言っても、代わりはいくらでもいる。

まぁ、その時にはイーサン君に軍服を着てもらわなければならないが」

 

「馬鹿を言うな。提督は替えが効いても、あんたはひとりしかいない。

あんたを信じてついてきた長門をほっぽり出して行く気か」

 

二人の男が信じるものをぶつけ合っている間、

コマンダン・テストはスカートの上で組んでいた手をじっと見ていた。

 

「……Je me bats」

 

「なんだい?」

 

「ワタシ、戦います!」

 

「よせ。君が思ってるほどキレイな戦いじゃない。

カビを練り固めたような怪物に一発打ち込む度、

ヘドロのような返り血を浴びる羽目になる。

中には強力な酸性のゲロを吐きかけてくるやつもいる。確かに艦娘の専門は深海棲艦だ。

だが非常時にはそいつらと真正面から向き合わなきゃいけない。それに見ろ」

 

俺は袖をまくって切断された左腕の傷跡を見せた。彼女が小さく悲鳴を上げる。

 

「こういうことをしてくる奴もいる。君も同じ目に遭わないとは限らない」

 

しかし、一度は怯んだ彼女の目に再び力が宿る。

 

「だから、ワタシが必要とされたのだと信じています。

深海棲艦やB.O.Wから自由を勝ち取り、あまねく人々に平等に平和を分け与え、

来るべき戦の終わりには博愛で世界を満たす。

それが、フランスの艦娘として生まれたワタシの使命なんです」

 

「……君の選択は、それでいいんだね?」

 

「はい!」

 

俺はソファにもたれ天井を見上げた。

こんなゴタゴタに誰かを巻き込むのはこれ以上ご免だと思っていたのだが……

 

「提督……俺が彼女にできることは?」

 

「ふむ。コマンダン・テスト君、今の君の装備は?」

 

「テストで構いません。ワタシの装備は、この子だけ……」

 

そう言って彼女は艤装から手のひらサイズの水上機を1機取り出し、

その白い手に乗せた。赤城の矢と同じく、恐らく実戦で大型化するのだろう。

 

「Late 298Bと、いいます」

 

「なるほど。しかし、水上機1種だけとなると、少々心許ないな。……わかった。

イーサン、今から工廠へ行って彼女のために水上機をもう一種作成してくれ。

後、機銃か副砲を1基。詳しくは明石君に聞いてもらえばわかる」

 

「わかった、ちょうど明石にはちょっと用事があったからな。

じゃあ、テスト、早速行こう」

 

「Oui」

 

そして俺達は退室しようとしたが、気になったことがあるので、提督に尋ねてみた。

 

「なあ提督、赤城は……今、どうしてる?」

 

「謹慎処分継続、という形にはなっているが、実際には自室療養だ。

あの夜のショックからまだ立ち直れていない。

いつまでも第一艦隊の空母枠を空けておくわけには行かないから、

水上機母艦のテスト君にピンチヒッターになってもらうことになる。

急いで練度を上げる必要になるから、

演習も一日二回とかなり大変な思いをさせることになってしまうが、頑張って欲しい」

 

「ワタシは、大丈夫です。皆さんの力になれるように、頑張ります」

 

「じゃあ行こう、工廠で君の装備を作らないと」

 

「イーサン、彼女を頼んだぞ」

 

「任せてくれ」

 

俺はテストを促して退室し、本館から出た。彼女を連れて工廠へ向かう。

 

「Arsenal du Japon!(日本の工廠!)どんなところか、楽しみです」

 

「小人がたくさんいる面白いところだ。主人も少々変わり者だ」

 

「小人さんは、フランスの基地にもいます!かわいいですよね」

 

「そっちにもいるのか。頼りになるが、やっぱり不思議なやつらだよな」

 

 

 

──工廠

 

本館からそう遠くない工廠には10分ほどで着いた。

俺達は開けっ放しの大型シャッターをくぐり、明石を探した。

 

「おーい、明石!いるかー!お客さんだ」

 

返事がない。いつも通り小人たちがハンマーで何かを叩く音が響くだけだ。

俺は小さくつぶやく。

 

「……お土産もある」

 

“お土産!?なに、なに?”

 

明石が棺桶ほどの大きさもある木箱から蓋をぶち破って出てきた。俺もテストも驚く。

 

「キャア!」

 

「おい、どこから出てくるんだ!というか、どうやって入った!」

 

「ニシシ。いやあ、弾薬箱の寸法図ってたら、居眠りしちゃって。

いつの間にか小人ちゃんに蓋、閉められちゃったの」

 

「フランスからの新人の前で恥かかすなよ。テスト、紹介する。

この工廠の主人、明石だ」

 

「Bonjour、明石。ワタシは、コマンダン・テストと言います。よろしくお願いします」

 

「ええっ!新人さん?しかも、おフランスから!?

えっと、ミーは明石デース!シルブプレ!」

 

いきなり慌てだす明石にテストはクスリと笑い、

 

「日本語で大丈夫です。

お気になさらず、日本の言葉で話してください。S'il vous plait.(お願いします)」

 

「あー、よかった。英語ならちょっとは分かるけど、フランス語はお手上げだもんね。

とにかくよろしく!コマンダン・テストさん。

……見たところ、あなたは水上機母艦だね」

 

「はい。Late 298Bが唯一の装備なんです」

 

「だから彼女に新しい水上機と、機銃か副砲を作ってやってくれ、と提督からの伝言だ」

 

「う~ん、もうすぐ完成する娘の成長過程を見守りたいっぽいから、

今すぐにはちょっと……」

 

「おっと土産を忘れてたな。この前約束した薬液だ」

 

「今すぐ開発に取り掛かるわ!」

 

明石はビシッと両腕をクロスして謎のポーズを取り、

俺達を置いて建造ドックとは正反対の壁に走っていった。

 

「ふふ、面白い方ですね」

 

「あんな感じなんだ。いいやつなんだが、開発のことになるとそれ以外が変になる」

 

明石を追いかけ俺達も歩き始めた。

追いつくと彼女が何やら壁のスイッチを操作している。

すると、壁がガタンと揺れ、少しずつ上昇していく。

薄暗くて気づかなかったが、壁はよく見ると大きなシャッターだった。

そして、完全にシャッターが上がった時、驚くべき物が現れた。

 

巨大な横長のタンク型をした排出口の付いた設備、

そして上部には何かを運んでくるようなベルトコンベア。そばにはコンソールが一台。

彼女がファイルを見ながら何やらつぶやいている。

 

「ええと、航空機の配合比率は燃料が20で弾薬が……」

 

「明石、何なんだこれは」

 

「よし、これで決まり!……え、なんか言った?」

 

「このデカブツはなんなんだって聞いたんだ」

 

「ああ、これ?ユラヒメがもたらした技術のひとつ、装備開発システムよ!

燃料や鋼材といった材料と開発資材を投入すれば、新しい装備が作れるの!」

 

「なるほど、艦娘向けワークベンチってことか」

 

「イーサン、ワークベンチってなんですか?」

 

突然奇妙な物体を見せられ、聞き覚えのない単語を聞かされたテストが困惑して尋ねる。

 

「これが終わったら案内するよ。俺の銃や弾薬もそこで作ってる」

 

「あー、でもこれはワークベンチほどの確実性はないんだよね。

要らないものが出来上がったり、失敗してゴミになっちゃったり。

その辺は艦娘建造と変わんないんだ。

ある程度、欲しい装備の投入する材料の配合比率は、

これまでの試行錯誤でわかってるけど、それでも100%には程遠い。

ちょっとコマンダン・テストの装備を固めるのは時間がかかるよ」

 

「お願いします。ワタシには、力が必要」

 

「オッケー、じゃあ始めるよ。投入量入力完了、ポチッとな!」

 

明石がコンソールの“決定”ボタンを押すと、

開発システム上部のベルトコンベアが流れ出し、大量の資材が運ばれてきた。

そしてゴトゴトとタンク型機械に放り込むと、

それぞれの材料が内部で溶かされ、各パーツの型に冷やされ、

組み上げられて完成する、らしい。実際俺達に内部の様子は見えない。これは明石の説明だ。

すると排出口から何かが出てきた。

 

「どれどれ~?……おお!テストちゃんツイてるよ。1発目で当たりが出た」

 

俺達も排出口に近寄って完成品を見る。

全体的にグリーンの色が施されており、一対のフロートを持つ水上偵察機・瑞雲。

テストが嬉しそうに瑞雲を手に取る。

 

「Merci beaucoup!(ありがとう!)Late 298Bに仲間ができました!」

 

「よかったね!この調子でどんどん行くよ~ああ、そうだ」

 

明石がコンソールに数値を入力しながらテストに話しかける。

 

「テストちゃんだと能力試験思い出して嫌だから、“コマちゃん”って呼んでいい?」

 

「どうでもいい理由で人の名前にケチ付けるやつがあるか!」

 

「いいですよ、イーサンもよかったらそう呼んでください」

 

「いや、俺は……遠慮しとく。それは女の子同士でやるといい」

 

「やったぁ、コマちゃん話がわかる!さぁ、2回目行くよ!機銃か副砲、それっ」

 

明石がボタンを押すと再び機械が稼働する。

投入された資材が内部で合成され、また排出口から姿を表す。

出てきたものを眺めて明石が感心する。

 

「コマちゃん“引き”がいいね~15.5cm三連装副砲だよ。

これ、開発可能な副砲では一番強いんだ」

 

「Tant mieux !(よかった!)これでワタシもお役に立てそうです。

ありがとう、明石!」

 

「どーいたしまして!」

 

「開発可能って、できないものもあるってことか?」

 

喜んで副砲を装着するテストを見ながら、気になったことを聞いてみた。

 

「うん。存在は確認されてるけど、

明らかに開発システム自体より完成品が大きかったり、世界中の鎮守府や海軍基地が、

いろんな配合を何万パターンと試しても成功しなかったりで、

開発不可とみなされたものが結構あるんだ。

そういうのは別の方法で手に入れるしかない」

 

「別の方法というと?」

 

「例えば……大きな功績を上げて、軍本部がたまたま開発できた

高性能な試作品を譲ってもらうとか、

特定の艦娘を改造して、同時に生産される装備品に混じってる

通常開発不可の装備品を手に入れるとか。

長門さんの試製41cm三連装砲なんかがそうだね」

 

「改造?もしかして妙な手術で骨をチタン合金に入れ替えたりするのか?」

 

「違うよ!艦娘は練度がある程度に達すると、身体から不思議な力が湧いてくるの。

そういう娘には建造ポッドに入ってもらって、十分な資材を投入して

私が改造コマンドを入力すると、全体的な能力が底上げされて、

新しい装備が別室で作られる」

 

「なるほど……知れば知るほど不思議な装置だな」

 

「そ。だからこそ研究し甲斐があるんだけどね」

 

「あのう、装備換装終わりました」

 

その時、瑞雲と15.5cm三連装副砲を装備し、

艤装が立派になったテストが声を掛けてきた。

 

「ああ、すまない。無駄話で待たせてしまったな」

 

「どう、でしょう……?」

 

まるで新しく買った洋服を自慢するように、

2種類の水上機と副砲を備えた艤装を見せるテスト。

 

「立派な武装じゃないか。どこから見ても一人前の艦娘だ。

もう実戦に出ても大丈夫なんじゃないか?」

 

「Ah, Merci……」

 

「だーめよ!戦艦や空母だって、ある程度演習で練度を上げないと、

力が発揮でないどころか大破しちゃうんだから。そういう慢心が轟沈につながるの!」

 

「例えの話だ、そう怒るな!

……まぁ、その練度とやらについては本人に頑張ってもらうとして、

俺に出来るのは本当にここまでだな。後は俺の弾薬補給くらいしかないし」

 

「待って、それは私も見るからね」

 

「言わなくてもわかってる。

それじゃあ、今度は提督に新しい装備を見せてやるといい。またな」

 

「あ、待ってください!今度は、イーサンの武器を作るんですか?

ワタシも、見たい……」

 

「武器というか弾薬補給だな。もちろん構わないが、あまり面白いものでもないぞ?」

 

「イーサンがどんな武器で敵と戦ってるのか、見たいです」

 

「わかった。じゃあ二人共、ワークベンチに行こう」

 

俺達は艦娘建造ドックのある反対側に逆戻りした。

ワークベンチはドック入り口近くにある。途中、歩きながら明石が話しかけてきた。

 

「ねえ、彼女に話したの?B.O.Wのこと」

 

「……ああ。彼女も戦いたいと言ってくれた。

提督は帰国を勧めたし、俺も危険性については説明したんだが」

 

「そっか。強い子だね」

 

「B.O.W.の相手をするのは俺だけでいいんだがな……」

 

広い工廠とはいえ、歩きながら二言三言喋っていればすぐ端から端まで着く。

俺はいつものワークベンチの椅子に座った。

スクラップもしばらく使っていなかったので大分貯まっている。

俺はテストに破砕機とワークベンチの機能の説明をした。彼女は興味深げに聞いていた。

やはりスクラップを薬にも銃にも変える薬液に関心があるようだ。

 

「……とまあ、基本的な機能はこんなところだ。

これから実際に、昨日派手に使いまくったバーナーの燃料を作ろうと思う」

 

「イーサンの開発、楽しみ」

 

「おおっ、これは初めて見る物資だね。弾薬に分類されるのかな?」

 

「多分そう思う。燃料のレシピは何ページ……ああ!?」

 

「どうしたのイーサン?」

 

いきなり変な声を出してしまった俺を不審な目で見る明石。だが、確かに変なのだ。

手にしたハンドブックが明らかに分厚くなっている。つまりレシピが増えている。

俺はパラパラとハンドブックをめくり、見たことのないページを探す。あった。

以前は最後のページだったレシピに続きができていた。

 

武器は、丸鋸という武器、と言うか工具。

とんでもない量のスクラップが必要だから今はパスだ。

薬品は用途の分からない金属溶解液と復活薬。復活薬!?

人間を生き返らせるって、どんな研究してたんだ?■■■とか言う組織は。

 

他の増えたページの大半は、“アップグレード”というものだった。

体力や移動速度と言った身体速度や各武器の威力を上昇させる効果がある。

確かに便利だが、いつの間にこんなものが増えたのか……

 

「イーサン、ちょっとイーサン!いつまで待たせる気?」

 

俺がついハンドブックに読みふけっていると、待ちかねた明石に怒られた。

 

「ああ、悪い。すぐ始める。……後で読んでみろ。いろいろ面白い事が書いてある」

 

「本当!?すごく読みたいけど……ううん、今は我慢する。とにかく燃料作って!」

 

「わかった」

 

バーナーの燃料のページを開き、まず持ってきたバーナーから燃料タンクを取り外した。

続いて、ビーカーに一握りほどのスクラップを入れ、淡黄色の薬液を指示量注ぐ。

すると、スクラップが溶けて粘性の高いオレンジ色の燃料が出来上がった。

後はそれを燃料タンクに注ぎ、補充完了。

 

3分の1ほど余ったので、追加の燃料タンクも作る。

タンクと言っても、スプレー缶と大して変わらないので、

ひとつまみのスクラップで作れた。

ページの備考欄に書かれる程度の簡単な手順で、いつも通り、

小型溶鉱炉でスクラップを溶かす、開閉するペットボトルのような鋳型に流す、これだけ。

鋳型を開くと燃料タンクの出来上がり。

黒の薬液を一滴垂らして仕上げると、余ったバーナーの燃料を新しいタンクに注いだ。

 

テストも明石もどんどん出来上がる物資を珍しそうに見ている。

特にテストは初めてだから驚きも大きいようだ。

おっと、消耗したのはバーナーだけじゃない。

昨日のマーガレット戦で威力を発揮した強装弾。

これは多少贅沢してでも20発は作っておこう。

 

俺は両手のひらに山盛りのスクラップを、一番大きいビーカーに投げ入れる。

そして薬液は少なめに。すると、今度はゆっくり溶解が始まり、

やがてドロドロした黒い液体になった。

あとは普通の弾薬と同じ、ハンドガンの型に注いで固まるのを待つだけだ。

 

「すごいです。どうしてただの鉄が弾薬に?」

 

「それがわかんないから面白いのよ、これは」

 

さて、弾薬類の補給は済んだ。ショットガンの弾はまだまだ余裕がある。

バックパックのスペースも考えると焦って作る必要性は低いだろう。

……気になるのはやはり“アップグレード”。どうもこれは全て飲み薬らしい。

手始めに俺は体力強化を試してみることにした。必要スクラップも少ない。

 

新しいビーカーにスクラップを指示量投入し、

初めて使うかなり太いボトルに入った赤い薬液を注ぐ。すると薬液にスクラップが溶け、

金属が入っているとは思えないほどサラサラとした液体に変化。

ハンドブックには、“飲め”と書かれているが……正直食欲をそそる色とは言えない。

 

「イーサン、それ、飲んじゃうんですか?」

 

テストが不安げに声を掛ける。だが、ここまで来たら後には退けない。

俺は一気に赤い液体を飲み干した。

 

「キャア!」

 

「うわっ、本当にやっちゃった!」

 

確かにやってしまった。段々身体が熱くなる。今朝、ステロイドを射った時と同じ感覚。

今度はすぐに身体の熱が引いていったが、やはり少し筋力が増したような感覚がある。

 

「イーサン……?大丈夫かな~?」

 

「しっかりしてください、イーサン」

 

「大丈夫、確かに書かれている通りの効果がある」

 

片手を握ったり開いたりして、軽く力こぶを作ってみると、

確かに筋肉が張るような感じがする。

 

「う~ん、やっぱり不思議だわ、この設備」

 

「よし、どんどん試そう」

 

毒ではないとわかった以上、使わない手はない。

その後も俺は移動速度強化、リロード速度強化、主力のショットガン強化、

アルバート-01Rが分類されるハンドガン強化の薬を立て続けに作り、飲んだ。

今度は身体が軽くなり、反射神経が向上した。

とは言え、どうして飲み薬で武器の威力が上昇するのか、それはわからない。

きっと永遠にわからないだろう。

 

この辺で切り上げよう、と思ったが、気になっていた物を忘れていた。復活薬。

ハンドブックを信じるなら、所持しているだけで

絶命したときに一度だけ死亡を回避できる、らしい。

 

……怪しすぎる代物だが、あまり多くないスクラップで作れるし、

お守り代わりに持っていても邪魔にはならない。

俺はまた指定の量のスクラップと薬液で復活薬を作った。

スクラップもそろそろなくなる。もういいだろう。俺は席を立った。

 

「もういいの、イーサン?」

 

「ああ、戦う準備は万全だ」

 

俺は物資をバックパックに詰めて背負う。そして、テストを呼んだ。

彼女が美しいブロンドをなびかせて振り返る。

 

「テスト、提督のところに戻ろう。君の新しい姿を見せてやるといい」

 

「はい!」

 

「じゃあな、明石。また世話になったな」

 

「本当に、ありがとうございました」

 

「またね~」

 

そして、俺達は手を振る明石に見送られて工廠を後にし、

提督の待つ本館へ戻っていった。

 

 

 

──執務室

 

コンコンコン。

ノックして中の提督に呼びかける。

 

「提督、俺だ。テストの装備が整った。

彼女の所属やらなんやらの手続きをしてやってくれ」

 

“ああ、ご苦労様。入ってくれ”

 

俺達が中に入ると、今度は長門も既に出勤していた。

 

「おお、貴艦がフランスから来た新任の艦娘か。私は戦艦・長門。

長旅で疲れたろう。貴官の就任を心から歓迎する」

 

「大丈夫です。イーサンや、明石さんたちが、親切にしてくれました」

 

二人が握手を交わそうとしたので、テストに小声で耳打ちした。

 

「こいつは怪力だ。手を握りつぶされないように気をつけろ」

 

長門がキッと俺を睨む。聞こえていたのか。

 

「そうだな、代わりにお前の手を潰すとしよう」

 

「マジになるなよ、悪かったから……」

 

「この際だ、お前の顔面と改めて握手をしようじゃないか」

 

長門が体格以上の威圧感を放ちながらズンズンと近づいてくる。

アイアンクローはガードのしようがないから勘弁して欲しいが逃げ場がない。

 

「こらこら、二人共新人の前でみっともないと思わないのか」

 

提督が止めに入る。助かった。テストは呆気にとられた表情で俺達を見ている。

確かにみっともないな。しぶしぶ長門も提督の隣に戻った。

 

「すまないね、テスト君。この二人はケンカ友達みたいなものでね」

 

「適当な事言うなよ、こんな怪力女!」「知るものか、こんな軟弱者!」

 

「うふふ、本当、仲が良さそう」

 

「だから違……いや、いい。邪魔して悪かった。本題に入ってくれ」

 

「うん、テスト君。まず君の装備を見せてくれ」

 

それから、コマンダンテストの装備確認という名のファッションショーが始まった。

まず彼女は提督の前でくるりと回り、艤装全体を見せる。

そして瑞雲が追加され、2機搭載された飛行甲板、

後部のスペースに配置された15.5cm三連装副砲がよく見えるように身体を斜めにする。

元々彼女の服が洒落ているので本当にファッションショーのようだ。

それが終わるとテストは恐る恐る提督に尋ねる。

 

「あの、これで、いかがでしょう……」

 

「ああ、立派な装備を揃えてもらったね!

後は演習で練度を10程上げれば近場の海域で実戦航海に出ても問題ないだろう」

 

「よかった!」

 

「うむ。フランス艦の力を存分に発揮してほしい」

 

「装備もバッチリ。あとはテストの努力次第ってことでいいのか?

なら、俺はお役御免だな。頑張れよ、テスト。B.O.Wのことは……あまり気にするな。

深海棲艦が君の本当の敵なんだから」

 

「彼女に、奴らのことを話したのか?」

 

長門の雰囲気が張り詰めたものになる。俺はただ、“ああ”、と言った。

彼女が何か言おうとしたが、提督が割って入った。

 

「この鎮守府に迎えるに当ってどうしても必要なことだった。

私やイーサンもフランスに戻るよう勧めたが、彼女は戦う意志を示したんだ。

私は、彼女の志を尊重したいと思っている」

 

「提督……しかし、彼女に何かあっては日仏の関係が」

 

その時、今度はテストが彼女にすがるように語りかけた。

 

「ナガトさん、ワタシ、日本もフランスも、守りたいです。

B.O.Wがここにしか現れないなら、ここで食い止めるべきです。

そのために、今日、たくさん武器を作ってもらいました。

ワタシ、ここで戦いたいです!」

 

テストが真剣な眼差しで長門を見る。長門もまた彼女の目をじっと見る。……そして

 

「イーサン!B.O.Wはお前と私の管轄だ!

もし私が不在の時、彼女に何かあったら承知せんぞ!」

 

「わかってる。誰も犠牲になんかさせない」

 

「……ならいい」

 

頷きながら長門は提督の後ろに下がった。

 

「うん、それじゃあ、コマンダン・テスト君の就任は正式に完了した。

イーサン君、休日なのにご苦労だったね。明日こそは振替休日にするから」

 

「あー、うん……信じてるさ」

 

「むむっ、どこか疑わしい目つきだな?提督の言葉が信用ならんか!」

 

「何も言ってないだろ!なんでお前はそう喧嘩っ早いんだ!」

 

「うふふっ」

 

そんなこんなで異国からの新艦娘の編入は完了した。

俺はテスト達に別れを告げて自室に戻った。今日も疲れた。

シャワーを浴びてさっさと寝るか。そう思い、自室の鍵を開けようとした時、

中から電話のベルが聞こえた。

俺はもどかしい手つきで急いで鍵をドアに差して中に入り、受話器を上げた。

 

 

 

「もしもし、ゾイか!?」

 

『うん、あたし。ありがとう、おかげで腕が手に入った』

 

「“腕”?どういうことだ」

 

『あんたがアイテムボックスに入れてくれてた“カラスの鍵”と“ランタン”で

D型被検体の腕が手に入った。これで血清が作れるよ』

 

「血清って……それじゃあ、ミアは助かるのか!?」

 

『多分ね。まだ射ってないからわからないけど』

 

「急いでくれ、ミアの命がかかってる」

 

『今作ってるところ。まだ寝てるけど、起きる頃にはできてるよ』

 

「頼む……お前だけが頼りだ」

 

『任せて。あんたも死なないようにね』

 

「俺のことは気にするな。切るぞ」

 

 

 

ほっと息をついて俺は受話器を置いた。昨日の戦いでマーガレットが落としたランタン。

あの時は不要だったのでアイテムボックスに入れておいたカラスの鍵。

何がどう繋がったのかは不明だが、とりあえずミアは助かる。

その事実に安堵した俺は、ベッドに大の字になったまま眠りに落ちてしまった。

 

 




攻略Wikiに載ってないフランス語はグーグル翻訳に日本語を放り込んだだけなので
間違ってたらごめんなさい…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。