Vivid Strike Loneliness   作:反町龍騎

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始めまして、反町龍騎と言います。
二次創作は初めてです。
大体3000字前後でやっていきたいと思います。
駄文ですがどうぞお手柔らかに。


一話

 少年は孤独であった。

 幼いころからずっと、親に、友に、周りの人間に害悪だと言われてきた。

 少年は生まれてこの方、人に迷惑を掛けなかったことは無い。勿論、悪意があってやっている訳では無い。

 少年が害悪だと言われてきた所以、それは、少年の生まれ育った世界ではおとぎ話や空想の存在とされていたものだ。

 初めは、夏場に冷房をつけているのに暑い、冬場に暖房をつけているのに寒い。という程度だった。

 だが少年が成長するにつれて、周りへの影響は大きくなり、次第に少年は嫌悪されるようになる。

 あるものは手足が砕け、あるものは器官が焼け、またある者は死ぬまで永遠に地獄の業火に焼かれることとなる。

 それは偏に少年が力の制御が出来なかったから起こった出来事であるが、周りに誰一人同類がおらず、制御の仕方が分からなかった少年が、偏に悪いとは言いづらい。

 だが彼らは人間だ。感情で動いてしまうものだ。

 

「自分に危害を加えるのだから悪い奴なんだ」

 

 そう、彼らは考えてしまう。

 それが、少年が危害を加えてしまった相手の家族に言われるのならまだいい。

 初めに少年を害悪だと、災いだと、惨禍だと言ったのは少年の両親だった。

 

「お前のような奴は要らない」

 

 そう言われた。

 それが、まだ五歳の頃だ。

 故に少年は、愛を知らない。だから少年は、他人を知ろうとしない。だから少年は、他人が嫌いだ。それ以上に少年は、自分が嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 それは、静かな夜だった。それは、星が輝いている夜だった。それは、月が綺麗な夜だった。

 そんな夜に、帰宅中の女性が一人。濃密なまでの、今までに感じた事の無い殺気に戦慄し、その殺気から距離を取り振り返る。

 紺藍の髪を短く切り、殺気に細めた眼は翠。女性の見本ともいうべき体つき。ただ細いというだけではなく、程よく筋肉が付いている。

 何か格闘技をやっていそうな女性だが、彼女の瞳に宿すそれは、格闘技選手の者では無いように思える。

 

「――お前は、戦えるのか?」

 

 女性に殺気を放ったであろう人物のその言葉に、一層目を細める。

 

「君、名前は?」

 

「⋯⋯もう一度だけ聞く。お前は戦えるのか?」

 

 質問に質問で返された人物は、一瞬眉を顰め、再度、女性に同じ問いをする。

 

「⋯⋯戦えるよ。でも、戦うのは好きじゃないな」

 

「三度目は無い」と、女性には目の前の人物の眼がそう言っている様に見えた。だから、素直に質問に答える。女性は「それで」と続け、

 

「君の名前は?」

 

「氷帝」

 

「氷帝?」

 

 氷帝と名乗ったのは男。その男は、二度、つま先で地面を叩く。

 

「デバイスを展開しろ。必要ならバリアジャケットを着ろ」

 

「さっきも言ったけど、あたしは戦うのは好きじゃないんだよ?」

 

「――チッ。早くしろ」

 

 女性の言葉に舌打ちをし、催促をする。

 

「⋯⋯しょうがない、かな。マッハキャリバー、セットアップ」

 

 言葉とともに光に包まれた女性。光が晴れた頃には、女性の服装は変わっていた。白いハチマキリボン。白いジャケットとスカート、黒を基調として青い線の入ったサリーブラウスほどの丈のシャツ、淡色のホットパンツ。これが彼女のバリアジャケットなのだろう。

 

「一応言っておくけど、あたしは管理局員だよ」

 

「そうか」

 

 男が言うと同時に女性の足元に氷柱が生える。間一髪女性は避ける。

 

「⋯⋯君は何もしないの?」

 

「必要ない」

 

「そう。なら!」

 

 女性は男まで一気に加速する。その際何度か氷柱が襲うが、すべてを避け男に肉薄する。

 

「はああぁぁぁ!」

 

 女性の放つ右ストレートを氷柱で防ぐ。そして間髪入れずに女性へ蹴りを放つ。しかしそれを女性は左腕で防ぐ。男の右足を押し払い、男の脇腹めがけて左フックを放つが、これも氷柱によって防がれる。

 女性は苦い顔をして一度距離を取る。そして、女性を追うようにして氷が生まれる。女性は氷から逃げるように後退。その女性を囲むようにして氷が生まれる。

 

「え!うそ!?」

 

 三六〇度、完全に包囲されている。退路は上空にしかない。そう思い、女性が足に力を込めたその時だった。

 

「飛昇・炎柱」

 

 女性の足元から熱源反応がした。極太の火柱が退路を断たれた女性を襲う。発生した火柱が周囲の氷を溶かしていく。それによってできた水蒸気により、女性の姿が見えなくなる。

 水蒸気が晴れるのを待っていると、咄嗟に嫌な予感がしたためその場から飛び退く。

 

「はあああぁぁぁ!」

 

「ッ!」

 

 炎に飲み込まれたはずの女性が男へ再度肉薄する。これに男は動揺を見せる。女性が男へ放つ右ストレート。「またか」と男は先程と同じく氷柱で女性の攻撃を防ごうとする。その時である、女性が握っていた拳を開いた。かと思えば、氷柱を掴み、あろうことか握り潰したのだ。これに男の顔は驚愕に染まる。そして再度、拳を握り、

 

「一撃必倒ッ!ディバイン、バスター!」

 

 隙の出来た相手にゼロ距離射撃。普通ならば、反応できない。反応できたところで碌な回避も防御も出来ない。相手を打ち倒すのに充分以上の威力。それが直撃したはずだ。

 だというのに、だ。目の前の男は何故、立っているのだろうか。

 バリアジャケットを着ていた、デバイスを展開していたというのならまだ納得は出来る。しかし男は、そのどちらもやっていない。だというのに立てているのは、

 

「――氷」

 

「⋯⋯ああ」

 

 正解だと頷く。ただ、女性の疑問よりもだ。

 

「なんで動ける」

 

 男は男で異常であるが、それ以上に女性の方だ。三六〇度、退路は上空のみ。女性の戦い方からして飛行魔法が得意とは思えない。男の放った技は、控えめに見ても先程女性が放った技と同じかそれ以上だ。仮にバリアやシールドを使っていたとしても、それを貫通した上で、女性を動けなくするだけの威力はあるはずだ。

 だというのに、何故殆ど無傷なのだろうか。

 

「それはあたしが特別救助隊だから」

 

 笑顔を見せる女性だが、質問の答えにはなっていない。

 女性の返答に短い溜息を吐き、右足を踏み込む。炎熱を拳に纏わせたボディーブロー。女性はこれを肘で防ぐ。と同時に、女性の真横から放たれた氷粒が女性の顔面に直撃する。予想外の攻撃に一瞬の隙を見せる。その一瞬が、命取りになると知っていても。

 

「なッ」

 

 女性が驚愕する。自分の足元を見てだ。それもそのはず、足元が凍っていたのだから。

 だが、それだけで驚いていては身が持たないだろう。足元を凍らされた上、両手まで凍らされてしまったのだから。両手を凍らした氷は地面から生えているものだ。つまり女性は今、身動きが取れない。

 

「くッ、このッ!」

 

 力尽くで氷から逃れようとするが、どれだけやっても氷が外れない。

 その女性を見て、さほど動いていない男は、肩で息をしていた。

 

「――いくぞ」

 

 炎熱を纏わせた右手を、がら空きになった女性の腹部に添える。そして――

 

 

 

 ――男は倒れた。

 

「へ?」

 

 男の攻撃に備え、腹に力を入れ歯を食いしばっていた女性が、間抜けな声を出してしまう。

 男が倒れたことにより、氷が溶けた。

 

「えっと⋯⋯?」

 

 何故自分ではなく男が倒れているのだろう。女性が氷に捕まってからは手も足も出ず、ただ攻撃を食らう事しかできなかったはずなのに。

 戸惑っている女性の耳に、状況を理解できる情報が入ってくる。

 

「「ぐうううううぅぅぅぅぅぅ」」

 

 それは男の腹の音。それは男のいびき。男は空腹と睡眠不足による疲労のために、倒れてしまったのだと。

 それにしても、その状態であそこまでやれたのかと、女性は男に感心の念を抱いた。


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