Vivid Strike Loneliness   作:反町龍騎

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四話

 親に捨てられてからというもの、アイズは一日を生きていくので精一杯だった。

 掏摸、空き巣、媚びて金を貰うなど、あの手この手でなんとか生活していた。

 そんなある日の事だった。

 

 

 

 あれから四年の月日がたった。九歳になったアイズは、まとまった金が欲しいと、魔法で体を変え、覆面を被り銀行へと足を運んだ。

 大きなカバンを窓口に置き、女性に言った。

 

「金庫の金を入るだけ詰めろ。やらなきゃお前も、他の奴らみたく氷漬けになるぞ?」

 

「――っ!」

 

 女性はアイズに言われ、周りを見る。

 皆、凍っていた。

 やらなければ自分もこうなってしまう。女性はアイズに懇願する。

 

「私は金庫の暗証番号を知らないんです!知っているのは支店長だけで!本当なんです!」

 

 女性が、支店長であろう人物を指差す。

 

「そうか」

 

 アイズはそれだけ言うと、女性を凍らせ、女性が指さした人物の氷を溶かす。

 

「お前が支店長か」

 

「――は、はい。これはいったい⋯⋯。あなたは――」

 

「この中に、金庫の金を入るだけ詰めろ。やらなきゃお前も、氷漬けだ」

 

「――ッ!わ、分かりました!」

 

 言って男はカバンを取り、奥へと消えた。

 

 

 

 これが失敗だった。自分も一緒に付いていけばよかったのだ。

 

「あ?」

 

 サイレンの音が聞こえた。

 そして十台を超えるパトカーが、アイズの入った銀行の前で停止した。

 

「チッ!あいつ、警察呼びやがったな」

 

 とりあえず、銀行の入り口や窓を凍らせる。これですぐには入って来られないだろう。

 アイズは窓口を飛び越え、男が行った奥へと向かう。

 

「おい、お前!」

 

「ひっ、ひいぃ」

 

 アイズは手のひらサイズの氷柱を作り、男の喉元に突き付けた。

 

「さっさとこの中に金を入れろ。じゃなきゃ殺す」

 

「わ、分かりましたぁ!」

 

 男は慌てて金庫を開け、その中から札束をカバンの中に押し込んでいく。

 男がカバンいっぱいに札束を詰め、チャックを閉めたところで、男から乱暴にカバンを取り、男を氷漬けにして出口へと向かう――ことはせず、金庫の中の壁をぶち破り、そこから逃走を試みる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ⋯⋯」

 

 なんとか逃走に成功した。

 肩に下げたカバンを地面に置き、魔法を解除し覆面を脱ぎ、地面に座り込む。

 

「なんとか、なったか」

 

 そんな安堵と成功に浸っているアイズの耳に、一つの声が届いた。

 

「ねぇ、君。ここで何をしてるの?」

 

「ッ!」

 

 声の主の方を向く。

 その声の主は少女だった。

 腰までありそうな長い金色の髪に、吸い込まれそうなほどに綺麗な赤い瞳、そして、何処か大人びた雰囲気を持つ少女だ。

 

「――どこから見た」

 

「どこからって言われても⋯⋯ッ!」

 

 少女が言い終わる前に、少女の足元から氷柱が生えた。

 間一髪それを避けた少女は、それを見て驚愕の表情を見せる。

 

「魔法――!」

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯そう。君も魔法が使えるの」

 

「――魔法。惨禍の力じゃないのか?」

 

「惨禍?違うよ。それは、人を救う力だよ」

 

 少女の言葉にアイズは、馬鹿馬鹿しいと鼻を鳴らし、その場を去ろうとする。

 

「あ、待って!」

 

「チッ、離せ」

 

 振り解こうとしても振り解けない。だから、少女の腕目掛けて氷柱を生やす。

 これも避ける。そう思っていた。でも違う。

 

「――!」

 

 血飛沫が舞う。アイズのものでは無い。少女の血だ。

 氷柱が腕に突き刺さっているというのに、表情一つ変えず、少女はアイズを見つめる。

 

「――離せよ」

 

「離さない」

 

「離せってッ!!」

 

 少女を億劫だと感じたアイズは、少女の体に何本もの氷柱を突き刺す。

 

「――グッ」

 

 刺さった箇所全てから、血が流れ出る。しかしそれだけでは飽き足らず、少女の体は、口からも血を流した。

 

 

 

 それでも、少女はアイズを離さなかった。

 

「離せって、言ってんだろ。殺すぞ⋯⋯ッ!」

 

「⋯⋯離、さないよ。絶対」

 

「――だったらもう、死ねよッ」

 

 アイズが少女に右手をかざした時だった。アイズは初めて、少女の顔を見た。

 泣いていた。泣いていたのだ。

 多分、痛みからくるものではない。

 しかし、アイズに少女の心情は分からない。分かりたくもない。

 だというのに、何故だろうか。こんなにも、胸が締め付けられる思いなのは。

 その所為で、アイズは一瞬躊躇ってしまう。

 

「――無理だよ」

 

「ッ!」

 

「そんな悲しい顔で拒絶されたら、放っておけないよ」

 

 少女に抱きしめられた。

 少女の体に刺さっていた氷柱は、いつの間にか粉々に砕けていた。

 アイズは、抵抗しなかった。出来なかった。

 アイズは気付いていない。自分が涙を流していることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは、自己紹介だね。私はアリア・ハシャトルテ。君は?」

 

「――アイズ」

 

「そう、アイズ君。それで、アイズ君は何をしてたの?」

 

「――強盗」

 

「は?」

 

「銀行強盗だ」

 

 アイズは金の入ったカバンを指差し言う。

 

「⋯⋯生活に困ってたの?」

 

「当たり前だろ。親に捨てられてんだ」

 

「あ、その、ごめん」

 

「チッ」

 

 その舌打ちを最後に、二人の間に沈黙が流れる。

 

「――あのね、私も、その、親に捨てられたんだ」

 

「――それで?」

 

「アイズ君の気持ちが全部分かるなんて、そんな事は言わないけど、ちょっとぐらいなら分かるよ。その気持ち」

 

「⋯⋯」

 

「ところでアイズ君は、魔法の事を惨禍の力、なんて言ってたよね?それは何で?」

 

「何でも何も、この力の所為で俺は、捨てられたんだ」

 

「そう、か。でもね、それはアイズ君も魔法も悪くない。アイズ君の親も悪くない。誰も悪くないんだよ。ただ、アイズ君のすぐ近くに、魔法を知る人が居なかったってだけで」

 

「⋯⋯」

 

 アリアの言葉は正しい。誰も悪くない。

 アイズは拳を握っていた。それは何故なのか、アリアには分からなかったが。

「そうだ!」と手を打ち、

 

「ねぇアイズ君。私の家に来て、魔法の勉強、しよう?」

 

「――はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからアイズは、暇さえあればアリアの家を訪ね、魔法の勉強をしていた。

 まずは魔法がどういうものなのか。魔法という強大な力は、どんな時に使うべきものなのか。

 そして魔法の基礎。

 アリアはアイズに、どんな事だろうと基礎がなっていなければ、何もできはしないと教えた。

 

「アイズ君の魔法は強力だよね。炎熱と凍結の魔力変換資質」

 

「そんなに凄い事か?」

 

「凄い事だよ!一つだけなら偶にいるけど、二つ持ってるなんて稀なんだよ!」

 

「お、おう」

 

 と、たまにアリアの鼻息が荒くなる事があり、アイズが引いてしまう一面などあったが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 アイズにとって、アリアは初めて人の温かさを教えてくれた存在だ。

 そのアリアと接し、アイズの表情も心も豊かになっていった。

 アイズはアリアといる時間を楽しいと感じ始める。

 だが、楽しい時間程、あっという間に過ぎていくというものだ。




~余談~

 アイズが銀行強盗をした翌日の事。
 アイズが襲った銀行に、最初に出勤してきた人の目に入ったのは、昨日奪われたはずの札束の山だった。
 そして、犯人に壊された筈の金庫内の壁が修復されていた。

 世間では、何処かの善人の仕業だと言われている。

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