Vivid Strike Loneliness   作:反町龍騎

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五話

 アイズがアリアと出会って、一年が経った。

 初めの頃は、アイズは一度も笑わなかった。だが、話していくうち、過ごしていくうち、アイズは笑うようになった。

 アイズが生きてきた十年の中で、確実にこの一年が一番充実していて、楽しいという事は確かなはずだ。

 それは、偶然の出会いが起こした、奇跡のようなもので。アリアと出会うまでのアイズからは想像もしなかったことで。

 だからアイズは、あの日の事を、悔やんでも悔やみきれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、いつものようにアリアの家で魔法についての勉強をしていたところ、アリアはアイズに話題を持ちかける。

 

「ねぇアイズ。明日も来れる?」

 

「あ?ああ、勿論来れるけど。⋯⋯どうした、急に」

 

 特に用事の無いアイズに断る理由などないが、いつもはそんな事聞いてこないのに何故今日は聞くのか、と疑問に思う。

 

「あーいや、今日商店街の福引引いたら一等が当たったんだよ」

 

「ふーん。で、それは?」

 

「水族館のペアチケット」

 

「水族館?」

 

 アイズは生まれてこの方、普通の子供というのをあまり経験したことが無い。勿論、水族館には行ったことが無い。行ったとしても、物心つく前なので覚えていない。

 アイズの言葉にあっ、と察したアリアは、水族館の説明をする。

 

「水族館っていうのはね、動いてる魚を見て楽しむ所なの」

 

「――楽しいのか?それ」

 

 アイズは、全国の水族館関係者を敵に回すような発言をする。

 アイズにしてみれば、魚は自分の腹を満たすための食糧だ。食糧を見て楽しめるわけが無い。見たところで「美味しそう」ぐらいしか、感想は出ないだろう。

 

「えっと、まあ、楽しいか楽しくないかは人それぞれだけど、でも食わず嫌いはしない方がいいんじゃないかな」

 

「て言うと?」

 

「見に行ってみたら、楽しめるかもしれないって事!」

 

 笑顔で人差し指を立てて言うアリア。アイズは知っている。こうなったアリアに何を言っても無駄な事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「可愛かったね、あのイルカ」

 

 翌日の水族館からの帰り道、近くのレストランに寄った二人。そこで食事をしながら、昼間の水族館の話題で盛り上がっていた。

 やれ魚の軍団が綺麗だった。やれサメがすごい迫力だった。やれペンギンが可愛かった。アリアは子供のようにはしゃいでいた。

 

「いい加減抑えろよ。周りの迷惑になるから」

 

 ちなみにアイズは、水族館に行ったところで案の定、「美味しそう」としか思わなかった。

 

「だって久しぶりだもん!テンション上がっちゃうよ!」

 

 鼻息荒く、両手を振りはしゃぐアリア。もう十六、高校生の年だというのに。これではどちらが子供か分からないではないか。

 

「いいから抑えろ」

 

「あうっ!」

 

 アイズはアリアにでこピンをしてアリアを静める。あまり強くしたつもりは無いが、アリアはおでこを押さえ悶えている。それを無視してアイズは自分の食事を再開する。

 その様子を、周りの人は暖かい目で見つめている。

 

 

 

 

 

 

「はあー、おなかいっぱいだー」

 

 腹をさすりながら歩くアリアは、人の目も気にせずそんな事を言う。

 

「……まだ食えたな」

 

「え!?あれだけ食べたのに!?」

 

 ぼそりと呟いたアイズの言葉を拾うと、アリアは驚愕の声を上げる。ステーキとハンバーグを三食ずつ、丼物を六食、定食五食にサイドメニューまで食べてまだ食べられるとは、どれだけの胃袋なのだろうか。

 

「ああ」

 

「ええ~……。ああそうだ、今日アイズに見せたい物あったんだ」

 

「あ?見せたい物?ってなに」

 

「ふふーん。それは私の家についてからのお・た・の・し・み」

 

 はぁ、と息を吐くアイズ。こういう時のアリアは基本的に碌な物を見せてこない。男同士の珍しい合体シーンや珍しい顔の動物など、アイズにとってどうでもいい物ばかり。今度は何を見せてくるのか。

 

「ってことで、早く帰りたいから近道しよ!」

 

 言って路地の方へと向かっていくアリア。またも溜息を吐きながら、しょうがないなとアリアの後をついていくアイズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!早くしろテメェ等!」

 

 坊主にサングラス、髭を生やした男が、自分の部下であろう男たちを怒鳴る。

 

「早くしやがれ!早くしねぇと金色の鬼神が――」

 

「あなた達、何をやっているの!」

 

 男達の耳に、少女の声が届く。

 男達が声のした方を向くと、金髪で赤い眼をした少女――アリアがいた。

 

「う、嘘だろ……ッ!なんで金色の死神がここに」

 

「馬鹿!死神はボディーラインのメリハリがはっきりしてる!でもあいつは一直線じゃねえか!死神じゃねえ」

 

 一人の呟きをもう一人が訂正する。

 その言葉にワナワナと震えるアリア。

 

「うるっさいわね!分かってるわよそんな事!もう怒った!」

 

 ビシッと人差し指を男達に向け、

 

「気絶程度で勘弁してあげようと思ったけどもう許さない!ここで私に会った事を後悔させてあげる!」

 

 アリアの言葉に男達は、

 

「相手はたかだかガキが一人だ!やっちまえ!」

 

 そういった男の足元から氷柱が生えた。

 氷柱は男の頭に突き刺さり、大量の血を噴き出し、男は絶命した。

 

「ッ!何が起きた!」

 

「なんで氷が!」

 

 男達の戸惑いをよそに、アリアは氷柱を発生させた本人、アイズに驚愕の眼を向ける。

 

「ちょっ、アイズ!?なんで殺してるの!?」

 

「なんでって、あいつらはお前を侮辱したろ。だから殺した」

 

 一切悪びれる様子も無く言うアイズ。アイズは「それに」と続け、

 

「お前のスタイルは悪くない」

 

 真剣な顔でそんな事を言われ、アリアは頬を赤らめ俯く。

 

「――で、でも!殺すのは駄目って言ったじゃん!怒ってくれるのは嬉しいけど」

 

「悪い、後ろ向きに善処するよ」

 

「せめて前向きにして!?」

 

「いちゃついてんじゃねえぞゴルァッ!」

 

 犯罪現場に居合わせたというのにマイペースな二人に、一人の男がナイフを振りかぶる。

 

「無駄の多い動きね」

 

 そう呟くと、アリアは男のナイフを持つ手を掴み、背負い投げの要領で男を投げ飛ばす。

 投げ飛ばされた男は、近くのシャッターに激突する。

 

「――次にやられたい人は?」

 

「このガキィ……ッ!」

 

 口角を上げ、男達を見下すような目をするアリア。多分、男達を挑発しているのだろう。案の定、男達はこの挑発に乗ってきた。

 

「一斉にかかれ!」

 

 坊主の男の一声で、男達が一斉にアリアたちに襲い掛かる。

 その男達を、アリアは拳で、脚で殴る蹴るをし、アイズは氷で男達を突き刺し次々と倒していく。

 その状況は、誰が見てもアリアたちが優勢だ。一発の銃声が聞こえるまでは。

 

「死ねぇッ」

 

 坊主の男が放った一発の銃弾。それがアイズの胸を撃ち抜く。

 

「あがっ……」

 

 アイズはその場に、膝から崩れ落ちた。傷口から血がドクドクと流れ、自分の血が自分を赤く染める。

 それを見て、アリアは目を見開き固まってしまう。

 こんな好機を男達が見逃すはずも無く、数人の男がアリアに鉄パイプやナイフ、ハンマーを振りかぶったところで、男達の聴覚を壊しかねないほどの大きな声が届く。

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

 その声は、初めに聴いた少女の声とは思えないほどの声だった。何人もの人の声がスクランブルエッグのようにぐちゃぐちゃに混ぜられたような、そんな声だ。




金色の鬼神(こんじきのきしん)です。

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