敢えて、その作品は表記しないので……『何処かそうなのかなぁ〜』と探してみて下さい!
11月29日。
日課にしてあったカレンダーへの
(遂に、遂に来たデスよ! 歌兎とのお肉デートの日ッ)
大好きなお肉をたらふく食べられ、大好きな妹を一日中誰にも邪魔されずに独占出来る……想像するだけでも幸せが溢れてくるその日が今日なのだ。
「ふんふふーん♪」
上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、足取りが自然と羽が生えたように軽くなるのを感じて調子に乗ってステップで廊下を駆け抜けると"うたうのへや"というプレートが吊るされている部屋をコンコンとノックしてから入っていく。
足を踏み入れた先には毛布と掛け布団を自分の方に手繰り寄せ、胸元に古び、所々糸ほつれをしているうさぎのぬいぐるみを抱き寄せて「すやすや」と健やかな寝息を立てて眠る最愛の妹・歌兎の寝顔を見下ろしながら、手早くカーテンを開け放つ。
そして、カーテンを開け放ったことで差し込んでくる秋の温かな日差しに横顔を照らさせても一向に起きようとしないお寝坊さんな妹に"仕方ないな"と笑いかけながら、あたしは妹の寝顔が最前席で見れる所に腰を落とす。
(……もうこんなに気持ちよさそうに寝ちゃって……起こすのが可哀想に思っちゃうじゃないデスか……)
歌兎が胸にギュッと抱いているうさぎのぬいぐるみはあたしの記憶が正しければ、初めて妹がわがままを言ってくれて買ったものだと思う。
それもF.I.S.の時だったから……マムから貰えるお小遣いは微々、生活費はかつかつで節約に勤しまないと明日喰いしのげるかも不安だったそんなある日、買い出しで街を歩いている時に何かを見つめたまま動かない歌兎が居て、その日は買ってあげられなかったけど……数週間すぎた頃、やっとゲット出来て、妹へとプレゼント出来たことをぼんやりとだが思い出せる。
(……こんなボロボロになっちゃって……そこまで大事にしてくれていたんデスね……)
歌兎がギュッと胸に抱いているうさぎのぬいぐるみにはよくよく目を凝らして見ると不器用な縫い目が所々あり、妹がこれまで年季が入り、破れかけてきたぬいぐるみを自身で補強しながら使い続けてくれていたことが自ずと分かってきて、温かい気持ちになる。
「さて、と。もう少し歌兎の愛らしい寝顔を見ていたいデスが……そろそろ起こさないと回る予定のお店を全部回れないデスね」
そう呟いてから、あたしは顔を隠すように垂れ下がっている水銀の髪へと左手を差し込んでから丸みを帯びた頬をさらけ出し、現れた頬とおでこへとキスを落とす。
と、左手を小さな肩へと添えてから優しく左右へと揺さぶる。
「歌兎、歌兎ってば。起きるデスよ」
「…ん? ねえ、さま……?」
暫く揺さぶっていると銀色のまつげが
「おはようございます、歌兎。今日は絶好のデート日和デスよ」
「…でーと? でーとってなんのことだろ…………んーん? ……あっ、そっか……今日って11月29日で姉様とお肉デートする日なんだね」
まだ眠そうに目をこすりながら、さらさらっと日が当たると水色に見える銀髪を揺らしながら、まだ覚醒してないせいで"デート"の意味が分からないように小首を傾げる歌兎は自分の勉強机の上に置いてある卓上カレンダーをボゥ––––と見つめてからハッとした様子で隣でニコニコ笑っているあたしを見つめる。
「ピンポーンピンポーン、大正解なのデス〜♪ 今日は沢山回るところがあるので楽しみにしてて下さいね、歌兎」
「…ん、楽しみにしてる」
その後、二人で顔を洗ってから、私服に着替えてから意気揚々と街へと繰り出していくのだった。
繰り出した街はすっかり冬の最大イベントであるクリスマスを先取りしているようで、ショーウィンドウには家に飾れる小さなクリスマスツリーや発光ダイオードを使用した二頭身のサンタさんやトナカイさんが置かれており、眺めているだけでもウキウキした気持ちになってくるのだが……それだけに否応なく何をするにも過ごしやすい秋という季節が終わりを迎えていることを思い知らされる。
「12月まで今日を合わせてあと
真横から吹いてくる冷風に身を震わせているあたしの服装は緑とワインレッドを基調としたパーカーの上に黄緑色の左胸にガイコツの悪魔がプリントアウトしてあるジャージ、頭には悪魔のようなツノが生えた黄緑色のニット帽で上半身を決め、下半身は黒い革生地のミニスカートの下に白いニーソックスという格好で–––
「…12月になったら、あっという間に冬休みが来て、年明けだね……。今年もマリねぇ、セレねぇ、カルねぇ、シラねぇと姉様、僕の6人で年を越せたらいいね」
–––寒そうに身を震わせているあたしを見上げながら、繋いでいる手をさらにギュッと握りしめている歌兎の服装は緑とブラックブルーを基調としたパーカーの上に黄緑色の左胸にガイコツの悪魔がプリントアウトしてあるダウンジャケット、頭には黄緑のモコモコのニット帽を被り、首元に白いマフラーで上半身を決め、下半身は黒い革生地の短パンの下に白いガーターベルトという格好をしている。
「デスね〜。でも、マリアもセレナも世界中を回ってて忙しいデスからな……」
「…カルねぇもS.O.N.G.の職員としてのお仕事が残ってるのかも……」
なので、あたしは気づかないでいた……。
歌兎があたしに手を引かれながらもジィ–––と向かい側の店に鏡に映っている自分達を尾行するように数メートル後をこそこそと付いてきている怪しすぎる集団を見つめていることに–––。
歌兎の眠たそうに開かれた黄緑の瞳には其々のイメージカラーで色付けされた黒縁眼鏡をつけた黒髪をツインテールにしている少女やピンクのロングヘアーへと水色の花の髪飾りをしている女性、茶色いロングヘアーへとピンク色の髪飾りをつけている少女達がマンションの角から身を乗り出して、二人を見ている姿が映り込んでいて……"頭隠して尻隠さず"状態になっている少女達が面白くて、歌兎は向かいの鏡から視線を前に向けると
「––––。……ふふふ」
空いた手を口元に添えながら、くすくすと笑う歌兎を何も知らないあたしは目をパチクリさせながら声をかける。
「上機嫌デスね、歌兎。何かの良いことでもありましたか?」
「…うんっ、すごくいい事があったよ」
「そうデスか、良かったデスね」
突然笑い出した歌兎を怪訝に思いながらも妹のレアな満面の笑顔を前にしたら"些細な事はどうでもいいか"という思考になり、歌兎の頭をニット帽越しに撫でてあげながら、最初の目的地である《ヨーキな串カツ屋》という看板が掲げられているお店へと入っていく。
「こんにちは〜」
カウンターの奥で丁度串カツに衣をつけて揚げている最中の黒いTシャツを腕まくりして白い肩をさらけ出し、その上に赤い"YOKI"とお店のマークが大きくプリントアウトされたエプロンをつけた年が若い女性の店員さんへとあいさつして、店員さんの前へと歌兎と共に腰を落とす。
「こんにちは。いつものでいいかな?」
すると、店員さんもあたしに気づいたらしく、肩まで伸ばした黒髪を揺らして、垂れ目がちな焦げ茶色の瞳を細めて人懐っこい笑顔を浮かべると親しげに話しかけてくる。
「はい、いつものでお願いするデス」
《うまいもんマップ・お肉屋さんversionー
「はい、どうぞ。串カツに牛カツ、豚ロースと鶏カツだよ。揚げたてで熱いから気をつけて食べるんだよ」
「ありがとうございます」
そう言って、揚げたての串焼き達が乗った皿を差し出す店員さんに頭を下げながら、キョトンとした様子であたしと店員さんを交互に見ている歌兎の前の前に置いてあげながら、自分用のものを受け取る。
「あっそうだ、この子が前に話したあたしの妹デス」
受け取った豚ロースを目の前にあるソースに付けてから余分な物を小皿に落としながら、口に含もうとしてハッとしたように隣で見よう見まねで食べようとしている最愛の妹を紹介する。
「へー、この子が? 言ってた通りで瞳以外はあんまり似てないかな」
「自分で言うならいいんデスが人に言われると辛いのデス」
「あぁぁ……ごめんね。悪気があったわけじゃないかな」
ハブてるように手に持った豚ロースへと齧り付く。
途端、ザクカラッと揚がった衣から溢れ出してくる豚本来の旨味を含んだ油と舌を濡らすソースに思わず頬が緩んでしまうのを感じながら、隣で店員さんと話をしている妹へと視線を向ける。
「…姉様とお知り合いの方だったんですね。姉様がいつもお世話になってます。僕は姉様の妹の歌兎です、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね、歌兎ちゃん。ボクならよくこのお店で働いているから、今度はお姉ちゃんと一緒に来て欲しいかな。その方がボクも嬉しいから」
頭を撫でられて、気持ちよさそうに目を細めている妹が店員さんに指示されるままに秘伝のソースを付けてから小皿に余分なものをちょんちょんとしてから齧り付く歌兎の眠たそうな瞳が美味しさのあまりまん丸になるのを見て、あたしも店員さんを交えて、世間話をしながら美味しく串カツ達を平らげたあたしはあの金ピカ《
「ふぅ……沢山食べましたね〜♪」
「…ん、お腹いっぱい」
最初の串焼き屋さんからトコトコと次の目的地に向けて、通りを歩いていると物珍しそうに周りを見渡していた歌兎がピタリとその場から離れなくなり、引っ張っていた手を押し戻され、バランスを崩しながら、その場へと舞い戻る。
舞い戻ってみるとそこはゲームセンターらしく、自動ドアが閉まっているというのに外まで開かれている機械達が奏でる音楽と色々なコーナーで遊ぶ人々の楽しげな声が漏れ出ている。
「歌兎? どうしちゃったんデスか?」
「……」
腰を落として、歌兎の視線の高さで尋ねてみてもジィ––––とゲームセンターの一角を見つめたまま微動にしない妹に困り果てて、仕方なく彼女の視線を辿ってみるとそこには一台のクレーンゲームが置かれており、その中にはここではよく見えないが白と青緑色のヘンテコな生き物が並べられている。
(もしかして、あのトンデモ生き物が欲しいデスかね?)
とりあえず、本人の意思を聞こうと再度視線を戻してから歌兎を見つめながら
「歌兎、欲しいんデスか?」
と問いかけるあたしの方には一瞥もくれず、ただトンデモ生き物へと熱視線を送り続けながら、こくんとうなづく姿に腹を決めたあたしは歌兎の手を引きながら、例のクレーンゲームの前に来てみるとトンデモ生き物の全容が明らかになった。
様々な顔をしているトンデモ生き物は全身をふかふかのボア生地で作成されており、全体的な色味は真っ白でこっちを見つめる円らな瞳は青色で、その下には三本のヒゲが刺繍されており、垂れ下がった長い耳の先にはほんのりと青緑色が付いている。
(えぇ……と、これは猫なんデスか? いいえ、仮に猫というには耳が長いデスよね? って事は兎? んーん、兎というには小さすぎるような……やっぱり猫。いいや、兎って可能性も……)
丸みをおびた身体には二本の足と長い耳が其々装着されているのだが……やはり猫なのか? 兎なのか? あたしの中ではよく分からず、頭が痛くなってくるが……隣で眠たそうに開いている瞳をキラキラと輝かせ、奥まで顔のバリエーションが見たいのだろう、つま先立ちしプルプルと震えながら何処か興奮しているように思える妹の姿を見れば何としてでも目の前のトンデモ生き物をゲットしてあげたくなる。
なので、ポケットから折りたたみ財布を取り出してから500円を投入してから"↑""→"と書かれているボタンを感覚的に押してみるがどれも賞品の受け取り口に繋がる穴に到着する前にクレーンからコトンと落ちてしまう……を二桁くらい繰り返していくうちにあたしの財布からは100と500円玉が綺麗さっぱり姿を消してしまい、思わず声を漏れてしまう。
「あ……」
「––––」
チラッと歌兎の方を見れば、さっきまでの興奮した様子が嘘のように、しゅーんと目の前のトンデモ生き物が取れないことへの悲しみを全面から溢れ出している。
(くっ……愛する妹が欲しいものをゲットできないで、何が姉様デスかっ)
ここは歌兎とお肉デートをする決まってから、何故かマリアやカルマがくれたお小遣いを使ってでも目の前の猫みたいな兎みたいなトンデモぬいぐるみを入手してみせるッ!!!!
「歌兎。お姉ちゃんはお札を両替してくるのでここから動かずに待っててくださいね」
小さな肩へと両手を添えてからそう伝えて、黄緑の瞳へと硬い決心を讃えてから戻ってきたあたしはそこから数回プレイしてから……やっとその瞬間が近づいてきた。
何度も苦戦させられながら、穴の近くにトンデモぬいぐるみがあたしの必死な気持に答えるようにプルプル…とぐらつきながらも耐えてくれて、穴の真上までたどり着き、絶対的な勝利の前にガッツポーズを決めるあたしとどんよりしていた瞳を再度きらきらさせている歌兎の目の前をすっとんと落下していくぬいぐるみはゲームセーターの店員さんが優しさから取りやすいところに鎮座してあったぬいぐるみをも巻き込みながら、穴へと姿を消していき……数秒後、カタンと音がし、身を屈めてから賞品受け取り口から二つのあのトンデモぬいぐるみを取り出した歌兎は二つのぬいぐるみへとそのプニプニした頬を擦り付けながら、あたしを見上げると今まで見たことがないほどの満面の笑顔を浮かべる。
「ありがとう、姉様。この子達を取ってくれて」
「どういたしまして。歌兎がいつもよりも喜んでくれて、お姉ちゃんは同じように嬉しいデス」
店員さんから賞品を入れる袋を貰い、ぬいぐるみを入れてから、ゲームセーターを出た頃にはすっかり人通りが多くなっており、あたしは歌兎の手をギュッと握ってから次の目的地である唐揚げ屋さんを目指していく中、ドンと誰かにぶつかってしまい、慌てて謝ると離れてしまった歌兎の手を再度掴んでからズンズンと人混みを押しのけていく。
「歌兎、しっかりお姉ちゃんの手を握ってるんデスよ。絶対離しちゃダメデスからねっ」
あたしの手に引かれている歌兎はあのぬいぐるみがよっぽど気に入った様子で一言も喋る様子もなく、黙ってついてきているのであたしは遅くなってしまい、結局決められなかった愛する妹への誕生日プレゼントを思わぬ形で送れたことが誇らしく、人混みを抜けてからは上機嫌に鼻歌を歌い出してしまう。
そんなあたしの様子が気になったのか、歌兎は恐る恐る繋いでいる手を見つめながら物静かな声を上げる。
「あ、あのっ」
「……もう、なんデスか? うた–––」
上機嫌に振り返った先には………知らない少女が困惑した様子であたしの事を上目遣いで見つめていた。
さらっと柔らかそうに揺れるのは妹よりも濃い青系統のロングヘアーへと白いカチューシャをつけ、華奢な体躯へと白いカッターシャツの上に羽織っているのは水色のカーディガンを押しのけている二つの膨らみは小さく、下半身は茶色いスカートの下に黒い靴下を履いている。
「–––私、貴女の妹さんの歌兎さんじゃないです」
あたしが掴んでいる手をもう一度見てからこっちを見つめる垂れ目がちな瞳の左下には黒子があって……あたしの妹にそんな黒子があった記憶は全く無く……あたしは黙って、少女を掴んでいた手を離すと心の中で絶叫する。
(デスよね–––––ッ!!!! あたし、やっちゃった––––ぁ!!!!)
心の中で頭を抱えて恥ずかしさのあまりのたうちまわりながら、少女の友達と少女が合流するまで付き合ってから何度も頭を下げてから謝ってから、あたしは困ったように眉をひそめる。
(歌兎……どこ行っちゃったんデスかね……。まさか迷子になっちゃうなんて……)
今絶賛迷子中の妹に想いを馳せていると––––あたしを見失ってわんわん泣いている時に悪い人に声をかけられて、どこに向かっているのかも分からないままに大人なホテルとやらに連れ込まれ、抵抗むなしく乱暴に着ている服を引き裂かれて、そのまま連れ込んだ人と一線を超えてしまい––––というのがすぐに想像出来てしまい、あたしはあわあわと顔を青ざめながら、最悪の結末になってない事を祈りながら、最後に妹と別れた場所……あの人混みが出来ていた通りに向かって走って向かうのだった。
歌兎ちゃんが向かいの鏡越しに見てしまって、思わず笑みをこぼしてしまった怪しすぎる集団とは誰のことでしょうかね(すっとぼけ)