Vivid Strike Loneliness 作:反町龍騎
「じゃあまず、自己紹介をしようか」
そう言ったのは、サイドテールの女性。
「私は高町なのは、なのはでいいよ。それでこちらが――」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」
金髪の女性――フェイトが少年に微笑みかける。
その笑顔を見て、少年は少し頬を赤らめ目を逸らす。
「君の名前は?」
「⋯⋯」
「君の名前は、なんて言うのかな?」
「⋯⋯アイズ」
なのはに聞かれても答えなかった少年――アイズだが、フェイトに名前を問われれば、渋々ながら応答する。
アイズの態度の違いに、なのはは拗ねるように頬を膨らませる。
「どうしてフェイトちゃんの質問には答えるのかな⋯⋯。私の質問には答えてくれないのに」
「あはは⋯⋯。ところで、お母さんやお父さんは何をしてるの?」
「⋯⋯いない」
「――え?」
「捨てられた、って言った方が分かりやすいか?」
「「⋯⋯」」
なのはもフェイトも、言葉が出なかった。
「やめろ。同情するなよ、殺したくなる」
「――あ、ご、ごめんね」
一気に気まずい雰囲気になってしまった。
「――そ、それより、どうしてそんなに汚れているの?」
そんな雰囲気を変えるために、フェイトが言った。
「⋯⋯ストリートファイトだよ」
「ストリートファイト⋯⋯」
「それって、誰と?」
「⋯⋯」
なのはが問うと、目を逸らし、沈黙した。
「もう!どうして私の質問には答えてくれないの!?」
「⋯⋯」
「酷い!酷いよアイズ君!」
言いながらフェイトに抱き付く。抱き付かれたフェイトは困った顔をしている。
「えっと⋯⋯。誰と喧嘩をしたの?」
「⋯⋯知らん」
「知らないって」
「女だった」
「⋯⋯他に特徴は?」
「⋯⋯」
「酷い!また無視した!」
「えっと、なのは。とりあえず今は私に任せて」
抱き付くなのはの頭を撫でながら、フェイトはなのはに、言外に戦力外通告を言い渡した。
「アイズ君、他に特徴はあった?」
「⋯⋯近接格闘型で、ハチマキをしてた」
「⋯⋯近接格闘。⋯⋯ハチマキ」
フェイトは顎に手を当て、そのキーワードから自分の記憶の中で当てはまる人物を検索している。
「⋯⋯あと、ディバインバスターっての使ってた」
「ディバインバスター、それって――」
「――スバル、かな?」
「⋯⋯」
「ねぇアイズ君、スバル・ナカジマって名前に、心当たりはない?」
「無い」
一瞬の躊躇いもなく即答する。
「――そう。でも多分、アイズ君が戦ってた相手はその人で間違いないと思う」
フェイトは、打って変わって真剣な表情になり、
「それで、どうしてその人と戦ったのかな?」
「⋯⋯」
「その人が、管理局の人間だってことは知ってたの?」
「⋯⋯ああ」
「どうして、そんな事をしたの?」
「――許せなかったんだ」
「管理局が、かな?」
「⋯⋯俺自身が」
―――――――――――――――――――――――
管理外世界、地球。
この世界の、とある場所で、一人の男の子が生まれた。
その男の子は、他の者と変わらない普通の子供だった。
この日からだ、異変が起こったのは。
それは、夏のある日の事。
「なぁ、暑くないか?」
「そうねぇ。冷房ちゃんと効いてる?」
「ああ、効いてるよ」
「ならどうしてこんなに暑いのかしら?」
その二人の近くで、よちよち歩きをしながらおもちゃで遊んでいる子供が一人。
それは、冬のある日の事。
「な、なぁ、寒くないか?」
「そう⋯⋯、よねぇ。暖房は、ちゃんと効いてる?」
「効いてるよ。――さぶっ!」
その二人の近くで、体を伸ばしゴロゴロ転がっている子供が一人。
それは、アイズが四歳の頃の事。
近所の友達と遊んでいたときに、それは起こった。
くだらない事で喧嘩した男の子二人。片方が、もう片方に跨る形で、両手を掴み合い、睨み合っていた。
その時だった。
「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁッ!」
跨っていた方の男の子の両腕が凍り、砕けた。
血管が途切れたことにより、両腕から大量に血が流れ出る。
それだけでは済まず、追い打ちをかけるように、男の子の両足が凍り、砕けた。
勿論、両足からも大量に血が流れ出る。
幸いにも、傷口が凍ったことにより、男の子は貧血程度で死ぬことは無かったのだが、アイズが加害者であることは明白だった。
ただ、唐突に手足が凍って砕けたなど、荒唐無稽な話は信じがたく、アイズが罪に問われることは無かった。
それは、アイズが先の事件を起こして数ヶ月経った頃の事。
アイズは悪口を言われていた。
その内容は、アイズが同い年の子供の手足を凍らせ砕いた事。
黙っていればよかった。無視していればよかった。
反論したのが、相手の運の尽き。
「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」」」
アイズに悪口を言っていた者全員の器官が焼けた。
周りの者からすれば、アイズに悪口を言っていた連中が、いきなり叫びだした、としか思えないだろう。
アイズはここで、初めて人を殺めた。
それは、アイズが五歳の頃の事。
母親と、デパートへ寄って、アイスクリームを買ってもらって、食べながら歩いていた時の事。
アイズは前を見ないでアイスクリームを食べていたため、目の前の男にぶつかってしまった。その際、アイスクリームがズボンに付いてしまった。
男は、坊主にサングラス、髭を生やしたいかにもなヤクザだった。
アイズの行動に、怒りを露にする男。その男に必死で許しを請う母親。
その時だ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」
男の体が業火に包まれた。
その後、男は焼死体となり、アイズの母親は、男に何かやったのかと、非難の声が上げられた。
アイズの関わった大きな事件はこの三つ。
だが、それ以外にも規模こそ小さいものの、事件を起こしている。
アイズが事件にかかわっていた事により、アイズの両親への非難は日に日に強くなっていく。
ある日、父親が言った。
「お前は害悪だ!」
その後、母親が言った。
「あんたみたいな子供要らない!」
こうしてアイズは、家を追い出され、家族という縁を切られ、一人孤独に生きていく事となる。
この時アイズは、子供ながらに思う。
人間とは驚くほどに脆く、そして、呆れるほど自分の事しか考えない、醜い存在なのだ、と。
この時は、自分を含めなかった。
少し少なめですが、キリがいいのでこの辺で。