Vivid Strike Loneliness   作:反町龍騎

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三話

「じゃあまず、自己紹介をしようか」

 

 そう言ったのは、サイドテールの女性。

 

「私は高町なのは、なのはでいいよ。それでこちらが――」

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

 

 金髪の女性――フェイトが少年に微笑みかける。

 その笑顔を見て、少年は少し頬を赤らめ目を逸らす。

 

「君の名前は?」

 

「⋯⋯」

 

「君の名前は、なんて言うのかな?」

 

「⋯⋯アイズ」

 

 なのはに聞かれても答えなかった少年――アイズだが、フェイトに名前を問われれば、渋々ながら応答する。

 アイズの態度の違いに、なのはは拗ねるように頬を膨らませる。

 

「どうしてフェイトちゃんの質問には答えるのかな⋯⋯。私の質問には答えてくれないのに」

 

「あはは⋯⋯。ところで、お母さんやお父さんは何をしてるの?」

 

「⋯⋯いない」

 

「――え?」

 

「捨てられた、って言った方が分かりやすいか?」

 

「「⋯⋯」」

 

 なのはもフェイトも、言葉が出なかった。

 

「やめろ。同情するなよ、殺したくなる」

 

「――あ、ご、ごめんね」

 

 一気に気まずい雰囲気になってしまった。

 

「――そ、それより、どうしてそんなに汚れているの?」

 

 そんな雰囲気を変えるために、フェイトが言った。

 

「⋯⋯ストリートファイトだよ」

 

「ストリートファイト⋯⋯」

 

「それって、誰と?」

 

「⋯⋯」

 

 なのはが問うと、目を逸らし、沈黙した。

 

「もう!どうして私の質問には答えてくれないの!?」

 

「⋯⋯」

 

「酷い!酷いよアイズ君!」

 

 言いながらフェイトに抱き付く。抱き付かれたフェイトは困った顔をしている。

 

「えっと⋯⋯。誰と喧嘩をしたの?」

 

「⋯⋯知らん」

 

「知らないって」

 

「女だった」

 

「⋯⋯他に特徴は?」

 

「⋯⋯」

 

「酷い!また無視した!」

 

「えっと、なのは。とりあえず今は私に任せて」

 

 抱き付くなのはの頭を撫でながら、フェイトはなのはに、言外に戦力外通告を言い渡した。

 

「アイズ君、他に特徴はあった?」

 

「⋯⋯近接格闘型で、ハチマキをしてた」

 

「⋯⋯近接格闘。⋯⋯ハチマキ」

 

 フェイトは顎に手を当て、そのキーワードから自分の記憶の中で当てはまる人物を検索している。

 

「⋯⋯あと、ディバインバスターっての使ってた」

 

「ディバインバスター、それって――」

 

「――スバル、かな?」

 

「⋯⋯」

 

「ねぇアイズ君、スバル・ナカジマって名前に、心当たりはない?」

 

「無い」

 

 一瞬の躊躇いもなく即答する。

 

「――そう。でも多分、アイズ君が戦ってた相手はその人で間違いないと思う」

 

 フェイトは、打って変わって真剣な表情になり、

 

「それで、どうしてその人と戦ったのかな?」

 

「⋯⋯」

 

「その人が、管理局の人間だってことは知ってたの?」

 

「⋯⋯ああ」

 

「どうして、そんな事をしたの?」

 

「――許せなかったんだ」

 

「管理局が、かな?」

 

「⋯⋯俺自身が」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 管理外世界、地球。

 この世界の、とある場所で、一人の男の子が生まれた。

 その男の子は、他の者と変わらない普通の子供だった。

 

 

 この日からだ、異変が起こったのは。

 

 それは、夏のある日の事。

 

「なぁ、暑くないか?」

 

「そうねぇ。冷房ちゃんと効いてる?」

 

「ああ、効いてるよ」

 

「ならどうしてこんなに暑いのかしら?」

 

 その二人の近くで、よちよち歩きをしながらおもちゃで遊んでいる子供が一人。

 

 

 それは、冬のある日の事。

 

「な、なぁ、寒くないか?」

 

「そう⋯⋯、よねぇ。暖房は、ちゃんと効いてる?」

 

「効いてるよ。――さぶっ!」

 

 その二人の近くで、体を伸ばしゴロゴロ転がっている子供が一人。

 

 

 それは、アイズが四歳の頃の事。

 

 近所の友達と遊んでいたときに、それは起こった。

 くだらない事で喧嘩した男の子二人。片方が、もう片方に跨る形で、両手を掴み合い、睨み合っていた。

 その時だった。

 

「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 跨っていた方の男の子の両腕が凍り、砕けた。

 血管が途切れたことにより、両腕から大量に血が流れ出る。

 それだけでは済まず、追い打ちをかけるように、男の子の両足が凍り、砕けた。

 勿論、両足からも大量に血が流れ出る。

 

 幸いにも、傷口が凍ったことにより、男の子は貧血程度で死ぬことは無かったのだが、アイズが加害者であることは明白だった。

 ただ、唐突に手足が凍って砕けたなど、荒唐無稽な話は信じがたく、アイズが罪に問われることは無かった。

 

 

 それは、アイズが先の事件を起こして数ヶ月経った頃の事。

 

 アイズは悪口を言われていた。

 その内容は、アイズが同い年の子供の手足を凍らせ砕いた事。

 黙っていればよかった。無視していればよかった。

 反論したのが、相手の運の尽き。

 

「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」」」

 

 アイズに悪口を言っていた者全員の器官が焼けた。

 周りの者からすれば、アイズに悪口を言っていた連中が、いきなり叫びだした、としか思えないだろう。

 

 アイズはここで、初めて人を殺めた。

 

 

 それは、アイズが五歳の頃の事。

 

 母親と、デパートへ寄って、アイスクリームを買ってもらって、食べながら歩いていた時の事。

 アイズは前を見ないでアイスクリームを食べていたため、目の前の男にぶつかってしまった。その際、アイスクリームがズボンに付いてしまった。

 男は、坊主にサングラス、髭を生やしたいかにもなヤクザだった。

 アイズの行動に、怒りを露にする男。その男に必死で許しを請う母親。

 

 その時だ。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」

 

 男の体が業火に包まれた。

 その後、男は焼死体となり、アイズの母親は、男に何かやったのかと、非難の声が上げられた。

 

 

 

 アイズの関わった大きな事件はこの三つ。

 だが、それ以外にも規模こそ小さいものの、事件を起こしている。

 

 

 アイズが事件にかかわっていた事により、アイズの両親への非難は日に日に強くなっていく。

 

 

 ある日、父親が言った。

 

「お前は害悪だ!」

 

 その後、母親が言った。

 

「あんたみたいな子供要らない!」

 

 

 こうしてアイズは、家を追い出され、家族という縁を切られ、一人孤独に生きていく事となる。

 この時アイズは、子供ながらに思う。

 

 

 人間とは驚くほどに脆く、そして、呆れるほど自分の事しか考えない、醜い存在なのだ、と。

 

 この時は、自分を含めなかった。




少し少なめですが、キリがいいのでこの辺で。

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