……ピン、ポーン……
慎ましやかなドアチャイムの音で目が覚めた。
……いけね。
どうやら僕は昨夜ゲームの途中で寝落ちしてしまったらしい。
部屋の時計で時刻を確認すると――午前7時。
(……こんな朝っぱらから誰だろう)
まぁ今のチャイムの鳴らし方で大方想像は付くよね。
キンジも羨ましいよ、あんな可愛い子が幼馴染だなんて。
取りあえず起き上がりキンジと同居しているマンションの部屋を渡り……ドアの覗き窓から来訪者を確認する。
「やっぱり星伽さんか」
純白のブラウス。臙脂色の襟とスカート。
武偵高のセーラー服を着て、漆塗りのコンパクトを片手にせっせと前髪を整えている。
うわぁ、分かりやすいなぁ。
恐らく同居人のキンジを意識してのことだろう、なんだかあいつに殺意が沸いてきた。
おっと、そろそろ開けてあげないとね。
――ガチャ
「おはよう星伽さん」
「キン……あっ、吉井君おはようございます!」
一瞬僕の顔を見てガッカリしたのか曇り顔になったが次の瞬間には笑顔になって僕に挨拶を返してくれた。
いい子だなぁ……
出会った最初の頃は人見知り具合にてこずったけど慣れてしまうととてもいい子だった。
ますますキンジに殺意が沸いてきたぞ。
「こんな朝っぱらから玄関で何をしているんだ吉井げっ……白雪」
「キンちゃん!」
どうやら目を覚ましたらしいキンジが眠そうな目を擦りながらやってきた。
それを見た星伽さんは、ぱぁっっと顔が明るくなる。
星伽さんの前だし僕の殺気を読み取られないよう普段通り挨拶しよう。
「おはようキンジ、最後の朝の気分はどうだい?」
「あぁ、おはよう。 その殺意丸出しの挨拶はギャグか?」
おっと殺気は隠せても殺意は隠せなかったようだ。
「とにかくその銃をしまって殺気を放つのをやめてくれ……心臓に悪い」
どうやら殺気どころか武器も表に出てしまっていたらしい。
まぁ良い取りあえず今はこの辺にしておこう。
「ところで白雪、こんな朝早くから何しにきたんだ?」
「そういえばそうだね、何か用事でもあったの?」
リビングへと案内しながら訪ねてみる。
「あっあのね……! キンちゃんの為に朝ごはん作ってきたの。いつもは吉井君が作ってるんだろうけど今日は始業式だしもしものことがあるかも……と思ってね。よければ吉井君もどう?」
星伽さん、君はエスパーか何か?
まさか僕が長期休暇で生活リズムが狂っているのを見抜かれるとは……
なにはともあれ。
「助かるよ星伽さん、仰る通り今日は寝坊しちゃってたんだ」
「うん、じゃあ準備するね」
そうして星伽さんは星座をすると持っていた和布の包みをほどいていく。
そこから出てきたのは漆塗りの……重箱?
星伽さんはそれを机に置き蓋を開ける。
「こ……これ星伽さんが作ったの……? 朝から?」
程よく火入れされた卵焼き、銀鮭、西条柿、エビなんかも入ってる。
なんだろう、僕も料理には自信があるんだけど敵う気がしない。
「作るの大変だっただろ?」
「う、ううん、ちょっと早起きしただけだよ」
いや、とてもじゃないがこれはちょっと早起きしただけで作れる代物ではない。
キンジに対する愛故だろう。死ねキンジ。
まぁ学校に着いたら異端審問会にかけてやるとして今はこの豪華な朝食をありがたくいただくとしよう。
「お……おいしい」
「やっぱ和食で白雪に敵うやつはいないな」
見た目もさながら味も絶品、完全敗北だ。
「白雪、その……ありがとな」
キンジが礼を言うなんて珍しいこともあるもんだ。
「えっ。あ、キンちゃんもありがとう……ありがとうございますっ」
そういって星伽さんは三つ指を付き、美しい座礼をした。
「なんでお前がお礼をするんだよ」
「だ、だって、キンちゃんが食べてくれてお礼を言ってくれたから……」
どんだけ思われてるんだキンジは。
これは有無を言わさず有罪だ。隙を見せたら背後から射殺してやる。
そんなことを考えているとキンジが何かから慌てて目を逸らした。
なんだろう。
キンジが目を逸らす前の場所を確認してみる。
するとそこには……
――黒………だと!?
座礼をしている星伽さんのセーラー服、その胸元には深ぁーい谷間が覗いており、高校生ならぬ黒のレース下着が……!
「「ご、ごちそうさま!」」
僕とキンジは慌てて星伽さんから離れて学校へ行く支度を始める。
僕も然りだが、こういう時のキンジはいつもやけに慌てる。
なにかあるのだろうか。それともただのムッツリ?
そう考えながら
「はい、二人とも拳銃も忘れないようにね」
そう言って星伽さんは僕のM93RとキンジのM92Fを持ってきて手渡す。
「始業式ぐらい拳銃持ってかなくていいだろ」
「だめだよキンちゃん、校則なんだから」
『武偵高の生徒は、学内での拳銃と刀剣の携帯を義務づける』
最初こそはこの校則に驚きを隠せなかったけど、もう1年もこの学校に通ってたとなるといい加減なれちゃったよね。
自分の身は自分で守らなきゃだし持って行くことに抵抗はない。
星伽さんから受け取ったM93Rを腋のホルスターにしまう。
「それに、また『武偵殺し』みたいなのが出るかもしれないし」
「武偵殺し?」
ってなんだっけ?
「ほら、あの、年明けに周知メールが出てた連続殺人事件のこと」
そんなのいたっけ。
「でもあれは逮捕されただろ」
キンジは知っているらしい。あれ、僕が知らないだけ?
そんな僕だけが置いてきぼりになり会話は進んでいく。
「で、でも模倣犯が出るかもしれないし、キンちゃんの身に何かあったら私……ぐすっ」
「わかったわかった、ほら、これで安心だろ?」
そういってキンジは拳銃とバタフライナイフを装備する。
「キンちゃんかっこいい……『正義の味方』って感じだよ」
「やめてくれ、ガキじゃあるまいし」
そんな会話を聞きながら僕も準備を進めていく。
「さて、準備も整ったし行くか……といいたいんだがPCでメールのチェックをしていきたい、吉井と白雪は先に行っててくれ」
「あ、僕も洗濯ものを干して行きたいからもう少し残るよ、星伽さんは先に行ってて大丈夫だからね!」
「あ、じゃあ私も何か……」
「いいって、朝ご飯もごちそうになったのにそんな」
「うん……わかった、じゃあ先に行ってるね」
そうして星伽さんを見送り、僕は洗濯ものを干す作業にかかる
☆
――まずい。ゆっくりしすぎた。
時刻は7時55分。
「あ、やばいな……バスに間に合わない」
キンジもPCでだらだらしてたらしく、今気づいたようだ。
「仕方ないね、自転車で向かおうか」
こうして僕らはそれぞれの自転車で学校に向かう。
今思えばこの7時58分のバスに乗り遅れたのは運命のいたずらだったのだろうと痛感する。
このバスに乗り遅れたからこそ、僕たちは幸か不幸かあの少女に出会ったのだ。
僕たちの運命を大きく変える、空から降ってきた少女――
神崎・H・アリアに……
今のところの登場人物は
キンジ、アリア、白雪、明久だけですね...
徐々にお馴染みのキャラ達を出していくのでお楽しみに!
次のお話でバカテスお馴染みのあの人達を出せるところまで行けたらいいなぁ~と考えてます。
明久×優子展開はまだまだ先になりそうです...