うちの姉様は過保護すぎる。   作:律乃

73 / 74
タイトルからホラーめいてますが、内容もホラーとなっています。
でも、そんなに怖くないかも……全ては私の書き方に問題があるのです(失笑)

夏は終わり、暦は秋となってしまいましたが背筋がゾクっとする体験を楽しんでください! って今回の話は私もやりすぎちゃった感があるので、ヤンデレを楽しまれる前におふざけを……いいえ、変態な事を言わせてください(真面目な顔)

XVの切ちゃんの変身バンクを初めて見た時から思ってました………私、来世があるのならば切ちゃんの鎌になりたいです(キメ顔)
分裂させたり、バッタのように振るわれたりしても構いませんッ! 代わりに細っそりした脚を絡め、大きな実った二つの膨らみを合理的に触れられるんですよ!! そんな素晴らしい事他にないですよねッ!!!!(前のめり)

あー、ほんとすいません………こんな変態で……(大汗)

暴走してしまって本当にごめんなさい。それでは長くなってしまいましたが、本編をどうぞ!!

※【⒈ 〜 ⒊】は歌兎視点で、【4. 〜 5.】は切ちゃん視点となってます。
どちらかというと切ちゃんの方がゾクっとすると思います。

※本作は1万文字を超えてます。
ゆったりと読まれてもよしッ、読みたいと思うところから読まれてよしッ。お好き曲やBGMを流しつつ、読んでください(微笑)


地下室のお人形 《セレうたエピソード》

1.

 

最近、セレねぇにショッピングに誘われて、洋服を買ってもらうことが多くなった。

買ってもらう洋服の殆どは今までの僕にはご縁がないザ・女の子というようなヒラヒラが沢山ついたワンピースやカッターシャツ、ミニスカートなどなど。

セレねぇ曰く……というよりも僕が見た感じだとセレねぇは僕に似合っているであろう洋服を値段など気にする様子なく、手当たり次第選んでは僕に試着させて、よりに似合ったものを購入といった感じで、今日もまた僕は試着室に入り、少々手間取りながらも薄水色のヒラヒラが沢山ついたワンピースを試着して、クリーム色のカーテンを開けると試着してみて購入すると決めた洋服を左腕に引っ掛けて持っているセレねぇがまん丸な水色をキラキラと輝かせて、何かに取り憑かれたような覚束ない足取りで近づいてくる。

 

「……可愛くて綺麗……」

 

恍惚といった感じで僕の両手を握るセレねぇの水色の瞳に映るのは果たして本当に僕なんだろうか?

今は両手を握るだけなんだけど、セレねぇの気持ちが高ぶっている時はズイっと僕に身体を寄せてからうっとりとした顔で僕の頬を撫でたり、ギュッと抱きついてきて頭を撫でてくれる、その事について嫌だと思うことは無いんだけど……時々、そうしたセレねぇの行動がとてつもなく怖く感じることがある。

理由は恐らく、ショッピングに誘ってくれる時のセレねぇの僕を見つめる水色の瞳が普段は聖水のように清らかなのだけど、ヒラヒラの洋服に身を包んだ僕を見た途端、無機質なものに変わってしまうのだ。まるで鏡のように……ううん、底なし沼のようになってしまったセレねぇの水色の瞳は僕だけをただただ見つめ続けて、僕はその深い底なし沼に引きずり込まれてしまうのでないかという錯覚……いいや、もうこれは錯覚ではなくーー

 

(ーーって駄目駄目。せっかく、セレねぇが僕の為に洋服を見立ててくれているんだから。変な事を考えてしまったら……考えちゃダメなんだけど……)

 

「…そ、そうかな? 僕には場違いのように思えるけど」

「そんな事ないですよ! 歌兎ちゃんはとっても可愛くて小さくて生きているのに……お人形さんみたい。………歌兎ちゃん、私ね……お人形さんが大好きなんですよ」

「…う、うん……ありがと、セレねぇ。僕もお人形さん好きだよ」

 

そう言うセレねぇの瞳が僕が苦手とするあの無機質なものになるのを視線を横にスライドしてから震える声のままに答える。

 

(やっぱり、どうしても慣れない。セレねぇの"お人形さん"っていうセリフ……)

 

「歌兎ちゃんも好きなんですね、お人形さん」

「…うん、好きだよ」

 

今日は購入したヒラヒラが多くついた薄水色のワンピースで食事に付き合ってほしいと言われて、その格好のままに近くのファミレスに入ったけど、すれ違った人や遠くにいる人が僕を見るなり、口を揃えて言うのだ"お人形さんみたい"と。

 

(やめてよ。僕、その言葉嫌いなんだ)

 

頼むのはセレねぇが差し出してくれるメニューを指差す事で頼み終えると僕は沢山の野次馬の視線から逃れるように下を向くと僅かに唇を噛む。

 

「……」

 

(……僕はウィンドウに飾れているお人形さんなんかじゃない)

 

ちゃんとここに居て、生きているんだ。

なのに、セレねぇだって、ここにいる人も通りすがっていった人もなんで僕のことを"お人形さん"って例えるの? "お人形さんみたい"って褒め言葉なの? このヒラヒラのワンピースを着ているから、僕はお人形さんなの? 僕はお人形さんじゃなかったら誰にも認識してもらえないの? いらない子ってなるの? それだけが僕の存在意義なの? もう、分からない……分からないよ………。

 

悶々とする気持ちのまま、食事を終えた僕はセレねぇと別れた後、真っ先に家に帰り、自室に閉じこもると乱暴にヒラヒラの薄水色のワンピースを脱ぎ捨てるとタンスの一番奥へと仕舞い込み、その日以降セレねぇのお誘いを断るようになり、買って貰ったヒラヒラの洋服たちにも一度も腕を通さなくなり、埃をかぶり始めた頃から周りで奇怪な事件が始めたのだった。

 

 

 

 

2.

 

「ふーふふふ、ふーん♪」

 

適用の油を引いたフライパンの上にやや乱暴な微塵切りにした玉ねぎをキツネ色になるでフライパン返しで炒めている姉様のご機嫌な鼻歌を聴きながら、冷蔵庫からシラねぇが特売セールで買ってきてくれていた半額の合挽き肉を取り出してから調理台へと置いてから"よっこいしょ"と自分用の台へと登った僕は姉様へと問いかける。

 

「…今日、シラねぇ、帰り遅いの?」

 

透明なボールに玉ねぎがキツネ色になっていっているのを見てから合挽き肉を入れてから、用意していた材料をボールへと加えていく僕の横顔を見ながら、姉様が僕の問いに答えてくれる。

 

「調なら本部によってメディカルチェックを受けてから、スーパーの特売セールに寄ってから帰るって言ってたデスよ」

「…姉様は一緒に行かなくても良かったの?」

「んー、あたしも本当は付いていこうと思ったんデスけどね……」

 

ボールから隣にいる姉様へと視線を向けた僕の頭の中に浮かぶのは最近身の回りで起こっている奇怪な事件の事だ。内容は女の人が次々と行方不明になっているというものでここまでなら普通の失踪のように思えるのだが、ここから先が不可解なのだ。それは失踪してしまう女の人の特徴が小柄でヒラヒラのワンピースなど着ている子が殆どということ、誘拐される時刻は決まって夕方16時頃ということ、年齢は決まっておらず通りすがりの犯行と決定付けられたこと、そして誘拐される場所や地域は点々で警察の調査では絞り込めてないこと。

 

(……シラねぇ、小柄だしヒラヒラのワンピースとかよく着てるから…凄く心配……)

 

電灯があるからそんなに夕方の道も暗くないと思うけど、シラねぇ両手に荷物を持ってるし……やっぱり、僕と姉様の二人で迎えに行った方がいいんじゃあ……。

 

「…シラねぇに付いてこなくてもいいって言われたの?」

「そう言われたわけじゃないデスけどね……」

 

歯切れ悪い返事を繰り返す姉様の忙しなく動く垂れ目がちな黄緑の瞳を見上げながら、僕は小首を傾げる。

 

「…二人で迎えに行く? 最近、物騒な事件が沢山起きてるし……シラねぇ、一人じゃ買い物袋も重たいと思うから」

「それは駄目デスッ!!!!」

 

突然大きな声を上げる姉様にビクリと肩を震わせる僕にハッとした様子の姉様は僕の肩へと両手を置くとニッコリと取り繕うような笑顔を浮かべる。

 

「……ま、大人には色々とあるのデスっ。それに調なら大丈夫デスよ! それよりも美味しいハンバーグを二人で作って、調をびっくりさせましょう!」

「…う、うん」

 

姉様の豹変っぷりにすっかり迎えにいこうと思っていた気持ちも不安に感じていたことも頭から抜け落ちてしまい、代わりに思い出し、鼻を擽ぐるのは何かが焦げているような匂いでフライパンを覗いてみると玉ねぎがキツネ色を通り越して、茶色や黒に変わっていっているところできっと玉ねぎの事を忘れているであろう、姉様へとフライパンを指差して焦げている事を指摘する。

 

「…姉様、フライパン見て。玉ねぎ焦げてる」

「なんデスとぉおおお!!?」

 

僕の指摘に瞬時に反応した姉様は"はぁ……"と深くため息をついてから、熱が冷めたキツネ色というよりも焦げ茶色の玉ねぎを入れてくれるのを待ってから具材と合挽き肉をこねこねする。

 

「それより合挽き肉しっかりこねました?」

「…うん、しっかりこねた。こんな感じ」

 

具材が混ざりきっているがマダラなところがあるボールの中にあるネタを見た姉様は眉を潜めると端末を操作して、画像に写っているネタと僕がこねているネタを見比べる。

 

「あともう少しねったら出来そうデスね。腕がだるくなってきたでしょう、お姉ちゃんが代わりましょうか?」

「…ううん、最後まで頑張れる」

「よしよし。本当に歌兎はいい子デスね」

 

撫で撫でと頭を撫でてもらいながら、出来上がったネタを大判型に整えてから、中央部を平らになるくらいにへっこませて、フライパンへと置こうとしたら"歌兎の綺麗な肌に火傷の跡が付いたらいけないのデス"と姉様に止められてしまったので、黙々とハンバーグの形を作るのと整えるのに集中する。

 

「歌兎、もう少ししたら出来そうなので大皿三つ用意してくれますか?」

「…うん、分かった」

 

ぴょんと台から飛び降り、僕の身長よりも10㎝高めの食器棚から背伸びを押して、大皿を三つ取り出してから調理台へと並べる。

そこに姉様がしっかり焦げ目のついたハンバーグを盛り付けるの見て、ミニトマトとレタスを脇に添える。

 

(この少し大きめに作ったのは、シラねぇのだったよね)

 

シラねぇ用に取り分けた他のおかずにもサランラップをしてから、隣にいる姉様を見上げる。

 

「…姉様。シラねぇの冷蔵庫に入れる?」

「んー、もう少し待ってみて戻らなかったら、冷蔵庫に入れましょうか?」

「…分かった」

 

コクンとうなづいてから台からおりると自分の分と姉様の分のおかずをトコトコとリビングのテーブルへと持っていく。

 

「足元をしっかり見て、持っていくんデスよ」

「…りょうかい」

 

最後のケッチャップを台へと置いて、玄関へと続く扉を見つめてみるが、そこからひょっこりとピンクのシュシュで結ばれている黒髪のツインテールが覗く事は一時間待ってみてもなく、姉様は冷蔵庫を開けるとシラねぇ用に用意していたおかずを入れてから、不安げに机の台を掴んで、静かに扉を見つめ続けている僕へと声をかける。

 

「すっかりハンバーグ冷めちゃいましたね。レンジでチンしましょう。歌兎の分とお姉ちゃんの分、持ってきてくれますか?」

「…うん、いいよ」

 

両手に大皿を持って運ぶ真似は姉様が見たら血相を変えて飛んでくるのでやめて、トコトコと自分の分と姉様の分の大皿を姉様へと運び、温め終えたものは"僕が火傷してはいけないから"と姉様が両手に持ってから、テーブルへと置く。

 

「遅くなっちゃいましたが、夕ご飯にしましょう。歌兎、お姉ちゃんの所においで」

 

リビングに置いてある木で出来た小さなテーブルは備え付けの椅子が四つついており、普段は姉様とシラねぇが隣同士で座り、僕は姉様の向かいの席に腰をかけるのだが、時々姉様とシラねぇのどちらかが用事で居ない場合は僕が空いている席に腰をかけて、隣同士で座るのが当たり前となっていた。なっていたのだがーー

 

(ーー姉様がトントンと太ももを叩いてる……これは太ももに座りなさいっていう合図(あいず)? それとも絶対服従の姉様命令?)

 

ここにもしマリねぇとシラねぇが居れば"はしたない!"と叱られる所だが、マリねぇもシラねぇも居ないのではっちゃけちゃおうっていう姉様の粋な計らないなのかな? よく分からないけど……。

 

(とりあえず、姉様に近づこう)

 

トントンと太ももを叩く姉様の真昼を照らす太陽のような輝く笑顔をスルーして、その隣に腰掛ける勇気が僕にはない。

 

「……」

「よいしょっと。えへへ〜♪ 歌兎もすっかり大人の女性へと近づきましたね」

 

近く僕の脇に両手を差し入れ、そのまま抱き上げた姉様はニコニコ笑顔のまま僕をギュッと抱きしめる。むにゅっと背中に広がる柔らかい情報量が僕とは桁違いの二つのふくらみの感触と左肩に顎を乗せている姉様の吐息が耳をくすぐり、少しくすぐったい。

 

「…そうかな? 僕まだちんちくりんだし、姉様に比べると幼児体型で体重も軽いよ」

「そんな事ないデスよ。お姉ちゃんにはしっかりと歌兎の日々の成長が分かってますよ。朝昼晩と歌兎とのスキンシップから得た膨大な成長情報はどんな些細なことでもお姉ちゃんの"歌兎成長日記"へと刻み込まれているのデス」

 

"えっへん"と誇らしげに胸を張る姉様に僕は心の中でツッコム。へ? なにその怪しげな記録日記……いいや、姉様の記憶に刻みつけているんだから、記憶日記か。日々増していってると思っている姉様からのスキンシップはそういう記憶日記の為のだったんだ。

 

(って、わっわっ!?)

 

クルッと向きを変えられ、目を丸くする僕のおでこへとコツンと自身のおでこをくっつけた姉様は瞼を閉じたまま、申し訳なそうな声を上げる。

 

「……さっきはびっくりさせちゃってごめんね、歌兎」

「…ううん、僕こそしつこくしちゃってごめんね」

「歌兎は悪くない。ただね、お姉ちゃんはすごく心配なの」

「…心配?」

「もし歌兎が行方不明になって、あたしの元に二度と帰ってきてくれないと思うと……心配で、心配で仕方なくなるの。だから、出来る限りでいいから夕方からの外出は控えてほしい。お姉ちゃんとの約束、守れる?」

 

閉じられていた瞼は静かに開き、少し垂れ目がちな黄緑の瞳が眠たそうに見開いている黄緑の瞳を貫く。僅かに涙ぐんでいるように見える普段とは違うすがるような弱々しい瞳を見つめながら、驚きで僅かに空いていた唇をギュッと噛むと約束に対しての返事を言うと口を開いた瞬間、見計らったかのように最近頻繁に流れるようになったニュースが流れる。

 

 

 

『本日、夕方16時頃永田町にて16歳の少女が"昨日から家に帰ってこない"と少女の両親から警察に電話があり、友達と買い物に出かけてからの足取りが掴めていないことが分かっており、行方不明になった少女の名前はーー』

 

 

 

チラッとテレビ画面に映っているニュースを見た後に、わざとニュースキャスターの声を遮るように声を上げると意地悪に笑う。

 

「ーー…僕が姉様との約束を守らなかったことがあった?」

「ふふふ、そうデスね。歌兎はお姉ちゃんとの約束を守らなかったことなかったデスね。どうやら神経質になりすぎていたようデス」

 

よしよしと僕の頭を撫でた姉様は安心したように微笑むと僕の向きを変えてからハンバーグへと箸を入れると食べやすい一口サイズに切る。

 

「ふぅ〜ふぅ〜。はい、歌兎、口を開けてください」

「…あーん。もぐもぐ」

「口の端にケッチャップが付いちゃってるデスよ」

「…むぐ。ありがとう、姉様」

「お礼なんていいデスよ。歌兎とご飯を食べられるだけであたしは幸せなんデスから」

「…僕もだよ。今度は僕が姉様にハンバーグを食べさせてあげる」

 

親鳥から餌をもらう雛鳥のように至れり尽くせりの状態で姉様に晩御飯を食べさせてもらったり食べさせてあげたりしている中、僕はジィーーとさっきのニュースを見ていた。

 

 

 

『行方不明の少女が当日着ていた服装はフリルのついたピンクのカッターシャツと白いロングスカート、ピンクの手提げ鞄で、行方不明の少女の特徴は右目下の黒子があり、少女の目撃情報や発見された方は下の番号にご連絡をください』

 

 

 

繰り返させる連続誘拐事件のニュースを見ながら、味噌汁を啜る。

 

(……新たに行方不明になった人って僕と同じ外見してるんだな)

 

物静かそうな雰囲気が漂う顔立ちをした少女の瞳は黄緑色をしており、背中を流れるロングヘアーは白銀色をしていて、ニッコリと微笑んでカメラへとピースしている姿は愛らしいと多くの人は思うことだろう、ただ一人僕を除いてーー。

 

たらりと冷や汗を流す僕が見つめるのはこれまで犯人によって連れ去られた少女や女性達の一覧で、僕の気のせいかもしれないがその全員がどこかしら僕と似ているのだ、瞳の色や髪の色、髪の毛の長さや身長などなど。"気づかなければよかった"と後悔しても気づいてしまったのならば仕方ない。

 

(さっきまで怖くなかったのに、すごく怖くなってきた……)

 

気のせいならば気のせいであってほしい。僕自身誰かに恨みを持たれることも誰かに執拗に付け狙われている理由がわからないのだ。

 

(……姉様)

 

机の上に無意識に乗っけてある左手へと左手を添えて、ギュッとする僕を不思議そうに見下ろした後に玄関に続く扉を見つめて、ポツリと呟く。

 

「調、遅いデスね……」

「…やっぱり二人で迎えに行く?」

 

そう僕が姉様に問いかけた時だった、玄関の鍵が開く音が廊下に響いた後にガサガサと物がたくさん入った袋が何処に置かれる音が聞こえたのは、二人で顔を見合わせていると扉が開き、ひょっこり顔を出す黒髪ツインテールにシンクロした動きで立ち上がると其々ビニール袋を帰ってきたシラねぇから受け取るのだった。

 

 

 

3.

 

(すっかり遅くなっちゃったな)

 

制服から端末を操作して画面を開くとそこにデジタルで表示されている時間は16:12で僕は肩から滑り落ちそうになっている手提げ袋をかけ直すと帰る人の邪魔にならないように校門から離れたところで姉様へとメールを送ろうと立ち止まる。画面に夢中になっている黄緑の瞳が背後に迫る不審者に気づいたのはメールを送信して、端末をポケットへと仕舞おうと電源を切った黒い画面で……。

 

 

恐怖で固まる黄緑の瞳とどんな光も跳ね返す底なし沼のような無機質な水色の瞳が今、黒い画面越しに交差しーー

 

 

「……歌兎ちゃんが悪いんですよ。私がこんなに待っているのに誘っても何をしてもきてくれないから」

 

 

ーーという声を最後に僕の意識は途切れ、知らない部屋で目を覚ました僕は見下ろされている淀んだ水色の瞳を見てしまって、その底なし沼へと意識もろとも引きずり込まれていく……。

 

(……姉様、ごめんなさい。約束守れなかった)

 

ズルズルと引きずり込まれた先には何にもなくて、僕はその真っ暗闇から一生逃げられないと悟り、そっと涙を流したのだった……。

 

 

 

 

4.

 

《部活が長引いちゃった。もう少ししたら帰るから。心配しないで》

 

ピロンとあたしの端末へと届いた絵文字も何もないシンプルなメールはいつもあたしへと送ってくれる妹のもので、あたしはこれからも続くであろう幸せな日々に思い浮かべながら、端末をポケットへと仕舞うと学生寮へと駆け出す。

 

(歌兎、サッカー部頑張ってるみたいデスね。一年生なのにレギュラーに選ばれちゃうなんてすごいデス)

 

メールを読んだ瞬間、ルンルン気分で鼻歌を歌うあたしに調はクスクスと笑うと小首を傾げて尋ねてくるのでメールの内容を見せる。

 

「歌兎からメール?」

「はい、今日も部活頑張ってるみたいデスよ」

「すごいね、歌兎……。確か、レギュラーに選ばれたんだって?」

「デスデス。今週の土曜日に近くの中学校と練習試合するって言ってましたよ」

「みんなで応援しに行こうね」

「はい! 練習試合って事はお弁当がいるデスね。今回も腕によりをかけて作りますよ〜っ」

 

腕まくりするあたしを見て、心配そうな表情を浮かべる調は恐らくこの前の手作りお弁当の大惨事を思い出しているのだろう。その時も今回のようにルンルン気分で手作りお弁当を作ったあたしはどうやらだし巻き卵の砂糖と塩の分量を間違えてしまったらしく、ものすごくしょっぱいだし巻き卵を美味しそうにかぶりついた歌兎は一瞬だけ顔色を変えた後に根性で残りの半分を口に含み、無理矢理呑み込むと強張っている笑顔のまま凄く麦茶をがぶ飲みしていた。あたしがだし巻き卵がしょっぱいことに気づいたのは歌兎を見送った後にみんなで突いた時で……あの日以降、もう二度とあんな失敗を繰り返さないと誓って、調や未来さん、クリス先輩にお料理を習って、少しは料理の腕前も上昇したと思っているのだが、肝心の歌兎が美味しいと思ってくれないと意味がない。

 

「切ちゃん一人じゃ不安だから。私もお手伝いするね。………また、だし巻き卵の塩と砂糖の分量を間違えたら、歌兎が可愛そうだもの」

「デデッ!? 調がお弁当作りを手伝ってくれるのならば鬼にカネボウデス!」

 

なので、お料理の師匠である調がお弁当の手伝いをしてくれるのならばこれほど心強い事も嬉しい事もない。

 

「切ちゃん、カネボウじゃなくてカナボウだよ」

「なんとッ!? 金棒と書いてカナボウって読むデスか!?」

 

"勉強になった"と頭の中にある間違えだらけの辞書へと調が訂正してくれた答えを書き直しながら、学生寮に辿り着いたあたしと調は部屋に入ると早速今日の晩御飯の準備に取り掛かる。

 

「歌兎。凄く汗をかいて帰ってくるでしょうから、サラダのドレッシングは塩気が多い方がいいデスかね?」

 

隣でピンクのエプロンを付けて、せっせと切歌ロボーーあたしの形をしたロボーーが微塵切りにしてくれた野菜を炒めている調へとかき混ぜていたドレッシングへと人差し指を少しだけ付けて差し出すとパクと小さな口が咥え、ペロリと指先についたドレッシングを舐めとる。

 

「んー、どうだろ……。私はこのままでもいいと思うけど……。切ちゃんの言ってる事も分からなくないから、一摘みずつ入れてくれる?」

「了解デス!」

 

ビシッとおでこに右手を押し当てて、透明なボールをかき混ぜるあたしにトコトコと近づいてきて、くいくいと黒いニーソックスを引っ張るのは歌兎の形をしたロボット・歌兎ロボであたしは抱き上げるとトンと調理台へと置く。

 

「……ん。……ん」

 

トコトコとさっきまでかき混ぜていたボールの近くまで歩くと小さな両手でスプーンを持つとクルクルと一生懸命かき混ぜているKAWAII姿に撃沈(げきちん)したあたしはデレデレと緩み切った頬のまま、ひたすらに端末のシャッターを押し続ける。

 

「ふぁぁぁ……」

「……切ちゃん、手が空いたならお皿出してくれる?」

「ハッ!? 歌兎ロボの可愛さに我を失っていたのデス……」

 

"恐るべし、歌兎ロボ"と心で呟いてから調ロボーー調の形をしたロボーーと共に大皿とおわんなどを用意したあたしはチラッと今だに開かないリビングの扉に視線を向ける。その視線に気づいた調は料理を盛り付けながら、あたしに問いかけてくる。

 

「歌兎遅いね。メールじゃあ"もう少ししたら帰る"って書いていたんだよね?」

「うん……」

「リディアンの中等部って高等部の校舎からそんなに離れてなかったよね……」

「うん……」

「お料理、ひと段落したから二人で迎えに行こう? 今、サランラップするから待ってて」

「うん……」

 

サランラップした料理を冷蔵庫に入れて、ロボ達に留守番をお願いしてから、二人で歌兎が寄りそうな場所を巡りながら、リディアンの中等部が通う校舎まで辿り着いて、職員室に寄り中等部の先生に歌兎の居場所を聞いてみても答えは"分からない"で、不安な気持ちになっていくあたしを勇気付けようと左手を強く握ってくれる調の右手を握り返しながら、学生寮に着いたけれども歌兎が帰ってきた様子はなく、あたしと調は本部へと向かうと風鳴司令へと事情を話したのだった。

 

 

 

 

5.

 

最愛の妹・歌兎が行方不明になって、一週間後 あたしはとある人の部屋を訪れていた。

強張った表情を浮かべるあたしの見たその人はいつものように穏やかな表情を浮かべると快く部屋に招き入れてくれた。

 

「暁さんが私を訪ねてきてくれるなんて珍しいですね」

「そうデスか? 確かに最近は訪れなくなっちゃいましたが、前は頻繁に出入りしていたデスよ」

「そうですね。……歌兎ちゃん、まだ見つからないんですよね……」

「全く、みんながこんなに心配してくれているのに、どこをブラブラしてるのだが」

 

やれやれと呆れたようにため息をついているようなフリをしながら、あたしは腰あたりまで伸びた茶色い髪を揺らしながら、前を歩くセレナの行動を凝視する。

 

(……仲間を。……昔から一緒に暮らしてきた家族ようなセレナを疑いたくはあたしもないんデス)

 

だけども、あたしが歌兎の失踪で一番先に疑ってしまったのはセレナだった。

 

なんでセレナなのか、理由を述べるのならば、恐怖から調にも歌兎にだって話さなかったあの出来事を話さないといけないだろう。

 

その出来事が起きたのは、サッカー部の部活や練習試合がない日には必ずセレナと共にショッピングに行っていた歌兎がある日からヘタな嘘をついて、セレナの誘いを断わり続けていた時のことだった。本部での訓練を終え、シャワールームにて汗を流そうと廊下を歩いている時にいきなり壁へと押し付けられて、押し付けられている二の腕をギュッと握られて、痛みに顔を歪ませていると低い声で尋ねられたのだ。

 

『……暁さん、なんで歌兎ちゃんにフリルのついたワンピースを着せてあげないんですか?』

『……』

『……歌兎ちゃんに一番似合うのはお姫様が着るようなフリルが沢山ついた洋服なのに……それなのに、なんで? なんでなの?』

 

あたしの瞳を間近で見つめてくる水色の瞳はどんな光も反射しない真っ暗な闇だけがそこに居座っていて、普段のセレナと余りに違う豹変っぷりにあたしは恐怖から助けを呼ぶ声も出せないまま、ガタガタと震えながら"なんで? なんで? "と繰り返しつぶやきながら、トントンと壁へとあたしを叩きつけていくセレナのなすがままになっていた。

 

その後、S.O.N.G.のスタッフが通りそうになったことでセレナはあたしを解放してくれたが、もしS.O.N.G.のスタッフが通ってくれなかったならば、あたしはあのままずっとセレナに壁へと叩きつけられていたことだろう。

 

セレナに叩きつけられた背中の痛みよりもあたしを見つめるどんより曇った水色の瞳が忘れようにも身の危険を感じる恐怖ということで本能に刻まれ、だからこそハンバーグを作った時に歌兎が調を迎えに行こうと行った時はつい反応してしまった。だって、調と一緒にメディカルチェックを受けているのはセレナだったから……。

 

あの出来事からセレナがあたしを襲うことはない、だけど本能が、刻まれた恐怖が危険信号を出すのだ、"セレナへと近づくな"と。

 

(だけど、いつまでも怯えているわけにはいかないんデス)

 

もし、あたしの悪い感が当たり、セレナが歌兎を襲った犯人であるならば、きっと歌兎は今酷い目にあっているのかもしれないのだから。

 

(だから、あたしが必ず見つけ出して助け出してあげますからね、歌兎ッ)

 

「ここが私の部屋です。お茶を用意してきますから、待っててください」

「お構いなく」

 

と断りを入れつつ、セレナの部屋に入ってみるとそこには可愛らしい動物の絵などが描かれている壁紙やファンシーな家具が鎮座してあった。ズカズカとピンク色のカーペットの上を歩きながら、歌兎が閉じ込められているであろう秘密の部屋に手当たり次第触りながら探す。

 

「……ここには隠してないってことデスか」

 

そもそも、秘密の部屋なんてファンタジーなものが本当にあるのだろうか?

 

(って、あたしのバカバカ。早速弱気になってどうするデスかッ。歌兎を、妹を守ってあげられるのは姉であるあたしだけなんデスから)

 

それに、あたしが所属しているS.O.N.G.にはミサイルを素手で掴んだり、装者を瞬殺するOTONAと自分だけでなく車でさえ分身させるようななんでもありな忍法を使うNINJYAが居るのだ。

 

(あの二人の化け物みたいな強さに比べたら、セレナが秘密部屋を一つ二つ作っていてもおかしくないのデス)

 

うんうんとうなづきながら、チラッと部屋に飾られている時計を見てから"いよいよ時間がない"と感じたあたしは四つん這いになると床を探し始める。

 

「って、あれ?」

 

机の下を四つん這いになって右手を伸ばして探していた時中指が突起に引っかかり、目を丸くしながら、自分の方に引っ張ってみるとカチンと音がして、続けてブゥゥ……ブゥゥ……と機械音が聞こえて、勉強机の下に人一人通れるくらいの階段が現れる。

 

(ビンゴデスッ!!)

 

「いだっ……」

 

嬉しさのあまり、頭を上げてしまったあたしはガツンと机へと頭を強くぶつけてしまい、痛みで頭を抑えながら階段をあまりいくとそこには20畳くらいの薄暗い周りがコンクリート造りの部屋が現れ、チカチカと消えかかりそうになっている電球の明かりを頼りに進んだ先に目がチカチカしそうなほどに真っ白な部屋があり、その部屋の中央部に見知った水色が入った銀髪の背骨まで伸ばした小柄な少女が居て、あたしは泣き笑いを浮かべると探し求めていた最愛の妹へと続くように敷かれている赤いカーペットを駆けていく。

 

「歌兎ッ!!」

「ーー」

 

駆け寄ってくるあたしには目をもくれず金とワインレッド色を基調としたアンティークな椅子へと気怠げに腰掛ける歌兎はその小さな体躯(たいく)をおとぎ話の中に現れるお姫様が着ているような青いドレスを身に纏っていて、こんな時なのに、あたしはその人間離れした美しさに息を飲んでいた。

 

窓ひとつない真っ白い部屋はただただ歌兎が身につけている真っ青なドレスを映えさせており、真っ白な空間を僅かに染めている赤でさえその青には及ばない。

 

(こんな時じゃなかったら、写真を沢山撮りたいんデスけどね)

 

そんなことを思いながら、あたしはこんなに近づいているのに身動き一つしない薄情者の妹へと身をかがめてから抱きつく。

 

「……やっと見つけましたよ、歌兎。お姉ちゃんとの約束を守るなんて、いつから歌兎は悪い子になったんデスか?」

 

一週間ぶりの歌兎は行方不明になってしまう前と変わらない感触であたしは青白い頬へと止めどなく溢れ出る涙が流れる自分の頬を押し付けると溢れてくる愛おしさと安堵の気持ちのままに強く抱きしめ続けるのだが、強く抱きしめれば抱きしめるほどに違和感に襲われるのだ。

 

(あれ? あ、れ………?)

 

歌兎ってこんなに体温低かったっけ?

 

歌兎ってこんなに痩せこけていったっけ?

 

歌兎ってこんなに体重が軽かったっけ?

 

歌兎の瞳ってこんなにガラス玉のように無機質なものだったっけ?

 

「う、そ……デス、よ、ね………」

 

白いタイルを見続けるガラス玉のようにどんな光も通さない黄緑色の瞳を見つめ、椅子の肘置きへと乗っけられている両手首をギュッと握り、脈を測ったあたしはある一つの真実を突きつけられ、その場に崩れ落ちる。

 

「……ゔぅっ、ぅっ……間に合わなかった……あたしっ……歌兎のこと……守れなかった………」

 

そう、あたしの最愛の妹・暁 歌兎は既に息を引き取っていたのだ………。

 

最愛の妹を守らなかった事への悔しさと自己嫌悪から大粒の涙を赤いカーペットへと落としながら、"くそ"と右拳を握りしめて床を叩きつけていると背後からパチンパチンというような誰かが拍手する音が聞こえ、あたしはその場から立ち上がると椅子の背後へと回り、乱暴に袖で涙を拭うと入ってきた人物を睨む。

 

「凄いですね、暁さん。まさか貴女が一番最初にこの部屋に辿り着くとは思いもしてませんでした」

「……」

「睨むだけで一言も喋ってくれないなんて寂しいですよ、私」

 

セレナが近づくたびに後ろ下がったおかげか、部屋の一番端まで辿り着けたあたしは歌兎……ううん、だったものに近づいたセレナが思わせぶりに椅子を動かすのを見て、眉をひそめる。そんなあたしには目もくれずに青いドレスに身を包んでいる歌兎だったものを恍惚した表情で見つめて、愛おしそうに頬を撫でる。

 

「……」

 

異様としか思えないセレナの行動に危険信号が頭の中でカンカンと警報を鳴らし続ける。

 

(ひとまず、ここから逃げた方がいい)

 

セレナが歌兎を誘拐し殺めたことは目の前にあるのが最もな証拠だろう。その証拠さえあれば歌兎の無念を晴らす事が出来るだろう。

 

あたしは歌兎だったものに夢中なセレナを警戒しつつ、セレナの背後にある出口へと向かおうとした時だったセレナへと質問を投げかけられたのはーー

 

暁さんはお人形さんって好きですか?

 

ーー歌兎だったものの頬を色っぽく撫でながら、セレナは流し目であたしを見つめる、あたしに恐怖心を植え付けたあの底なし沼のような無機質な光を放つ水色の瞳で。

 

「そんな質問、今しなきゃいけない事なんデスか?」

 

上ずりそうになるのを抑え込んで、逸らしそうになる視線へと力を込めて、唇を噛んでから威嚇として低い声を出す。

 

「必要ですよ。だって、私が歌兎ちゃんをこんな風にしたのはーー私だけの着せ替え人形が欲しかっただけ、なんですから」

「へ?」

 

え? へ? なんデスか? そのふざけた理由……。

あたしの妹はそんなくだらない自分勝手な理由で13歳っていう短い人生に幕を出さなきゃいけなかったんデスか?

 

「歌兎ちゃんを初めて見た時に心が震えたんです。まるでお人形さんみたいってーー」

 

中学校に通わせてもらって、初めて自分から部活でサッカーをやりたいっていってくれて、そのサッカーでレギュラーの座まで努力で勝ち取ってきた。もし、セレナに捕まるのが遅かったら、他校との練習試合で大活躍していたのかもしれない。

 

「ーー円らな瞳……幼さが残る丸みを帯びた輪郭……僅かに膨らんだ二つの膨らみ……細っそりした手脚……小さな身体……どのパーツを取ってもお人形のようで愛らしくて可愛らしい。私思うんです、歌兎ちゃんはお人形さんになるために生まれてきたんだって……」

 

その未来を……細やかな幸せに満ちた未来を"私だけの着せ替え人形が欲しかったから"って理由で踏み滲んだの? そんな理由で踏みにじれていい人生だったの? 歌兎の……妹の人生って……。

 

(許セナイ)

 

怒りのあまりに奥歯をガリッと噛み締めてしまい、逃げ出そうとしていた足取りと止まってしまったあたしを見つめるセレナの表情が恍惚とした表情からしてやったりというようなほくそ笑む表情へと変わっている事を血が上ってしまったあたしは気づくことができない。

 

「……て」

「なんですか? 暁さん」

「あたしの妹から離れてッ!!!!」

 

怒鳴り声を部屋に響かせたあたしは余裕そうな表情を崩さなセレナに飛びかかろうとした時だった、グラっと視界がふやけ、足元がよじれ、白いタイルへとダイブしたのは。

 

(……いきなり、なんで?)

 

「暁さん、足元はしっかりと確認した方がいいですよ」

「……くっ」

 

セレナの指摘通り、黒いニーソックスが僅かに切り裂かれ、血を溢れされている。その切り傷の近くには何かが塗られているナイフが転がっており、あたしは唇を噛みしめる。

 

(あのナイフに痺れ薬を塗られていたのか)

 

怒りに身を任せてしまい、セレナの狙いのままの行動を取ってしまった。まずはこの場から逃げないといけなかったのに……。

 

痺れているあたしへと近づいたセレナは"よいしょっ"とうつ伏せで倒れているのを後向けに変えると下腹部へと跨り、ポケットから何か分からない液体に満たされた注射器を取り出すとあたしの左耳の穴へと近づける。

 

「やっぱり可愛くて綺麗です、姉妹なんですね」

 

愛おしそうに頬を撫でた後は金髪へと指を差し込み、手櫛をするセレナにバレないように足元に転がっている麻痺薬が塗られているナイフを右手へとじわりじわりと近づけていく。

 

「……意味が分からないデス」

「よくよく見ると歌兎ちゃんに暁さんが似ているんですね。例えば、輪郭も幼さが残っている丸みを帯びた形をしてますし、睫毛もスッとしているところがよく似てます」

「……歌兎ちゃんがあたしに似てるんデス。あたしが歌兎に似てるんじゃないデス」

 

拗ねたように言ってみるとセレナが眉をひそめながら謝罪する。

 

「ごめんなさい。暁さんがお姉さんですもんね、歌兎ちゃんが暁さんに似てるんですね」

「そうデス。もう二度と間違えないで欲しいのデス」

 

(よし、このまま話で時間稼ぎをすればナイフを手元に近づけられる)

 

見えてきた希望を手繰り寄せようと必死になっているとグイっと右耳の中へと注射器の針を入れられる。ピタリと身動きしなくなったあたしに見てから、椅子に腰掛けている歌兎だったものを見つめたセレナはポツンポツンと呟く。

 

「これで歌兎ちゃんも笑ってくれますよね」

「……笑って?」

 

あたしが逃げないように右手を頬へと添える。

 

「この部屋に来てから、歌兎ちゃん悲しそうなんです」

 

確かに白いタイルを見つめる瞳は意思がないというのにどこか寂しそうな雰囲気だった。

 

「前の部屋にいる時は友達がたくさん居たので寂しくなさそうだったんですけどね……。やっぱり一人でこの部屋に来たのが、寂しかったんでしょうね。でも、みんな歌兎ちゃんにどこか似ているから、離した方が歌兎ちゃんの可愛さと美しさを引き立てられると思ったんですけどね」

 

セレナのそのセリフによって全てを悟った、ここ最近頻繁にニュースに取り上げれられていた少女・女性誘拐事件の犯人が目の前にいるこの少女なんだと。

 

(歌兎だけじゃなくて、あんなにも多くの人をこの人は殺めてしまったんだ)

 

そこまでして自分専用の着せ替え人形が欲しかったんだろうか? 人を殺めるという最大の禁忌を犯してまでその私欲は叶えなくてはいけないものだったんだろうか? 何がそこまで彼女をおかしくしてしまったのだろうか?

 

さっきまでセレナに抱いていた怒りは同情・憐れへと変わり、あたしは涙を溢れさせた、もしかしたら彼女もまた被害者なのかもしれないと。

 

「でもこれで歌兎ちゃんも喜んでくれるはずです。大好きなお姉ちゃんがずっと……永遠に隣にいてくれるんですから」

 

穏やかに笑うセレナがあたしの耳へと突き立てている注射器の液体を入っていく前に右手に持っていた麻痺薬が塗られたナイフでセレナの足首を切った後に、痺れているセレナを退かしてから痺れる体に鞭を打って、この場から逃げるために歩き出す、後ろに同じように痺れる身体を引きずり、水色の瞳をどんよりと曇らせ、左手に注射器を持ったセレナから逃れるように。




皆さん、一緒に言いましょうッ

「切ちゃん、逃げてぇええええええええええええええええ!!!!!! 逃げ切ってぇええええええええええええええええ!!!!!!!」


果たして、切ちゃんは無事セレナちゃんから逃げられたのでしょうか?


それは、読者の皆様のご想像におまかせ致します……




ということで、改めて【地下室の人形】はどうだったでしょうか?

この【狂愛】章、始まって以来のbat end…

我ながらなんでこんなものを書いてしまったのか、よく分からんのです……。疲れるのかな? 疲れてるんでしょうね……(苦笑)
この世界線のセレナちゃんも病んでしまってますが、この話を思いつき、主筆した私もある意味病んでしまってるのでは…?(失笑)

ということで、今回のこの世界線のセレナちゃんに引いてしまった気持ちは私が全部引き受けるので、どうかセレナちゃんを嫌いにならないであげてください(土下座)

因みに、歌兎がbat endを回避する為には【⒈】の最後でセレナちゃんのお誘いを受け続ける事でした。
【⒈】の時のセレナちゃんは……いいえ、ストーリーの終わりまでセレナちゃんは単に"自分専用の着せ替え人形"が欲しかっただけなんですから……。セレナちゃんにとって、理想的なお人形さんである歌兎が生きていようが、亡くなっていようが、それは彼女にとって些細な事なのですが、どちらにしても彼女の精神は異常と言えることは他ならないでしょう。

また、【2.】のハンバーグ回はずっと前から言っていた後書きで立て続けていたフラグの回収とXVの用語解説から書いてみようと思い、フレンドの多くの方が"称号・今夜はハンバーグなのデスッ!"になされていたので……うん、やっぱり今夜はハンバーグかなという思い書かせてもらった回となってます。

【4.】のお料理回で現れたロボ達はアプリにて一緒は料理していると書いてあったように思えたので急遽入れてみました(微笑)
歌兎ロボは切ちゃんロボや調ちゃんロボのように何かに特化しているわけではないですが、ちょっとしたお手伝いはそつなくこなす事が出来ます。また、切ちゃん曰く小さい身体を一生懸命動かして頑張る姿が可愛いく、大変癒されるとのこと(笑)




ここから先はXVの7・8話の感想を書かせてもらおうと思いますッ。
例の如く、変態な感想が多くなり、身勝手で直感的な憶測を書かせてもらうと思いますが、そういう考えもあるのだな…と軽く読んでもらえると嬉しいです!
また変態なコントが苦手な方は迷わず回れ右をしてください(敬礼)

まず最初は7話の感想ですが、前半は多くのきりしらシーンや響ちゃんのイケメンな場面が多くありましたね!!
シェム・ハの触手の攻撃から調ちゃんを守る切ちゃんもかっこよかったですが、それ以上に切ちゃんの危機を見事なタイミングで助けてくれる響ちゃんはかっこよすぎました!! 流石シンフォギアの主人公であり、響ちゃんです!!!(大興奮)

そんな前半で私の好きなシーンはシェム・ハの腕輪から発せられる音がマリアさんの始祖が持ち出せた子守唄【Apple】の音と似ている時に変換された音を髪を掻き分けて、耳を凝らす切ちゃんですねッ!!(大興奮)
やっぱり切ちゃんは綺麗系統の顔立ちなのですね〜。耳が見えるだけでここまで印象が変わるとは……いい作画でした(しみじみ)

また、切ちゃんの新技(?)の二つの釜を手裏剣にしてぶん投げる技【凶鎖・スタaa魔忍ィイ】ですが……テンションが上がりましたッ! まさか、切ちゃんが忍法を使ってくれるなんて(勘違い)
にしても、お尻から落ちたけど大丈夫なのかな、切ちゃん……。


後半戦はエルフナインちゃんとキャロルさん、オートスコアラーのみんなの話でしたね。

ただ一言だけ述べるのならば、感涙の一言です。

エルフナインちゃんを体を張って守ってくれるオートスコアラーのみんなへとお礼を口にするエルフナインちゃんの言葉に嬉しそうな表情を浮かべるみんな……そして、再来してくれたキャロルちゃんを見て『その姿ですよ……私たちが見たかったのは……』と呟き、瞳の色が無くなるがリィちゃんのシーンには涙が溢れました。

キャロルちゃんの変身バンクはエロさが程よく大変ニヤニヤさせてもらいました!
三角帽子の赤・青・緑・黄色で其々オートスコアラーのみんなが映るのが泣きそうになりますよね……あと、碧い獅子も再登場しましたね!
また、もっと気持ち悪いことを言わせてもらうならば、ダウルダヴラのファウストロープの端から見えるあばら骨が好きだったりします……出来る事ならーーってこれ以上は流石に気持ち悪すぎることを言いそうになるので言葉を紡ぐことにします。

また、7話のDPは特別仕様でキャロルちゃんの新曲が流れましたねッ!!
かっこいいだけでなく、音程が掴みにくい曲を難なく歌うキャストの皆さんって本当に凄い……(尊敬の眼差し)

今回の話で気になったのは、ミラアルクさんの刻印によって操られたエルフナインちゃんが言ってた『その庭に咲き誇るは けんとの花 知恵のみ結ぶ ディーンハイムの証なり』ですね。
すごく今更なんですが、アウフヴァッヘン波動って其々"花"の形に似てますよね……そして、エピソードのタイトルは【その花の名は、アマルガム】。"アマルガム"はシンフォギアシステムとサンジェルマンさん達のファウストロープが融合した状態……。つまり、聖遺物一つ一つが花であり、それを結ぶことによって……みたいな………(汗) 見当違いかもしれないけど(苦笑)



続けて、8話の感想ですが……まず一言、いい最終回でしたね(しみじみ)
タイトルも【XV】ですし、これまでの未来ちゃんのダイジェスト盤も流れてましたからね……今回のシンフォギア8話で完結なんて悲しすぎるよ……(涙)

という冗談を挟みつつ、前半とキャロルちゃんの戦闘曲【スフォルツァンドの残響】の感想はついて書かせてもらいます!

まずはキャロルちゃんとノーブルレッドの戦闘ですが、息つく間もない激戦なのに、キャロルちゃんの余裕が半端なかったですね……(汗)
攻めているはずの三人が段々と追い込まれていくのを見ると、キャロルちゃんの強さにびっくりしちゃいますね……みんな、こんな凄い子と戦闘してたんだなぁ……(しみじみ)
そして、キャロルちゃんもオートスコアラーのみんなのことを大切に思っていたんですね……(感涙)

スフォルツァンドの残響は音程が掴みづらい曲ですね。特に好きな歌詞は『神も悪魔もどうでもいい』の"いい"の伸ばしがすっごく好きです!!
あと凄くしょーもないんですが『煩わしい』って言葉を聞くとラジオのあのコーナーでのやりとりを思い出してしまう…(笑)

また、キャロルちゃんとエルフナインちゃんの会話はこういう状況なのにほのぼのしちゃいますね……(微笑)
照れた様子のキャロルちゃんってかなり新鮮で微笑ましかったですね……もう少しでいいから見ていたかった……。

その後は響ちゃんを退けた装者のみんなの絶唱からのキャロルちゃんの助力によってのエクスドライブからの大迫力の戦闘シーンにクリスちゃんとマリアさんのユニゾン……ぷるんと揺れる胸の間に挟まりたいと思ったのは私だけじゃないはず。

響ちゃんが加わってからの戦闘も手に汗握るものでしたね……早すぎて、目が追いつかなかったことが沢山あり、何回もリピートさせてもらってます。

しかし、みんなの助力によってシェム・ハを倒そうとした矢先に何故か未来ちゃんが……。
こんな時に何ですが、シェム・ハを纏った未来ちゃんのポニーテールが可愛いと思いました。そして、古風な言い方も……。
あと、変身バンクの最初に服を脱ぎ捨てるシーンは最高ですね!! 後ろからあっている光を前から当てたいっ。

未来ちゃんとシェム・ハを引き剥がすことが出来るのか……遂に本性を現し出した訃堂さんは一体何を考えているのか……?

9話以降の展開が気になりますね……。

また、やはり訃堂さんに使われるだけだったノーブルレッドのみんながどうなるのかも……。
前の更新にてミラアルクさんの事を評価が地に落ちると散々な事を言ってしまいましたが、私そこまでミラアルクさんとノーブルレッドの二人を忌み嫌っているわけではないんですよ。2話でミラアルクさんが言った『うちが二人を……家族を守るんだぁ!!』のセリフから薄々と彼女は三人の中でそういう役割なのかなぁ……と思っていましたが、6・7・8話にかけてその考えは合っていると思いました。もちろん、彼女がした事は許せない事ですが、彼女には彼女で譲れないことがあり、忌み嫌われていた彼女達がこれまで味わってきた苦痛を考えてしまうと……どうもそこまで嫌いにはなれないんですよね………(汗)
それに三人が私には2期のF.I.S.組に思えて仕方ないんですよね……。





最後にアプリの報告ですが、和装切ちゃんの超覚醒は極のレベルを上げるところで解放出来るのですが……これがまだまだ掛かりそうなので、フレンドリストをダブル切ちゃんにするにはまだ時間が掛かりそうです(笑)

また、時々更新が遅れ、今回のように2話の感想を書かせてしまうことがあると思います。読者の皆さんには迷惑をかけます(高速土下座)



それでは、ここまで長文を読んでいただきありがとうございます!!(敬礼)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。