Vivid Strike Loneliness   作:反町龍騎

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六話

 あの日から、アイズに魔法の事を教えていて思ったことだけど、アイズって物覚えがいいんだね。一度教えた事はすんなり理解するし、次のステップまで独学で理解できている。ちょっと違うところもあるけど、それでも凄い!

 それにすごく器用なんだ。汎用魔法から、ちょっと技術のいる魔法まで特に苦労することなく覚えちゃうし。誰の教えも無くあそこまで魔法を使えたのも納得だよ。

 

 それに料理もすごくおいしいんだよ!そこら辺の料理店よりおいしいんだ。少し技術を身につければ、高級料理店にも引けを取らないんじゃないかな。それに気配りもできる子なの。そして優しい。

 

 なんだか最近、アイズと会うのが楽しみになってきてるな。

 さて、今日もアイズが来るし、食事の材料買いに行かなきゃ。

 

 

 

 

 私は今、商店街の一角にある青果店に来ていた。

 

「いつもありがとね。アリアちゃん」

 

「いえ、こちらこそ。それにいつも買いに来るのは、このお店の食材が新鮮だからですよ」

 

「まあ嬉しい事言ってくれちゃって」

 

 すると、青果店のおばちゃんは数枚の紙を取り出した。

 

「アリアちゃん、これ」

 

「これは?」

 

「商店街の福引券。五百円ごとに一枚貰えて、五枚で一回引けるの」

 

 おばちゃんが私に差し出した福引券は五枚あった。

 

「え?私そんなに買い物してませんよ?」

 

「いいんだよ。私が持ってても使わないし」

 

「――じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、おばちゃんから貰った福引券を使って抽選機を回していた。回して出た玉の色は、金色。

 あれ?金色って、もしかして……

 

「おめでとう!一等水族館ペアチケット大当たりー!!」

 

 私の思考を遮って、大きな鐘の音とおじさんのダミ声が、私の耳に届いた。

 

「ええっ!!一等!?」

 

「そうだよ、おめでとう嬢ちゃん。これで彼氏とデートでもしてきな」

 

 か、か、彼氏って……。今はまだ、そんな関係じゃないですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

 

 アイズが私の家にやって来た。なんだろう、アイズ、すごくいい匂いがする。

 

「じゃあ今日は、魔法の歴史についてね」

 

 今日もまた、いつもの勉強が始まる。

 

 

 

「ねぇアイズ。明日も来れる?」

 

「あ?ああ、勿論来れるけど。……どうした、急に」

 

 やっぱり予想通り、来れるって言ってくれた。でも不審げな顔してる。いつもは聞かないから当然かな。

 

「あーいや、今日商店街の福引引いたら一等が当たったんだよ」

 

「ふーん。で、それは?」

 

「水族館のペアチケット」

 

 アイズにチケットを見せると、「水族館?」と首を傾げた。そっか。アイズは確か五歳の時に捨てられたって言ってたな。もし行ってるとしても、物心付く前だから覚えてないよね。

 

「水族館っていうのはね、動いている魚を見て楽しむ所なの」

 

「――楽しいのか?それ」

 

 君は言ってはいけない事を言ったね。全国の水族館関係者を敵に回す発言をして。そしてかく言う私も水族館が好きなんだよ。その私に向かって。いい度胸じゃない、アイズ。

 

「えっと、まあ、楽しいか楽しくないかは人それぞれだけど、でも食わず嫌いはしない方がいいんじゃないかな」

 

 皆大好き水族館。一度行けば絶対楽しめるはず。

 

「て言うと?」

 

「見に行ってみたら、楽しめるかもしれないって事!」

 

 笑顔で人差し指を立てながら言ってみました。アイズは知ってるはずだよね。こういう時の私に何を言っても無駄だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「可愛かったね、あのイルカ」

 

 翌日の水族館からの帰り道。私たちは近くのワグ〇リアって名前のお店に入った。そこで食事をしながら昼間の水族館の話で盛り上がっていた。

 私が、魚の軍団やサメやペンギンの話をしてるっていうのにどうして見向きもせずに料理を食べてるの?

 

「お待たせいたしました」

 

 ひぇっ!?た、た、帯刀してる!なんで捕まってないの!?

 

「いい加減抑えろよ。周りの迷惑になるから」

 

 帯刀美女店員を気にしないようにハイテンションを装う。ていうかなんでアイズは平然としてるの?

 

「だって久しぶりだもん!テンション上がっちゃうよ!」

 

 鼻息を荒くし、両手を振ってみる。

 

「いいから抑えろ」

 

「あうっ!」

 

 アイズにでこピンされたぁ。ここ、昼間誤って水族館の柱にぶつけたところ!狙ったなアイズ!私はおでこを押さえ悶えているというのに、アイズは気にせず食事を再開してる。ひどい男よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあー、おなかいっぱいだー」

 

 おなかをさすりながらそんな事を言ってしまった。恥ずかしいけどやってしまった事は仕方が無い。気にしないようにしよ。

 

「……まだ食えたな」

 

「え!?あれだけ食べたのに!?」

 

 ステーキとハンバーグを三食ずつ、丼物を六食、定食五食にサイドメニューのフライドポテトやピザを五皿ずつ食べてまだ食べられるって、どれだけ胃袋大きいのよ。

 

「ああ」

 

「ええ~……。ああそうだ、今日アイズに見せたい物あったんだ」

 

 すっかり忘れてたよ、あれの事。

 

「あ?見せたい物?ってなに」

 

「ふふーん。それは私の家についてからのお・た・の・し・み」

 

 あ、溜息吐いたな。どうせまた碌な物なんだろ、とか思ってるんでしょ。でも残念、今回は違うよ。凄くいい物。――多分、私達二人にとって。

 

「ってことで、早く帰りたいから近道しよ!」

 

 確かこっちが近道だったよね。さぁ行こう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!早くしろテメェ等!」

 

 裏路地の向こうから声が聞こえたため、足を止める。アイズを手で制し、物陰に隠れながら様子を見る。坊主にサングラスに髭を生やしたヤクザ然とした男が、自分の部下であろう男達を怒鳴っていた。あれは何?あのスーツケースは。

 

「早くしやがれ!早くしねぇと金色の鬼神が――」

 

 ッ!金色の鬼神。それって管理局のエース・オブ・エースの一人。あの人が来るのを恐れてるってことは、少なくとも良い人じゃない。

 そう思うより早く、体が動いていた。

 

「あなた達、何をやっているの!」

 

 男達が目を見開き私を見る。

 

「う、嘘だろ……ッ!なんで金色の死神がここに」

 

 私を見て、一人の男が言う。まぁ、似てる部分は多々あるけど、私あの人ほど強くないからね。でも、悪は逃がさないよ。まだ悪って決まったわけじゃないけど。

 

「馬鹿!死神はボディーラインのメリハリがハッキリしてる!でもあいつは一直線じゃねえか!死神じゃねえ」

 

 何を言うかと思えば、身体的特徴を持ち出して好き放題ベラベラと……ッ!

 

「うるっさいわね!分かってるわよそんな事!もう怒った!」

 

 人差し指を男達に向ける。

 

「気絶程度で勘弁してあげようと思ったけどもう許さない!ここで私に会った事を後悔させてあげる!」

 

 私の言葉に男達は、

 

「相手はたかだかガキが一人だ!やっちまえ!」

 

 そういった男の足元から氷柱が生えた。氷柱は男の頭に突き刺さり、大量の血を噴き出し、男は絶命した。

 なっ、こんな事をする人なんて一人しかいない。

 

「ちょっ、アイズ!?なんで殺してるの!?」

 

「なんでって、あいつらはお前を侮辱したろ。だから殺した」

 

 なんで一切悪びれる様子が無いの?

 

「それに、お前のスタイルは悪くない」

 

 にゃっ!?そ、そ、そ、そんな恥ずかしい事言わないで!

 

「――で、でも!殺すのは駄目って言ったじゃん!怒ってくれるのは嬉しいけど」

 

「悪い、後ろ向きに善処するよ」

 

「せめて前向きにして!?」

 

 なに?後ろ向きにって。善処するのに後ろ向きがあるの?

 

「いちゃついてんじゃねえぞゴルァッ!」

 

 一人の男がナイフを振りかぶる。その男の動きは、素人丸出しだった。

 

「無駄の多い動きね」

 

 私は男の手を掴み、背負い投げの要領で男を投げ飛ばす。投げ飛ばされた男は、近くのシャッターに激突する。

 

「――次にやられたい人は?」

 

「このガキィ……ッ!」

 

 口角を上げ、見下すような目をしてみる。これは男たちへの挑発だ。案の定、男達はこの挑発に乗ってきた。

 

「一斉にかかれ!」

 

 坊主の男の一声で、男達が一斉に私達に襲い掛かる。

 私は男達を殴ったり蹴ったりして、アイズは氷を突き刺し男達を次々と倒していく。

 アイズとなら、私達は負けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一発の銃声が聞こえるまでは。

 

「死ねぇッ」

 

「あがっ……」

 

 アイズがその場に、膝から崩れ落ちた。傷口から血がドクドクと流れ、アイズの血がアイズを赤く染めている。

 

 

 あれ?どうしてアイズは倒れているの?どうしてアイズは傷付いているの?どうしてアイズは血で染まっているの?どうして?どうして?どうして?

 傷付いたアイズを見ていると、心の奥底からどす黒い何かが溢れてくる。――ッ!駄目!これを使ってはいけない!――これを、使ってしまったら、もう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで、アリアの意識は途絶えた。


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