うちの姉様は過保護すぎる。   作:律乃

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狂愛といえば未来ちゃん、未来ちゃんといえば狂愛。

という事で真打ち登場ですッ!!!!

また、この話はR-15のシーンが後半であるので、15歳以下の方は回れ右をよろしくお願いします!(ちょっとエロすぎるかもしれませんが、許してもらえると嬉しいです……)

それでは、本編をどうぞ!!


狂と愛は紙一重《みくうたエピソード》

1.

 

(……姉様とシラねぇ、まだかな)

 

緑色のソファが添えられている小さな憩いの場所にて僕はパタパタと両脚を動かしながら、膝の上に置いた雑誌をペラペラとめくりながら、姉様とシラねぇの訓練が終わるのを待っていた。本当は僕も訓練したかったのだけど、昨日の出撃の時に無理をしすぎてしまい、姉様や風鳴司令からメディカルだけで終わるようにときつく言いつかった為、ワガママを言うわけにもいかず、しぶしぶメディカルだけ受けて、二人の訓練が終わるまで大人しくソファで待機している時に声をかけられ、雑誌から顔を上げるとそこには肩まで伸ばした黒髪に大きな白いリボンをつけた少女が身体を前のめりにしていて、僕はその少女・未来お姉ちゃんへと淡く微笑む。

 

「こんにちわ、歌兎ちゃん」

「…こんにちわ、未来お姉ちゃん」

 

挨拶を交わし、ストンと僕の隣に腰掛ける未来お姉ちゃんを見上げながら、膝の上に置いていた雑誌をゆっくりと閉じる。

 

「歌兎ちゃん、昨日のドラマ見た?」

「…ん、見たよ。星二(せいじ)星三(せいみ)一瀬(ひとせ)に好意を寄せてたのは分かっていたけど、星四(せよ)まで一瀬の事が好きなんて……」

「そうそう。まさか、あそこが伏線だったなんてね。私も響と一緒に見て、びっくりしちゃったよ」

 

最近、よく未来お姉ちゃんと話をする事が多くなった。

会話する内容は世間話を皮切りに学生生活の事や日常生活の事、悩み事などごくごく普通のものなのだが、未来お姉ちゃんは決まって最後に不思議な事を話しかけてくるのだ。

 

「そういえば、昨日の夕方5時 切歌ちゃんと喧嘩して、近くの公園に居たよね。それから2時間後に切歌ちゃんと調ちゃんが迎えに来てくれたけど……駄目だよ、歌兎ちゃん。歌兎ちゃんは可愛い子なんだから、そういう子が夜遅くにあんな人気ないところにいたら悪い人に連れて行かれちゃうでしょう? それに上着も忘れてたでしょう? まだ寒いんだから、風邪をひいちゃうよ」

 

上のセリフのように、その場に未来お姉ちゃんは居なかった筈なのに、居たように事細かな内容を言ってくるのだ。この前は響師匠と休日に映画を観に行った事を何処で待ち合わせて、どの開演時間のどの映画を観たか、僕がどのジュースを頼み、どの食べ物を、どういったグッズを買い、そこから何処に行ったかを時間から頼んだもの、買ったもの、個数までぴったりと言い当てられた事があり、その時は"響師匠に聞いたのかなぁ〜"と思っていたのだけど……その後も"誰と何処に遊びに出かけて、何をしたのか"を寸分も狂わずに言ってのける未来お姉ちゃんの発言に違和感と共に少しの恐怖を抱いてしまうが、いつも良くしてくれている人を疑ってしまったり、露骨に避けるほどに僕は人が腐ってはないと思う。

 

(思うんだけど……今度からは周りをよく見てから外出よう。少しだけ薄気味悪いし……)

 

「…う、うん……気をつけるね」

 

強張りそうになる顔を必死に笑みの形で耐え、コクリと未来お姉ちゃんの提案にうなづく。

 

「また、切歌ちゃんと喧嘩しちゃったなら今度は私の部屋に来て。響も私もいるから、切歌ちゃん達が迎えに来てくるまで歌兎ちゃんの事見れるし。……………それに歌兎ちゃんの事をもっとよく知れるし」

「…? 何か言った? 未来お姉ちゃん」

「ううん、なんでもないよ」

 

何か未来お姉ちゃんが言った気がして小首を傾げて顔をジィーーと見つめるとニッコリと木漏れ日のような暖かな笑顔を向けられ、何かを言おうと桜色の唇が開き始めた頃、渡り廊下の奥から駆けってくる軽やか足音と共に小さい頃からよく聴いている見知った声が聞こえてくる。

 

「歌兎〜ぅ、帰りましょう……って、未来さんも一緒でしたか?」

「こんにちわ、切歌ちゃん」

「こんにちわデース。未来さんは響さんのお迎えデスか?」

 

走って近寄ってきた姉様は僕の隣に腰掛けている未来お姉ちゃんの姿に気づき、ぺこりと頭を下げてから僕の膝から雑誌を取るとソファの近くに設置してある本棚へと戻しながら未来お姉ちゃんと会話していく。

 

「うん、そうなんだ。響、訓練終わったかな?」

「はい、響さんならあたしと同じ頃にシャワールームにクリス先輩と一緒に向かってたデスから、そろそろ出てくると思いますよ」

「教えてくれてありがとう、切歌ちゃん。私、響を迎えに行ってくるね。あっ、そうだ。これ、前に歌兎ちゃんが好きって言ってた梨タルト作ってみたんだ。良かったら食べてみて」

 

透明な使い捨ての容器の中にはお店に出しても可笑しくないくらい綺麗な梨タルトが三つほど互い違いに入れられており、僕はそれを見た瞬間花開くように満開の笑顔を浮かべる。

 

「…本当にッ! ありがとう! 未来お姉ちゃんっ」

 

梨タルトを差し出した未来お姉ちゃんは抱きついてくる僕の頭を優しく微笑みながら、ポンポンと撫でるのを見て、姉様は申し訳なさそうに眉をひそめると頭を下げる。

 

「未来さん、いつもありがとうございます。歌兎の為にわざわざ」

「そんな……お礼なんていいよ。私が好きでしている事だから、気にしないで」

「そうは言っても、結局はあたしと調の分まで貰っているわけデスし……ほら、歌兎ももう一度未来さんにお礼を言って」

「…未来お姉ちゃん、いつもありがとう」

 

満開の笑顔を浮かべたまま、未来お姉ちゃんを見上げながらお礼を言う僕を焦点の合わない視線で無言のまま見つめ続けている未来お姉ちゃんに姉様は心配そうに声をかける。

 

「…未来さん?」

 

姉様の遠慮した声にハッとした感じで元の様子に戻った未来お姉ちゃんは慌てた感じでまくしたてると慌ただしく渡り廊下の奥へと消えて行く前になでなでと僕の頭を撫でる。

 

「ーー。……ッ!? わ、私 響のところ行くね。歌兎ちゃん、食べ終わったら、感想を聞かせてくれる?」

「…ん。分かった」

 

 

 

 

 

 

2.

 

未来お姉ちゃん特製の梨タルトを貰った翌日、学生寮のポストに投函(とうかん)されていた郵便物を朝ごはんの後に取りに向かった姉様は食後のお茶を飲んで、のんびりしている僕へと一つの封筒を差し出す。

 

「はい、どうぞ。これ歌兎宛デスよ」

 

姉様から受け取ったその封筒は可愛らしい文字で"暁 歌兎様"とだけ書いてあり、裏を見ても差出人の名前はない。封筒は綺麗な空色に小さなウサギたちがプリントアウトされている可愛らしいもので僕はしばし目をパチクリさせる。

 

「…僕に手紙なんて珍しい」

「うぐっ。いちいち手紙の三文字に反応しちゃう自分が憎いのデスっ! アレはもう抹消したのにッ!!」

 

僕の横で自分宛とシラねぇ宛に郵便物を分けていた姉様は僕が口にした"手紙"の文字にピクッと肩を震わせた後に悔しそうに唇を噛み締め、小さく地団駄を踏んでいる。

 

「…あ、ごめん。姉様」

「謝らないでッ!? 謝れると逆に傷口をえぐるんデスっ」

 

悲鳴めいた声を上げている姉様へとキッチンで洗い物をしていたシラねぇから呼び出しがかかり、まだ分けきれてなかった郵便物をテーブルに置いた後に軽やかにシラねぇへと駆け寄る。

 

「切ちゃん、ごめん。食器洗いの洗剤の換え取ってくれる? 私の後ろの戸棚にあるから」

「はいはーい。今行くデース」

 

シラねぇのいう通り、後ろの戸棚にあった食器用洗剤を空になった容器へと移し替えている。

 

「この容器に入れたらいいんデスか?」

「うん、そう。切ちゃん、歌兎との会話中に動かしちゃってごめんね」

「えへへ、これくらいどってことないのデスよ。歌兎の事も調の事もあたしととってはどっちもかけがえない程に大切デスから」

 

今日も安定の仲の良さを見せつけてくれるザババコンビのやりとりを淡く微笑みながら見てから視線を封筒へと落とした僕は慎重に封を切ると中身にある物を取り出す。

 

(えーと。手触りからこの二枚は写真で、これが文書かな?)

 

まずは写真から見ようと思い、ひっくり返して、そこに写っている"もの"を見た瞬間、淡く微笑んでいた表情が凍りつく。

 

「ーー」

 

(な、何これ……)

 

二枚の写真に写っていた"もの"……いいや、"者"は僕だった。

右手の方に置いてある写真の中には部活でかいた汗をユニフォームで拭う僕の姿が収められており、左手の方は中学校からの帰りにこっそり買い食いをしている僕の姿が収められていた。

 

(この時もあの時も周りには見知った人居なかったのに……なんで……?)

 

「……」

 

この写真だけでも衝撃的なのだが、文書を開いた瞬間、さらなる恐怖心が浮かび、思わずテーブルへと投げ捨てしまった。

 

「ひぃ……」

 

文書には一定の大きさで上の欄から下の欄を埋め尽くす"あなたが好きです"という8文字が綴られていたのだ。可愛らしい文字で綴られる愛の告白は添えられていた写真と同じく重く僕へとのしかかり、受け止めきれない僕は強張る表情のまま文書と写真を封筒へと戻す。

 

「歌兎?」

「……ッ! 呼んだ? 姉様」

「てが……げふんげふん、アレ見てから様子がおかしいようだけど変なのだった?」

 

シラねぇのお手伝いを終えたのか、手を拭きながらこっちに歩いてくる姉様はいつもの砕けているデス口調ではないタメ口調で心配してくるのを聞き、僕はそれ程までに強張った表情をしているのだと気づき、無理矢理笑みの形へとシフトチェンジして近づいてくる姉様を安心させようとする。

 

「…ううん、全然変なのじゃなかったよ。びっしりと愛の告白? みたいな内容が書かれていて、ちょっとびっくりしただけだから」

 

うん、嘘はついてない。"あなたが好きです"ってそういう意味で送られてきたんだろうから。

 

「なんとッ!? ついに歌兎にもモテ期到来デスか!? 嬉しいような悲しいような不思議な気分デス」

「…あはは、初めて貰ったから。僕、自分の部屋に置いてくるね」

 

そう言って、自分の内側から湧き上がってくるよくわからない感情と戦っている姉様を残して、自室に駆け込んだ僕はカーテンを勢いよく閉めた後、勉強机に腰掛けた後に思いっきり封筒を破り捨て、ゴミ箱へと投げ捨てた後は毛布へと絡まって、ガタガタと震える。

 

 

 

 

 

だがしかし、それはまだ序ロだった。

 

空色にたくさんのウサギたちがプリントアウトされている封筒は毎日僕へと届くようになり、添えられている文書は"あなたが好きです"から"好き・大好き"へと変化していって日を追うごとに枚数も増えていった。

文書と共に入っている写真は、送られてきた当時は部活や帰り道のものだったが次第に部室や女子更衣室で着替えている半裸姿や用をたっしている姿、浴室に入っている姿と変わっていき、一番衝撃的だったのはシャワールームで汗を流している全裸の姿で僕はそれ以降本部でのシャワーを浴びる時は常に周りを気にするようになった。

 

 

 

 

 

 

 

休む事なく毎日送られてくる薄気味悪い封筒が届くようになり、僕の神経は敏感になっているのか、常に外にいる時も学生寮にいる時も誰かの視線を感じるようになって、気が緩めなくなった僕は疲弊しきって、良からぬ考えや妄想を抱くようになっていた。

もしかしたら、すぐ側に封筒の送り主……犯人が潜んでいて、僕が無防備な姿になるのを待って、条件さえ整えば襲いかかろうとしているのではないだろうか?

そう思うといつも通っている通学路の角という角が、電柱の裏が、人気のない細道が、何よりも人の視線が気になるようになっていて、一人でいることを最も恐れるようになり、姉様やシラねぇの二人にべったりになった。二人にべったりしている時はそういった下着姿、半裸や全裸の写真は届かずに届き始めた頃のような服を着ている写真が届いてくれたから……。確かに薄気味悪い文書や写真は送り続けられているけど、下着姿や半裸、全裸のような無防備な姿と違い、まだ心が落ち着ける。犯人は今様子見の状態で僕から離れた場所にいると思うと早まっていた鼓動が鎮まっていくのを感じる。

 

「およ、調からペルプメールデス」

 

今日もソファにすがってゲームをしている姉様の隣にぴったりとくっついて座り、宿題をテーブルに広げてしていると姉様の端末がプルルルルと鳴り、操作した後に画面を見た姉様がセーブをしてからゲームを切るのを見て、"ヒトリニサセル"と思った瞬間さっきまで落ち着いていた心臓がバクバクと音を立て始め、僕は震える手で玄関に向かおうとしている姉様の服の袖をギュッと掴む。

 

「…姉様、どこ行くの?」

「調が買い物しすぎちゃったから、荷物運びしてくれってメールが届きまして」

 

端末の画面を見せてくれるのをチラッと見てから、きっと「すぐ近くだから留守番してて」言おうとしている姉様より先に口を開く。

 

「…なら、僕も行く。上着持ってくるから待ってて」

「へ? すぐそこデスよ?」

「…すぐでもついていくのッ!!」

 

と強い口調で言った後に慌ただしく壁に掛けてあるパーカーを手に持ってから玄関で待っている姉様へと体当たりするように抱きつくと姉様は困ったように笑った後、僕からパーカーを取ると羽織らせてから「歩きにくいデスよ、歌兎」と言いながら、学生寮から出てから鍵をしめるのを袖を掴みながら待っている間も誰ともわからない視線を感じて、歩き出そうとしている姉様へと両手を広げる。

 

「…だっこ」

「もう、歌兎はいつからこんなに甘えん坊になったんデスか?」

 

と呆れたように言いながらも満更でもない表情を浮かべる姉様は僕を抱き寄せると抱っこしながら、シラねぇが待つスーパーへと向かう。

 

 

 

 

 

3.

 

(参りましたね、これ)

 

今、あたしがいるのは最愛の妹である歌兎の自室で壁にかかっている時計は午後10時を指しており、いつも歌兎が寝る時間なのでベッドに横になるように言っているのだが、「姉様も一緒に寝てくれないと横にならない」と毎日言ってくるようになった我が儘を宥めている最中ということだ。

 

「…いやっ」

「いやと言われても、お姉ちゃんこれからすることがあるから」

 

両手をばたつかせながら、いつにも増して抵抗する歌兎の両手を優しく掴むと眠たそうな黄緑色の瞳を見つめる。

 

「…じゃあ、それが終わるまで姉様の隣にいる」

「そういって、何度も途中で寝ちゃってるでしょう?」

「…今日は最後まで起きてるもん」

 

頬をまん丸に膨らませる妹の頑固な一面に困ったような表情を浮かべてしまったのか、歌兎はギュッと毛布を自分の方へと抱き寄せると瞳を潤ませながら、弱々しい声を漏らす。

 

「…僕、わがまま言ってる……? 我儘で姉様を困らせてる? 僕の事嫌いになる?」

 

嫌われてしまうと不安になっている歌兎を胸へと抱き寄せながら、安心させるようにトントンと優しく背中を叩く。

 

「妹が姉に我儘を言うのは当たり前のこと。でもね、お姉ちゃんはソファで座ったまま寝ている歌兎が見てられないの。座ったまま寝ると首痛くなるでしょう?」

「…痛くなんかないもん……。それくらい我慢できるもん……」

「痛くなくても我慢できても寝づらそうだから駄目。これからの用事はお風呂はいってくるだけだから、大人しく寝て待っててくれる?」

 

視線を合わせてからお願いしてみると歌兎は不安そうな表情のままだが、起こしていた身体を横たわらせると毛布と布団を自分の方に手繰り寄せる。

 

「…ほんとに? すぐに来てくれる?」

「お姉ちゃんは歌兎との約束で嘘をついたことなんて無いでしょう?」

 

その言葉を聞いて、ようやく安心したようで瞼が閉じたり開いたりするのを見て、くすくすと笑うと手繰り寄せている毛布を捲ると切歌ロボを側に置いてあげる。

 

「お姉ちゃんが来るまで切歌ロボが歌兎の事を守ってくれるからね」

「…ん」

「目を閉じて」

 

ゆっくりと目が閉じるのを待ってから、とんとんと布団を叩くとうっつらうっつらしていた黄緑の瞳が目を瞑るのを見て、掛けている声も小さくしていく。

 

「ねーんね……ねーんね……ねーんね……」

 

ギュッと切歌ロボを抱き寄せて、小さく寝息を立てているのを聞いてからゆっくりと立ち上がると物音をなるべく立てないように自室から出て、張り詰めていた息を吐く。

 

「歌兎、寝た?」

「うん、なんとかね」

 

調の向こう側に腰掛けてから、差し出してくれるコップに注いであるお茶を一口飲んでから疲れたようにテーブルへとうなだれる。

 

「歌兎、最近すごい甘えてくるね」

「そうデスね……」

「切ちゃんの事だから、すごく嬉しいのかと思ったけど違うんだ?」

 

うなだれるあたしの金髪をつんつんと突いて、悪戯な口調をする調を見上げながら、拗ねたような声で答えながら、視線は歌兎の自室を見る。

 

「嬉しいのは嬉しいデスよ。歌兎は大きくなってからめっきり甘えてきてくれなくなったので、今みたいに……その、あたしが少し離れただけで不安そうになったり、あたしを見るたびに飛びついてきたりするところを見たら、可愛いなぁ〜と思いますし、写真たくさん撮りたいなぁ〜って思うデスよ。でも……」

「でも?」

「……今回の甘えは意味が違う気がするんデスよ」

「違う? どう?」

 

うなだれていた上半身を起こすと小首を傾げる調へと人差し指をクルクルと回しながら、最近妹の様子で可笑しく思う事を思い出しながら、話し合いを続ける。

 

「調も歌兎と一緒に外に出た時に不思議に思いません? あの子、しきりに周りの視線を気にしたり、何かを探すように視線をせわしなく動かすんデス」

「……。……確かにそうだね。私の時もそんな感じでいつも何かに怯えているような気がする」

 

顎に親指を押し当てるとここ最近の事を思い出すように眉をひそめてからこくりこくりとうなづく。

 

「そうそう。何に怯えているのかは分からないけど……常にピクピクしているデスよね、あんな姿の歌兎痛々しく見てられないデスよ」

「ここでもしてるよね?」

「そうなんデスよね……。歌兎がそういった行動を取るようになったのって」

「うん、アレだと思う」

 

調のいう"アレ"とはきっとあたしも思い浮かべている毎日歌兎宛に届いている空色に沢山のウサギたちがプリントアウトされている封筒だ。

 

(これは一旦歌兎に無理を言ってでも封筒の中身を見せてもらうべきかもデスね……)

 

そんな事を考えて、一口お茶を飲もうとした時だった。

キィーーと扉が開く音が聞こえ、奥からうとうとと小舟を漕ぎながら、左腕に切歌ロボを抱えた歌兎が現れ

 

「ーー」

 

あたしは変なところに入りそうになるお茶を無理矢理食道へと押し込んでから、今にもパタンと倒れそうになっている歌兎へと駆け寄ると小さな肩へと両手を置く。

 

「あらあら、もう……。待っててって言ったでしょう?」

「…まっててもねえさまきてくれないから……むかえにきたの……」

 

そう言いながら、あたしへと倒れ込んでくる歌兎を抱き寄せてから一部始終を見ていた調と顔を見合わせてから、苦笑を浮かべるとお姫様抱っこしてから歌兎をベッドへと横にさせてから、おでこと頬にキスを落としてから急いでお風呂に入ってから、髪の毛を調に乾かしてもらってからすやすやと寝息を立てている歌兎の横へと潜り込み、安心させるように抱き寄せると強張って見えた寝顔が安らかなものに変わった気がした。

 

 

 

 

 

 

4.

 

「未来さん、すいません。歌兎の事、頼んじゃって」

 

抱っこしていた僕を地面に下ろしてから、離れたくないと腰に抱きつくのを引き剥がしながら、姉様は2泊3日の間にお世話になる未来お姉ちゃんと話をするのを必死に抵抗しながら聞く。

 

「いいよ。歌兎ちゃんを一人で学生寮で一人残すのって心配だもんね」

「それもあるんデスけど……。この通り、いつにも増して甘えん坊になってしまって、あたしから一時も離れようとしてくれないんデスよ」

「…姉様、どこ行くの。僕を置いていくの? 一人にするの? 一人は嫌なの、一人にしないで……」

 

泣きそうな声で言う僕の言葉を聞いて、表情を辛そうに歪めると腰に巻きついている両手を力強く解く。

 

「普通の甘えならあたしも気にしないデスし、旅行にも連れて行ってあげるんデスけど……。この甘えは違う気するんデスよ。何かに怯えているような……精神的におかしくなっているような気がするデス。だから、少し荒療治デスけどあたしと離れさせようと思いまして」

「そうなんだ……」

 

未来お姉ちゃんは駄々をこね続ける僕へと心配そうな視線を向けるのを感じながら、姉様は腰を折ると僕の黄緑色の瞳を真っ直ぐ真面目な表情を作って見るのを頬を膨らませてから出迎える。

 

「歌兎、これは貴女の為なの。一旦、お姉ちゃんから離れてみたら今の病状が良くなるかもしれないから」

「…良くならないもん」

「それはやってみないと分からないでしょう? 未来お姉ちゃんは歌兎も知ってて優しい人だから大丈夫だよね?」

「…でも」

「歌兎がお利口さんにしてたら、早く帰ってくるから」

 

おでこへとチュッとキスを落としてから身を起こした姉様は未来お姉ちゃんへともう一度頭を下げてから、振り返る事なく階段を降りていく。

 

「切歌ちゃん、行っちゃったね」

「……」

 

姉様の姿が見えなくなり、泣きそうな顔をしている僕を見て気まずそうな未来お姉ちゃんは姉様から預かっていたリュックサックを持ってない手を僕の背中へと置くとリビングへと案内する。

 

「荷物ここに置いとくね。お茶入れるから、ゆっくりしてて」

「…うん」

 

キョロキョロと周りを気にしながら、ソファに腰掛けた僕は未来お姉ちゃんに許可をもらってからテレビを見ることにして、リモコンが何処にあるのかと探している時に視界の端に見知った色合いの封筒が無造作に引き出しの上に置かれていて、既に震え出している体を押さえ込みながらその封筒セットを手に取るとやはりあの空色に沢山のウサギたちがプリントアウトされている封筒で僕は驚きのあまり思考が停止する。

 

(……ここにあの封筒があるって事は……未来お姉ちゃんが犯人なの? あの薄気味悪い封筒の……)

 

ふにゃっと崩れ落ちそうになるのを必死に耐えてから、早く逃げようと後ろを振り向いた途端、目の前に居たのはさっきまでキッチンに居たはずの未来お姉ちゃんで反射する光がない水色の瞳からは覇気を感じられなくて、僕は一歩一歩後ろに下がろうとして何かにつまづいて、尻餅をついてしまう。

 

「ひぃいい」

「……見つかっちゃった」

 

それだけ呟いてから恐怖で筋肉が硬直している僕をリビングのカーペットの上へと押し倒した未来お姉ちゃんは逃げないようにするためか、下腹部へと腰を下ろすとピクピクと震えている僕の頬を愛おしげに撫でる。

 

「やっと二人っきりだね、歌兎ちゃん」

「……」

 

取り敢えず、今この場所から逃げるためにする事は助けを呼ぶ事だという考えに至った僕はこの部屋にいるであろう癖っ毛の多い栗色の瞳に赤いN文字の髪留めを付けている少女・響師匠の姿を部屋の隅々へと視線を巡られて探していると右耳から感情のこもってない声が聞こえてくる。

 

「もしかして、響の事探している? 残念だけど、響ならクリスの部屋にお泊まり会なんだ」

「……」

「歌兎ちゃんが折角家に来てくれるんだもの。邪魔者には居なくなってもらわないと」

「…じゃまもの?」

「歌兎ちゃんと私の仲を引き裂く全てのものの事だよ」

 

右耳を甘噛みしたり、舐めていた未来お姉ちゃんは身を起こすとポケットから端末を取り出して、僕へとそこに保存してある写真を見せる。

 

だから、私は歌兎ちゃんを守ってあげる事にしたの。変な虫が寄り付かないようにするために

 

恍惚とした表情で言ってのけるセリフと見せつけられている写真はどれも隠しカメラで撮っているような視点と下着姿や半裸、全裸のものが多く、僕にはどうしても"守ってもらっている"と思えない。

 

「…こんなの間違ってる。未来お姉ちゃんはやっぱり間違ってるよ」

「……間違ってる? なんで?」

 

焦点が合わない水色の瞳で問われ、ガラスのような無機質な視点に晒されて、恐怖のあまり何も言えないでいるとそっと私服越しに未来お姉ちゃんの右掌の感触があり、凹凸があまりない双丘を壊れ物へと触れるかのようにさするのを見て、これから未来お姉ちゃんがしようとしていることが分かり、ボッと顔から湯気で出てしまうほどに真っ赤に染めるとジタバタと抵抗する。

 

「大好きな人を危険から守りたい、大好きな人の事をもっと知りたいって思うの普通の感情でしょう? 私間違ってるかな?」

「…っん……でも、だからって……っ。盗撮はいけない事だから……っ」

「歌兎ちゃん、少しうるさいから静かにしよう?」

 

そう言って、身体をバタつかせる僕の唇に自分のそれを押し付けた未来お姉ちゃんは開いていた僕の唇へと強引に舌をねじ込むと喉の近くへと自分の唾液を垂らすのでむせそうになりながらも唇を塞がれている為、どうすることもできず自由がきく両脚でカーペットを思っきり蹴る。

 

「んっ! んんっ!!」

 

数分後、カーペットを思っきり蹴っていた小さな両脚はだらしなくカーペットの上に転がっており、僕はというと未だに未来お姉ちゃんと熱いキスを交わしていた。

両頬を両手でしっかりとホールドされた僕の唇を角度を変えてキスしていた未来お姉ちゃんは小さく息を吸い込むとぴったりと唇を合わせると力無くなされるままになっている僕の舌へと自分の舌を絡めながら、ズルズルと僕の唾液を飲み込み、代わりに自分の唾液を僕へと飲ませるのを何度も飽きることなく続けた未来お姉ちゃんは満足したように身体を起こすとだらしなく開いている僕の唇の隙間から見える赤い舌と自分が垂らしている赤い舌へと透明な橋が架かるのを見て、恍惚した表情で頬を赤く染めると突然腰を上下に動かす。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

下腹部へと擦り付けられている布地が熱くなっていくのを感じて、息を整え終えた僕は酸素不足でクラクラする頭を小さく横に振ると興奮したように呼吸が早くなっていている未来お姉ちゃんを見上げる。

 

「歌兎ちゃんっ、もういいよね? 私、もうこれ以上は我慢できそうにないの。歌兎ちゃんが大好きって気持ちが溢れちゃいそうなの……」

 

そう言った未来お姉ちゃんはパーカーのチャックを下に下ろした後、下に着ていたTシャツを力任せに引き裂くとそこから現れるブラジャーを見て、ニンヤリと笑う。

 

「やっぱり今日の下着は水色だったんだね。歌兎ちゃんの事いつも見ていたから下着や服のローテション全部覚えちゃったよ」

 

下腹部から太ももへと座る事を変えた未来お姉ちゃんは下腹部を摩り、肌の感触を掌でしっかり味わった後にブラジャーへと滑り込ませた後は持ち上げるようにたくし上げ、姿を現した小さな双丘へと頬ずりする。

 

「すごく震えてる……。……怖いの? ふふっ、可愛いなぁ……。大丈夫だよ、歌兎ちゃんは何も心配しないで、そこで大人しくしてればいいの。そうすれば、私がぜ~んぶやってあげるから」

 

身体を起こして、猟師に追い詰められた野うさぎのようにピクピクと震えている僕を見下ろす無機質な光を放つ瞳はスゥーと笑みの形に挟まり、頬を撫でていた両掌が小さな双丘へと向かい、そしてーーーー。

 

数十分後、リビングには困惑しているような嬌声と淫らな水音が響き始め、数時間後からはカーペットの上には投げ捨てられ、折り重なるようになっている洋服の近くでは明かりの消えた部屋の中で満月の光に照らさせながら、蠢めく二つの影があり、影が動く度に絡み合う水色が掛かった銀髪と黒髪は朝日が顔を出しても解かれることはなかった。

 

 

 

 

 

エピ.

 

「…姉様、おかえりっ」

「うわっ!? もう〜、甘えん坊はまだ治ってないみたいデスね」

 

妹を迎えに行くために響さんと未来さんの寮のチャイムを鳴らして、ドアが開いた瞬間、嬉しそうにあたしへと抱きついてくる歌兎の頭をポンポンと撫でながら、ドアの向こうから顔を出す未来さんへと頭を下げる。

 

「3日間歌兎の事ありがとうございます。この子、迷惑かけなかったデスか?」

「ううん。歌兎、最初は切歌ちゃんが居なくて寂しそうだったけど、その寂しさにも慣れたようで最後は普通に過ごせてたよ。ね? 歌兎ちゃん」

「…ん」

 

コクリをうなづく歌兎の首元がキラッと光った気がして、目を丸くしていると未来さんがススッと音もなくあたしへと近づくと耳元で囁く。

 

「……私の歌兎ちゃんにあまりベタベタ触ってるとその内、海に沈めるか、消えてもらう事になるから。スキンシップも程々にね、切歌ちゃん」

 

感情が抜け落ち、ゾッとする程冷たい声音にあたしは近くでニコニコと笑っている未来さんの豹変っぷりに身体が勝手に震え出し、マジマジとゆっくりと開いていく水色の瞳を見るよりも先に勢いよく頭を下げてから、歌兎を小脇に抱えてからその場から逃げ去るように階段を駆け出す。

 

「…姉様、急にどうしたの?」

「なんでもなーー」

 

"い"と言おうとした瞬間、あたしは間近にある黄緑色の瞳がどんよりくぐもり、無機質なものになっている事に気付いて、言葉を詰まらせる。そんなあたしのことを不思議そうに見ている歌兎の小さな首にいつの間に付けてある薄紫色のチョーカーが嵌められており、鉄の所に"I ♥︎ MIKU"という掘られているのに気付いて、思わず悲鳴をあげそうになるのを耐えながら、そういえばこのチョーカーをついさっきも見た事を思い出していた。

 

(そう、このチョーカーは近くでニコニコと笑っていた未来さんも首に付けていて……)

 

前のめりになっているその首筋からチラッと見えた花緑青のチョーカーの鉄にもこう掘られていた"I ♥︎ UTAU"と。

そして、確か渡り廊下に燃えるゴミの袋の中に見知った色と柄の封筒が捨てられていたような………

 

そこまで思い出したところで、全ての真相に気付いてしまい、あたしはうなだれるのだった。




って事でゾクってしていただけたでしょうか?

R-15版はなるべくR-18にならないように気をつけたつもりですが……なってたら、速攻直しますのでおしらせください(土下座)


今回の未来ちゃん回の解説かつ裏話ですが……

歌兎ちゃんを盗撮していたカメラは隠しカメラが殆どですが、自室の写真は未来ちゃんがリアルタイムで撮影したものが主です。歌兎ちゃんの部屋は二つの窓があり、着替える時は必ず部屋に入ってからの正面は必ず閉めるのですが、左側のは忘れてしまうようでして…それに前もって気付いていた未来ちゃんは歌兎ちゃんに見つからないかつ確実に裸体や下着姿を撮影できる独自の撮影場所を確保し、歌兎ちゃんが着替える頃になったら、その場所に出かけてから撮影会に没頭するそうです。
また、歌兎ちゃんを尾行する中で未来ちゃんは自分の姿を、存在を消す事に成功し、時折大胆な尾行も行なっていたそうです。

今回の歌兎ちゃんは首にチョーカーを付けられた事で一生未来ちゃんから逃れることは出来ないと悟り、手紙攻撃で疲弊していたこともあり、早く楽になりたいと未来ちゃんに身と心を委ねる事に……【エピ.】にて切ちゃんが渡り廊下で燃えるゴミに捨てられていた大量の"あの手紙"は今の未来ちゃんにとって必要ないものだからですね。





続けまして、XV11話の感想ですが……

最初の緑とピンクの光がぶつかりあっているのを見て思ったのは……"あれ? きりしら夫婦喧嘩してる?"でした(笑)
その後、喧嘩しているのが【エンキさん】と【シェム・ハさん】だったことが明かされ、【アガートラーム】の正体がシェム・ハさんの攻撃を受けて銀になりかけている左手だったとは……びっくりデスよ(驚愕)

にしても、シェム・ハさんって本当厄介な敵ですよね……彼女を形作るのが言語で、人類の全てが彼女のゆりかごになり得るから、今の彼女を倒してもすぐに蘇る……。
フィーネよりも厄介や……こんなんどう倒せっていうんですか……(大汗) あと二話で……。

その反面、エンキさんは月の遺跡・バラルの呪詛にて人類の言語を封じる事によって、シェム・ハさんを封じてくれていた……あんなボロボロになってまで、フィーネの事を、地球に住む人類達を、切ちゃん達を守ってくれていたんですね……(じーん)

また、今回の話はミラアルクさんVSマリアさんと翼さんとの戦闘がありましたが……ここで【不死鳥のフランメ】はズルいですッ!
Gでのあのライブシーンでのセリフがまた聴けるなんて……『イグニッション』がまた聴けるなんて……感激の極みですッ。
今回はマリアさんのアマルガムがお披露目となりましたが……これはな、にかな? 一瞬龍とも思いましたが、蛇でもあるのかな? でも、鳥の頭は違うでしょうし……なんなんでしょうな(悩)

最後にマリアさんと翼さんの所に駆けつける際に勢いあまって通り過ぎてしまう切ちゃんが可愛かったです(デレデレ)
今まで張り詰めていた緊張が一気に解ける気がしました……流石、装者一の自称常識人かつ癒やしですッ!!
あ、癒やしは人それぞれ違うので私の中です……

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